第82話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その4
15時を過ぎた時間ともなると学生が多くなり、学生服に帽子姿の武蔵もその中に混じっていても何の違和感もなくなり武蔵はショーウィンドウを見つめながらうーんっと唸りながら、ジャーダとガーネットの家に足を向けていた。
「……人形焼っておかしなもんだよな」
浅草に住んでいる人間に浅草土産を手土産にするって正直どうなんだろうなと呟きながら、それらしい手土産を探す武蔵。とは言え、土産と言って売っているのは人形焼やあんこ玉と言った浅草土産が大半だ。これを土産として買って会いに行くのは流石の武蔵でも無いなと呟いた。
「うーん……もう普通に適当にケーキとかにするかなあ」
ダイテツが3万持たせてくれたが、当然武蔵は全部使い切るつもりなど無く、1万はダイテツに返さないといけないと考えていたし、シャインとエキドナにも土産を持って帰らないとと色々考えながら歩き、ふと顔を上げて小さく笑った。
「さぁいらっしゃいいらっしゃい! 焼きたてのドラ焼き、鯛焼きなんでもあるよ!」
浅間山の近くの温泉街でバイトしていたトウマの姿を見つけ、そちらに足を向けるのだった。
「おーい! トウマ!」
「ん? おッ! あんたは確か温泉の時の」
その名前を呼んで手を上げるとトウマも武蔵の事を覚えていたのか手を上げ返す。
「よう、こんな所でもバイトしてんのか?」
「ああ。バイトしながら観光とかしてるんだよ、そういうあんたは?」
「久しぶりに会いに行く知り合いのところに土産を持って行こうと思ったんだけどさ、全然思いつかなくてふらふらしていたらトウマを見つけたんだ」
「そっかあ、知り合いって浅草の人なのか?」
「そうそう、だから人形焼っていうのもおかしいだろ?」
確かに頷いたトウマはぽんっと手を叩いた。同年代そうということもあり、トウマ本人も武蔵も非常に気が合っていたのリアクションだった。
「焼きたてのドラ焼きとこれ、煎茶買って行けよ。ここのは美味いぜ!」
「おいおい、それってお前のバイトの手伝いじゃないかよ」
「そらそうだろ? 俺この店でバイトしてるんだからその店の宣伝するに決まってるさ」
そのさっぱりとした言葉と表情に武蔵は笑い財布を取り出し、今焼かれているドラ焼きを指差した。
「白餡と粒餡をそれぞれ……20個ずつ、それと煎茶の茶葉をくれ」
「まいどッ!」
明るく笑うトウマがドラ焼きを袋に詰めてくれるのを見て笑っていた武蔵だったが、突如その顔を険しくさせた。
(……なんだ。今のは……)
肌に突き刺さるような強烈な殺気、目を細め周囲を見渡す。だがその殺気の持ち主は当然見つからない、無意識に竹刀袋にいれたゲッター合金で出来た日本刀を握り締める。
「はい、お待たせ……どうかしたか?」
「あ、いや、なんでもない。幾らだ?」
「6500円になります」
1万円札を渡し、おつりと紙袋に入ったドラ焼きを受け取る頃には武蔵は柔和な笑みを浮かべていたが、それでも周囲を警戒していた。
「あんたは剣道とか?」
「あーオイラは柔道かな、いや剣道もやるけどさ。それよりありがとなトウマ! 助かったぜ」
「おう! 喜んでくれると良いな……所であんた名前は?」
「武蔵! じゃな! トウマ、またどこかでな!」
トウマに名前を名乗り、武蔵はドラ焼きを右手に、そして竹刀袋を左肩に担いで歩き出し、トウマは武蔵の背中に手を振ってその姿を見送る。
「柔道と剣道やってて武蔵かあ、なんかその通りって感じの名前だよなあ」
武蔵って名前がしっくり来るなと笑いバイトに精を出すトウマ。その顔はまさか普通に買い物に来ているあの武蔵がゲッターロボのパイロットであり、行方不明の武蔵と結びつく訳も無く、温泉の時に一緒にいたユーリアが一緒にいないのは喧嘩でもしたのかなあとのんびりと考えているのだった……。
