進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第72話 立ち上がる剣神 その2

第72話 立ち上がる剣神 その2

 

ギリアム達が格納庫でラルトスの洗礼を受けている頃、ラングレー基地の司令室ではレフィーナ、ショーン、クレイグの3人が顔を見合わせていた。しかしレフィーナの顔はクレイグの発言を信じられない、自分が聞き違えたのではないかと言わんばかりに驚愕に歪められていた。

 

「クレイグ司令……ラングレーを放棄するって本気なのですか?」

 

「……最悪の場合を想定しているだけと言えれば良かったんだがな……正直ラングレーに敵の進撃を食い止めるだけの余力はないのが現状だ。その前にヒリュウ改が来てくれた事でATX計画の機体や、設備をラングレーから運び出せるからな。それだけでも我々は成し遂げなくてはならない」

 

防衛しきれない事は明白なのだ。無理な防衛戦を行い、負傷者や死傷者を出しては意味が無いのだ。

 

「……英断ですな。クレイグ司令」

 

「ショーン少佐に言われると少しは肩の荷も下ります。1度逃げはしても、私は戻ります。必ず、ラングレーを取り戻す」

 

「その為には臆病者と言われることも、泥を啜る覚悟もある。流石はグレッグ司令のご子息ですな」

 

基地を放棄する……その決断を下すまで悩んだろう、何とかならないかと様々な策を対処法を必死に考えたことだろう……そしてその上で基地を放棄するしかないと言う決断を下すまでの苦悩……それらを全て察すればショーンは抗戦を告げることが出来なかった。

 

「まだまだです。私は父の足元にも届いていない……だがここで勝てぬ戦をし、部下を死なせ、己も死ねば父に叱られる。将とは、部下の命を預かり、そして仮に死なせるとしても無意味な死をさせてはならない。己の誇り等は捨て、反撃に備えるしかないのです」

 

唇をぐっと噛み締め、激情を己の胸の内に飲む込むクレイグの姿を見て、ショーンは改めて若いが素晴らしい司令官だと認めた。

 

「……判りました。我々はどうすれば良いのですか?」

 

「まずはATX計画の機体とそれらに関係する機体をヒリュウ改へ積み込んで欲しい。ヒリュウ改が共にいてくれれば輸送機も飛ばせる。

其方に負傷兵達を乗せラングレーを脱出する」

 

ヒリュウ改の速度はかなり落ちるが、E-フィールドを展開したまま進む事でラングレーの旧式の輸送機での脱出も可能になるだろう。

 

「判りました、ですがそうなるとテスラ研も回る必要がありますね」

 

「ああ。ラングレーが落ちると言うことはテスラ研も危険だ。一応は警備隊などが配置されているが、それも100%とは言えない。ラングレーを脱出後は速やかにテスラ研へ向かいたい……」

 

そこまで言った所でクレイグが口を紡ぎ、その顔に苦渋の色を浮かべた。

 

「理想論と言う事ですな?」

 

「その通りです。ショーン少佐……これはあくまで私達にとって都合のいい展開です。脱出に手間取るかもしれない、いや脱出すら出来ないかもしれない……テスラ研も同時に攻撃されるかもしれない。我々は既に袋小路に追い込まれているのです……」

 

ノイエDC、そして百鬼帝国の攻勢は激しく、このラングレーからの脱出も難しいかもしれないという事実をクレイグに告げられ、レフィーナは驚きに目を見開き、そしてショーンは口髭を無意識に撫で、この状況をどうやって打破するか、そして全員で無事に脱出する方法に思考をめぐらせた。

 

「まだ敵の反応はないので休める時に休んでおいてください。少なくとも5時間……いや8時間ほどの時間的余裕はあるはず。お恥ずかしいことですが、ラングレーの戦力は殆ど残されておらず、脱出には貴方方の力を借りるしかない。どうか私達に力を貸してください」

 

深く頭を下げるクレイグのその姿を見ればどれだけ追詰められているのかと一目で察して余りあった。

 

