進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第70話 亡国の姫君 その5

第70話 亡国の姫君 その5

 

海底から浮上してきた武蔵は忌まわしげにその眉を潜めながら、モニター越しにポセイドン2の手に視線を向けた。ポセイドン2の手の中には拉げた闘龍鬼の両肩パーツが握られていた……。

 

「くそ……あそこまで極めた大雪山おろしを外されたのは初めてだ」

 

武蔵は闘龍鬼と対峙した段階で完全に破壊する算段を立てていた。確かに想像以上に強い百鬼獣だったが、百鬼帝国の幹部クラスである相手を無傷で逃がすつもりは無かった。だからこそフィンガーネットを温存し、キャタピラモードをひたすらに隠し、大雪山おろしの一撃で極めるタイミングを計った。しかし結果は闘龍鬼は両腕をパージし、大雪山おろしの勢いに乗って脱出を許してしまった。

 

「しくじったな……まぁ、しゃーねえ。シャインちゃんを助けれただけで御の字だろ」

 

ここで調子に乗って深追いすれば手痛い反撃を受けるのはこちらのほうかもしれない。それに三角鬼が口にした龍王鬼の名前――それは武蔵にハガネの窮地を教えた鬼の名前、このまま戦っていて龍王鬼が出て来たらと思えばシャインを救出した段階で撤退さぜるを得なかった。

 

「こいつが何かの参考になれば良いけどな……」

 

拉げてはいるが、完全に破壊されているわけではない。それに闘龍鬼は他の百鬼獣と明らかに構造が違っていた事から何か判ることもあるかもしれないと思い武蔵は闘龍鬼の残骸を回収して来たのだ。ハガネとシロガネはどっちに向かったかな? とポセイドン2の首を動かしていると目の前に純白のPTが舞い降りてきた。

 

『武蔵、おつかれ様』

 

「エクセレンさん。待っててくれたんですか?」

 

『まぁねん。王女様を早く安全な場所に連れて行かないといけないし、置いていった訳じゃないわよ?』

 

「はは、判ってますよ。よっと」

 

足の裏のブースターと背中に背負っている砲台から放出されたジェットでポセイドン2の巨体が浮かび上がる。

 

『今度のゲッター3は飛べるのね』

 

「まぁ、ドラゴンやライガーよりスピードは劣りますけどね。それじゃ、行きましょうか?」

 

『そうね、王女様も待ってるし、行きましょうか』

 

ヴァイスリッター・改に先導され、ポセイドン2はハガネに向かっていくのだった。ただ……武蔵とエクセレンがハガネに向かっている頃――ハガネ、それの艦長室は非常に重苦しい空気に満ちていた。

 

「……なんで武蔵様を置いて行ったんですか」

 

武蔵だけを残し、その場を離脱したダイテツとリーに怒り心頭という様子のシャイン。その小さな身体から溢れる怒気は凄まじい物で、その場にいる全員は思わず息を呑んだ。それほどまでの威圧感をシャインは放っていた、幼くとも一国の主。その覇気と威圧感は十分に女王と呼ぶに相応しい風格を持っていた。

 

「しゃ、シャイン王女」

 

「ラトゥーニは黙っていてください。私はダイテツ・ミナセ中佐とリー・リンジュン中佐に聞いているのですわ」

 

ラトゥーニが気を落ち着けるように声を掛けようとしたが、それすらもぴしゃりとシャインは両断した。

 

「御身の保護を最優先にしたのです。ノイエDC、そして百鬼帝国にリクセントを占拠された以上……御身を守る事を最優先にしたのです」

 

「……それは判ります。判りますが……武蔵様が戻るまで待つ時間はあったでしょう?」

 

本来のシャインならば、ダイテツの言い分が判らないと駄々を捏ねるほど子供ではなかった。しかしだ、リクセントを失い、そしてリクセントの住人、そして城の親衛隊やジョイスといった心の支えを失ったかもしれない恐怖を抱えているシャインにとって、武蔵とラトゥーニ、そしてライディースの3人が残された心の寄り所だ。取り分け武蔵がシャインの心を占めるウェイトは非常に大きく、納得行く理由が無ければシャインはダイテツとリーを批判し続けていただろう。

