進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第54話 四邪の鬼人 その2

第54話 四邪の鬼人 その2

 

時間は少し遡り、リョウト達がヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプL・タイプMの2機を輸送機に搭載する為に悪戦苦闘しているころ。マオ社の社長室でリンが眉を細めていた。

 

「ホワイトスターで大規模な戦闘があったか……避難の準備を始めておいて正解だったな」

 

ユアンからの報告を受ける前にカーウァイから話を聞いていたリンには驚きは無かった。ホワイトスター周辺での戦闘が月面に現れた巨大な恐竜型の特機によって齎された物であると言う事と、ヒリュウ改を除く艦隊の全滅を聞いていた事もあり、カーウァイの警告通り早めに避難の準備を始めていて正解だったとリンは呟いた。

 

「ええ……本当にその通りです。良い読みでしたね社長」

 

「世事は良い、現在の我が社の避難はどうなっている?」

 

「一般社員の避難はほぼ完了しています。今は開発に携わっている部門の社員の避難が70%完了しました」

 

「そうか……間に合えばいいんだが……」

 

ホワイトスター周辺での爆発を確認してからもうすぐ24時間――ホワイトスターを制圧した集団が再びマオ社の制圧に訪れる前に試作機やヒュッケバイン・MKーⅢの2機を運び出されば良いがとリンが呟いた時。マオ社を揺らす凄まじい咆哮と地響きが響いた。

 

「間に合わなかったか……ユアン常務は残っている職員を連れてセレヴィスに避難してくれ。私は格納庫へ向かう」

 

「……了解です。お気をつけて」

 

ユアンと別れ格納庫へと走るリン。その途中でアラドとラーダも姿を見せ、3人で格納庫へと走る。

 

「ラーダ。どうだ、何かを感じるか?」

 

「……凄まじいまでの敵意を感じます。殺意を感じないのは幸いですが……余り状況は良くないと思います」

 

「そう……か。ならなんとしても私達はマオ社を離脱する。アラド、お前にも出撃して貰うつもりだが、身体の調子はどうだ?」

 

「全然問題ないッス! ファルケンのタイプKの訓練も上手く行きましたし、あれを使っても良いですか?」

 

ビルトファルケンのタイプKを使いたいと言うアラドにリンは思わず苦笑した。

 

「ゲシュペンストとヒュッケバインの量産型だが、MK-Ⅲがあるぞ?」

 

「いや、あれはなんか軽くて好きじゃないッス。軽いって言ったらタイプKもそうなんですけど、あれはもろ俺好みって感じで、駄目ッスか?」

 

「構わない。乗りこなす自信があるなら使え、頭数は多い方がいい」

 

敵の数も戦力も未知数な以上頭数は多い方が良い。そんな話をしながら格納庫に辿り着くとリョウト達が慌しく出撃の準備を整えていた。

 

「リオ! セレネ基地からの応答はあったか?」

 

「い、いえ! セレネ基地だけではなく、周辺の基地からも応答がありません!」

 

「そうか……完全に孤立したか、機体の積み込み状況はどうなっている?」

 

カーウァイの警告を聞いてスーツの下にパイロットスーツを着ていたリンはスーツを脱ぎ捨てながらリオに今の状況を問いかける。

 

「AMボクサー、ビルガー、ブラスターとガードナー、それとヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプMと予備パーツ類は解体して輸送機へ移送済みです」

 

リオの報告を聞いて思ったよりも作業が進んでいる事が判りリンは安堵した。どうしても運び出さなければならない機体はタイプLとAMガンナーを除き輸送機に積み込めていたからだ。

 

「残ってるのはシュッツバルトの1号機、008L、ヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプL、AMガンナーと、ファルケンのタイプKです。廃棄する予定のゲシュペンストとヒュッケバインMK-Ⅲだけです」

 

恐竜型の特機との戦いで各部が磨耗し、パーツ取りをして1機ずつのみ稼働状況にしていた。だがそれを無理して運び出すだけの価値は無いとリンは判断した。

 

「ラーダは砲撃仕様のゲシュペンスト・MK-Ⅲで出ろ。シュッツバルトと量産型ヒュッケバインは破棄する。タイプLとMを積み込み次第、輸送機を発進させろ」

 