「頭を上げてください。クレイグ司令、大丈夫です。私達も全力を尽くします」

 

「安全に脱出する為にも、作戦を練る必要がありますなあ。それに敵にこのラングレーを利用させない為の仕掛けもですがね」

 

残された時間はさほど多くはない、だがそれでも脱出の為に、そして今は逃げても必ず反撃に出る為に、レフィーナ達はクレイグに力を貸すことを了承するのだった……。

 

 

 

 

鼻歌交じりで作業をしているラルトスという少女は最初のおかしな言動は鳴りを潜め、作業をしている時はそのマオ社のスタッフとして雇われているだけあり、その作業は早くそして正確だった。しかしだ、ギリアムには言葉に出来ない違和感……というよりかは不信感があった。

 

「あの子、やっぱり引っかかる?」

 

「ヴィレッタ……ああ。俺の勘と根拠はないものなんだがな……どうも不気味だ」

 

瓶底眼鏡で見えない目のせいなのか、それともその人の神経を逆撫でする妙に高い声なのか、それともエクセレンのようにふざけることで己の本質を見せまいとするその態度か……根拠も証拠も何もないのに、ギリアムにはラルトスと言う少女は不気味で、恐ろしい存在に見えた。

 

「私もそう思うのよね。なんなのかしら、あの子」

 

ノイエDCと百鬼帝国の襲撃によって窮地に晒されていると言うこと、そしてラングレー基地を放棄し、脱出することを聞かされたからか気が立っていると言われればその通りかもしれない。だがギリアムとヴィレッタの勘では、あのラルトスという少女は決して心を許してはいけないタイプの人種に見えていた。

 

「やあ、ファルケン・タイプKに乗れるんだって? ねえ、ねえ、こんなの興味なイ?」

 

「……なんすか、この色物……?」

 

「ハンマーとドリルを一体化させたドリルハンマーサ! 重さと高速回転するドリルで貫通力ドンッ! 破壊力もドンッ!! ただ重すぎてバランスをとるのが難しいのと、フルパワーで使うと反動でPTの腕が肘からねじ切れるって言う欠点があるんだけどネ? 破壊力は折り紙つき! 火力こそパワァーーーッ!!!」

 

話の中でエキサイトしたのか雄叫びを上げるラルトスだが、それに対してアラドの反応は非常に冷ややかな物だった。

 

「いらないっす」

 

「え? いらないノ?」

 

「いや、1回使って腕が千切れるとか、その後どうやって戦えって言うんですか?」

 

アラドの余りにも真っ当な意見にラルトスはふむと呟いて、眼鏡に手を当てた。

 

「タイプKに乗っていても君の考え自体はまともなんだネ! 喜んで装備してくれると思ったんだけド」

 

「あんたもしかして喧嘩売ってます?」

 

「はははは! まさか! ラルちゃんは破壊力のある武器を紹介しようとしただけサ! じゃあ変わりにこんなのはどうだイ?」

 

機体のメンテが終わるとあれだ。確かに優秀なスタッフなのかもしれないが、余りにも癖が強すぎる。

 

「お? これは……なんすか?」

 

「これかイ? 動力の電圧を使ってレザーブレードを展開するものサ。威力は微調整できるシ、電圧で断ち切るから防いだだけでも、相手の電子機器にダメージを与えれるヨ」

 

「……なんかこう、反動的なのは?」

 

「別に無いヨ? 安全に使える範囲の電圧に絞れば問題なし、ラルちゃんの作った中じゃつまらない物サ。こんなの欲しいのかイ? それなら搭載しておくけド?」

 

ラルトスはつまらないと言っていたが、電圧を駆使したブレードというのは精密機械が密集しているPTやAMにとっては天敵に等しい。それにゼオラという少女を助けたいアラドにとっては、相手の機体の電子機器を破壊することで動きを止めれば鹵獲も楽だ。そういう面では喉から手が出る程に欲しい装備だろう。

