第57話 動き出す世界 その1
デザートスコール作戦で地球へと降下したカチーナ達はリー・リンジュンの率いるシロガネと合流し、ムータ基地へと向かいながらテロリストとの戦いを繰り広げていた。シロガネの戦果は華々しい物であったが、それ以外の部隊の戦果は乏しく、基地防衛も成し遂げる事が出来ず戦力差は大きくなっていった。それはシロガネがハガネの待つムータ基地へ向かう道中の補給ポイントと考えていたベルフォディオ基地も既にテロリストに制圧され、日単位での合流予定の大きなずれを引き起こしていた。
「迎撃作戦を良く頑張ってくれた。だが君達も判っているように状況は最悪と言わざるを得ない」
予定したベルフォディオ基地での補給が不可能となり、ムータ基地とベルフォディオ基地の間にあるPTの整備ハンガー等の無い旧式の基地で燃料や弾薬の補給の為に停泊中にリーはそう話を切り出した。
「上層部はなんて言ってるんだ? 中佐」
「……作戦の続行命令を出している。玉砕覚悟でな」
カチーナの問いかけに答えたリーの顔は苦渋に歪みきっていた。誰がどう見てもキルモール作戦は失敗であり、これ以上の作戦続行は連邦の被害を拡大するだけだ。それなのに作戦続行を選択した上層部はL5戦役から何も学んでいないと誰もが感じた。
「リー艦長の決断は?」
「……命令違反を覚悟で奪還作戦を断念し、レイカー司令からの指示であるハガネの待つムータ基地への強行を考えている」
このまま無理に基地奪還作戦に参加しても戦力を失うだけだ。リーは上層部の決断を無視し、伊豆基地のレイカーの指示に従うことを決めた。軍人だからこそ、死ねと上官に言われれば死ぬ覚悟はリーだってしている。だが無意味な死を受けれいるつもりはリーには毛頭無かった。しかも指示系統が分裂し、撤退しろという指示を出しているレイカーと、そのレイカーに反抗して無理な作戦続行をしようとしている作戦本部――そのどちらに従うかなんて馬鹿でも判る理屈だった。
「出世街道から外れるな中佐」
だがそれでも命令違反は命令違反として処分されるだろう。若手でスペースノア級の艦長にまで上り詰めたリーだが、命令違反で出世街道から遠ざかるなとカチーナに言われると小さく笑った。
「ふん、元よりそのような物に興味などない。今からベルフォディオ基地の奪還に合流しても、その流れを阻止する事は出来ない。それならば反撃に打って出れる可能性のあるハガネと合流し、この包囲網突破を試みる方がよほど意味がある。異論のある者は?」
異論はあるか? と問うリーに反対する者は誰もいなかった。
「皆私と同じ考えで安心した。ではこれより本艦はムータ基地へと向かうが、その前に君達の耳に入れておきたい事がある。むしろ、本題はこっちなのだが……私の判断で君達にいう事を決めた」
「……大丈夫なんですか? それ」
「まぁ大丈夫ではないな。だが、そうも言ってられん」
その口振りから上官の一部にしか知られない極秘事項と言うことは明らかだった。緊張感に満ちたブリーフィングルームにリーの硬い声が響いた。
「ああ。ホワイトスター防衛軍がヒリュウ改を残し全滅、インスペクターを名乗る異星人に制圧された。それに加えて月が百鬼帝国を名乗る集団に制圧されたそうだ」
「「「なッ!?」」」
宇宙の重要拠点2つが制圧されたと聞いてリュウセイ達がその声を荒げた。
「り、リー中佐! ヒリュウ改は!? レフィーナ艦長達はどうなったんっすか!?」
「落ち着けタスク少尉。報告によればドラゴンに似たゲッターロボとゲシュペンスト・タイプSが出現し、ヒリュウ改と月面から脱出を試みたマオ社のスタッフの脱出に協力し、その後は再び姿を消したそうだ」
