進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第66話 亡国の姫君 その1

第66話 亡国の姫君 その1

 

崩壊したネビーイームの一角に紅蓮に燃える不死鳥が着陸する。その炎は徐々に収まり、真紅に輝く装甲を持つ百鬼獣「朱王鬼」がその姿を現し、朱王鬼と玄王鬼の2人が銃を装備したバイオロイドに囲まれながら格納庫に降り立った。

 

「思ったより早く会談に応じてくれて良かったよ。インスペクター……いや、こう呼ぼうかな? ウォルガの皆様と」

 

朱王鬼の言葉にバイオロイド達の返答は銃を向ける事であり、その場にいた唯一の人間メキボスはその顔を顰めた。

 

「……お前ら、ダヴィーンを騙ったのか? 貴様らは何者だ。ゾガルか」

 

音声通信だけだったので、メキボスも朱王鬼と玄王鬼を見るのは初めてだった。名前も知らず、ダヴィーンの使者という言葉だけしか聞いておらず、会談要請に応じはしたが……昆虫型の異星人であるダヴィーン人とは似ても似つかない2人に警戒心を強めるのは当然の事だった。

 

「ゾガル? ああ、ゼゼーナンだね。大帝様が怒っていらっしゃったね、小僧如きが大帝様に害なそうなんて1000年早い。そうだろ? 玄」

 

「うむ。力量差も判らず襲ってきたのは愚か者としか言いようがないのう……」

 

ゾガルと聞いてゼゼーナンの名前を朱王鬼達は出した。ゾガルの中でも鷹派として有名なその男の名前を出した事にメキボスはゾヴォークの反逆者なのか、それとも本当にダヴィーンの生き残りなのかが判らなくなっていた。

 

「……ゼゼーナンの味方ではないのか」

 

「冗談きついね、向こうの対応次第では大帝様は協力なされたさ。だが屈服しろ、従えなんて分不相応な命令を僕達が受け入れる訳が無い」

 

「俺達もそうしろと言ったら?」

 

朱王鬼の言葉を遮り、高圧的な雰囲気をメキボスが出した瞬間。玄王鬼の角が妖しく輝き、朱王鬼がその場に膝を付いた。

 

『ワシが話をしてやろうと言っておるのだよ。ウォルガ』

 

玄王鬼が白目剥いたまま顔を上げると、朱王鬼と玄王鬼を取り囲んでいたバイオロイドが動き出し、メキボスにその銃口を向けた。

 

「……何をした」

 

『何簡単な事だよ、バイオロイド兵の原型技術はダヴィーンの物だ。どれほど改良されても、基本的な部分は変わらない。そしてウォルガやゾヴォークが盟約を反故にした時に備え、思念波でコントロールを奪えるように保険を仕込んでおいたのだ。まぁ、ゲッターロボに滅ぼされ、それを使う機会はなかったが、備えは決して無駄ではなかったという事だよ。判るかね?』

 

「……親切に解説してくれてありがとうよ」

 

今ネビーイームに居る人員はメキボス、アギーハ、シカログ、謹慎中のヴィガジ、そしてウェンドロの5人。それに対してバイオロイドは1万近い……如何に雑兵とは言え、5対1万という戦力差は覆せるものではない。機動兵器に乗り込む前に殺されるのが落ちだ。

 

『何気にしてくれるな。ワシはゾガルとゼゼーナンとか言う小僧は好きでは無いが、ウォルガには今の所何も思うことはない、友好的な関係を築ける事を願っているよ』

 

「友好的というのならば、生身で来てくれればいいじゃないか。歓迎したのに」

 

玄王鬼の身体を借りて喋っているブライに向かってウェンドロがそう声を掛けた。

 

『すまないね、ワシも忙しい身でね。それに礼を持ってゼゼーナンに会いに行けば殺されかけたんだ。2度目は慎重になると言うものだ、ダヴィーンの人間で最も重要なのはその角と脳味噌……それだけあればその英知は使い放題なのだからね』

 

ブライが鬼になった際も死に掛けていたダヴィーン人の脳を使った制御ユニットから、角と脳味噌を手に入れて変化した。それ故にその価値を知る存在の前に姿を現すことを避けたのだ。

 

