進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第75話 黒き暴風と鬼神 その2

第75話 黒き暴風と鬼神 その2

 

異星人と戦う為の最新機種が敵として自分達の前に立ち塞がる。その悪夢のような光景にグルンガスト弐式のコックピットの中でクスハは顔を歪めた。だが今は嘆いている時間も恐れている時間も無い、輸送機が脱出する為にもグルンガスト弐式で進路を切り開くべきだと決意を固める。

 

「私が先陣を切ります! コウキさんとスレイさんは支援をお願いします!」

 

そう口にし、前に出ようとしたがそれはゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの手で制された。

 

『クスハ、相手の戦術は空間転移による奇襲に近い形の増援にある。そうなると機動力に劣る弐式では振り切れん、L5戦役の時の事を忘れたか?』

 

「それは……」

 

エアロゲイターの機体の転移、そして囲まれ転移による連れ去りはクスハにとっては最悪の記憶の1つだ。それをコウキに指摘され、クスハは顔を歪めた。

 

『相手の出方を見れば既に確保している機体にはさほど興味が無いように見える。俺がフォワードを務める、クスハはGホークに変形し、スレイと2機態勢でバックアップだ』

 

『コウキ博士、それは余りに攻撃的なフォーメーションではないか? 輸送機の守りが手薄になりすぎる』

 

フォワードを2機でバックアップするフォーメーションは攻撃にこそ特化しているが、警戒や防衛には挙動が遅れるとスレイが指摘すると弐式のモニターに図面が送られてくる。それを見てクスハは目を見開いた、確かにフォワード1、バックス2のフォーメーションだが、それは余りにも変則的なものだった。

 

「コウキさん! これは幾らなんでも無謀ですよッ!?」

 

『コウキ博士! 流石にこれは私も承諾できんぞッ!』

 

輸送機の両サイドにカリオンとGホークをほぼ固定にし、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムが単身で敵のど真ん中に突っ込む。支援と口にしたがこれではコウキだけを危険に晒すだけだとクスハとスレイが声を荒げる。

 

『問題ない、このフォーメーションは変更しない。今回は警備主任である俺の指示に従ってもらう、俺達の勝利条件は輸送機の離脱だ。それさえ達成出来れば良い』

 

「死ぬつもりですか!?」

 

輸送機さえ脱出出来ればそれで良いと言うコウキの言葉にクスハの脳裏に嫌な予感が過ぎった。それはコウキが自分の命を犠牲にして、自分達を無事に逃がそうとしていると言う物だった。

 

『馬鹿を言え、俺にはまだやるべき事がある。そんな馬鹿げた事を考えている暇があったら、俺の言う通りに動け。敵の奇襲に気をつけろ。お前達の機体が鹵獲される可能性が1番高いのだからな』

 

コウキは一方的にそう告げるとクスハとスレイに背を向けて、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、レストジェミラの混成部隊に向けてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを走らせる。思わずその背を追いかけようとしたが、管制塔からの通信がコックピットに響き、クスハとスレイの動きが止まる。

 

『コウキは英雄志願者でもなんでもない、勝機があるからその命令を出したんだ。その意味を理解して行動するんだ』

 

『下手に動けば、コウキの計画を乱す事になる。そうなればコウキ自身も危ないんだスレイ』

 

ジョナサンとフィリオに釘を刺されてはクスハとスレイは独断でコウキの後を追うことも出来ず、その背中を見ていることしか出来なかったのだが、その戦いを見ていれば自分達が近くに居れば邪魔という事を悟らざるを得なかった。

 

『なんだ、あれは……あれがコウキ博士本来の戦い方とでも言うのか』

 

スレイが恐れを隠し切れない声色でそう呟いた。それはクスハも同じだった、余りにもダーティな……それこそ百鬼獣を思わせる残虐な戦い方だった。

 

『ふんッ!!』

 

「!?」

 

両腕のアタッチメントが変形した斧を手にし、レストジェミラの斜め上から振り下ろす。その一撃にレストジェミラが痙攣し、動きを止めるとそのまま斧を振り回しヒュッケバイン・MK-Ⅲに向かって投げつける。