ヒリュウ改の脱出に協力したゲッターロボと言う事で、リュウセイ達の中でゲッターロボのパイロットが武蔵であるという思いが強まる結果となった。
「上層部が意固地になってキルモールを成功させようとするのはホワイトスターと月面の制圧に関係しているのですか?」
「恐らくそうだろう。宇宙を完全に押さえられ、その上アースクレイドルをテロリストの拠点とされてしまえば、L5戦役以上の劣勢に追い込まれる。だから意地でも成功させようとしているのだろう。だがそれは愚策だ、もはや地球圏に安全な場所などは存在しない。それならばまた押し返す。それだけだ」
「随分と簡単に言ってくれるじゃねえか? ええ、中佐」
「ふっ、お前達なら出来ると考えているのさ。私だけではない、レイカー司令達もな。これから更に厳しい戦いになると思われるが、その力を私達に貸して欲しい」
深く頭を下げるリーに了解を返事を返しながら敬礼するリュウセイ達。確かに地球圏は窮地に追い込まれている――だがそれに抗おうとする者達は確かにいた。地球を守る為に、平和を守る為に戦う戦士達は確かにそこにいたのだった。
ヒリュウ改と分かれた武蔵とカーウァイは大気圏の単独突入を敢行し、クロガネとの合流を果たしていた。
「今戻りました」
「ビアン所長。私達が地球に居ない間に何か判った事はありましたか?」
武蔵とカーウァイは休むつもりも無く、自分達が地球にいなかった間に何があったのか? という事をビアンに尋ねた。
「少し休んでくれても良いのだが……本人達にそのつもりが無いのなら余計なお世話になるな。ブリーフィングルームで詳しく説明しよう」
ビアンとすれば休んでから会議を行なうつもりだったが、武蔵達にそのつもりが無いとわかるとブリーフィングルームに向かおうと促し、武蔵達が地球にいなかった間に何が起こったのか、そしてこれからビアン達がどうするかの行動方針を話し合う為にブリーフィングルームに武蔵達は向かうのだった。
「グライエンさん! もう大丈夫なんですか?」
「ああ。まだ寝ている時間の方が多いが、今回は話し合いに参加させて貰うよ」
ブリーフィングルームで待っていたグライエンを見て武蔵が笑顔で声を掛けると、グライエンも笑みを浮かべて返事を返した。
「さて、かなり出来事が起きているので簡潔に説明するが、連邦軍の作戦――キルモールは既に失敗していると言っても良いだろう」
アースクレイドルとそこを拠点にしているテロリストを一掃するという連邦軍の作戦だが、既に失敗しているとビアンは断言した。
「そんなにですか?」
連邦の部隊の大半がつぎ込まれた作戦だった。武蔵は単純にそれだけ戦力を次ぎこんでいれば完全に成功とまでは言えなくても、互角程度にはなるだろうと考えていたこともあり、完全に失敗と聞いて信じられないと言う顔をしながらビアン達に尋ねる。
「一部の部隊を除き錬度が余りにも低すぎたのが大きい」
「それに加えて指示権の混線――それが追い込まれた理由だな」
ゼンガーとエルザムが沈鬱そうな顔で言う。表立って合流する事はなかったが、それでも割り込めるところでは割り込んで、連邦とテロリストとの戦いに介入していたが、その上でゼンガーとエルザムは今の状態でキルモールが成功するわけが無かったと断言した。
「機体性能に頼りすぎて訓練をサボっていたのが原因だろうな」
「それに加えてL5戦役で活躍した部隊へのいらないやっかみ。正直そんな状況で勝てる訳が無い」
ラドラとイングラムの鋭い舌撃を聞いて武蔵はそうかぁっと呟いて肩を落とした。
「ハガネはどうなっている?」
「ムータ基地周辺に陣取り防衛をしている。今シロガネが合流する為に向かっているが……恐らく合流後はアフリカ離脱に動くだろう」