「やれやれ、ゾガルの連中は乱暴だね。だけど、僕は違うよ」

 

『それはこれから見極めるとしよう。では改めて、ワシはブライと言う。お前の名は?』

 

「ウェンドロ・ボルクェーデだ。改めて歓迎しよう、ダヴィーンの使者 ブライ」

 

ウェンドロとブライの間には重苦しい空気が満ちており、その光景を間近で見ていたメキボスは心の中で狸と狸の騙しあいだなと呟き、その光景を見つめていた。下手に割り込めば、下手に声をかければ己が危ないと本能的に察していたからだ。

 

「では有意義な話し合いをしよう。お茶? それとも酒かな?」

 

『ふむ。見ての通りワシは今玄王鬼に身体を借りている状況だ。これでは味も何も判りはしない……適当にお茶でも貰おう。朱王鬼が好きなのでね』

 

「……自分の好みではなく、部下の好みを優先するのかい?」

 

『上に立つ者にとって配下は皆所有物だよ。ウェンドロ、手駒が気持ちよく働いてくれるくらいの労いや褒賞は当然だ』

 

平伏している朱王鬼はメキボスから見てもブライに心酔しているように見えた。そして己の身体を何のためらいも無く差し出した玄王鬼も同じく同じだ。この場にはいないが、ブライという男の圧倒的なカリスマを朱王鬼と玄王鬼を通じてメキボスは感じていた。

 

「なるほど1つ勉強になったよ」

 

『それは何より、ではこれからは有意義な話し合いをしようじゃないか、ウェンドロ。何、ワシの頼みはそう難しい物じゃない。それに君たちにも益はある、これはビジネスと言っても良いだろうね』

 

「へえ? 僕にも得があるって?」

 

『その通りだよ、まぁ詳しくは邪魔者が入らないワシとお前の2人だけの場所で話をするとしよう』

 

「良いよ、そうしようじゃないか。メキボス、アギーハに飲み物とかの準備をするように伝えてくれ、会談の場所には僕が案内しよう」

 

「……判りました。すぐに準備をして向かいます」

 

朱王鬼を連れ、ウェンドロとブライが歩いて行くのを見送りながらメキボスは眉を細めた。どちらも悪党……いや、悪党としての具合はブライの方が遥かに上だ。下手をすればブライは枢密院の連中よりも厄介な存在だとメキボスは感じているのだった……。

 

 

 

ハガネの格納庫に特設された剣道場――そこで武蔵とブリットがそれぞれ木刀構えて向かい合っていた。ハガネとシロガネの進路方針が決まるまでは動きようが無く、補給や修理が終わるまでは偵察に出る事も出来ない。そんな中でブリットが武蔵に鍛錬の相手をしてくれないか? と声を掛けたのが、2人の試合の切っ掛けだった。

 

「ッ!」

 

武蔵が足踏みするとブリットは後に数歩下がる。ブリットが正眼に構えているのに対して、武蔵は片手で木刀を持ち、その切っ先を床に向けている。

 

「なぁ? なんでブリットの奴は逃げたんだ? あの位置からならブリットの方が攻撃しやすいんじゃないのか?」

 

剣道等の心得が無いリュウセイは隣で見ていたライとラトゥーニに向かってそう尋ねる。

 

「確かに正眼で構えているブリットの方が攻撃に入るのは早いだろう。だがそれは誘いだ」

 

「下手に打ち込めば下から弾かれて、胴を打たれる……それか武蔵の性格なら、片腕でブルックリン少尉の一撃を受け止めて反撃で仕留めると思うよ」

 

「そ、そういうもんなのか……俺には全然わからねえよ」

 

下に構えられた木刀を振り上げる前に打ち込めるとリュウセイは思っていたのだが、そうではないと説明を受けてもリュウセイにはその内容を半分も理解出来なかった。

 

「そんな事を言ってないで、よく見ておけリュウセイ。俺の予想が正しければ……これから武蔵が見せる剣術はSRXに役立つぞ」

 

カイがリュウセイにそう声を掛けたと同時にブリットは無言ですり足で近づいてくる武蔵に追詰められ、逃げ道を完全に失っていた。

 

「っ!」

 