 

「これでお願いします」

 

「オーケー、オケ。すぐに装備しといて上げるヨ。んーと、お、いたいた。ネネネ、ヴィレッタ大尉。こんなのは興味ないかナ?」

 

アラドに自分の作った武器を紹介した後はヴィレッタを見つけ、Dコンを手にふらふらとした足取りで近寄ってくる。

 

「もしかして皆に声を掛けてるのかしら?」

 

「そだヨ? 敵は強いからネ。新しい武器欲しくなイ? ちなみにラルちゃんのお勧めはこレ、クレイモアユニットネ」

 

Dコンに映されていたのはアルトアイゼンの両肩のクレイモアを小型化された物をフライトユニットに装着した物だった。

 

「もしかして、エクセレン達が持っていたあのギーガユニットと言うのは……」

 

「マリーシショーのアルトアイゼン! あれは最高だったネ! だから弟子にして貰う為に頑張って作っタ。ラルちゃんの最高傑作ネ☆」

 

マリオンが自分が作った物ではないと言っていたが、性能は折り紙つきだからと言っていた拡張パーツ。その製作者がラルトスだと判り、ヴィレッタとギリアムも少しだけ評価を改めた。変人ではあるが、その技術は本物と……。

 

「クレイモアじゃなくて、ゲシュペンスト・タイプRの足回りを強化しつつ、もう少し射程の長い射撃武器はないかしら? 出来れば手持ちじゃなくてフライトユニットにつける感じで、でもフライトユニットよりもっと火力が欲しいの、でも機動力は損ねたくないのよ」

 

今までの戦いの中で敵の多さに辟易していたヴィレッタは武装の数を増やしつつも、両手を残したままにしたいと考えていた。フライトユニットはあるが、それでは火力不足、火力を補いつつ、機動力も失いたくないと言う無理難題にラルトスはにっこりと笑みを浮かべた

 

「あるヨー? 本当はアルトアイゼンにつけるつもりだったけド、ヴィレッタ大尉なら良いネ!」

 

Dコンを操作して映しだされたのは10mを越える長大のガトリング砲が2門装着され、申し訳ない程度の翼を4枚装備したフライトユニットだった。

 

「これは?」

 

「ンフフ、デスペラードユニットネ! ガトリングキャノンの芯にレールガンを搭載しテ、レールガンとガトリングの飽和射撃! 両手足に装着する拡張ユニットによる火力と防御力の強化ッ! ゲシュペンストシリーズなら装備出来る汎用装備ヨ! でも重すぎてフライトユニットだけじゃ飛べないネ。ミサイルコンテナとブースターの2つの役割を持つこれをくっつけて、足の下駄とその上でテスラドライブで無理やり飛ばすけド、ホバーみたいになるヨ?」

 

癖が強すぎる装備ではある。だが火力、射程のどちらも間違いなく優秀だろう。

 

「良いわ、取り付けておいて、脱出に必要になると思うから」

 

重苦しい殺気をヴィレッタもギリアムも感じていた。それは近いうちにノイエDC、百鬼帝国、インスペクターのいずれかの強襲があると予感させるには十分すぎた。

 

「オケヨ、すぐに取り付けておくネ! あ、出来たら使った感想みたいのを後で教えて欲しいのネ!」

 

ヒャッホーと叫びながら格納庫の奥に走っていくラルトス。その後姿をみると小柄な外見相応の少女という感じで、先ほどまで感じていた不気味さとかが気のせいに思えてくる。

 

「もう少し様子見か」

 

「その方が良いみたいね」

 

怪しくはある、そして不気味でもある。だがこうして協力してくれている事を考えると限りなく黒に近いグレーくらいに思っておくべきなのかもしれない。

 

「全く草食動物オブ草食動物は駄目駄目ネ、リオはぐっと組み伏せられる願……「ふんッ!」……コカッ!?」

 

「リョウト君は何も聞かなかった。OK?」

 