ハガネとシロガネの戦力は凄まじいが、単独で包囲網を抜けるには厳しい。シロガネと合流し、2隻のスペースノアを利用しアフリカを離脱する方針に出るだろうとビアンは考えていた。
「ダイテツさんなら巻き返しを図ると思うんですけど、それでも離脱の方針ですか?」
「恐らくな、テロリストの勢力が余りにも強すぎる。それに百鬼帝国、シャドウミラーも加われば戦力的には不利過ぎる」
ビアンもダイテツの性格は良く判っている。だがテロリストに加えて、百鬼帝国とシャドウミラーも控えているとなれば、慎重に動かざるを得ないとビアンは分析していた。
「シャドウミラーと言えばアクセルと交戦した」
「どうなった? ソウルゲインは大破寸前だったらしいが、捕虜にしたのか?」
「いや、恐らくだが百鬼獣らしい敵機に割り込まれてソウルゲインを見失った。シャドウミラーと百鬼帝国が協力体制にあるのは確実だな」
イングラムは自分の戦闘結果を踏まえてシャドウミラーと百鬼帝国が協力体制にあると断言した。
「ヒリュウ改に武蔵君達が合流しているのならば、予定を早めてハガネとシロガネに合流する事も考えても良いだろう」
「あのーすいません、それなんですけど……1つ言わなければならない事がありまして」
武蔵がそろーっと手を上げて報告しなければならないことがあるとビアン達に言う。
「何かあったのか? 武蔵」
「まぁ何かあったといえば、そうなんですけどね? バンさん。リューネと連絡とってましたよね? ヒリュウ改にいたんですよ、リューネ」
その言葉にビアン達は武蔵が何を言おうとしているのかを理解した。
「な、なんと言ってた?」
「殴る、殴り倒す、ついでに蹴る。覚えてろ親父だそうです。オイラも必死に宥めたんですけどね? クロガネの場所を教えない変わりに殴って蹴るのは認めろと……本当すんません」
「い、いや、武蔵君が良く努力してくれたのは判るよ」
リューネの性格を考えれば意地でも付いて来ようとするのを何とか宥めた武蔵の努力をビアンは認めざるを得なかった。
「やはりリューネくらいには伝えておくべきではなかったのか? ビアン」
「あ、あとイングラムさんにも、ヴィレッタさんに会いましてね」
ヴィレッタの名前に硬直したイングラムはそのままブリーフィングルームの天井を見つめた。
「なんて言ってた?」
「フルスイングのビンタを覚悟しろと」
「……そう……か」
「あとたぶん確実にアヤさんとイルムさん、あとついでにリンさんも絡んでくるかも……」
PTXチームのメンバーとアヤも絡んでくると聞いてイングラムはこの世の終わりという顔をした。
「……連絡を入れるべきだったか? だがな」
「まぁ仕方ないだろう。覚悟は決めておけ、私は庇わんぞ」
処刑が確定しがっくりとイングラムが肩を落とす中。武蔵たちがハガネに合流した後の話をビアンは淡々と進める。
「武蔵君とイングラムがハガネに合流するとして、私達はクロガネでアメリカにあると言う旧西暦の資料を手にし、それを解析しながら状況に応じて戦闘に介入するというスタンスで行こうと思う。ここまで派手に百鬼帝国が動いているとなると、クロガネの鹵獲を危惧しなければならないからな」
ホワイトスターのインスペクターによる制圧、そして月を占領した百鬼帝国――ここまで派手に立ち回っていることを考えれば、地球での活動はより活性化するだろうとビアンは考えていた。ポセイドン2に記録されていたメキボス達と武蔵との会話の記録も参考資料となる。
「カーウァイ大佐とイングラム少佐、後で情報の差異の解析を頼む」
「了解した。あちら側の資料とのすり合わせを行なおう」