これ以上下がれず、目の前には武蔵がいる。しかも武蔵の構えから横を抜けるというのも不可能……ブリットは歯を食いしばり、一撃貰う覚悟で木刀を上段に振りかぶる。その瞬間微動だにもしなかった武蔵が木刀を振り上げ、ブリットと同様に上段から木刀を振り下ろした。

 

「ぐっ!?」

 

ブリットはその一撃を耐える事が出来ず、木刀を取り落とし肩を打ち据えられ苦悶の声を上げた。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「いいや、まだだ」

 

木刀を拾い上げ、再び構えるブリット。上段が駄目ならばと今度はフェイントを交えての横薙ぎ……当たるとリュウセイの目には見えたが、弾け跳んでいたのはブリットの木刀だった。

 

「え? なんで?」

 

武蔵の方が動きが一拍遅れている。それなのになんでブリットの木刀が弾かれているのかリュウセイには理解出来なかった。

 

「あれは……ゼンガー少佐の剣とは真逆の物ですね? カイ少佐」

 

「ああ。相手を追詰めて、十分な加速、踏み込みを得られない状況に追い込む。苦し紛れの一撃は力を込めて待ち構えていた武蔵には届かない。しかもだ、ブリットの肩や足の動きを見て、攻撃に転じる一瞬の隙を突いてる。ゼンガーならまだしも、ブリットでは突破できんだろうな」

 

剣という物は振るうのにある程度の距離と間合いを必要とする。そしてそれは手にしている獲物の長さに応じて微妙な差異が生まれる……無論達人と言われる人間ならば工夫し、ここまで間合いを詰められても対応する術を持っているだろう。だがそれをブリットに求めるのは酷と言う物だった……。

 

「SRXは鈍重だから、素早く切り込むって言うのは難しいと思う。相手の動きを観察して相手の攻撃に合わせて打ち込むって事だと思う」

 

「向いてるって事か……」

 

カイ達の解説を聞きながらリュウセイは武蔵とブリットの打ち合いを見つめ、ついに木刀の耐久値が限界になり砕け散ると同時にブリットは膝を付いた。

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……勉強に……なった」

 

「そうか。そいつは良かった、オイラも色々考えて、今回のを試してみたけど、いい感じだったよ。ありがとな、ブリット」

 

「……実験だったのか?」

 

「いやさ、ウォーダンと戦った時に距離を開けられると、凄い勢いで斬り込まれて吹っ飛ばされてな。距離を取ると不味いって思って、オイラなりに考えてみたのさ」

 

思いつきの剣術で封殺されたとブリットはショックを受けたが、それはある意味当然とも言える。武蔵の場合は基本的に生死を賭けた戦いをしていた、それが旧西暦、平行世界でより磨かれ、今まで以上に動物的勘が磨かれたからこそのこの反撃術だった。

 

「うーんでも、まだまだだなあ……多分ゼンガーさんならこの程度じゃ跳ね返してくるだろうし……もっと早くあの状況に追い込まないことには……状況は不利なままだし……ブリットまた今度組み手を頼むよ」

 

「あ、ああ……任せてくれ、俺も勉強になる」

 

しゃがみこんであーだこーだと今回の反省会をしているブリットと武蔵。その姿を見て、カイは正直驚いていた。

 

「思い付きだったのか……日本刀と剣道の胴をしているから剣術の心はあると思っていたんだが……」

 

「殆ど本能って事ですか……末恐ろしいですね」

 

剣術の心があったのではなく、相手に合わせて即興で考えただけだと言う武蔵。その闘争本能と思いつきを形にする運動神経の高さにカイ達は武蔵の評価を改めていた。

 

「さっきの録画してあるから、これでモーションデータを考えてみる?」

 

「お、流石ラトゥー二だな! おーい、武蔵、ブリット! 俺達も混ぜてくれよ」

 

リュウセイとラトゥーニも武蔵とブリットの話し合いに参加し、対斬艦刀のモーションデータの開発を4人で話し合いながら始め、ライもその中に加わり、5人で話し合う姿を見ながらカイは目を細めていた。その光景はかつての教導隊での自分達を思いださせて、カイは懐かしそうに目を細めるのだった……。

 

 

 