パイロットの都合上持ち出せない機体はここで廃棄するしかないとリンは決断し、リオに指示を飛ばす。

 

「ファルケンのタイプKと008Lは?」

 

「008Lは私が、タイプKにはアラドを乗せる。AMガンナーはリオ、お前に任せる」

 

アラドを乗せると聞いてリオは目を見開いた。タイプKのTCーOSの調整は済んでおらず、マニュアル制御を要求される。それに加えて、パイロットの安全性を度外視した加速力を持つ機体に乗せると言うのはリオからしても正気には思えなかった。

 

「しゃあ! 準備完了! 社長さん、先に出ますよ!」

 

「リオ、後は頼んだわよ」

 

パイロットスーツに着替えたアラドとラーダがそれぞれの機体に向かって走り出す。

 

「ここで口論している時間はない。リオ、お前も出撃準備を急げッ!」

 

「……はいッ!」

 

地響きが近づいてくるのを感じ、リオはリンの命令に従いパイロットスーツの気密ボタンを押してヘルメットを被る。出撃していくファルケンのタイプKとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様を見ながらリンもヒュッケバイン・008Lに乗り込み、起動準備を整えるのだった。

 

 

 

マオ社の格納庫から出撃したアラドとラーダの目の前に現れたのは化け物としか言いようの無い異形の特機の姿だった。

 

「ら、ラーダさん。こいつらなんなんっすか!?」

 

『……判らないわ。でもあの時現れた恐竜型の特機とは別の技術なのは明らかね』

 

「見た目は似たり寄ったりなんですけど……」

 

アラドにはガルガウも百鬼獣も似たような姿に見えたが、ラーダは違うと断言した。

 

『恐竜型の特機は見た目はともかく特機と同じよ。だけどこれは……生き物の気配を感じるわ』

 

「パイロットって事ですか?」

 

生き物の気配を感じるというラーダにアラドは最初パイロットの事だと思った。だがラーダは違うと断言した。

 

『あの機体自身が生き物よ』

 

「うえ!? そ、それってメカザウルスって奴と同じって事ですか!?」

 

『そう見て良いわ。とにかく慎重に立ち回って、突っ込んだりしないで相手の出方を見るわ』

 

「りょ、了解!」

 

ラーダの指示に返事を返し、アラドは操縦桿を握り締め。地響きを立てて近づいてくる特機に視線を向けた。

 

(……た、確かに、ああ言われるとその通りだと思う)

 

呼吸に合わせて上下するから、呼吸を吸い込んで膨らむ胸部――それらを見ていると目の前の異形の特機……百鬼獣が生き物であると言う事がひしひしと伝わってきた。それに向かい合っているだけで心臓を鷲づかみにされたような威圧感を感じた。それは巨大な肉食獣に睨まれているようだとアラドには感じられた。

 

「ガアアアアアーーッ!!!」

 

「どわったあッ!?」

 

雄叫びと共に放たれた巨大な火球を見て咄嗟にペダルを踏み込んだ。だが思いっきり踏み込んでしまった事で凄まじい加速のGがアラドに襲い掛かった。シュミレーターとは違う本物の重力に驚き、姿勢を崩しているビルトファルケン・タイプKに火球を吐き出した百鬼獣がその爪を振るおうと迫るのを見たラーダは背中に背負っているビームキャノンを即座に放ち、ビルトファルケン・タイプKと百鬼獣一本鬼との距離を取らせた。

 

『アラド。落ち着いてッ! 訓練通りにやれば良いの』

 

「ら、ラーダさん。すんません、もう大丈夫です」

 

百鬼獣の威圧感と殺気に飲まれて過剰に反応してしまったアラドだったが、ラーダの呼びかけによって冷静さを取り戻していた。

 

「でもこれだけの数……俺とラーダさんだけじゃ」

 

しかし冷静になった事でセレヴィスシティ、そしてマオ社を取り囲んでいる百鬼獣の群れを見て不安が顔を見せた。

 

『大丈夫よ。落ち着いて、相手をよく見て。そうすれば判るわ』

 

ラーダは落ち着いた様子でアラドにそう告げて、ミサイルやブーメランの迎撃を始める。その姿には囲まれていることに対する恐怖も無く、淡々と自分のやるべきことをする……プロフェッショナルというべき風格があった。

