進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第68話 亡国の姫君 その3

第68話 亡国の姫君 その3

 

ハガネから出撃したキョウスケは確かめるようにアルトアイゼンの操縦桿を握り、ペダルを軽く踏みしめた。全力で踏み込んでやっと反応を示すこの重量感のある操縦感覚、パイロットの安全など知った事かと言わんばかりにうなり声を上げる動力とスラスターの音……それは常人ならば不快感を感じる物であったが、キョウスケは小さく微笑んでいた。

 

『キョウスケ、なんで笑ってるの?』

 

「む、いや、やっとと思ってな」

 

呆れたようなエクセレンの言葉にキョウスケはそう返事を返した。マオ社で修理と改造を施されていたアルトアイゼン用の強化パーツ、L5戦役時に急ごしらえで作られた物ではない、新しく新造されたカスタムパーツ「ギーガユニット」を装備したアルトアイゼン・ギーガの重々しい紅い装甲が日の光を浴びて煌いた。

 

『それにしてもアルトちゃんがドイツ語なのに、なんでギリシャ語のギガスをもじったのかしらねえ?』

 

「さぁな。それはラドム博士に聞くしかあるまい」

 

ギーガ……ギリシャ語で巨人を現す、ギガント、ギガスをもじった物なのは判るが、何故ドイツ語の名称を持つアルトアイゼンにギリシャ語を持って来たのかが謎だったキョウスケとエクセレンだが、ノーマルのアルトアイゼンがキョウスケの操縦について来れなかったので、名前は何であれ、これでキョウスケの操縦に追従出来るのならばそこに不満はなかった。今まで敗走を続けていたが、これで百鬼獣に一矢報いる事が出来れば、それで十分だ。

 

『しかしまぁ、武蔵も随分と啖呵を切るな……これじゃあますます王女様の王子様になっちまうんじゃないか?』

 

敵が多いからあえて軽口を叩いたイルム。しかし実際に窮地を助けられ、しかもあれだけ言われれば、恋に恋する年頃の少女ならばコロリと行ってしまいそうなシュチエーションだった。むしろDC戦争の時から何度も武蔵に救われているシャインは本当に武蔵に恋している可能性も十分にあった。言ったら悪いが、武蔵は王子様っというキャラではない。何人かの脳裏に武蔵が王冠を被ってる姿が浮かび、噴出す者もいた。リラックスさせたいというイルムの意図通りになったが、笑えるような状況ではなく即座にカイの叱責が飛んだ。

 

『イルム、ふざけている場合じゃないぞ。お前達も気を緩めるな、増援……いや、待ち伏せだな』

 

百鬼獣とガーリオン、バレリオン等のAMの混成部隊が海上に出現する。出現までの早さを考えればそれが増援ではなく、待ち伏せだったのは明らかだった

 

『ゾロゾロと……王女様の見送りにしちゃ物騒過ぎるぜったくよぉ』

 

今まで何度か交戦した豪腕鬼は双剣鬼、鳥獣鬼等に混じり、見た事のない百鬼獣も数体発見し、イルムは眉を顰める。百鬼獣自体の数は10体前後と決して多くは無いが、並みの特機を超える百鬼獣の存在は十分に脅威だった。武蔵が百鬼獣を食い止めると言ってもその数を考えれば数体はゲッターの脇を抜けてシャイン王女の追走に出るのは誰が見ても明らかだった。

 

『各員へ。シャイン王女がノイエDCの手に落ちれば、彼らのプロパガンダに利用されかねん。今後の情勢の為にも、必ず王女を救出せよ』

 

『プラチナム1からリクセント機へッ! 敵機はこちらのPT隊で牽制する。貴機は本艦へたどり着かれたしッ!』

 

ダイテツとリーの指示が飛び、カイが続けて指揮をとる。

 

『今回は俺が指揮を取る。キョウスケ、お前は新しいアルトに集中しろ。エクセレンはその支援だ』

 

「すいません。カイ少佐。お願いします』

 

『キョウスケが操縦に慣れたら、すぐにそっちの支援に入るわね』

 

新型の操縦に慣れながら指揮をとるのは不可能だ。キョウスケはカイの申し出を受け入れ、アルトアイゼン・ギーガの操縦桿を強く握り締めた。

 

