進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第58話 動き出す世界 その2

第58話 動き出す世界 その2

 

グライエンの言う旧西暦の資料を保管している場所を目指して海を進むクロガネ改。その場所への行き方を知っているのはグライエンだけで、グライエンは怪我の痛みに顔を歪めながらもブリッジに用意された椅子に腰掛け、進路の指示を出していた。

 

「そのままだ。進路はアメリカ大陸中心部、そこに海流の流れがある筈だ。それに乗っていけば良い」

 

「大陸の真ん中を進む事は出来るが掘削でもしながら進めと言うのかね?」

 

「いや違う。これは私も正直眉唾なのだが、アメリカ大陸は旧西暦に半分以上吹き飛んでいるらしい、それを写真に残されているアメリカの写真を元に人工大陸の上に今のアメリカを再建築したそうだ」

 

グラスマンの家に伝わる情報とだったとしても大陸が吹き飛んでいるとか、フロートの上に浮かんでいるとか眉唾すぎる話にビアン達もまさかという顔をしていたのだが……。

 

「あ、それマジですよ。ポセイドン2にリミッターが付く前に大雪山おろしをしたら大陸をごっそり破壊しちゃって、やべえって正直思ってたんですよ。いやあ、ちゃんと形になってて良かった」

 

当事者というか、アメリカ大陸を粉砕した当事者の武蔵がやばいって思ってたけどちゃんと元に戻ってて良かったと笑うが、話を聞いてい居るビアン達の顔は引き攣ったままだった。大陸を粉砕するほどのパワーを有しているゲッターD2のパワーに恐怖していたと言っても良いだろう。だがそれだけの力が必要だった旧西暦の戦いの凄まじさにビアン達は思い知らされる形になっていた。

 

「んん、と言う訳でだ。当時の政府はメガフロートを作成、失われた部分を補填する形でアメリカの復興を行い。その中に当時の資料などを保管しているらしい。それらの確認とメガフロートの動力チェックをしておこうという訳だ」

 

誇張した話だと思っていたグライエンだが、当事者の1人に事実だと言われ若干引き攣った顔で話を進める。

 

「つまりクロガネが向かうのは整備用の搬入口という所か」

 

「そうなる。当時は今ほど技術が発達していなかったから戦艦もスペースノア級と同じくらい大型だった。だからそのまま進入できると見て間違いない」

 

アメリカ大陸の地盤の一部に隠された人工島――そこに眠る旧西暦の遺産。そこに何が眠るのか? それを知る為にクロガネは進んでいく。

 

「もう少しで潜行して行かねばならぬ。武蔵君はどうするのかね?」

 

「あーユーリアさんと少し外に出ます。気分転換して来いって言われてますし」

 

「当たり前だ。休める時は休む物だよ、ゼンガー少佐達だって魚釣りなどをして気分転換をしているのだからな」

 

ビアンとリリーに休みの重要性と昏々と説かれ、武蔵はユーリアと共に外に出る事を決めたのだ。

 

「んじゃま、そろそろ行きます。ビアンさん達も気をつけて」

 

ブリッジを出て格納庫に向かっていく武蔵。その背中を見つめながらグライエンはビアンに視線を向けた。

 

「少々お節介が過ぎるのではないか?」

 

「いやな、見ていると余りに不憫でな……」

 

ユーリアがあーだこーだと考えている間にエキドナに出し抜かれている姿を見て、それを不憫に思っていたビアンとリリーが共謀し、今回の武蔵とユーリアの外出となったのだが、グライエンからすればお節介が過ぎると思わずにはいられなかった。

 

「武蔵君は平和な世界を見る権利がある。そうは思わないかね?」

 

「……それはそうだな。彼には平和な世界を見る権利がある」

 

旧西暦の文献を知るグライエンからすれば、武蔵は恐竜帝国に特攻し死んだ悲運の英雄だ。年若く青年らしい楽しみも出来ず死んだ武蔵には平和な世界を見て、楽しむ権利があると言われれば反論する理由は無かった。

