第69話 亡国の姫君 その4
今戦っている百鬼獣と違い、どこかグルンガストを連想させる機械的シルエットをした百鬼獣 闘龍鬼のコックピットの中で三角鬼は鬼とは思えない穏やかな瞳でハガネのPTと合流しそうになっているリオンを見つめていた。
(逃げきるか? 王女よ)
龍王鬼、虎王鬼の2人は元々シャイン王女を捕える事にさほど積極的ではなかった。確かに一国の王女ではあれど、10歳前後の幼い少女をプロパガンダや、洗脳すると言う計画には元々反対していたと言っても良い。そもそもリクセントを占拠する計画自体は百鬼帝国の作戦だ。しかしそこにシャインを捕えるという物を付け加えたのはノイエDCであり、それに賛同した朱王鬼、玄王鬼が自分の配下の鬼を送り出し、シャインに成り代わらせることを計画した。それが失敗したので、シャインを捕える方向に再び舵きりと相成ったが……それでも龍王鬼達はそれに不満を抱いている事は明らかであり、シャインを捕えると言う名目でアーチボルドと共にリクセントに訪れていた三角鬼だが、その本来の目的……いや、正しくは龍王鬼からの命令はアーチボルドの監視と可能ならばシャインの逃走を見届ける事にあった。
『良いんですか? 三角鬼さん? プリンセス・シャインに逃げられますよ?』
「百鬼獣ではリオンを撃墜してしまう。これだけの乱戦の中であいつらがそんな丁寧な動きが取れるわけがないだろう?」
アーチボルドの提案で百鬼獣をリオンの周辺に出現させた際だが、既にゲッターD2の姿を確認しており、捨て駒前提の百鬼獣を使用した。アーチボルド達には同じに見えただろうが、百鬼獣を量産する段階の試作機であり、その性能はゲシュペンスト・MK-Ⅲと大差なく、人工知能の精度もさほど良くない、酷な言い方だが案山子程度の価値しかない。今出撃している百鬼獣は完全な戦闘用だが、人を捕獲するという命令に対応出来る器用さもありはしない。
『だから撃墜すれば良いでしょう?』
簡単でしょ? というアーチボルドに三角鬼は嫌悪をその顔に浮かべた。龍王鬼の一派の鬼とアーチボルドという男はとことん相性が悪い、元々が龍王鬼の高潔な精神に惹かれ集った鬼達だ。その性格も似たり寄ったりであり、殺すとしてもそれは戦う能力を持つ相手だけになる。戦えない相手を遊戯で殺すような真似は決してしない……それに対してアーチボルドは自らの快楽の為に人を殺す、それが抵抗できない相手ならば尚良いと言う外道と性格が合う訳がない。
「俺達にシャイン王女を殺させて責任追及するつもりか? 随分と強かだな、そんなにも成り上がりたいか?」
『む、いえ、そういうつもりでは……』
自分が成り上がりたいから三角鬼達に失態を犯させるつもりか? と言われればアーチボルドの言葉尻はしどろもどろになる。あくまでアーチボルドは傭兵扱いだ。だからこそ三角鬼達を失脚させて、自分の立場を上げようと思っていると言われれば反乱分子と思われかねない。そうなれば自分の立ち位置が悪くなるので、三角鬼にこれ以上発破を掛ける事も出来ず、言い訳じみた言葉を口にする。
『しかしですね、ゲッターロボがいては僕も動くに動けないのですよ? せめてゲッターロボだけでも何とかしてくれないと』
その言葉を待っていたと言わんばかりに三角鬼は口の端を上げた。
「それならば、お前が動きやすいように俺達がゲッターロボを抑えてやろう。そうなればお前の敵はPTと特機だけだ、不安ならば数体の百鬼獣も残してやるぞ?」
海中にも百鬼獣は配置している。見たところあのゲッターロボは空中戦用と見た、海中に引き摺り込めば十分に勝機はあると三角鬼は考えていた。
『判りました。ではそれでお願いします』
「シャイン王女は任せたぞ」
内心はあそこまで逃亡されては今更シャインを捕獲するのは無理だと三角鬼も判っていた。だが自分たちでは無理だという体を取り、アーチボルドとノイエDCの兵士に任せると三角鬼は口にし、百鬼獣に指示を出す。