シャインの好意によって浅草の一等地に庭付きの住居を構えたジャーダは町内会のキサブローの好意で、コウタとショウコの2人に手伝って貰いながらベビーベッド等の組み立てや荷解き、家具の配置の手伝いなどをしていた。
「いやあ、すまないな。2人とも」
「良いって事よ、気にしないでくれよ。ジャーダさん」
ガーネットの妊娠が判り、ジャーダも正式に連邦から除隊するのを決めたのは1ヶ月前だ。それまでも浅草の家で暮らしていたが、ジャーダは家にいない時間のほうが長く少しでも武蔵の手掛かりを探そうとし、ガーネットもそれを認めていた。
「はーい、皆。お茶を持ってきたわよ」
「ガーネットさん!? 座っててくれて良いんですよ!?」
まだお腹は目立ち始めてないが、それでもガーネットが妊婦ということは変らない。ショウコが慌てて駆け寄るが、ガーネットは穏やかに笑い大丈夫と口にした。
「良いの、動かないとお腹の赤ちゃんにも良くないんだからね。それに今日の荷解きだってまだ早いって言うのにジャーダがベビーベッドとか買い込んじゃったのよ?」
「うっ。そりゃまあすこーし、気が早かったかなあとか思うけどよ」
「少し所じゃなくて大分早いの、ごめんね、コウタ、ショウコ。折角の放課後に手伝わせちゃってごめんね」
まだ早いと言っているのにジャーダが張り切ってベビーベッドや掴まり立ちの練習用の柵などを買ってしまい、それを運び込んでいるジャーダをキサブローが見かけ、ショウコとコウタの2人を手伝いに来させてしまった事をガーネットが謝罪しているとチャイムが鳴る。
「おっと、お客さんだな。キサブローさんかな」
針のむしろだと気付いたジャーダが慌てて立ち上がり、逃げるように玄関に向かった。
「もう……本当にごめんね、2人とも」
逃げてしまったジャーダの変わりにもう1度謝るガーネット。しかしショウコもコウタも特に気にしておらず、ジャーダをフォローする言葉を口にする。
「いや、自分の子供が生まれるってなれば誰だって浮き足立つし、あれもいるこれもいるって思うって」
「そうそう、それに双子なんですよね。ガーネットさん」
「んー多分双子って言う話だけど……まだ確実って訳じゃないのよ?」
ソファーに座り込みお腹を愛おしそうに撫でるガーネットだったが、何時までも帰ってこないジャーダに不審そうな顔をする。
「随分ジャーダ遅いわね……どうしたのかしら?」
立ち上がって玄関を見ようとするガーネットを見てコウタとショウコが立ち上がった。
「良いですよ、私とお兄ちゃんで見てきますね!」
「おう! 宅配便かもしれないしな」
ジャーダが遅いのは宅配便かもしれないと言って、ショウコとコウタの2人で玄関に向かう。そこには呆然とした様子で立ちすくむジャーダと、玄関の前に立っている学生服に帽子姿の少年の姿があった。それは紛れも無くショウコがぶつかって、コウタが絡まれていると勘違いして喧嘩を売ったあの少年だった。
「ジャーダさん、何か大きな荷物……うん? あいつは」
「さっきの人だよね。ジャーダさん達の知り合いだったのかな?」
コウタとショウコが首を傾げているとジャーダが大きく拳を振りかぶり、少年の顔面に拳を叩き込んだ。吹っ飛んだ少年の後を追うように玄関を飛び出して行くジャーダを見て、ショウコの悲鳴を聞きながらコウタはジャーダを止める為にその後を追った。
「ジャーダさん、なにやっ……てんだ……?」
余り付き合いが長いわけではない、それでもジャーダがすぐ暴力を振るうような人間ではないと言う事はコウタも知っていた。そんなジャーダが殴りつける様な相手、しかも竹刀袋を持っていたのを見てジャーダを止め、もし喧嘩になっているのならば助太刀しようと思って飛び出したコウタの声は尻すぼみに徐々に小さい物になった。
「お前、お前ぇッ! い、今までどこにいたんだ! なにをしてたんだッ!! お、俺達がどれだけお前を探したと……どれだけ悔いたと思ってんだこの馬鹿野郎ッ!! ひ、1人で突っ込んで行きやがってッ! 生きて……生きてたんなら連絡くらい入れろッ!! この大馬鹿野郎ッ!!!!!」
