第79話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その1
求め続けたブラックゲッターを百鬼帝国に奪われたのはビアン達にとっても相当な痛手となった。その上シュウから伝えられたユルゲンが今も研究をしていると言う情報はおいそれと聞き流していい物ではなく、対策を練る必要のある情報となっていた。
「パイロットが行方不明、あるいは解体された部隊などの情報がないか、情報を集めるように頼んでくれ」
「分かりました。すぐに手配します」
ビアン達は追われる身であり、情報を得るのが難しい立場と一見思うが、ビアン親派はかなりの数が居り、地球・宇宙の両方にいるので下手な情報部よりもビアンの手元には最新情報が集まっていた。そんなビアンですらユルゲンの情報は持っておらず、ユルゲンを匿っている組織が相当なやり手であると言うことは明らかで軽く見ることの出来る相手ではないと言うことは明らかだった。
「ユルゲンの事も気になるが問題はブラックゲッターロボが百鬼帝国の手に渡った事だな」
「目の前にしていて奪われたのはかなり痛いな」
共行王の横槍がなければ今頃はクロガネの格納庫にはネオゲッターと共にブラックゲッターの2機があるはずだった為に流石のイングラムとカーウァイも気落ちの色を隠す事が出来ないでいた。だが1番気落ちすると思われていたグライエンとビアンは確かに気落ちしている様子だったが、イングラム達ほどではなかった。
「随分と表情が明るいな?」
「む? そう見えるか? 私とてブラックゲッターを失ったのは痛いと思っているさ、だがな百鬼帝国がブラックゲッターを手にした所ですぐに使えるとは思えないし、戦力として使えるとは思えないのだよ」
「それに仮に使えたとしても万全な状態で使えるとは思えない。警戒するべきなのはブラックゲッターロボよりも百鬼帝国がブラックゲッターロボを用いてゲッター合金を量産することだ」
ゲッター合金製の百鬼獣を警戒するビアン達はゲッター合金に有効打をいかにして与えるかと言う事に重点を置いて会議を進めたが、百鬼帝国はビアン達の予想を超える方向でブラックゲッターロボを使い、百鬼帝国の戦力として使おうとしているのだった……。
「ブラックゲッターが使えない? はは、何を言っているのかね? あれは元々使うつもりなど無いよ」
「は……は? も、申し訳ありません大帝ッ!」
ブライにブラックゲッターの解析結果を伝えに来た鬼の研究者はブライの言葉に困惑気味な返事をしてしまい、次の瞬間には顔を青褪めさせて深く頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
「かまわんよ、そんなことで目くじらを立てるつもりはない。コーウェンとスティンガーに渡されたゲッター炉心など安心して使えるものではない、ブラックゲッターの炉心のスキャンをし、それを元に複製後ブラックゲッターの炉心に残されたゲッター線を複製した炉心に移し変えろ。それを元にゲッター合金とゲッター炉心を複製する」
「了解しました、ではブラックゲッターは廃棄ですか?」
ロストテクノロジーであり、オーバーテクノロジーの塊であるブラックゲッターを修理する術は百鬼帝国にもなく、廃棄でしょうか? という研究者の言葉にブライは大声で笑った。
「おいおいおい、そんな勿体無い事をすると思うのかね? あれも大事に使うさ」
「ですが修理は」
「頭を使いたまえよ。誰が修理をすると言った? アースクレイドルのマシンセル、それを投与して変異の推移を観察すればいいではないか、マシンセルと融合し新たなゲッターになるも良し、失敗するもまた良しだ。ゲッターロボとしての能力は失ったとしても十分に使える代物にはなるだろう」
