第74話 黒き暴風と鬼神 その1
テスラ研の内部がぴりぴりしている事はアイビス達もを感じていた。クスハの姿も、コウキの姿も無い……ピリピリとした空気を感じながらの訓練は何時も以上に疲労感を与え、そしてミスを誘発させていた。
『うわあっ!?』
アイビスの悲鳴が響きシミュレーターが緊急停止する。その様子を見てツグミは小さく溜め息を吐いた、ゲッターロボシミュレーターは順調に稼動させれる時間が伸びているのに、何故プロジェクトTDのシミュレーターを乗りこなせないのか不思議でしょうがなかった。
「無様だな。アイビス、何時になったらラピッド・アクセラレーション・モビリティ・ ブレイクを扱えるようになるんだ」
「うぐ……もうちょっと、もうちょっとでコツが掴めそうなんだよ。ただ、なんていうのかな……「軽い」んだよ」
軽いとアイビスは呟き、スレイとツグミは眉を細めた。
「軽い事の何に不満がある。そんな物を言い訳にするな」
「待ってスレイ、軽いって言うのは操縦感覚の事かしら?」
アイビスを叱責するスレイの言葉を遮り、ツグミが軽いという言葉の真意を尋ねる。するとアイビスは小さく頷き、気まずそうな表情を浮かべた。
「出来たら1回だけで良いんだ。ツグミ、操縦桿と足のペダル、それの感覚をもっと重くして欲しい。ぐっと力を込める感じで……えっと、αプロトに近い設定にして欲しいんだ」
「身の程を知れ。アイビス、カリオンを乗りこなせないのにαプロトの設定に出来る訳が「良いわ。でも1回だけよ」タカクラチーフ、アイビスに飛ばせる訳がない。時間の無駄だ」
スレイが不満そうな表情を浮かべるが、ツグミの意見は変わらなかった。
「何を言ってるの? スレイ、貴女もやるのよ。コウキがいないから言うけど……コウキはαプロトのパイロットにアイビスを推してるわ、そしてフィリオもね。多分コウキがフィリオに進言したんだと思うけど……」
「なっ!? 何故コウキ博士が流星をッ!」
流星……それはアイビスの忌み名めいた渾名だった。フィリオとは違うが、コウキもまたスレイにとっては尊敬するべき大人の1人だった。そんなコウキが自分ではなく、アイビスを推していると言う事にスレイは動揺を隠し切れなかった。コウキにアイビスが何かしたんではないかとスレイは反射的にアイビスに視線を向けたが、アイビスは呆けた顔をしていた。その顔を見れば、何かを企んでいるようには見えなかった。
「だから1度αプロト……アルテリオンで試験をしたいの、この稼動データを元にコウキの言っている事が正しいのか検証したいのよ」
「……コウキ博士はなんと?」
「スレイはAMよりも戦闘機の適正値が高いから、アルテリオンよりも操縦難易度が高いベガリオンの方が良いって言ってたの。フィリオの考えは判らないけど……賛同しているって事はフィリオも同じ考えなのかもしれないわね」
実力を認められてもフラグシップであるアステリオンではなく、アステリオンの補助を行なうベガリオンが向いていると言われて、プライドの高いスレイがそれを受け入れられる訳がなかった。
「とにかく、アステリオンの設定で1度乗ってみて、それにこれは決定事項じゃない。どちらがより、アステリオンに向いているかの適性検査でもあるわ」
バラバラにやったのではスレイとアイビスの間の確執がより深くなると判断したツグミによって、シミュレーターを同時に使いスレイとアイビスのアステリオンの適性検査を行なった。この結果を使い、アイビスをアステリオンにへと推すコウキの意見を変えさせようという目論みがあったのだが、それは目の前で瓦解することになった。
(……嘘、なんで)