「……すんません、ジャーダさん。心配かけて、すみませんでした」
涙を流し自身が殴り飛ばした少年に馬乗りになり襟首を掴んで叫ぶジャーダと、そんなジャーダの背中に腕を回して謝罪する少年の姿を見て、ただ事ではないと言う事はコウタにも判った。ジャーダが元連邦軍の軍人で、L5戦役にも参加していた事はキサブローとジャーダの話で知っていた。今目の前にいる少年がL5戦役で死んだと思われていた人物でそれが生きていた事に喜び、そして1人で逝こうとした事に怒っていると言うことをうやむやながら感じ取ったコウタはそこに割り込むことが出来なかった。
「ジャーダ。何を騒いで……武蔵、武蔵なのねッ! 生きて……生きてたのね」
ジャーダの怒声を聞いて出て来たガーネットもその少年の姿を見て、駆け寄りその背中に腕を回した。
「ガーネットさん。お久しぶりです、ラトゥーニから結婚したって聞いて、お祝いと顔を見せに来ました」
「そ、そんなのどうでも良いわよッ! 武蔵、武蔵……生きてたのね……良かった、良かった……」
帽子が庭に落ち、本当に申し訳なさそうな顔をしている少年の顔をどこかで見たことがあると目を細めながら3人のやり取りを見ていたコウタの隣から顔を出したショウコが声を上げた。
「あ、あーッ! 武蔵! 巴武蔵さんッ! ゲッターロボのパイロットの武蔵さんだッ!」
「あ、あああッ! そうだ、見たことあると思ったんだッ!」
東京宣言で写真で見ただけだったが、コウタとショウコは少年――武蔵の名前を知っていて大きく声を上げるのだった……。
ジャーダに殴り飛ばされた事でつぶれてしまったドラ焼きが机の上に並び、ジャーダとガーネットが隣り合わせで座り、その向かい側に武蔵が1人で椅子に座り、その隣でコウタがソファーに腰掛けていた。
「あ、あの! お、お茶淹れて来ました」
「ありがとなー、いやあ、まさか2人がジャーダさん達の知り合いなんて知らなかったよ。あ、ドラ焼き食ってくれよ、凄くいい奴らしいんだ」
さっきまで修羅場と言う雰囲気だったのに今ではぽやぽやと笑い、ドラ焼きを薦める武蔵。しかしコウタとショウコは困ったような表情を浮かべた。
「なぁ、ジャーダさん。俺とショウコって帰った方が良いんじゃないのか?」
L5戦役で特攻し戦死した筈の武蔵が生きていて、話をするのに民間人がいるのはどうなんだ? と尋ねる。
「で、武蔵。そこのところは?」
「え? オイラですか? いや、わかんないですよ。レイカーさんの所に行く前に顔を見せに来ただけですから」
「よし、なら大丈夫だ」
「「大丈夫なの(か)ッ!?」」
ジャーダの大丈夫と言う言葉にコウタとショウコが声を上げた。
「おう、俺とガーネットはもう除隊してるし、武蔵は元々軍属じゃないし、別に問題はないさ」
「そうね。武蔵が何か作戦に関係しているって言うなら別だけど……そこはどうなの?」
「なんか面倒ごとになるからレイカーさんの所に行けって言われて日本に来てますよ」
武蔵が日本にいる理由を聞いてジャーダとガーネットは頷き、もう1度大丈夫と言って笑った。
「武蔵、今までどこにいたんだ? と言うか、イングラム少佐はどうなったんだ?」
「あーイングラムさんも生きてますよ? 今別行動をしてるんで、どこにいるかまではしらないですけど。あとなんかタイムスリップして失われた時代とかにいましたね」
「ごめん、どこだって?」
「タイムスリップですかねえ、なんか旧西暦のど真ん中にいましたよ」
武蔵とジャーダ達の話を聞いて本当にこの話を聞いて良いのかなと言う表情をずっと浮かべていた。
「えっと武蔵さん?」
「武蔵で良いぜ。あ、ドラ焼き食べなよ。美味しいぜ、ちょっと潰れてるけどさ」
「あ、ど、どうも」
にこにこと笑いながら差し出されるドラ焼きを受け取り、武蔵とドラ焼きを交互に見てドラ焼きを齧る。
「所でレイカー司令の所に行けって言うのはダイテツ中佐か?」