(最悪な任務だったが、これならば悪くはない)
三角鬼の気質的に戦う事の出来ない相手をするのも、幼い少女を攫うのも真っ平御免だった。しかもその上アーチボルド等という外道と組まされてはなおその機嫌は悪い物となって当然だ。だがその中でも三角鬼の心を震わせる相手がいた……真紅の龍神ゲッターD2だ。海中から伸びた無数の触手がゲッターD2の手足に巻きつき、海中に引きずり込むのを確認した三角鬼は空中で待機している空戦鬼に通信を繋げる。
「海中戦用のユニットを射出してくれ」
『は、了解しましたッ!』
闘龍鬼はシャドウミラーの技術を組み込んだ新西暦で建造された新型の百鬼獣だ。今までの百鬼獣と一線を画すシルエットは、グルンガストタイプの特機のデータを元に、百鬼帝国の技術を使用した。いうなれば、グルンガストの百鬼帝国版とも呼べる機体だ。肩部が90度折れ、腕が肘関節を基点に上方向に捻れる。
「行くぞッ! ゲッターロボ! 俺と勝負だッ!!」
踵が脚部に収納され、空戦鬼から射出されたスクリュー等が装着されたアタッチメントを装備しゲッターロボの後を追って、海中へと闘龍鬼は飛び込んでいくのだった……。
海中に引きずり込まれたように見えたゲッターD2だが、実際は自ら海中に飛び込んだというのが正しい。振りほどくことは十分に可能だったが、シャインの救助の為に動いているキョウスケ達を巻き込みかねない、それに明らかに百鬼獣の指揮官らしき者が動き出した事で百鬼獣が活性化するリスクを考えて自ら海に飛び込んだのだ。
(リュウセイ達なら大丈夫だ)
キョウスケ達は武蔵に信用されていないから、武蔵は何かを隠していると感じていた。だが実際は覚えていないと言うのが多く、仮に覚えていても、ベーオウルフと呼ばれる化け物にキョウスケがなっていた等と言える訳が無く黙っていただけで、武蔵自身はキョウスケ達ならば無事にシャインを助ける事が出来ると信じていた。
「こればっかりはゲッターじゃ無理だからな……」
90m級のゲッターD2はそのサイズから百鬼獣等の特機と戦うのは得意としていたが、その反面20mクラスのPTとAMと戦うのは極めて不得手としていた。もちろん共闘すると言うのも巻き込みかねず、細心の注意を払う必要があった。それゆえに海中という戦場の変化は武蔵にとっては喜ばしい物であった。
「しゃあ! 行くぞッ!」
海底にいた百鬼獣は貝と烏賊をモチーフにした海洋生物の姿をした百鬼獣が数体。それとと地上から武蔵を追って海中に飛び込んできた白骨鬼、龍頭鬼、そしてその姿を変えた闘龍鬼と10体前後の百鬼獣だった。
(地上に2~3体って所か……いや、大丈夫だ)
確かに百鬼獣は強いが2体くらいならばキョウスケ達が負ける訳がない。武蔵はそう考え、腕に巻きついていた触手を掴み烏賊のような姿をした百鬼獣を強引に引き寄せる。
「おらあッ!!!」
『!?』
弾丸のような勢いで引き寄せられた剣頭鬼の顔面に固く握られたゲッターD2の拳が叩き込まれ、そのままの勢いで頭部が吹っ飛んだ。胴体からオイルを海中に撒き散らしながら崩れ落ちる剣頭鬼の姿に無人の百鬼獣は動揺し、一瞬その動きを止めた。
「ダブルトマホークサイトォッ!」
当然その隙を武蔵が見逃す訳が無く、ゲッターD2の腕に巻きついている触手をスピンカッターで引き裂くと同時に肩から射出させたダブルトマホークを左手で掴み、真ゲッター同様の鎌状にし、貝獣鬼と白骨鬼に向かって振るい引き寄せると同時に右腕のスピンカッターで頭部を斬り飛ばす。
「ゲッタァアアビィィイイイムッ!!!」
頭部から横薙ぎのゲッタービームが放たれ、動揺に動きを止めた百鬼獣は胴体から両断され爆発炎上した。残ったのは闘龍鬼1体だが、武蔵にはある疑問が脳裏を過ぎった。
(なんだ。弱い?)
