進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第53話 四邪の鬼人 その1

第53話 四邪の鬼人 その1

 

武蔵との再会を果たし、インベーダー、そして百鬼帝国の情報を武蔵から僅かながらに得たヒリュウ改はL3宙域の連邦軍基地へと辿り着いたのだが……そこでレフィーナ達は隔離されたドッグでの数日間の缶詰となってしまった。

 

「……やっぱり上層部って馬鹿じゃない?」

 

「耳が痛いな……」

 

リューネからすれば貴重な情報を持ち帰ったのに隔離と言う選択を取ったL3宙域の司令は無能以外には思えず、そして通信機すら使用制限を掛けられてしまったギリアムも耳が痛いなと言いつつもその通りだと内心思っていた。

 

「必要最低限の情報はパリの連邦本部に伝える事は出来ましたし……後はブライアン大統領や、レイカー司令達が動いてくれることを祈るしかありませんね」

 

「ええ。でも……正直缶詰はかなり痛いわ。レフィーナ艦長」

 

レフィーナの計画ではホワイトスターをインスペクターを名乗る異星人に奪取された事を伝え、インベーダーとアインストの戦闘データを渡して、地球へと降下するプランだった。だがインベーダーが人や無機物に寄生する事を知るとヒリュウ改のクルーやPTが寄生されていることを恐れ、司令の独断で隔離ドッグへと閉じ込められてしまったのだ。しかもドッグ周辺に機雷と電磁ネットまで用意されては、レフィーナ達はこのドッグの中でおとなしくしているしかなかった。

 

「確かにインベーダーはやばいけどさ、このまま本末転倒にならないと良いんだけど、あたし凄い嫌な予感がするんだよ」

 

「リューネ、あんまり不吉なことを言わないでくれるかしら? 本当にその通りに……『月面に正体不明の特機多数出現ッ!! 防衛隊は緊急出撃! 繰り返す! 月面に正体不明の特機多数出現ッ! 防衛隊は緊急出撃をッ!』

 

「あ、あたしのせいじゃないからねッ!?」

 

リューネがあたしのせいじゃないと声を荒げるが、誰もそんなことは思ってはいなかった。何故ならば、誰も口にしていないだけで、言いようのないどす黒い何かが自分達に迫っているのを感じていたからだ。

 

「出撃命令が出てくれればいいんだけど……」

 

「無理に出航する訳にも行かないからな、一応コンタクトは取ってみるが……駄目だろうな」

 

仮に出撃許可が下りても機雷の撤去、電磁ネットの回収などが終わるまでは出撃出来ない状況になっている。

 

「あーっもう! 最悪ッ!! どうするのさギリアム少佐!?」

 

「……しかたないな。別れてすぐで気まずいが……そうも言ってられん」

 

制服の中に隠していた組み立て式の通信機を慣れた手付きで組み上げたギリアムはすぐにスイッチを入れた。

 

『はいはい、ギリアムさん。どうしました?』

 

「すまない武蔵。緊急事態だ、月面が正体不明の特機……百鬼獣か、インスペクターかは判らないが、それらに襲撃を受けている。俺達はドッグに軟禁されていて動けない。向かってくれるか?」

 

『任せてください、どっちみち月でカーウァイさんと合流する予定でしたし、急いで向かいます!』

 

「すまない。よろしく頼む」

 

ゲッターD2とゲシュペンスト・タイプS――その2機がマオ社、そして月の住民を守ってくれる事を祈るしか出来ないギリアム達はぐっと唇を噛み締めるのだった……。

 

 

 

 

武蔵が月面に向かっている頃。パリの大統領府は大混乱に陥っていた……。

 

「は? ヒリュウ改をドッグに軟禁して、機雷と電磁ネットで動けなくした? お前は何を考えている! 早く機雷の撤去とと電磁……無人機の襲撃を受けていて、そちらに回す人員がいないだと!? 貴様ッ!! お前は何を考えてそんな暴挙に出たッ!! ふざけるなよ!! 誰がそんな事を命じたッ!!」

 

『ひ、ヒリュウ改が持ち帰った戦闘データをみ、見た上での判断です』

 

