進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第83話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その5

第83話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その5

 

 

伊豆基地地下のSRX計画のラボのハンガーに固定されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの前のPCの前にはロブを初めとしたSRX計画の開発チーム、そしてケンゾウの姿があった。

 

「どうだアヤ? 大分安定してきたと思うんだが……」

 

今日は実際にアヤをパイロットとして乗せての最終調整を行なっていた。アルブレード、R-02カスタムとは異なり、最初からT-LINKシステム前提で作られているからか、その最終調整はSRX計画のラボでしか行なえず、今ではリュウセイに追い抜かれたがそれでもまだ強力な念動力者のアヤでなければ細かい調整は出来なかったからだ。R-03カスタム、そして量産型R-3、そしてアルガードナーの最終目標は高レベルの念動力者でなくとも、一定以上の能力を発揮出来る念動力者用の機体が根底にある。最初からレベルの低い念動力者ではなく、高レベルのアヤの稼動データを元にして、負荷を掛けないラインを探りだし、アヤのデータをサポートに扱い、半簡略化すると言う今までとは違うアプローチの為システムダウンや、モニターの破壊等、イレギュラーは多数あった。やっと安定稼動レベルになったが、まだ不安定な部分も多く、試験運動をしているゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03カスタムを全員が固唾を呑んで見守っていた。

 

「アヤ……」

 

「大丈夫だマイ。ワシも全力を尽くした、心配に思うことはない」

 

「はい。父様……」

 

不安そうに実験を見学しているマイの肩に手をおいて、大丈夫だと言うケンゾウも心配そうに実験場に視線を向けていた。今までに無いコンセプト、そして前提もない実験に流石のケンゾウも不安と心配を隠せないでいた。

 

『逆流も無く、出力も非常に安定しています』

 

アヤからの通信を聞いてラボに歓声が広がる。T-LINKシステムの影響で出力が規定値に届かない事や、それをオーバーすることが非常に多く仮に稼動してもすぐにシステムエラーによる停止も起きていた為出力が安定しているという言葉に喜びを感じる者も多かった。

 

「いや、まだ動き出したばかりだ。安定したと判断するのは早計だ、そのままレーザーキャノンを使って見てくれ」

 

しかしロブだけは慎重にグラフを確認し、武器を使ってみるようにとアヤに指示を出す。

 

『了解。ターゲットドローンをお願いします』

 

地下なので派手に立ち回ることは出来ないが、構えて撃つくらいは十分に可能だ。腰にマウントした細身のライフル――念動集束装置により、ビームの貫通力と威力を高めた念動集束型レーザーキャノンを構えるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの前にターゲットドローンが出現し、それにアヤは冷静に照準を合わせ、1発で確実に破壊する。

 

「グラフはどうなってる、オオミヤ博士」

 

「グリーンを維持しています、射撃時にはイエローゾーンに一時落ち込みますが、これは規定範囲内ですね」

 

リュウセイに追い抜かれ、イングラムは消息不明と言う状況で一時不安定だったアヤの念動力だが、R-SWORDらしきPTの確認とゲッターロボの姿が目撃された事で安定し、更にそのレベルも大きく上昇した。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムのストライクシールドのシステムは切り替え式の筈だが、それのテストはどうするのだ?」

 

「午後から外の試験場で行なう予定ですが……それが何か?」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムは外見はR-3同様背部にストライクシールドを装備しただけに見えるが、コックピットを特殊な設計にし、機体の外見よりも内部を大幅に改装したタイプになる。TC-OSをベースにしあらかじめ設定されているモーションに念動力を組み合わせる事でレベルの低い念動力者でも高レベルの念動力者と同等の力を発揮することが出来るのではないか、あるいはスラッシュリッパーのように念動力を持たないとしても優れた空間認識能力があれば良いのではないか? と開発中に二転三転したと言う経緯を持つ。試験段階の時に何度もアヤが体調不良を訴えたこともあり、ケンゾウはそれを実際に使う事には懐疑的で不安を抱いていた。

 

「バリア展開ならこの場でも出来る筈だ。それで1度様子見をしよう」

 

攻撃に使わず、負担も少ないバリアモードで様子を見ようと言うケンゾウの言葉にロブは小さく頷き、マイクを手にした。

 

