第64話 偽りの神聖十字軍 その2
武蔵が空腹を訴え、ブリーフィングルームでの話は終わり、ダイテツとリーの2人は今後の方針を話し合う為にダイテツの私室に来ていた。
「どう見ますか、ダイテツ中佐」
「うむ、上手くはぐらかされたという所だな。ワシらには話す事が出来ない何かがある……という所だな」
旧西暦の話は詳しくしてくれたが、平行世界の話はぼんやりとした話だった。特にウォーダンという男と武蔵が知り合いという話は旧西暦と平行世界の未来の話、そしてイージス計画の失敗の話の中で何時の間にかされなくなってしまった。
「何故武蔵君はウォーダンの事を話さなかったのでしょうか……」
「いくつか考えられることはあるが……ワシが気になっているのはどうやって武蔵達がこの時代に戻ってきたかだ」
アインスト、インベーダーと戦っていたと言うが、どうやって新西暦に戻ってきたのか? 武蔵はそれを言わなかった……そこがウォーダンという男と平行世界の未来からこの時代に戻って来た鍵ではないか? とダイテツは考えていた。
「リー中佐ならどう考える?」
「そうですね……平行世界の未来は荒廃し、そして化け物が闊歩していたと考えれば……顔見知り……あるいは味方同士だったのではないかと」
リーの結論を聞いてダイテツは顎鬚をさすり、自分の考えを口にした。
「ワシはこう考えている。敵対していたが、化け物の襲撃を受け致し方なく行動を共にしていた……というのはどうだ?」
「あれほど荒廃した世界で敵対などするでしょうか?」
「極限状態だからこそ、人の本性が出る。レフィーナ中佐の件は聞いているだろう?」
月のインスペクターの襲撃時には防衛隊が出撃するからと出撃禁止命令を出され、マオ社……いや月全体が百鬼帝国に制圧された時も格納庫に幽閉され、しかもアンカーと地雷で出撃する事が叶わなかった。それに武蔵から絶望的な知らせも1つあった……インスペクターを名乗った敵勢宇宙人についてだ。
『あいつらはゾなんちゃらとかいう星間連合で、えーっと……なんだったかな?』
難しい話しすぎて覚え切れてないと言うか理解出来てなくてすみませんと謝りながら武蔵は必死に記憶を辿っていた。
『まあとにかくこう、沢山いる宇宙人の集まりみたいで、技術とかそういうのを持ってる星を制圧するか、滅ぼすかしてる連中みたいで、今来てる連中を倒しても後続が来るって言ってました』
「状況は絶望的にも程がある……それに加えて、味方同士の足の引っ張り合い……こんな物では勝てるものも勝てはしない」
武蔵から告げられた敵勢宇宙人の組織構成……それは地球よりも遥かに大規模な物だった。一応連邦本部にも通達したが、それを信じるかどうかは危ういとダイテツは感じていた。一部の高官はエアロゲイターを退けた事で慢心している者も多い。そんな連中に武蔵のうろ覚えのインスペクターの事を伝えても信憑性は低いと断じられる可能性が高いという最悪の展開となっている。
「……それは確かに私も聞き及んでおりますが……武蔵の話ならば信憑性があるのでは?」
「L5戦役を潜り抜けたと言っても、最終局面では武蔵に我々は頼り、そして彼を犠牲にしてしまった。生き残っただけの部隊と言う事でいらぬやっかみを受けることもあると言うのが不味い、我々が武蔵に虚偽の発言をさせているのではないかと邪推される可能性が高い」
武蔵が気を許していたから武蔵の戦果をレイカーがハガネとヒリュウ改に渡したという心ない話も今の連邦には広がっている。それは巨大化しすぎた組織が持つ腐敗と言っても良いだろう……窮地を乗り越えてすぐそんな話が広がるほどに、今の連邦の一部の高官は腐りきっていると言うのが現実だった。
「真の敵とは味方の中に潜んでいる場合もあるという事だ」
「……このような状況でも互いの足の引っ張り合いになってしまうのですか……」