武蔵達が格納庫で鍛錬をしている頃。キョウスケとエクセレンの2人はキョウスケの私室でアインストについての話をしていた。

 

「アルフィミィなんだけど、キョウスケの方にも来たんでしょ?」

 

「ああ、ケルハム基地でアインストが襲ってきた時にな」

 

「どんな感じだった?」

 

「殺しても生き返るから大丈夫とか言ってたな……」

 

アルフィミィがキョウスケに言っていた言葉を聞いて、エクセレンはドン引きした顔をしていた。

 

「え? なに、あの子、サイコパスなの?」

 

「判らんが、俺達とは根底から考え方が異なるのは間違いないな」

 

生き返るから大丈夫、痛いのは一瞬だと繰り返し言っていたアルフィミィは通常の感性をしているキョウスケとエクセレンには到底受け入れられる物ではなかった。

 

「リュウセイが凄いはっきり声を聞いたみたいなんだけど……そっちは?」

 

「ブリットがぼんやりと声を聞いているが……それまでだ」

 

アインストの声を聞いたリュウセイとブリットの共通点は念動力――だが、キョウスケとエクセレンには念動力はない。示し合わしたわけでは無いが、2人とも再度検査を受けて、念動力が無いのは調べがついていた。

 

「なんで私達にだけ最初は聞こえたのかしらね? 判らないわ」

 

「判らないのはそれだけではないぞ……あいつは俺の事を知っていた。お前の方もそうだったんじゃないのか?」

 

エクセレンが言わないでおこうと思っていた事をキョウスケに言われ、エクセレンは一瞬肩を竦めたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「わお、ご名答。 私の事も知ってる口ぶりだったのよね、しかも私、あの子の事親戚とか、妹とかそんな風に思って無条件に信じちゃいそうだったのよ……どうしてかしら?」

 

「……それは俺も同じだ。お前に似ていると感じて、敵だと思っていても今一攻め切れなかった」

 

ゲシュペンスト・MKーⅢがキョウスケに追従していないのも事実だが、それ以上にあの時攻め切れなかったのはアルフィミィとエクセレンの雰囲気が良く似ていたからだ。エクセレンは姉妹や血縁に感じる奇妙な親愛を抱き、キョウスケはエクセレンに似ていると感じていた。

 

「ちなみにキョウスケはなんて考えてる?」

 

「俺の前世と関係があるんじゃないかとイルム中尉達は言っていたな。オカルト染みているが……武蔵の事を考えると」

 

「ありえない話じゃないのよね……」

 

旧西暦の住人が新西暦にいる段階でオカルト染みている。それにラドラと言う元恐竜帝国の指揮官が人間に転生している事を考えると、前世というのもあながち間違いではないと思えてしまう。

 

「どちらにせよ、私達が感じたあの感じが謎を解くカギである気もするのよね」

 

「もしくは武蔵とゲッターロボだな、いや両方かもしれん」

 

キョウスケとエクセレン、そしてアインスト達が求めるゲッター線……それらがアルフィミィの目的を知る大きな手掛かりになるとキョウスケは感じていた。

 

「宇宙であの子はゲッターロボを進化の使徒って呼んでたわ。自分を後継者にって」

 

「ゼンガー隊長達の機体を紛い物の進化の光と呼び、ゲッターVは進化の光と呼んでいたな」

 

アインスト――いや、アルフィミィが求める進化の光、それがゲッター線であることは間違いないだろう。

 

「武蔵は何かを隠しているのかしら?」

 

「……もしくは今は言えないと言う所だろう」

 

「私達ってそんなに頼りないのかしら?」

 

武蔵はアインストに関して何かを知っている……だがそれを口にしようとしない。それをエクセレンは自分達が頼りないから? と肩を落として小さく呟いた。

 

「そう後ろ向きに考えるな、エクセレン」

 

「でも……キョウスケも気づいているんでしょ? 武蔵が何故かキョウスケを警戒してるって」

 

エクセレンの言葉にキョウスケは眉を細めた。武蔵と再会してから武蔵は微妙にキョウスケから距離を取っている、観察するような気配があるのもキョウスケは感じていた。

 

「何かあるのだろう。だが武蔵は俺達を助けてくれた。なら……俺は武蔵が話してくれるのを待つ、いや、話しても大丈夫なのだと思われるようになるしかないだろう」

 

