進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第84話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その6

第84話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その6

 

浅草での百鬼獣との戦いを終えたアヤとマイ、そしてケンゾウはウォン重工業のテストパイロットのホルレーとその搭乗機エリシオネスと共に伊豆基地へと帰還していた。武蔵も本当は同時に帰還させたかったのだが、どうしても連れて来たい人物がいるということで、伊豆基地に必ず来るという条件で一時別行動をしている。そしてホルレーとは出来れば別れたかったところなのだが、次の試験運用の会場が伊豆基地という事で警戒しつつ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTと同じトレーラー車に乗せて格納庫に止まる。

 

「……アヤ」

 

「うん、大丈夫よ」

 

トレーラーが止まると同時に逃げるように出てきたマイをアヤは抱き締めて大丈夫と声を掛ける。それでもマイの表情は固く、トレーラーの扉が開く音がするとアヤの後ろに回り込んで隠れた。その反応を見ればマイがホルレーをどれだけ恐れているのかが判り、アヤもその顔を引き締め出てくるホルレーに備える。

 

「ぷはあ、あぁ疲れたなぁ……」

 

水音を立てて現れたウェットスーツのようなぴったりとしたパイロットスーツを着たホルレーの姿にアヤは目を見開いた。年の頃は良く判らないが恐らく成人はしていない、マイと同じか少し年上と言う感じだ。鍛えられて引き締められた身体と、歩くたびに揺れる胸に格納庫にいた整備兵達が気まずそうに目を逸らす。

 

「えーっとぉ、貴女がアヤぁ?」

 

ねっとりとした絡みつくような視線と甘ったるい口調のホルレーは言い方は悪いが、娼婦か何かのような妖艶な雰囲気を身に纏っていた。

 

(何、この子……気持ち悪い)

 

戦っている時は口にしなかったが、マイが感じていた気色悪さをアヤも感じていた。それはこうして顔を見せるとより強烈になり、マイよりも成熟しているアヤでさえ嫌悪感を抱かずにはいられなかった。多重人格と一言に言ったとしてもそれでは片付けられないほどの強烈な感覚、喜怒哀楽の感情が常に暴走しているような……口調と念が合致しない。こんなに気味の悪い人間を見るのは初めての事だった……そもそも人間なのかと思うレベルだった。

 

「んん? ああぁ。ごめんなさいぃぃ……エリシオネスはぁ、培養液の中で操縦するからぁ……外に出ると回りべちゃべちゃになるのぉ……ごめんねぇ」

 

黙り込んだアヤを見て格納庫を濡らした事を怒っているのだとホルレーは思い謝罪の言葉を口にする。

 

「えっとぉ、雑巾とかあるぅ? ちゃんと自分で掃除するからぁ……」

 

「いや、それは構わない。アヤ、彼女をシャワールームへ案内してくれ、服は一般兵士の物を用意してやってくれ。マイもアヤも汗を流してくると良い、武蔵と会う前に汗まみれと言うのは些か体裁が悪かろう」

 

ケンゾウの言葉の中に隠された真意を読み取り、アヤは嫌そうにしているマイの手を握る。

 

「ホルレー、こっちよ」

 

「んーありがとねぇ」

 

そのままマイの手を引いてホルレーと共にシャワールームに足を向けるアヤ。ホルレーの姿が見えなくなった所で、ロブとケンゾウは格納庫を濡らしている培養液をスポイトなどで回収する。

 

「ウォン重工業の機体は確かゲシュタルトシリーズと言っていたな」

 

「ええ。ですが培養液を利用する機体ではなかった筈ですが……」

 

ゲシュタルトシリーズは次期主力機のトライアウトに出される筈の機体だ。運用テストに用いられる際も通常のコックピットのデータだった筈。提示されているデータの機体と目の前のデータが合致しない……ケンゾウはその事に危機感を抱き、培養液の回収。そしてエリシオネスと呼ばれる機体の内部データの分析とスキャンを行なうことを決めた。

 

「しかし、良いのですか?」

 

「ああ、これは私の独断だ。オオミヤ博士達は関係ない、心配するな。責任はワシが全て取る」

 

ケンゾウの直感でエリシオネスもウォン重工業も、そしてホルレーとすべてが危険だと感じていた。武蔵の生存が確実になり、伊豆基地全体が浮き足立っている間にケンゾウはエリシオネスのスキャンを始めたのだった。

 

「お父様。武蔵はもう帰って来ましたか?」

 

「いや、まだだ。だが、もうそろそろだろう」

 

