進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第71話 立ち上がる剣神 その1

第71話 立ち上がる剣神 その1

 

武蔵がハガネに戻ってきてからはシャインは武蔵にべったりで、あっちやこっちに武蔵を連れ回していた。武蔵自身も子供好きと言うのがあり、活発によく笑うシャインの姿が元気にダブりシャインの好きにさせていた。その影でユーリアがポンコツになっていたが……それはうん、レオナがきっと何とかしてくれていただろう……とりあえず一般男子高校生にとってユーリアを励ますと言うのは管轄外なのは確実だ。

 

「武蔵様。まだ居てくれていますか?」

 

「おうよ、いるよ」

 

だがシャインにも肉体的、精神的疲労が蓄積している。欠伸を繰り返すようになり、武蔵は最初シャインを部屋まで連れて行き自分の部屋に戻ろうと思っていたのだが、服の裾を掴まれシャインが眠るまで近くに居る事となった。武蔵はベッドの脇に椅子を置いて、手持ち無沙汰なので敷島博士の作ってくれたリボルバーを分解し、油を差して、磨いてとメンテナンスをしていた。

 

「……すみませんでした」

 

「何が?」

 

突然の謝罪の意味が判らず、武蔵は口に咥えていた工具を机の上に置いて、シャインに視線を向けた。

 

「その……あちこちとつれまわしてしまって、迷惑だったでしょう?」

 

「いや、別に?」

 

シャインにとっては自分の行動は恥ずべき、そして武蔵に迷惑を掛ける行為だった。だが武蔵からすればシャインの行動は子供の我侭程度位の認識でさして気にする事でもなかった。

 

「オイラからみればシャインちゃんの方が心配だよ。大丈夫かい?」

 

「……私は大丈夫だも……ですわ」

 

国を奪われ、国の住人の安否も判らない……12歳の少女が背負うには余りにも重過ぎる。だから武蔵はシャインのその重荷を少しでも軽くしてあげようと、安心感を与えようとした。その一言がどれほど残酷な物かも知らずに……。

 

「泣いても、怒っても良いんだ。大丈夫誰にも言わないから、約束するよ」

 

約束という言葉が武蔵の口から出た時――シャインはベッドから身体を起こし、その小さな拳を武蔵の背中に叩きつけた。

 

「嘘ついた! 武蔵様は嘘をついたもん! 帰ってくるって、また来てくれるって! 言ったのにッ!! 嘘つき、嘘つきッ!!!」

 

シャインの泣きながらの行動に武蔵は目を見開いて、そのまま振り返る事が出来なかった。

 

「待ってたのに……待ってたのに……嘘ついた……死んじゃったって……皆言ったもん!! 私ずっと寂しかった! 悲しかったッ!!!」

 

武蔵は約束を確かに破っていた。それからだ、シャインは約束という言葉に強い嫌悪を抱くようになった。約束と言って去っていった武蔵が戻って来なかった事をどうしても思い出させるから……そして武蔵から約束という言葉が出た事で、心の中に封じていた感情が発露してしまった。

 

「……ごめん」

 

泣きながら武蔵の背中を叩いていたシャインは武蔵の搾り出すような謝罪の言葉にハッとした表情になった。

 

「ち、違いますわ……ごめんなさい、ごめんなさい。わ、私そんなつもりじゃなくて……」

 

「いや、悪いのはオイラだ。ごめん……オイラは多分……何にも判ってなかったんだと思う。ごめん、ごめんよ」

 

旧西暦で竜馬、隼人、弁慶の3人と思いっきり喧嘩をして、己の本音をぶちまけて殴り合いをした。その時に自分の行動がどれだけ竜馬達を傷つけていたのか知った。

 

そしてあちら側ではアインストに寄生されたキョウスケと相打ちを覚悟して、ドラゴノザウルスの口の中に飛び込んだラトゥーニを、動力が暴走したエクサランスをただ見ていることしか出来なかった……遺される者の苦しみと悲しみを初めて知った。

 

リュウセイ達が平気そうにしているから自分は誤解していたのだと、幼いシャインだからこそ、自分の感情を押さえ込む事が出来なかった。今目の前に広がる、シャインの泣き顔に自分がどれほど残酷な事をしたのかを思い知ったのだ。

 