「判りました。アヤ、ストライクシールドをバリアモードで展開してみてくれ」

 

『了解』

 

R-3よりも4基増やし10個になったストライクシールドの内9個が分離し、3つワンセットになり念動フィールドとE-フィールドの複合バリアを展開する。しかもその形状を三角にしたり、四角にしたりとその形状とバリアの有効範囲を自在に切り替えて見せている。

 

「流石はアヤと言う所ですね」

 

アヤの念動力者としての素質自体は中の下と決して飛びぬけて強力な訳ではない。しかし、その念動力の弱さを補う精密な操作と安定感を持っており、強力だが暴走する危険性を秘めているリュウセイやマイよりも上のランクに位置づけられているのは訓練の末に手に入れたその安定感にあった。

 

『問題なく使用できます。この調子なら攻撃に転用することも問題なさそうです』

 

「そうか、それは大きな進歩だな。R-3のストライクビットも改造出来そうだ」

 

現在オーバーホール中のR-3だが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムのデータを元に改良することも視野に入れているので、この改良型のシールドビットで得れた情報はかなり有意義な物だった。

 

「頭痛や念の逆流は?」

 

『大丈夫です。お父様』

 

「……そうか。それなら良かった」

 

今までの実験でのアヤの体調不良を目の当たりにしていたケンゾウは明るいアヤの口調に良かったと安堵の溜め息を吐いた。

 

「よし、では午後からは……なんだ!?」

 

午後からの実験のスケジュールをロブが説明しようとした時、伊豆基地全体に警報が鳴り響いた。

 

『浅草に百鬼獣が複数出現ッ! 繰り返します! 浅草に百鬼獣が複数出現ッ! 出撃可能なパイロットは出撃準備をお願いします!』

 

『ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムで出るわ! リフトアップしてッ!』

 

基地オペレーターの悲痛な叫びが響き、その声を聞いたアヤはリフトアップしてくれと叫ぶ。

 

「駄目だ! ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムはまだ試作機で実戦に投入できる段階じゃない!」

 

『ほかの基地から応援が来るまで時間稼ぎをするだけ! 早く手遅れになる前にッ!』

 

百鬼獣1体でも街を焦土にするには十分な戦力だ、それが複数出現していると聞いて声を荒げるアヤにロブは言葉に詰まる。

 

「今リフトアップする。アヤ、決して無理をするな。時間稼ぎに徹しろ」

 

「ケンゾウ博士!?」

 

躊躇うロブに変わりケンゾウがコンソールを操作し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムをリフトアップさせる。それにロブが声を荒げるが、ケンゾウの態度は冷静そのものだった。

 

「あのままではアヤは基地の壁を破壊して出撃してしまう。それならば出撃させたほうが早い」

 

「しかし!」

 

「ここで口論している時間はない。オオミヤ博士、己が何をするべきなのか、それを見極めるんだ」

 

今やるべき事は口論をしていることではない、輸送機や輸送車でゲシュペンスト・MK-Ⅲを運搬し、浅草に出現した百鬼獣を追い返すことにある。

 

「父様。私も行きます」

 

「……実戦になるぞ」

 

「アヤを1人で戦わせるなんて出来ない。援護するくらいなら私にも出来ます」

 

出て行こうとするケンゾウの前に立ち塞がり、うんと言うまで絶対にどかないと言う様子のマイを見てケンゾウは深く溜め息を吐いた。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTをトレーラー車へ! 武装はタイプSの物だ。オペレートはワシがする! 行くぞ、マイッ!」

 

「は、はいッ!」

 

マイを伴って自ら戦場に赴こうとするケンゾウにSRX計画の研究者達は呆然とし、その後姿を見ていた。

 

「何をしている! 出撃準備を、支援物資の運搬準備! 急いで!」

 

「「「は、はい!」」」

 

ロブの一喝に弾かれたように動き出し、伊豆基地は即座に戦時中の警戒態勢へとなるのだった……。

 

 

 

 

リフトアップされると同時に飛び立ったゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムは3分ほどで浅草に到着した。その姿を見て百鬼獣が唸り声を上げる。その姿を見てアヤは小さく目を細めた、確かに浅草周辺に百鬼獣はいる。だがその姿が些か異様だったのだ……。

