進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第65話 偽りの神聖十字軍 その3

第65話 偽りの神聖十字軍 その3

 

それは唐突な電波ジャックだった……全てのTV、映像端末がジャックされ無数の兵士を背後に従えたビアンの演説が始まったのだ。

 

「おいおい、これビアン・ゾルダークじゃないかッ!?」

 

「嘘でしょ!? ちょっと、これどうなってるの!?」

 

L5戦役時に連邦に協力し、そのまま姿を消したビアン・ゾルダーク――その姿が突如TVに映った事で様々な場所で混乱が広がった。

 

「殺されたって言う噂じゃ」

 

「いや逃げ回ってるんじゃないのか?」

 

連邦にとって都合の悪い真実を知ってしまったから、暗殺された、逃げ回っていると言う様々な噂が立っている中――なぜ今になってビアンがTVに映っているのか? もしや、この半年の間に何が起きていたのか? そしてL5戦役での1つの真実――武蔵という青年について何か語るのではないか? と食事をしていた手を止めてありとあらゆる者がTVに視線を向けた。

 

『L5戦役から半年――私は世界を見て回った。DCを決起し、我々は連邦に敗れた。反乱自体は決して褒められる物ではないだろう。だがしかし、地球を守りたいという意志は我々とて連邦と変わりは無く、あの恐ろしいエアロゲイターの侵略時とて、我々は立ち上がりハガネ、ヒリュウ改と共に地球を守るために戦った』

 

「放送を止めろ! これ以上喋らせるな!」

 

「だ、駄目です! 電波をとめられませんッ!!」

 

ビアンに喋らせてはいけない、一部の連邦軍高官達がやっけになって放送を止めさせようとした。だが何をしても放送を止めることは出来ず、ビアンの演説は淡々と続いた。

 

『L5戦役時に没した巴武蔵君。君達は知っているだろうか? 彼は一部の政府高官にとって知られてはいけない真実を知っていた。故に彼は連邦に追われた、しかし、しかしだ。彼は最後まで地球を守るために戦い、そして死んだ。とても勇敢で、そして見返りを求めぬ高潔な精神を持った青年だった』

 

画面が切り替わり、ゲッターロボが連邦に追われている場面、そして一方的な連邦による武蔵への脅しとも取れる警告が次々と放送される。

 

「おいおい、こんな話聞いてないぞ!?」

 

「こんな事まで言われてたなんて知らないわよッ!?」

 

ブライアン・ミッドクリッドの東京宣言。それでも武蔵の事は触れられていたが、追われていたという部分しか知られておらず、これほどまでに追われていた。そして犯罪者のように扱われていたと言うことは全く知られていなかった。

 

『全てが全て武蔵君を追った訳ではない。しかしだ……彼が犯罪者と追われたのも事実。連邦にとっては彼が戦死したのは自分達の汚点を隠す為にも都合が良かっただろう。私はその事にも大変な憤りを感じている……だがだ、私が本当に怒りを抱えているのはそこではない。地球に生きる全ての人間に尋ねたい。ブライアンミッドクリッドの行なった。東京宣言を経て、連邦政府の執ってきた施策はどうか? 一部特権に偏った巨大な官僚機構は、無為無策のまま旧世紀からの諸問題を解決せず……そして平和の為に散っていった者達を無碍にしている……そうは思わないか?』

 

L5戦役が終わった時は連日のように様々な報道が行われていた。だがそれは今では全く触れられなくなった……そう言われればと放送を見ていた者達はその言葉に賛同し始める。

 

『確かに後ろを見ていても何も変わりはしない……前に進んでいるのならばそれもまた良かろう。だが現状はどうだ? 会議と選挙工作に明け暮れ、 問題を先送りする為の立法に日々を重ねてきたに過ぎない。一部の軍人達はL5戦役での戦いを無碍にしない為に、力をつけた。伊豆基地のレイカー・ランドルフ、ラングレー基地のクレイグ・パラストルと言った者達は再び戦いに備え、戦力を整えようとしている。だがそれ以外の者達はどうだ? 自分達の利権を求め、そしてL5戦役を戦い抜いたハガネ、ヒリュウ改のクルーに対しての敵意を剥き出しにしている』

 

そこで映し出されたのは、月の駐在軍の大佐がレフィーナへの悪態を付き、そして自分で出撃を禁じておいて、被害を全てヒリュウ改、そしてレフィーナの所為にしようと企んでいる時の基地内部での話だった。