 

「シャアッ!」

 

「くそっ! 俺だってやってやる!」

 

両腰にマウントされているアサルトマシンガンを両手に持たせ、その銃身の下から伸びたコールドメタルブレードで飛び掛ってきた百鬼獣の爪を弾く。だが機体のパワー差は明らかでたった1回打ちあっただけで機体のフレームが軋むのを感じた。

 

「なろッ!!」

 

「ギギッ!?」

 

二丁のアサルトマシンガンの銃口を向け、フルオートで連射する。胸部に命中した百鬼獣は苦悶の声を上げて後退すると、いらついた素振りを見せながらも、それ以上攻撃する素振りを見せず爪を向けて威嚇の唸り声を上げた。

 

「「「シャアッ!!」」」

 

入れ代わりに後方の百鬼獣がミサイルを撃ち込んできたが、それに合わせて他の百鬼獣が動く気配は無かった。

 

「もしかして……こいつらって」

 

ミサイルを迎撃し、宇宙の闇の中に無数の赤い花が咲くのを見ながらアラドはどうしてラーダがあそこまで落ち着いていたのかを理解した。百鬼獣は徹底してビルトファルケン・タイプKとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様をマオ社から引き離そうとしている――それが何を意味するか、アラドにも判っていた。

 

「マオ社とセレヴィスを制圧するつもりなのか?」

 

考えてみれば直ぐに判ることだった。百鬼獣の火力ならばセレヴィスもマオ社も滅ぼすのは簡単な話だ、しかしそれをせずマオ社とセレヴィスシテイを取り囲んでいるのは完全な状態でマオ社を手にしたいからではないか? そう考えれば何十機も存在する百鬼獣に目を向けるのではなく、自分の近くにいる2機ほどの百鬼獣にだけ意識を向ければいいと判ったのだ。

 

「そうとわかりゃぁ……やりようは幾らでもあるぜ」

 

ヘルメットの下で唇を舐め、アラドは百鬼獣を睨みつけた。いま自分達がやるべき事は敵を倒すことではない、相手の攻撃をいなし、防ぎ、輸送機の脱出までの時間を稼ぐ事だ。敵を全て倒さなければならないと思わなければ、リラックスしてアラドは百鬼獣と向き合うことが出来た。

 

『私はミサイルやブーメランを使う百鬼獣を押さえ込むわ』

 

「了解です! じゃあ俺はあの馬鹿でかい腕と剣を持ってるのを押さえ込みます」

 

唸り声を上げている百鬼獣を見据え、自分達が相対する敵を見定めたアラドとラーダは百鬼獣との戦いに意識を完全に向けるのだった。

 

 

 

 

 

その頃。セレヴィスの外れの廃工場を破壊しながらゲシュペンスト・タイプSが動き出していた。

 

「……宇宙にも百鬼獣が出てくるか……これは想定外だったな」

 

カーウァイの計算では無人機、悪くてもインスペクターの特機までは想定していたが、まさか百鬼帝国が宇宙に進出して来るのは計算違いだった。

 

「武蔵。後どれくらいで月につく?」

 

『すんません、大分時間が掛かりそうです。宇宙にも百鬼獣がわんさかいますよ』

 

「そうか、地球よりも先に宇宙を押さえに来たか……こっちは私が何とかする。武蔵も出来るだけ早く合流してくれ」

 

『了解! カーウァイさんも気をつけて』

 

武蔵からの通信はその言葉を最後に途絶え、カーウァイも通信機の電源を切っていた。話している時間も余裕も無く、少しでも早くリン達の救援に向かわなければならないと言うことは武蔵もカーウァイも十分に承知していたからだ。

 

「あれは……ヒュッケバイン? そうか、あれが初代ヒュッケバインか」

 

輸送機を守っている青いPTを見てカーウァイはビアンから聞いていた1番最初にEOTを搭載したPTであると言うことを一目で見破った。繊細な操縦技術で舞うように百鬼獣の攻撃をかわし、輸送機から引き離している姿を見てパイロットの腕の良さに素直にカーウァイは感心した。時代が時代なら教導隊に選抜されるだけの力量を持っていると感じつつ、月面を強く蹴りゲシュペンスト・タイプSを跳躍させる。