「だから誰がそんな事を命じた!! この馬鹿者がぁッ!! セレヴィスシティの住民やマオ社が制圧されたらお前はどう責任を取るつもりだ!!」

 

『い、今部隊の一部が月面に……』

 

「それで間に合うと思っているのか! どうやって民間人を避難させる!? 輸送機等も向かっているのか!?」

 

『い、いえ……その……も、申し訳ありません!!』

 

「お前の謝罪などいるか!! もう良い! 貴様の顔も声も聞きたくないッ!!」

 

ニブハルは凄まじい剣幕があちこちから響く大統領府の通路を早足で進み。ブライアンの執務室を目指していた。その顔に普段の余裕の色は無く、強い焦りの色が浮かんでいた。

 

(インベーダー……まさかあの破壊魔達が地球圏に出現するとは……これは不味いですね)

 

一時期は宇宙全てを埋め尽くす勢いで増えていたインベーダー……しかしそれらは木星圏での出現を最後にその目撃情報はぱたりと途絶えていた、それが再び現れた。再び宇宙全域の危機を現していたが、それはニブハルのような男には逆にチャンスだった。

 

(インベーダーのある所、ゲッター線あり)

 

インベーダーはゲッター線がなければ生存出来ない。だからゲッター線の反応が途絶えてからインベーダーも死滅したと考えられていた。事実ニブハルもそう考えていた1人だが、L5戦役でのゲッター線で作られた巨大なゲッターロボ、しかしそれは失われニブハルは落胆した。しかしだ、半年たって今地球で確認されたドラゴンの発展機――その圧倒的なゲッター線反応にニブハルは歓喜した。ゲッター線に近づく事はとても危険な事だ。しかし、しかしだ。ゲッター線を手中に収める事が出来れば絶対的な繁栄が約束される――その光に誘われて滅びたものは数知れず……それでもゲッター線は求めずにはいられないのだ。

 

「ニブハル・ムブハル大統領補佐官。ブライアン大統領がお待ちです」

 

「すいません、少々野暮用で遅れました」

 

ブライアンの執務室の前で待っていた痩せぎすの男――「アルテウル・シュタインベック」の前を通り過ぎようとして、ニブハルはある事に気付いた。その目にギラギラと輝く野望の色を見たのだ……それは記憶喪失であったアルテウルにはなかった強烈な個性の表れ……。ゲッター線が全てを導き、そしてあらたな世界を作ろうとしている。

 

「後でお時間を作ります。もう少しだけお待ちいただけますか?」

 

「……良いだろう。ついでに私が記憶を失っていた間、何がどうなったのか、それを全部説明してもらおうか」

 

立場としては秘書であるアルテウルの方が下だ。だがニブハルは自分が下のように振舞った……それこそが本来の力関係、そしてあるべき姿だ。

 

「すいません、お待たせしました」

 

執務室にいるブライアンとグライエン――ではない、鬼を見てニブハルは笑った。平穏には飽きていた、争乱の中にだけニブハルが追い求める物があり、そして商売がある。この地球圏の未曾有の危機も、数多の星を渡り、数多の陣営を行き来していたニブハルにとってはいつもの事。そして今が自分が待ち望んだ時であると言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

マオ・インダストリーの訓練室に用意されていたシュミレータールーム――その中にアラドの姿はあった。マオ社のテストパイロットは多数いるが、そんなテストパイロットでも使用しない特別なシュミレーター。それにアラドはかれこれ3時間は篭もりきりだった。

 

「ぷはあー、ふーやっとコツを掴んできたぜ」

 

量産型ゲッターロボを失ったのは完全なアラドのミス。だが、リンもマリオンもそれを怒る事は無かった。そもそもイスルギが主導になった機体をマオ社で改修しろと言うのがリン達が面白くないと感じているのは当たり前の事だった。リン達にすれば誰も動かせないと思っていたリミッターを解除された量産型ゲッターロボを操縦して見せたアラドは優秀なパイロットであり、量産型ゲッターロボを失いはしたが、将来有望なパイロットを見つけたということでイスルギと連邦本部から小言は言われたが、それを差し引いてもアラドを抱え込めたという事で十分なおつりがあった。