インベーダーに寄生されていた百鬼獣でももっと強かった。それに他の場所で戦った百鬼獣も、味方が撃破されたからといって動きを止める物は居なかった。それこそ、動けない味方ごとゲッターを倒してやると言わんばかりに攻撃をしてきた……姿は同じ、だが行動は余りにも違う……その差はなんだ? と一瞬考えたが、すぐに武蔵は思考を切り替えた。
「っと!?」
『あやつらは所詮前座よ! 本番はこれからだッ!!』
肩部の後のスクリューを回転させ、凄まじい勢いで突っ込んできた闘龍鬼の一撃をダブルトマホークで受け止める。直撃は防いだが、それでも凄まじい衝撃が武蔵を襲う。
(こいつだけ別格かッ!)
姿だけではない、その機体性能もパイロットの腕も並の百鬼獣を越えている。
「なろおッ!!」
『遅いッ!!』
両手足のスクリューと肩部のスクリューによる高速移動――その速度はゲッターD2の攻撃を見てからかわすという事を可能にしていた。
「ちっ! ドラゴンじゃ分が悪いッ!」
並の百鬼獣ならば海中であろうとゲッターD2の相手ではない、だがこの闘龍鬼はパイロット自身が相当な手練れである事に加え、機体性能も高い上に完全水中戦用――相性の問題で劣勢に追い込まれていた。
『どうしたどうした! 手も足も出ないかッ!』
魚雷を乱射しながらゲッターD2の周りを泳ぎ回り、決して一箇所に留まらない。言葉に対して、ゲッターロボに対して十分な警戒をしている証拠だった。ゲッターD2が自分の動きについて来れないと慢心し、動きを止めれば……あるいはその動きを緩めれば、ゲッタートマホークの一撃を喰らい、そこから崩される事が判っていた。だからこそ三角鬼は魚雷を利用し、砂煙、そして爆発時による振動によりゲッターの動きを徹底的に妨害し、自分が有利に立ち回り続けていた。
「うっせえッ! 舐めんなッ!!」
ダブルトマホークを振るうが、水圧で勢いを大幅に削がれてしまった。その勢いは百鬼獣を相手するには十分だったが、闘龍鬼を捉えるには余りにも遅すぎた。
『そんな攻撃が当たると思っているのかッ!』
悠々とダブルトマホークの刃をかわし、反転し魚雷をゲッターD2に向かって撃ち込もうとした瞬間三角鬼は己のミスに気がついた。
「当てるつもりなんざねえんだよッ!」
振るうと同時にゲッターの手を離れたダブルトマホークの刃にゲッターD2がその頭部を向ける。威力を絞り、その代りに速度を上げた頭部ゲッタービームが2連射で放たれ、ダブルトマホークの刃に当たり、そのまま角度を急激に変えて闘龍鬼へと向かう。
『ぬっぐうッ!?』
機動力の要であるスクリューへの被弾は回避したが、胴体部、背部をゲッタービームがかすめ、闘龍鬼の速度が僅かに落ちた。
「オープンゲットッ!!!」
その瞬間を武蔵は見逃さず、ゲットマシンへと分離し急速浮上を行なう。
『逃がすか!』
「誰が逃げるか! 間抜けぇッ!!」
海面に向かえば、逃げようとしていると判断し三角鬼が追いかけてくるのは判り切っていた。その瞬間にゲットマシンを反転させ、ドラゴン号、ライガー号をポセイドン号が追い抜いた。
「チェンジッ! ポセイドンッ!!」
何も馬鹿正直に不利な条件で相手に付き合う必要はない。水中戦に相手が特化しているのならば、ドラゴンよりもポセイドンにチェンジすれば良い。追いかけてきた闘龍鬼を眼前に見据えたままポセイドンへとチェンジし、固く握り締めた拳が闘龍鬼の頭部を捉え海底に向かって殴り飛ばす。
『ぐうっ!? おのれッ!!』
「今度はオイラが言ってやるよ。遅いってなあッ!!」
ドラゴンと異なりポセイドンは水中戦に特化している。同じ土俵ならばゲッターロボが百鬼獣に負ける訳が無い、闘龍鬼の背後に回りこんだポセイドン2の蹴りが闘龍鬼の背中にめり込み、海底に地響きを立てながら闘龍鬼は倒れ込んだ。