 

『これは私の意思に賛同してくれた元・連邦軍の月での駐在軍の1人が持ち帰ってくれた映像である。武蔵君、そしてハガネ、ヒリュウ改は英雄として讃えられるべきだ。しかし、しかしだ! これを見てくれれば判るように一部の者達だけが英雄視される事を妬む者達によってあらぬ罪を負わされようとしていた! こんな事が許されていいものなのか! 良いや、断じて否ッ!! 許されてはならないッ! これが、地球を守るべき存在である連邦の今のあり方だッ!』

 

「ダイテツ艦長! リーッ! これはッ……」

 

「ああ、やられた。ワシの想像以上に相手の一手はあくどい物だった……」

 

「しかし、これは余りにも不味いッ」

 

嘘を真実の中に織り交ぜ、巧みな話術と映像によってビアンに扮した鬼は連邦へのヘイトを高めた。しかも、一方的に連邦を批判するのではない、本当に地球の事を思っている軍人の名前、そしてハガネ、ヒリュウ改は違うのだと言いつつ、他の連邦軍基地は徹底して叩いていた。

 

「連邦自身も分断される」

 

「……まさかここまでの一手を打ってくるとは……ッ」

 

ハガネやヒリュウ改、そしてシロガネを冷遇していた基地司令の対応、そしてプロジェクトTDのヒューストン基地、ハワイ司令のテロリスト――テロリストへの情報の引き渡し……更には月の連邦軍基地大佐が賄賂を受け取り、マオ社への圧力をかけている事さえも公表されてしまった。

 

「これではDC戦争の再来……いや、それよりももっと酷い事にッ!」

 

「……まだだ。今回の件にはまだ1つの疑惑が残されている。それがある限りは最悪の展開は間逃れる」

 

「……疑惑それは、一体?」

 

「簡単な話だ。DCのフラグシップはクロガネだ。クロガネが無ければ、本物のビアンなのかという疑惑が僅かだが残る」

 

スペースノア級のクロガネがフラグシップであると言う事はハガネ、シロガネ同様広く認知されている。クロガネの姿もあれば、ビアンであると言う信憑性も広がるが、クロガネの有無というのは非常に大きいファクターになっている。

 

『今地球圏は様々な外敵に晒され、窮地にへと追いやられている。あのL5戦役僅か半年、世界各地で確認されている異形の化け物、月は謎の集団に占拠され、あのホワイトスターは再び異星人の手に落ちた。連邦は何1つ守る事が出来ず、そしてこれらの事を全て隠匿した。それは決して許されることではなく、そして連邦では地球を守る事が出来ない事を現している! 私ビアン・ゾルダークは今ここにDCの再建……いや、ノイエDCの再結成を全世界に宣言するッ!!!』

 

ビアンの叫びに呼応し、控えていた軍人達が敬礼を行なう。神聖十字軍の結成、そしてビアンの再び決起は凄まじい勢いで全世界へと広がった……だがダイテツの指摘した通り、本物のビアン・ゾルダークなのかという疑惑もまた同じ様に広がっていくのだった……。

 

 

 

 

地球連邦軍極東方面軍伊豆基地の司令部にもビアンが演説している姿が映し出されていた。その姿をレイカーとサカエの2人は険しい顔で見つめていた。

 

『地球、そして宇宙で確認されたこの異形の化け物――これらによって世界各地に被害が出ているという事を諸君らは知っているだろうか?』

 

モニターに映し出されているのはアインスト、そしてインベーダーという映画から出て来たような化け物というべき異形の存在だった。

 

『L5戦役の時でさえ、地球連邦は異星人の襲来と言う事実を隠蔽しようとした。そして東京宣言を行いはしたが、それでもまだ数多くの連邦にとっての不都合な事実の多くが隠されていた。この化け物達も連邦が隠す事を決めた不都合な事実の1つと言える』

 

ストーンサークルから出現したアインストとインベーダー、そして地球でも姿を確認されたアインストと対峙するハガネとヒリュウ改のクルーの姿がモニターに映し出される。

 

「どこでこんな映像を……」

 

「ハッキングされたと考えるべきかもしれんな」

 

ブライアンと連邦の上層部によって公表のタイミングを慎重に測っていた所を、先に公表されてしまった。そうなると今更公開した所で連邦の評価は下がる一方だ。

 