 

「うーん。やっぱここなんだよなあ……」

 

アラドがシュミレーターで使っていたのはビルトファルケン・タイプKだった。両手足にビームバンカー発射装置を組み込まれ、奪取されたファルケンよりも大型化した可変翼による、急な方向転換と加速を可能とした反面、パイロットに掛かる負担は桁違いに高く、TC-OSも不完全でマニュアル制御を要求されるそれを乗りこなせるように訓練していたアラドはどうしても引っかかっている部分で頭を抱えていた。

 

「何を悩んでいるのかしら?」

 

「あ、ラーダさん。いや、足のバンカーを使うと機体バランスが崩れるんで、そこをどうしようかなあって」

 

「熱心なのは良いけど、怪我人という事を忘れないで」

 

「うっ……す、すんません。でも時間までで良いからもう少し操縦の感覚を掴んでおきたいかなあって」

 

早朝からリンの指示でマオ社からの脱出準備は既に始まっており、一般職員の大半は既に離脱し、セレヴィスシティのシャトルに乗れなかった者はシェルターで、順番待ちをしており今マオ社に残っているのはリンを初めとしたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプLとMの開発に携わっているリョウトやリオ達だけが今マオ社に残っている人員だった。

 

「それでラーダさんは何をしに?」

 

「何ってこないだの続きよ。こういうのは習慣づけないと駄目だからね」

 

こないだの続きと聞いてアラドは顔を青褪めさせ、逃げたいと思いながらも何をするのか尋ねないことには行動に移せないと考えて、意を決した表情で何をするのかとラーダに尋ねることにした、

 

「つ、続きって……もしかしてヨガですか?」

 

余りの痛みに気絶しかけたヨガの続きならば絶対に逃げようと思っていたアラドだが、ラーダは穏やかに微笑んだ事でどっちか判断が付かず、動く事が出来ずにヨガで無い事を心から祈った。

 

「違うわ。ヒアリングよ。ヨガは時間を掛けてやらないと駄目だから、今回はやらないわ」

 

ヨガじゃないと聞いてアラドは心からの安堵の溜め息を吐いて、浮かんでいた汗を拭いスポーツドリンクを口にして自分の真向かいに座ったラーダと視線を合わした。

 

「じゃあ、 この間の話の続きを聞かせて」

 

「え、ええ……っとどこまで話をしてましたっけ?」

 

話をしている最中で襲撃があったせいで記憶が抜けているアラドがそう尋ねる。ラーダは柔らかく微笑み、何の話をしていたか? そして自分が何を聞きたいかをアラドに優しく告げた。

 

「スクールで貴方達の教育を担当していたのは誰?」

 

「……メイガス・ケーナズって言うコンピューターです」

 

最初の診察で予測は出来ていたが、アラドから告げられた言葉にラーダは眉を細める。リマコンを処置するには高性能なコンピューターが必要だが、まさかコンピューターが人間の教育をしていたと聞いて予測は出来ていたが、アラド本人から言われると少なくない衝撃が合った。

 

「メイガス・ケーナズって言うのはアースクレイドルの中枢、メイガス・ゲボの試作タイプです。そいつが……俺達の親の1人。PTの操縦技術とか、DCの事とか、戦術とか色々教えてきました……えっと大丈夫ですか?」

 

「え、ええ。大丈夫よ。他に貴方達の面倒を見てくれたのは誰? 人はいなかったかしら?」

 

違っていて欲しいと願いながらも、ラーダは心のどこかでアラドからその名前が告げられるのを覚悟していた。

 

「アギラ・セトメっていう糞婆と……クエルボ・セロ博士です」

 

クエルボ――その名前が出た事。自分を救い出してくれた筈の人間が今もまだ非道な研究に従事している。それにはラーダも深い悲しみを受けた。だがアラドはその様子には気付かずに、思いだすように、数少ない楽しい思い出を語るように口を動かしていた。

 