 

「伊豆基地の物とは全然違うわね」

 

伊豆基地に現れた個体は角を持ち、剣や斧を装備し、まさしく鬼と言う様子だった。だが目の前にいる百鬼獣は1機を除き飾り気も少なく、空中に浮遊したまま首を左右に動かしているだけで攻撃してくる意図が感じられない。

 

「グルルルウ」

 

牛のような角を持ち、三つ又の槍と盾を持っている鬼がのそりと動き出し、自分の前に立ち塞がるのを見てアヤはある予想を抱いた。臨戦態勢に入りながら、通信機のスイッチを入れる。

 

『アヤか? どうした」

 

PTを輸送用のトレーラーに通信が繋がり、そこから聞こえてきたケンゾウの声になんて無茶をと思いながらも、戦闘が始まっては話をしている時間はないので慌てて用件を口にする。

 

「お父様。避難誘導をしている伊豆基地の兵士に通達を頼めますか?」

 

『それは問題ないが……何を通達するんだ?』

 

「武蔵とイングラム少佐の捜索を頼んで欲しいんです」

 

通信機越しのケンゾウが眉を顰めたのが判る。生存の可能性は極めて高いが、今まで姿を見せずに逃げ回っていたと言ってもいい2人が伊豆基地に近い浅草にいるとは思えないと思っているのがアヤにも判った。

 

「灯台もと暗しってことかもしれません。少なくとも、あの2体の百鬼獣は誰かを探してます」

 

『……百鬼獣が態々探すような相手となれば、機体に乗り込む前の2人ということか……』

 

「可能性は十分にあると思います」

 

武蔵もイングラムの生身でもかなりの強さだが、ゲッターロボとR-SWORDがなければ普通の人間だ。乗り込む前に確保してしまえば、そして洗脳をすればそのまま戦力として使える。そう考えれば態々百鬼獣を持ち出す理由も判らなくはない、アヤの言葉を聞いてケンゾウは判ったと返事を返した。

 

『近くでウォン重工業の試作機のテストも行なわれている。応援要請に了承したから、識別コードを送る。攻撃はするなよ』

 

「了解。あの牛頭さえ何とかすれば浅草の被害も最小に抑えれると思います。2機でなんとか取り押さえて、引き離します」

 

『頼んだぞアヤ。だが無理はするなよ』

 

その言葉を最後にケンゾウからの通信は途絶え、アヤは小さく息を吐いて目の前の鬼――牛頭鬼に改めて視線を向けた。

 

「グガアアアッ!」

 

威嚇行動は繰り返しているが積極的に戦う意志は感じられない、それならと空中にいる百鬼獣に視線を向け……反射的にペダルを踏み込み一気に後退する。つい先ほどまでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの姿があったところに槍が突き刺さっているのを見て、アヤは小さく溜め息を吐いた。

 

「OK。そっちを狙ったら駄目って言うならこのまま引き離させてもらうわ」

 

ビームソードを抜いて刃を展開し、牛頭鬼に向かい合うゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタム。空中の2機の百鬼獣も十分に警戒しなければならないが、捜索を続けて攻撃をしてくる気配が無いのならばまずは目の前の牛頭鬼を浅草から引き放す事をアヤは選択した。

 

「ブモオオオオッ!!」

 

「このッ!」

 

牛頭鬼の槍とビームソードがぶつかり合い、雷のような音を周囲に響かせる。馬力では圧倒的にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムが劣っている。だがその分技量は圧倒的にアヤの方が秀でている、力の牛頭鬼と技のゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムと言う図式だ。

 

「やっぱり力じゃ勝てないわねッ!」

 

「グギィッ!?」

 

胴体を蹴りつけ後ろに飛びながら頭部のバルカンを放つ。それは目晦まし程度の威力しかないが、数秒でも牛頭鬼の出足を遅らせる事は出来ていた。その隙に10機のストライクシールドの内7つを射出し、牛頭鬼と浅草の間にバリアを展開する。それに気付き、牛頭鬼は拳を突き出す。だが念動フィールドとEフィールドの複合バリアは非常に強固で、牛頭鬼の拳を弾き返しバランスを崩させる。その隙をアヤは見逃さず、2機のストライクシールドを打ち出し、牛頭鬼の頭を殴りつける。

