第78話 深き海の底から その2
ブリッジで指揮を取っていたリリーは艦長席から投げ出され床に転がっていた。だがそれはリリーだけではなく、ブリッジ勤務の殆どの人間がそうだった。頭を振りながら立ち上がったリリーの目の前に広がっていたのは巨大な龍の頭部だった。
「な、なんて大きさッ! こんな巨大な百鬼獣がいるなんてッ!?」
552mのクロガネよりも遥かに巨大な敵影がゆったりとクロガネの周りを旋回している。その全身が巻きついてきたらクロガネが一瞬で押し潰され、圧壊する光景が容易にその脳裏を過ぎった。しかしその最悪の予想はクロガネを襲った振動によって吹き飛ばされ、再びリリーはその場に膝をついた。
「くっ!? 何で攻撃されているのか特定出来ましたかッ!?」
「わ、判りません! ソナーには何の反応もッ!?」
敵の攻撃の正体が判らない、Eーフィールドもゲッター線バリアも貫通し、クロガネを襲う振動は敵の攻撃である事は間違いが無い。だがソナーにも熱源探知機にも何の反応も無く連続で撃ち込まれる「何か」の特定を試みるが何の反応も感じられない。
「ソナーの感度をもっと上げてください! それと視覚での感知をッ!」
ゲッター合金で強化されているからまだ耐えれているが、それも限界が近い。なんとしても敵の攻撃の正体を明らかにさせなければと躍起になるが、どれほどソナーなどを強化しても敵の攻撃の正体が判らないと言うのは変わらない。浮上して逃げるか、強行突破を試みるか、それとも敵の攻撃が激しくなる事を覚悟で反撃に出るか、3つの選択肢がリリーの脳裏に浮かんだ時。オペレーターの声がブリッジに響き渡った。
「リリー中佐! クロガネの進路、2000M先にゲッター線反応感知ッ! モニターに写します!」
海溝の岩の間に挟まるようにして停止している人型の起動兵器の姿を見てブリッジの全員が目を見開いた。
鬼を思わせる特徴的な2本角、鉄板を丸めるて人型にしたようなずんぐりとしたフォルム、そして海水の中に浮かんでいるマント……その姿はクロガネのクルーならば誰もが知っている――ゲッターロボの同型機の姿だった。
「ブラックゲッターロボッ! くそっ、こんな状況でなければッ!」
ブリッジに駆け込んできたビアンがモニターに映っているゲッターロボを見て悔しそうに声を上げた。捜し求めたゲッターロボが目の前にある――それを回収したいが、敵の攻撃を受けている状態では回収艇を送り出すことも出来ない……それにこの深度では機体を出撃させる事も出来ない。その事に歯噛みしていると、クロガネを執拗に攻撃していた龍がその首をゲッターロボに向けクロガネを無視してそちらに向かって泳ぎ始めた。
「百鬼帝国の目的もゲッターロボかッ!?」
ゲッター合金とゲッター炉心――ゲッターロボを手にすればその両方を手に出来る。それを百鬼帝国が手にすれば今よりも遥かに強力な百鬼獣が生成される事になる――今でさえ強い百鬼獣が今よりももっと強くなろうとしている。それを目の当たりにし、ビアンはある決断を下さざるを得なかった。
「主砲をブラックゲッターへッ! 海溝の下に落下させるぞッ!」
百鬼帝国に渡すくらいならば、誰の手にも届かない場所に落とす。それが今のビアン達に出来る最善であり、クロガネの主砲はブラックゲッターに向けられた時、海溝を振るわせる女の声が響いた。
【それをやってみるが良い、その瞬間にお前達を殺すぞ?】
ブラックゲッターに頭を向けていた龍がその首をクロガネに向け、口の中の顔を見せつけながら警告を口にした。
【お前達を襲ったのは戯れよ。逃げたくば逃げれば良い、だが鬼神だけは貰い受ける。逃げよ、下等な人間共よ。四罪の超鬼神 共行王から逃げる事を許そう。さぁ往ねッ!】
圧倒的な存在感、逃げろと見逃してやるという言葉に誰もが助かったと思った。ビアン達は知る良しも無いが、邪であれど共行王は神に準ずる極めて強力で、強大な存在だ。その言葉は神託となり、抵抗する事の出来ない者から反抗心などを全て奪い去る超常の力を秘めていた。それゆえに嘘はつかない、そして己の発言を歪める事も無い。神としてのあり方、そして傲慢とも取れる態度……だがそれを許される程の力を共行王は有していた。事実共行王の言葉を聞いても闘争心をおらなかったのはビアン、イングラム、カーウァイ、ラドラの4人だけであった。
(共行王――四罪……中国の神の1人かッ!)