 

『エクセレン少尉から連絡です、通信を回します』

 

リーとダイテツがどうしようかと頭を悩ました時だった、通信兵から艦長室にエクセレンからの通信が入ったという報告が入ったのは。それは正しく天の助けだった、エクセレンは武蔵が浮上してくるまで待機し、共にハガネに帰還するようにと命じていた。つまりこのタイミングで通信を入れてくる理由は1つしかなかった。

 

『あーあー、えっとダイテツさん? 聞こえてます? あれ? エクセレンさん、これで良いんですか?』

 

『大丈夫大丈夫、通信機の所に緑のランプがついてるでしょ? ちゃんと通じてるわよ』

 

新西暦の通信機を使ったことが無い武蔵の困惑した声と明るいエクセレンの声が艦長室に響いた。

 

「武蔵様! 武蔵様はお怪我などは」

 

『だからオイラは王子様ってキャラじゃないって、オイラは全然平気だから心配ないぜ。シャインちゃん』

 

元気そうな武蔵の声を聞き、シャインの不安そうな顔が一転し、明るい笑顔になる。

 

『もうすぐそっちに戻れると思うから、えーっと? どれくらいでしたっけ?』

 

『30分くらいね、と言う訳で、私と武蔵は無事です。もう暫くしたら帰還します』

 

「了解した。道中の敵兵の奇襲や追跡を警戒し、敵兵に発見された場合は遠回りをして戻ってくれ」

 

リーの言葉に不満そうな顔をするシャイン。だがダイテツ達が最優先しなければならないのはシャインの安全の確保だ。シャインに睨まれたとしても、リーはこの意見を曲げるつもりは無かった。

 

『了解です。少し遅れるかもしれないけど、ちゃんと無事にハガネに戻るから心配はないから、シャインちゃんの安全の為なんだ。判ってくれるよな』

 

「は、はい……判りました』

 

不満そうでも武蔵に言われるとシャインは不服そうながらも頷いた。その姿を見るだけで、武蔵の存在がシャインにとってどれだけ大きいのかが容易に判った。

 

『リクセントの事は残念だけど……まだ大丈夫さ、きっと皆無事だ。シャインちゃんが無事で良かったよ』

 

一国の女王に対して、一貫して年下の少女として1人の少女として扱う武蔵は不敬と言われて当然だった。だがシャインからすれば、片意地を張らず女王としてではない。ただの少女として扱ってくれるからシャインは武蔵に心を開いていたのかもしれない。武蔵とシャインのやり取りを見て、ダイテツ達にはそう感じられた。

 

「国に残された者達のことを思ったら、良かったなんて……」

 

『いや、リクセントの皆もきっとそう思ってるに違いない、不安や悲しいかもしれないけど……それを無理に押し込めることはないと思うぜ』

 

武蔵のなんでもない一言一言がシャインの強固な心の殻を砕いていく、凜としていたシャインの顔に少しずつ、悲しそうな色が浮かんでいく。

 

『大丈夫かい? ごめん、近くに居ないのに勝手な事を言ったな……ごめん』

 

黙り込んだシャインに不躾な事を言ったと武蔵が謝罪するとシャインはハッとした表情を浮かべた。

 

「いえ、ありがとうございます。武蔵様のおかげで一国を預かる身として、これから何をしなければならないか……それが判りました。武蔵様……いつかそのお力を貸していただけますか?」

 

『オイラで良ければ力なんて幾らでも貸すよ。じゃ、悪いけどちょっと偵察機みたいのを見つけたから通信を切るよ。ダイテツさん、リーさん。すんません、少し戻るのは遅くなりそうです』

 

『という訳です。でも心配ないからね、私も武蔵もちゃんと追っ手はまいて帰りますので~』

 

武蔵とエクセレンの言葉を最後に通信は途絶え、艦長室に再び沈黙が広がった。

 

「……皆様。八つ当たりをしてしまい申し訳ありませんでした……皆様は私の事を考えてくれていたと言うのに……本当にすみません」

 