カリオンでは出来なかったマニューバを、高速機動をスレイよりもアイビスは滑らかに行なって見せた。そして何よりも、アイビスは「飛ぶ」ことを楽しんでいた。コウキはこれを見越していたのかと、いやフィリオもこの事を知っていたのかとツグミが目の前の光景を信じられず、このテストの結果でスレイよりもアイビスの方が適正があると言うことが明らかになってしまうと思った時、シミュレーターが緊急停止した。ツグミの顔の横から伸びた腕を見て、振り返ると鬼の形相をしたコウキがシミュレーターのメイン電源を落としていた。
「こ、コウキ。なに……「ツグミ、アイビスとスレイと共にプロジェクトTDの資料を運び出す準備を始めろ、急げ。時間が無い」……何を言ってるの!? 何が起きているのよッ!」
「悪いが詳しく説明をしている時間はない。ラングレー基地からの定時連絡が途絶え、その方面から爆発が多数起きている。後は判るな? 悪いが俺も忙しい、後は自分で判断しろ」
「ま、待ってコウキ!」
白衣を翻し走っていくコウキを呼び止めようとしたが、コウキは振り返る事無く走り去ってしまった。
「タカクラチーフ! シミュレーターが緊急停止したがどういう事だ!?」
「ツグミ!? どういう事なの!?」
スレイとアイビスに尋ねられても、ツグミも状況を把握しているわけではない。ただ、テスラ研に危機が迫っている。それしかツグミも把握していなかった。
「急いでプロジェクトTDの資料を纏めて格納庫へ! 私はシミュレーターのデータを消してから行くわ」
「まて、どういう事だ!? 詳しく説明を」
「説明している時間がないのッ! 急いで行動して!」
説明を求めるスレイに説明をしている時間はないと一喝するツグミを見て、スレイとアイビスもただ事ではないと判断し慌しく動き始めるのだった……。
テスラ・ライヒ研究所の管制室に駆け込んだコウキを見て、ジョナサンとフィリオは安堵の溜め息を吐いた。
「コウキ。無事だったか!」
「良かった、連絡がつかないから囚われたかと思っていたんだ」
ゼンガー達に新しい機体を渡す為にテスラ研を離れていたコウキが無事に戻ってきた事を喜ぶ2人だったが、コウキの顔は険しいままだった。
「俺の事は良い、今はテスラ研の周囲の状況把握を優先するべきだ。カザハラ博士、ラングレー基地からの通信は回復しましたか?」
自分の無事よりも現在のテスラ研の状況を優先するべきだと言って、コウキが状況を尋ね、ジョナサンがその問いに答えようとした時管制室の扉が開いた。
「はぁ……はぁ、コウキさんが運び出せるだけの資料を持ち出せって言ってましたけど、今どうなっているんですかッ!?」
コウキの避難勧告を聞いて状況把握に駆け込んできたクスハが息を整えながら何が起きているのかを尋ねる。
「コウキもクスハも聞いてくれ、ラングレー基地との通信は途絶えて、既に10時間が経過した。詳しい状況は不明だが、恐らくラングレー基地は敵によって征圧されたと見て良いだろう。通信が途絶える前に最悪の事態を想定し行動するようにクレイグ司令から命令を受けている」
最悪の事態を想定し行動しろ……それはクレイグがラングレー基地が制圧される可能性も加味していたことを示していた。
「て、敵はそれ程までに強大なんですか!? あの百鬼獣も関係しているんですか?」
世界各地で確認されている百鬼獣――クスハもその名前と存在は知っていたからこそ、百鬼獣による被害の拡大が原因なのか? と尋ねる。
「確かに百鬼獣は確認されているから完全に関係なくはないけれど、彼らの戦略は空間転移装置を用い、大量の戦力を送り込んでくるんだよ。その物量差に苦戦を強いられているようだ」
「更に言うとこちら側の機体を運用している為、一瞬友軍か敵か悩んだ瞬間にドカンだ」