 

「しかし、大丈夫なのか? ビアン」

 

「何がかね?」

 

「バン大佐達の事だ。クロガネの戦力をカーウァイ大佐とラドラ氏、そしてイングラム少佐だけにして大丈夫なのか?」

 

ビアンは潜行する前にライノセラスにゼンガー、エルザム、バンの3人とLB隊、トロイエ隊の大半を配置すると言っていた。武蔵達が出るのと同時に別働隊もクロガネを後にする。直接的な戦力が3人で大丈夫なのか? とグライエンが尋ねた。

 

「問題ない、私もいざとなればゲッターVで出る。それにこれから向かう先は上層部でも知られていないのだろう? それならば襲撃を受けるリスクも少ない。過度な戦力をクロガネに結集するくらいならば、キルモール作戦から撤退する連邦の支援に向かって貰った方が良いだろう」

 

キルモール作戦の失敗は確定となった今。戦力を必要以上に失わせる訳には行かないとビアンは判断し、その為の別働隊の派遣に踏み切ったのだ。

 

「それならば良いが、やはり地球圏に必要だったのはアイギスの盾ではなく、ハルぺーの鎌だった。戦わなければ、立向かわなければ平和を手にする事などは出来ないのだ」

 

「それに関しては賛成だ。守りでは何も成し遂げる事は出来ないからな」

 

クロガネのブリッジから飛び立っていくヴァルキリオンと輸送機を見ながらビアンとグライエンは誰に聞かせるでも無くそう呟いた。守りたい物があるのならば戦うしか、立向かうしかないのだ。後に進む道はない……それが嘘偽りの無いビアンとグライエンの気持ちなのだった。

 

 

 

 

 

着流し姿からジーンズにシャツ、そしてジャケットと近代的な服装をした龍王鬼を見て、ユウキは思わずあることを呟いてしまった。

 

「角隠せるんですね?」

 

「ん? たりめえだ。角生やしたまま堂々と歩いてたら騒動になるだろうが」

 

そう言われればその通りなのだが、角を生やしている姿を見慣れているからこそ角の無い龍王鬼の姿にユウキは違和感を感じていた。

 

「大丈夫? オウカ」

 

「え、ええ。大丈夫です……ありがとうございます。カーラ少尉」

 

「カーラで良いよ」

 

「えっと、ではカーラさんと呼んでも?」

 

オウカとカーラが話をしている姿を見つめていたユウキ。だがその視線は鋭く、そして悲しげだった。

 

(酷い隈だな、化粧でも隠しきれていない)

 

ゼオラが朱王鬼によって人形のようにされ、言われた事しか出来ないゼオラの介護をしているオウカの疲労は察して余りあった。せめてもの幸いと言えるのはアギラが必要以上にゼオラとオウカに近づかなくなり、徐々にリマコンの影響が抜けてきている。それ自体は良い事なのだが、妄信的にアギラのいう事を信じなくなった分迷いや不安を感じるようになった。それがオウカの不眠と食欲不振に繋がり、ゼオラの面倒を姉だから見なければならないと言う責任感でオウカは雁字搦めになっていた。

 

「龍王鬼さん。先にオウカに教えてあげてくれますか?」

 

「おう。そうだな、オウカ。朱王鬼の術を解除する方法だがな、単純な話だ。朱王鬼を殺すか、あいつの角をぶち折れば良い。あいつの術……まぁ鬼全般だが、特殊な力を持つ鬼は角が力の源だ。角さえ折れば、あいつの術は間違いなく解除出来る。」

 

角を折れば良いと言う龍王鬼だが、朱王鬼も龍王鬼と同じく自分専用の百鬼獣を持ち、そして朱王鬼自身もかなりの強さだ。角を折ると言うのは簡単そうに見えて、かなりの難易度を持っていた。

 

「後もう1つ……ゼオラ自身が自分で術を破るかだ。朱王鬼の術を上回る精神力があれば、あいつの術は敗れる。やるとすれば、そっちの方が確実だな」

 