『ライ、ラトゥーニッ! お前達はそのままフォワードに回り、王女機の突破口を開けッ! 王女機がゲッターから離れれば、武蔵もぐっと戦いやすくなるッ! お前達が王女機の突破口を開くことが今回の作戦の要だ。しくじるなよッ!』

 

ゲッターロボは確かに強力だが、この場合だと逆に強力すぎてリオンを巻き込みかねない。空中戦に特化しているゲッターD2が地面に着地している所から、巻き込む事を恐れ飛行しない事を武蔵が選択しているとカイは判断し、そう指示を飛ばした。

 

『了解。R-2、突撃しますッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムでの稼動データにより、更に改良されたR-2のホバー能力は非常に高く、テスラドライブ搭載機と遜色ないものとなっており、右手にメガビームライフルを、左手にマグナビームライフルを装備したR-2は凄まじい加速でリオンを追いかけているランドリオンに向かって走り出す。

 

『シャイン王女、 待っていて……ッ!』

 

ビルドラプター・改をFMに変形させたラトゥーニは空中に舞い上がり、ソルプレッサとアーマリオンの空戦部隊との戦闘に入ろうとすると、R-ウィングがビルドラプター・FMの横に並んだ。

 

『支援するぜ、ラトゥーニ。王女様を助けるぞッ!』

 

『リュウセイ……うんッ!!』

 

R-ウィングが先陣を切り、その後をビルドラプター・FMが追って飛びAMとの戦いに身を投じさせる。

 

『残りの者は王女機の援護と敵機の牽制に回れッ! イルムとタスク、お前らは俺と一緒にゲッターを抜けてきた百鬼獣に当たるぞッ!』

 

『了解ッ! 気合入れてくぜッ!!』

 

『合点承知ッ!! いくぜいくぜッ!!』

 

ダブルトマホークを構えたゲッターの脇を抜けた豪腕鬼、白骨鬼、龍頭鬼に向かってゲシュペンスト・リバイブ(K)、グルンガスト、ジガンスクード・ドゥロが走り出し、互いに繰り出した拳と獲物がぶつかり合い凄まじい轟音を周囲に響かせる。

 

『おおっしゃッ! こっちも気合入れて行くぞッ!』

 

『了解ッ!』

 

『了解しましたわ、ライディース、シャイン王女のエスコートをしくじるんじゃありませんわよ?』

 

『……判っている。それよりもフォローを頼むぞ』

 

カチーナの号令でオクトパス小隊が陸上からシャインの救助に向かっているR-2の支援に入る。それに続き、キョウスケの指示もアサルト全機に告げられる。

 

『アサルト各機へ、ここで一矢報いるぞ、いつまでもあいつらの思い通りにはさせんッ!』

 

久しぶりに指揮官ではなく、1人の兵士として目の前の戦いに集中する事が出来るキョウスケの檄が飛び、ブリット、エクセレンもすぐに返事を返す。

 

『アサルト3、了解ッ!』

 

『アサルト2、了解ちゃんよん。ラミアちゃんは本当に一矢報いちゃってね? 私はキョウスケのフォローするから、よろしくよん♪』

 

『……アサルト4、了解でございましちゃいました。イリュージョン・アローがうなりましますですのよ』

 

百鬼獣の雄叫びが響き、無数のAMが次々とシャインを確保する為に出現する。ノイエDCの思い通りにさせまいと動き出すキョウスケ達……シャイン王女を巡っての戦いが今、切って落とされるのだった……。

 

 

 