 

「ブモォッ!」

 

「あなたの相手は私。浅草には手を出させないわよ」

 

最悪のシナリオは探している相手を見つけ出し、捜索をしている百鬼獣が撤退し浅草の街を牛頭鬼に踏み躙られる事だ。その前にバリアを張り、牛頭鬼が容易に手を出せない状況を作り牛頭鬼が自分だけを狙う環境をアヤは作り出したのだ。浅草への被害を抑える事は出来るが、その反面アヤは百鬼獣と1対1の戦いをする事になる。

 

「……やるしかないわよね」

 

試作機の応援と言うのがどれほどの戦力かは判らないが、あの誰かを探している百鬼獣に武器がついているようには思えず。牛頭鬼さえ倒してしまえばあの百鬼獣も撤退する可能性が高いとアヤは考えていた。

 

「ブモォオオオオオッ!!!」

 

雄叫びを上げる牛頭鬼は確かに恐ろしい。だがここで引いていては、L5戦役の時と何も変らない。

 

「行くわよッ! 覚悟しなさいッ!」

 

自らを鼓舞するようにコックピットの中でそう叫び、アヤは牛頭鬼との一騎打ちを挑むのだった……。

 

 

 

エリシオネスは非常に特殊な操縦形態を持つ準特機に分類される機体だ。勿論それは兄妹機のモロクリオス、タナトシアの3体も同様だ。ODEシステムをフルに生かす為の操縦桿もペダルも一切搭載されていない水槽のようなコックピット――それはODEシステムとの親和性を高める為の特殊な溶液で、機体と直結している酸素マスクから酸素を供給され、ダイビングスーツのような特殊なパイロットスーツの動きを読み取ると言うテスラ研で開発されているダイレクトモーションリンクシステムと同じ様な操縦機構を持つ。その為PTやAMとは一線を隔す人間のような柔軟な動きを可能としている。その特殊なコックピットの中でホルレーは粘着質な、光を宿していない瞳で牛頭鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの戦いを見つめていた。

 

「へぇ……量産機なのにあんなに動けるんだぁ」

 

さっきまで自分が戦っていたゲシュペンスト・MK-Ⅲとはまるで別物の戦いを興味深そうに見つめていた。

 

「ねぇ、博士ぇ、あのゲシュペンストと戦ったら駄目なのぉ?」

 

『ホルレー、今回は支援だ。判っているね?』

 

「はぁーい……判ってますよぉ、一応聞いただけですよぉ。じゃあそろそろ行って来ますねぇ?」

 

『ああ、頼んだよ。ホルレー、大丈夫。君ならオーガにだって負けないよ』

 

ユルゲンからの激励の言葉にホルレー・ぺキュアはコックピットの中で身体を震わせる。ホルレーにとってはユルゲンの言葉が全てであり、何よりも優先される。戦争孤児であり、家族を殺した兵士に誘拐され、戦争の為に少女兵にされ戦う術と男を悦ばせる技だけを教えられた彼女に一般的な教養も、常識もない。彼女にあるのは殺すための技術と男が欲情するような言葉使いと性技だけ……殺しと性欲処理の為に育てられ、肉体も精神もズタボロになるまで酷使され、戦争が終わると同時に捨てられた彼女を拾ったウォン重工業には多少の恩は感じている……だけどそれはユルゲンと引き合わせてくれたからで、あーだこーだとうるさいウォン重工業には恨みさえも抱いていた。

 

(博士ぇ、あたしがんばるよぉ……)

 

戸籍も名前も無く、あくまで試作機の為の使い捨てのパイロットとしての扱いをされていた企業に感謝があるわけがない。だけどユルゲンに引き合わせてくれた事だけは感謝していた。名前を与えてくれ、必要とされる喜びと教育を施してくれたユルゲンはホルレーにとっては神なのだ。自分の欲求や、殺戮願望などを全て押し流し、ユルゲンの為だけに戦うという事だけに思考が固定される。

 

「行くよぉ。エリシオネスぅ」

 