「レイカー司令……このビアン・ゾルダークは……」

 

「恐らく……偽物だろう」

 

ビアンとレイカーは定期的に連絡を取り合っていたし、何よりもこの映像のビアンにレイカーを違和感を抱いていた。

 

「ビアンが持っているカリスマ感が全く感じられない。映像で連邦への不信感をあおり、そして同情により人の情に訴える。こんな物はビアン・ゾルダークではない」

 

ビアンという男が持つ強烈なカリスマ性――それが映像に映っているビアンからはまるで感じられない。それになによりも映像をメインに使い、自分が演説している時間が短い。それに加えて、映像を映している最中に喋り極力姿を見せまいとしているのもかなりの不信感を抱かせる。

 

『自分達に都合の悪い情報を隠す……そんな者達に地球圏の舵取りを任せる事は、自殺行為に等しい。諸君らは為政者の捨て駒という、意味の無い死を望んでいるのか? そして、種族として根絶やしにされる惨めな結末を享受するつもりなのか?』

 

ここで再びビアンの姿が消え、荒廃した大地、破壊された居住区などの映像が映し出される。

 

「これは……ゲシュペンスト・MK-Ⅲッ! 一体どこの戦場の物だッ!?」

 

「……連邦では守れないと言う演出か……」

 

廃墟の中に倒れているゲシュペンスト・MK-Ⅲ。連邦の最新兵器が既に破壊されている……その光景を見れば連邦への不信感は更に増していく……本当に連邦で自分達を地球を守りきってくれるのか? と言う不安、そして恐怖がこの映像を見ている民間人の中に広がっただろう。そしてその直後に再びビアンの姿が映し出され、演説に力が篭もる姿が大きく映し出される。

 

『否ッ! 諸君らには生を望む意思がある筈だ。己の未来を欲している筈だ。生ある者として、今選ぶべき手段はただ1つ……』

 

このビアンの演説に不自然に多用されている数多の映像――それはビアン本人であるか? という不信感を抱かせるには十分な材料だ。だがそれ以上に連邦への不信感を煽り、そして死にたくないと言う人間の根底的な願いを刺激する事で、ビアンへの不信感はそのままにしてもビアンの言葉に耳を傾けようとと思わせる演出が繰り返される。

 

『それは人類の力と叡智を1つに集め、来るべき脅威に立ち向かう事であるッ! そして、その為には腐敗していくだけの官僚機構を排除し……強大な力の下に、多くの意思が統一されねばならないッ』

 

力強いその声には確かにその通りかもしれないと思わせるだけの説得力があった……いや正しくは連邦への不信感が高まり、ビアン・ゾルダークならば、DCならばと言う考えを抱かせるには十分な光景だった。

 

「……だが全てがお前達の思い通りになると思うなよ」

 

ここまでやられてしまえば連邦への不信感で世論は一杯になるだろう。だがこうして演説を続ければ続けるほどにビアンに扮している何者かに粗はどんどん生まれてくるだろう……それに何よりもビアンがこのまま黙っていると訳がない。それに確かに連邦に腐敗している部分が無いとは言わない。だが全てが全てそうではない……この一敗をレイカーは受け入れた。だが、このまま負けっぱなしで終わるつもりは毛頭無く、反撃の為の一手をレイカーは既に考え始めているのだった……。

 

 

 

 

 

ビアンに扮した鬼の演説は地球だけではなく、宇宙にも発信されていた。ブリーフィングルームでそれを見ていたギリアム達は神妙な雰囲気をしていたが、リューネだけでは演説を聞いて鼻で笑っていた。

 

「えっと、大丈夫なんっすか?」

 

「何が?」

 

アラドがその様子を見て、不安そうに尋ねるがリューネは逆に何をそんなに心配そうな顔をしているのさ? と笑い手にしていたスポーツドリンクのボトルを握り潰した。

 

「いや、あれ……」

 

「ああ、あれ? 全然親父に似てなくて失笑物だよ。声と顔を似せただけで親父の真似をできるとか考えているとか馬鹿丸出しだよ」

 

からからと笑うリューネ。やはり血縁関係があるから、あのビアンが偽物だと一目で見抜いていた。

 

「良く似ていると思うのだが、そんなに似ていないか?」

 

「俺もそう思うぞ?」

 

リンとギリアムがそう言うとリューネは嘘ぉ? と驚いた様子を見せた。

 