「こういう状況だからこそだ。今度こそ、自分達が戦果を上げるのだとやっきになり、そして暴走し、自滅する」
地球を護る――それはダイテツ達の偽りのない気持ちだが、それすらも建前と受け取る権力欲に紛れた上層部――腐敗しきった一部の高官こそがダイテツ達にとっては真の敵と言っても過言ではなかった。
「それでダイテツ中佐、今後はどうしますか?」
「修理と補給を最優先にし、伊豆基地を目指すことになる……が、状況は決していい物ではないだろうな」
キルモール作戦とデザートスコール作戦は既に瓦解している。今はこうして身を潜めることが出来ているが、謎のゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍、スレードゲルミルとウォーダン・ユミルと名乗るゼンガーと瓜二つの男……そして百鬼獣――ハガネとシロガネと2隻のスペースノア級があったとしても、これだけ敵に囲まれている状況での離脱は容易ではない。
「私が敵の司令官ならば、この好機は見逃しませんね」
「ああ。だが真に恐れるのはそこではない」
「他に何が……」
「ここまで連邦を敗退させたテロリスト――いや、こういうべきだな。ビアンに従わないDC一派が決起するには丁度いい状況だ、しかも百鬼帝国とDCが協力体制にあるのはほぼ確定と言ってもいい」
謎の化け物であるアインストとインベーダーの出現、そして地球と月で暴れてる百鬼獣、そしてホワイトスターを制圧したインスペクター……連邦は敵対勢力に対して何も出来ていない。民間人や月から逃げてきた者達からすれば連邦軍は何も出来てないと思われて当然だ。
「今回の件全てを敵に利用されると言うことですか」
「それだけで済めば良いがな……」
キルモールとデザートスコールの失敗だけならば良い。だが今回の敵の対応を見る限りでは、敵が全てダイテツ達の出方、そして戦略を知っていたと言う疑惑がある。そしてダイテツの疑念はほぼ確信と言っても良かった。百鬼帝国には人の姿を真似る技術がある……ビアンの姿を使い、決起を宣言されればDC戦争の焼き増しになりかねない。いや、もっと言えばビアンの姿を真似ている鬼が百鬼帝国の構成員なのだ、あの時以上に状況が悪化するのは容易に想像がついた。
(後は世論の反応次第と言う事になるか……)
ビアンが決起をしたとして、それを信用する物がどれだけいるか……そして百鬼帝国がどれだけビアンを真似ることが出来ているか、それで全てが決まるとダイテツは感じているのだった……。
アメリカ大陸内のメガフロートの捜索を終え、得た資料等をグライエンと再確認するビアンの顔は険しい物だった。
「ふむ……望んでいた資料とは少々違うな」
「うむ。だが、これらは決して無駄ではない」
ビアンとグライエンが望んでいたのはゲッター線を応用した兵器――ゲッターロボ等の図面等が保管されている事を願っていた……だが、獲得した資料には残念ながらゲッターロボに関係する資料は無かった……だがそれに匹敵する宝を手にする事が出来ていた。
「これなんか、応用出来るんじゃないか?」
「ゲッター線を使わないゲッターロボか……確かにこれは面白いな、それにこれは多分だが、回収したゲッターロボの図面だろう」
ゲッター線、ゲッター合金を使用していないので耐久力等が劣るが、それでもこのゲッター線を使わないゲッターロボの図面はビアンには魅力的な物に見えた。その理由は勿論メガフロートの中に封印されていた青いゲッターロボ、ゲッター線を使っていないゲッターロボの修理や改良に使える図面となればある程度の価値は十分にあった。
「ただ出来ればだが、武蔵君が乗っていたゲッターロボや、ゲッターロボGの図面が欲しかった」
「シュトレーゼマンの馬鹿がゲッターロボGの図面を持ち逃げしたからな、それが惜しまれる。だが回収したゲッターロボにゲッター炉心を組み込むのも十分に検討できる筈だ」