「武蔵様は悪くない、違うの……違いますの、私……私……」

 

朗らかに笑っている武蔵の顔が歪み、苦しそうにしているのを見てシャインは罪悪感に押し潰されそうだった。そんな事を言うつもりはなかったのだ……自分の感情に身を任せ口にしたたった一言が武蔵を深く傷つけたと思い、その顔から血の気が引いた。

 

「ごめん、もう信用出来ないと思うけど、もう1回、もう1回だけオイラと約束をしよう。リクセントは絶対取り戻す、百鬼帝国なんかにオイラは負けないッ! 絶対に絶対だ。んでその後に、またリクセントを見て回ろう。そうだな、今度はお祭とか、遊園地とか行って楽しい事をしよう。あれ? これだと2つ? いや3つ?」

 

自分で言っておいて1つじゃないと気付き、困ったような顔をする武蔵にシャインは思わず噴出した。

 

「へ、変な武蔵様」

 

「は、はは、だよなあ。オイラもそう思う」

 

武蔵とシャインは暫くそのまま笑いあい。笑い声が止まった時、2人自然と小指を互いに向けていた。

 

「「ゆーびきりーげんまん、嘘ついたらはりせんぼんのーますッ! 指切ったッ!」」

 

誰も見ていない武蔵とシャインだけの約束――武蔵はこの約束を破るまいと、絶対にもう悲しませないとシャイン達だけではない。リュウセイ達も、そしてあんな悲劇を起させまいと、アクセル達も止めてみせると心に誓った。

 

「眠るまでいてくれますか?」

 

「いるよ、大丈夫。ゆっくり眠りな、シャインちゃん」

 

改めてベッドに入り不安げに自分を見つめるシャインに武蔵はそう微笑み返し、その頭を撫でた。このなんでもない子供扱いが王女として重い重圧を背負っていたシャインには何よりも暖かく、そして失い難い大切なものなのだった。心から安堵した表情で眠るシャインを見て、武蔵は立ち上がろうとしたが服の裾をしっかりと掴まれているのに気付き、小さく苦笑した。

 

「しゃあねえなあ」

 

手を伸ばして折り畳まれていたシーツを掴んで引っ張りよせ、武蔵は椅子に背中を預けたままシーツを身体に巻きつけて眠りに落ちるのだった……。

 

 

 

 

 

その日コウキの姿はテスラ研に無く、テスラ研初代所長――つまりビアンが趣味で作成した地下研究所にあった。モニターで外を確認していたコウキはライノセラスが近づいてくるのを確認し、マイクに口を向けた。

 

「そのまま進んでくれ、こちらが合図したらリフトで地下で回収する」

 

廃れた渓谷の間の研究所に来るのはこの場所を知っている人員だけだ――つまりジョナサンに言われている客人だけがこの場所に訪れる。リフトでライノセラスを地下に回収し、出迎えの為にコウキは制御室を後にした。

 

「ゼンガー・ゾンボルト、エルザム・V・ブランシュタイン、バン・バ・チュンで良いか? ようこそ、地下研究所へ」

 

軍属ではないコウキはゼンガー達に敬語を使う事もなく、普段通りの口調で声を掛けた。

 

「コウキ・クロガネ氏かな?」

 

「ああ。そうだ。俺がコウキだ、カザハラ博士から話は聞いている。さっそくフィッティングを始めたいのだが……少し休んでからにするか?」

 

コウキとすれば百鬼帝国が動き回っている中で長時間テスラ研を空けるつもりは無く、用が済めばすぐにでもテスラ研に戻りたいと思っていた。キルモール、デザートスコールからアメリカ全体が非常に騒がしくなっている。この混乱と争乱に紛れて百鬼帝国が動き出す危険性をコウキは考えていた。まだ完成とは言いがたいが7割ほどは仕上がっている鉄甲鬼の仕上げも進めたかったと言うのもある。

 

「いや、始めてくれ、俺達も今の北米の嫌な流れは感じているからな。出来るだけ急いで欲しい」

 

「どれくらいで調整は済みそうか?」

 

だがエルザム達もこの重苦しく、まるで沼の中に足を踏み入れたような粘着的な重圧を感じており、引渡しがすぐに済むのならばそれに越した事はないと考えていた。

 