 

「いい距離だ。逃がさんッ!!」

 

輸送機の進路を塞ぐように横並びに展開していた百鬼獣を見据え跳躍し百鬼獣を強引にブラスターキャノンの照準の中に巻き込み引き金を引いた。ブラスターキャノンの掃射を斜め上から受けた百鬼獣――豪腕鬼、龍頭鬼、白骨鬼は頭部から腰部を焼き払われ、黒煙を上げながら月面に背中から倒れこんで爆発した。

 

『な!? ど、どこから!?』

 

『あ、あれってしょ、初代ゲシュペンストッ!?』

 

月面を抉りながら着地したゲシュペンスト・タイプSの登場にアラド達に衝撃が走った。ゲシュペンスト・タイプSは既に存在しない筈の機体――何度も目撃情報は出ているが敵か味方かも判らない存在を警戒するのは当然の事だった。輸送機の進路を塞いでいた百鬼獣を撃破したことを見れば味方に思えるが、その横を通ろうとした瞬間に撃墜されるかもしれないと考え動けないでいる輸送機のリョウト達にリンが広域通信で呼びかけた。

 

『百鬼獣と戦っているだけで今は味方だ。ゲシュペンスト・タイプSのパイロットが何者かなんて事は関係ない、私達は輸送機を守りながら月を脱出する事だけを考えろ。包囲網が開いているうちにこの場を離脱するんだリョウト』

 

広がったざわめきをリンが収め、ビルトファルケン・タイプK、AMガンナー、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様と共にゲシュペンスト・タイプSの横を通過する。

 

【すまない、この場は任せる】

 

短い文章通信をゲシュペンスト・タイプSに向かって送信し、輸送機の進路を塞ぐように立ち塞がる大輪鬼へと立向かっていく。その後を追って他の百鬼獣が地響きを立てて進もうとするが、それを許すカーウァイでは無かった。

 

「ここから先は通行止めだ。通りたければ私を倒していけ」

 

背中にマウントしている参式斬艦刀を抜き放ち百鬼獣の群れの前に立ち塞がるゲシュペンスト・タイプS。

 

「シャアアーーッ!!」

 

「がああああーーッ!!」

 

PT如きが邪魔をするなと言わんばかりに雄叫びを上げて突っ込んできた剣角鬼と牛角鬼の姿とゲシュペンスト・タイプSの姿が交差する。

 

「「ギギャァッ……」」

 

「侮ったな。戦場で相手を侮った時……それは己の死を意味すると知れ」

 

胴体から両断され、返す刀で頭から更に両断された2機の百鬼獣が爆発四散する。

 

「ギギィ」

 

「シャアア!」

 

一瞬で2体の同胞を屠ったゲシュペンスト・タイプSを見て百鬼獣にも警戒心が広がり、ゲシュペンスト・タイプSを囲うように巨体の百鬼獣が動き、その上を通って飛行能力を持つ百鬼獣が輸送機を追って行こうとしたが、そんな事を許すカーウァイではなかった。

 

「ふんッ!!」

 

覆いかぶさるように突っ込んできた豪腕鬼の胴に参式斬艦刀を突きたてると同時に跳躍し、参式斬艦刀の柄を踏んで飛び上がる。

 

「ギィッ!?」

 

「悪いな。ゲシュペンストは私の手足も同然なんだよ」

 

飛び上がってきたゲシュペンスト・タイプSを見て龍頭鬼が驚きの声を上げた瞬間。顎を蹴り砕き、三角飛びの要領で反対側に飛び上がる。それを繰り返し百鬼獣の包囲網を抜けたカーウァイは輸送機へと向かう鳥獣鬼と半月鬼をその射程に捉えた。

 

「捉えた。行けグランスラッシュリッパーッ!!!」

 

ゲシュペンスト・タイプSを囲っていた百鬼獣を踏みつけ、蹴り跳ね上がった勢いで反転しグランスラッシュリッパーを投擲する。背後から高速で迫るグランスラッシュリッパーに対応出来ず、鳥獣鬼はその翼を、半月鬼は頭を切り飛ばされ地響きを立てて墜落する。

 

「シャアア!」

 