空間転移で戦力層の薄い所に大量の兵器を送り込み、識別信号を認知する前にし、視覚で確認し友軍機と思い気を緩めた隙に一撃で倒される。背後に急に転移してくるので救援要請に答えて味方が来てくれたと思わせる悪辣な戦略だ。
「エアロゲイターが使っていた装置の解析が進んでいれば、何らかの手が打てたかも知れんが……時すでに遅し……だな。うーむ、危険技術だなんだと妨害が入らなければなぁ……」
ジョナサンが頭を掻きながら残念そうに呟いた。口調こそ普段通りだが、その目には強い怒りの色が見えていたのをクスハは見逃さなかった。妨害さえなければ転移に対する対抗兵器を準備出来たとジョナサンが考えているのが痛いほどに伝わってきたからだ。
「クスハ、お前も格納庫に向かって新型や試作機の輸送機への運搬作業に協力してくれ、もう7割方終了しているが、グルンガスト参式の1号と3号機を動かせるのはお前くらいだ」
「わ、判りました。でもその、ずいぶんと手際が良いですね」
コウキの頼みを引き受けながらも、既に殆どの機体の運搬作業が終わっていると聞いてクスハは思わずそう尋ね返した。
「うむ、これは君には伝えてなかったが、月が百鬼帝国を名乗る集団に制圧された。その名前から恐らく、百鬼獣を運用している集団と見て間違いない。その時からギリアム少佐から念のために備えておいてくれと警告を受けていたのだ」
「え、ええっ!? う、宇宙にも百鬼獣がいるんですか!?」
一瞬何を言われたかクスハは理解出来なかったが、すぐに声を上擦らせてそう尋ね返した。
「ああ、どうも異星人と百鬼帝国は協力体制にあるようだ。ラングレー基地の襲撃の際に百鬼獣と異星人が同時に出現しているらしいからね」
「そ、そんな……そ、そうだッ! リ、リオやリョウト君、ラーダさん達は……?」
異星人と百鬼帝国が手を組んでいると言う衝撃的な事実に気を取られたが、すぐにマオ社にいる友人達の安否を尋ねるクスハ。
「彼らは最後まで社に残っていたが、ゲッターロボD2……つまり武蔵君だな。彼の協力の下脱出し……その後、 ヒリュウ改に回収されたそうだ」
「む、武蔵君が生きていたんですかッ!?」
ジョナサンの口から出た武蔵の名前にクスハの目に涙が浮かんだ。死んだと思っていた武蔵が生きていた、それはリョウト達が無事に脱出したことよりも嬉しい出来事の1つだった。
「ああ、今はハガネ、シロガネと行動を共にしているらしいから心配はない」
泣きそうになっているクスハを見て、コウキはバンとレーツェル、そしてゼンガーから聞いた武蔵が今どこにいるのか? という事を教えると、クスハは泣き笑いの顔を浮かべて安堵の溜め息を吐いていた。
「そ、そうですか……よ、良かった……」
「……コウキが何故武蔵君がハガネとシロガネにいることを知っているのは気になるが、問題はこれからだ。 彼らがここにも現れる可能性は高い……いや、十中八九彼らは現れる。問題は救援を望めない以上、脱出が間に合うかどうかだ」
ラングレー基地を制圧し、そのままテスラ研に攻め込んでくる可能性は極めて高い。救援は望めず、そしてテスラ研に異星人の戦力を押し返すだけのパイロットもいない。敵の襲撃が始まるまでにテスラ研からの脱出が間に合うかどうかが問題だとジョナサンが口にした時、格納庫で機体の運搬作業をしていたツグミからの通信が管制室に繋げられた。
『失礼します。 カザハラ所長、各機の搬出作業に関してご報告致します。ゴールド、シルバー、αプロトの積み込み作業を完了しましたが、参式の1号機と3号機の積み込み作業に少々手間取っています。クスハを応援に呼んでいただきたいのです』
「了解した。クスハ君、聞いていた通りだ。ツグミ君の作業に協力してきてくれ、我々には時間が無い
「わ、判りました! すぐに格納庫に向かいますッ!」