ビアンは逃げるべきだと己の本能が叫ぶ中、それでも敵の発言からその正体を導き出そうとしていた、それにもしも戦える環境であればカーウァイ達も不屈を叫んだだろう。
【さて、返答はいかに?】
逃げなければこの場で殺してやろうかと嗜虐心に満ちた声で共行王が問いかけ、ビアンが苦虫を噛み潰したような顔で逃げると口にしようとした時だった。この場にはいない筈の第3者の声が海溝に響き渡った。
『なんと言う傲慢。これだから神という者は醜悪なのですよ、ワームスマッシャー発射ッ!!!』
【ぐっぐうッ!?】
海溝に現れた無数の穴から凄まじい数の光の矢が放たれ、共行王の身体を穿つ。
「今の声はッ! シュウかッ!」
『クックク、お久しぶりですね。ビアン博士、お元気そうで何よりです』
湾曲フィールドを展開したグランゾンが悠然とクロガネの前に出現する。
【己ッ! 人間風情がッ! それほどまでに死にたいのかッ!】
『良いんですか? 貴女の求めているゲッターロボが沈んで行きますよ?』
怒りを露にし、グランゾンを攻撃しようとした共行王だが、ワームスマッシャーよって海溝の壁を破壊され沈んでいくブラックゲッターが装甲をへこませながら沈んでいく光景を見て、怒りをその瞳に宿しシュウに呪言を投げつける。
【覚えていろッ! 群青の魔神よッ! この恨み必ず晴らしてくれようぞッ!】
沈んでいくブラックゲッターを追って海溝の奥に潜っていく共行王。
『さぁ、ビアン博士。この場は逃げるとしましょうか』
展開されたワームホールにグランゾンとクロガネは飲み込まるようにその姿を消すのだった……。
【おのれ、人間如きに】
圧壊寸前の所でブラックゲッターロボを回収した共行王は忌まわしげにそう呟いた。鱗が身体から剥がれ、その姿を小型の龍へと変える。この小さい共行王の分身とも言える名もなき小型の百鬼獣がクロガネを何度も襲っていた爆発の正体だった。
【探せ、見つけたら私に教えるのだ】
【【【こくり】】】
近くに居ないと判っていても、自らが下等生物と侮る人間に出し抜かれた事は共行王のプライドを酷く傷つけていた。発見できる確率は低いとわかっていても、追っ手を放たずにはいられなかった。
【……この身体にもっとなれていれば……口惜しや】
ブラックゲッターの回収は共行王の身体の慣らしも兼ねた作業だった。その過程でクロガネと遭遇したのはビアン達は勿論、共行王にとっても不幸だった。何故ならば、まだ共行王の身体は完全に完成していなかったからだ。その上ブライの言霊でブラックゲッターを優先しろ、クロガネを撃墜するなと縛られていたことも相まって確実に仕留めれるタイミングで取り逃がした事に共行王は苛立ちを覚えたが、それを振り切るように首を左右にふる。
【あの鬼の奴に早くこの身体を仕上げさせなくては……それにあやつの指示も聞いた、次は確実に仕留める】
以前は龍の身体しか持たないが故にバラルの仙人に出し抜かれた共行王。こうして蘇っても尚弱点をそのままにしているつもりなど無く、グランゾンに出し抜かれた事もあり、早くこの身体を仕上げさせる事を誓い圧壊寸前のブラックゲッターを尾で器用に固定し、海面に向かって泳ぎ出すのだった……。
グランゾンの力によって海溝を脱出したクロガネは太平洋のど真ん中に浮上しグランゾンを着艦させていた。このタイミングで姿を現したグランゾンとシュウ――何らかの意図があるビアンは考え、互いの情報交換を提案したのだ。
「ビアン博士。お久しぶりですね、元気そうで何よりです」
「シュウ。ありがとう、お前のお蔭で助かった」
ブリーフィングルームでビアンとシュウは握手を交し、ビアンは助けられた事に対する感謝の言葉を口にしていた。
「いえいえ、海中に凄まじいエネルギー反応を感知したので、クロガネを見つける事が出来たのは本当に運が良かった」
そう笑ったシュウは警戒の色を浮かべているイングラムを見つめて柔らかく微笑んだ。
「イングラム少佐でしたね。お名前はかねがね、こうしてお会い出来て嬉しいですよ」
「……こちらもな。お前の事は知っている」
「それは光栄ですね。EOTI機関の力も借りずにEOTを解析したと聞いて何者かと思っておりましたが、まさかエアロゲイター側だったとは思ってもいませんでしたよ」
「シュウ。そのような言い方はどうかと思うぞ?」
シュウの挑発するような口調を聞いてビアンが注意するとシュウはすみませんと口にはしたが、その目にはまだ挑発的な色が宿っていた。