「精神力って言うけど、それはどうすればいいの? 龍王鬼さん」

 

カーラの問いかけに龍王鬼は歯を出して笑い、オウカの頭に手を乗せてその頭を撫で回した。

 

「姉貴として呼びかけてやれ、反応は無くてもその声は絶対にゼオラに届いてる筈だからな」

 

「龍王鬼さん……はい、ありがとうございます」

 

オウカとゼオラの2人の身を案じる龍王鬼の姿はどこどう見ても気前のいい兄貴分という感じで、何故龍王鬼が百鬼帝国に属しているのかそれがユウキには判らなかった。

 

「それでそのアラドは……?」

 

「おう、なんかヒリュウ改つう戦艦に乗ってるらしい、赤いなんかとんでもねえ変なPTに乗ってるらしいぞ? 朱王鬼の野郎と月に言ってる鬼からの報告で言ってたから間違いねえ」

 

アラドが無事だと聞いてオウカだけではなく、ユウキも安堵した。だが赤くてとんでもないPTと聞いて、それは大丈夫なのか? と思わず不安を抱いたのだが、龍王鬼はそんなユウキ達の様子に気付かずジャケットからむき出しの札束をユウキ達に投げ渡した。

 

「それで好きに過ごしな。夕暮れまで自由に過ごせ、俺様もそうするからよ。少しは肩の力を抜いてリラックスしてきな」

 

ぶっきらぼうだが、それでもユウキ達を案ずる言葉を口にし、龍王鬼は肩を回しながら街に向かって歩いていった。

 

「じゃあ、あたし達も見て回ろっか?」

 

「そうだな、そうしよう。龍王鬼さんの心遣いを無碍にする訳にも行かないからな。オウカもそれで良いな?」

 

「はい。行きましょう」

 

龍王鬼の気遣いを無駄にする訳には行かないとユウキ達も待ちに向かって歩き出した頃。反対側の森の中にヴァルキリオンが着陸し、そこからユーリアと武蔵も同じ街に向っていたのだった……。

 

 

 

ユウキ達が街中を散策している頃。武蔵とユーリアも同じ街を散策していて歩いていた、決して大きな街では無いが明るい人々の笑顔に満ちた街を見て武蔵は嬉しそうに微笑んでいた。

 

「へえ……凄いなあ」

 

「何か思う所でもあるのか?」

 

ユーリアの言葉に武蔵はそういうわけじゃないですけどねと小さく笑った。

 

「ポセイドン2でめちゃくちゃにした街がここまで復興してるのを見ると人間って凄いなあって思うんですよ」

 

キルモール作戦もあり、戦闘機やPTが飛び交う中でも非戦闘区域ということで人の営みは今も続いている。その光景を見て旧西暦で荒れ果てたアメリカを見ていた武蔵は人間の底力って凄いと正直に感心していた。

 

「……」

 

「どうかしました?」

 

「いや、なんでもない」

 

しかしユーリアは武蔵の言葉になんと反応すれば良いのか判らず、黙り込んでしまい。武蔵にどうかしました? と尋ねられ、なんでもないと返答するのがやっとだった。そのままなんとも言えない雰囲気の中で歩くユーリアと、子供のような顔をしてあちこちを見ている武蔵という余りに対照的な組み合わせはかなり目立っていたのだが、一杯一杯のユーリアと、何も考えていない武蔵は周囲の視線に気付く事は無かった。

 

「武蔵は何か好きな物でもあるのか?」

 

「食べ物ってことですかね? それなら嫌いな物はないですけど」

 

「いや、そういう意味ではなくてだな。本が好きとか、ゲームが好きとか何か無いのか?」

 

ユーリアにそう言われた武蔵は通り過ぎかけた店の前で足を止めた。ユーリアは最初それに気付かなかったが、武蔵が来ていないことに気付いて引き返してきた。

 

「これ買っても良いですかね?」

 

「グローブとボール? 武蔵は野球が好きなのか?」

 