ビルドラプターはDC戦争時に初の可変式・飛行PTとしてロールアウトされた機体だが、DC戦争時にはDCのスパイだったハンス・ヴィーパーにより、無理な変形を行なわされキョウスケを乗せたまま空中分解し、マオ社に戻された。その後はR-1に慣れる為にリュウセイの搭乗機になったが、あくまで練習機という扱いだった。その後にR-1が運用可能になり、リュウセイの後はラトゥーニの搭乗機となっていたが、L5戦役終結後、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発に伴い、伊豆基地の格納庫で保管され続けていた。初の可変式PTと言う華々しい肩書きに対して、まともな戦果を上げる事が出来なかったのがビルドラプターという機体だった。癖が少ない操縦感覚はルーキーであったリュウセイでも扱いやすく、更にゲシュペンストと同様のウェポンスロットを持ち、多彩な武器を装備可能という汎用性、そして固定武装のハイパービームライフルの火力も非常に高く、決して機体自体のポテンシャルが低かったわけではない。不運だったのはDC戦争およびL5戦役終盤での敵の強さが想定以上に強くなっていたこともあり、試作機としての側面が強いビルドラプターでは役不足に陥ってしまったのが原因だった。しかしだ、仮にもビルドラプターは初の可変式PTであり、そしてそのポテンシャルも非常に高い。そんな機体をゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発があるからと、置いていくような性格をしていなかったマリオンとカークによって分解され、月へと移送されたビルドラプターはそこで新たな改造を施され、生まれ変わり再びラトゥーニの搭乗機となったのだ。

 

(凄い、あの時と全然違う)

 

L5戦役の時に乗っていたビルドラプターとは全く違うその操縦感覚にラトゥーニは驚きを隠せなかった。テスラドライブと、ビームガトリングガンを内蔵したバインダーを背部に装着し、人型での単体飛行、そしてFMでの機動力の向上、更にバインダーにもサブ動力を搭載したことによる出力の向上……そして白兵戦の為の機体各所のパワーフレームの強化等様々な改良が施されている。

 

(班長は急ごしらえの改造って言っていたけど……これならッ!!)

 

あくまでこれはレイオスプランで今後作成される、SRX計画の完成形……「SRアルタード」に向けての、R-1の改良・発展のテストベッド……改良を施されても、まだビルドラプターは試作機ではある。だが、ラトゥーニが望めばケイオスプランの一環としてビルドラプターを新造することも視野に入れていると言われていた。そして操縦して、ラトゥーニには判ったのだ。ビルドラプターはまだ飛びたいと願っていると……そしてシャイン王女を助けたいと願うラトゥーニにその力を貸してくれていた。

 

「逃がさないッ!」

 

改良された事でその操縦感覚は大きく異なっている筈だ。初めて乗る機体に慣れるまでは時間が掛かるのは当然の事なのに、ビルドラプター・改はまるでずっと乗っていたかのようにラトゥーニの思う通りに飛んでくれた。

 

『ぐあッ!? くそッ! 脱出する!』

 

ソルプレッサとすれ違いに撃ち込まれたビームキャノンが動力部を的確に撃ち抜き、パイロットを脱出させる。

 

『くそ、思ったより戦闘機の数が多いッ!』

 

先導しているリュウセイのR-ウィングから焦りを伴った声が響く、リオンのパイロットも必死に回避を続けているが余りにも敵の数が多い。

 

『おらおらッ! あたしらの邪魔をするんじゃねえッ!!』

 

『ライディース少尉! 今の内にレオナ少尉と共にッ!』

 

陸上のR-2もランドリオンの猛攻を前に思うように前進出来ず、カチーナとラッセルがランドリオンを押さえているうちにガーリオンと共に包囲網を抜けるが、その直後にアーマリオン達の妨害を受ける。

 

『くっ、思ったよりも錬度がッ!』

 

『くそっ! 邪魔をするなッ!』

 

アーマリオン達はスパイダーネットやアーマーブレイカーで徹底して足止めをし、ガーリオンがリオンの捕獲に回っていた。捕獲・足止めの2班が完全に独立しており、包囲網を突破しようとするラトゥーニ達は苦戦を強いられていた。

 

『キシャアアアアーーッ!!』

 

『いい加減、てめえらの相手にも飽き飽きだぜッ!!』

 

豪腕鬼にがっぷり4つに組み合っているグルンガストからイルムの怒鳴り声が周囲に響き渡る。

 

『ガアアアーーッ!!』

 

『舐めんなよッ!! うおらぁッ!!!』

 

『ぐぎいッ!?』

 

双剣鬼の名が示す通りの両手の剣をジガンスクード・ドゥロはシーズアンカーで受け止め、がら空きの胴に拳を叩き込み、その巨体を大きく後方に弾き飛ばす。

 

『ぬううんッ!!!』

 

『ギガアッ!?』

 