通常の方法では修理が出来ず、ゲッター合金を作ろうとしていると言うのはビアン達の予想通りだったが、マシンセルによって進化あるいは変異を促すというのはビアンにとっても想定外であり上手く適合し、ゲッター合金とマシンセルが融合し新たな物質になってもよし、失敗しても良いという考えでマシンセルを投与しようとしているのは全くの予想外の事だった。
「パイロットはいかがしますか?」
「丁度鬼にしようとしていた人間がいるからそいつにすれば良かろう。人間ではあるが見所がある、ワシには分かるぞ。あいつは良い鬼になる」
そう笑うブライの手元の書類にはアーチボルドの顔写真とその主だった経歴が記されているのだった……。
ツグミ達が脱出の為の経路、予想される追っ手の数、ヒリュウ改との連絡を取れないかと言う試みをしている頃。1度仮眠を取ったスレイとアイビスは格納庫に保管されている機体を見上げていた。
「ねえ、スレイ」
「なんだ」
「プロジェクトTDの機体って聞いてるけどさ……これも?」
「……どうなんだろうな。ただ兄様が設計しているのは見た」
スレイとアイビスの顔は信じられない物を見る目をしていた。そしてそれは一緒に仮眠を取っていたクスハも同意見だった。
「女の子ですよね、完全に……それにこの顔、ラトゥーニとシャイン王女?」
フェアリオンタイプGとSを見てのこの反応だった。ラトゥーニとシャインの2人をそのままAMのサイズにした……それこそAMサイズの美少女フュギュアと言っても良い出来だった。
「モデルはその2人だな。リクセントからの依頼だ、俺は正直馬鹿か? と言いたかったよ」
3人の会話に割り込んできたのは杖を小脇に抱えているコウキだった。その姿を見てクスハがすぐにコウキに声を掛ける。
「コウキさん、駄目ですよ。ちゃんと杖を使って歩いてください」
「もう普通に歩ける程度には回復してる。俺だって偵察なり戦闘なり参加できると言ったら会議から追い出されたんだ」
それは当然と思ったが物凄い不満そうにしているコウキを前にスレイとアイビスは苦笑する事しか出来なかった。
「リクセントのパレードに用いられる象徴として設計されたんだ。この姿を見たら兵器には見えないだろう?」
「「「まぁ。確かに」」」
これを兵器と言えば、その人物の正気を疑う。コウキの問いかけにスレイ達は声を揃えてそう返事を返した。
「それこそがリクセントとカザハラ博士とフィリオの狙いだ。装甲を装着したらAMとしての機能は十分に発揮出来る、火力は小型な分控えめだが、それでも中立国として兵器を持つことが出来ないリクセントには十分な火力になりうる」
コウキの説明を聞いてスレイとクスハは納得した様子だったが、アイビスだけはうん? といまいち判っていない様子で唸っていた。
「えっとつまり兵器をもてないから女の子をモチーフにしたAMを作ったって事ですか?」
「そうだ」
「……カザハラ博士とフィリオもしかして疲れてました?」
「それは俺も思っている。ちなみにツインテールと縦ロールで物凄く揉めていたぞ、とっ組み合いで研究所の床を転がり回っていた」
設計した段階と依頼を受けた段階で疲れていたのではないか? と言う疑惑はずっとコウキは持っていたし、説明を聞いても全員がそう思った。そして髪型で揉めていたと聞いて、それは確信に変わっていた。
「それよりもだ。コウキ博士、何をしている。養生を優先してくれ」
「そうですよ。安静にしていてください」
スレイとクスハに安静にしていろと言われるとコウキは嫌そうに眉を細めた。
「この状況でジッとなんかしていられるものか、それにαプロトの設定は俺にしか出来ん。使う事になるかもしれない機体を中途半端な状態にしておけるか」
自分の傷よりも科学者、開発者として矜持を口にするコウキ。それに対して安静にしていて欲しいクスハとスレイの間でもめていると、格納庫を見ていたアイビスがある物を運んできた。
「じゃあ車椅子なら良い?」
歩かせるのではなく車椅子ならと妥協案を認めたスレイとクスハに対してコウキは嫌そうにしていたが、車椅子に座らされ、アイビスに押されながら格納庫のコンテナの前に移動していた。