「DC戦争の少し前にアギラの糞婆とセロ博士が判れて行動して、1年……は無かったかな。でもセロ博士と俺とゼオラの3人で軍事施設とかない静かな山奥で暮らしてたんですよ。PTとかのシュミレーターとか、銃の訓練とか、白兵戦とかの訓練も無くて……自給自足で、キャンプみたいな毎日が本当に楽しかった。夜空を見上げて、あれがどんな星座とか教えてくれて……」

 

アラドから語られる言葉を聞いてラーダは小さく笑った。アラドから告げられるクエルボ・セロという人物像はラーダの記憶の中にあるままのクエルボだった。

 

「変わらないのね。クエルボ……あの人は……本当に変わらないわ」

 

「え? ラーダさん、セロ博士を知ってるんですかッ!?」

 

親しみさえ感じられるラーダの声にアラドがクエルボを知っているのか? と尋ねるとラーダは小さく笑った。

 

「私もアラドと同じなのよ、私と彼との出会いは……連邦軍の特殊施設の中だったわ。その時クエルボは マン・マシーン・インターフェイ

スの 研究を行っていて……私はその被験者だったの」

 

「え!? う、嘘でしょッ!?」

 

口振りからラーダも研究者か何かと思っていたアラドは自分も被験者だったというラーダの言葉に声を荒げた。

 

「本当よ。私は少しだけ、他の人よりも勘が鋭くてね。それで被験者に選ばれたの……でもね。軍内である特殊プロジェクトが立ち上がった時……クエルボは私を被験者ではなく、開発者として誘ってくれた。その後は彼から色々な事を教わったわ……その時の経験があるから私はこうしてマオ社で働けているの」

 

ラーダの言葉の中には隠しきれない親愛の情が隠されていて、鈍いアラドだが、クエルボとラーダが恋仲で合ったことをその言葉の中から悟っていた。

 

「でも、EOTI機関が設立された時……クエルボは自分の研究をよりよい環境で進めるために……そちらへ行ってしまったの」

 

「じゃ、じゃあ……それ以降は会ってないんですか?」

 

「ええ、彼とはそれきりよ」

 

悲しそうに目を伏せるラーダにアラドは言葉が出なかった。偶にクエルボがロケットを大事そうになでている姿を見た、大事な人の写真なんだと笑って金庫にしまう姿を見たこともある。今もクエルボはラーダを想っていて、そしてラーダもクエルボを想っているのが良く判った。

 

「その後、戦争が始まって……あの人がDCにいるのは判っていたけど……まさか、貴方達の教育を担当していたなんて……」

 

「違う! セロ博士は俺達を助けてくれたんだッ!」

 

「アラド?」

 

ラーダがクエルボへの不信感を抱き、それが敵意になろうとしているのを見てアラドは声を荒げた。違う、違うのだとクエルボは自分達の味方だったと声を荒げた。

 

「セロ博士は番号で呼ばれていた俺達に名前をくれた! ボロボロに痛めつけられた時もすまないすまないと謝りながら手当てをしてくれた! それにDC戦争の時に言ってたんだ。このままアギラの婆に見つからなかったら遠くへ行こうって、もうPTとか、AMに乗る必要ない優しい所へ行こうって……なんとかしてオウカ姉さんを助けて、4人でスクールの生き残りを探そうって俺とゼオラにそう言ってくれたんだッ!」

 

甘く優しい夢――それでもアラドとゼオラはそれを信じた。自分達を人間として見てくれない人間に囲まれて育ったアラド達にとっては、クエルボだけが人間だった。そしてクエルボだけが自分達を人間と見てくれた……心から親と呼べるクエルボを誤解されるのはアラドにとって耐え難い苦痛だった。

 

「あいつら……コーウェンとスティンガー……あいつらさえいなければ……あれは夢じゃなかったんだ」

 

「コーウェンとスティンガー……?」

 

「あの2人はそう名乗ってた、俺達をアースクレイドルに連れ戻したやつら。アギラの糞婆が敬語を使っていた。良く判らない2人組みで、フードを被った子供と一緒にいたんだ」

 

「……アラド。その2人組みの事をもう少し教えてくれないかしら?」

 