『俺も貴様らの相手には飽き飽きだ! 良い加減にくたばれッ!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)の嵐のような連続攻撃が龍頭鬼の顔面を右、左と弾き、回し蹴りが叩き込まれその巨体を大きく弾き飛ばす。包囲網を抜けてきた百鬼獣の数はまだ3体でカイ達が足止めをしているあいだにリオンと合流しなければと焦れば焦るほどに、相手の包囲網が厚さを増し、焦りを与える。

 

『ラトゥーニッ! 上だッ!』

 

「ッ! このッ!!」

 

上空からのガーリオンの奇襲に気付いたリュウセイの声にラトゥーニは咄嗟に反応し、ビルドラプターを変形させ、M-13ショットガンを撃ち込みガーリオンの奇襲を防いだが、FMからPTに変形した事で速度と高度が僅かに落ちる。再度FMに変形させようとしたとした時リュウセイからの通信がビルドラプターのコックピットに響いた。

 

『そのままだ! 武器を構えてろッ!』

 

「リュウセイ!?」

 

R-ウィングがビルドラプターの下に回りこみ、その上にビルドラプターを乗せる。

 

『よっしゃあ! 行くぜラトゥーニッ!』

 

「え、嘘……なんで?」

 

機体のサイズはほぼ同じであり、受け止められる訳がない。ラトゥーニはそう感じていたが、R-ウィングとビルドラプターの間に僅かな念動フィールドの輝きがあり、ビルドラプターはその上に乗っていた。

 

『動きやすいかどうかはわからねえけど、そっちの方がアーマリオンとかに対応しやすいだろ? 一気に突っ切るぜ!』

 

「リュウセイ……判ったッ!」

 

ビルドラプターをその上に乗せたR-ウィングは更に加速し、ソルプレッサとアーマリオン、ガーリオンの混成部隊の中にその機首をねじ込み、強引に包囲網を突き破っていくのだった……。

 

 

 

 

エクセレンからの本当に一矢報いろ……と言う指示をファントムアローで支援せよという命令だと判断したラミアはファントムアローを用いての支援を行いながら戦場を観察していた。

 

(やはり強い……)

 

ウォーダンと一騎打ちをしたのに損傷も無く戻って来ていたゲッターD2の姿を見て、それほどまでに戦力差があったのかと驚いていたラミアだが、こうして実際に戦う姿を見ていると、レモン、ヴィンデルの2人が何をしてもシャドウミラーに加えたいと言っていた理由を肌で感じていた。

 

『おらっ! どりゃあッ!!!』

 

『!?』

 

『ギャアアッ!?』

 

攻撃方法は原始的と言ってもいい、両刃の斧と両腕側面の高速回転するチェーンソーと突出した能力を持つ武器を使っている訳ではない。だが単純にその圧倒的な機体出力を持ってすれば、その原始的な武器も恐ろしい火力を持つ兵器とかす。

 

『ラミアさん、ありがとうございますッ!』

 

考え事をしながらもラミアの指は動き、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムにディバインアームを振り下ろそうとしていたガーリオンの頭部を貫き、反撃でガーリオンを撃墜したブリットからの感謝の言葉を聞いても返事を返す事無く、ただただ無言でファントムアローを番え、撃つという事を機械的に繰り返していたが、その胸中はゲッターロボへの恐れがあった。

 

(強い、強すぎる……)

 

武蔵個人は穏やかな人物ではある。だが決してシャドウミラーの理念に賛同するような男ではない……1機で7体もの百鬼獣と対峙し、その悉くを1機でしかも本来空中戦特化の機体で、自身の武器であるビームなどを一切を使わず、地面に両足をつけたまま戦って見せている。それは圧倒的なハンデを背負いつつも、この不利な状況で戦い抜けるポテンシャルを有している事を現していた。ドラゴンの名が示す通り、人質や、卑劣な策略で武蔵を自分達の陣営に引き入れようとした時、文字通りの龍の逆鱗に触れてあの圧倒的な力が自分達に振るわれる光景を想像し、ラミアは心から恐怖した。優しい男ほど、怒りを抱えた時その業火は凄まじい物となる……そしてラミアが恐怖を覚えたのは、ゲッターロボだけではなかった……。

 

(なんと言うパワーだ……)

 

ギーガユニットを装備したアルトアイゼンの姿はラミアの知るゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムとは似ても似つかず、あちら側よりも更に技術力が向上しており、遥かに強くなっているその姿にラミアは恐怖すると同時に、W-17と呼ばれていた時には思わなかった事が脳裏を過ぎっていた。

 

(世界が違えば形は変わる……我々の恐怖と懸念は全て取り越し苦労なのではないのですか?)