「えっとどこが違うのかな?」

 

「私も判らないんだけど?」

 

「え、本当に言ってる? いや、それなら言うけどさ、親父ってあんまり人の悪口とか言わないんだよね。こう、論破はするけど、人の考えを真っ向から否定するってことはしないんだ。それと話をしている時にこんなにまくし立てるように喋らないし……何よりもこんなに馬鹿みたいに映像とかを使わないよ。こんなんじゃ、言葉の重みがまるで無いね」

 

ビアンの演説を見た事がある人間ならば抱く不信感――DC戦争時の決起の際の演説にビアンは一切の映像を用いなかった。終始、己の言葉のみで人の心を動かして見せた。連邦の不手際の所の部分だけを抜粋して、そこを見せながら演説を行なうなんて事はしなかった。

 

「それにギリアム少佐達だって気付いてるんじゃないの?」

 

「……まぁな。一切月の事に触れていない」

 

キルモール作戦の失敗、アインストとインベーダーの事、そしてホワイトスターが制圧されたということは大々的にそれこそ、当事者のように物語っている。だがそれに対して月の内容は薄っぺらいにも程がある内容だった。

 

『謎の勢力に制圧された月から命を賭けて逃げてきた技術者達や民間人を連邦が幽閉している。それは不都合な事実を見たからに他ならないだろう、これこそが連邦の隠蔽対策の現われなのだ』

 

月から脱出した者達が見た百鬼獣を公表させない為に一時拘留しているのは事実だ。それ自体は連邦の不手際と言える、だがそれ以上に踏み込まないようにするには違和感しかなかった。

 

「確かにそうですな。これでは百鬼獣の事に触れられたくないように見えますな」

 

「人は無意識に触れられたく無い物を遠ざける。この演説にそれが如実に現れている」

 

百鬼獣の存在を隠匿したい。だから正体不明や未知の敵という事を繰り返し表現しているが、他の演説の内容と比べて明らかに薄いその内容は聞いている全ての者に僅かな違和感を不信感を与えただろう。

 

「ま、馬鹿をやるし、5徹とか6徹とかやってハイになって踊ってたりする馬鹿な親父でも私に取っては大事な親父なんだよ。親父の姿を

利用してくれた落とし前はキッチリ付けさせてやるよ」

 

口元に笑みを浮かべているが、その目は全く笑っておらず、ビアンに扮した何者かに強い敵意をみせるリューネ。

 

「やべえ、めっちゃ切れてるんじゃ?」

 

「それはそうよアラド。誰だって自分の父親を利用されて、宣戦布告されて面白い訳がないわよ」

 

「ですよねー離れとこ……」

 

全身から怒りのオーラらしきものが出ているリューネに近づく者はおらず。徐々にリューネから距離を取っている者が増えてきた、それだけリューネの怒りが深くなっていると言う証拠だ。

 

「ハガネとシロガネのほうは何か分かりましたか?」

 

「今レフィーナ艦長が地上と連絡を取っているから、そろそろ何か判ると思うわよ」

 

「大丈夫かな……リュウセイ君達」

 

地上の連邦軍が敗走したと言うのは演説で聞いていた。だからこそ、ハガネとシロガネの安否がリョウト達の不安要素だった。

 

「今、地上のテツヤ大尉から連絡がありました。ハガネとシロガネは無事だそうです。武蔵さんが合流してくれた事で無事だそうです」

 

武蔵がハガネとシロガネと合流している。それは暗いニュースばかりが続く今の中で嬉しい1つのニュースだった。

 

「本当ですか、レフィーナ中佐」

 

「ええ、色々と話を聞けた上にこのままハガネとシロガネと行動を共にしてくれるそうなので、ハガネとシロガネに関しては心配ありません。問題は我々の方です」

 

「やはり状況は悪いのかしら?」

 

「はい。この決起によって統合軍の生き残りがその動きを激しくしています。予定していた進路でのハガネとシロガネとの合流は困難になると見て間違いありません、よって我々は北米、ラングレー基地へ降下し、そこからテスラ研を経由し、アビアノ基地を目指します」

 

予定していた進路を取る事は不可能になりつつあるとレフィーナは固い表情を浮かべながら告げ、ラングレー基地を目指すとギリアム達に説明した。

 