「おら、てめえの得意な水中戦で相手してやるよ」
『……はっ! それはありがたいなッ! だが機体性能の差が絶対ではないと言うことを教えてやる!』
互いに水中戦に特化した機体同士。水中戦のエキスパートである武蔵と三角鬼――機体性能はポセイドン2の方が上、しかし三角鬼の闘志は凄まじく、それは機体性能の差を埋めるほどの物だった。機体性能がほぼ同じ、ならば勝敗を分けるのはパイロットの腕……自分が相手に劣っている訳が無いと言う自負を抱き、武蔵と三角鬼の戦いはより激しさを増していくのだった……。
海中に引きずり込まれたゲッターD2の姿は国を百鬼帝国に乗っ取られ、逃亡してきたシャインにはあまり残酷な光景だった。リュウセイ達はゲッターロボが、武蔵がその程度でやられる訳が無いと判っていた。しかし、自分の国を失い、自分を逃がすために何人も犠牲になる光景を見てきたシャインにとっては武蔵とゲッターロボが最後の心の寄り所であり、それが姿を消したことでシャインは半ば狂乱状態に陥ってしまった。
「武蔵様ッ!? 武蔵様がッ!? いや、いやッ!」
「姫様! お願いします! 落ち着いて! 落ち着いてくださいッ!!」
感情のコントロールが出来ず、闇雲に手を振り、武蔵の名を叫ぶシャインにマルコの言葉は届かず。リオンの操縦に集中出来ないマルコはハガネとシロガネのPTから距離を開け始めており、状況は最悪に近かった。
『シャイン王女! 落ち着いて! 落ち着いてください!』
ソルプレッサとガーリオン、アーマリオンのいる方向にリオンがその機首を向けかけた時、やっと包囲網を抜けたR-ウィングとビルドラプター改がリオンに隣接する事に成功し、半狂乱のシャインにラトゥーニが声を掛けた。
「ら、ラトゥーニ?」
『武蔵は大丈夫です! 武蔵は戦っています! 大丈夫ですッ!』
海中から響く轟音が武蔵が健在であるという事を示していた。だがそれでも姿が見えないと言うのは不安を煽り、恐怖をシャインに与える。
「で、でも……」
『武蔵は絶対に大丈夫です。約束は2度は破らないと言ってました、シャイン王女はハガネで武蔵が戻るのを待ってください』
最後に残っていたもう1つの心の寄り所……親友であるラトゥーニの言葉にシャインは冷静さを取り戻す事が出来た。それでもまだその瞳は不安げに揺れていたが、繰り返し大丈夫と言われた事で僅かに心の平静を取り戻す事が出来た。
「マルコ……すみません」
「姫様、大丈夫です。行きましょう」
『私が誘導します。リュウセイはフォローをお願い』
『おう! 急ごうッ!』
リオンの前方をビルドラプター・改FMが進み、その後をR-ウィングが守りハガネへとリオンが向かい始める。
『ラトゥーニとリュウセイがシャイン王女を保護した! 各員は2機の支援を行なえ! 敵機を抜かせるなッ!』
リオンを追っていたノイエDCの機体の前にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムや、アンジュルグが立ち塞がり防衛網を敷く、追う者と守る者の立ち位置が大きく変わり、戦況が変わり始める中でも海中から響く、凄まじい轟音は今も尚止む気配が無いのだった……。
『ゲッターキャノンッ!!!』
「ちいっ!」
海中での闘龍鬼とポセイドン2の戦いは完全に互角という様相を呈していた。武蔵は少しでも早く姿を見せてシャインやリュウセイを安心させたいと思っていた。だが戦いの運びを焦れば、その瞬間に巻き返される事を感じ慎重な立ち回りを要求されていた。それに対して三角鬼はポセイドン2の攻撃方法がわからず、距離を取りポセイドン2の出方を終始観察していた。
(固い上に速い……なるほど、強いッ!)