「2時間から3時間と言う所だな、こっちだ。作業を始めよう」

 

エルザム達を地下研究室の奥にある特機のハンガーの前にコウキは案内し、壁のスイッチを押して格納庫の中の機体をライトアップした。

 

「これが新しいグルンガストか」

 

黒と青を基調にしたカラーリングをした鋼の巨人というべき機体を見て、ゼンガーはその目を輝かせた。

 

「グルンガスト参式の2号機だ。本来は2人乗りの所を1人乗りに改良している、試験的だがゲッター線で稼動しているから空も飛べる。ただその分扱いは難しくなっているがな」

 

SRX計画によって建造された新型のグルンガスト参式はGラプター、Gバイソンの2機が合体し完成する特機だ。何故可変・合体式にしたかというと、グルンガストの巨体さ故にメンテナンス、修理に掛かる時間を2機に分割することで円満に行い、緊急時には分離し、Gラプターによる逃走までを加味し、特機であるグルンガストのメンテナンス効率を高め、特機の弱点である長時間のメンテと修理効率の向上を目指した機体である。

 

「ゲッター線で稼動しているのか……このグルンガストは」

 

「あくまで試験的で試作型のゲッター炉心だ、最初からフルドライブで稼動させている訳ではない。お前の武器、斬艦刀を使う時だけ、それをトリガーにしてゲッター炉心が稼動するように設定してある。通常時は改良型のプラズマジェネレーターだ」

 

ゲッター炉心で稼動しているグルンガスト参式を見上げ、感慨深い顔をしているゼンガー。ビアンだけではなく、テスラ研もゲッター炉心を実用段階にしているのに驚くのと同時に、ゲッター線の力があれば百鬼獣にも負けないと闘志を新たに燃やしていた。

 

「ゲッター炉心を搭載しているのは良いが、もう1つのコックピットは潰しているのか?」

 

「ああ、残すことも1度は考えたんだが……ゼンガーをサポート出来るパイロットはいないだろうと思ってな。役に立たない操縦系を残して、スペースを消費するならその分開いたスペースに色々と細工をしてある」

 

バンの問いかけにぶっきらぼうに返事を返しながら、コウキはグルンガスト参式のフィッテイング作業を始める。

 

「俺はどうすれば良い?」

 

「とりあえずコックピットに乗り込んでくれ、こっちでそっちの反応にあわせる。コックピットはグルンガスト零式と同じだ」

 

コウキの言葉に頷き、ゼンガーはタラップを上りコックピットの身体を滑り込ませる。

 

「バンとエルザムはあっちの格納庫にある修理物資や武器を積み込んでくれ」

 

ジョナサンが手を回し用意しておいた補給物資などを積み込んでくれとコウキが言うが、エルザムとバンは格納庫の一角を見たまま動かなかった。

 

「どうした? 何か興味がある物でもあったか?」

 

今回はグルンガスト参式を搬入しているが、本来はここは表に出せないつまり、技術者が暴走し作り出した不安定な試作機などが安置されている場所である。その中にバンとエルザムの興味を引くものでもあったか? と尋ねる。

 

「あれはガーリオン用のパーツに見えるのだが、私のガーリオンに搭載出来るか?」

 

「あれか、搭載出来なくも無いが……手持ち火器が使えなくなるぞ? 一応あれにも、簡易的な武器は搭載しているが……やめておけ、常人はあれを利用したソニックブレイカーを使えば意識が飛ぶぞ」

 

何処かの馬鹿が閃いた物――ガーリオンの両肩に装備されている力場誘導子装置を武器にすれば破壊力増すんじゃないか? という馬鹿みたいな発想で作られた物だ。確かに破壊力は増したが、その代りに手持ち火器は使えない、肩部腕部とリンクさせて破壊力を倍以上に増させたソニックブレイカーは強力だが、パイロットを気絶させると言う半ば呪われた仕様となっている。

 

「バン大佐はゲッターロボのシュミレーターをクリアしている。Gなどの問題は解決していると思うのだが……」

 

「何? あれをクリアしたのか?」

 

「ああ、エルザムとゼンガーも同様だ。現に私、ゼンガー、エルザムでゲッターロボを運用したこともある。1・2・3と連続合体と分離、戦闘まで実機でこなしている」

 