ビアンにはゲッター合金、そしてゲッター炉心を作る知識がある。完全なゲッターロボを作りたいと考えるのは当然の事だ。ゲッターロボ、新ゲッターロボ、ゲッターロボVをスキャンし、作り上げた図面は確かにビアンの手元にある――だがどうしても解析出来なかったブラックボックス。早乙女博士しか知りえない、そのブラックボックスを解明する手掛かりがあることを望んでいただけに、今回の捜索の結果にビアンは肩を落としていた。
「そう肩を落とすな。現物のゲッターロボを手に入れる機会は残されている」
「流竜馬が乗っていたと言うやつか」
「ああ、このまま捜索に向かっても良いだろう。スペースノア級ならば問題なく捜索出来る筈だ」
グライエンがサルベージ船を送り出していたと言う太平洋。そのどこかに沈んでいるブラックゲッターロボ――それの捜索に乗り出すことを提案するグライエン。ビアンは資料の束に視線を向けながら、グライエンの言葉の真意を考えた……そして答えは簡単に出た。
「百鬼帝国の決起があると考えているのか」
「……ああ。連邦は敗退を続け、アインスト、インベーダー、そしてホワイトスターは異星人に制圧され、月は百鬼帝国の手に落ちた。連邦の評判は落ちに落ちている。私ならば……この好機は見逃さない」
連邦では自分達を護れないのではないか? 連邦は自分達を見捨てるのではないか? 1度芽生えた不安と恐怖は消えることはない。自分達に迫る脅威があるとなれば、その不安は爆発的に広がるだろう。
「だな、私でもそうする……判った。エルザム達には悪いが、このままブラックゲッターの捜索に乗り出すことにしよう」
捜索をしている間にビアンに扮した百鬼帝国の決起が起きることは間違いない、その決起の後にビアンとクロガネが姿を見せれば2人のビアンが現れる事になる。そうすれば少なくとも百鬼帝国の目論見の1つは挫ける……ビアンの姿を使うと言うことは反政府勢力を取り込む事を目的としていると考えて間違いない、今は潜伏していてもビアンが決起したのならばと再び動き出そうとする反連邦勢力は間違いない無くいる……それらが全て百鬼帝国の戦力になるという展開を妨げるにはやはりビアンもまた再び決起する必要がある。
「やれやれ、表舞台に立つつもりは無かったんだがな……」
「そうも言ってられないという事だ。諦めるんだな」
そう言うグライエンが、議員をやっていた時よりも活き活きしているのをビアンは見逃さなかったが、その事は指摘しなかった。ウィザードと呼ばれ、連邦議会の首領等と呼ばれたが、グライエンもまた地球の平和を心から祈り、そしてその手法は決して褒められたものでは無いが……ビアンもまた誤った手段を取ろうとした1人……それを指摘できる訳がなかった。
「ビアン所長。やはりエキドナの姿はどこにも無いぞ」
「恐らくだが、ゲットマシンと共に武蔵の元へ行ったのではないだろうか?」
ゲットマシンが飛び出した後クロガネの見回りをしていたイングラムとカーウァイの2人からエキドナの姿がないと言う報告が入った。
「そう……か。不安要素はあるが、仕方あるまい」
エキドナを外に出す事で記憶を取り戻す危険性はある。だが、ここにいないのでは打てる手段など無く、武蔵とユーリアの2人が何とかしてくれることをビアン達は祈るしかなかった。
「それでどうだ? 何か役立ちそうな物はあったか?」
「ゲッター線を使わないゲッターロボとその図面を見つけた。これをベースに新しいゲッターロボの設計と修理をしつつ、太平洋に沈んでいると言うゲッターロボを探してみようと思う」
ビアンの言葉を聞いてイングラムとカーウァイは揃ってあれかと呟いた。
「もしやどこら辺に沈没しているか知っているのかね?」
「沈む所を見ていたからある程度の予測はつく、俺達の見ている限りでは機体の損傷も無かった筈……回収してゲッター線さえ補給すればすぐ運用出来るレベルの筈だ」