武蔵が言わないということはキョウスケ達では対処しきれないと武蔵は思っているのかもしれない。事実L5戦役では武蔵に頼りきりだった部分もあった。だからこそ今度は武蔵が自分達を頼ってくれるように、もっと力をつけるとキョウスケはぐっと拳を握り締めた。

 

「そうね……きっと武蔵もそうなれば、私達に話してくれるわね」

 

少し不安そうに笑うエクセレンに大丈夫だと声を掛け、ベッドに腰掛けているエクセレンの肩に腕を回すキョウスケ。

 

「不安なら、ここで言っておけ。お前が気弱だと皆心配するからな」

 

「……キョウスケの前なら良いんだ?」

 

「ああ、良いぞ」

 

からかうようなエクセレンの言葉にキョウスケが返事を返してくれた事にエクセレンは驚き、キョウスケの肩に頭を預けて、口を開いた。

 

「私とキョウスケの共通点……あの士官学校の時のシャトル墜落事故……とか私は思ってるの」

 

「……あれか。俺ととお前しか助からなかった……あの事故……だが、アインストと何か関係があるとは思えんな」

 

エクセレンが抱えている不安を知りつつ、キョウスケは敢えて違うだろうと口にした。キョウスケはあの事故で誰も知らない1つの事実を知っている……だがキョウスケはそれを死ぬまで、もしくはエクセレンが思い出すまで口にするつもりはなかった。

 

「個人的には、あれが怪しいかな……とは思うんだけどね、ねえ? キョウスケはどうおもう?」

 

探るような視線を向けられ、キョウスケは無言でエクセレンの肩を強く抱いた。

 

「大丈夫だ。それにどうせあいつはまた俺達の前に現れる。ならその時に直接訊いてみればいい、大丈夫だ。何も不安に思う事はない」

 

「……なにそれ、それ普通私が言うことよね? 楽観的な事って」

 

「偶には俺が言っても良いだろ? 大丈夫だ。エクセレン、俺がいる」

 

繰り返し大丈夫だというキョウスケにエクセレンは小さく微笑んで、キョウスケの肩に頭を預けたまま目を閉じた。小さく震えているエクセレンの手を握り、キョウスケは何も言わずエクセレンと同じ様に目を閉じる。誰にも言えない不安を抱えた者同士……それを共感できる相手の体温はとても心地よく、互いに何も言わない静かな時間を2人は過ごすのだった……。

 

 

 

キルモール作戦、デザートスコール作戦の両方が失敗し、連邦軍は次々と撤退し、アビアノを目指している頃……リクセント公国は完全にノイエDCに占拠されてしまっていた。完全中立国ではあるが、そんなことはノイエDC――いや、百鬼帝国には関係が無く、城周辺はライノセラスを初めとした陸上戦艦に加え、ランドグリーズ、アーマリオンの部隊に陸・空中の全てを制圧されていた。

 

「やれやれ、あの時に成功していればこんな手間は無かったんですけどね」

 

シャインを百鬼帝国の兵士にすり替える作戦が成功していればとぼやきながら、アーチボルドは城の中を観察しながら歩いていた。

 

「……少佐、 城内の制圧と近衛部隊の武装解除が終了しました」

 

「おや、思ったより早かったですね。ご苦労様です」

 

共に制圧活動をしていた兵士……百鬼帝国の兵士から距離を取りながら報告をしてくる艦長にアーチボルドは少し呆れていた。ノイエDCと言う名目を掲げ大量の兵士を集めたが、百鬼帝国に嫌悪感を抱く者は少なくない。だがそれはアーチボルドにしては愚かとしか言いようが無かった。強い後ろ盾があれば、それに越した事はない。自分の好みで嫌悪感を抱くなんて愚か者にすることだと嘲笑っていたのだが……その背中に固い物を押し付けられ、両手を上げた。

 

「おい、アーチボルド。余り好き勝手をするなよ」

 

「判ってます、判ってますよ。だからその物騒な物はどけてくれませんかねえ? 三角鬼さん」

 