戦いながら三角鬼はポセイドン2の情報を集め、そして的確な戦闘パターンを割り出して行き、徐々に戦況を不利から互角にまで押し返していた。
「ふんッ!!!」
『うおりゃあッ!!!』
魚雷の弾数が無くなる頃には三角鬼はポセイドン2の武器がその強固な装甲と両肩のキャノン砲、そしてその豪腕である事を見出し。あえて接近戦を仕掛けていた。
『ちっ!?』
「おっと、逃がさんぞッ!!」
闘龍鬼の全長が72m、ポセイドン2より頭1つ分低く潜り込まれる事を嫌った武蔵が後退させるが、そうはさせないと三角鬼は懐に闘龍鬼を潜り込ませる。
(距離が近ければキャノン砲を使えない。それに背中の大型ミサイルもだ)
そしてポセイドン2は巨体さゆえに加速力はあるが、最大速度に入るまで時間が掛かる。間合いを詰め続けていればキャノン砲や背中のミサイルは使えない。インファイトを仕掛けるにはポセイドン2は巨大で、そして力も強く近接戦闘を挑むには恐怖を伴う……。
「逃げに回る腰抜けは龍王鬼様の配下ではないッ!」
距離を取れば弾雨に晒され、近づいて掴まれれば逃げることも叶わず押し潰される。それでもだ、三角鬼が活路を見出したのはインファイトだった。
『へっ! 鬼にしちゃあ良い気構えだッ!!!』
「俺を卑怯なだけの鬼と一緒にしてくれるなッ!!」
ポセイドン2の一撃必殺の豪腕が何度も目の前を掠める。それは直撃すればその瞬間に死に直結する――その緊張感の中で三角鬼は牙を向きだしにして笑っていた。
「ぬおおおおッ!!!!」
『うっ! なろおッ!!!』
三角鬼という鬼は良いも悪いもモチベーションに左右される性格をしていた。アーチボルドと組まされ下がっていたテンションは、命を賭けて戦うに相応しい強敵――ポセイドン2と武蔵によって完全に回復し、その闘志に呼応するように闘龍鬼もその出力を上げてポセイドン2とがっぷり4つに組み合っていた。
「これだ! これが俺の望んでいる戦いだッ!!!」
『戦闘狂かよッ!! ったくよおッ!!!』
ポセイドン2の豪腕をかわし、1つ、2つと攻撃を当てるがポセイドン2の自己修復能力に決め手に欠ける。それでもだ、それでも三角鬼は心から武蔵との戦いを楽しんでいた。攻撃を装甲が拉げコックピットが火花を散らす、その熱が三角鬼の身体を焼いたがそれすらも三角鬼の闘争心を高める事に繋がっていた。
「もっと、もっとだッ!! お前と戦えば、俺はもっと先に行けるッ!! お前だって戦いを楽しんでいるだろうッ! もっとお前も戦いを楽しめッ!」
敬愛し、尊敬している龍王鬼の立つ高みには今のままでは届かない、だが武蔵との戦いの中で足りない何かを、自分がより強力な鬼となる為に武蔵との死闘を楽しみ始めていた。だが武蔵にとって命を賭ける場所はここではない、少しでも速く仲間の元へ向かいたいと思っていたし、何よりも武蔵と三角鬼には決定的な違いがあった。
『悪いな、オイラは戦いが楽しいなんて思ったことは1度もねえし、てめえみたいなキチガイに付き合ってやるほど暇じゃねえんだよッ!』
キャタピラモードに切り替え、高速で後退するポセイドン2を前に闘龍鬼の渾身の一撃は空振り、海底にその拳がめり込んだ直後、ポセイドン2が今まで使わなかった武器――フィンガーネットが闘龍鬼の全身に巻きついた。
「う、うがああああああッ!?!?」
フィンガーネットからの放電が三角鬼を痺れさせ、闘龍鬼の操縦桿から三角鬼の腕を離させ、動きを止めた闘龍鬼がポセイドン2を引き寄せながら足のキャタピラを使い、高速でその身体を回転させる。