 

キョウスケ・ナンブと破壊と殺戮を繰り返したベーオウルフは全く別の存在なのではないか? それにイングラムが立てた仮説はレモンがラミアに渡した指令ディスクにもインストールされていた。このままアインストに寄生されなければ、ベーオウルフになることはないのではないだろうか? そしてこの世界の住人とあちら側の住人は違う……ヴィンデルの言う腐敗した世界にはならないのではないか?

 

(……レモン様、レモン様……教えてください私は、私はどうすれば良いのですか)

 

機械のような自分であれば、こんなにも悩むことは無かった。命じられたままに、淡々と与えられた命令をこなせば良かった……。

 

(判らない、私には判らないんだ……)

 

誰かの為に命を賭ける事が出来る……そして誰かが自分の感情に身を任せ暴走しても、皆がそれを補ってくれる。それはシャドウミラーではありえない事……使い捨てと言っても良いWナンバーズは、ヴィンデル、レモン、アクセルの3人を守る為に死に、そして与えられた命令だけ遂行すれば良い……それだけで良かったのに……。

 

(私は自分の命惜しさに……降伏しようとしているのか)

 

死にたくないと思っているから、こんなことばかりを考えているのか、それともスパイとして潜り込んでいる身の分際でハガネとシロガネのクルーを仲間だと思っているから信じたいと思っているのか……ラミアにはそれが判らなかった、そしてこれほど頭の中が混乱しているのに、何のよどみも無く動き続ける自分の手足が自分がラミア・ラブレスではなく、W-17であると嫌でも認識させる。

 

(やはり私は壊れかけているのか……)

 

思考と身体が分離していて、身体は己の使命に無意識に動き続け、そして己の精神は迷い、恐怖し、揺らいでいる……ラミアには身体の方が正しく、自分が壊れているようにしか思えなかった。それがレモンが望んでいる自己の確立のきっかけとなり始めているとは夢にも思わず、恐怖と不安を抱え、敵が襲ってくる間は何も考えないで済む……ただ敵を倒せば良い、それだけを考え考えることを放棄するのだった……。

 

 

 

アルトアイゼン・ギーガ――なぜドイツ語とギリシャ語の名前を持つかというと、それは単純に開発者の違いだったからだ。ATX計画の続行によってビルドビルガー、ファルケン、そしてファルケンのタイプKにヴァイスリッター・改(仮名称)と言う開発を続けていたマリオンは当然新型のアルトアイゼンの開発と設計を始めており、L5戦役で大破したアルトアイゼンの強化アーマーはスクラップのまま、放置されていた。だが世の中には頭のおかしい人間というのは少なからず存在する……そして幸か不幸か廃棄される寸前のそのアーマーを1人の少女が発見していたのだ。マリオンを師と仰ぐ(マリオン本人にはめちゃくちゃ邪険にされている)ギリシャ系の技術者見習いの少女がそれに目をつけて、己の持ちうる技術をつぎ込み、勝手に作り上げたのがギーガユニットの原型と呼べる強化パーツだった。当然技術不足で、完成度も低い物だったが、自分でアルトアイゼンを調べ、そしてキョウスケの操縦の癖に合わせて開発されたそれは、マリオンの目に止まったのだ。そしてマリオンは新型のアルトアイゼンの開発をする中、片手間程度であるが少女に助言を行い、ビルガーとタイプKの開発中に生まれた試作パーツ等を次々と組み込んだ物がこのギーガユニットだった。

 

「打ち貫くッ!!!」

 

パイロットシートに身体がめり込むのではないかと思わんばかりの加速を感じながらキョウスケはランドリオンの胴体にリボルビング・バンカーを叩きつけ、そのままの勢いで2機目のランドリオンをも貫き、右腕1本でランドリオンを持ち上げトリガーを引いた。凄まじい轟音を上げて砕け散るランドリオンと、その反動で揺れるコックピットでキョウスケは小さく笑った。