新西暦でゲッターロボを合体させ、戦闘までさせれる人間がいると聞いてコウキは眉を細めた。しかしだ、その通りならばこれから激しくなるであろう百鬼帝国の襲撃に対応出来る鬼札になるかもしれないと口元に笑みを浮かべた。勿論話をしている間もコウキの指は動き続け、グルンガスト参式の設定を続けている。

 

「良いだろう、それなら誰も使えないでお蔵入りしていた武装や試作品のパーツを出す。お前達の機体をこっちに運び込んでくれ、装備させるかどうかは其方の判断に任せる」

 

コウキの言葉に頷き、ライノセラスに引き返していくバンとエルザムを見送り、ジョナサンとフィリオの2人にすぐに戻れないと言う旨の

連絡を入れるのだった。

 

「……しかし、これはある意味渡りに船だったかもな」

 

今テスラ研で開発されているリクセント公国からの依頼の機体――コウキにとって悪夢としか言いようの無い機体の開発に協力しなくて良いと判り、コウキは目に見えて安堵の色のその顔に浮かべ、作業を再開するのだった。

 

 

 

 

一方その頃テスラ研とフィリオとジョナサンは最終調整に入ったPTの中でも更に小さい2体の特機を前に満足げに頷いていた。

 

「フェアリオン・タイプGとSもこれで完成ですね。カザハラ博士」

 

「ああ、我ながら最高の出来だ……女性職員にはずいぶんな目で見られたがね」

 

リクセント公国からの依頼でヴァルシオーネと同じ技術を使い、シャイン・ハウゼン、ラトゥーニ・スゥボータの2人の顔を取り込み、その顔を元にモデリングしたフェアリオンは妖精の名が示す通り、可憐な妖精その物の仕上がりだとジョナサンは満足そうに頷いた。

 

「しかし苦労しましたね。このドレスに見える対物理、対ビームコートに加えてシャマーの機能までつけたこの特殊装甲にはかなり苦労させれましたよ」

 

「ああ、だが苦労した甲斐はあったよ。一応戦闘にも耐えれるように設計はしているがあくまでこれは祭典用だが、それでもだ。手抜きをする事は出来なかったからな」

 

リクセント公国とて自分達の国の王女と同じ顔をした機体を戦闘に使うなんて言う真似はしないと言うか、出来ない。あくまで祭典用の物で武装は必要ないと言う話だったが、自衛の為の武装をいくつか搭載し、攻撃力よりも防御と回避に力を置き、飛行した時に幻想的なきらめきを伴って飛ぶ魅せる為の機体だ。

 

「出来ればこの機体の隠し能力を使う事にならなければ良いですね」

 

「……ああ。だがリクセント公国がノイエDCに制圧されたと考えるとそれも叶わぬ願いかもしれんな、私はシャイン王女の慧眼に感心するよ」

 

本来のフェアリオンは祭典用で武装を一切搭載していなかった。それにシャインがストップを掛け、公国親衛隊の旗機としての役目も与えられた。ただ、リクセント公国は特別自治区であり、法律でリクセント公国は自国の意思による戦闘用機動兵器の開発が不可能となっている。プロジェクトTD・シリーズ77の派生機として開発した式典用機体と言う抜け道を通り開発されたのだ。

 

「まぁこれを兵器と思うものは居るまい」

 

「……ですね」

 

見た目は本当に美少女その物だ。しかもヴァルシオーネの物を流用している為笑顔や泣き顔と言った物まで再現出来ており、式典時はドレス、戦闘時はその上にアーマーを装着すると言う独自のシステムも多数しようしている。

 

「後は最後の仕上げだが、コウキはまだ戻らないかね?」

 

「そろそろ戻ってくる頃合なんですけどね?」

 

そろそろ戻ってくる筈のコウキを交えれば3人となり、より正確なデータが取れる。

 

「ツインテールは譲れませんね」

 

「良い加減にしたらどうだフィリオ。シャイン王女と同じく縦ロールだ」

 

今まで和やかだったジョナサンとフィリオの間に嫌な空気が広がる。今フェアリオンの髪はストレートで流されているが、それを縦ロールにするか、ツインテールでするかでフェアリオンは完成寸前の所で留まっていた。

 