「俺についてはどうでも良い事だ。今は俺は地球の為に戦っている、それで良い筈だ」
「ククク、それは失礼しました。それと初めましてカーウァイ大佐、1度貴方の話を窺ってみたかったと思っていたのですよ」
イングラムに対しては挑発的なシュウ。だがカーウァイに対しては友好的で握手を求める。
「シュウ・シラカワだったな、カーウァイ・ラウだ」
「ご丁寧にどうも、シュウ・シラカワと申します。よろしくお願いしますね」
柔和な笑みを浮かべるシュウだが、カーウァイもその瞳の奥を見て警戒心を強めた。偶然と言う言葉に嘘は無いが、その先に何かほかの意図が見え隠れしているのを感じ取ったのだ。教導隊と言う癖の塊のような連中を纏めていたカーウァイだからこそ判る観察眼――目の前にいる相手すらまともに見ていないようにカーウァイには感じられた。
「シュウ、私を探していたと言っていたが……何のようだったのだね?」
「ビアン博士が探しているヴィルヘルム・V・ユルゲンについての情報を掴んだ物で、それとインスペクターについて私が独自に掴んだ情報をお伝えに来ました」
ビアンが今探している元EOTI機関、もしくはDCに属していた危険な発明をしていた研究者の1人……ユルゲンの名前が出たことでビアンは眉を細めた。
「ユルゲンは今どこに?」
「それに関してですが、彼はAMNシステムの開発を再開しています」
「……やはり……か」
ユルゲンが提唱し、そしてアードラーの横槍によって12名もの死傷者を出した狂気のシステム。それがAMNシステム――Armord Module Network Systemだ。元々は人命の損失を最小限にするためのシステムだったが、ビアンはその危険性を一目で見抜いたのだ。仮にアードラーの横槍が無くともその結末は変わらないと確信できるだけの欠陥があったのだ。
「ビアン所長。なんだそのAMNシステムと言うのは?」
「Armord Module Network System――の頭文字をとってAMNシステムと呼称されたユルゲン博士が提唱したシステムだ。これは少数の人間で大多数の無人機を操り、AMNシステムを搭載している機体にデータを即時に共有し、高い戦闘能力を発揮させるというシステムだ。これにより広い局面でエースクラスのパイロットが搭乗している機体を複数用意できると言う物だったが、致命的な欠陥を抱えていた。だから私は開発の中止を命じた。」
ビアンが開発の中止を命じるシステム。本当に人命を守れるのならば、ビアンはそのシステムの改善に協力しただろう。しかしそれをする事無く、開発の中止を命じたというだけでそのシステムの危険性を窺い知る事が出来た。
「膨大な戦闘データを扱う機体スペックの問題、量産が前提である筈なのに規格外の高コスト。それに加え膨大な情報伝達が搭乗者の脳に重大な負荷をかけ、普通の人間ではまともに制御できないという重大な欠点を抱えていたのですよ。この欠点を改善する為には、無人機側に情報の媒介・処理用として人間の脳を組み込むという方法を取らざるを得ず。更にその人間の脳を使い捨てにする必要があったのです」
「余りにも本末転倒だな」
人命を守る為に、人の命を犠牲にする。そんなシステムをビアンが認められる訳が無い、しかし人道を外れればこれほど優秀なシステムは無く、目を付けるものがいるだろうと思いビアンはそうなる前にユルゲンの確保を考えていたのだが、既に開発を再開していると聞いて、その表情を歪めさせた。
「その馬鹿はどこにいる。そんなシステムを完成させる前にその男は殺すべきだ」
「いえ、私もどこにいるかまでは……ただAMNシステムらしき物で稼動する無人機に襲われたのでね、人を培養液に漬け込んだ狂気の機体にね」
シュウの言葉を信じるのならば、既にAMNシステムは完成間近という事だ。
「その人はどうなったのだね?」
「死にました、脳が耐え切れなかったのでしょう。機体はリオン系列でしたので、恐らくイスルギ重工の関係者に拾われたのだと思いますが……警戒を、私も調べてみますが……思った以上に隠蔽能力が高い。人間とは思えぬほどに」
「異星人が協力していると言うことか? シュウ・シラカワ」
「そこに関しては何とも、ただあそこまで完璧に痕跡を隠すというのは尋常ではないと言うことですよ」
無人機を開発し、その無人機に組み込むエースクラスのパイロットを確保する。今地球の内外に広がっている脅威の事を考えても、それは異常な事だった。
「判った。私の方でも調べてみよう」