 

『くらえッ!!!』

 

それと同時に腕にガトリングアームを装備しレストジェミラを蜂の巣にして爆発させる。その爆発によって生まれた爆煙を突っ切って斧が投げつけられ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に食い込むと、凄まじい速度で突っ込んだゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムが右手で斧を引き抜き、左手と動力部に突き刺し、オイルを撒き散らし痙攣するゲシュペンスト・MKーⅢから動力を抉り出す。余りに凄惨、余りにも残酷なその戦い方だけではない、弐式のT-LINKシステムを介し、クスハはコウキから感じる圧倒的な殺意と敵意を感じ、その顔を青褪めさせた。

 

「コウキさん……貴方は何者なんですか……」

 

これだけの敵意と殺意を何故コウキが放っているのか、記憶喪失だと言っていたがインスペクター、それとも百鬼帝国のどちらかに何か関係があるのか? 今まで気にしないようにしていたコウキの謎がクスハの胸中に一気に噴出すのだった。

 

 

 

 

クスハが敵意と殺意をコウキから感じたというのはある意味間違いである。確かにコウキ自身も異星人に対する敵意を抱いていたが、今は姿を隠している者の強烈な敵意と殺意をコウキの敵意と殺意を誤認していたのである。

 

「邪魔だッ!!!」

 

無人機等はコウキにとっては何の脅威でもない、何故ならばコウキはもっと強力で、そして悪辣な無人機を知っているからだ。この程度の無人機に遅れを取るほどコウキは耄碌もしてなければ、油断もしていなかった。

 

(ちいっ! やっぱりかッ!)

 

無人機を倒せば倒すほどに絡みつくような敵意と殺意はコウキに向けられる。クスハとスレイを後衛に配置したのは百鬼帝国に目を付けられないようにする為であり、バンとの合流が容易であるという2点と、転移で背後を取られたとしても対応しやすい位置と言う事で輸送機の護衛を任せたのだ。

 

「どうした! その程度かッ! 俺はここにいるぞッ!」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲの顔面にドリルを突き立て、その顔面に風穴を開けると同時に腕を振り下ろし、ねじ切るようにヒュッケバイン・MK-Ⅲを袈裟切りで破壊すると同時に打ち出し、遠くでパルチザンランチャーを構えていたゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体を貫き、鎖を掴んで引き寄せながら振り回す。

 

「!?」

 

「!!」

 

「うおおおおりゃああああーーーーッ!!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭上を越え、テスラ研に向かおうとしていたレストジェミラにゲシュペンスト・MK-Ⅲをぶつけて墜落させ、そのまま遠心力をつけたゲシュペンスト・MK-Ⅲをハンマーのように振るいヒュッケバイン・MK-Ⅲにぶつける。金属の凄まじい拉げる音と火花が散りゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが爆発し、撃ち出されたマニュピレーターアームを回収すると同時に背部のフレキシブルウェポンが変形し、両肩に装着されると同時に凄まじい暴風がレストジェミラ達を飲み込み、上空に弾き飛ばす。

 

「クスハ! スレイッ!!」

 

テスラ研、そして滑走路に被害が出ない位置にレストジェミラを誘導し、コウキはスレイとクスハの名前を叫んだ。

 

『狙いは外しません!』

 

『そこだッ!』

 

コウキが叫ぶと同時にGホークとカリオンから放たれたミサイルがレストジェミラに着弾し、その漆黒の機体が爆発の中へと消え去った。その直後、コウキは両腕のアタッチメントを斧に変形させGホークとカリオンに向かって投げつけた。

 

『コウキ!? 何をッ!?』

 

その突然の行動にスレイとクスハが反応出来ず、そして管制塔のジョナサンの悲鳴がテスラ研の上空に響き渡る。だがその戦斧はギリギリの所でカリオンとGホークを避けて進み、その背後に現れた物に突き刺さった。

 

「「グギャアアアアアッ!?」」

 

頭部が骨、両腕がガトリング砲の百鬼獣――白骨鬼、そして鬼その物に見える漆黒の装甲を持つ百鬼獣――闇竜鬼の2機の百鬼獣の頭部斧が突き刺さりオイルを撒き散らしながら2機の百鬼獣が墜落する。