三角鬼の言葉にアーチボルドは出立前のアースクレイドルでのやり取りを思い出し、深く深く溜め息を吐いた。中立国の襲撃と占拠に向かうとして、アーチボルドは最初命令に従うゼオラ、そしてゼオラのために自分に従うしかないオウカ。ユウキとカーラの4人を連れて行くつもりが、それに龍王鬼がストップを掛けた。

 

『占拠に向かうならそんなに頭数はいらねえだろうが、三角鬼を貸してやる。言っとくが、必要以上に被害を出すなよ。戦う力も無い奴を殺すもの駄目だ。俺が言いたいことは判るよな?』

 

完全な監視体制によってアーチボルドは自分の趣味である虐殺等も出来ず、下手をすれば自分が三角鬼に殺されるかもしれないと言う状況で強いストレスを感じながら任務に当たっていた。

 

「それで今の連邦軍の状況は?」

 

「ヴィンデル隊に破れ、アビアノ方面へ撤退中です」

 

その言葉を聞いてアーチボルドは内心落胆を隠せなかった。これで連邦軍が近くにいれば、出撃する名目も出来たのだ。負けていると判ればすぐ撤退する連邦軍に内心にもう少し抵抗しろと思ったのは当然の事だろう。

 

「余計な戦力の消耗も無い、撤退するのならば追わなければいい。我々の任務はこのリクセントを完全な形で、破壊や殺戮無く占拠する事だ」

 

「はいはい、判ってますよ。では君はクレイドルへ報告してください、リクセント公国の占拠は完了したとね」

 

アーチボルドの言葉に助かったと言わんばかりに敬礼して去っていく兵士を見送り、百鬼帝国の兵士――それも三角鬼と似た気質で龍王鬼に心酔している3人の兵士に簡易的に拘束されているジョイスに視線を向けた。

 

「……という訳で、しばらくバカンスを楽しませて貰いますよ、ルダール卿」

 

「貴公らは、1度ならず2度までも我が国を……ッ!」

 

ここに三角鬼がいなければ殴り倒していたのにと思うほどに敵意を向き出しにするジョイスに向かってアーチボルドは言葉を続ける。

 

「すみませんね。この国は今回の作戦にとって位置的に都合が良い物でして」

 

「国民の安全は保障して貰えるのでしょうな?」

 

降伏したのだから身の安全は保障してくれるのかというジョイス。その顔を見て、抑えきれない嗜虐心を顔に出し、アーチボルドが口を開こうとすると、それよりも早く三角鬼が口を開いた。

 

「貴君らの身の安全はこの俺、三角鬼が保障する。更に言えば、俺の上司の龍王鬼様、虎王鬼様がもうじきこの場に来られる。そうなれば、貴君らの身の安全は約束されるだろう」

 

ここでもまた龍王鬼と虎王鬼の名前が出た。鬼でありながら人道を説くあの2人はとことんアーチボルドと相性が悪かった。これが朱王鬼や玄王鬼ならばアーチボルドの嗜虐心を認め、殺戮の許可を出していただろうが……龍王鬼達は非道を許さない鬼だからこそ、アーチボルドの中に不満ばかりが溜まっていた。

 

「所で、プリンセス・シャインはどちらに? ご挨拶させていただきたいのですが……」

 

その不満を晴らす為に気丈に振舞うジョイスの1番の弱い所に何の遠慮も無く、アーチボルドは踏み込んだ。

 

「……今、王女は公務で国外へ出ておられます」

 

「はて……? 面妖な。こちらで得た情報と違いますね、そうですよね? 三角鬼さん?」

 

「ルダール殿といったか、もし王女が居られるのならば、嘘は付かぬほうが良い。案ずるな、俺がいるからこいつの好きにはさせん」

 

今回ばかりは三角鬼も苦虫を噛み潰したような表情でジョイスに声を掛けた。リクセントを制圧すること、そしてシャインを確保する事が命令なのだ。シャインの名前を出せば、三角鬼もそのために動かずにはいられない。その時だった、リクセント公国を包囲しているライノセラスからアラートが鳴り響き、少し遅れてライノセラスからの通信が入った。

 

「アーチボルド少佐、領土内から北へ脱出する飛行隊を発見しました」

 

その報告を聞いてジョイスは大きく目を見開き、唇を噛み締めた。その姿を見てアーチボルドは喉を鳴らし、小さく笑った。

 