「これがαプロト……か」
「ガーリオンに少し似てますね」
コンテナの中の機体を見て感慨深そうにしているスレイと見た感想を口にするクスハ。だが車椅子を押しているアイビスは動揺を隠せなかった。
「いやいやなんで白銀ッ!? これじゃあ、あたしの機体みたいじゃないか!」
アイビスはスレイのパーソナルカラーの赤を想像していた、それなのに白銀のαプロト――アステリオンを見てそう声を上げるのだった……。
プロジェクトTDの完成形の1つアルテリオンの試作機、それがαプロトであると言う事はアイビスも知っていた。フィリオがアイビスがアステリオンのパイロットにすると言う話も聞いていたが、それはもっと先の話だと思っていた。現実に白銀に染められたアステリオンを見て、自分が力不足だからスレイがフォローする為にベガリオンに乗ると言う話を思い出し、その顔を不安一色に染め上げる。
「そうだ、アステリオンはお前の機体だ。アイビス」
「いやいや!? スレイはそれで良いの!?」
1番この決定に反対するであろうスレイにお前の機体だと言われ、アイビスは思わずそう尋ねる。
「良いか悪いかで言えば不満はある。だが未熟者のお前の生存率を高め、私がフォローするとなればベガリオンの方が良い。そうだろ、コウキ博士?」
ドヤ顔で尋ねるスレイだが、コウキの反応はあ、ああ、うんと言う感じだった。
「待て、まさかベガリオンは」
「……出来てないな」
βプロト――ベガリオンが既に完成していると思っていたスレイはがっくりと肩を落とし、クスハとアイビスがおろおろしているとコウキがクククと喉を鳴らす。
「まさか騙したのか!?」
からかわれたのかとスレイが詰め寄るとコウキはすまんすまんと謝罪の言葉を口にする。
「いや、出来てないのは本当だ。だが、ベガリオンのテスト運用をするための強化パーツは持ち込んでいる。カリオン・改とでも言っておこうか。それの組み上げと装着はもうすぐ完了する筈だ。偵察はスレイとアイビス、それとレーツェルの3人で出て貰う事になると思うが……」
「その時にまさか」
「そのまさかだ、アステリオン、カリオン改で出て貰う」
アイビスの不安そうな問いかけに返事を返したのはコウキではなく、レーツェルだった。
「作戦会議は終わったんですか? エルザムさん」
「私はレーツェル・ファインシュメッカーだ。決してエルザムではない、判ったかね?」
自然にエルザムと呼んだクスハに指を付きつけ、エルザムではないと主張するレーツェルにクスハは何とも言えない表情で頷き疑問を口にした。
「あのでも、新型機だと敵を呼び寄せるのでは?」
インスペクターの狙いが新型機ならばアステリオンとカリオン改を持ち出した段階で敵を呼び寄せるのでは? と尋ねるとレーツェルは小さく頷いた。
「どの道スペリオル湖に向かう距離を考えればインスペクターの妨害に合う事は間違いない。それならば先に誘き寄せ私達で戦っている間に後方をとる。そしてはさみ打ちの形にして強引に突破する」
「後方? 援軍の算段があるのか?」
孤立無援の状態で援軍なんて来るのか? と言わんばかりにレーツェルに問いかけるスレイ。
「ああ、ラングレー基地からの脱出に協力した際にライノセラスで私とバン大佐は来ている。彼らは今ヒリュウ改と別行動を取っているのでこちらに支援に来る事は十分可能だ」
「連絡はついてるのか? レーツェル」
「抜かりない。彼らがインスペクターの後方を取れるように我々で囮、そしてレディバードが離脱することが可能な進路の偵察を行なう。これには速度、及び突破力が要求される」
敵を誘導しつつ、素早い索敵が要求されることになる為に機動力に秀でたアステリオン、カリオン改、ゲッター2・トロンベの3機が必要なる任務だ。
「私は輸送機の護衛ですね?」
速度と突破力を要求されるといわれ、クスハは自分の搭乗機であるグルンガスト弐式ではその2つの条件を満たしていないと即座に判断し、自分の任務がレディバードの護衛だと悟り、レーツェルにそう問いかける。