シャドウミラーの世界でのインスペクターの情報とこちら側のインスペクターの情報にはいくらか差異はあるが、それでも共通点などもいくらか見える。それらを上手く使い、可能な限りの情報収集を行う事で今後の方針を定めつつ今まで以上に慎重に動くことをビアンは決断したのだ。
「すいません、うろ覚えで申し訳ないです」
「いや、武蔵君が悪いわけではない。気にしなくていい。その情報でさえも、我々にとっては稀少な物だからね。当面はそれらの情報を精査しながらアメリカに向かうことにする」
「アメリカ……ですか、このタイミングでアメリカに向かうって事はアメリカに資料があるんですか?」
「ああ、それは間違いない。私の家に伝わっている情報だから確実だ」
グラスマンの家に代々伝わっている情報となれば、旧西暦での有力な情報を得れる可能性は極めて高い。
「とりあえず今の所の方針はそんな所だ。武蔵君達は少し身体を休めてくれ、これから戦火は大きく広がっていくだろうからな」
宇宙での戦いを潜り抜けてきた武蔵とカーウァイに休むようにビアンは指示を出し、クロガネはアメリカを目指してゆっくりと深海を進み始めるのだった……。
龍虎皇鬼の襲撃を受けてPT隊と深刻なダメージを受けたハガネはムータ基地の防衛任務についていた。しかしこの場にいる全員が重苦しい物を感じていた。
「キョウスケ中尉達は何と言っていた」
「艦長と同じく、そろそろ敵の本命の襲撃があると感じたそうです」
「やはりか……」
散発的に起きる襲撃だが、決して深追いせず、しかしハガネの離脱は許さないと言う陣形、そしてパイロットの精神と体力を削る早朝・深夜を問わない襲撃行動――それら全てがハガネを足止めし、パイロットの疲弊を高める為の物であった。
『ダイテツ中佐。後36時間でシロガネがムータ基地に合流予定だ。それまで耐えれるだろうか?』
「厳しいな、しかし単独で離脱するだけの戦力と余力がハガネにはない」
『そう……か、我が基地が攻め落とされることは既に覚悟しているが……負け戦でハガネを失う訳にはいかん。すまないな、力になれなくて』
ムータ基地の現司令はダイテツと同じく、レイカー派の鷹派の軍人だった。だからこそハガネとそのPT隊を失う訳には行かないと硬い声で告げた。
「いえ、司令は良くやってくれていると思います。司令のお陰で私達の機体の損傷や消耗は軽微なのです」
『ふっ、ありがとうテツヤ大尉。だが共に戦えないのでは意味はないのだよ』
敵の目的がハガネの足止めと判明した段階でムータ基地の司令はキョウスケ達の疲弊を最小に控える為に、所属PTやAMを総動員してくれていた。そのお陰で機体の修理も進み、キョウスケ達も身体を休める時間があった。しかしそれも何時までも続くものではない、明朝、深夜のスクランブルでムータ基地のパイロット達も疲労が募り、機体も連続出撃で各部に不具合が出始めていた。
「いや、意味はあった。ワシ達の戦力を整える時間を稼いで貰っただけで十分だ。後は基地の防衛に当たってくれ……そして基地の放棄に向けて動いてくれ」
敵の本命部隊が攻め込んできた時にムータ基地にはそれを跳ね返す余力は無く、そしてハガネにもその侵攻を食い止めるだけの力も無かった。
「よろしいのですか?」
「仕方あるまい。波状攻撃に加えて、百鬼獣も加わればワシらに勝ち目はない」
これが普通のPTやAMが相手ならばダイテツもムータ基地の放棄を選択しなかった。だがムータ基地の戦力が乏しくなってから遠目に百鬼獣らしき異形の特機の目撃情報が増えてきた。それらの要素もダイテツがムータ基地の放棄を選択した理由の1つだった。
『どうせ放棄するなら基地を爆破して利用など出来ないようにしてやるとしよう』
そう笑ってムータ基地の司令は通信を切り、ハガネのブリッジには嫌な沈黙が広がった。