武蔵との会話で落ち着いたのか、シャインは自らの無礼をダイテツ達に謝罪した。

 

「いえ、シャイン王女のお怒りは最もです。どうかおきになさらず」

 

『我が連邦軍はアビアノ基地を中心として戦力を立て直し……ノイエDCに対し、 反攻作戦を敢行する予定です、その折りには必ずやリクセントの奪還をお約束します』

 

ダイテツとモニター越しではあるが協力を約束したリーの言葉にシャインは少し不安げな表情を浮かべたが、柔らかく微笑んだ。

 

「判りました。ご助力の程をよろしくお願いします。私も覚悟も決意を固めましたので」

 

覚悟と決意……余りに重い言葉にダイテツ達が眉を顰めるとシャインは立ち上がり、ラトゥーニの手を取った。

 

「ラトゥーニ、武蔵様が戻る前にタオルや飲み物を用意したいのです。手伝ってくれますか?」

 

「は、はい。でも王女、覚悟と……「参りましょう。武蔵様が戻ってきてしまいますわ」……ま、待って、待ってくださいッ!」

 

ラトゥーニの言葉を遮り、艦長室から逃げるように飛び出していった。

 

「艦長……覚悟と決意ってシャイン王女は何を考えているのでしょうか……」

 

「判らん。だが……泣き寝入りして終わるつもりはないようだな」

 

何かシャインが行おうとしていることは判っていたダイテツ達だが、それを指摘する前にシャインは逃げてしまった。武蔵に助力を頼んでいたことを考えると自力でリクセントを取り戻す為の算段を立てている様にダイテツには感じられた。

 

「リクセント、そしてシャイン王女の事も心配だが、まず我々はアビアノ基地へ向かう事を優先する。全てはアビアノ基地に辿り着いてからだ」

 

ダイテツはシャインの事に不安を抱えているテツヤとリーの言葉を遮り、アビアノ基地へと向かう事を告げるのだった……。

 

 

 

 

ハガネの格納庫で修理されているヴァルキリオンを見上げるユーリアとレオナの姿があった。

 

「隊長はこれからどうなさるおつもりなのですか?」

 

「そうだな。迎えを呼んで、エキドナと共にクロガネに戻るか、それともエルザム様達と合流するか……それともこのまま整備兵か何かに紛れ込んで連絡役をするか……だな。どの道、すぐには動くつもりはない。それよりも、レオナ。よく我慢したな」

 

「……本当は、私も飛び掛って行きたかった。全てのコロニーの住人の仇をこの手で打ち倒したかった……」

 

ぐっと拳を握り締めるレオナの肩に手を乗せるユーリア。その気持ちはユーリアも同じだった、エルピス事件で宇宙に住む者の多くが、家族を……そして友人を失った。コロニーに住む全て者の仇敵と言っても良いのがアーチボルド・グリムズという男だ。ユーリア自身も搭乗機があればアーチボルドに攻撃を仕掛けていただろう。

 

「ライディースがあれだけ冷静だったんですもの……私が激昂する訳には行きませんでした」

 

「……ライディース様だって冷静だったわけじゃない、武蔵が戻る前にタオルとスポーツドリンクを取りに行ったんだが……爪が皮膚を突き破って、酷い有様だった」

 

エルザムの妻――カトライア・F・ブランシュタインもエルピス事件で死んだ。しかもその引き金を引いたのはエルザムだ……愛する妻を自ら殺さなければならなかったエルザムの苦悩とライがブランシュタイン家を出奔する切っ掛けとなった。ブランシュタイン家の崩壊はアーチボルドのせいと言っても良い。誰よりもアーチボルドを憎んでいるライが、己の手の皮膚を突き破るほどに拳を握り締め、怒りで我を忘れそうになる己を律していたのだと知り、レオナは小さく目を伏せた。その時だった、コンテナの影からタスクがひょっこり顔を見せた。

 

「あ、いたいた。あのユーリアさん、あり? レオナちゃんも? 何か込み入った話をしてた? 邪魔だったらまた後で来ますけど……」

 