「ツグミ君。聞いての通りだ、すぐにクスハ君を向かわせる。グルンガスト参式は一時テストモードで起動、クスハ君の到着を待って輸送機に積み込んでくれ」
ジョナサンの指示を聞いてクスハが駆け足で管制室を飛び出して行き、格納庫の様子を写していたモニターも光を消し。管制室にはジョナサンとフィリオ、そしてコウキの3人だけが残った。
「クスハが協力してくれるなら1時間以内で脱出準備が整いそうですね」
「うむ。グルンガストの扱いに関してはこの研究所じゃコウキの次に上手いからな。コウキもここに残っている余裕はない筈だ。自分の開発中の機体を持ち出し準備をしてくると良い」
特機乗りとしてはクスハよりもコウキの腕前が良いが、コウキも自分の開発している機体があるだろうからグルンガスト参式の事はクスハに任せたのだ。コウキに機体を動かしたらどうだ? と言うがコウキは首を左右に振った。
「大丈夫です。最悪の場合に備えて地上の格納庫に移動させてあります」
コウキの言葉にジョナサンは目を開いた。コウキの機体も地下の格納庫で開発、設計をされていた筈だ。それを地上に上げていると言う事はゼンガー達に会いに行く前に準備をしていたことになる。コウキの慧眼にも驚いたが、敵の襲撃を受ければ試作機である機体は破壊される可能性が極めて高かった。
「それは良いのかね? 最悪の場合大破する事になる。今からでも輸送機に積み込んでも」
「かまいません、戦う為の兵器です。大事な時に使えなければ意味が無い、エネルギーチャージが完了しなければゲシュペンスト・MK-Ⅲを使いますが、そうでなければ俺はあの機体を使うつもりです」
心血を注いで開発している事をジョナサンは知っていた、だから今からでも輸送機に積み込めば良いとジョナサンは口にしたが、コウキの意志は固いようでジョナサンは何を言っても無駄かと溜め息を吐いた。
「だがオーガはαプロトと共に起動テストは間に合っていないが、本当に大丈夫なんだな?」
「問題ありません。万全の状態で常に戦える等と都合のいい事はありません。多少の不備で動けないほど柔な設計はしてません」
起動テストもなしに行き成りの実戦投入となる事を危惧したジョナサンだが、コウキの瞳に宿る光を見て石頭めと呟いて、首を左右に振った。
「判った。オーガに関してはコウキの判断に任せる。フィリオ、αプロトは他の機体と一緒に伊豆基地で一時保管して貰うつもりだが、それで良いな? 一応設計図等もコピーだが、輸送機に積み込んである。最悪の場合ロバートが組み上げてくれることになると思うが……」
「大丈夫です。ロブならαプロトを組み上げてくれると信じています。さ、カザハラ博士。作業を続けましょう」
ジョナサンの言葉を聞いてフィリオは柔らかくも強い意志の光を宿した瞳をジョナサンに向けて柔らかく微笑んだ。
「変わったな。フィリオ、以前の君ならばそんな顔で笑えなかった筈だ」
「ふふ、あんまり後ろ向きなことを言っていればコウキに蹴られますから」
「当たり前だ。後に道はないからな」
ふんっと鼻を鳴らすコウキにフィリオは楽しそうに笑った。
「僕の夢は終わらない。星の海を目指す僕の夢は……テレストリアル・ドリームは試練を乗り越えたその先にある。それを見るまでは、僕は止まらない」
儚さは無く、力強さを伴うフィリオの言葉にジョナサンは笑い、その肩を叩いた。
「その意気だ。病に負けるな、コウキ。私とフィリオはこのまま「ダブルG」を隠す作業を始める。現場の指揮は任せても良いか?」
「任せてください。それよりもダブルGを隠し終えたら2人も脱出の準備にはいってください」
コウキはそう言うと白衣を翻し、格納庫に向かって走っていく、その姿を見送りフィリオとジョナサンは揃って画面を見ながらキーボードを叩き始める。