リオの性癖を口にしようとした瞬間耳まで真っ赤にしたリオにボディを喰らい崩れ落ちるラルトスを見て、敵って感じたの気のせいじゃないか? とギリアム達は思い始める事になるのだが……その疑惑も1時間後に鳴り響いた警報でかき消される事となるのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地周辺を埋め尽くす無数のゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてその間に立つ黒い機体――菱形の頭部パーツに4つのスリットが入り、全体的に細身でPTともAMとも違う人型の機動兵器――「レストジェミラ」の姿があった。

 

『あれがインスペクター側の兵器と言う事か、それを投入してきたと言うことはかなり本格的な襲撃という事だな』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)から響くギリアムの声を聞きながら、リョウトはヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの最後の微調整を行なっていた。

 

(出力を60%にセーブしているからかな、熱はそこまで感じないけど……不安要素はある)

 

マグマ原子炉は今もなおその全てを解明出来ている訳ではない。実際に操縦しているリョウトはマグマ原子炉の意志のような物を感じていた……戦いたい、暴れたいと言う欲求――それは動力だけになっても戦いを欲するメカザウルスの意志ではないかとリョウトは感じていた。

 

『リョウト君、大丈夫?』

 

「う、うん。大丈夫、今回はドッキングは無しで行くから、リオは上空から支援を頼むよ」

 

『任せておいて! リョウト君のフォローはバッチリするからね!』

 

リオの言葉にリョウトは小さく微笑み、操縦桿を握り締めた。月面での百鬼帝国での戦いのように、闘争本能に飲み込まれないと固く心に誓う。

 

『ラングレー基地の人員の脱出が終わるまで約8分かかると思われます。脱出準備が済むまで、敵機のラングレー基地への侵入を防いでください』

 

『私とラーダ、そしてリンが最終防衛線だ。我々はここから動かず、基地の防衛を務める』

 

ヴィレッタ、ラーダ、リンの3人が基地司令部の前に陣取り、ヒリュウ改への詰みこみをしている人員の保護と護衛を行なう。

 

『リューネとアラドは2人で南から上がってくるヒュッケバイン・MK-Ⅲを、リョウトとリオは西からのゲシュペンスト・MK-Ⅲと新型への対応をしてくれ、俺は東面から上がってくる物全てを対応する』

 

『ギリアム少佐、大丈夫なんですか? 俺達よりも数が』

 

『心配するな教導隊の名は伊達ではない。リューネ、リオ、お前達の機体のMAPWが勝負を分ける。使い所を見極めてくれ、では戦況開始!』

 

ギリアムの合図と共に割り振られたエリアに陣取り、ラングレー基地への侵入を試みる敵機との戦いの幕が上がった。

 

「「「「……」」」」

 

ジリジリとすり足のような足取りで間合いを詰めてくるヒュッケバイン・MK-Ⅲの大軍を前にして、リョウトは小さく息を吐いた。恐れていたわけではない、緊張していた訳でもない。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMから伝わってくる闘争心に飲み込まれぬように、己を強く保つ為に気を静める為に息を吐いたのだ。

 

「リオは距離を保って支援を、余り近づきしないで危ないから」

 

『……了解。気をつけてね』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの赤い装甲が熱を帯び、周囲に陽炎を引き起こす。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの動力であるマグマ原子炉は常に高熱を発している、その熱は特殊な加工を施されたフレームと装甲によって外に排出される。それによってパイロットを焼き殺すということはしなくなったが、その熱は完全に放出出来る訳ではない。耐熱パイロットスーツを着ていても、リョウトの額から大粒の汗が流れ落ちる。しかしこの熱はリョウトを蝕む呪いであると同時に、祝福でもあるのだ。

 

「?」

 

「??」

 

量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲが手にしているフォトンライフルの銃口がそれ、目の前にいるはずのヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMからずれた所に着弾する。

 

「一応……成功かな」

 