 

(やはりッ! 俺の思った通りだ)

 

百鬼獣が仕掛けてくるのならば、それは第一陣が全滅し輸送機が動き出す直後――コウキはそう読んでいた。そしてコウキの予想は的中し、カリオンとGホークに奇襲を仕掛けてきた百鬼獣を迎撃した。だがそれは自分への奇襲への対応を放棄し、クスハとスレイを守っての事だった。

 

「ぐがあああああああーーーーーッ!?!?!?」

 

『コウキさん!!』

 

『コウキ博士ッ!?』 

 

組み付いてきた百鬼獣が流した電流がコウキを襲う。その凄まじい電圧に背部のフレキシブルウェポンシステムが破壊され、武器の大半に加え、飛行能力を失い墜落するゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムと頭部だけの百鬼獣を見てスレイとクスハが悲鳴を上げるが、空中でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムは百鬼獣の上を取り、全体重を掛けて百鬼獣を滑走路に叩きつける。

 

「俺を舐めるなぁッ!!!! ぐっ! おおおおおおッ!!!!!」

 

『シャアアアーーーッ!!!』

 

高圧電流を放つ百鬼獣――迅雷鬼の電流に晒されながら、ガトリングアームをその口の中に突っ込み全ての銃弾を撃ち込むゲシュペンスト・Oカスタム。その捨て身に等しい攻撃によって迅雷鬼は撃墜されたが、その対価は決して安くは無く電圧によってゲシュペンスト・O・カスタムの唯一の武器と言っても良い可変式アームズユニットが小爆発を起こし、装着されている両腕から落下した。フレキシブルウェポンシステム、そしてアームズユニットを失ったゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに使える武器は腹部のブラスターキャノンしかない。

 

『クスハ! スレイ! コウキの支援を!』

 

その姿を見てフィリオがクスハとスレイにコウキの救出に向かうように指示を出すが、それは血反吐を吐くようなコウキの言葉によって制された。

 

「馬鹿野郎ッ!! 俺に構うなッ!!! 来るぞッ!! 輸送機を守れッ! クスハッ! スレイッ!!!! ぐあああッ!!!」

 

地下から生えるように伸びた鎖がゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの両手足に巻きつきその動きを封じると同時に電流を放ち、容赦なくゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムとコウキへと攻撃を繰り出す。ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの両手足を封じていたのは撃墜したと思っていたレストジェミラだった。破壊されたその残骸が地中で変形した物が、触手状になりゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを最も排除するべき敵だと判断したのだ。そして動きを封じた直後に転移で現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが手にしたアサルトマシンガンが火を噴き、全方向からの実弾がゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの装甲を削り、コウキの苦悶の声がテスラ研に響き渡る。

 

『コウキさん! 今行きますッ!』

 

『コウキ博士ッ! クスハ! お前は輸送機を! 私が行くッ!!!』

 

「馬鹿がッ!!! 俺よりも輸送機を優先しろッ!!! う、うおああああああッ!!!!」

 

動きを止めて全方向からの射撃――その処刑とも取れる光景を見てスレイがコウキの救出に向かおうとする。だがコウキはそれを求めていなかった、今この場で優先するべきは自分ではない。輸送機だと叫び、雄叫びを上げゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの腕を振り上げ、地面に隠れているレストジェミラを引きずり出し、その場で回転してヒュッケバイン・MK-Ⅲ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに叩きつける。だが度重なる電圧、そして銃弾に晒されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの両腕はその行動に耐え切れず、肩からねじ切られ、地響きを立てて落下する。

 

「ブラスターキャノン発射ぁッ!!!」

 

アームズユニット、フレキシブルウェポンシステム、そして両腕を失っても尚コウキの闘志は衰えず、ブラスターキャノンでゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲを破壊する。だが度重なる電流によってガタが来ている上でフルパワーのブラスターキャノンを放った事で、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのコックピット付近が爆発し、膝をつきカメラアイが明暗を繰り返す。

 