「ダイテツさんですね。レイカーさんの預かりになれば大丈夫って言うんで、あ、リュウセイ達にも会いましたよ」
「そっか、ラトゥーニにあったって言ってたしね。元気そうだった?」
「勿論元気ですよ!」
最初のやり取りこそ心配したが、武蔵もジャーダ達も友好的で明るくそれだけ武蔵のことで思うことがあったのだろうと思い、懐かしそうに話をしている武蔵達の話をコウタとショウコは微笑ましそうに聞いて、英雄と聞いていても穏やかで優しい人間なんだなと思っていたのだが、突如その目が鋭く細められた。
「武蔵? どうした「コウタ。お前はショウコを守れ、ジャーダさんはガーネットさんを」……何をっ!? ってそれ日本刀じゃねーかッ!?」
突然ショウコを守れと言われ困惑するコウタの目の前で武蔵が竹刀袋を開けて、そこから日本刀を取り出し鞘から抜き放つ。
「ちょ、ちょっとどういう、何かのドッキリッ!?」
「ダセ! ウラギリモノヲダセエエエエエッ!」
「シッ!!!」
ショウコがドッキリかと問いかけた瞬間、窓ガラスが弾け飛びそこから飛び出してきた影と武蔵が抜き放った日本刀がぶつかり合い火花を散らす。武蔵が日本刀を振るい襲撃者を弾き飛ばし、その姿を見たコウタは驚きに目を見開いた。
「な、なんだこりゃあ、お、鬼ッ!?」
鋭い牙と額から鋭い角を生やした鬼としか言いようのない男が涎をたらしながら、コウタ達を睨みつけていた。
「鬼か、インベーダーじゃないだけましだなッ!」
日本刀を構え駆け出す武蔵と鬼の鋭い爪がコウタ達の目の前で何度も交錯する。
「え、え!? な、な……きゃああああああッ!?」
突然始まった映画やドラマ、ゲームの中でのやり取りに困惑しているショウコの目の前で鬼の首が武蔵の振るう日本刀で刎ねられる。その首がショウコの足元に転がってきて、ショウコは悲鳴を上げ、糸が切れたように気絶した。
「しょ、ショウコ!? お、お前人殺しッ!?」
気絶したショウコを抱きとめ、目の前で首を刎ねた武蔵を見て思わず人殺しと口にしたコウタだったが、目の前で鬼の首が再び生え唸り声を上げる姿に絶句した。
「馬鹿野郎ッ! どう見ても化けもんだろうがッ! おらッ!!」
「ぎゃっ!?」
「くたばれッ!!」
学生服の後に突っ込んでいたリボルバーを抜き鬼の頭を撃ち抜き、日本刀で鬼の心臓を貫くと翡翠色の光に包まれて鬼が粒子となり消え去る。噴出した血も、遺体と同じように消え去りコウタは目の前のやり取りが現実なのか、幻なのかが判らなくなっていた。
「……んだよ、これ。どうなってるのか俺にも説明しろ!」
武蔵に詰め寄り、説明しろと言うコウタの腕をジャーダが掴んで止める。
「武蔵、これはどういうことなんだ?」
「オイラもさっぱり、ただ……オイラ達のほかにも誰かいるみたいですね。おい、そこにいるの。3つ数える前に出て来い、じゃないと撃つぞ」
リボルバーに弾を込めながら武蔵が警告する。その光景を見てコウタは先ほどまでの武蔵と今の武蔵が合致せず、混乱する一方だった。
「止めて、撃たないで。私がいたからあいつらが来たのよ、巻き込んでごめんなさい」
フードで顔を隠した声からして女がよろめきながら姿を現す。自分達の知らない相手がもう1人家にいたということに、元はつくが軍人だったジャーダとガーネットは驚きに目を見開いた。
「ジャーダさん、とにかく伊豆基地に連絡を、このアマはオイラが連れて行きます。おい、お前がいなくなれば鬼はお前を追うんだよな?」
「え、ええ。今までなら」
「判った。ジャーダさん、危ないと思ったらこれを使ってください。弾はこれです、しっかり両手で持って引き金を引いてくださいよ。じゃないと肩脱臼しますから。走れ……そうにはないな。しょうがねえなあ」
「……ちょっと、女にすることじゃないわよ」
「うるせえ、てめえのせいで、何にもしらねぇジャーダさん達が殺されかけたんだ。運んでもらえるだけ感謝しな、このクソアマ」
武蔵はジャーダ達の見ている前で文句を言い続けている女を俵のように肩に担ぎ、日本刀を腰にねじ込む。