「ああ。私達で進路、敵の進軍スピードなどを調べ、それを元に慎重に行動してくれ。バン大佐が行動を共にしてくれるから心配は無いだろう」
戦力を分散するリスクを背負わなければ、この状況は打破できない。動き出さなければ、相手に殺される。誰も口にしないが、死神の鎌が自分の喉下に突きつけられているのを全員が感じていた。
「所でコウキ博士、安静にしているようにと言った筈だが何をしているのかな?」
「この状況で大人しくなんか出来るか、ヒリュウ改と合流したら大人しく療養するさ。それまでは俺も動く」
何を言っても無駄だというのを感じ取り、レーツェルはやれやれという感じで溜め息を吐いた。
「それで出撃にはどれくらいかかる?」
「1時間以内には準備が済む、それまでに航路などの想定をしておいてくれ」
全員で力を合わせなければこの窮地は乗り越えることは出来ない。全員で一丸となり、百鬼帝国、そしてインスペクターの脅威に立向かおうとしているのだった……。
一方その頃、アビアノ基地に向かっているハガネの艦長室でダイテツと通信で繋がっているシロガネの艦長室のリーは揃って眉を細めていた。
『ダイテツ中佐のほうはどうですか?』
「こちらもそちらと同じだ。ゲッターロボのパイロットを大統領府への出頭命令が出ている」
『それも機密コードでですね?』
人の口に戸は立てられない。シャインの救出の際にも、ムータ基地の際にも新型ゲッターロボは目撃されている。そのパイロットが何者であれ、ゲッターロボはこの情勢は非常に重要な機体である。インスペクター、ノイエDCと戦う為に連邦の軍本部と大統領府の所属を命じるという内容の電文、そして直接的に命令も下されている。確かにSSSの機密コードでの指令ではある……しかしそれを容易に受け入れることがダイテツとリーには出来なかった。
『そうですか……ダイテツ中佐はどう判断しますか?』
「恐らくは成り代わっているとワシは考えている」
確かに機密コードは使用されているが、正規の文面と異なっていたり、一部のコードが間違っていた。それらから大統領府への呼び出しが罠であると考えていた。
『彼なら自力での脱出も可能だと思われますが……』
「だがそうなると再び武蔵が追われる身になる可能性もある」
それにどれだけの人間が鬼になっているかも判らない以上武蔵なら脱出出来ると思っていても、容易に武蔵を送り出すことは出来ない。
「ワシは武蔵を1度ハガネとシロガネから離すべきだと考えている」
アビアノ基地まであと10時間ほど、後1回か2回は戦闘になる可能性は高く、その中に百鬼獣、そして龍虎皇鬼が混じってくる可能性は十分にある。その場合ハガネとシロガネだけの戦力で跳ね返すのは難しくなるが、このまま武蔵をハガネとシロガネに残しておくのは危険だ。ステルスシェードによって発見されない可能性を祈り、アビアノ基地まで強行する。この作戦とも取れない博打が今のダイテツとリーに打てる最善の手段だった。そして武蔵が逃がす場所は今の段階では1箇所しか存在していない。
『伊豆基地のレイカー司令ですか?』
「ああ。レイカーの元が1番安全だとワシは考えている。武蔵に伊豆基地に向かってもらい、そこで戦時特例で伊豆基地とハガネ、シロガネ隊に正式に所属させる」
『殆ど裏技ですね』
「覚えておけ、リー中佐。これが規則の裏を突くということだ。軍上層部とぶつかることになったらまずは正規の手順を踏むことを覚えておけ、向こうが正規の処理をしていないのならば、こちらが正規の手続きを踏んで武蔵を囲ってしまえば良い」
SSS機密を使えばいいと思っているだけの百鬼帝国は穴だらけで、正規の手順を殆ど踏んでいない。ならばダイテツ達は正規の手順を踏んで武蔵を守れば良いのだ。
『しかしそうなるとシャイン王女が……』
「そこは武蔵に何とかしてもらおう」
流石に伊豆基地にシャイン王女を連れて行くわけにもいかない。そこは武蔵に上手く説得して貰うしかない。