その呟きに争乱の女神の名を冠する機体は唸り声を上げ、その声を聞くと同時に動力を一気に全開し跳躍する。

 

「!?」

 

「あはぁ、遅いよォッ!!!」

 

上空に浮いていた百鬼獣に飛びかかり、そのままの勢いで拳を叩きつける。動揺し逃げるような素振りを見せる百鬼獣を見て、ホルレーは嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「逃がさないよぉ、ほらほらオーガなんて言うんだから抗って見せてよぉ!」

 

腰にマウントされていたストレイトマシンガンを抜いて至近距離から撃ちまくる。兆弾が装甲を抉ろうが、地面に落下し被害を出そうがホルレーには関係がなかった。だってユルゲンは「支援しろ」と言った、被害を出すな、自分が傷つくなとは言わなかった……それなら腕が千切れとぼうが、足が千切れとぼうがゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムが戦いやすいように百鬼獣の数を減らす事だけをすればいい。

 

「つまんないぃ……もう良いよぉ、死んじゃぇ」

 

背部のウィングを兼ねているビームキャノンが腰に接続され、そこから放たれたビームが捜索用の鬼の胴体に風穴を開けて空中で爆発する。その爆風に乗ってもう1体の百鬼獣を蹴りつけると同時にテスラドライブを全開にする。

 

「あはぁッ!!! 死になよぉッ!!!」

 

エリシオネスにソニックブレイカーは使えない、もとよりそんな機構はエリシオネスには搭載されていない。微弱なバリアに守られただけで体当たりをすれば激しい振動がホルレーを襲うが、その振動と痛みがホルレー自身が生きていると言う実感に繋がる。バリアの向こう側に百鬼獣を叩き落し、チカチカと明暗を繰り返し、揺れる視界の中でホルレーは笑う……笑い声には程遠い、それこそ獣のような笑い声だがホルレーは確かに笑ったのだ。その頭の中にはいろんなホルレーの声が響く、アヤが百鬼獣を戦いやすいように近くに叩き落した、支援するってこういうことだよね。あいつに撃墜させれば良いんだよねえ、勝手に1体壊しちゃったけど褒めてくれるよねぇ、勝手なことをしたけど、いらないって言わないでぇ、あたし……役に立つからぁッ! 支離滅裂な叫びが頭の中を駆け巡り……最終的に1つの考えに統合される。ユルゲンに褒められる為に、百鬼獣をアヤに撃墜させれる状況を作り出せば良いと……。

 

「ほらほらほらッ! 行くよぉッ!!!」

 

背中のウェポンラックを解放し、マイクロミサイルを乱射し、両手に持ったストレイトマシンガンを乱射しながら急降下する。それは敵も味方も、周りも被害も何もかも無視された乱暴な攻撃だった。

 

『え、あ、きゃあッ!?』

 

『ブモオオオオーーッ!?』

 

アヤと牛頭鬼の悲鳴が木霊するが、それすらもホルレーには関係ない。アヤが撃墜出来る状況を作れば良いのだ、それだけで良い。どれだけボロボロでも、トドメをさせれば良いのだから範囲攻撃で薙ぎ払ってしまえばいい。それがホルレーの出した支援と言う余りにも曖昧なユルゲンの指示に答える形だった。

 

「あはッ! あはははッ!! あははははははははははッ!!!!!! これで、これで褒めて貰えるねぇッ!!!!」

 

両手首から展開されたビームソードで牛頭鬼に切りかかり、それだけではもどかしいと拳を叩きつけ、背部のビームキャノンを乱射する。目的と手段が完全に狂っているが、牛頭鬼を弱らせるという目的は達成していた。それと同時にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムはストライクシールドをバリアにして直撃は防いだが、それでもダメージはけっして侮れる物ではなく、その場に膝をつき、機体の各所から黒煙を出していた。

 

『うっ……いったあ……』

 

爆風とビームの嵐に巻き込まれたアヤは苦悶の声を上げ、なんとか立ち上がろうとするが機体へのダメージが余りにも大きく、即座に動ける状況ではなかった。

 

「ほらああ! お前ぇッ! 早くこいつを殺せよおッ! じゃないと、じゃないと褒めてもらえないだろぉッ!!!」

 