動力に掛けたリミッターによって最大出力は4割程度に押さえ込まれ、コックピットに篭もる熱の量も減った。そして嬉しい副産物としてフレームから排出される熱が陽炎のようになり、敵機の照準を逸らせるという能力も合ったのだ。

 

「行って! ファングスラッシャーッ!」

 

左腕に装着されていたファングスラッシャーを取り外す、それと同時に十字のブーメラン上に刃が展開され赤いエネルギー刃を纏ったブーメランが量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲに向かって放たれる。

 

「!?」

 

「!!?」

 

マグマ原子炉の熱を帯びたファングスラッシャーは豆腐のように量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲの装甲に傷を付け、リョウトの手元に戻ってくる。

 

「そこッ!!」

 

回収すると同時にフォトンライフル・Hによる熱を帯びた光弾がその傷の中に飛び込み、融解させながら量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲを爆発させる。

 

『凄い威力ね』

 

「うん、でもこれは無人機じゃないと使えないよ」

 

熱を応用出来るように加工されたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM用の装備は機体だけではなく、パイロットにも凄まじいダメージを与える。スパイダーネットの様な電子機器を攻撃する武器は数多あるが、パイロットを直接攻撃するような武器はやはり非人道的だとリョウトは顔を歪めた。

 

「だけど……この力が必要だっていうなら使うしかないッ!!」

 

だがそれでもこの力が無ければ守れない者があるのならば、そしてこの力が無ければ戦えないのならば、それを使うしかないのだ。固く握り締められたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの拳がブーメランのような刃を手にしたレストジェミラの胴体に突き刺さり、その身体を持ち上げながら、振りぬかれた。

 

「いっけえッ!!!」

 

高熱を発したヒュッケバイン・MKーⅢと右腕のナックルガードによって、レストジェミラの胴体から、右腕は熱で融解されながら消失した。熱を伴う攻撃を繰り出すヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMは燃え盛る紅蓮の不死鳥が人型になったような機体だった。

 

『リョウト君、少し出力を下げて、私がフォローするわッ!』

 

「ぐっ、ごめんリオッ!」

 

しかしその熱は敵にだけ向けられるものではない、味方にも牙を剥く業火でもあったのだ。緊急冷却によって熱が強制的に下げられるのを感じながらリョウトは熱をそのまま攻撃に転化させる危険性を改めて感じるのだった。

 

「えっぐ……なにあれ、半端ねえ」

 

レストジェミラの装甲を溶かし、機体を完全に破壊したのを見てアラドはビルトファルケン・タイプKのコックピットで冷や汗を流していた。あれだけの熱だ、パイロットがいれば全身火傷ではすまないダメージを受けているのは明らかだった。

 

『アラド! ぼんやりしてるんじゃないよ!』

 

くわばらくわばらと呟いていたアラドの動きは完全に止まっていて、虫型に変形したレストジェミラが飛び掛ってくるのに気付けず、リューネの一喝と共に割り込んできたヴァルシオーネの振るったディバインアームの一閃によって弾き飛ばされたレストジェミラを見て、始めてアラドは自分が狙われていた事に気付いたのだ。

 

「す、すみません! でもレーダーに反応が」

 

『言い訳は良い! とにかくこいつらはレーダーに反応しないみたいだよ』

 

墜落していくレストジェミラは地面に叩きつけられる前に、その形状を変化させゲシュペンスト・MK-Ⅲの背中に張り付くように合体した。

 

「あいつ……気味が悪いっすね」

 

『そんな悠長な事を言ってる場合じゃないだろ、とにかくレーダーじゃなくて、自分の目を頼りな』

 

最初は量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲがフライトユニットを装備しているのだと思われた。だが実際はレストジェミラが変形し、フライトユニットの変わりをしていたのだ。

 

『とにかく狙うならゲシュペンストよりも黒い方を狙いな。じゃないと不意打ちを受ける』

 

そういうとピンクブロンドの髪を翻し、戦いに身を投じるヴァルシオーネを見て、アラドも気を引き締める。

 