アラドの口から出た不審な2人組みの名前――ラーダの勘ではその2人が大きく関係していることを感じ取り、アラドのその2人の容姿や特徴を詳しく教えてくれとアラドに頼むのだった。その2人の正体を知る事が、アースクレイドル――もっと言えばクエルボ達の事を知ることに繋がるとラーダは感じていたのだった……。

 

 

 

 

 

リンの命令でマオ社からの脱出準備を進めているリョウト達だった。ある問題に直面し、輸送機に機体を搭載する作業は途中で中断してしまっていた。

 

『……く……ううっ!!』

 

モニター越しに聞こえて来るリオの苦しそうな声、それに続いてモニターに映し出されているグラフに一気に乱れが生じた。

 

「TPレベル、3まで低下」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲのトロニウム搭載型のタイプL、そしてマグマ原子炉搭載型のタイプMの2機はエンジン部が非常にデリケートであり、輸送用のトレーラーで積み込んだ場合。深刻なトラブルが発生する確率が高く、安全性を考慮した場合。機体を操縦して輸送機内のハンガーに固定するという方法が必要だった。その為に起動させようとしていたのだが……安全性に強い不安を抱えているタイプMは予想に反して稼動してくれ、先ほど格納庫をあちこちへこませながらも、辛うじて輸送機に搭載することが出来た。だがタイプLは起動の段階で躓いてしまっていた。

 

「コネクター、5番と8番、それに11番に異常発生ッ!」

 

「TPレベル、2まで低下。 いけませんわね、これでは……」

 

ただ起動させて、輸送機に乗せる。そんな簡単な事だが、タイプMは動き出す素振りを微塵も見せてくれなかった。

 

『あうっ!!』

 

それ所か逆流現象を見せ、リオの大きな悲鳴が格納庫に響いた。

 

「リ、リオッ! こ、これ以上は無理です! 実験の停止を!」

 

「ハミル博士、リンクの中止を」

 

「ああ。サイコ・クラッチを切れ」

 

リオのみを案じたリョウトの声を聞いて、マリオンとカークは素早くサイコ・クラッチを切り、タイプLの起動を諦めた。

 

『う、ううっ……』

 

「リオ、やはり現段階ではタイプLを起動させるのは無理だ。ヒュッケバインMK-Ⅲから降りろ」

 

横たわった状態のヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプLのコックピットが開き、リオが頭を振りながら姿を見せた。

 

「リ、リオ……大丈夫?」

 

悲鳴を聞いていたリョウトが慌てて駆け寄り、ふらついているリオに肩を貸す。

 

「ちょっと辛いわね……普段より凄く負担が大きく感じるわ」

 

「や、やっぱり、僕が起動させれば……」

 

リオが負担が大きかったと弱気な事を言うのを聞いてリョウトが自分がやるべきだったと言うが、リオは心配そうなリョウトに明るく笑って見せた。

 

「何言ってるの。 それじゃ、私の仕事が無くなっちゃうじゃない」

 

「でも……やっぱりタイプLは安定性に不安が」

 

トロニウムエンジンとリュウセイの強くなった念動力に合わせて再開発されたT-LINKシステムを搭載しているタイプLはやはり実験機としての側面が強い。リオに負担を掛けるなら自分がパイロットをやるべきだったと曇った顔をするリョウト。

 

「大丈夫、大丈夫。 貴方も開発に関わってる機体だもん、信用してるわ」

 

「……だけど……やっぱり」

 

メカニックとしては既にタイプLは稼動出来る状態にある。それなのに稼動しないタイプLに何か別の要因があるのでは? とリョウトは考え始めていた。それがリオに負担を掛けるというのはリョウトには耐えられない事だった。

 

「リョウト君は開発の仕事に専念したいんでしょ?  だからテストパイロットは私に任せて。大丈夫よ」

 

心配しないでと笑うリオだが、マリオンとカークの顔色は曇ったままだ。

 

「……新型のT-LINKシステムにやはり問題があるのではなくて? 起動すら出来ないのでは話になりませんわね」

 

「確かにな……T-LINKシステムは別の何かに反応している。それがタイプLが起動しない理由だ」

 

新型のT-LINKシステムとトロニウムエンジンを搭載したタイプLは小型化されたSRXの名に偽りなしのスペックを発揮する筈だった。だがその新型のT-LINKシステムが予想にもしていない不具合を齎していた。