旧西暦での真ドラゴンとの戦いはイングラムとカーウァイにとってはつい先日の事で、場所もある程度だが把握していた。当てずっぽうではなく、ある程度の予測を立てて調べれることが判り、ビアン達はバン達に一報を入れてからイングラム達の記憶を頼りに太平洋の海溝へと進んでいくのだった……。
百鬼獣とテロリストに敗退し撤退していく連邦軍の輸送機とPT――それをライノセラスのブリッジで見つめながらバンは溜め息を吐いていた。
「欲を張るからだ。馬鹿者が」
ゼンガー、エルザム、そしてLB隊とトロイエ隊によって1度は戦況を引っくり返したのだが、それに調子づいて攻め込んで手痛い反撃を受け命からがら撤退していく連邦軍。戦果を求めるのは判るが、それで命を捨てる事になっては意味が無い。バンは艦長席に腰掛けたまま指示を飛ばす。
「トロイエ隊とLB隊に伝達、チャフグレネードとスモーク弾を散布せよ。その後、我々も撤収する」
「了解」
これ以上この場に留まっていては自分達も危険だと判断し、チャフとスモークで敵のセンサー類を乱し、その隙にバン達も戦場から離脱する事にした。
「連邦の作戦はどうなっている? ハガネとシロガネは無事か?」
「は、殆ど瓦解したと見て間違いないです。ただハガネとシロガネに関してはゲッターD2が確認されました」
ハガネとシロガネが轟沈していないと報告を受けて安堵したバンだが、ゲッターD2が確認されたと聞いて眉を細めた。
「武蔵が動いたのか……どうやってゲットマシンを運び出したんだ?」
ユーリアと偵察という名目で出掛けさせられていた武蔵がどうやってゲットマシンを運び出したのだ? とオペレーターに尋ねるとオペレーターは通信報告に目を通し、バンにその内容を伝える。
「それに関してはクロガネの内部にゲッター線反応があり、その直後に転移したとの事です」
ゲッター線が様々な不可思議な現象を起すと聞いていたが、まさか無人で転移までするとは想像もしておらず、流石のバンも驚きの表情をその顔に浮かべた。
「クロガネのビアン総帥から通信が入っております」
「メインモニターに回してくれ」
だが驚いている間もなく、ビアンからの通信に応答するバン。このタイミングでの通信という事で、何らかの作戦指示ならばそれを聞くことを最優先にしたのだ。
『バン大佐、そちらの戦況はどうだね?』
「百鬼獣とテロリスト勢のAMによって連邦は敗走。1度は支援を行いましたが、再び攻め込みそこで敗走をしたようです」
『そうか……ご苦労だった。エルザム少佐達は?』
「現在撤退中です、道中で機体を回収し、クロガネと合流する予定です」
『それに関してなのだが、クロガネはこのまま太平洋に沈んでいると言うゲッターロボの捜索に向かう。バン大佐達は旧テスラ研の実験場にいる技術者から新型のグルンガストを受け取って欲しい』
「了解です、ではその後はテスラ研周辺の警備ということでよろしいですか?」
『頼む、月のマオ社を制圧したと言うことはテスラ研も危険だろう。あそこには今ゲッター炉心、マグマ原子炉、それにダブルGが保管されている。ジョナサンの事だ、そう簡単に奪われることはないと思うが……最悪の場合技術者達の撤退支援を行ってほしい』
テスラ研の所長を務めていたビアンは当然の事だが、テスラ研へのシークレットコードを把握している。それを用いて痕跡を残さずにビアンはジョナサンと連絡を取り合っていた。キサブローに中間に入ってもらい、素体のダブルGも預け、技術提供も積極的に行なっていた。だからこそ撤退支援という言葉にバンは驚いた。
「防衛ではなく撤退支援ですか?」
『下手に抵抗し、テスラ研を壊滅させる訳には行かないのだよ、バン大佐。それに……ジョナサン達の事だ、脱出してくれと言ってもうんとは言ってくれんだろう』