「直ちに追撃隊を……あ、いや、僕が行きましょう。ここら辺で僕も手柄が欲しいですしね」

 

今の所アーチボルドは失敗、敗走と決して百鬼帝国の中での評価は高くない、ここで目に見える手柄を求めるのは当然の事だった。

 

「敵の敗残兵をどう処理しようと僕の勝手でしょう? ね? 三角鬼さん」

 

敗残兵ならば殺しても良い筈だとアーチボルドがサングラスをずらし、三角鬼ににやにやと笑いながら尋ねる。だがアーチボルドの耳を打ったのは女の声だった。

 

『駄目よ。この状況での脱出と言う事はシャイン王女に決まってるわ。三角鬼、アーチボルド。怪我無く、丁寧にシャイン王女を確保しなさい。あたしもすぐに行くわ』

 

「了解しました。虎王鬼様」

 

アーチボルドの言動から旗色が悪いと判断した三角鬼は虎王鬼に通信を繋げ、アーチボルドに向けて先手を打った。アーチボルドはとことん自分の邪魔をしてと三角鬼を睨みつけたが、人間の殺気など鬼に対しては何の意味も無く、三角鬼は涼しい顔をしてジョイスを拘束している兵士に視線を向けた。

 

「ゲストだ。怪我をさせるな、勿論城の住人、リクセントの民もだ。龍王鬼様達が来られる前で、ノイエDCに好きにさせるな。良いな?」

 

「「「はっ、お任せください!!」」」

 

三角鬼に力強く敬礼をし、ジョイスを連行していく兵士達をアーチボルドは親の仇のような顔をして見つめていた。

 

「行くぞ、アーチボルド。場所が場所だ、お前が望んでいる敵が出てくるかもしれんぞ?」

 

「……ええ、判ってますよ」

 

幼い少女に恐怖を与えると言うゲームが出来ず、アーチボルドは忌まわしげに顔を歪めたが、場所的に本命――ハガネとシロガネが出てくるかもしれないと思う事で気を紛らわせ、三角鬼と共にリクセントの城を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

ダイテツとリーはこれからの方針に頭を悩ませていた。キルモール作戦、デザートスコール作戦――そのいずれもが失敗し、連邦軍は敗退している。しかもそれに加え、ビアンに扮した百鬼帝国の演説によって反連邦勢力の動きが活性化してしまっている。

 

「ダイテツ中佐はアビアノ基地に向けてどのような進路を取るおつもりですか?」

 

「理想は本隊と合流することだが……それもやはり難しいだろう。完全に我々は出遅れてしまっている」

 

ウォーダンを名乗る男によって受けたダメージはかなり大きく、連合本部から出た撤退命令と合流地点に向かうにはかなり出遅れてしまっている。敵陣営の包囲網が広がってしまっており、これを突破して本隊と合流するのはかなり難しいとダイテツは考えていた。

 

「ジャミングが入る前に入ったレイカー司令からの連絡によれば、ヒリュウ改がラングレー基地に降下し、テスラ研を経由し、アビアノ基地に向かうとの事です」

 

「となれば我々も進路はアビアノ基地になるか……しかし、この状況。いらないやっかみを受けることになりそうですな」

 

「仕方あるまい、何か言ってくればワシが対応する。お前達は何も気にしなくて良い」

 

本来の合流予定時間を遅れてしまっている。それによって仮に集合ポイントになっているアビアノ基地に辿り着いたとしても、ダイテツ達を良く思っていない上官達を囮にしたと言ういちゃもんを付けられるのは容易に想像が付いていた。

 

「ダイテツ中佐、何も全てを背負われる事は」

 

「気にするな、ワシのような年寄りはこういう場合に責任を取る為にいるのだ」

 

まだ若いリーとテツヤの道を途絶えさせるわけには行かず、その為にダイテツは全ての責任を背負う覚悟を既にしていた。

 

「しかし……」

 

「この事はもう終わりだ。リクセントとは連絡は付いたか?」

 

「いえ、恐らく既にノイエDCに占拠されてしまったと……」

 