 

「なるほど、悪くない」

 

『……これだけ暴れておいて、悪くないってどういうことよ?』

 

エクセレンの呆れたような突っ込みを聞いてもキョウスケは口元の笑みを消す事は無く、6連装マシンキャノンの銃口をソルプレッサに向けて掃射する。

 

「これはラドム博士の開発ではないと言うことは判った」

 

『……それってマ?』

 

「ああ、これは確実にラドム博士が開発したものではない、少しくらい手は加えているだろうがな」

 

圧倒的な火力と装甲で敵陣に突っ込み、そのまま相手を破壊すると言うのはキョウスケの理想とするコンセプトではある。だが、このギーガユニットには無理に姿勢制御や飛行を加えようとした痕跡があった。それゆえにキョウスケはギーガユニットがマリオンが作った物ではないと悟ったのだ。

 

『……マリオン博士と同じ思考のマッドがいるなんて信じたくないわ』

 

「腕は良い、それは認めるが、ヴァイスリッターの強化アーマーだって、まだ未完成品なのだろう?」

 

『うーん、そうは聞いてるけど、私としては十分な性能かなって思ってるわよ?』

 

「それで良いとか思っていると地獄を見るかもしれんぞ? それよりも次だ、漸く感覚を掴んできた」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲのトライアル採用でマリオンは自信をつけた。そしてその自信は新たな開発欲を呼ぶ、確実に新型のアルトアイゼンは今までの以上の際物になるだろうし、それの相棒と設計されているヴァイスリッターも同様だろうと笑い、リボルビング・バンカーのカートリッジを交換しながら、キョウスケは次の獲物に視線を向けていた。

 

『……ちょっと、それは洒落にならないんじゃない?』

 

キョウスケが対峙しようとしている相手……それはゲッターロボを抜けてきた百鬼獣――独眼鬼だった。

 

「あいつに勝てなければ意味がない。フォローは任せるぞッ!」

 

『ちょっとは私の意見も聞きなさいよッ!?』

 

エクセレンの制止の声を振り切り、アルトアイゼン・ギーガを走らせ最高加速のままリボルビング・バンカーを突き出す。

 

『ギッ!』

 

「ちっ、そう簡単にはいかんかッ!」

 

その手にしている盾でバンカーの側面を叩き、軌道を強引に逸らす独眼鬼、その動きは明らかに今までの百鬼獣とは違う、洗礼された動きだった。独眼鬼の防御によってリボルビング・バンカーが地面で炸裂し、その反動でアルトアイゼン・ギーガがバランスを崩す。そこに独眼鬼が手にしていた剣を振り下ろす、だがそれは左腕の6連装マシンキャノンと一体化している盾で受け止められる。

 

「不用意に踏み込んだことを悔いるんだな、ぐっ!?」

 

『ギャアッ!?』

 

シールドが展開され、そこに仕込まれた小型のクレイモアが炸裂し、独眼鬼とキョウスケの苦悶の声が重なる。痛みわけのように見えたが、質量の差でシールドごと6連装マシンキャノンの砲身が歪み、使用不能となる。しかもそれだけではなく、左腕の関節部から火花が散る。

 

『あーもう! 言わんこっちゃないッ!!』

 

それを見てエクセレンがオクスタンランチャーEモードによる狙撃で独眼鬼の追撃を防ぎながら、キョウスケのフォローに入る。普通ならばそこで後退するだろうが……キョウスケは前に出た。

 

『ちょ、キョウスケぇッ!?』

 

「逃がさんッ!!!」

 

百鬼獣は自己修復能力を有している――ここで距離を取れば百鬼獣に回復する隙を与える事になる。そう判断しての前進であり、ここで独眼鬼を仕留めるとキョウスケは決めていた。

 

(ここで引いては一生俺は届かないッ!)