ちゃらんぽらんに見えるが、ジョナサンは何よりも責任感が強い。そんな男がビアンから預けられた物がすぐ運び出せない中、自分が脱出すると言う選択は取らない、それこそ口先だけで立ち回り上手い事時間稼ぎをするだろう……反撃する為の手勢が揃うまでは何をしても生き延びると言う事がビアンには判っていた。
「了解しました、ではエルザム達が帰還後。そのように」
『すまんな、我々はこれから海溝に突入する。連絡は取れないから臨機応変に対応してくれ、では以上だ』
ビアンの姿が消え、バンは艦長席に背中を預けた。
(よほどの切り札ということか……)
テスラ研の地下で建造されていると言うダブルG――ゲッター合金とゲッター線を用いたビアンの作成したスーパーロボット。それを守る事を優先するという命令……それが意味することはテスラ研防衛に戦力を向け、テスラ研を破壊されることを危惧しているのは明らかだった。
「ゲッター・トロンベ、グルンガスト零式改が着艦します」
「ゼンガーとエルザムに帰還後ブリーフィングルームへ来るように通達してくれ。今後の方針を話し合う、何か始まったら教えてくれ。恐らく数時間の内に何か大きな動きがある筈だ」
反連邦勢力に属していたバンだから判る、ここまで連邦の敗退。そして月、ホワイトスターでの不手際……それら全てが連邦を攻撃する材料となる。
「……流れは最悪だな」
自分が指導者ならば、自分がテロリストを取りまとめているのならば……ここで確実に決起する。それを利用して一気に自分達の知名度を広げ、そして連邦の不手際を責め、地球を守る為に自分達の元へ集えと演説を行なうとバンは考えていた。
「出撃したばかりですまないな、エルザム少佐、ゼンガー少佐」
「いえ、大丈夫です。我々も状況は把握しております」
「指導者として立っていたバン大佐のご意見をお聞きしたいと思います」
そしてそれはゼンガー、エルザムも同様に考えていて、この状況ならば敵がどう動くのか? そしてこれからどう動くのかの判断を仰ぐ為にブリーフィングルームで既にバンを待っていた。
「ビアン総帥からの次の命令も出ている。それを含めて今後の方針を話し合おうと思う」
バン達がブリーフィングルームで話し合いを始めてから1時間後――バンの危惧したとおりテロリストの決起演説が行なわれた。
「やはり……か」
「しかし、これで我々は再び連邦に追われる身となったな」
テロリスト達を背後に控えさせ、演説を行なう男はビアンの姿をした鬼なのだった……。
ハガネの食堂は活気……ではなく、戦場のような凄まじい雰囲気になっていた。勿論それは武蔵が行なう大量の注文が理由なのは言うまでもない。
「炒飯、カレー上がり! ほら、早く持ってって!」
「は、はい! えっと追加で牛丼、カツ丼を大盛り! 豚汁と漬物もです!」
「了解! ほらほら! 休んでないでどんどん料理しな!」
「「「はいッ!!!」」」
総動員で料理をしてやっと武蔵の食欲に追いつける。料理人全員の顔に凄まじい疲労の色が浮かんでいるが、その顔は実に満足そうで楽しそうな物だった。
「うめえッ! あぐあぐッ!!!」
食堂に響く美味いと言う喜びの声。お世辞や愛想で言っているのではない、心から美味いと思っているのが判るその声が何よりも料理人の励みとなっていたのだ。
「……ユーリア隊長。クロガネの時も武蔵はこんな感じだったんですの?」
「そうだな。エルザム様がずっと料理を作り続けていたな。最初は見た目とかを考えておられたようなのだが……」
そこで言葉に詰まったユーリアは食後のお茶を口し、遠い目をして小さく溜め息を吐いていた。
「兄さんはどうしたんだ?」
「それでは物足りないし、あんまり美味しくないと言われて酷く落ち込まれていた」
ライの問いかけにユーリアは言葉を続けた。物足りないし美味しくない……エルザムにそんな事を言えるのはきっと武蔵だけだろう。