動きの鈍くなった牛鬼頭にトドメを刺せとアヤに叫ぶホルレーだが、範囲攻撃に巻き込まれ大破こそ間逃れたが中破に等しいダメージを受けているアヤが動けるわけが無く、動き出すことのないアヤにホルレーは激昂し、ストレイトマシンガンの銃口をゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムに向け、その直後に背部にビームが命中した。

 

「なにするんだよぉ! ちゃんと手助けしてるだろうがあッ!!」

 

『アヤに何をする! お前は味方じゃないのか!』

 

トレーラーから身を起したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTを凄まじい眼光で睨みつけるのだが、その直後に上空から百鬼獣の叫び声が木霊し、新たな百鬼獣がエリシオネス、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタム、シュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTを包囲するように出現するのだった……。

 

 

 

 

アヤごと攻撃しようとした細身の女を思わせる機体を見て、激昂し攻撃を繰り出したマイ。無論それは威嚇射撃で、背部のバインダーを狙った致命傷には程遠い牽制程度の攻撃だった。

 

『マイ、その機体は味方だ。攻撃は控えるんだ』

 

「でもアヤを攻撃しようとしたんだッ!」

 

『……それでもだ。機体に乗り込んだ以上……お前は軍属なのだ。友軍機への攻撃は許されない』

 

謝罪するのだと言うケンゾウの言葉にマイは嫌そうな顔をしながら、エリシオネスに視線を向けた。

 

(気持ち悪い……なんて五月蝿いんだ)

 

T-LINKセンサーを通じてエリシオネスのパイロットの念がマイに伝わってくる。怒り、喜び、憎悪、色んな念が浮かんでは消え、浮かんでは消え……誰かに向けられている激しい執着の念に吐き気すらマイは感じていた。

 

「すまない」

 

『ううん、いいよぉ? あたしもちょっと頭に血が上ってたからぁ。お相子ってことで良いよねぇ?』

 

粘着質な甘ったるい声がゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTの中に響き、マイは思わず吐きそうになった。人と話しているはずなのに、人とは思えない。恐ろしい何かにマイには感じられた……何か言わなければならないと思っているのに、マイは口を開くことが出来なかった。

 

『支援に感謝します。フレンドリーファイヤに関しては、互いに事故と言う事にしましょう。私はSRXチームのアヤ・コバヤシ大尉です。あっちは妹のマイ・コバヤシ曹長です』

 

『ご丁寧にどうもぉ、あたしはウォン重工業のテストパイロットのぉ、ホルレー・ぺキュアぁって言うのぉ……階級は……一応曹長扱いだよぉ』

 

自分では対応出来ずアヤに助けられた事に安堵し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03カスタムの後に逃げるように移動する。

 

『オーガが多いねえ。応援来るかなぁ?』

 

『そこは判らないわ。でも私達を完全に狙いを定めているみたいだから街には被害は出ないと思うわよ』

 

『ええ~それ嬉しくないなぁ』

 

アヤと会話をするホルレーは今は平常だが、いつまた先ほどのように激昂するか判らず、マイからすれば爆弾がすぐそばにあるようでとても平常心ではいられなかった。

 

『マイもぉ、よろしくねぇ~♪』

 

「う、うん……わ、判った。と、とりあえず鬼との戦いに集中しよう」

 

そうだねえと言うホルレーの声を聞いても、ホルレーが鬼では無く自分を見ているような気がしてマイは恐ろしくて仕方なかった。

 

『時間稼ぎをすれば応援が来るわ。とにかく今は、鬼を浅草から引き離すわよ。マイ、ホルレー』

 

猿のような姿をした百鬼獣――猿鬼、に両腕が以上に大きい百鬼獣――豪腕鬼、それに半月上の胴体を持つ百鬼獣――半月鬼、そして背中に砲台を背負った雷撃鬼はよくも邪魔したなと言わんばかりに殺気を向けてきている。人とは違う殺気にマイは脅え、ホルレーは口笛を吹いて楽しそうだ。

 

『じゃあこのまま海のほうに移動してぇ、そっちで戦う?』

 