『大ッ! 雪ッ!!! 山ッ!!!! おろしぃいいいいいいッ!!!!!』
感電し、動く事が出来ず、悲鳴を上げる事も出来ない三角鬼は、凄まじい回転に巻き込まれ、その意識を失い深海から瞬きの間に海上に向かって打ち上げられた事で、目と鼻、そして耳から大量の血を流しながらも、意識を失わぬ為に強く歯を噛み締め、緊急用のレバーを力強く自身に向かって引き寄せるのだった……。
エルシュナイデのコックピットの中でアーチボルドは歯軋りをしていた。何もかもが自分の思い通りに動いて当然と思うほどアーチボルドは子供ではない。だがそれを差し引いても理解出来ない現在の状況に歯噛みをした。
(どうしてこうも、上手く行かないんですかねえ……)
ソルプレッサやアーマリオンとガーリオンを言ったAMは殆ど壊滅状態、頼みの綱の百鬼獣も破壊された。
『アーチボルド・グリムズッ! 貴様はここで己の犯した罪を悔いて死ねッ!!』
「やれやれ、もう少し動揺してくれても良いんですよ! ライディース君ッ!!」
ホバーで高速で接近しながら手持ち火器と背中に背負ったハイゾルランチャーで攻め立ててくるR-2の姿にアーチボルドは思わずそう叫び返した。リクセントの時は感情的になって突っ込んできたライディースならば簡単に手玉に取る事が出来ると考えていた、だが実際はどうだ? 感情的になっているように見えて、理詰めでアーチボルドの逃げ道を奪うように攻撃を繰り返してきている……エルザムと違い、感情的で、それゆえに御しやすいと考えていた相手が自分の理解を超えていた事に驚いていたアーチボルドだが、なんとか冷静にと思考を切り替えようとするが、コックピットに鳴り響いたアラートに気を落ち着ける間もなかった。
「やれやれ、随分と色物になりましたねぇッ!」
『ヒューストンでの借りはここで返させて貰うッ!!!』
地上から垂直に飛び上がってきたアルトアイゼン・ギーガ。地上機でエルアインスの高度まで垂直に跳んで来るというのは明らかに異常なだった。
「いえいえ、長いお付き合いをしたいので、無理に返してくれなくても結構ですよ?」
『利子をつけて返してやるから遠慮するなッ!!』
PTが携行できる中の武器で最大の火力を持つグラビトンライフルの照準を合わせようとした瞬間。別の方向からのアラートが響き、ロックオンマーカーを解除する。
「やれやれ! 英雄部隊というのはどなたも情熱的ですねえッ!!!」
凄まじい勢いで切り込んでいたヴァイスリッター・改の射撃をかわしながら、思わずアーチボルドはそうぼやいた。
『あら? その声いつぞやの泥棒さんね? んふふ、美女の強烈なアタック嬉しいでしょ?』
「いやはや、確かに嬉しいですが、命を取りに来られるのはなんともッ!」
軽口に軽口を返してくるが、その攻撃は殺意に満ちていた。
『王女様を泣かせた分はきーっちりお返ししてあげるわ。はい、どーんッ』
「うぐっ!?」
オクスタンランチャーの銃口を向けられ、咄嗟に旋回したがヴァイスリッター・改が打ち込んだのはスプリットミサイル。その爆風で高度を落とされたエルシュナイデの先には、リボルビング・バンカーを構えているアルトアイゼン・ギーガの姿がある。
『落ちろッ!!』
「いいえ! そう簡単にはいきませんよッ!!」
腕を自らパージする。落下したエルアインスの右腕がヴァイスリッター・改とアルトアイゼン・ギーガの前で破裂し、煙幕を生成する。
『むっ!?』