「野球が好きって言うかキャッチボールが好きなんですよ。よくリョウとか、隼人とかとキャッチボールしてて」

 

会うことの出来ない友人を思い出しているのか神妙な顔をしている武蔵を見て、ユーリアはその手を引いてスポーツ用品店に入った。

 

「なら買おう。運動不足の部下も多いからな」

 

「それは嬉しいんですけど、ユーリアさんってキャッチボールとかしたことあるんですか?」

 

活き込んで入店したユーリアだが、コロニーではキャッチボールをしたと言う記憶は無かった。

 

「無いな。ボールも投げたことが無いかもしれない」

 

「ははッ! 案外ユーリアさんってどっか抜けてるんですね」

 

武蔵に笑われなんとも言えない気持ちになったユーリアだが、武蔵が笑っているのを見て釣られるようにユーリアも笑みを浮かべた。

 

「それなら武蔵にでも教えてもらう事にしようかな」

 

「良いですよ。いくらでも教えますよ、えっとじゃあ……これとこれ……それと」

 

初心者でも使いやすいグローブとかを選んでいる武蔵を見て、微笑ましい表情をしていたユーリア。だがその顔が急に険しいものになった。

 

「武蔵、財布を預ける。買い物を終えたら駅前の広場で会おうッ!」

 

「えッ!? あー……行っちゃった。どうしたんだろ?」

 

武蔵の返答を聞かずに店を出て行ってしまったユーリア。その後姿をぼんやりと見つめながら武蔵は選んだグローブやボールを会計するために店主の元へ運ぶ。

 

「ガールフレンドに振られたな」

 

「ガールフレンドって、違いますよ。オイラただ道案内して貰ってただけなんです」

 

「なんだ、こんな時期にホームステイか? 随分と強気だな」

 

「まぁそんな所ですかねえ」

 

からかうように話しかけてきた店長との会話を楽しみ、武蔵は背負っていた鞄にグローブとボールを入れてのんびりと歩き出すのだった。

 

「ユーリアさん。何故こんな所に」

 

「お前こそ、まさかここでテロ活動をするつもりか? そんな連絡は受けていないぞ」

 

「いえ、俺達の今の上官が息抜きをしろっと俺達をここに連れてきたんですが、逸れてしまって探していたんです」

 

「そういうことか……お前の仲間には悪いが、逸れたのは好都合だ。少し話を聞いてもいいか?」

 

「はい、出来ればクロガネの今後の方針も聞けると俺としてもありがたいです」

 

ユーリアが武蔵を置いて駆け出した理由――それはテロリストの中に紛れ、クロガネに情報を流してくれているユウキの姿を見つけたからだったのだが、それが武蔵とある人物の出会いを促す事になった事を知ったユーリアは後にがっくりと肩を落とす羽目となるのだった……。

 

 

 

 

 

最初ユウキとカーラと行動を共にしていたオウカだが、気が付いたら彼女は1人で見知らぬ街を歩いていた。

 

(……私、私は……)

 

姉として守らなければならなかった妹を廃人にしてしまった後悔――元に戻すには自分の面倒を見てくれている龍王鬼と敵対する道か、愛しい妹か弟、もしくは自分が死ななければならないと言う非情過ぎる現実――それを受け止めるにはオウカの心は弱く、そして硬すぎた。責任感がありすぎて、その現実を受け止めきれずオウカの心は折れてしまいそうだった。

 

「うおおおおーッ! すげえッ! あの兄ちゃんめちゃくちゃ食うぞ!」

 

「行け行け!! チャンピオンを倒せ!!!」

 

ふらふらと歩いていたオウカは広場から聞こえてきた声に引かれ、そちらに足を向けた。

 

「ぎ、ギブア……」

 

「お代わり!」

 

広場で行なわれていたのは大食い大会で3mはありそうな巨漢の男がゆっくりと崩れ落ち、その大男から見て頭1つと半分ほど小さい青年がホットドッグをまだ食べている姿にオウカは弟であるアラドの姿を重ねて見て、優勝賞金を受け取り歩いていく青年の後を無意識でついて歩き出した。