「いや、それは……」
「兄さん……」
「ちなみにそれはカツ丼だったのだが、こう野菜をたっぷりと使ったフレンチのような物だったんだが、武蔵はこれじゃないと、カツ丼はでかくて大きくて飯が多くないととエルザム様に言っていたな。ちなみにゼンガー少佐も腕を組んだまま、頷いておられた」
クロガネでの武蔵達のやり取りを聞いてレオナとライは呆れればいいのか、それとも美味しくないと言われたエルザムを憐れに思えばいいのか、それが判らなかった。
「まぁ元気そうで良かったですわ」
「……ユーリア、1つ聞きたいんだが……あのレーツェルと言うのは……」
これだけは絶対聞かなければならないと言う表情で自身の兄の凶行とも言える姿の事を尋ねるライ。ユーリアは肩を竦め、そして目を逸らした。
「……そうか、素か」
「……素です。強いて言うと、武蔵の感性的にあれは格好良いそうです。旧西暦では割りと流行だったと……」
「そうかぁ……すまない、気分が悪くなった」
レーツェルというバレバレの変装が兄の素であると言う現実に耐えかね、ライはふらふらと食堂を出て行き、レオナとユーリアは心配そうにその背中を見つめていた。
「あの、ユーリア隊長。武蔵なんですけど……食べてる間にどんどん肌艶が良くなっているんですけど……」」
レオナが何度か瞬きをしながらユーリアに尋ねた。食べている間に明らかに武蔵の肌艶が良くなっているし、細かい怪我が治っているように見えていた。
「ああ。ビアン総帥が調べていたんだが、理由は不明だが武蔵は食事で怪我とかが治るのが速くなるそうだ」
「……あの、どういう理屈なんですか?」
「知らん」
謎の武蔵の超回復力――ビアンも謎に思い調べたが、結果は判らないと言うままで、今もどんどん元気になっている武蔵をユーリアとレオナは信じられない物を見るような目で見つめていた。
「しかしよ、武蔵。相変わらず……すげぇ食欲だな?」
カツを頬張り、幸せそうな顔をしている武蔵に自分の分の食事を終えたカチーナが呆れ半分という様子で声を掛ける。
「美味いですからね。美味いってだけで幾らでも食えますよ」
カツ丼の丼を積み上げ、山盛りのカレーを自分の前に引き寄せる武蔵。
「何時日本に帰れるかわからねえが、帰れたら今度こそいくか? あの大食いチャレンジの飯屋」
伊豆基地に初めて行った時にカチーナが武蔵に約束した事、カチーナはそれをしっかりと覚えていて武蔵にそう尋ねる。
「是非お願いします。あ、そう言えばジャーダさんとガーネットさんを見ないですけど……あの2人は?」
ハガネにも、シロガネにも、そしてヒリュウ改にも見なかったジャーダとガーネットの事を尋ねる武蔵。
「ジャーダとガーネットなら結婚して、今は浅草で暮らしてる」
リュウセイの隣で食事をしていたラトゥーニがジャーダとガーネットの事を武蔵に教える。武蔵はリュウセイとラトゥーニが揃っている事に若干目頭が熱くなるのを感じ、誤魔化すように業と大きな声を上げた。
「え? マジ? お祝いに行かないとなぁ、それに顔も見せないわけには行かないよな」
「場所今度書いてあげるね、武蔵は軍属じゃないから……日本に帰れたら1回顔を見せに行くと良いと思う」
「おう! ありがとな! あ、そだそだ」
武蔵は思い出したように服の中をまさぐり、ある物を取り出した。
「リュウセイ、これやるよ」
「お? 俺に」
長方形の定期のようなカードをリュウセイに渡す武蔵。それをぼんやりと見ていたタスクはその目の色を変えた。
「ちょいちょい!? それ今度日本でオープンする遊園地の年間フリーパスじゃねえかッ!?」
流行に詳しいタスクはそのカードに刻まれているエンブレムを見て、それが最近話題になっている遊園地のパスだと気付き、大声を上げた。
「え? 嘘ッ! わ、本当だ!」