「ガアアアーッ!!」

 

グランスラッシュリッパーを投擲し隙だらけのゲシュペンスト・タイプSを噛み砕こうとと龍頭鬼と土龍鬼が大口を開ける。

 

「私がそんな間抜けに見えるか?」

 

手首のモーターが回転し、豪腕鬼の胴に刺さっていた参式斬艦刀が高速で巻き取られ再びゲシュペンスト・タイプSの手の中に納まる。

 

「はぁッ!!!」

 

「ギャアアッ!?」

 

大口を開けていた土龍鬼に向かって急降下し参式斬艦刀の白刃が煌いた瞬間。土龍鬼は縦に真っ二つに両断され爆発する、そしてその爆煙の中から姿を見せたゲシュペンスト・タイプSは各部装甲を展開し、背部キャノンをスタビライザーにし胸部のブラスターキャノンの発射姿勢に入っていた。それを見てある百鬼獣は逃げようと、ある百鬼獣は防御を、そしてある百鬼獣は発射される前にとゲシュペンスト・タイプSに迫った。だがそれは余りにも遅すぎた、カーウァイはこの戦場に来てからずっとブラスターキャノンのチャージを行っていた。それは百鬼獣がPTやAMを侮るという性質を知っていたからだ。

 

「消えうせろ、ブラスターキャノン発射ッ!!!!」

 

宇宙の闇を染め上げる超高火力のビームの一閃――それはゲシュペンスト・タイプSの前にいた百鬼獣を纏めて薙ぎ払い、その姿を完全に消し去っていた。だがカーウァイの顔は敵の数が減っても鋭く周囲を窺い続けていた。

 

(どこだ、どこにいる)

 

この百鬼獣の指揮を取っている存在がいるはずだとカーウァイは感じていた。百鬼獣の動きは理知的で、そして詰め将棋のように計算しつくされた動きだった。今だって味方がやられたのにマオ社とセレヴィスシティを制圧している百鬼獣に動きはない。それは百鬼獣の闘争本能を持ってしても、それを押さえつける何者かがいることを示しており、その姿をカーウァイが探す中輸送機の方向から凄まじい爆音が響き渡った。

 

「ちいっ! しくじったッ!」

 

輸送機のほうに百鬼獣が少なかったのは逃げる者をよりも、セレヴィス、ひいてはマオ社の制圧を優先しているからだとカーウァイは考えていた。だが違ったのだ、輸送機のほうに百鬼獣が少なかったのはその方角に百鬼獣の指揮を取っている鬼がいたからなのだった。月面を破壊し、姿を見せた巨大な亀の姿をした百鬼獣を見たカーウァイはゲシュペンスト・タイプSを反転させ、即座に其方に向かうのだった……。

 

 

 

 

 

マオ社で開発していた数多の試作機、そして発展機を積んだレデイバード改はゲシュペンスト・タイプSの抉じ開けた包囲網を抜け、リン達の駆るヒュッケバインに護衛されながら敵陣の真ん中を抜けて脱出のために進んでいた。

 

「やはりか……やれやれ、オカルトが続くな。なぁ? マリオン」

 

「……ですわね。この目で見ると信じざるをえませんわ」

 

「もしかしてあのパイロットに心当たりが?」

 

ゲシュペンスト・タイプSを見て、どこか懐かしささえ感じさせる視線をしているマリオンとカークを見て、輸送機を操縦しながらリョウトは知り合いなのかと尋ねるとマリオンは小さく笑った。

 

「直接的な面識はありませんが、PTに携わる人間は皆その名前を知ってますわ」

 

「ある意味すべてのPTの元祖、そしてPTにおける戦闘・操縦技術の開祖と言ってもいい」

 

そこまで聞けばリョウトでもパイロットの名前に辿り着いていた。

 

「カーウァイ・ラウ大佐ですか? でも彼は……亡くなっている筈です」

 

エアロゲイターに囚われ、サイボーグにされて死んでいるはず。

 

「だからオカルトだといっているんですわ、まぁ、武蔵もいい勝負ですけどね」

 

旧西暦の人間である武蔵と共に戦った。そして今は旧西暦で人類と地球の覇権をかけて争った百鬼帝国が復活している。そう考えれば、死人が1人生きていたとしても違和感はないだろう。