命中のすんぜんの煙幕で照準を逸らされながらも振るわれたリボルビング・バンカーはエルアインスの左足を根元から引きちぎったが、それでもまだエルアインスは飛行を続けていた。
「やれやれ、隠し玉を切らされることになるとは……ASRS展開、ブースト……」
『言った筈だ! 貴様はここで死ねとッ!!!』
ASRSを展開し、ブースト・ドライブに入ろうとしたアーチボルドの視界に飛び込んできたのは長大なライフルを構えているRー2の姿だった。
「いやいや、流石にそれは洒落になりませんよッ!?」
ASRSとブースト・ドライブによる逃走がノイエDCの定番のパターンとなっている事から試作的に開発された。ASRSによるレーダーの妨害とブースト・ドライブによる防御、それを貫通する試作アンチマテリアルライフルの照準をライは逃走しようとしているエルアインスに合わせ、引き金を引こうとした瞬間だった、凄まじい地響きが周囲に広がった。
『な、なんだ!? じ、地震か!?』
『いや、新型の百鬼獣かもしれん! 各機警戒を緩めるなッ!』
PTでも立っていられない振動にロックオンが外れ、R-2が膝をついた。
「やっぱり僕って運が良いですねえ。では皆様、またお会いしましょう」
その地震も飛行しているエルアインスには何の影響も無く、ブースト・ドライブを発動させ、西の方角へと飛び去ろうとする。
『逃がすかぁッ!!!』
「くっ……くくうっ……まさか、そんな僕がこんな所で死ぬ訳が……ッ」
ロックオンは外れているが、それでも数秒前までロックオンをしていた。逃走方角を予測し、引き金を引いたR-2。執念の一撃は逃走しようとしているエルアインスに向かって真っ直ぐに飛び……。
『大ッ! 雪ッ!!! 山ッ!!!! おろしぃいいいいいいッ!!!!!』
『う、うおおおおおおおーーーーーッ!?』
武蔵の雄叫びと三角鬼の悲鳴共に発生した竜巻に遮られ、その勢いを失って墜落した。その光景にライは驚きの声をあげ、アーチボルドは歓喜の笑い声を上げた。やはり自分はまだ、ここで死ぬ存在ではないのだとアーチボルトは感じていた。
『なっ!?』
「ふ、ふふ、やっぱりですね。まだ僕はここで死ぬべきではないと言うことです。三角鬼さん、作戦は失敗です。離脱しましょうでは」
『……了解した」
ついさっきまで死を覚悟していたのに、余りにも自分の都合に良い展開になった事にアーチボルドは薄く微笑み、ブースト・ドライブを発動させ、三角鬼と共にその場を離脱するのだった……。
「逃がした……か、大尉。各機に撤退を指示、その後本艦とプラチナム1はこの空域を離脱、アビアノ基地を目指す」
「了解です。各機、周辺を警戒しつつハガネ、シロガネへと帰還せよ」
残虐なテロリストであるアーチボルドを1度は追詰めたが、ダイテツ達にとっての不幸が続き、アーチボルドにとっての幸運が続き取り逃がした。だがシャイン王女を無事に救出する事が出来た点では紛れも無く、ダイテツ達は勝利したのだ。これ以上この場に留まり、敵の増援が来る可能性を考え、ダイテツ達は即座にこの空域を離脱して行くのだった……。
第70話 亡国の姫君 その5へ続く
アーチボルドは運よく逃亡成功。ここで死なせる訳にもいかなかったので大雪山おろしの余波に救われた形にしました。次回は前半はシャイン王女の話、中編はウェンドロとブライ、そして後編はラングレーと3つのサイドで話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い