「む、武蔵! 待て待て、お前も応援が来るまで此処にいろ!」
「そ、そうよ! 危ないわ!」
出て行こうとする武蔵を呼び止めるジャーダとガーネットに武蔵は大丈夫ですよと笑う。
「大丈夫ですよ。化け物とは戦い慣れてますからね。それよりも、伊豆基地に連絡してください。多分……百鬼獣、ジャーダさん達に判りやすく言えば特機がでてきます。伊豆基地に応援を呼んでください、オイラもゲッターロボを持ってきてますけど、乗り込むのには時間が掛かりますから」
矢継ぎ早に指示を出し、女を肩に担いだまま出て行こうとする武蔵を見て、コウタが声を上げた。
「どういう事なのか判るように俺にも説明してくれ!」
「……見た事は忘れな。ショウコも気絶しているし、鬼の死体も血痕もない。話している内に寝てへんな夢でも見たって思ったほうが良いぜ。コウタ」
「そんな説明で納得出来るかッ!」
あいまいのまま忘れろという武蔵に忘れられるかとコウタが怒鳴り声を上げる。だが武蔵は冷静に、冷ややかな視線をコウタに向けた。
「世の中には知らないほうが良いこともある。そう思って忘れるんだ、じゃないと……お前も殺される。ジャーダさん、ガーネットさん! 頼みましたよ!」
女を連れて家を飛び出す武蔵――その姿は殆ど一瞬で見えなくなり、ジャーダとガーネットは受話器を手にする。コウタは気絶しているショウコを抱き締め、目の前の非日常をぼんやりとした様子で見つめているのだった……。
アゲハを俵抱きにして街中を走る武蔵を追って、鬼が車や街頭の上を跳んで追いかける。
「なんだなんだ!? 映画か? 映画の撮影か!?」
「キジマ・アゲハだッ! 新作映画の撮影だぞッ!!」
アゲハの姿を見て映画と言う通行人の声があちこちから上がるが、当然映画等ではなく、武蔵は何時一般人に被害が出るかと焦りながら早く人の居る所を抜けようと必死に走るが肩に担いでいるアゲハが思った以上に邪魔で徐々に苛々してきた武蔵は日本刀をアスファルトに突き立てると同時にアゲハを両手で持ち上げる。
「ちいっ! ちょっと投げるぞ!!」
「は? ちょっ、まったあああああッ!?」
武蔵の人外の膂力を持って上空に放り投げられたアゲハの悲鳴が木霊する中、武蔵はアスファルトに突き刺した日本刀を抜き放ち両手でしっかりと握り締める。
「シャアアッ!!!」
「舐めんなぁッ!!!」
足を止めた武蔵を仕留める好機と感じたのか、鬼が街頭を蹴り砕きながら急降下し、武蔵はそれを下から振り上げた一閃で両断し、路駐禁止の張り紙が張られた車の上に飛び乗り、それを踏み砕きながら大きく跳躍する。
「おらあッ!!!」
「ぎゃっ!?」
ゲッター合金で出来た日本刀で両断された鬼はゲッター線の光に包まれて消える。武蔵は再び地面に降り立つ前に街頭の上の鬼目掛け、ジャーダに渡したのは別のマグナムの銃口を向ける。
「くたばれッ! くそ鬼ッ!!」
只のマグナムではなくゲッター合金弾頭の小型散弾銃に撃ち抜かれた鬼は両断された鬼と同じく空中でゲッター線の光に包まれて霧散する。
「うおりゃあッ!!!」
着地同時にアスファルトに亀裂が入るほどに地面を踏み込んだ武蔵が弾丸のような勢いで駆け出し、向かって来た鬼を横一線で両断し落下して来たアゲハを片手で掴むと再び俵抱きにし走り出す。
「すげええッ!!!」
「めちゃくちゃ派手な殺陣だな」
武蔵と鬼のやり取りは時間にして3分にも満たないやり取りであり、余りにも現実離れした光景という事もあり、通行人達は最後まで今のやり取りを映画だと疑わず、武蔵とアゲハを追う鬼も一般人に目もくれなかったこともあり、このやり取りを見ていたものの殆どがアゲハの最新映画と言う事を欠片も疑わないのだった……。
裏路地で鬼を切り倒す武蔵を見ながらゴミのように地面に転がされているキジマ・アゲハは自分の扱いが酷すぎると武蔵に文句を抱いていたが、助けられたのも事実なので黙り込み、武蔵を見つめていた。
(運が良かったのかしら)