街中で戦えば被害が大きくなる、先ほどまでは積極的に攻撃してくる事の少ない牛頭鬼だったから、ストライクシールドを併用したバリアを利用し、1対1で戦えていたが明らかに戦闘を仕掛ける気満々の4体の百鬼獣を相手にするのは街中では駄目だ。先ほどの狂人具合から信じられない理知的な事を言うホルレー。

 

『そうね、それが1番被害が……』

 

「待ってくれ、アヤ。鬼の様子がおかしいッ」

 

攻撃をして海に誘導しようとするアヤとホルレーにマイがストップを出した瞬間。雲の切れ間からミサイルが飛んで来て半月鬼の背中で爆発した。

 

『なっ!? こんな所で戦闘をするつもりッ!? どこの……うっ!?』

 

「う、うああッ!?」

 

何処かの偵察機が鬼を恐れて攻撃したと思った瞬間。アヤとマイを激しい頭痛が襲い、雲の切れ間から戦闘機が飛び出した。

 

『なにあれ? 戦闘機ぃ? 変なのぉ』

 

その姿を見たホルレーは変なのと称した。航空力学に喧嘩を売っているとしか思えない主翼も尾翼も申し訳ない程度についているだけの赤・青・黄色の三色の戦闘機が百鬼獣の頭上を越え、東京湾に向かって行く。

 

『『『『シャアアアーーッ!!!』』』』

 

そして百鬼獣達はアヤ達には何の興味もないと言わんばかりにその戦闘機を追って飛んでいく。アヤ達に向けていたのとは比べ物にならない程の強烈な敵意と殺気を持ってだ……。

 

「な、なんだあれは……わ、私はあれを知ってる!?」

 

それを見ていたマイは自分の身体を抱き締めるようにして震えた。恐ろしい、ひたすらに恐ろしくてしょうがなかった。頭が割れそうな痛みと己の意志に反して身体が震えだす……本能的な拒否、あれに関わってはいけないと言う恐怖がマイを縛り上げていた。

 

『あ、ああ……あれはッ!』

 

普段ならばマイの不調に気付くアヤだが、目の前に現れた戦闘機――ゲットマシンを見て、それ所ではなかった。自分の知るゲットマシンとは違うが、あれは紛れも無くゲットマシンだと判っていた。

 

『チェェエエエエンジッ!!!! ゲッタァアアアアア――ッ!!! ポセイドォォオオオンッ!!!!』

 

衝突事故もかくやと勢いでぶつかった戦闘機が一瞬で巨大な特機――ゲッターポセイドン2へと合体を果たす、ゲットマシンから響く声は紛れも無く武蔵のものなのであった……。

 

 

 

 

東京湾のど真ん中に着地し、自分を追ってきた百鬼獣――豪腕鬼に向かってポセイドン2の豪腕を振るわせる。豪腕鬼もそれに対抗するように拳を突き出すが、ぶつかり合った場所から豪腕鬼の拳が砕け、ポセイドン2の豪腕が豪腕鬼の肩の手前まで突き進み、豪腕鬼は苦悶の声を上げる。

 

「シャアアッ!」

 

「ガアッ!」

 

それを助けようとして猿鬼が手にしているブーメランをポセイドン2に投げつけ、半月鬼が目から破壊光線を射出する。

 

「んなもんが効くかあッ!」

 

ブーメランはポセイドン2が受け止めて握り潰し、半月鬼の破壊光線は装甲に弾かれて霧散する。

 

「ゲッタァアアキャノンッ!!!」

 

「ギャアッ……」

 

呆然としている猿鬼に向かってゲッターキャノンが放たれ、防御をする素振りを見せたが防御した腕ごと胴体を吹き飛ばされ、苦悶の声を最後まで上げる事無く猿鬼は消し飛ぶ。

 

「ゴガアッ!?」

 

「ギ、ギイイッ!!」

 

ポセイドン2の圧倒的な攻撃に驚く雷撃鬼を庇うように豪腕鬼が前に出て、片手でポセイドン2へと殴りかかる。

 

「シャアア!」

 

「ギ、ギギィッ!!」

 

半月鬼と雷撃鬼が逃げるように飛び去り、それに武蔵が視線を向けると豪腕鬼が追わせないと言わんばかりにポセイドン2へと片腕で攻撃を繰り出す。

 

「悪いな、鬼に対する情けはオイラにゃないんだよッ!!」

 