シャワーを浴びているまでの時間だったのでそこまで長くはなかったが、大まかな機体データの解析を済ませたケンゾウはまだ武蔵が伊豆基地に戻っていないと返事を返す。

 

「シャワーありがとうございましたぁ」

 

「いや、気にすることはない。ワシ達も君には助けられているからな、ウォン重工業とは連絡もついている。昼過ぎにはあちらの責任者も来るだろう」

 

「態々ぁ、ありがとうございますぅ」

 

焦点の合わない瞳、危ういほどの感情の変化――それらは特脳研で何人も見たことがある。これが伊豆基地のパイロットならば指摘しただろう、だがホルレーはウォン重工業の所属であり、余計な事は口に出来ない。

 

(やはり……危うい)

 

ホルレーと言う少女をパイロットにする事は危険だ。そしてエリシオネスもまた危険な物にケンゾウには見えていた、伊豆基地での試験でその危険性を指摘出来るだけの何かがあれば良いがとケンゾウが考えているとジェット機のような音が伊豆基地の上空に響いた。

 

「来たみたいね」

 

「……うん」

 

尾を引いて空を飛ぶ3色の戦闘機――ゆっくりと減速し、伊豆基地の格納庫に順番に着陸するゲットマシン――ドラゴン号、ライガー号……そしてポセイドン号がゆっくりと着陸し……。

 

「うええ……吐く、吐く……」

 

「ちょちょッ!? 女優なんだろ! 吐くなよ!?」

 

ポセイドン号から現れた武蔵は青を通り越して土気色の顔をした女性に肩を貸していた。

 

「あれってキジマ・アゲハじゃ」

 

「誰?」

 

「女優だ。マイ……日本では上から数えたほうが早い程に有名な女優だ」

 

サングラスとストールで顔を隠しているが、紛れも無く武蔵が連れていたのはキジマ・アゲハ。その人だった……そんな有名な女優がへたり込み、吐くと呻いている。

 

「うっぷ……あ、駄目。これ駄目な奴……い、いや駄目よ……じょ、女優がはく、駄目……うっ、ああ、駄目かも……」」

 

「誰かッ! 誰かエチケット袋くれませんかぁ――ッ!!!」

 

武蔵の帰還を祝う雰囲気が武蔵の絶叫によって吹き飛び、何とも言えない空気が伊豆基地の格納庫に広がるのだった……。なお最終的にアゲハは女優の矜持と言う事で耐え切ったが、完全にグロッキーで医務室に運び込まれたのだった……

 

 

 

レイカー達の前で武蔵が苦笑いを浮かべながら何度も頭を下げる。自分が連れてきた相手が騒動を起こしたので申し訳ないと思うのは当然の事だったが、今この場にそれを指摘する者は誰もいなかった。

 

「いやあ。お騒がせて申し訳無いです」

 

「いや、構わない。しかし、よく無事に、生きて戻ってくれた」

 

レイカーの言う通りだった。よく生きて戻って来た……MIAは確認こそしていないが戦死扱いだ。そんな武蔵がこうして目の前にいると言う事はレイカーを始めとした伊豆基地の人間にとって歓迎し、喜ぶべきことだった。

 

「武蔵……少佐は、イングラム少佐は一緒じゃないのかしら?」

 

一通り挨拶が終わった所でアヤが震える声で武蔵に問いかける。武蔵と一緒にイングラムが現れると思っていたのだが、武蔵1人――R-SWORDという目撃例はあるが、イングラム本人ではないのか? と言う不安をアヤは隠しきれなかった。

 

「イングラムさんも無事ですよ。今はそのー……別行動してますけど、ラドラと一緒のはずです」

 

ラドラと一緒……それは今はクロガネと共に行動していることを現しており、レイカーは武蔵が容易にクロガネの名前を口にしなかったことに感謝した。

 

「そう。そうなのね……良かった」

 

目尻に涙を浮かべるアヤの手を握り締める少女の姿を見て武蔵が眉をひそめ、鋭い視線を向けられたマイが体を小さくさせる。

 

「紹介しよう。マイ・コバヤシ……ワシの娘だ。マイ、挨拶を」

 

「ま、マイ・コバヤシです……は、初めまして」

 

「いやあ、こりゃご丁寧にどうも。睨んで悪かったな、怖がらせちゃってごめん」

 

謝罪の言葉を口にする武蔵にマイは少し安堵したのか柔らかく微笑んで、気にしないでと笑った。武蔵もその顔を見て笑い返したが、その瞳の奥には警戒する色が浮かんでいた。レビ・トーラーがマイであった事は機密だが、それでもレビ=マイに辿り着いている者は少なからず存在する。それを知ってなおマイの名を名乗らせる事の意味を考え、武蔵は口を紡いだ。自分は決して賢くない、レイカーやアヤに何か考えがあるのならば、無知な自分が指摘するべきではないと考えたのだ。