百鬼帝国の胡蝶鬼だったアゲハは武蔵と言うのは伝聞で聞いた程度で余り詳しくはなかったが、文句やクソアマと言いつつも助けてくれるので善人であると感じていた。
「お疲れ様、ごめんなさいね、巻き込んで」
「うっせい。別にオイラも助けたくて助けてる訳じゃねえけど、裏切り者って言われてるって事は百鬼帝国を知ってるんだろ? それを聞く為に助けてるだけだ」
「それでも良いわ。そういう関係のほうが信用出来る」
自分が聞きたい情報があるから敵に殺される訳にはいかないと言う理由で助けられてるほうが信用出来るとアゲハが言うと、武蔵は日本刀を鞘に納め、アゲハの前に座り込んだ。
「んで、お前何もんだ」
「キジマ・アゲハ。女優よ」
「そういう表向きのもんはどうでもいい、本当の所は?」
せっかちな男は嫌われるわよと言う軽口を叩く余裕も無く、ここで自分が百鬼帝国の関係者と告げて殺される訳にも行かないとアゲハは更なるカードを切った。
「竜馬達はもっと優しかったわよ?」
「……OK、ラドラの同類ってことか、察した」
竜馬の名前を出せば、武蔵は自分を殺さないし、より詳しい話を聞く為に安全圏に辿り着くまでは守ってくれると言う計算がアゲハにはあった。
「別に百鬼帝国から逃げてきたわけじゃないのよ、ただ従えって言われたから断ったら殺すって始まったのよ」
「でも百鬼帝国を知らない訳じゃないんだろ?」
「まぁね。でも今の百鬼帝国は知らないわ」
自分を知っている可能性があるから殺そうとしようとしている。大物ぶっているくせにやってることが小物なのよと揚羽が内心吐き捨てていると武蔵が立ち上がる。その姿を見て、アゲハが唇を尖らせ武蔵への文句を口にする。
「もう少し休ませてよ」
確かに走り回るだけの体力は回復したが、それでももっと丁寧に扱えと睨むと武蔵は首を左右に振った。
「休ませれるだけの余裕があれば休ませてやりたいさ、オイラだってリョウ達の話も聞きたい。だけど無理だろ、あれじゃあよ」
武蔵の指差した方向を見ると3機の百鬼獣の姿が遠くに見え、避難を促す警報が鳴り響いた。
「判った、私が悪かったわ。ゲットマシンは近くなのよね?」
普通の追っ手で駄目なら百鬼獣を送り出す、道理ではあるがあまりにも酷い悪手だ。しかしそれだけ百鬼帝国にも余裕がないと言うのを現していた。武蔵が此処まで逃げてきたのはゲットマシンに乗る為だと考えたアゲハが武蔵にそう尋ねる。
「当たり前だ。急ごう、PTじゃ百鬼獣の相手じゃ分が悪すぎる」
そう言って走り出す武蔵の後を追ってアゲハも走り出す、だがその胸中は武蔵と共にゲットマシンに向かった事で自分もゲットマシンに無理やり押し込められるのではないかと言う不安と恐怖に埋め尽くされていた。
「よし、ここで待ってろ。逃げんなよ」
「乗れとは言わないのね」
乗れといわれると思っていたのだが、待ってろと言われアゲハは驚いたような表情で武蔵にそう問いかける。
「乗れるなら乗せるけど、オイラでも最初気絶しかけたんだが」
「……素直に待ってるわ、大丈夫逃げないから」
ゲッターロボパイロットでさえも気絶しかける機体に鬼の時ならまだしも、今の普通の人間の身体で耐えれる訳がないと判断しアゲハは待つと言うと、武蔵はゲットマシンのコックピットから鞄を取り出してアゲハに向かって投げる。
「それ非常用のキット。スタンガンとか、医療道具が入ってるからそれで手当てでもしてろ」
自分の返事も待たずにゲットマシンに乗り込み飛び立っていくその姿をアゲハは見送り、鞄から取り出した医療キットを取り出し、鬼から逃げている時に負った細かい傷の手当を始めるのだった……。
そして時を同じくして、試作機の運用テストをしていたユルゲンの元にも出撃要請が出て、模擬戦の後だが出撃準備が大忙しで始まっていた。
「ホフレー、運よくオーガが出て来た。これは貴重な体験だよ」
トレーラー車に横たわる左右で機体色の違う細身のPTでもAMでもない機体のコックピットに腰掛ける少女にユルゲンが声を掛ける。