「フェアリオンはシャイン王女がモチーフなんだ。ならばツインテールはおかしいだろう?」

 

「いえいえ、ツインテールの方が少女特有の美しさが映えます」

 

「判らんやつだな、アイドルという物は容易に触れてはならない、あれは聖域なんだ」

 

互いに譲れないアイドルの存在像――フェアリオンの最後の仕上げ、それはその美しさを決める髪形の問題だった。

 

「私はフィリオの言うゴシックロリータ風のドレスを良しとした。ならば髪型は私の意見を聞いてくれるべきではないかね?」

 

「ゴシックロリータだからこそツインテールが似合うと何故判らないんですか」

 

フィリオはジョナサンを裏切り、DCに参戦したと言う負い目がある。だから普段は決してジョナサンの意見に反発する事はない……だがこれだけは、これだけはどうしても譲れなかった。

 

「ツインテールです!」

 

「いいや、縦ロールだッ!」

 

フェアリオンはPTサイズのフィギュアと言っても良いほどに生身の少女に近かった。その華奢な身体は触れれば壊れてしまうのではないか? という繊細さを持ち、赤と紫を基調にしたドレスは見る角度によってその輝きを変え、神聖さを醸し出していた。少女特有の美しさをツインテールか、それとも高貴さを演出する縦ロールか? この問題は非常に深刻な問題だった。

 

「「このアイドルオタクがぁッ!!」」

 

互いに互いを指差し罵倒する。オタク属性にとっての最大の禁忌――「解釈違い」がフィリオとジョナサンの間にはマリアナ海溝よりも深い亀裂として存在していた。

 

「コウキが戻れば、2-1になります。それで決めましょう」

 

「良かろう」

 

フェアリオンの髪形を決める討論に巻き込まれたくないコウキが調整が終わるまで戻らないという連絡が入り、このままでは何時までも髪形が決まらないそう判断したフィリオとジョナサンはある機械を格納庫にセットした。それは矢印のついたマットと画面、そして音楽を鳴らす為のスピーカー……。

 

「ハイスコアバトルです」

 

「難易度は勿論最大、1ミスでもすればその瞬間に負けだぞ?」

 

「それくらいでなければこの勝負は決まらない」

 

これ以上に無いと言うほどに緊張感に満ちた表情のジョナサンとフィリオはテスラ研地下の格納庫でフェアリオンの髪型の決定権を賭けた仁義なきダンスバトルを始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ラングレー基地に到着したヒリュウ改のクルー達はラングレー基地の状況を見て、眉を潜めた。あちこちにトーチカが建造され歩兵の襲撃に備えている有様だったからだ。レフィーナやショーンがクレイグに話を聞きに言っている間、ラングレー基地の整備班によって機体のメンテナンスと修理を受けることになったのだが、ピリピリしている雰囲気に加え、トーチカとラングレー基地は異様な有様だった。

 

「これどういう事っすかね? ラングレーってこんな感じなんですか?」

 

初めてラングレーを訪れたアラドはこれが普通なのか? とギリアム達に尋ねる。

 

「いや、こんな事はあり得ないのだが……敵の進撃がここまで進んでいると考えるべきか……」

 

「トーチカを建造している理由は多分バイオロイドかしらね」

 

インスペクター側の兵力であるバイオロイド――その襲撃に備えてのトーチカと考えると今ラングレー基地は激戦区となっていると見て間違いない。

 

「となると、レフィーナ中佐達の話は長引くかもしれないな。しかしこの情勢でラングレーが落ちる前にこれたのは幸運だったな」

 

「ええ、それ所か私達も出撃を念頭に入れておくべきかもしれません」

 

ラングレー基地は北米の要だ。百鬼帝国にしろ、ノイエDCにしろ制圧されてしまえば、北米は完全に敵勢力に落ちる。この様相を見て、リンとラーダは良いタイミングで来れたと考えていた、ラングレー防衛の力になれるからだ。

 

「なら私達は少しでもヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの調整を進めますか」

 

「そうだな。戦力は多い方が良い」

 

「ヴァルシオーネも修理が済んでるし、あたしもやるよ」

 

「いやいや、勘違いしたら駄目だヨ。貴方達のお仕事はATX計画の機体の回収なのサ!」

 