テツヤの報告にダイテツは眉を細めた。リクセント公国には軍事拠点などは無いが、金鉱山等を多数持ち資金源として、そしてシャイン王女を人質にする事で連邦の出足を削ぐ事が出来る。更にヨーロッパ方面に出る上で重要なポイントでもある。

 

「これでヨーロッパ方面にノイエDCの進出を許す事になってしまったか……」

 

「……DC戦争時よりも戦力はかなり充実していた筈なんだがな……やはり錬度不足か」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの性能はMK-Ⅱと比べて格段に上昇している。操縦のしやすさと高い安定感――それが売りなのだが、それが逆にパイロットの慢心を呼んでしまっているとダイテツは考えていた。

 

「ダイテツ中佐もそうお考えですか……私もです、錬度の高さのバラつきが非常に大きいです。特にL5戦役で地球に残った兵士の錬度は低いそうですね」

 

「……嘆かわしい事ではあるな」

 

宇宙での戦闘に参加した兵士の錬度は極めて高い、更に自分に合わせたカスタマイズを行い。積極的に訓練をしているが、地上組みはノーマルタイプのままというのが多い。そう言った兵士が戦力の大半を占めていたのが、キルモール作戦の失敗の原因だと言えた。ダイテツ達が溜め息を吐いたその時だった、艦長室に警報が鳴り響いたのは……。

 

「何事だ!?」

 

テツヤが通信でブリッジに何事かと尋ねる。するとすぐにエイタからの通信が艦長室に繋げられた。

 

『リクセント公国所属と思われる部隊からの救助信号をキャッチしましたッ!』

 

ノイエDCに占拠されたリクセント所属の部隊からの救助信号と聞いて、テツヤ、ダイテツ、リーの3人は顔色を変えた。

 

「リクセントの所属だと? 位置はッ!?」

 

『第6ラインギリギリの所……敵の追撃を受けているようですッ! 更に異形の特機に追われているとの事から百鬼獣かと思われますッ!』

 

このタイミングでの脱出、そして百鬼獣が追っているとなればその部隊が誰を脱出させようとしているかは明らかだった。

 

「「総員、第一種戦闘配置ッ!  PT各機、出撃準備ッ!」」

 

ダイテツとリーがほぼ同時にそう声をあげ、スクランブル警報がハガネ、そしてシロガネの両方から鳴り響いた。

 

「リー中佐もか」

 

「はい。それに第6ラインとなると、シャイン王女が名指しで批判した元・ジュネーブ部隊の隊長が率いていた筈……」

 

武蔵を犯罪者として追ったジュネーブの部隊をシャイン王女は名指しで強く批判した。更にそれにグライエン・グラスマン議員も参戦し、これ以上の追及を逃れたい連邦本部はジュネーブの部隊の隊長達を纏めて左遷し、辺境に追い込んだ。キルモール作戦に合わせて、呼び戻されたがシャインを憎んでいる部隊が救助に向かうとはリーには思えなかった。

 

「合流が更に遅れるな」

 

「心配はありませんよ。シャイン・ハウゼン王女を救助する事は急務です」

 

昇進から更に遠ざかると判っていてもリーはダイテツと同様にリクセントの部隊の救助に踏み切ったのだ。そしてその時格納庫の整備班長からの通信に応対していたテツヤが声を上げた。

 

「何!? 武蔵が飛び出したッ!?」

 

凄まじい轟音を当てて飛び立つ3機のゲットマシン、そしてその後を追って出撃するビルドラプター、R-2の姿が艦長室から見えた。

 

「呆けている暇はないぞ! 大尉! 我々も向かうぞ」

 

「ダイテツ中佐、私はこれでシロガネの出撃準備に入ります」

 

敬礼し艦長室を飛び出して行くリーの姿を見て、テツヤとダイテツも同時にシャイン王女救出の為に動き出すのだった……。

 

 

 

第67話 亡国の姫君 その2へ続く

 

 




最初の話はラングレー基地の話を入れるための布石で、全体的に今後のフラグ整理の為の長い話となりました。次回は出撃前の武蔵達のやり取りから入ってシャインの救出の話に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


泣きの10連で

カオスハーマーとスラッシュハーケンがでてくれました。

石は使いきりましたが、これでゼロの運用できると思うと成果は合ったなと思います。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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