ユーリアを探していたらしいタスクはレオナに気付いておらず、その姿を見てトロイエ隊の隊長と部下と言う事で話をしていたのだと思い、邪魔なら出直しますよとタスクが言うと、ユーリアは大丈夫だと笑いかけた。

 

「いや話は終わっているから大丈夫だ。それで私になんのようだ? その様子を見ると随分と私を探していたのだろう」

 

レオナの反応から話が終わっていないとタスクはすぐに判ったが、後回しにする事も出来ない内容なので、頭をがりがりと掻きながら、小脇に抱えていたバインダーをユーリアに差し出した。

 

「えっとあのヴァルキリオンなんすけど……ハガネとシロガネの設備じゃ修理が難しいというか出来ないっす」

 

タスクが差し出したバインダーに挟まれた分析表を見て、ユーリアはやっぱりかと呟き、レオナは眉を細めた。

 

「貴方。一応でも整備兵上がりでしょう? 出来ないなんてよく言えましたわね?」

 

「いやいや、勘弁してよ。レオナちゃん、俺も勿論整備班の皆で頑張っても無理だったんだよ! あの新型のテスラドライブと、軽さと強固さを両立させた装甲とか! いや、本当にビアン博士ってマジモンの天才だったんだなって改めて思い知らされたんだよ」

 

ハガネとシロガネの整備班は非常に優秀だ。タイプの違うPTやAM、更には特機まで常に万全の形で出撃出来るように全員が全員、他の基地ならば専門家、班長を勤めるような優秀な人員が揃っている。だがそれら全員を含めても1人の天才――ビアン・ゾルダークには届くことが無かったのだ。

 

「ふむ……修理出来ないのならば分解して、パーツ取りをしたいと」

 

「なっ!? タスク! 貴方ユーリア隊長の機体に何を言っているんですの!?」

 

書類を読み進めていたユーリアの言葉を聞いてレオナが激昂し、タスクに詰め寄ろうとしたがそれは他でもないユーリア自身に止められた。

 

「ユーリア隊長?」

 

「修理も出来ず、嵩張るだけで置かれているのならば分解した方が意味もある。それに解体許可が欲しい理由がお前の機体の為だとあるぞ、お前の恋人は随分と尽くしてくれるじゃないか」

 

ユーリアの言葉にレオナがその手元を覗き込むと、確かにレオナちゃん専用機とでかでかと書かれ、マリオンがタスクに託したズィーガーリオンの図面を更にタスクがアレンジを加えた物が記されていた。しかしその後に相合傘やハートマークが書かれており

 

「な、なぁ! タスクッ! あ、貴方ユーリア隊長になんて物を!?」

 

「ヴァルガリオン・ズィーガーじゃなくて、ヴァルキリオン・ズィーガリオスの方が良かった?」

 

「違うわよ! この馬鹿ッ! 馬鹿ッ!!」

 

敬愛するユーリアにタスクが恋人と言われ、耳まで真っ赤にしてタスクの背中を叩くレオナの姿を見て、ユーリアは胸ポケットから取り出したペンで自分のサインを入れる。

 

「かまわない、どうせ修理できないのならレオナの為に使ってやってくれ」

 

「あざっすッ!」

 

「このッ! このッ!!!」

 

「痛い! 痛いってレオナちゃんッ!?」

 

タスクの背中を叩いてこそいるが、その顔は緩んでおり、照れ隠しなのがユーリアには丸判りだった。もしここに他のトロイエ隊のメンバーがいたら、裏切り者とかで大騒動になるんだろうなと想像していると今度はカチーナが顔を見せた。

 

「おいおい、痴話喧嘩してんな、整備の兵邪魔をするんじゃねえよ」

 

「「す、すみません!」」

 

カチーナの叱責にレオナとタスクが揃って謝罪の言葉を口にする。それから少し遅れて、ユーリアも頭を下げた。

 

「軽率だった。止めるべきだったな」

 