 

「武蔵君は今までどこで何をしていたのだ?」

 

「旧西暦で派手にドンパチして、平行世界でも化け物と戦ってました」

 

「すまない。なんだって?」

 

サカエが聞き違いと言ってくれと言う表情で武蔵にもう一度問いかけるが、答えは同じでサカエは遠い目をして眼鏡を外してハンカチで汚れを拭っていた。

 

「つまりそれは百鬼帝国と戦っていたという事で良いのかね?」

 

「あーすんません、違います。失われた歴史とか言う年代でインベーダーのクソ共と戦ってましたよ」

 

失われた歴史を見てきたという言葉にケンゾウが腰を浮かせる。脳の専門家と言えど、失われた歴史と言うのは研究者にとって大変興味深い話だ。だが連邦にとっては隠しておきたい話でもある……下手に聞かれて反逆の意ありとされては困ると判断したレイカーの咳払いでケンゾウは我に帰り椅子に腰を下ろしたが、それでもその瞳に宿っている知的好奇心の光は全く消えていなかった。

 

「そのインベーダーと言うものに関しては軽がるしく口にしないように、では何故女優のキジマ・アゲハを連れて来たのかね?」

 

「……ラドラと同じです。どうも狙われているみたいで」

 

ラドラと同じと口を濁す武蔵。だがその一言でアゲハの重要性をレイカー達は察した。

 

「判った。伊豆基地で保護することを約束する」

 

「急に押しかけてきた上に無理な事を言ってすみません」

 

武蔵は謝罪するが、百鬼帝国の事を知るかもしれない人物となれば、今後の戦いの為に保護するのは当然の事だ。

 

「ダイテツから伊豆基地預かりにして欲しいと言う報告を受けて、こちらを用意した。これを携帯して欲しい」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

レイカーの差し出したカードを受け取る武蔵。それを見てアヤが口を開いた。

 

「武蔵はダイテツ艦長達に先に会っていたの?」

 

伊豆基地に来る前にダイテツ達と合流していたのか? と問いかけられ、武蔵は苦笑を浮かべる。

 

「宇宙でレフィーナさんとヴィレッタさん、それとギリアムさんとリューネに会って、その後にリョウトとリオに会って……地球に戻ってからダイテツさん達ですね」

 

自分達が最初と思っていたアヤだったが、思っていた以上にL5戦役の面子と再会していた事にアヤは驚き、そして肩を竦めて苦笑した。

 

「それならもっと早くに伊豆基地に顔を出してくれればよかったのに」

 

「まぁ色々ありまして、なんか連邦本部に顔を出せと、こちらで特例処置をするって言われていたんですけど、それだと良くないって言われてましてね。レイカーさんに会いに行くようにってダイテツさんに言われたんですよ」

 

戦時特例の処置を連邦本部で行なえば武蔵は連邦本部の預かりになる。そうなれば命令を出して武蔵を取り込むことも可能だ、それを危惧し伊豆基地に武蔵を向かわせたダイテツの判断は紛れも無く英断だ。

 

「戦時特例を出したとしても私から武蔵君に強要することはない。強いていればハガネかヒリュウ改、もしくはシロガネと行動を共にしてくれれば良い」

 

「ういっす。とりあえず2~3日は伊豆基地にいるように言われてますし、それからアビアノ基地でしたっけ? そこに行ってダイテツさん達と合流するつもりです」

 

「そうか、ではダイテツか、レフィーナ中佐の指示下に入ってくれ、アヤ大尉。武蔵君の世話と手伝い等を頼む」

 

「はい、判りました。マイ、武蔵、行くわよ」

 

武蔵とマイを伴って司令室を出て行くアヤ。その姿を見送ったレイカーは重い溜め息を吐いた。

 

「ケンゾウ博士はどう思いますか?」

 

「余りにも都合が良いと言わざるを得ないですな」

 

武蔵が見つかると同時に未知の集団である百鬼帝国を知る女性が手元に現れた。それを手放しに喜ぶ事はレイカー達には出来なかった……余りにも自分達に都合が良すぎる。

 

「自分達で考えているような筈なのに、誰かに誘導されている気がしますね」

 

「ああ……今まで以上に慎重にならざるを得ないな」

 