「統合軍の生き残りの襲撃を受ける可能性もあります。皆さんには申し訳無いですが、格納庫で機体に乗って待機していてください。リン社長達は「乗りかかった船だ。私達も出撃する」……すいません、ご迷惑をお掛けします。それでは本艦はラングレーを目指し、進路を取ります」

 

リン達の協力を得てヒリュウ改はラングレーを目指す、しかしそこでは想像にもしない敵が待ち構えているのだった……。

 

 

 

 

パリの連邦政府・大統領府の一室でブライはブライアンと共にビアンの演説に耳を傾けていた。

 

『今、この世界に必要な物はイージスの盾ではなく、ハルパーの鎌である! 我らの意思に賛同する者はノイエDCに来たれッ! 己の力を欲望ではなく、 人類と地球の未来のために使う者であれば、私は何人であろうと拒みはしない!』

 

演説も終盤に差し掛かりビアン……ではなく五本鬼の演説にも熱が篭もるが、それに反してブライの視線は冷たい物となっていた。

 

(演技力は認めていたが、あの程度か……)

 

10人用意したビアン役の鬼の中で最も秀でた才能を見せたのが五本鬼だったが、ブライから見てもビアン・ゾルダークという個人にどれだけ似せる事が出来ているかと言うと6割ほどだ。しかもブライの用意した台本をアレンジしろと命じていたが、その内容は殆どブライの考えた物のままだったのだが、余計にブライの機嫌を損ねていた。

 

『心ある者達よ、 新たな聖十字軍の旗の下に集えッ! そして、我らの手で自らの自由と未来を勝ち取るのだッ!』

 

その言葉を最後に電波ジャックは納まり、ノイズの混じった黒い画面へと戻る。それをブライアンとブライは無言で見つめ続けていた……ブライもまた驚いたと言う表情を演技していたが、予想に反してブライアンの対応は落ち着き払っていて冷静そのものだった。

 

「ブライ議員、君はこの演説を見てどう思う?」

 

「由々しき自体ですな、連邦に対する不信感を煽られ、そして政府に対する反感感情も大きく広がりました。これでは統合軍の生き残りや、DCの残党、そして反連邦勢力が一斉に動き出すことになり、連邦軍は非常に劣勢に追い込まれると……」

 

「いやいや、そうじゃないよ。僕が尋ねているのは、何で君が怒っていたのか? ってことさ」

 

柔和な笑みを浮かべているブライアンだが、その視線はブライを射抜かんばかりに見つめていた。

 

(この男……昼行灯のような態度をしておいて……)

 

その目にはブライを警戒するような光が宿っていた。ここでブライには2つの選択肢があった、1つはここでブライアンを殺し、配下の鬼にすり替える、そしてもう1つは誤魔化すと言う選択肢……少し思案顔になり、ブライはブライアンの質問に返事を返した。

 

「必死に戦った連邦軍兵士を罵倒したビアン・ゾルダークに怒りを覚えておりました」

 

百鬼帝国大帝のブライとしてではない、連邦議員のブライとしての返事を返した。

 

「そうかい、確かにそうだね、僕も腹立たしいと思っているよ。確かに連邦にとって不都合な事実を隠匿したのは間違いない、だがそこばかりを指摘し、自分が正しいと言い続けるのはね。しかし、不思議だね……ビアン・ゾルダークはあんな演説をするような男ではない筈なんだけど……」

 

そこで言葉を切り、再びブライを見つめるブライアン。その瞳にはブライが嘘を言っているのが判っているぞと言わんばかりの光が宿っていた。

 

「あのビアン・ゾルダークは偽物だと?」

 

「そうだね。整形しているとか色々と考えられるけど……ビアン・ゾルダーク本人という可能性も捨て切れない。なんせ演説のタイミングが良すぎたからね。これから連邦はどんどん苦しくなるだろう……勿論僕もだけどね」

 

ブライが踏み込むとブライアンははぐらかす。ブライは内心の怒りを堪えながら、それでも笑みを浮かべる。

 

「しかし、 連邦軍が本格的な反攻に出れば、連邦が負ける事など無いでしょう?」

 

「いやいやあそこまでの大見得を切ったんだ。ジョーカーの1枚や2枚、用意していそうだね。それにビアンが言わなかった百鬼獣の事も気掛かりな点だよ」

 

その言葉にブライは眉を細めた、新西暦で百鬼帝国の存在を知るものはいない。だからこそ、五本鬼に渡した台本には百鬼帝国、そして百鬼獣に触れる文面もあったし、資料もあった。だが五本鬼はそれを流すことを躊躇った……それがブライアンに不信感を抱かせることに繋がった。