『いかん! クスハ君! コウキの救出を!』

 

『はいッ!! きゃあッ!?』

 

『クスハ!? うあっ!?』

 

ジョナサンの指示でクスハがコウキの救出に向かおうとするが、白骨鬼、闇竜鬼がコウキから受けたダメージから回復し、背後からカリオンと弐式を襲い、クスハとスレイの悲鳴が響いた。しかも敵の攻撃はそれに止まらず、プテラノドンのような形状をしたグライダーが爆撃を繰り返しながら近づいてくる。

 

『くっ! 対空ミサイルと機銃を使え! これ以上コウキ達に無茶はさせられない!』

 

『了解!』

 

テスラ研からの支援もあり、コウキ達への追撃は止まった。だがテスラ研の敷地内には2機の百鬼獣、そして上空は爆撃機が飛び交いテスラ研は完全に窮地に追い込まれていた。

 

『高速で接近する熱源1! 速い、後15秒ですッ!』

 

『まだ敵が来るというのかッ!?』

 

レーダーに感知された熱源を報告するフィリオにジョナサンの悲鳴が重なった時、テスラ研の上空に燃えるような緋色のガーリオンが姿を現す。背部に背負ったガーリオンの両肩の磁場発生装置を見てジョナサン達もそのガーリオン友軍機であるという事を悟った。何故ならば、その装置はテスラ研で開発されたガーリオンの強化パーツでありワンオフの物だからだ。

 

「遅いんだよ、バン・バ・チュン」

 

砕けたヘルメットを投げ捨て、額の血を拭いながらコウキが呆れたように呟いた。

 

『獅子の戦いを見せてやる! レオソニックブレイカーセットッ! GOッ!!!』

 

両肩、両足、そして両腕の計6機の力場誘導によって、爆発的な加速を得たガーリオン・レグルスカスタムのレオ・ソニックブレイカーが空中の爆撃機を撃墜し、そのまま白骨鬼、闇竜鬼に向かってソニックブレイカーで突撃しゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムへの道が開けた。

 

『今の内に救出を! 私が百鬼獣を食い止めるッ!』

 

『は、はい! ありがとうございますッ! コウキさん、今行きますッ!』

 

バンが百鬼獣を食い止めている間にクスハがコウキの救出に向かおうと動き出した。近くに敵の気配は無く、この場にいる全員がコウキを救出出来る……そう思った瞬間だった。

 

『く、空間転移反応です! 場所はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの後です!』

 

『な、なんだと! コウキッ! 逃げ……いや脱出するんだッ!』

 

空間転移反応があり、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの背後に転移してくる百鬼獣の姿があった。ジョナサンの言葉に反射的に脱出装置を起動させるレバーに手を伸ばしたコウキだったが、ノイズ交じりだがまだ外の光景を写しているモニターを見て、コウキの手は止まった、いや止まってしまった。

 

「なん……だとッ!?」

 

例え気が緩んでいたとしても、コウキならばその奇襲に反応し回避する事も出来ただろう。もっと言えば自分の命を守る為に脱出装置を起動させただろう……だが自分の背後に現れた百鬼獣を見て、コウキと言えど動揺を隠せなかった。頭部の1本角、赤と黒のカラーリング……そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに酷似したアームズユニット……その姿をコウキは知っている。

 

「鉄甲鬼……だとッ!?」

 

『!!!』

 

それは紛れも無くかつての己の半身である百鬼獣鉄甲鬼の姿だった。その姿にコウキは一瞬思考が止まり、その隙を百鬼獣鉄甲鬼は見逃さず、振りかぶられた斧に一閃されゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムは爆発し、コウキの思考は眩い白に染め上げられるのだった……。

 

 

 

 

 

テスラ研の管制室にいたジョナサン達は目の前の光景を見て絶句した。大破寸前のゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの背後に現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに酷似した百鬼獣の一閃を受け、爆発炎上したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムから脱出した反応は無く、コウキの生存が絶望的という事を示していた。

 

「だ、誰でも良い! コウキの捜索を!」

 