単独で調べる限界はビアンにも判っている。ここからはあちこちの企業に自分の親派が紛れ込んでいるビアンの仕事だ、どこで開発していると言うのが判ればそこから一気に切り崩すしかない。
「よろしくお願いします。それとインスペクターに関してですが、南極に現れたフーレの事を覚えていますね? イングラム少佐、あれはエアロゲイターの物ですか?」
「いや、違う。良く似ているが、別物だ」
シュウに話を振られ少し不機嫌そうだが、イングラムは南極の時のフーレは違うと断言した。
「私も半年の間色々ありましてね。ビアン博士、地球内で多発している行方不明事件はご存知ですか?」
「あ、ああ。私はそれを百鬼帝国の手の物の仕業だと思っているが……」
「違いますよ。あれにはゾヴォーク、インスペクターが所属する星間連合が関わっています。どうも南極に現れたのもゾヴォークの派閥の1つのようです」
シュウから告げられた言葉にブリーフィングルームに緊張が走った。
「地球でも暗躍していると言うのか?」
「ええ、それも地球人を実験動物と見下すような連中です。まぁ、私を狙って襲ってきているので返り討ちにしていますが、彼らから得た情報なのである程度は信憑性はあります。ただ攫われた人達は……手遅れでした」
シュウは間に合わなかったと悲しそうに呟き、地球内に蔓延る異星人の悪意をシュウから告げられたビアン達は沈鬱そうに目を伏せる。その中イングラムがゆっくりと口を開いた。
「シュウ・シラカワ。俺と会ったのはこれが初めてか?」
「はて、私は貴方と会うのはこれが初めてだったと思いますが誰かと勘違いしているのでは?」
シュウの返答を聞いたイングラムは小さくそうかと呟く、そのやり取りを見てビアンが怪訝そうな表情を浮かべる。
「シラカワと名乗る男に会った事があったからそれと勘違いしたのだろう。すまないな」
「いえ、構いませんよ。それよりも今はインスペクターの事を話し合いましょう」
話題をすり替えるシュウにイングラムは眉を細めるが、何も口にしなかった。「今は」それに触れるべきではないと察したからだ……。
(状況は芳しくないな)
かつてイングラムとシュウは出会っている。SRX計画に使われているオリハルコニウム――それはシュウによって齎された物であり、イングラムがまだ完全に操られる前の事だ。そしてその事を覚えていないシュウにイングラムは己に通じるものを感じ取り、何も口にする事は無く話し終え、クロガネを後にしたシュウを黙って見送る。もしもシュウが出会ったことを覚えていなければ、その事に触れるなとシュウに釘を刺されていたから、もしもそれに深入りすれば地球には今まで以上に混乱が広がると言われていたからだ。
(俺1人で何とかしろと言うのか、全く)
シュウ・シラカワとの盟約――それは今の段階ではイングラム1人の胸の内に留める必要があり、誰にも相談することが出来ないことでもありイングラムは眉を顰めながら、これからの方針を話し合うビアン達の言葉に耳を傾けるのだった……。
レディバードの質素なキッチンで用意されたとは思えない料理に舌鼓を打ち、英気を養ったツグミ達はこれからの方針を話し合っていた。
「……駄目です。付近の連邦軍基地からの応答はありません……」
ラングレー以外の連邦軍基地の生き残りと共に行動しようと考えていたのだが、それは出足から挫かれることになった。
「そうか……アメリカ中部もインスペクターに制圧されつつあるようだな」
空間転移を駆使し、1度に大量の兵器を投入してくるインスペクターが相手だ。防衛戦など望める訳が無く、脱出する事さえ奇跡的な出来事と言っても良いだろう。
「それに加えてあいつらはこちら側の機体を使ってくる」
「乱戦の中ではこれほど恐ろしい事はないな」
制圧した連邦軍基地の機体を用いる事で識別コードを誤認させ、友軍と思った瞬間に攻撃されれば戦線は一気に崩される。
「今の所都市部に大きな攻撃を仕掛けていないのはどう考える? コウキ博士」
「そうだな。インスペクターが求めているのはこちらの技術と軍事力だと思われる。真っ先にテスラ研とラングレー基地を制圧したことを考えれば生産力も求めていると見て良いだろう。戦力が必要ないのならば、都市部をさっさと制圧して人質を確保したほうが良い」
百鬼帝国として侵略者側で戦っていたコウキの意見は非常に重要な観点だった。