「このッ!」

 

「!?」

 

ゲシュペンストから分離し、蜘蛛のような形状になってビルトファルケン・タイプKを捕獲しようとしていたレストジェミラにオクスタンランチャーを突きつけ、引き金を引くと奇妙な悲鳴のような音を立てて墜落するレストジェミラだが叩きつけられる前に、空中のゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に組み付き、武装のような形状に変形する。

 

「まじか……完全に倒しきれないと駄目ってことかよッ!」

 

生半可な攻撃では倒しきれず、それ所か量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲと合体……いや、寄生と言っても良いだろう。必要なくなればすぐに離脱し、飛び掛ってくる。

 

「これもしかして組み付かれたら俺死ぬ?」

 

組み付こうとしているのはビルトファルケン・タイプKに寄生しつつ、ビルトファルケンを鹵獲しようとしているからではないだろうか? そんな考えが脳裏を過ぎり、アラドの額に冷たい汗が流れた。

 

「!!」

 

「うおッ! なろ、舐めんなあッ!」

 

月面では敵が巨大すぎてついぞ使う事は無かった。だがレストジェミラとビルトファルケンのサイズが近いこともあり、ビームバンカーを突き出し、蜘蛛というよりも掌を思わせる形状になっていたレストジェミラの中心にビームバンカーが突き刺さり、炸裂する。胴体に風穴を開けて墜落するレストジェミラ。ぴくぴくと痙攣する手足にはドリルが回転しており、組み付き鹵獲しようとしているのが本当なのだと判った。

 

「……こんな所で俺はやられるわけにはいかねえ! ゼオラを取り戻す為にもッ!!」

 

ラルトスが装備させてくれたライトニングエッジを構え、オクスタンランチャーを腰にマウントさせながらアラドは力強くそう吼える。その直後ピンク色の衝撃が周囲を駆け巡った。

 

「これは……?」

 

『呆けてる暇はないよ! 相手が怯んでいる内に一気に数を減らすんだよ! アラド、あんたはそっち、あたしはあっちだ!』

 

「りょ、了解!」

 

今の衝撃がギリアムの言っていたヴァルシオーネのMAPWなのだと判断し、アラドはリューネに怒鳴られるまま無人機の群れの中に向かって行くのだった……。

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジでレフィーナとショーンは揃って眉を顰めていた。ギリアム達は奮戦してくれているが、それでも余りにも敵の数が多い。

 

「どうしてこれだけの数が……これほどの数のゲシュペンスト・MK-Ⅲもヒュッケバイン・MKーⅢは配備されていない筈なのに」

 

「どうやらホワイトスターの設備を修理したとしても数は合いませんな。どんな手品を持ち出したのやら」

 

元々ヒュッケバイン・MKーⅢはトライアルに合わせて製造された数しかなく、その数は50機前後の筈。それなのにラングレー周辺だけで既に10機近くのヒュッケバイン・MKーⅢが確認されているのは明らかに異常だった。

 

「避難及び物資の運搬はどうなっていますか?」

 

「敵の攻撃が予想より激しく、まだ4割ほどですッ!」

 

ユンの報告を聞いてレフィーナが眉を顰める。脱出作戦は敵側がラングレーの征圧と機体の鹵獲を前提にしているから成功する物であり、インスペクターならばと思いはしたが、実際は鹵獲などお構いなしで襲ってくるヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲ……そして様々な形態に変形する黒い機体によって、想像以上に劣勢に追い込まれてしまっている……しかし避難が終わるまでは浮上できないヒリュウ改の護衛と避難中のラングレーの隊員の事を考えればヴィレッタ達も動かせない……レフィーナがどう指示を出せばと必死に考えを巡らせている時、突如ラングレー基地のあちこちで爆発が起きた。

 

「ッ!? 何が、敵の攻撃ですか!」

 

「い、いえ! ミサイルなどは確認し……うあっ!?」

 