「どうも異星人は相当ゲッター線を危険視している。ダブルGのゲッター炉心を休止状態にするぞ」
「そうですね。稼動していれば隠していても意味が無いですから」
テスラ研の最深部の特殊格納庫に移動させながら、フィリオとジョナサンの2人はキーボードを叩き続ける。自分達の背後に立つ、翡翠色の光を纏った老人の姿に気付かずに……。
【星の海を目指す者、お前もまた生きねばならぬ】
老人……いや、早乙女博士がフィリオに指を向けると、管制室に満ちていたゲッター線はフィリオの中に吸い込まれるようにして消えていくのだった……。
テスラ研格納庫ではコウキの怒声が響いていた。
「積み込みの完了した機体からシーリング作業に入れ! 愚図愚図するな。時間がない! 死にたくなければ死ぬ気で作業をしろッ!」
「「「はいッ!!!」」」
コウキが脱出の指揮を取り始めてから、更に脱出準備を進める作業は速度を増させる。その姿を見て、リシュウは小さく眉を細めた。
(……何人脱出できるか……良い所4割かの)
輸送機の数も限られている。しかも、その輸送機の大半は機体や新開発の兵器の運搬で使われる。人員の避難は恐らく出来ない……この場にいる全員がそれを理解し、誰が脱出するべきかを悟っていた。
「コウキさんも早く、輸送機へ、後は私達が」
「黙れ、お前達が俺の心配をするなど1000年早いッ! 貴様こそ輸送機に乗れッ!」
「し、しかし!」
「判っている筈だ。己の責務を見誤るな」
技術主任であるコウキを脱出させようとしたグルンガスト参式の開発チームの主任にコウキの一喝が飛んだ。
「自分の戦場を知れ、脱出人員の話は既に話がついているはずだ」
最悪の事を考え、既に脱出する人員の優先順位はついていた。グルンガスト参式の開発チーム、そしてATX、SRX計画の関係者、そしてプロジェクトTDチーム。それらの人員の脱出を優先すると既に話はついているはずだとコウキは強い口調で言った。
「ですが、コウキさんは」
「俺は警備主任だ。真っ先に逃げる事はない、判ったら行け。愚図愚図していたら、残る者の思いを無碍にする事になるぞ」
背中を押されグルンガスト参式の開発チームの主任を務めている女性主任はその目に涙を浮かべた。
「わ、私……「何度も言わせるな、行け」……ッはい」
コウキに睨まれ、女性主任は輸送機に駆け込んだ。その様子を見ていたリシュウは杖でコウキの肩を突いた。
「余り女人にする態度ではないぞ? あの娘は」
「リシュウ先生。俺には俺のやるべき使命がある、他ごとに現を抜かしている時間はないのです。それよりも、リシュウ先生……」
「その話は決着がついている筈じゃ。自分が言った事をワシに言わせるつもりか?」
リシュウに見つめられ、コウキは肩を竦めすみませんと頭を下げた。
「クスハ、参式の積み込みが完了したら弐式を積み込んでくれ」
己の胸の内を隠し、冷然と振舞うコウキ。その姿を見てリシュウは小さく笑った、こうして技術主任などをしているが、やはりコウキの本懐は戦士であり、自ら前に出て指揮をとる指揮官であるということを感じていた。
「え? で、でも弐式はテスラ研を……」
「……お前さんには輸送機と一緒に日本へ行って貰う」
クスハもまた弐式で脱出する為の時間稼ぎをする為に戦うつもりだった。それなのに機体を積み込めと言われ、困惑しているとリシュウがクスハに向かってそう声を掛けた。
「リシュウ先生……ッ! どういうことなんですかッ!?」
「道中は何かと危険じゃ。 お前さんに輸送機の護衛を頼みたい」
クスハとて馬鹿ではない、輸送機に乗り込んでいる人員が少ないこと、そして今生の別れをするように抱き合っている研究者達を見れば、全ての人員が脱出出来ない事は判っていた。だからクスハはコウキと共に残るつもりだったのに、その決意を崩すような言葉にクスハは声を荒げた。