 

「私は言いましたわよ。リュウセイ少尉の念動力データを基に開発したT-LINKシステムはRー1にしか搭載できないと」

 

L5戦役から飛躍的に念動力を向上させているリュウセイのデータを基に使ったT-LINKシステムはリュウセイにしか使えないとマリオンは口を酸っぱくさせ、カークに警告していた。それでも搭載に踏み切ったのは高性能のT-LINKシステムが齎す多面的なメリットばかりを重視してしまったからだ。

 

「しかもT-LINKシステムをトロニウムエンジンの出力調整にも使うなど、無理があり過ぎです」

 

「……本来のSRX――SRアルタードにはそういう想定があった」

 

SRXはその名が示す通り試作機であり、完成機のバンプレイオスは念動力を流用しての、トロニウムエンジンの安定化が求められていた。そのデータを取る為に新型のT-LINKシステムを搭載に踏み切ったカークだが、それが完全に足を引っ張っていた。

 

「ガンナーだけをロールアウトさせても、本体が使えなければ意味はありませんわよ? それにT-LINKシステムとフル同調させないと追加のアーマーパーツは使えないのでしょう? また欠陥機を増やすつもりですか?」

 

マリオンの鋭い口撃にカークはついに両手を上げて降参の意を示した。

 

「判っている。このままでは持ち出せず、敵に利用されることになる。T-LINKシステムをカットして、起動出来るように設定する。リョウト、手伝ってくれ」

 

ケースEの発令、謎の巨大特機による襲撃――それらを懸念してマオ社からの脱出を命じられている以上。これ以上動かない機体に時間を掛けている場合ではないとカークは計画を変更した。

 

「ですから私は何度も言いましたわよね? 脱出してから調整すれば良いと」

 

「……判っている。マリオン、先に脱出の準備を進めてくれ。T-LINKシステムさえカットすれば、すぐに動かせる」

 

カークが新型のT-LINKシステムに拘ったのは脱出の際に敵の襲撃を受けることを考慮しての事だった。だがこれ以上時間を掛けて脱出が遅れれば機体を奪われるリスクだけに留まらず、この場にいる全員の命を失うことにも繋がりかねない……早急に脱出出来るようにいくつかシステムをOFFにする決断を下したカークだが……それが少しばかり遅い決断だった。設定を変えるために動き出した30分後鳴り響いた緊急警報にリョウト達は最悪の展開になったことを悟るのだった……。

 

 

人けの少なくなったセレヴィスシティの中心では異様な光景が広げられていた。目に見えない巨大何かの手の上の立つ糸目の紅い導師服の青年と黒い導師服の腰の曲がった老人がマオ社やイスルギ重工――強いてはアースクレイドルのほうを見つめて、鋭い犬歯をむき出しにして獰猛な顔で笑った。

 

「さて、そろそろ始めようか。玄」

 

「うむ、視察は済んだ。有象無象もいなくなった……頃合じゃな」

 

紅い導師服の青年の額からは炎を象ったようなねじれた真紅の角が皮膚を突き破り姿を見せ、黒い導師服の老人からはこめかみからねじれた牛のような角が姿を現した。

 

「待たせたね。偉大なる大帝の為とは言え、ジッと待つのはさぞ辛かっただろう。だが待つのはもう終わりだ」

 

「始めるぞ、大帝の為に月を我らが手中に収めようぞ」

 

『『『ガオオオオーーンッ!!!』』

 

 

朱王鬼、玄王鬼の声に呼応するようにセレヴィスシティを囲うように無数の百鬼獣が姿を現し、その手にした武器を振り上げて雄叫びを上げる。ホワイトスター制圧に現れたインスペクター、それによって齎される混乱――それを利用し動く事を決めたブライの命令によって月に潜んでいた鬼達が一斉に動き出した。これによって地球圏の争乱は更に激しさを増していくのだった……。

 

 

 

第54話 四邪の鬼人 その2へ続く

 

 




今回はインターミッションなのでやや短め、次回は戦闘描写を交えて新しい四邪の鬼人の機体を出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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