ユンの報告の最中にヒリュウ改の船体が激しく揺れた。

 

「うっっ!? 何が起きているんですか! レーダーに反応はッ!?」

 

「あ、ありません! きゃあッ!!!」

 

船体を連続で襲う凄まじい衝撃にユンがオペレーター席から転がり落ち、レフィーナも姿勢を崩して艦長席から転がり落ちる。

 

「完全に何かに組み付かれていますな! 模擬戦用のペイント弾を対空・対地砲座へ! とにかく敵の正体を炙りだすしかありません!」

 

バランスを崩しながらショーンがマイクを掴み叫ぶ。ペイント弾が装填されるまでの数分間でヒリュウ改の船体激しく揺れ、主砲や副砲が容赦なく破壊される。

 

「くっ! 敵はどこにいると言うんですかッ!」

 

「落ち着いてくださいレフィーナ艦長! こういう時ほど落ち着くのです! ペイント弾は装填完了次第発射をッ!」

 

見えない敵の襲撃に混乱しているレフィーナにショーンが一喝し、ペイント弾の発射命令が下されると徐々にペイント弾が打ち込まれ、何も無い虚空から徐々にだが姿を消してヒリュウ改、そしてラングレー基地を襲っている何者かが姿を現した。

 

「「「ギギギ」」」

 

40m……いや、50m級の特機がペイント弾によって姿を現す。その頭部はトカゲのような形状をしており、両手はするどい鉤爪と掌に何かの発射口を持ち、足を収納し空中に浮遊しているのは紛れも無く百鬼獣の姿だった。

 

「百鬼獣!? 何故インスペクターの機体と共にッ!?」

 

「どうやら……侵略者同士で手を組んだということですか……あれだけのゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MKーⅢが確保できている理由も納得ですな」

 

月面を制圧した百鬼帝国はインスペクターに恐らく月面の設備を譲り渡したか、協力態勢を築いたのだろう。それがゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MKーⅢが多数量産されていること、そしてあの未知の黒い可変式特機の大量生産を可能にしたのだろう。それを証明するように、ラングレー基地を見下ろす位置に月面、そしてホワイトスター駐在軍を壊滅させた恐竜型の特機が姿を現した。

 

『地球人よ、降伏せよ。この降伏勧告は1度のみだ、素直に抵抗を止めれば命の保障はしよう。だが断れば……どうなるか判っているだろうな?』

 

巨大な砲塔をラングレー基地、そしてヒリュウ改に向け降伏勧告を出す恐竜型の特機――ガルガウを前にレフィーナ、ショーンの2人が唇を噛み締める。ヒリュウ改は謎のカメレオンのような百鬼獣に組み付かれ、そしてラングレー基地の人員全てを人質に取られた。特機を退けるには力が足りない……。

 

『ラングレー基地司令のクレイグ・パラストルだ』

 

『司令官か、返答は? 言っておくが俺は気が長い性質ではない。時間を引き延ばして援軍を待つ等という真似は許さん、5分以内に返答を求める。言っておくが交渉等はせんぞ、降伏するか、それとも死かだ』

 

一切話を聞くつもりはないと言う高圧的な発言を前にクレイグの歯を噛み締める音が響いた。その時だった、ヒリュウ改、そしてラングレーのレーダーがこの場に近づく熱源を4つ感知し警報を響かせたのは……。

 

『なんだ、まだ百鬼獣を送り込んでくれたのか? ふん、まぁ今回ばかりは……』

 

ヴィガジもその警報が百鬼帝国がヴィガジの増援に送り出した百鬼獣だと思いこみ、僅かに警戒心を緩めた。その直後上空から飛来したミサイルがガルガウを襲い、ヒリュウ改に向けていた砲塔を明後日の方向に向けさせ、ガルガウを崖の上から転がり落ちさせた。

 

『なっ!? どうなっている!』

 