「中尉達にホワイトスターの事は伝えるのですか?」
「……この場を切り抜けてからにするべきだとワシは考えている」
12時間前にホワイトスターがインスペクターを名乗る異星人に制圧され、ヒリュウ改を除く防衛隊は全滅。更にセレヴィスシテイも百鬼帝国を名乗る集団によって占拠された。相当数の住民は避難出来たが、それでもまだセレヴィスにはかなりの人が残り、百鬼帝国の人質となっている。
「L5戦役と同じ――いや、もっと状況は悪い。だがこの状況をワシらの力で打破せねばならん」
L5戦役は最初から最後まで武蔵とゲッターロボに頼りきりに近い形になってしまった。それが武蔵とイングラムのメテオ3への特攻という結末を作ってしまった。今度はそうならないように力を付けた筈だった……それでも敵の強さは悉くダイテツ達を上回っていた。
「負け戦となっても死ななければ次がある。負けたままではすまさん」
敗北の屈辱に身体を震わせ、怒りに満ちたダイテツの呟きに返事を返せる者はいなかった。それほどまでにダイテツの闘志は凄まじく、全てを飲み込む威圧感を放っていた。L5戦役で悔しい思いをしたのは、悲しんだのはキョウスケ達だけではない、ダイテツもまた将来ある1人の青年を犠牲にした、それを悔いた。そして今度は同じ様な結末にはならないと己を磨き続けていたのだった……。
連邦軍の進撃を跳ね返し、逆に攻め込んでいるテロリスト達の拠点のアースクレイドルでは完全に勝ち戦の雰囲気になっていたが、その中でオウカだけは肩を大きく落とし、暗い顔をしていた。オウカの美貌も相まって近づき難い雰囲気を出すオウカの前に龍王鬼が立った。
「よお、オウカ。ちょっと付き合えよ」
「……龍王鬼さん。すいません、今は私は何もしたくないんです」
ゼオラの心を朱王鬼に砕かれ、人形のような反応しか示さないゼオラに食事を与え、風呂にいれ、着替えさえもオウカが行なっていた……それは最早介護に等しい状態で、そんなゼオラを見ているオウカは自分を追詰め、心も身体もボロボロだった。ゼオラを元に戻す術が自分が死ぬか、ラトゥーニが死ぬか、それともアラドが死ぬか? その3つの選択しかないと知り、虎王鬼に精神攻撃防御の術を守りを渡されたが、オウカはいっそ自分の心も砕いて欲しいとさえ思っていた。
「しっかりしやがれッ! オウカッ!!」
「っ!!」
そんなオウカの心境を見抜いていた龍王鬼はオウカの肩を掴んでそう怒鳴った。その怒声にオウカはびくりと肩を竦めた。
「そんな様でゼオラを元に戻すなんかできねえだろ。てめえは姉貴なんだ、しっかりしゃんとして背筋を伸ばして前を見ろ」
「で、でも私はッ!」
「判ってる。守ってやれなかった俺様も悪いすまねえ、許してくれ」
朱王鬼がくると判っていれば龍虎皇鬼まで持ち出してハガネと戦う事はなかった。言われた通り足止めをし離脱していればゼオラと朱王鬼が接触することも無かった。面倒見の良い性格の龍王鬼は自分の享楽を優先して、姉弟達の絆を引き裂いた事を心から悔いていた。
「す、すいません。そんなつもりでは」
「いや、お前には俺様を責める資格がある、すまねえ。許してくれ」
謝罪の言葉を口にする龍王鬼にオウカは何も言えず、小さくすいませんと呟いた。
「お付き合いします。どこへ行くのですか?」
「ユウキとカーラを連れて、少し街に出てみようと思う。てめえらの息抜きと偵察をかねてる……それと」
そこで龍王鬼は周囲を見回し、百鬼帝国の兵士が近くに居ない事を確認してからオウカの耳元に口を寄せた。
(ゼオラを元に戻す術はまだもう2つある。それにもう1つ――てめえの弟についても、こっちに情報が入った。だけど、ここじゃ話せねえ。そうだろ?)