「あん? あートロイエ隊の隊長か、良いさ。あんたは確かに隊長かも知れねえけど、今は客人だ。こういう時に叱るのは上司の務めだ、あたしの仕事を取ってくれるなよ」

 

口調は荒いが、その言葉の中に上官としての矜持を感じ取りユーリアは更に謝罪の言葉を口にした。

 

「申し訳無い、部外者が差し出がましい真似をしたな」

 

「そうかたっくるしく考えなくて良いぜ。そうそう、もう武蔵が戻ったらしいぞ」

 

武蔵が戻ると聞いてユーリアの顔が僅かに緩み、コンテナの上のタオルとスポーツドリンクに手を伸ばしたのだが……ユーリアがそれを手に取る前にシャインの声が格納庫に響いた。

 

「武蔵様! おかえりなさい! タオルと飲み物をご用意してますわ!」

 

「おお、悪いなあ、シャインちゃん」

 

「いえいえ、ささ、どうぞこちらへ」

 

「っとと、そんなに引っ張らなくても」

 

シャインに右手を両手をつかまれ、ぐいぐい引っ張られ、武蔵は苦笑しながら格納庫を出て行き、その光景を見ていたユーリアはその場に崩れ落ちた。

 

「ゆ、ユーリア隊長?」

 

「だ、出し抜かれた……何故……エキドナならまだしも、何故シャイン王女にまで……」

 

Orzの格好でぶつぶつ言ってるユーリアの姿にレオナはリリーの手紙にあったぽんこつユーリアの意味を初めて知り、タスクはさっきまで凜としていた美女が急に残念になり、何とも言えない表情でレオナとユーリアを見て、口を開きかけては閉じて、結局何もいわなかった。

 

「なんだ、レオナ。お前の元隊長おもしれえな」

 

ただ1人カチーナだけが笑いながらレオナにそう告げて、レオナは苦虫を噛み潰したような表情でとりあえずユーリアを立ち上がらせようと、声を掛けるのだった……。

 

 

 

 

 

 

アギーハとシカログが必死に掃除をし、調度品を整えた一室でウェンドロと玄王鬼の身体を借りているブライが向かい合う。

 

『ほう、良い茶葉だ。香りも味も良いな』

 

「お褒めに預かり光栄だね、これはゾヴォークでも滅多に手に入らない物だからね」

 

『なるほどなるほど、それではますます仮初の身体ではなく、生身で君と合って話をして、この茶を味わいたい物だよ』

 

表面上は穏やかだが、2人の間にはピリピリとした雰囲気があり、下手をすればこの場で戦いに発達するようなそんな重苦しい雰囲気があった。

 

(勘弁してくれ)

 

その一室の中にいるメキボスはキリキリと痛み出した胃に天を仰いだ。メキボス自身も枢密院や会議にも参加しており、狸同士のやりとりには慣れているが、それを越える威圧感とプレッシャーに本当に勘弁してくれと思っていた。

 

「こちら大帝様よりの目録です。百鬼帝国、そしてダヴィーンの生き残りとしてこちらはこれだけの物を貴方に開示出来ます」

 

「どれどれ」

 

朱王鬼が差し出した目録にウェンドロは目を通す、最初は興味をなさそうにしていたが突如その顔色を変えた。

 

「このゲッター炉心というのはまさか本物かい? それともあのD2から奪い取るつもりかな?」

 

『こちらとてゲッター線の解析は続けているのだよ。まだ完成形ではないが、ゲッター炉心のレプリカの作成にも成功している。正し、これはとても稀少な物だ。判るだろう?』

 

ゲッター線を手にしたものは全てを支配する力を得る、もしくはその身を滅ぼされるというのは宇宙に住まう者全ての常識だ。少量でも膨大なエネルギーとなるゲッター線は喉から手が出る程に欲しいが、破滅するかもしれないと思えばそれを封じてしまいたいと思うのも当然だ。繁栄の為にそれを手にするか、それとも危険だからとそれを封じるか……それがゲッター線を手にした者がしなければならない選択だ。

 

(ウェンドロ――お前はそれをどうするつもりだ)

 