友軍だと思っていた存在が自分の敵だったと気付き、困惑するヴィガジの声が響き、ガルガウの目の前に黒と青のカラーリングを施された特機が立ち塞がった。

 

「あ、あれはグルンガスト参式ッ!?」

 

「おかしいですなあ。あれはまだロールアウトしていないと聞いていたのですが……」

 

ヒリュウ改のモニターに映し出されたのはまだロールアウトしていないはずのテスラ研の最新特機である。グルンガスト参式の姿だった……何故ここに、そして誰が乗っているのだという疑問は次の瞬間に消し飛んだ。

 

『我はゼンガーッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!! 悪を断つ剣なりッ!! 伸びよ斬艦刀ッ!!!』

 

その名乗りはクロガネと共に姿を消したゼンガーの物だった。その力強い叫びは絶望的な状況をなんとか出来るかもしれないという希望を抱かせるには十分な物だった。

 

『何が悪を断つ剣だ! 下等なサルの分際でぇッ!!!』

 

ヴィガジが激昂し、砲塔をグルンガスト参式に向ける。だがそれはゼンガーを相手にするには余りにも遅すぎた……。

 

『遅いッ! 斬艦刀ッ! 疾風迅雷ッ!!!』

 

『げ、ゲッター線だとぉッ!? ちいっ!!』

 

翡翠色の光を帯びた斬艦刀の刃、そしてゲッター線によって急加速したグルンガスト参式の突っ込みにヴィガジはギリギリ反応し、ヒリュウ改に向けていた砲塔を盾にし、斬艦刀の一太刀をかわしたが、参式の前蹴りを叩き込まれ更にラングレー基地から弾き飛ばされる。

 

『いまだ! 撤退準備を急げ! こいつは俺が抑えるッ!!!』

 

『舐めるなぁッ!!』

 

ガルガウの爪とグルンガスト参式の斬艦刀が何度も交差する中、ゼンガーの退却準備を急げと言う声が響いた。だがカメレオンのような百鬼獣に組み付かれている中では避難が進められない……そう思った時レーダーに映っていた残り3つの熱源が雲を引き裂いて姿を見せた。

 

「あれは……」

 

「は、はは。もうなんでもありですなあ」

 

弾丸のような形状の漆黒に染め上げられた戦闘機――その姿を知らない者はいない、間違いなくそれはゲットマシンの姿だった。

 

『チェンジッ!! ゲッタァアアツゥゥウウウウッ!!!』

 

ゲットマシンから響いたのは武蔵のものではなくエルザムの物だった。空中でゲッター2へと合体を果たしたエルザム……いや、変装としてレーツェルに扮していたエルザムはジャガー号の中で小さく笑みを浮かべる。

 

『あの百鬼獣は私とゲッター・トロンベに任せてもらおうかッ!!』

 

ドリルアームが展開され、そこから姿を見せた砲口からゲッター線の光弾を撃ち込む。ゲッター線を警戒したのか、ヒリュウ改に組み付いていた百鬼獣はヒリュウ改から離れ、収納していた足と尾を伸ばしゲッター・トロンベに向かって威嚇の唸り声を上げる。その目はゲッター・トロンベしか映しておらず、ギリアム達が無人機さえ抑えてくれているため脱出の為のチャンスが出来た。

 

「今の内です! 手の開いている者は運搬作業に協力してください! ゼンガー少佐達が特機を抑えている間に避難を完了させてください!」

 

『急げ! この好機を逃がすな! これを逃がせば脱出のチャンスはないぞ!』

 

クレイグとレフィーナの指示が同時に飛び、ラングレー基地からの脱出作戦が始まるのだった……。

 

 

 

第73話 立ち上がる剣神 その3へ続く

 

 




ゲッター線で稼動するグルンガスト参式とゲッター・トロンベの乱入です。バン大佐? 彼はコウキをテスラ研に届けに行っているので、今回は未登場です。出るとしたらテスラ研サイドの話になりますね。次回は百鬼獣やガルガウとの対決をメインに話を書いて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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