龍王鬼はあくまで百鬼帝国の将軍という立場にある男である。そんな龍王鬼が気に食わない相手だとしても味方である朱王鬼の事を話すわけには行かない。その為の偵察だとオウカは悟った。それと同時に長時間の外での活動だと知り、その顔が曇った。
「で、でもゼオラが……」
今のゼオラは言われた事を何の抵抗も無く受け入れてしまう。自分がいない間にゼオラが慰み者にでもなったらと思って不安そうな顔をするオウカに龍王鬼は大丈夫だと笑った。
「大丈夫だ。虎が見ててくれる、朱王鬼と玄王鬼さえいなきゃ、虎を出し抜ける相手なんかいやしねえ」
「そ、そういうことでしたら……よろしくお願いします」
「おう、ユウキ達が待ってる。行くぜ」
オウカを連れてアースクレイドルを後にした龍王鬼達だったが、そこで予想にもしない出会いをする事を龍王鬼は勿論、オウカ達も知るよしも無いのだった……。
赤い絨毯の引かれた高層階の夜景が美しいレストランにブライと共工王の姿があった。向かい合い豪勢な夕食を口にする中、共工王が眉を細めてワイングラスに口をつけた。
「鬼よ、お前の戯れは些か趣味が悪いな」
「そうかね? 良く似合っていると思うがね」
肩を出した真紅のドレスとそれとは対照的のブルーサファイヤのネックレス――強気な性格を良く現している吊り目の共工王の姿にそのドレスは良く似合っていたが、共工王はふんっと鼻を鳴らしただけだった。
「私を女に変えたのはやはり貴様の趣味か?」
「まさか何度も言うが私ではないよ」
どうだかと肩を竦めて共工王は手にしていたワイングラスを机の上に置いた。
「月を制圧して何の意味がある。いい加減に私の身体を用意したらどうだ?」
「準備はしているさ、そう焦らないで欲しいな」
鋭い視線を向けられても飄々とした態度でステーキを切り分け、口に運ぶブライ。その態度を見て余計に共工王は苛立ちを感じたが、ここで怒りを露にしては自分がブライよりも格下という事を認めるような物だと思い共工王は小さく溜め息を吐いた。
「それで私をこんな所に連れてきて、お前は何がしたかったんだ?」
良い女を連れて気分が良いなんて事はブライは感じないだろう。では何の為に自分を連れてきたんだ? とブライに尋ねるとブライはナイフとフォークを机の上に置いた。
「鬼というものが何なのか、お前は知っているかね?」
「鬼は鬼だろう? お前は何を言っている?」
ブライの言葉に共工王はうろんげな視線を向けた。その視線と声を聞いてブライは小さく肩を竦めた。
「ああ、失礼した。お前の知る鬼と私は同じ鬼に見えるか?」
「……そういうことか、確かにお前は私の知る鬼よりも知性的だ」
鬼というのは己の欲求にどこまでも従順で、そこに知性的な行いというのは見られない。ただどこまでも暴力的に己の欲を満たす……それが共工王の知る鬼という存在だった。
「そういう事をいうという事は知性で欲を抑えているわけではないのか」
「その通りだ。私が作った鬼は簡単に言うと品が無い。流石の私も己と同じ存在を増やす事は出来なかった訳だが、私はね。異星人の力を借りて鬼になったのだよ。ダヴィーンという星の数少ない生き残りが私に力を貸してくれたのだよ」
楽しそうに、そして誇らしげにブライは共工王に語った。
「判らないな、それと月を制圧した事に何の関係性がある?」
「ふふ、事を急くと損をするぞ? まぁ良いがな。ダヴィーンという星は星間連合ゾヴォークに属していた。ゲッターロボに滅ぼされはしたが、それでも重要な立ち位置にあった星なのだよ。そしてホワイトスターを制圧した集団はゾヴォークに属する集団なのだよ」
「滅びた星の生き残りなどと一蹴されるのではないか?」
「いや奴らは私が送り込んだ朱王鬼達の話を聞かざるを得ない。あいつらはな技術力はあるが、戦う事に対する嫌悪感が強く武器などの扱いは子供同然でね。それゆえにだ、強い武器を欲しているのだよ」
互いに無い物を欲しているからこそ、ダヴィーンの名を出した朱王鬼達を無碍には出来ないとブライは告げる。そしてその言葉と同時にブライの目は爛々と輝いていた、その目の奥に隠れている強い欲望の色を見て肩を竦めた。
「お前が知性で抑えていると言うのは訂正しよう。お前も他の鬼と同様強欲だ」
共工王の言葉にブライは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑った。そこに地球連邦議員としてのブライの姿は無く、百鬼帝国大帝ブライの邪悪にして、どこまでも強欲な鬼としての姿があるのだった……。
第58話 動き出す世界 その2へ続く
今回はシナリオデモ、今後の話の布石などを準備してみました。次回も今後のフラグなどを準備したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い