 

「あの、オイラに何か用ですか?」

 

「え……あ、す、すみません」

 

公園の近くまでついて行ってしまった所で青年が振り返り、何か用か? と若干警戒した様子で声を掛けられ、オウカは反射的に頭を下げて謝罪の言葉を口にし、来た道を引き返そうとしたのだが立っていられず、その場に膝をついた。

 

「調子が悪いんですか? 大丈夫ですか!?」

 

崩れ落ちたオウカを見て慌てて駆け寄る青年――武蔵の手を借りてオウカはベンチに腰を下ろしたのだった。

 

「これ、良かったら」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

武蔵に差し出されたペットボトルを受け取ったオウカ。既に封が切られているのを見て自分の様子を見て開けれないと判断し開けてくれた武蔵に感謝しながらペットボトルに口をつけた。

 

「本当にすいません。ご迷惑を掛けました」

 

「いえいえ、それより大丈夫ですか?」

 

心配そうに見つめてくる武蔵の姿をじっと見つめて、自嘲気味な笑いを浮かべた。背格好どころか髪の色も何もかも違うのにアラドに見えた自分がどうしようもなく、みっともない存在に思えてしまったのだ。

 

「大丈夫ですか? 一緒にいる人とか居ないんですか? いるなら探してきますけど……」

 

人を探してくると言って背を向けた武蔵の手をオウカは咄嗟に掴んで、その場に止めた。

 

「あ、いや、その……すいません……」

 

「いえ。そうですよね、調子が悪い時に1人は心細いですよね。連絡が付くなら迎えが来るまで一緒にいますよ」

 

1人になるのが心細いのだろうと武蔵は判断し、オウカに笑いかけオウカの隣に腰を下ろした。

 

「すいません」

 

「大丈夫ですよ。オイラ馬鹿だから気の聞いた事とか言えないですけど、人に言うと楽なこともありますよ」

 

自分が失礼な事をしていると判っているのに自分を気遣っている武蔵――見ているだけで安心出来るような暖かな笑みを浮かべる武蔵。今まで見た事のないタイプの人種の武蔵に絆されてぽつぽつとオウカは苦しい胸の内を武蔵に語っていた。無論全てを語る事は出来ないので、要領を得ない変な話になった部分も合った。だが武蔵は余計な茶々も入れず、無言でその話を聞いていた。

 

「そっか、辛いですね。姉弟同士で争わないといけないなんて……」

 

「私はどうすればいいのか判らなくて、苦しくて……」

 

「そりゃそうですよ。大事な弟と妹が争わないといけないなんて辛いに決まってますよ」

 

「貴方も弟や妹が?」

 

その口振りから武蔵にも兄弟がいるのですか? とオウカが尋ねる。武蔵は非常に聞き上手でそして親身になってくれていた。初見の人間に抱く感想では無いが、オウカには信用に足る人物だと思っていた。

 

「血の繋がった兄弟じゃねえけど、本当の兄弟みたいに思ってるダチ公はいる。血は繋がってないけどさ、あいつらの為ならてめえの命も賭けれる。そんな最高のダチ公さ……っとへんな喋り方でしたね。すいません」

 

敬語ではなく、自分本来の口調で喋っている事に気付いた武蔵は謝罪の言葉を口にしたが、オウカは明るく朗らかに笑った。

 

「いえ、その喋り方の方が貴方らしくていいと思いますよ」

 

「え? そうかなあ?」

 

「ええ、そう思います」

 

互いに名前も知らない。だがそれだからこそ、オウカも武蔵も自然に話す事が出来ていた。

 

「そのオイラは馬鹿だから、上手く言えないけど、どうすればいいかって判るぜ。あんたはきっと良い姉だったんだろうな、弟と妹を守って、ずっと頑張って来たんだ。オイラはそれを正直に凄いと思う。だけど……それじゃ駄目だ」

 

姉として頑張っていたとオウカを認めた上で、それでは駄目だと武蔵は断言した。

 