 

「それよりもだ。リョウト、安全運転で頼むぞ。マリオン、手伝ってくれ」

 

「……この状態でやるつもりですの?」

 

「当たり前だ。敵はこちらの常識を超えている――社長達が頑張ってくれているが、念の為の備えは必要だ」

 

「何を動かすつもりですか? ハミル博士。まさかタイプMですか?」

 

搭載している機体の中で稼動させるのはタイプMとタイプLの2種類しかない。その中で動かすとなればタイプMだとリョウトは考えていたのだが、カークの返答はリョウトの予想とは異なる物だった。

 

「タイプLだ」

 

「正気ですか?」

 

「正気も正気だ。タイプMではAMボクサーは動かせない上にMAガンナーとのドッキングも出来ない。そのどちらかを使えなければこの状況は切り抜けられない」

 

タイプMは反マグマ原子炉を使うという前提の為、、AMボクサー、MAガンナーとの合体は前提とされておらず、ボクサーとは異なる方向性で小型化されたSRXを目指して開発されたサポートパーツを持つ。

 

「ボクサーの調整もドッキングもシュミレートすら済んでないんですよ? このまま離脱……」

 

ゲシュペンスト・タイプSに百鬼獣が集まり、もう少しで離脱出来るかもしれないと言う考えが過ぎった瞬間だった。凄まじい轟音と共に月面が砕かれ、そこから背中に巨大なレールガンを背負った亀型の特機が姿を現した。

 

『リョウト君! 避けてッ!』

 

『避けろッ!!』

 

リンとリオの悲鳴にも似た避けろという声を聞いて、リョウトは反射的に操縦桿を切った。それによって亀の背中のレールガンを紙一重で交すことが出来た。

 

「うわぁッ!」

 

「ぬおっ!?」

 

「つうっ!?」

 

だがそこまでだった。グルンガスト――いやそれよりももっと巨大な亀の背中のレールガンの威力は凄まじく、避ける事は出来たがその衝撃でレディバードはバランスを崩し、地響きを立てて墜落する。リョウトが必死に操縦し横転する事は避けたが、即座に飛び立つのは不可能な状況に追い込まれてしまった。

 

『いかん! 輸送機を守れッ!』

 

『りょ、了解……ッ!』

 

地響きを立ててゆっくりと身体を起こした亀の特機から守るようにヒュッケバイン、ビルトファルケン・タイプK、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様が動き出そうとした時、ラーダがある存在を感じ取った。

 

『社長! アラド、リオッ! 動かないでッ!!!』

 

その叫びにリン達が動きを止めた瞬間。輸送機の周囲に火柱が上がった、動き出していれば脱出すら許さずに消し炭になっていたのが容易に判るほどの凄まじい業火にリン達は息を呑んだ。

 

『避けたとは驚きだね、勘の良い人間もいたものだ』

 

柔らかい声が周囲に響いたと思った瞬間。炎を伴った凄まじい暴風が巻き起こり、上空から燃え盛る炎の鳥が悠々と亀の甲羅の上に降り立った。

 

『す、朱雀? それにあれは……玄武?』

 

中国人であるリオは目の前に立ち塞がる2機の特機を見て、思わずそう呟いた。余りに邪悪、そして禍々しい姿ではあったが、その姿は紛れも無く朱雀と玄武だったのだ。

 

『さてと、では改めて自己紹介だ。僕は四邪の鬼人 朱雀の朱王鬼』

 

『ほっほっほ。ワシは四邪の鬼人 玄武の玄王鬼。まぁ短い間じゃがよろしくの人間』

 

どす黒い周囲を歪めるような殺気と敵意を放ちながら、2人はそう名乗った。そしてそれと同時にリン達は悟った、自分達はこの2人を倒さなければ月から脱出出来ないのだと……。

 

 

 

 

第55話 四邪の鬼人 その3へ続く

 

 




がっつり戦闘を書く予定だったんですが、思ったよりも会話が必要だったと気付き、戦闘描写はカーウァイ大佐だけになってしまいました。申し訳ない。次回はメキボスの代わりのボス「朱王鬼」「玄王鬼」を相手に今度こそがっつり戦闘描写を書いて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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