ジョナサンにすればコウキは幼い頃から面倒を見ていた青年だ。血の繋がりは無いが、イルム同様自分の子供のようにコウキを愛し、そして導いてきていた。自分の指示がどれだけ的外れかという事も判っていた……だがそれでもコウキを見捨てると言う選択肢がどうしても取れなかった。

 

「だ、駄目です!カ、カザハラ博士ッ!」

 

「何が駄目なんだ! コウキを見捨てろというのかフィリオッ!?」

 

駄目だと静止するフィリオにジョナサンがそう怒鳴り、詰め寄ろうとした時フィリオの報告が続いた。

 

「研究所前方に転移反応! 場所はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタム上空ッ!」

 

「なッ!?」

 

その報告の直後ガルガウが転移してきて、僅かにフレームを残していたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを跡形も無く踏み潰した。

 

「ぬ、ぬうッ!!」

 

「こ、コウキ……そんな……」

 

特機に踏み潰された事で僅かに残っていたコウキの生存が絶望的になった。しかもゴミでも踏み潰すように、踏みにじるガルガウの姿にテスラ研の全員が悲鳴を上げた。

 

「あ、あああ……そ、そんなッ!」

 

「こ、コウキ博士……そんな、嘘だ……」

 

それはグルンガスト弐式のクスハもカリオンのスレイも同様だった。厳しくはあった、だがそれでも自分たちを見守り、そして守ってくれていたコウキが死んだという現実をクスハ達は受け入れられなかった。

 

「間に合わなかったか……許せ、コウキ」

 

無人機の度重なる襲撃によって到着が遅れ、それがコウキの死を招いていてしまった。バンはその事を悔い、音が出る程歯を噛み締め、爪が掌に食い込むほどに拳を握り締めた。

 

「ジョナサン、フィリオ。嘆いている暇はない、ワシらがやるべき事は悔いる事も嘆く事でもない筈じゃ」

 

「り、リシュウ先生……くっ……判りました! 脱出作業を進めろ! コウキの意志を無駄にするなッ!」

 

リシュウに詰め寄ろうとしたジョナサンだが、リシュウの手が震えるほど握り締められ、その肩が震えているのを見てジョナサンは何も言えず、涙を堪えいま自分達がすべき事を優先する。

 

『クスハ、スレイ、辛いと思うけど今は脱出を優先するわ。目の前の敵に集中して、それにコウキが死んだとは限らないわ』

 

気休めだと判っている。それでも今の自分達に嘆いている時間も、悔やんでいる時間もないと言うことは判っていた。ガルガウに攻撃を仕掛けているガーリオン・レグルス・カスタムを見て、クスハもスレイも涙を拭ってガルガウへの攻撃を仕掛ける。装甲と攻撃力ではガルガウには遠く及ばないことはわかっている。それでも機動力ならばガルガウを圧倒的出来る……フォーメーションを組んで波状攻撃でガルガウへの攻撃を繰り出す。

 

『うるさいハエ共め、これでもくらえッ!』

 

だがそんな必死の攻撃もガルガウの攻撃によって一蹴されてしまう。腕部と背中に背負っているミサイルコンテナから降り注ぐ攻撃がどこまで避けてもその姿を追いかけて、ミサイルは動き続ける。

 

「誘導ミサイルかッ! 避けようと思うな! 迎撃しろッ!」

 

誘導弾だと判り迎撃しろとスレイとクスハに指示を出すバン。自ら率先しミサイルを迎撃したが、その瞬間ミサイルが弾け姿を見せた多段弾頭が周囲を薙ぎ払う。迎撃をしても、誘爆を逃れたミサイルの雨がクスハ達に襲い掛かる。

 

『くあっ!!』

 

『きゃあああっ!!』

 

『ぐうッ! お、己ッ!』

 

ラングレー基地での回収でガルガウは対PT、AM用の改造を施されていた。機動力で劣り、追い切れないのならば追わなければいい。自分はどっしりと構え、誘導ミサイルでダメージを与えれば良い。今優先するべきは、ラングレーとテスラ研の制圧――その任務を果たす為に、本来のガルガウの対特機の大型装備を減らし、小型で連射速度と誘導性に秀でた装備を増量させたのだ。