「……どうして私が駄目なんですか?」

 

今まで自分の事を受け入れてくれていたのに、突然突っぱねるようなことを言った武蔵にむっとしながらオウカが自分の何が駄目だったのかと武蔵に尋ねた。

 

「姉弟って言うのはさ、助け合って互いに協力し合う物だ。あんたは自分が全部やらないといけないって思ってないか?」

 

「……そ、それは……でも姉ならば」

 

「そうだな。姉貴なら、兄貴なら弟や妹は守ってやらなきゃいけねえ。でもな、あんたが守ってやりたいと思う以上に、きっと弟さんや妹さんはあんたを助けたいと思ってるはずだ」

 

否定するのではない、オウカの考えを認めた上で、武蔵はオウカの間違っている所を指摘した。

 

「一方的に押し付けるんじゃなくて、弟と妹と助け合ってみれば、案外道は広がるかも知れねえ。あんた達の事を何にも知らないけど、オイラはそう思うぜ。それに、自分1人で抱え込むんじゃねえ、助けてって言ってみたら助けてくれる人はきっとあんたの側にいると思うぜ」

 

偉そうなことを言ってすまねえと謝りながらも、武蔵は親身になってオウカの悩みの解決に協力しようとし、そしてどうすればいいのかという道をオウカに示した。

 

「ありがとうございます、少しだけ何か判った気がします」

 

「そうか、それは良かった。弟さんと妹さんと仲直り出来ると良いな」

 

そう笑う武蔵に深く頭を下げてオウカは歩き出した。やらなければならない事は沢山ある。それでも、それでもまずは……。

 

(謝ろう)

 

自分の事を心配してくれていたユウキとカーラにつっけんどんな態度を取ってしまった。その事を謝ろうと考え、オウカはユウキとカーラを探して歩き出した。その足取りは武蔵と話す前とは異なり、力強く背筋をぴんっと張った凜とした美しさと強さを兼ね備えたしっかりとした足取りだった。オウカが見えなくなるまでその背中を見つめていた武蔵だが、その姿が見えなくなったと同時にその顔が鬼の形相に変わった。

 

「おいおい、黙ってみてたのは謝るがよ、そう敵意を向けてくれるなよ。……やりあいたくなるだろうが」

 

「鬼……はッ、薄々感付いてたが……あの子もテロリストの一派って事かよ。ええ? あの子の弟と妹を人質に取ってるのか?」

 

向かい合う武蔵と龍王鬼――2人の間の空気は重く、そして鋭く張り詰め、今にも殺し合いを始めそうなそんな状態だったが、先に構えを解いたのは龍王鬼だった。

 

「やめだやめだ。俺様だってオウカの事は心配してんだよ。あのくそったれの朱王鬼が余計な事をしてくれたからよ、あいつの悩みを聞いてくれたてめえに礼の1つでも言おうかと思っただけだ。ここで殺し合いをするつもりはねえ」

 

両手を上げて争うつもりはないと言う龍王鬼に武蔵は怪訝そうな顔をしつつも構えを解いた。

 

「話をしようぜ。なぁ? お前があれだろ? 巴武蔵。違うか?」

 

「……ああ。オイラが武蔵だ」

 

「俺様は龍王鬼。百鬼帝国の将の1人だ、だが今は争う気はねえ。お前が戦うって言うなら話は別だがな」

 

にやりと歯を剥き出しにする龍王鬼、その視線が街に向けられているのに気付いて武蔵は街全体が人質にされていると悟り、嫌そうな顔をしながらも龍王鬼の向かい側に腰掛けた。

 

「てめえも食うか?」

 

「……お前マジで鬼か?」

 

「あん? 鬼が人間の飯を食ったら駄目か?」

 

差し出されたホットドッグにさっきまでの大食いを思い出しながらも、武蔵はそれを受け取り包みをはがすのだった……。

 

 

 

 

 

互いに何か動きを出せば机を蹴り上げて戦えるように構えを取りながら、武蔵と龍王鬼はホットドッグを齧る。

 