柔和に微笑んでいる……いや、ずっと前からメキボスには弟のウェンドロが何を考えているのか判らなかった。命を賭けて助けた事もある、だがウェンドロはその時に負った傷でさえ、くだらない情、感情で動いた愚か者の証と蔑んだ。メキボスには弟が己の理解の外にいることを感じていたが、それでも弟だからと情を捨てる事も出来なかった。

 

「まずはゲッター炉心があると言う証が欲しいな。ゲッター合金――それをまず少量でも良い、それを提供してもらいたい」

 

『少量と言わず、特機3体分を提供しようじゃないか、我が百鬼帝国の財力と技術力を見てくれたまえよ、朱王鬼、運搬はお前に任せよう』

 

ウェンドロの選択はゲッター線をその手中に納める事だった。判っていた事だ、それでもメキボスは弟の……ウェンドロの選択に落胆を隠せなかった。

 

「では後日私と玄王鬼がゲッター合金を運搬させていただきます。決して攻撃などをなさらぬように」

 

「そんなに警戒しなくても良いさ、友好な関係を築きたいのは僕も同じさ。さて今度は君の頼みを聞こうブライ。僕達は何をすれば良い」

 

笑みを浮かべて自分の要求を呑んだブライの頼みを促すウェンドロ。ブライはにっこりと笑い、地球の地図を広げた。

 

『どうせ近いうちに地球に降下するのだろう? その際に攻撃する所を指定したい』

 

「指定でもして待ち伏せでもさせるのかい?」

 

『まぁそれもありだろうね。君達の力を地球人に示すという最高の舞台だろう、まぁ負ければその限りでは無いが』

 

ウェンドロの挑発に挑発を返すブライ、一瞬ウェンドロが目を開き、腰を浮かしかけた。ブライはそんなウェンドロを見て優雅にカップに口をつけた。

 

『自分で挑発して怒るんじゃない、たかが知れるぞ』

 

「……ッ」

 

悔しそうな顔をするウェンドロを見てメキボスは素直に驚いた。ウェンドロのそんな顔を見たのは初めてだったからだ。

 

『まぁ話を戻そう。ここラングレーはATX計画という地球で進められている2つの計画の1つの主導となっている場所で、優秀な科学者や、最新の兵器の図面がある。そして更にここ、テスラ研は地球で最高と言える研究者や設備が揃っている。君達の欲しい物ばかりだろう?』

 

「そうだね。ここを制圧すれば良いんだね? 引き受けたよ。その後は今度は生身で会えるんだろう?」

 

『勿論、今度はワシ自ら挨拶に訪れることを約束しよう』

 

終始ピリピリとした雰囲気のままウェンドロとブライの会談は一時的にしろ終わりを告げた。だがブライにとってはこれからが本番だった。

 

「コーウェン、スティンガー。お前らの頼みは終わったぞ」

 

「いやいや、流石ブライ大帝ですな!」

 

「さ、流石ブライ大帝ですね!」

 

ブライの計画ではインスペクターとの会談はもう少し後の予定だったが、コーウェン、スティンガーとの取引で予定より早めたのだ。

 

「下らん世事は良い。ブラックゲッターの場所はどこだ?」

 

「ご安心ください、すぐに場所をお教えしますとも!」

 

ブライが求めて止まないゲッター合金、そしてゲッター炉心――それを手にする為のウェンドロ達との取引だった。しかしウェンドロとの交渉時にはブライの手元にはそれらの物は1つも無かった。しかしブライは巧みな話術を駆使し、手元に無い物をあるように見せかけウェンドロを自分の思い通りに動かして見せたのだ。

 

「先払いを忘れるなよ。態々ワシに手間をかけさせたのだからな」

 

「勿論。すぐにゲッター炉心をお届けします。いえ、ブラックゲッターの場所をお教えする前に先にお渡ししましょう。そうしようか、スティンガーくぅん?」

 

「そ、そうだね! コーウェン君! そうしよう!」

 

不気味な音を響かせながら会話を続けるコーウェン、スティンガーを一瞥し、先ほどまで脳内で話をしていたウェンドロの事を考えていた。

 