 

『貴様らはそこで大人しくしていろ……命が惜しければな、貴様らの機体には価値がある。大人しくしていれば殺しはしない』

 

勝ち誇ったヴィガジの通信が響くが、それでもバン達が動こうとするとミサイルが独りでに射出され、クスハ達に襲い掛かる。

 

『お前達の機体データは既に登録済みだ。攻撃行動を起せば自動的に反撃する。もう1度言う、死にたくなければおとなしくしているんだな』

 

既にミサイルはヴィガジの指揮を離れ、自動的に攻撃をしている。死にたくなければ動くなと言うのは脅しでもなんでもなく、動けばヴィガジの意志と関係なくミサイルが襲い掛かると言う事を示していたのだ。

 

『くっ、落ちてなる物かッ!  テスラ研には兄様がいるッ!!』

 

『私達は諦めないッ!』

 

『諦めろと言われて諦めるほど、私は諦めが良い性格ではなくてなッ!』

 

自動で襲い掛かるミサイルを回避しながら、ガルガウをテスラ研に向かわせない為に攻撃を続ける。だがミサイルはより激しさを増し、徐々に激しさを増すミサイルにエースパイロットであるバン達でさえも回避が間に合わなくなっていく。

 

『ギリギリまで誘導しあの特機にぶつけるんだッ!』

 

『はいッ!』

 

避けれないのならばとガルガウに誘導し、ミサイルを逆に利用しガルガウにぶつけるという戦法を試みるが、ガルガウに命中する寸前で止まり、休息反転しガーリオン・レグルス、グルンガスト弐式へと向かう。

 

『ふん、自分の武器に当たる馬鹿がいるか。いい加減に諦めるんだな』

 

ヴィガジの言う通りである。自分の武器に当たる馬鹿がいる訳がない、多弾頭ミサイルが再び放たれる。威力は低いがその異常な射程範囲と誘導にカリオンが避けきれず被弾し、高度を落とす。だがスレイは諦める事無く操縦桿を握り締め必死に機首を上げる。

 

『翼が折れようと飛ぶんだッ!!  兄様を守る為にッ!!』

 

自分の敬愛する兄を守る為に、絶対に諦めないと吼えたスレイに答えるように広域通信で男の声が響いた。

 

『……ならばその役目は私に任せて貰おうッ!!』

 

その通信の直後漆黒のマントを翻し、黒い特機がカリオンを追い抜いてガルガウへと襲い掛かる。

 

『『『黒いゲッター1ッ!?』』』

 

その姿は紛れも無くアイドネウス島で消滅したゲッターロボを黒くした機体だった。驚いているスレイ達を尻目にバンは呆れたように溜め息を吐いた。救援に向かうと聞いていたのに遅すぎると文句を言いたかったが、遅かったのは自分も同じだ。文句を言える立場になく、己の行動でしか己のミスは取り返せない。反転しゲッター1・トロンベと共にガルガウへ肉薄する。

 

『貴様ラングレー基地で俺の邪魔をしたッ! 今度は俺の邪魔などさせんぞッ!!』

 

「フッ……それはどうかな? オープンゲットッ!」

 

ガルガウの攻撃をオープンゲットでかわし、ジャガー、ベアー、イーグル号の順番でガルガウに突っ込んでいくゲットマシン。

 

『分離形態で俺に勝てると勝てると思って『悪いが、お前の好きにはさせんぞッ!!』ぐうっ!?』

 

分離形態の内に潰そうとしたガルガウにガーリオン・レグルス・カスタムの放ったファングクラッシャーが突き刺さり、メガスマッシャーとミサイルの狙いを逸らさせ、ゲットマシンはガーリオン・レグルス・カスタムを追い抜いた。その速度はカリオンの最高速度を優に越え、マッハの速度を越えた壁を突き抜けてガルガウに肉薄する。

 

「行くぞ、トロンベ! チェンジゲッタァアアーッ! ツゥゥウッ!!!!」

 