「ダイテツさん? 呼ばれたから来ましたけどー?」
「ああ。すまない、入ってくれ」
さっき艦内放送で呼んでいた武蔵が扉をノックする音が響き、ダイテツは武蔵を艦長室に迎え入れる。そしてリーと話し合った内容を武蔵にも説明する。
「よく判らないですけど、オイラがこのままハガネにいると不味いって事は判りました」
「……そうか」
30分近く話をして武蔵が理解したのはそこまでだった。ダイテツとリーは疲労を隠しきれなかったが、状況が良くないと言うことだけでも理解してくれたのでそこから話を進める。
「こちらで伊豆基地のレイカーに連絡を取っておく、武蔵はシャイン王女とエキドナだったか、彼女を説得出来次第ハガネから出発して欲しい」
シャインとエキドナが武蔵を取り合って張り合っているのはダイテツも知っていたので、武蔵がいないと知ってあれるであろう2人に説明するように武蔵に頼む。ユーリア? あれはポンコツだから問題は多分ない。
「それは良いんですけど、あのー日本に行くなら伊豆基地に向かう前に行きたい所があるんですけど良いですか?」
この状況での単独行動だけでも危険だ。出来れば真っ直ぐに伊豆基地に向かって欲しいと言うのがダイテツとリーの考えだった。しかし、武蔵にどこに行きたいのかと問いかけ、その理由を聞いては納得は出来ないが理解は出来た。
「いや、浅草にジャーダさんとガーネットさんがいるんですよね? 退役してるから会えないだろうし、伊豆基地に向かう前に顔だけでも出しておきたいなって」
ジャーダとガーネットは武蔵ともかなり仲が良かった。ガーネットが妊娠したのを切っ掛けに退役したが、ジャーダは今でも武蔵の事を探している。
「判った。浅草に向かう事を許可しよう。しかし、2人と会ったらすぐに伊豆基地に向かうと約束出来るか?」
「オイラの事を心配してくれてるのは判りますんで、会ったらすぐにでも」
ジャーダとガーネットにあったらすぐに伊豆基地に向かうと言う約束で、ダイテツは武蔵に浅草に寄り道する事に許可を出した。
「場所はラトゥーニ少尉が知っている」
「判りました! ありがとうございます!」
満面の笑みで艦長室を出て行く武蔵の後姿をダイテツとモニター越しのリーは疲れた様子で見送る。軍人とすれば寄り道は認められない、だが武蔵は民間人であり、良いも悪いもその気分で大きく影響を受ける。ここで駄目だと言って反感を買うくらいなら武蔵に浅草に向かう事を許可したほうが良いとダイテツは判断したのだ。
「ええ!? なんで、何故!? 武蔵様が行くなら私もッ!」
「……私も」
「いや、なんか軍の仕事らしいからオイラだけじゃないと駄目みたいなんだ」
「イヤですわ!」
「(ふるふる)」
「参ったなあ。すいませーん、イルムさん! エクセレンさん! ヘルプッ!!」
武蔵が1人で日本に向かうと言うとやはりシャインとエキドナは猛反発し、イルムとエクセレンに助けを求める。武蔵が2人を説得してハガネを出発したにはダイテツとの話を終えてから約2時間後の事なのだった……。
地球連邦軍極東方面軍伊豆基地にハガネのダイテツから機密コードによる通信が行なわれていた。
「判った。こちらのほうで武蔵君の受け入れ準備と浅草周辺の警戒はしておこう」
『すまないなレイカー。本当なら伊豆基地に直行させたかったのだが……』
武蔵が日本に向かっていると聞いたレイカーは武蔵の受け入れ準備、そして浅草の警戒を強めるとダイテツに返事を返した。ゲッターロボは良いも悪いも目立ちすぎる、武蔵も馬鹿ではないのでポセイドンで海中を移動してくる筈だが、それでも警戒は強める必要がある。
「構わない。武蔵君は軍人ではない、こちらの都合を押し付けることも出来ん」
武蔵はあくまで民間人だ。軍規で縛る事は出来ないし、何よりもそんなことをすれば武蔵の反発を買う。余り無理難題でなければレイカーはそれを受け入れるべきだと考えていた。