「うーんうめえ、口には合わないか?」

 

「いや、美味いぜ? だけど誰が好き好んで鬼と飯を食うんだよ」

 

武蔵の口撃に龍王鬼は違いねえと豪快に笑い、転がってきたボールを持ち上げる。

 

「おい、止めろッ!」

 

「ほれ」

 

「ありがとー!」

 

子供が受け取れるように軽い力で投げ返す龍王鬼。その姿を見て全力で投げ返し、子供の上半身が吹き飛ぶ光景が脳裏を過ぎった武蔵は驚いたように龍王鬼を見つめた。

 

「んだよ? 争う気はねえって言っただろうが、俺様は戦いは好きだが、関係ない奴が巻き込まれるとかそういうのは好きじゃねえ。戦いは死ぬ覚悟と殺す覚悟がある奴同士でやるもんだ」

 

鬼らしかぬ龍王鬼の言動に武蔵は驚きを隠せなかった。

 

「お前変わってるな……」

 

「はっ、良く言われるぜッ!」

 

にかっと豪快に笑い残りのホットドッグを頬張った龍王鬼は楽しそうな子供達の声を聞いて笑みを浮かべた。

 

「平和の味だ。良いもんだなあ」

 

「それを乱してる奴がよく言うぜ」

 

「おいおい、勘違いすんなよ? 俺様は確かに鬼だが、立向かう相手しか殺さない。そして強い相手には敬意を払う、それが俺の流儀だ。他の鬼と一緒くたにしてくれんなよ」

 

龍王鬼の目は真っ直ぐで、その言葉に嘘偽りが無いと悟り武蔵はこの時初めて本当の意味で構えを解いた。

 

「なんの目的でオイラの前に出てきたんだよ」

 

「そうだな、他の鬼ならゲッターに乗る前に殺しに来たって言うだろうが俺様は違う。戦うならゲッターロボと戦いてえ、その中で死ぬとしても本望だ。俺様が顔を見せたのはお前に感謝を言いに来たんだよ。ありがとな、オウカの相談に乗ってくれてよ。感謝するぜ」

 

机に手をおいて深く頭を下げる龍王鬼に武蔵は困惑した。

 

「お前本当に百鬼帝国なのか?」

 

「おう。そうだぜ、でもな、鬼でも性格の違いはある。そうだろ?」

 

にっと笑った龍王鬼は指を1本立てた。

 

「お前はオウカを助けた。だから俺もお前に情報を1つ与える。それで貸し借りなしだ、信じるかどうかもお前次第だが、俺は嘘は言ってねえ」

 

「いいぜ、信じる。お前はオイラに何を教えてくれるんだ?」

 

龍王鬼が人を欺く性格ではないと武蔵は信じ、龍王鬼にそう問いかけた。

 

「俺様は詳しくはしらねえが、シャドウミラーと無人機の百鬼獣が動いてる。助けに行くなら動いたほうがいいぜ? 今から動けば、本隊がハガネの前に出る前に間に合うだろうよ」

 

その言葉を聞いた武蔵は弾かれたように走り出し、龍王鬼はその背中を見つめながら酒の瓶に口をつけた。

 

「間に合え、ハガネもそう簡単に沈んじゃあつまらねえ。抗えよ」

 

にっと獰猛に笑い、酒を口の端から零しながら瓶に口をつけて酒を呷りながら龍王鬼は無防備な武蔵の背中を見送る。今攻撃すれば確実に武蔵を殺す事が出来る……だがそれは龍王鬼の流儀に反している上に、己を信じた武蔵への裏切りに等しい。だから龍王鬼は何もせず武蔵を見送るのだった……。

 

 

 

第59話 龍神と剣神 その1へ続く

 

 




次回は地上ルートでのノイエDCと宇宙ルートの剣神現るの内容を混ぜて1つの話にしたいと思います。そしてタイトルと今回の話の最後で判るように、武蔵がハガネと合流するルートで話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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