 

「それは「今のノイエDCに話し合いは通じないだろう……だけどいずれビアンは振り上げた拳の下ろし所を見極める事になる」

 

ブライの言葉を遮り、自分の考えを口にするブライアン。それは自分で話を振っておいて、これ以上ブライの話を聞くつもりはないと言う一種の挑発染みた行動だった。

 

「……」

 

「それまでは我々は混乱を最小限に食い止める努力をするしかない。最も混乱の継続を望む者もいるようだけどね……ブライ議員、本当はもう少し話をしたかったけど、これからの対策を考える必要もある。今日の所は退室してくれるかな?」

 

「……はい、判りました」

 

ブライアンの言葉に頷き、ブライは退室したがその胸の内は怒りに煮えくり返っていた。人間如きに、侮られた。挑発されたと言う事がブライを苛ただせた。額に青筋を浮かべ外で待っていた車に乗り込むと、ブライは端末を取り出した。

 

「朱王鬼と玄王鬼にインスペクターに接触するように命じろ」

 

2人の報告ではマオ社のプラントは使えないが、それでもムーンクレイドルは使用可能段階になったと聞いていた。本当はマオ社のラインを復活させてからと思っていたが、それでは計画に遅れが出る。早い段階でインスペクターと協力体制を取り、自分の頼みを聞いて貰えるように状況を調えておく必要があるとブライは判断したのだ。

 

「共行王にも頼んでくれ、早い段階でブラックゲッターをサルベージする」

 

新しい身体に慣れるまでは動きたくないと言っていた共行王だが、五本鬼の演説のせいでシナリオをいくつも修正する必要があり、ブライは苛ただしげに指示を飛ばし続ける。

 

「随分とお怒りのようですね。ブライ大帝」

 

「お、お怒りのようですね」

 

運転席と助手席から掛けられた声にブライは通信機の電源を切り、運転手をにらみつけた。

 

「……コーウェン、スティンガー……お前ら、私の運転手をどうした?」

 

そこにいたのは自分の配下の鬼ではなく、コーウェンとスティンガーの2人だった。なぜここにいると思いながらも、2人の存在によってブライは頭に上っていた血が僅かに下がり、冷静さを取り戻していた。

 

「運転手? そんなのいたかな?」

 

「い、いなかったと思うよ?」

 

声を揃えて笑う2人にブライは眉を吊り上げたまま2人に怒りを向けた。

 

「なんだ、あのゲッターロボは、私はあんな物を聞いていないぞ」

 

「それは申し訳無い。我々も知らないゲッターロボなんです」

 

「まさか武蔵が生きていて、あんなゲッターロボを持ち出すなんて想像もしておりませんでした」

 

「ふん、どうだかな、それよりもお前達がこうして出てきたということは何かあるのだろう? 回りくどい真似は嫌いだ。用件をさっさと言え」

 

ブライの言葉に2人は耳元まで裂けた獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ふふ、焦ると損をしますよ。このままゆっくりドライブでもしながら話をしましょう」

 

「そ、そんはさせませんよ!」

 

「なら走らせろ。ブライアンに見られたら面倒だ」

 

ゆっくりと走り出す車の窓からブライはブライアンの部屋に視線を向ける。窓際に立って自分を見下しているブライアンの姿を見て、人間の中では警戒するべき相手だと認識を改め、機会があればブライアンを殺す事を決めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

地球で様々な騒動が生まれている頃。ホワイトスターの居住区で資料に目を通しているウェンドロは飽きれた様に溜め息を吐いていた。

 

「元老院も老いたね、全く役に立たないじゃないか」

 

ゲッターロボとの交戦禁止ばかりと通達してくる元老院にウェンドロは失望を感じさせる表情を浮かべ、その書類をシュレッダーに掛けて全て処分する。

 

「ウェンドロ様。本日の作業報告です」

 

「うん、目を通させてもらうよ。メキボス」

 

インベーダーとの戦いでグレイターキン等はほぼ大破、現在は修理中だがただ修理するだけでは二の舞になると強化も施しているので作業は思ったよりも進んでいない。

 

「機体の修理は上手く行っていないみたいだね」

 

「予備パーツ等はありますが、今のままでは意味がないと考えています」

 