(無能か有能か……精々見極めさせて貰うとしよう)

 

ネビーイームで話をした時は無能な小僧という評価だったが、これからのラングレーへの攻撃への手腕でウェンドロの器を見極めてやると言わんばかりに鼻を鳴らし、コーウェンとスティンガーを警戒しつつ、これからの算段を頭の中で描き始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ヒリュウ改は執拗な統合軍の生き残りの攻撃に晒されながらも無事に大気圏を突破し、ラングレーへ向かって進路を取っていた。

 

「ヒリュウ改が14・00に我が基地で到着との事です」

 

「了解した。貴艦が無事に我が基地に到着することを祈ると返信を返してくれ」

 

クレイグの言葉にオペレーターが了解と返事を返し、電文をヒリュウ改に返信する。

 

「司令。ヒリュウ改を……」

 

「判っている。だが今ヒリュウ改を受け入れ出来る基地は我がラングレーしかない」

 

クレイグとて馬鹿ではない、今のラングレーにヒリュウ改とヒリュウ改のクルーを受け入れる余裕はない。キルモール作戦、デザートスコール作戦と続け様の連邦軍の作戦の失敗、そして未知の特機――伊豆基地のレイカーからの情報では百鬼帝国という旧西暦の侵略者の手勢と思われる凶悪な異形の集団の攻撃を受け、ラングレー基地は厳戒態勢を引かざるを得ない状況になっていた。

 

「しかし、それでは我が基地の機体の整備が……」

 

「最悪の場合を想定しているのだ。ヒリュウ改には我が基地に来てもらわなければ困るのだ」

 

クレイグの語る最悪の展開……それはノイエDCの侵攻、そして百鬼帝国の襲撃によってラングレー基地が占拠、及び壊滅する事を示唆していた。

 

「何を弱気な事を」

 

「良く考えてみろ、ラングレー基地はATX計画の主導をしている。貴重な試作機や情報を多数有している、それに加えてここを制圧すればテスラ研は目と鼻の先だ。敵が拠点として求める条件を全て満たしている」

 

弱気な事ではない、クレイグは冷静に、そして指揮官として考えうる全ての状況を加味した上でラングレーが落ちる可能性を……いや、ラングレーが再び落ちる現実を既に受け入れていた。

 

「再びラングレーが落ちるのですか……」

 

「……だろうな。だが無様に逃げるのではない、反撃する為に1度引くのだ。その為にヒリュウ改が今ラングレーに訪れてくれるこの幸運に感謝しよう」

 

輸送機を飛ばした所で張り巡らされた包囲網に引っかかり、迎撃される可能性の方が高い。貴重な試作機や情報をむざむざノイエDCや百鬼帝国に渡す訳には行かない。それゆえに不利な条件だとわかっていたが防衛を選択した、だがこうしてヒリュウ改が来ることで貴重な試作機、そして情報・人員を逃がすことが出来る最初で最後のチャンス……この窮地に追い込まれた状況でのヒリュウ改は正に希望の箱舟だった。

 

「博士達に脱出準備や情報を纏めるように通達、我々も必要最低限の設備を残し、製造ライン等の機能を必要最低ラインまで機能を縮小。

ラングレーを奪われたとしても敵に再利用などさせるな」

 

「「「了解!」」」

 

DC戦争、L5戦役を経て再興されたラングレー基地。それが再び落とされる事になる……この最悪の予想は予想ではなく、確実に訪れる1つの結末だと悟りクレイグは強く拳を握り締め、己の未熟さを悔いながら部下達にそう指示を飛ばすのだった……。

 

 

 

第71話 立ち上がる剣神 その1へ続く

 

 




オリジナルシナリオでラングレー基地とハゲのバトルとゼンガーが参式を受け取った当たりの話を付け加え見たいと思います。次回はハガネでのやり取りを少し、テスラ研のやり取り1つ、ゼンガーとエルザムの話とヒリュウ改の話を書きたいと思います。時系列! という突っ込みはなしで広い目で見てください。それと私の小説ではあんまり見ない、変わった感じのオリキャラも1人追加したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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