「危険なのはここも同じです! 私も研究所に残って戦いますッ!」
「クスハ、お前の戦う舞台はここではない。己の戦場を知れ」
「酷な言い方じゃが、コウキの言う通りじゃ。輸送機の中身はこれからの戦いに必要な物ばかりじゃ。 異星人に渡す訳にはいかん」
コウキとリシュウの覚悟を決めている顔を見てクスハは震えながら首を振った。テスラ研で共に過ごした仲間を見捨て、逃げろと言われることを恐れるようにその場で後ずさった。
「クスハ。俺は俺に出来る事をする。お前はお前に出来る事をする、そこに何の違いもない」
「諭すようなことを言っておるが、ワシはお前にも脱出して欲しいんじゃが?」
リシュウの言葉を聞こえてないフリをし、輸送機の積み込みを手伝ってくれという声に頷き逃げるようにコウキはその場を後にし、リシュウは深い溜め息を吐いた。
「それと……ワシの都合で悪いんじゃが、ブリットにこれを渡してやってくれんか」
手元のボタンを押し武装コンテナを開けるリシュウ。その中を見て、クスハは息を呑んだ。
「こ、この刀は……シシオウブレードッ!?」
「いや、違う。ワシが特別に鍛えさせたパーソナルトルーパー用の実体刀じゃ、ゲッター合金とゾル・オリハルコニウムを使ったワシの最高傑作、生憎銘を考える間はなかったが……切れ味は本物じゃ、こいつをブリットに渡し、剣の道に励めと伝えてくれ」
「リ、リシュウ先生……」
遺言めいたことを言うリシュウにクスハがすがるように手を伸ばす。リシュウはしわくちゃの手でクスハの手を取り、クスハを元気付けるように笑った。
「なに、心配はいらん。 所長達にはワシがついておる。後の事はお前やワシの弟子達に任せるぞ、L5戦役の時と同じく、この星を異星人から守ってくれ」
ますます遺言めいた言葉にクスハの目から涙が零れ、リシュウは苦笑しながら涙を拭った。
「お主は優しい子じゃ、ワシらの言う事がどれほど酷な事かはワシも判っておる。だがそれがお前達の使命じゃ。よいな?」
「……は、はい。判りました」
リシュウ達の思いを、願いを思えば泣いている事は許されない。クスハはそう感じたのか、涙を拭い力強い笑みを浮かべた。その顔を見れ、リシュウは大丈夫だと判断し笑みを浮かべたのだが、すぐにその笑みは苦笑に変わった。
「兄様、コウキ博士と共にアイビスをプロトαのパイロットに推していると言う話を聞きましたが、それは事実なのでしょうか」
スレイの納得行かないと言う声色と何故妹の自分ではなく、アイビスなんだという不満げな声色だった。
「誰から……」
フィリオの反応を見て、スレイはそれが事実だと判り、悲しげな表情を浮かべる。
「スレイ……ツグミから聞いたか、それともコウキに聞いたのかは僕は聞かないよ、でも今の段階ではスレイの方がアイビスよりも腕が上だというのは紛れも無い事実だ」
フィリオの言葉を聞いて今度はアイビスが悲しそうな顔をしたが、フィリオはそれを手で制した。
「プロジェクトTDは僕達でチームだ。僕達全員で星の海を飛ぶという夢を叶えるんだ、誰が1番で誰が2番だという事に拘ってはいけない。アルテリオンは1つの宇宙船だ、宇宙ではアストロノーツは皆助けあいだ。そこに国籍も立場も男女も関係ない、皆で助けあい。そして1つの目的の為に進むんだ」
フィリオはそう言うとスレイとアイビスの手を取った。
「スレイは嫌かも知れないが、僕はアイビスがアルテリオン、スレイがベガリオンを操り、僕とツグミで管制モジュールから指示を出す事を考えた」
その言葉を聞いて、スレイはフィリオの手を振り解こうとしたがフィリオはギュッとその手を握り締めた。