「それよりも余り通信を続けると敵に捕捉される。続きはアビアノ基地についてから聞こう」
『了解した。そちらも気をつけてくれ、敵の攻撃は予想以上に激しいぞ』
「判った。そちらも気をつけてくれ、ハガネとシロガネが沈んでは我々には反撃の芽さえ見えなくなってしまうからな」
互いに気をつけるようにと言葉をかわし、レイカーは司令室の椅子に深く背中を預けた。武蔵の生存は何よりも嬉しい情報の1つだ、それにヒリュウ改がラングレー基地の隊員の殆どを回収し、SRX・ATX計画の何れの試作機・機体も回収できた。更にテスラ研の救出に向かったレーツェルからも一部の研究者をインスペクターに人質に取られたが、機体は全て回収することに成功し、今はヒリュウ改との合流し南米からの脱出を試みていると言う情報も入っている。
「ケンゾウ博士、待たせたな」
「いえ、問題ありません。しかし状況は悪化を辿りますな」
ビアン本人か、ビアンを語る偽者かと様々な情報が錯綜しているがノイエDCの出現、宇宙はインスペクターを名乗る異星人、そして旧西暦からの刺客である百鬼帝国の復活――そして謎の生命体の目撃情報。今の地球内はとんでもない事態に陥っている。
「そこまで判っているのならば、私も歯に衣を着せるのは止めよう。もはや状況は予断を許さない。今後の戦いはL5戦役以上の物となるだろう……故に我々は一刻も早く戦力を整えなければならん」
L5戦役時の武蔵の特攻――それは自分達の力の無さが原因だ。半年の間出来うる限りの準備をしてきたつもりだったが、それでもまだ足りない。SRX計画は更なる段階に進まなければならない、ケンゾウもそれは判っており、更に1歩、いやもっと前に進む為にレイカーに直談判に訪れていたのだ。
「それならばなおの事、R-GUNのパイロットに彼女を……いえ、SRXチームにマイの参加をお認めください」
今となっては亡霊なのか、それともゲッター線の奇跡なのかは判らない。だがゲッターロボによってアイドネウス島沖から発見されたホワイトデスクロスの中から発見された少女――恐らくレビ・トーラーと言う役割を与えられていた地球人の少女を、ケンゾウは自分の娘であるマイと認めていた。
「今の段階では承認出来ない。R-GUNは引き続きヴィレッタ大尉に預ける」
「レイカー司令。それではR-GUNの力を最大限に発揮出来ないと説明したではありませんか」
R-GUNは念動力者が乗って初めてその力を最大限に発揮出来る。ヴィレッタは確かに優秀なパイロットだが、念動力者ではない。
「我々は何の為にR-GUNのT-LINKシステムを改修したのですか? それは全て地球を守るためです」
SRXの力を最大限に発揮させる為にケンゾウはR-GUNの改修を行い、後はマイが正式にR-GUNのパイロットになるだけと言う段階でのレイカーのストップにケンゾウは不満を隠せなかった。
「どの道まだR-3は運用出来ないのだ、まずはゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムで様子を見るべきだ」
R-3はアイドネウス島での捜索で酷使をしすぎて今もオーバーホール中だ。それに伴いアヤの仮の機体として、そして量産型Rシリーズの試作機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムで1度を様子を見るべきだとレイカーは主張していた。
「しかし、それでは間に合わぬかもしれません」
「ケンゾウ博士の気持ちも判る。だが彼女がそれを望んでいるのかね?」
レイカーの懸念――それはマイがレビ・トーラーなのかではなく、彼女がアヤやケンゾウの為にPTに乗ろうとしているのではないかということだった。
「ケンゾウ博士とアヤ大尉の報告で彼女にレビ・トーラーとしての記憶がない事は確認されている。しかしだ。そうなれば彼女は戦闘経験のない少女だ、そんな少女を私はこれから激しくなる戦いに無理に参加させることはしたくない」