完全にラングレーの防衛に参戦するつもりだったギリアム達だったが、それに待ったを掛ける人物の声が響いた。その声の聞こえたほうにリューネ達が視線を向けるとコンテナの上に立つ小柄な少女の姿があった。

 

「ふべえッ! 足! 足がグニってなっタ!」

 

その上から飛び降りた少女は着地に失敗し、思いっきりグネッた足首を押さえて、すすり泣いていた。

 

「誰これ?」

 

「ず、随分と個性的な人っすね?」

 

喋り方も、行動もなにもかもがおかしい。そんな人物の登場にリューネとアラドは変人を見る目で胡坐をかいている少女に視線を向けた。

 

「ラルトスなにやってるの?」

 

「お、おおー! リオ! いやあ初見の人がいるからインパクトが大事だと思ったのサ! だがラルちゃんの運動神経ではジャンプして着地が無理だったのサ☆」

 

「あ、あの怪我するよ?」

 

「心配してくれてありがと、リョウト。でももう手遅れなのサ! 思いっきり足を挫いてるからネ! リョウトにはせめて跳ぶ前に言って欲しかったネ!」

 

「随分と親しそうだが、知り合いか?」

 

リョウトとリオが普通に声を掛けているのを見て、ヴィレッタは驚いた表情で2人に知り合いなのか? と尋ねると、額に手を当てていたリンが溜め息を吐きながら、格納庫に座り込んでいる少女を指差した。

 

「ラルトス・パサート。一応うちの開発スタッフだ、ATX計画の兵器の設計や開発をしているのでラングレー基地に2ヶ月ほど前に派遣したんだ。だがこの通りの変人だ」

 

行き成りの奇行で悪い意味で度肝を抜いてくれた、艶やかな銀髪を三つ編みにし、褐色の肌に瓶底のような見ただけで度が凄まじくキツイ眼鏡をして、だぼだぼの白衣を着た少女はヨッと言って軽やかに立ち上がり、小指と薬指を折り曲げ、親指、人差し指、中指を伸ばして変則的なピースサインを作り、その場でくるりと回転し、下から見上げるように全員の顔を見て、顔の横で変則ピースサインをする。

 

「残念系インテリ美少女研究者ラルちゃんだヨ☆ よっろしくう♪ 「お前はもう少し普通にしろ、初対面の人間に対する挨拶や礼儀、マナーを覚えろとあれだけ言っただろう」 いだあ!? しゃ、社長! 割れる! 頭が割れるウ! イダダダダダッ! シショー、マリーシショーッ! 愛弟子の頭がかち割られそうだヨ!」

 

リンに頭を鷲づかみにされマリオンに助けを求めるラルトスだったが、その助けを求めたマリオンはと言うと……。

 

「エンジンにリミッターを併設しましょうか。もう少し熱量を下げないと安定して稼動は難しいですわよ」

 

「サブ動力の出力を調整するか」

 

カークと共にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの調整を始めており、ラルトスの助けは完全無視をしていた。

 

「冷たい! 流石マリーシショー冷たい! サスマリ! あいだだだあぁぁああああッ! ごめんなさいごめんなさい! 社長! ゆるしてええッ!!!」

 

無言で頭を更に万力のような力で締め上げられ、ラルトスは謝罪の言葉を泣き叫ぶ。ギリアム達は変人という言葉で片付けることの出来ない奇人の姿に何とも言えない視線を向けるのだった……。

 

 

 

お・ま・け

 

ハガネの食堂の一角では何とも言えない凄まじい光景が繰り広げられていた……その光景に食堂にいる全員が何とも言えない顔をしていた。

 

「こっちですわ」

 

「……こっち」

 

シャインとエキドナが睨み合っている。その光景を普通の観点から見れば大人が子供相手にムキになっている……非常に大人気ない光景なのだが、エキドナが記憶喪失であることと精神年齢が大体10歳前後と言う事で奇跡的にこの喧嘩は成立していた。

 

「武蔵さんはお魚より、お肉です」

 

「肉ばっかりは体に悪いってリリーが言ってた」

 

猫の鳴き声がどこから聞こえてきた。武蔵が格納庫でブリットと訓練をしている間に昼食の注文をしておいたら喜ぶと思って動いたシャインと、いつもの事なので用意に来ていたエキドナが完全に激突していた。

 

(誰だ、あれ……本当にW-16か? 姿だけがW-16とか言わないよな?)