「判ってるよぉ。ユルゲン博士ッ! あのオーガと戦ってくれば良いんだよねぇ! 模擬戦はつまらなかったからあれで遊んでくるよぉ」
破壊された試作機の残骸と走り回る救急隊員、血反吐を吐いているパイロットに目もくれず、ホフレーは楽しくてしょうがないと言う笑みを浮かべた。何の躊躇いも無く通信車を蹴り倒し、コックピットを執拗に打撃し、助けてくれ、やめてくれと叫ぶ声を無視し、パイロットを殺そうとしたホフレーとそれをとめないユルゲンに対して周囲の人間から化け物を見るような視線が向けられる。だが2人はそんなことを無視して、連邦からの救援信号だけが重要だと言わんばかりに話を進める。
「その通りだ。でも、エリシオネスにオーガとの戦闘データはない、ODEシステムの補助はないから慎重に戦うんだよ?」
「はぁーい♪ じゃあ行ってきます!」
口元にマスクを嵌め、液体に満ちたコックピットの中にダイビングするようにホフレーの姿は消え、ニュクスの子の1人である、争いの女神エリスの名を冠した人型機動兵器――エリシオネスが産声を上げるのだった……。
~おまけ~
武蔵がいると揉めるシャインとエキドナだが、武蔵がいなければ割かし気が合うところもあるのか、比較的に温和なやり取りが行なわれていた。
「何をしてますの?」
「……暇だから絵を書いてる。ラーダが言ってた、思い出す良い切っ掛けになるかもって」
記憶喪失のエキドナが記憶を取り戻す切っ掛けになると言われたエキドナは食堂の机の上で絵を書いていて、暇と言って机に突っ伏していたシャインが顔を上げてエキドナの手元を覗き込んだ。
「えええッ!?」
「シャイン……うるさい」
「いやいや、ええッ!?」
落書き程度に思っていたシャインだったが、エキドナが描いていたのは精細なそれこそ写真もかくやと言わんばかりの武蔵とゲッターロボの絵であり、想定外の絵を見たシャインが驚きに声を上げる。
「何々どうしたの?」
「また喧嘩してんのか? ちょっとは静かに過ごせよ」
シャインの大声にエクセレンとカチーナが喧嘩ばっかりしてるなよと言いつつ、エキドナとシャインのいる机にやってきて……。
「うわ、上手ねぇ……写真そっくりじゃない」
「なんでお前記憶ないのにこんな絵が書けるんだ?」
「知らない、でも武蔵はずっと見てたら書ける」
記憶は無くとも身体が覚えている技能は健在でナンバーズの技能としての似顔絵のスキルを遺憾なく発揮し、書き上げられた武蔵とゲッターロボの絵にエキドナは満足そうに何度も頷いた。
「ください!」
「え、やだ」
「そこをなんとかッ!」
「いや」
「いいじゃないですか! その絵をくださいッ!」
「やだ」
武蔵の絵が欲しいシャインとそれを渡したくないエキドナ……子供じみた喧嘩が勃発し、エクセレンとカチーナは頭を抱える。
「みきーッ!!」
「ふしゃああッ!!!」
「……」
元同僚? 仲間? 姉妹? なんと言えば良いのかはラミアにとっても複雑だが幼女と取っ組み合いの喧嘩をしているエキドナを見てラミアの目から感情が抜け落ちていた。ついでに言うと……。
「食堂で喧嘩をするのやめるべきだ」
「「うるさいっ! へっぽこッ!!」」
「だ、誰がへっぽこかッ!?」
そこにユーリアまでINしてしまいレオナの目からも光が抜け落ちていたりするのだが……武蔵がいてもいなくてもシャイン達は姦しいのだった……。
第83話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その5へ続く
非日常に無理やり踏み込まされかけたコウタさん。ギリギリで踏みとどまりましたがSAN値チェックの時間でした。でもここでの戦いを見ていたのでファイターロアやコンパチカイザーに乗る時に覚悟完了しやすい状況になっております。次回は、オリキャラを含めてアヤとマイの2人をメインにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い