ゲッター2へとゲッターチェンジを果たし、更に加速を高めそのままの速度でガルガウの胴にゲッタードリルを突き立て、ガルガウの装甲を容赦なく抉り、蹴りを叩き込んでガルガウから距離を取り、片膝と万力のような腕を地面に叩きつけるようにして着地するゲッター2・トロンベ。

 

『チッ、味な真似をッ!!』

 

今の一撃でメガスマッシャーと背部のミサイルコンテナを潰され、ヴィガジは忌々しそうに声を上げる。だがその直後に連続で叩き込まれた重力砲に弾き飛ばされ、ガルガウは大きく地響きを立てて大きく後退を強いられる。

 

『く、黒いゲッターロボッ!? で、でも今トロンベって……』

 

『黒い機体……ッ! それにあの紋章……やはり、あの男は……ッ!』

 

黒い機体、ブランシュタイン家の紋章――そしてトロンベと聞いてスレイとクスハの脳裏にはエルザムの名前が過ぎっていた。

 

『貴様、何者だ? 何故ゲッターロボを操っている』

 

「私の名前はレーツェル、レーツェル・ファインシュメッカー。我が友に託された刃に何か文句でもあるのか? それとも我が友に受けた傷が痛むか? ヴィガジとやら」

 

ゲッター2・トロンベのドリルをガルガウに向けながら挑発めいた口調を投げかけるレーツェル。

 

『貴様ッ! やはりあのゲッターロボのパイロットの仲間かッ! 丁度良い、貴様を此処で殺してくれるわッ!』

 

「やってみるが良い、私とゲッターロボ・トロンベを簡単に倒せると思わないことだ。インスペクターよッ!」

 

ガルガウの爪とゲッター2・トロンベのドリルが何度も交錯を繰り返し火花を散らす。だがガルガウをゲッター2・トロンベが押さえていても、テスラ研を取り囲んでいる無人機、そして百鬼獣の襲撃は収まらず、テスラ研を巡る戦いは更なる激化を迎えていく……そしてその戦いの中で鬼神が目覚めようとしていた……。

 

「はぁ……はぁ……まだだ、まだ俺は死ねん……ぐっ、おあああああッ! あ、後は傷口を……ぐ、ぐうううううッ!!!!!」

 

ガルガウに踏み潰される瞬間、ギリギリ脱出を果たしたコウキはテスラ研の地下に落下していた。だがその腹部には砕けたコックピットの残骸が突き刺さっており、絶え間なく血が流れ落ちていた。常人ならば意識を失う激痛の中、コウキは両手で腹部に刺さった金属片を握り締め気合と共に引き抜き投げ捨てる。そして舌を噛み切らないように布を口に詰め込んだコウキは、爆発し赤く染まっている金属片を傷口に押し当てる、肉の焼ける嫌な音と声にならないコウキの悲鳴が通路に木霊し、強引に止血を終えたコウキは荒い呼吸を整え、自ら口に押し込んだ布を抜いて口の中に溜まった血を吐き出す。

 

「があ……はぁ……はぁ……き、気絶するなよ……俺……」

 

常人を遥かに越える精神力を持つコウキだからこそ出来る強引な応急処置――だがその代償は決して安くは無く、極限まで体力を消耗したコウキは壁にもたれる様にして立ち上がる。頭、そして右腕から血を流し、通路に広がる夥しい血痕――適切な処置をしなければ自分の命がこの場で潰える事が判っていた。それでもコウキは足を引き摺りながらも歩みを一瞬たりとも止めていなかった。

 

「待っていろ……今助けに行くッ」

 

上から響く爆発音と時折上から落ちてくる砂を見て、まだ戦いが続いていると判っていて足を止めるような事はコウキには出来なかった。仲間を助けたいと言う気持ち、そして自分が作り出した鉄甲鬼を勝手に使われて大人しくしている事など出来る訳がなかった。重い足を引き摺りながらコウキは新たな己の元へと歩き続けるのだった……。

 

 

第76話 黒き暴風と鬼神 その3へ続く

 

 




今回はオリジナル要素強め……いや、もう最近ずっとオリジナル要素強めなので今更ですね。次回は鬼神――新西暦で作られた鉄甲鬼を出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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