「確かにな、交渉をする上で人質は重要なファクターになる。それをしないと言うことは、まずは補給線の確保とと戦線拡大を重要視しているのだろう。自分達の領土を広げる段階での人質はむしろ邪魔になるからな」
そしてそれは反連邦勢力のゲリラの首領を務めていたバンも同じ意見だった。守る側ではなく、攻める側の意見と言うのはツグミ達には少ない物で、コウキとバンの意見にはなるほどと思う部分が非常に多かった。
「ムーンクレイドル、マオ社、そしてラングレー基地とテスラ研……それら全てに共通している点が1つある。ツグミ君は判るか?」
開発チームの主任だったとしても、脱出した中の面子の中では1番高い階級のツグミだけが話し合いに参加していた。だが今までは黙り込み、そして話を聞くだけだった。レーツェルに振られた内容、そしてコウキ、バンの意見を頭の中で組み合わせ、レーツェルが何を考えているのか、そして自分に何を言わせようとしているのかを考えるツグミ。そしてその答えは今の自分達の状況そのものだと判った。
「脱出する物を必要以上に追っていない、そして基地に対する被害が少ないと言う事ですね?」
テスラ研に攻撃を仕掛けてきたインスペクターの攻撃は必要以上にテスラ研を破壊する物ではなかった上に、脱出も妨害こそすれど撃墜する気配がなかった。だからツグミは意図的に見逃されたと考えたのだ。
「その通りだ。彼らは自分達が後々利用しようと思っている物に対し、必要以上の手を出さない。手にしようとしている戦力、生産拠点、
開発を行なう技術者を失っては本末転倒と言うところだからだろうな」
「つまりは、反抗さえしなければ命は保障されていると言うことだな」
「ああ、だがそれに安心しきる事も出来ないがな」
見せしめとして何人か殺される可能性はあるが、腕の良い技術者は生存させられるだろう。そういう面ではジョナサンとフィリオの命は保障されていると言っても良いだろう。
「その上でこれから、私達はどうするんです? 味方は期待出来ず、追っ手も今は無くとも、ずっと無いとは言い切れないこの状況で」
不安そうに言うツグミ。ジョナサン達の身の安全が確保出来たとしても、自分達が生き延びなければテスラ研の奪還は夢のまた夢だ。
「現段階でのインスペクターは西海岸方面へ勢力を伸ばそうとしている。太平洋方面に抜けるのは危険だ。 我々はこのまま北へ向かう」
「でも、 そちらへ行っても同じ事では……やはり距離的に太平洋方面を目指すべきでは?」
アメリカ大陸は広いが、それでも多目的に戦力を展開しているインスペクターを相手にすれば逃げ道なんて無いに等しい。現在位置を考えれば太平洋を目指したほうが良いとツグミが提案する。
「いや、スペリオル湖にヒリュウ改が停泊している。私はそこから救援に来ている、ある程度近づけばヒリュウ改から迎えが来る筈だ」
単独で太平洋を抜けることを考えるよりも、北上しスペリオル湖を目指す方が安全性が高いと聞いてツグミの顔に希望の色が灯る。
「それよりもだ。ツグミだったな、カリオンのパイロットはどうだ? 出撃は可能か? コウキ博士を動かす訳にはいかない以上、戦力は決して多くない、ルーキーとは言えカリオンのパイロットも戦力として数えたい」
俺は戦えるというコウキの言葉を無視してバンが話を進める。
「それに関しては2人とも今は休んでいますが大丈夫です。テスラ研を奪還する為に、立ち止まっていられないと2人とも気合を入れてくれています」
「そうか、それならば私も出るから偵察に出る事も考えよう」
「そうだな。なに、心配ない。俺も有事に出撃する。安心して偵察に向かってくれ」
「「「大人しくしていろ」」」
出撃する気満々の重症患者のコウキにツグミ、バン、レーツェルの鋭い突っ込みが入り、しょんぼりした様子のコウキを尻目にレーツェル達はヒリュウ改に合流する為の進路、予測される追っ手の数、会敵する可能性を考えながら慎重に進路の相談を続けるのだった……。
第79話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その1へ続く
次回はレーツェル達の視点と武蔵の視点での話を書いて行こうと思います。このまま進んでいくと、現れた影でヴィンデルとエンカウントしてしまうのでハガネからちょっと1回離す予定です。浅草にいるジャーダとガーネットに会わせ、そしてそこで胡蝶鬼とのエンカウントさせてみようかなと考えております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い