「だけどそれはアイビスが優秀だからじゃない。今の状態ではスレイがアルテリオンを操ればベガリオンの操作ミスで僕達は星の海に辿り着けないからだ、今のアイビスにはベガリオンを操るだけの技量はないからだ」
それは今までのフィリオでは絶対に言わないような、きつい言葉でアイビスがぎゅっと唇を噛み締めた。
「だけど僕やツグミではアルテリオンやベガリオンは操れない、僕は自分の夢を叶える為にアイビスやスレイの力を借りるしかない。誰もが皆、己に足りない物がある。今は地球だから良い、でも宇宙では何か1つでも足りなければ僕達は夢半ば、志半ばで死ぬしかない。僕はアイビスにはもっと力をつけて欲しいと願っているし、スレイにはもっと皆を頼る事を覚えて欲しいと持っている」
皆足りない部分がある。それを互いに補いあい、協力し合う。そしてそうしなければ星の海を飛ぶ事は出来ないのだとフィリオはスレイとアイビスに説いた。
「だから皆で飛ぶんだ。星の海を、その為に僕達は協力し合うんだ。まずはテスラ研を脱する……そして、敵襲かッ!?」
だがフィリオの言葉が最後まで告げられることは無く、無常にも敵襲を告げる緊急警報が鳴り響くのだった……。
テスラ・ライヒ研究所周辺に転移反応と共に無数のヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲ、レストジェミラの混成軍がテスラ研の前方……輸送機の航路の先に出現した。
「鬱陶しい所に陣取ってくれるなッ!」
脱出を目的にしている事が判っているのか、インスペクターは輸送機の進路を塞ぐように部隊を展開した。その光景を見てジョナサンは苛ただしげに机に拳を叩きつけた。脱出準備が速やかに進み後は逃げるだけという希望を与えておいての敵の出現は流石のジョナサンも冷静さを欠けさせるには十分な光景だった。
「ジョナサン、何事かッ!」
警報を聞いて管制室に駆け込んできたリシュウもモニターに映っている敵軍に顔を歪めた。
「これほどの大軍を一瞬で送り込んでくるか! ジョナサン! 脱出の準備はッ!?」
「既に完了しています! ツグミ君は輸送機の発進を急いでくれッ! スレイ君とクスハ君に敵機の迎撃を! 進路を確保しだい、輸送機は出発だ!」
ジョナサンの指示が飛び、3機の輸送機が発進準備を終え、それを守るようにグルンガスト弐式とカリオンが出撃し、それから遅れてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムが輸送機の進路を塞いでいる無人機へ移動する。しかしアイビスだけは輸送機で待機という命令が下されていた。
「タカクラチーフ! どうしてあたしは待機なのッ!? さっきのフィリオの言葉は嘘だったのッ!?」
皆で助け合えと言っていたのに、何故自分だけが待機なのかとアイビスがツグミに詰め寄りながら声を上げる。
「嘘じゃないわ、アイビス。少佐の言葉は嘘じゃない」
ぎゅっと顔を歪めなら言うツグミを見てなんらかの意図があると言うことはアイビスにも判った。だけど3機だけであの包囲網を抜けれる訳が無いと、戦力として弱いとしてもアイビスは皆と共に戦いたかった。
「でも、 相手は異星人なんでしょッ!? 少しでも戦力があった方が……ッ!」
今からでも遅くない、自分を出撃させてくれとツグミに訴えるアイビス。
「判らないのアイビス。だからこそ、少佐は貴女に待機を命じたのです」
「え……あ、あたしが足手纏いだから……?」
強い口調に自分が役立たずだからとアイビスは顔を青くさせたが、ツグミはアイビスにきっぱりと違うと告げた。
「敵は転移で出現するわ。脱出した進路に敵が出たら戦う能力の無い輸送機では撃墜されるか、鹵獲されるだけよ」
「あ」