「そうだね、その通りだよ、インベーダーとゲッターロボと戦えるだけの強化は必要だね」

 

メキボスの話を聞きながらウェンドロは作業報告書に目を通し終え、書類の束を机の上に乗せる。

 

 

「ヴィガジはどうしてる?」

 

「大人しく謹慎しておりますが、呼びますか?」

 

「いや、今はまだ良いよ。もう少し大人しくしていて貰おうと思ってるしね、変わりにネビーイームの修理をしてるアギーハを呼んで欲しい」

 

ヴィガジではなくアギーハを呼んでくれというウェンドロの言葉にメキボスが通信機の電源を入れ、暫くするとアギーハがウェンドロの執務室に姿を見せる。

 

「それじゃ、現状報告を聞こうか。今はどうなっているんだい?」

 

「既に空間転移装置の設置は終了し……現在はこのネビーイーム内の改修作業を行っております」

 

ウェンドロの言葉にアギーハが深く頭を下げたまま、ウェンドロがやって来るまでに出来た内容の報告を行なう。

 

「ネビーイームは使えそうかい?」

 

「我々の拠点としては。 しかしプラントは完全に破壊されており、修復不可能です。しかも一部区画はゲッター線に汚染されており、近づくのは危険かと……」

 

プラントしての価値は無く、しかもゲッター線に汚染されていると聞いてウェンドロの柔和な笑みが崩れ、怒りの表情が一瞬浮かんだが、すぐにまた口元に笑みを浮かべた。

 

「ゲッターロボが主軸になっていたのだからそれはしょうがないね。早々にスカルヘッドを奪取出来ただけで良しとしよう。流石だよ、良くやってくれたね。アギーハ」

 

ネビーイームのプラントとしての機能が死んでいても、それでも拠点を手にしただけで意味がある。それにアギーハとシカログが奪取したスカルヘッドがあれば当面は問題はないだろうとしつつも、ウェンドロはそれだけでは満足していなかった。

 

「だが、他のプラントも欲しい。スカルヘッドだけじゃ後々が不安だからね。月にある地球人のプラント、あれを確保してきてくれるかい? メキボス」

 

月のマオ社そしてムーンクレイドルを奪取に向かえとウェンドロが指示を出すと、メキボスが顔を上げた。

 

「それに関してなのですが、既に地球人からある組織が強奪しております」

 

「へえ? 僕達の他に侵略者がいたのかい? でもそれは関係ないね、そいつらから「彼らはダヴィーンの使者と名乗りました」

 

ウェンドロの言葉をメキボスが遮り、ダヴィーンの使者と名乗ったとメキボスが言うと、ウェンドロは目を大きく見開いた。

 

「冗談だろう? ダヴィーンは何百年も前に滅んでいる筈だ。ダヴィーンを騙っているだけじゃないのかい?」

 

「いえ。ダヴィーンの言葉でのメッセージがありましたので、ダヴィーンの生き残りという可能性は極めて高いかと」

 

「……やれやれ、面倒なことになってきたなあ」

 

既にダヴィーンは滅んでいる、だがかつてはゾヴォークの中でも上から数えた方が早い程に優遇されていた星だ。昆虫型の異星人でありながらその技術力と戦闘力は高く、一時期のゾヴォークの防衛網にも加わっていた戦闘集団でもある。

 

「それでダヴィーンの使者はなんて?」

 

「話をしたいと、その内容によっては月の設備を我々に譲り渡しても良いと、ウェンドロ様がおられなかったので保留にしております」

 

「OK、判ったよ。ダヴィーンの使者に対しては僕が対応する、返答をしてくれるかい? アギーハとシカログは会合の準備を相手はゲストだ。丁寧に扱うんだよ」

 

「「「了解です」」」

 

ウェンドロの指示に頷き散っていくメキボス、アギーハ、シカログの3人をウェンドロは冷めた目で見送り、口元に嗜虐的な笑みを浮かべホワイトスターの奥へと歩みを進めるのだった……。

 

 

第66話 亡国の姫君 その1へと続く

 

 




ゲーム中では何時の間にかハゲに制圧されていたラングレーですが、今回はオリジナルシナリオでラングレーでの戦いも書いてみようと思います。そして次回はシャイン王女の話を書いて行こうと思います。武蔵ガチの王女様とエンカウントしたポンコツ隊長と記憶喪失のエキドナさんとかもそろそろ書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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