SRXとR-GUNのツインコンタクトによって齎される超火力、そしてアヤを遥かに上回る念動力に開眼したリュウセイ――それらを用いれば間違いなく地球の切り札になると言う事はレイカーにも判っていた。そしてその力を欲しているのはレイカーも同じだ。
「地球を守る為にと言う名目で誰かを犠牲にするような事は2度とあってはならないのだ」
「……申し訳ありません。焦りすぎておりました」
ケンゾウはレイカーを誤解していた。マイ=レビと考えているから許可しないと思っていたのだが、実際は誰よりもマイの事を案じてくれていたのだと……それが判ればケンゾウも父として無理強いをすることは出来なかった。
「レイカー司令の言う通りにしたいと思います」
「判ってくれたのならば良い、ケンゾウ博士。焦る気持ちは判る、だが焦りすぎて若者に道を閉ざしてしまうことだけは避けねばならないのだよ」
レイカーの言葉にケンゾウは自分がどれだけ焦り、見なければならない物から目を逸らしていたのを再び思い知る事になるのだった。今だってマイはアヤとケンゾウの期待に答えようとしてシュミレーターによる訓練を行い、その疲労で倒れてしまった。レイカーはそれを知っていたと言う事が判り、自分がどれだけ父親として間違っているのかと言うのを思い知らされ、肩を落としてレイカーに一礼し、司令室を後にしたケンゾウはそのまま医務室に足を向けた。
「う、うううッ! ううッ!!!」
ケンゾウが医務室に向かって歩き出した頃、医務室では幼い少女の苦しむ声が響いていた。
「マイ、しっかりしてッ! マイッ!」
ベッドに横たわるピンク色の髪をした少女――マイ・コバヤシの肩をアヤが揺すり、何度も声を掛けるとマイはゆっくりと目を開いた。
「アヤ……」
焦点の合っていない瞳が徐々にあって行き、自分を心配そうに見つめているアヤに気付いたのかその名前を小さく呟いた。マイが目を覚ましたことに安堵した様子のアヤは濡らしたタオルを手に取り、ベッドサイドの椅子から立ち上がりマイに身体を寄せる。
「酷く魘されていたわ……大丈夫……?」
タオルで汗を拭われ、近くにアヤが居ると言う事に安堵したのかマイはアヤの服を片手でつかみながら口を開いた。
「……夢を見た……」
「夢……? どんな夢? 怖い夢だったのかしら?」
夢を見たと聞いてアヤは身体を強張らせるが、目覚めたばかりの不安定なマイはそれに気付かない。
「……よく覚えてない……でも、もう平気だ……アヤが呼んでくれたから……」
ぬくもりを求めるように手を伸ばしてくるマイの背中に手を回し、アヤはマイの身体を抱き締める。
「アヤの声を聞くと……アヤが傍にいてくれると……心が安らぐ……アヤが一緒なら……大丈夫って思える。何も怖くなるんだ」
アヤに抱き締められ安心したのか、安らかな顔をして眠りに落ちるマイの頭を撫でながら、アヤはマイの身体を包み込むように抱き締めた。
「ええ……一緒にいるわ。貴女は……私が守ってあげる……貴女は私のたった1人の妹だもの……」
眠りに落ちたマイにアヤの言葉は届かず、アヤの言葉は自分自身に言い聞かせるような響きを帯びていた。その光景を医務室の外から見ていたケンゾウは己の業、己の罪を目の当たりにし、逃げるようにその場を後にするのだった……。
第80話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その2へ続く
後半シナリオの頑張れ武蔵さんではアヤと再会させたりするので、ここでアヤとマイを出しておきました。現在は共依存みたいですけど、イングラムが生きていると知ればアヤさんはそっちに行きますし、マイはきっとリュウセイのほうに行って、ラトちゃんと衝突しますね(確定)次回は前半シナリオはサイバスター登場まで、後半は武蔵が浅草に到着くらいで8-2か、7-3くらいの文章構成で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い