タスクの話を聞いて、リュウセイの手元を覗き込んだエクセレンも歓声を上げ、楽しそうな表情を浮かべた。
「なんだ、エクセレン。そんなに有名なのか?」
流行に詳しくない面子はそのチケットの素晴らしさが良く判っておらず、不思議そうな顔を浮かべていた。今ここにはいないが、カイも恐らく同じ反応をしていただろうし、襲撃に備えて格納庫で待機しているイルムなら自分にも貸してくれと声を上げていただろう。
「そりゃもう! ほら、リクセントのマスコットみたいのいたでしょ? あれもその遊園地のマスコットなのよ。武蔵、これどうしたのよ?」
「これプレミアムで全然手に入らない奴だろッ!? 俺だって応募したのに駄目だったんだ! どこで手に入れたんだよッ!?」
よく判っていない様子の武蔵にどこで手に入れたんだ? とエクセレンとタスクが尋ねる。武蔵はステーキを飲み込んでからそんなに凄い物なのかと、やっぱりとのチケットの価値をよく判っていない表情でどこで手に入れたのかを口にした。
「どっかの町の大食い大会の優勝商品とかで貰ったんですけどね。なんか何人でも使えるって言うし、海外の同じ遊園地でも使えるって聞いたけど、オイラ場所判らないし、有名なのかどうかも知らないからリュウセイにやろうかと」
ムータ基地に向かう前にユーリアと買い物をしていた町での大食い大会の商品らしいが、旧西暦の生まれの武蔵はその遊園地がどれだけ有名かを知らなかったのだ、だから軽い感じでリュウセイに譲り渡したのだ。平行世界のラトゥーニと今目の前にいるラトゥーニは違うと判っている、それでも助ける事が出来なかった事を武蔵は悔いていた。だから一種の罪滅ぼしのような意味もあったが、そんなことを知るわけも無いリュウセイとラトゥーニは楽しそうな笑みを浮かべていて、武蔵は良かったと心の中で呟いていた。
「行きたい」
「そうだな、これは今度行かないとな。いや、ありがとな武蔵!」
「ちょいちょい! 今度それ俺にも貸してくれよ!?」
「私も、キョウスケも一緒に行きたいわよね?」
「俺は別にどちらでも、お前が行きたいのならば付き添うが」
悲壮感に満ちた空気が消え、穏やかな空気が広がり、武蔵も安堵の表情を浮かべたが、それは食堂に駆け込んできたエイタの叫び声で消え去った。
「び、ビアンッ! ビアン・ゾルダークが演説してるッ!! あ、あれって百鬼帝国なんじゃないのかッ?」
食堂のモニターに映っていたTVにノイズが走り、どこかの会議場が映し出された。
『今地球圏は様々な外敵に晒され、窮地にへと追いやられている。あのL5戦役僅か半年、世界各地で確認されている異形の化け物、月は謎の集団に占拠され、あのホワイトスターは再び異星人の手に落ちた。連邦は何1つ守る事が出来ず、そしてこれらの事を全て隠匿した。それは決して許されることではなく、そして連邦では地球を守る事が出来ない事を現している! 私ビアン・ゾルダークは今ここにDCの……いや、ノイエDCの再結成を全世界に宣言するッ!!!』
そして演説を行なっていたのは紛れも無くビアン・ゾルダークに見えただろう。だが武蔵達は知っている、あのビアンが偽者だと……だが百鬼帝国の事を知らない者には再びビアンが決起したように見えただろう。今日この時より、ノイエDC……いやビアンの名を騙った百鬼帝国の侵攻が始まろうとしているのだった……。
第65話 偽りの神聖十字軍 その3へ続く
次回は演説を見ている様々な陣営の話を書いて行こうと思います。その後は亡国の姫の話に入り、シャインとの再会を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
それと明日は19時までにはもう1つゲッターロボを更新したいと思っていますので、明日の更新もよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い