 

冷静に考えれば、ここで引くという選択をキョウスケは取っていただろう。だが今も武蔵は百鬼獣を何体も食い止めている……それを大人であり、そして正規の軍人であるキョウスケは恥じた。本来己が守らなければならない子供に守られているという事に、守られなければならないと武蔵に思われている事が悔しかった。今度は武蔵が自ら命を捨てると言う選択をしなくても済むように、そのために力をつけたのだ。ここで引いては半年前から何も変わらない、キョウスケはペダルを踏み込み、後退しようとしている独眼鬼に最大速度で突っ込んだ。

 

『ギィッ!!!』

 

独眼鬼は突っ込んでくるアルトアイゼン・ギーガに対して、盾を構え、左腕で剣を振り上げた。盾で受け止め、剣でアルトアイゼン・ギーガを両断する構えの独眼鬼にキョウスケは恐れる事無く、新たに増設されている両肩後、そして背部のブースターの出力を最大にし、更に加速を早める。G防御の許容範囲を超えた、殺人的な加速――それに歯を食いしばり耐えたキョウスケはその両目で独眼鬼を睨みつけた。

 

「防げると思っているのならば、防いでみろッ!!!」

 

真っ直ぐに加速するその姿は紅い流星というべき速度で、その速度のままリボルビング・バンカーを盾に突き立てる。

 

『ギャハッ!!』

 

防いだと言わんばかりに嘲笑を浮かべ、剣を振り上げる独眼鬼だったが、ピシリと言う亀裂音にその顔を歪めた。1度響いた亀裂音は徐々に大きくなり、そして独眼鬼の瞳に恐怖の色が浮かんだ。

 

「どんな装甲だろうが打ち貫くのみッ!!!!」

 

キョウスケの雄叫びと共に盾が砕け散り、リボルビング・バンカーが独眼鬼の胸部を刺し貫いた。しかし、それでアルトアイゼン・ギーガはそれで止まらず、キョウスケの闘志と怒りに答えるようにその緑のカメラアイを輝かせた。

 

「おおおお……オオオオオオオオオッ!!!!!」

 

『ぎゃ、ギャアアッ!!!』

 

キョウスケの咆哮が響き、2倍近く差のある独眼鬼を持ち上げたままアルトアイゼン・ギーガは加速する。

 

『ギッ!?』

 

ゲッターの横を抜けてきたばかりの牛角鬼に独眼鬼の背中がぶつかり、2機の百鬼獣がリボルビング・バンカーに刺し貫かれる。流石に2機の百鬼獣を運搬する力はなく、アルトアイゼン・ギーガは地面に着地した。だがそのカメラアイはまだ爛々と輝いていた。

 

「全弾持っていけッ!!!」

 

炸裂音が6度響き、空になった薬莢が排出される頃には、独眼鬼、牛角鬼の装甲には深い貫通痕が刻まれていた。だがそれでも百鬼獣は生きていた、自分たちを殺しに来たアルトアイゼン・ギーガとキョウスケに恐怖し、逃げようとした。

 

「言った筈だ……全弾持って行けとなッ!!!」

 

音を立てて両肩ハッチが開かれ、それに加えて背部のフライトユニットをベースに改造したバックパックが変形し、更に2つのクレイモア射出装置が展開され、肩のみと比べて3倍近く弾数、射角、そしてベアリング弾の重量までもが強化されたレイヤードクレイモアが放たれ、独眼鬼、牛角鬼は穴だらけになり数歩よろめくと爆発炎上した。

 

「良し」

 

『良しじゃないわよ! この馬鹿ぁッ!!! ハガネに戻ったらカイ少佐にお説教よ!! 心配かけて!』

 

エクセレンの怒鳴り声にキョウスケは眉を顰め、小さくすまんと呟いた。完全に熱くなっていたキョウスケが悪く、エクセレンの怒りはもっともだったからだ。

 

『聞こえない!』

 

「すまな……『武蔵様ぁッ!!!』……なっ!?」

 

すまないと改めて言おうとしたキョウスケ――いや、この場にいる全員の耳にシャインの悲痛な武蔵を呼ぶ悲鳴と凄まじい落水音が響き、ゲッターD2の姿は海中に消えていく姿が全員の目の前で広がっているのだった……。

 

 

 

第69話 亡国の姫君 その4 に続く

 

 




良い区切りだったのでここで切りたいと思います。次回は海中に武蔵が引きずり込まれるまでの話を書いて行こうと思います。改良機のギーガはリーゼまでの繋ぎなので登場回数は少ないと思いますが、このギーガより、リーゼが強化されていると思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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