それが人間ならば武蔵は自分が死んでも仲間を逃がそうとする姿を見て同情もしただろう。死ぬことはないと説得することもあるだろう……だが相手は鬼でここで逃がせばもっと被害が出るし、みのがせられたとしてもそれに感謝することはない。鬼は侵略者であり、人間を滅ぼそうとしているのだから……。

 

「うおらあッ!!!」

 

豪腕鬼の胴体を蹴りあげ、豪腕鬼を逃げようとしている半月鬼と雷撃鬼に向かって蹴り飛ばすと同時にポセイドン2は体制を低くする。

 

「ゲッタァアアアサイクロンッ!!!」

 

姿勢を低くしなければゲッターサイクロンの被害が浅草に出てしまうと判断したからこその、頭を下げるという行動であり。斜め下から吹き上げる暴風に3体の百鬼獣は飲み込まれ、その全身を切り刻まれ細かい爆発を繰り返す。そのダメージは深刻だが、3体を纏めて破壊するには些か威力が足りなかった。だがそれも当然だ、元々トドメを刺す目的ではなく、トドメをさせる場所に百鬼獣を移動させただけなのだから……。

 

「ギガアアアーーッ!」

 

そうとも知らない百鬼獣は3体の中で最も推進力があるであろう雷撃鬼に半月鬼、豪腕鬼が掴まり、ゲッターサイクロンの暴風から逃れようとした瞬間……3体の百鬼獣を高速で射出された網が絡めとった手応えを感じ、武蔵は操縦桿を強く握り締め、ペダルを踏み込んだ。

 

「大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!!」

 

自分の視界の範囲外に弾き飛ばしての大雪山おろしは武蔵に取っても初の事だった。だが近ければ浅草に被害が出る、少なくとも伊豆基地からの緊急避難勧告で飛行機や船の運行が止まっている事を信じ、そして、ビアンが増設してくれたレーダーに熱源反応が無いのを確認したからこそこの超高高度での大雪山おろしの踏み切ったのだ。

 

「おろしぃぃいいいいいッ!!!」

 

上空へ……宇宙まで飛んでいけと言わんばかりに腕を振り上げ、フィンガーネットを切り離す。

 

「まあ、これで戻ってくることはないだろ。うん」

 

ゲッターサイクロンで全身を傷つけ、そしてトドメの大雪山おろし――目では見ていないが、百鬼獣と言えど宇宙の近くまで放り出されれば仮に生きていても単独で大気圏突破とかは出来ないだろうと判断し、武蔵は振り返る。

 

「うげえ」

 

そしてまだ振り返るには早かったと言わんばかりの呻き声を上げた。何故ならば……。

 

『武蔵、武蔵よね。やっぱり生きていたのね! 少佐は……イングラム少佐は一緒なのッ!?』

 

『……えっとえっと、大人しく伊豆基地まで同行願います』

 

『あはぁ。ゲッターロボと武蔵巴、生きてたんだあ……』

 

2機のゲシュペンスト・MK-Ⅲがすぐ近くに来ており、そこから響くアヤの声に、脅えながら声を掛けてくるマイの声、そして甘ったるく、どこと無く嫌悪感を抱かせえるホルレーの声、三者三様の声掛けとその周辺に飛んでいる戦闘機とヘリコプターの姿にどうしたもんかなあと悩みながらも、武蔵はお久しぶりですと口にする。

 

(まあ、なるようになるさ)

 

ただその胸中は百鬼獣より戦うよりも難敵で、そして半分泣いているアヤにどうやってイングラムの事を説明しようかと武蔵は頭を悩みながらも、どの道伊豆基地に会えばアヤに会うことになると思えばそれが少し早いか遅い程度の差で、あーだーこーだ考えるよりなるようになれという半分諦めの境地にも似た考え方なのだった……。

 

 

 

第84話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その6へ続く

 

 




後半は武蔵無双でしたが、本番はここからアヤとマイ、そしてホルレーの3人と出会うことになる武蔵とアゲハの事をどうやって説明するとか、そこら辺になります。戦いで武蔵が頑張るというよりかはこの説明を頑張ると言うのがタイトルの頑張れ武蔵さん! って所ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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