そこまで言われてアイビスは自分の役割がなんなのかを悟った。敵が回りこんで転移してきた場合に、一撃を当てて離脱する隙を作るためのジョーカー。足手纏いだから出撃させないのではない、最悪の場合に備えての鬼札だからこそ、アイビスは輸送機に残されていたのだ。
「判ったら、格納庫で待機して。ワンアプローチで極める必要があるの、ミスをしないように集中していて」
ツグミの言葉に頷き、アイビスはコックピットから格納庫に走って行った。
「状況は最悪ね……上手く脱出出来れば良いのだけど……」
重苦しい空気、どこに逃げても逃げ道など無いと言わんばかりに絡みつくような視線を感じながら、ツグミは全員無事でテスラ研から脱出出来る事を祈るのだった……。
テスラ研からの脱出をかけた戦いが始まった頃。ビアン達はブラックゲッターが沈んでいる海溝に差し掛かろうとしていた。
「グライエン。やはりあのブライは百鬼帝国のブライなのだろうか?」
「可能性は高いと思う。だが……それをハガネやヒリュウ改に伝えることは難しいだろう」
「反逆者に仕立て上げられる訳には行かないからな……しかし苦しいな」
グライエンの偽物も百鬼帝国の指導者と思われるブライも今も連邦議会で弁舌を振るっている。もしもだ、もしもハガネやヒリュウ改がグライエンが偽者だと知れば、上層部を介しての圧力を受けることになるだろう。
「俺達が襲撃を仕掛けても良いぞ」
「ブライとグライエンが偽物という事位ならば、私とイングラムで可能だと思うが」
イングラムとカーウァイが正体を暴きに行ってもいいと提案したが、それはグライエンが待ったを掛けた。
「いや、止めておいたほうが良い。ブライは怪しげな術を使うという、もしも君達2人が操られでもすれば、我々全員が危機に晒されることになる、一番確実なのは百鬼帝国を追詰め、ブライの余裕を奪ってからになるだろう」
「今は余力があるから、演じる余裕があると言うことか」
襲撃を受けても今まで築いてきたブライ議員の仮面を被る事が出来る。そうなれば2度と偽物と公表しても、その話に信憑性は得られない。チャンスは1度、それを逃がせば反逆者の汚名を着せられ、そして全ての陣営を敵に回す。それだけはなんとしても避けなくてはならない。
「その為には武蔵には知られる訳にはいかんな」
「その通りだ、まず証拠を集め、ブライの余裕を奪い去る。全ては其処からだ。その為にもこの海溝でブラックゲッターロボはなんとしても回収したい」
「大丈夫だ。この深度まで潜って来れるのはスペースノア級くらいのものだ。焦らず捜索を続ける事にしよう」
この深度まで潜れる物はないと断言したビアンだが、クロガネに向かって凄まじい速度で何かの影がその牙をクロガネに突きたてようとしていた。
【ククク。やっと見つけましたよ、ビアン博士】
そしてその影がクロガネへと迫った時、重力の魔神が再びフラスコの世界にその姿を現す事となる。
第75話 黒き暴風と鬼神 その2へ続く
今回は戦闘開始までを書いて見ました。この話の流れで判ると思いますが、スレイはミツコの手下にならないルートです。あの狸は私としてはとても書きにくいキャラなので逃げれるタイミングなら逃げます。ちょっと第二次OGでの流れがかなり変わると思いますが、何とかする方法は考えているのでご安心ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
ゲッターロボアーク放送中は日曜日・月曜日の連続更新でしたが、ゲッターロボアークの放送も終わりましたし、今まで通り日曜日のみの更新を戻したいと思います。
なので月曜日には更新しませんのでご理解の程をよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い