 

自分の知っているエキドナと違いすぎるとラミアは困惑し、姿が同じだけで実は別人ではないか? という疑惑を抱いた。

 

「武蔵ってなにやったんだよ。王女様はわかるぜ? でもあれはなぁ?」

 

「いや、同意を求められても困るのですが……」

 

シャインが武蔵にぞっこんなのは判る、武蔵の行動は余りにも劇的だったからだ。ドラゴンに生身で組み付いて、彼女を救い出し、リクセントが鬼に襲われた時は変装してでも助けに来ていた。シャインにとって武蔵は理想の王子様そのものである、だがエキドナは何でだよとイルムは思わずにはいられなかった。

 

「声掛けてビンタされたんだから諦めろや」

 

「カチーナ中尉。そういうこと言わないでくれるか? 俺はただうろちょろしてると危ないって言っただけでな」

 

「お前の言葉の中に身の危険を感じたんだろ? まぁあたしもどうなってんだよって思わなくも無いが」

 

武蔵の取りあいになっている光景はなんで? と思わずにはいられない光景だった。武蔵は確かに優しくて頼りがいはあるかもしれないが、格好良いとか、決して女受けするタイプではない。

 

「まぁ中身を気にするタイプにはもてるんじゃない? 王女様には王子様だし? というかあれ、あっちは良いの?」

 

エクセレンが武蔵も罪作りよねと笑いながら、食堂の隅を指差した。そこにはエキドナとシャインとはまた違ったベクトルの暗黒のオーラが発生していた。

 

「……」

 

「あの、ユーリア隊長? 大丈夫ですか?」

 

「……私はいつもこうだ。出し抜かれている……」

 

シャインとエキドナの喧嘩に割り込んでいく勇気とかガッツがないユーリアは机に突っ伏し、ぶつぶつ言っていて、レオナがそれを慰めているが、恨めがましい視線が向けられる。

 

「残念な隊長は可愛いですって言われた私の気持ちが判るか? いや、判る訳が無いな。お前はしっかり男捕まえてるしな、レオナ。ここにトロイエ隊の皆がいてみろ。お前は裏切り者だ、我々は出会いなど無いのだぞ? 判るか?」

 

「……あの、何の話でしょうか?」

 

素面なのに完全に酔っ払いの乗りのユーリアは、まるで仕事に打ち込みすぎて婚期を逃したOLのような……そんなくたびれた様子だった。

 

「「「あいつ本当に何をやったんだ?」」」

 

半年の間に何があればこんな地獄絵図みたいな光景を作り出せるのか、イルム達は武蔵が何をしていたのかが心底気になっていた。

 

「ぶえっくし!」

 

「なんだ? 武蔵……風邪か?」

 

「やっぱり動いてすぐモーションデータの分析が良くなかったんじゃないか?」

 

「かなぁ? ちゃんとタオルで汗は拭いたつもりなんだけど……」

 

自分がまさか噂されているとは知らず、武蔵は風邪かな? と首を傾げた。空調で温度が整えられていても、シーツを巻きつけて寝るだけじゃ無理があったかな? と呟いていた。

 

「分析なら私達がやるから武蔵はお昼食べて来ても良いよ?」

 

ラトゥーニがそう言うと武蔵の腹が大きな音を立てた。武蔵はなははと恥ずかしそうに笑い出した。

 

「んじゃまあ、お言葉に甘えて来るよ。んじゃなあ」

 

今日の日替わりは何かなあと鼻歌混じりで食堂に足を向けた武蔵だったが……

 

「武蔵さん、お肉の方が良いですよね!?」

 

「魚だよな?」

 

「ええ? 何の話?」

 

そこでシャインとエキドナに詰め寄られ目を白黒させる事となるのだった……。

 

 

 

第72話 立ち上がる剣神 その2 へ続く

 

 




オリキャラ追加、ハイテンション系変人科学者、ちなみにこの子がアルトアイゼン・ギーガの設計者だったりします。次回はそこを触れて、レフィーナ達の話を書いて戦闘に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。なお「お・ま・け」は私の気分次第なので偶にはいるくらいだと思っていてください。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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