攻勢に出れるタイミングではある、だがその攻勢でさえも誰かに演出され、用意されたようにレイカー達には感じられ、今まで以上に慎重に動くべきだと思わざるを得ないのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵が生きていた……自分達が聞いたのはかなり遅かったが、それでも武蔵が生きていると聞いて伊豆基地の雰囲気は非常に明るい物になっていた。

 

「ジャーダとガーネットの所に行ってたのね」

 

「ええ、どうせ日本に行くならって思いまして……あ、すいませーん。焼きうどんとカツカレーお願いします」

 

厨房に向かって声を掛ける武蔵、活気に満ちた声が伊豆基地の厨房から木霊する。

 

「……いっぱい食べるんだな武蔵は」

 

「マイは食べなさすぎじゃないか?」

 

「それは違うわ」

 

おにぎり2つと味噌汁でお腹一杯と言う様子のマイに食べなさすぎと言う武蔵。その声を聞いて即座に違うと言うアヤ……実際その通りである。丼が何個も山積みになっている机の上を見れば武蔵のほうが異常であると言うことは明らかだ。

 

「リュウセイ達にももう会ってるのよね?」

 

「ええ。元気そうでしたよ、ヴィレッタさんとイルムさんなんて殴ると意気込んでました。リンさんもついでに殴っておくかなって言ってましたし……大丈夫かなあって思いますよ」

 

ヴィレッタとイルムが殴ると言う人物……それはイングラムに他ならない。

 

「ふふ、じゃあ私はビンタにしておこうかしら?」

 

「ええ……いやまぁ、うん……皆怒ってますよねぇ。オイラもシャインちゃんとジャーダさんにすっげえ怒られましたもん」

 

カツカレーを食べていた武蔵の手が止まり、申し訳なさそうな顔をする。

 

「怒られたのなら謝れば良いんだよ。武蔵」

 

「うん、本当にその通りなんだよなあ……はぁ」

 

マイに正論を言われたからか、それともかなりこっぴどく怒られたのか武蔵は深く溜め息を吐いた。

 

「シャイン王女にもあったのね、どうだった?」

 

「……すっげえ泣いて怒られました。罪悪感と申し訳なさで本当トンでも無い事をしたって後悔しました」

 

子供の涙と言うのは時に何よりも強力だ。特に武蔵のように優しい人間には何よりも重く、そして後悔させるだろう。

 

(武蔵には悪いけど、ここはフォローは無しで行きましょう)

 

武蔵のように覚悟完了しているとまた窮地に追い込まれたら特攻と言う選択をしかねない。シャインの涙で特攻と言う考えが無くなるのならば、シャインに負い目を感じて貰っている方が良い。そして何よりも、武蔵が特攻と言う選択を取らないようにもっと強くなろうとアヤは心に決める。

 

「武蔵は伊豆基地に居る間何をするんだ?」

 

「んーとりあえず1回ジャーダさんの所に顔を出すつもり。鬼が出てきて、家の中めちゃくちゃにしちゃったからさ」

 

「判ったわ、そういうことなら許可を貰ってからだけど車を出してあげる」

 

ジャーダからの連絡で伊豆基地の対応が早かったのでその事に対する感謝を告げるという意味も込めてアヤが車を出すと言った時だった。ひょっこりと1人の少女が人垣を掻き分けて姿を見せた。その姿を見てマイは顔を引き攣らせ、武蔵は誰だ? と言わんばかりに怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「あはぁ、貴方が武蔵ぃ?」

 

「……誰だあんた?」

 

「ホルレー、ホルレー・ぺキュア。よろしくねぇ?」

 

「こらこら、ホルレー。もっと挨拶は丁寧にしなければ駄目だよ」

 

ホルレーを窘める低い男性の声が響き、人垣の中から柔和な笑みを浮かべた男性が姿を見せた。

 

「こんにちわ。ムサシ・トモエ君だね? 初めましてヴィルヘルム・V・ユルゲン。ウォン重工業で機体開発をやらせて貰っている者で、ホルレーの保護者のようなことをしている」

 

ユルゲンに頭を撫でられたホルレーの顔に狂気の色は無く、その外見相応の可憐さがあった。その姿に見惚れる者もいたが、武蔵は鋭い視線をユルゲンに向けた。

 

「武蔵です。どうぞよろしく」

 

「ああ、よろしく。L5戦役の英雄に会えるなんて感無量だよ」

 

表面上は2人とも笑っている……だが武蔵とユルゲンの間には互いを互いを探るような気配が満ちていた。

 

「そうそう、明日私の開発した機体のテストをやるんだ。是非君にも見て欲しいな、まぁ今の状況だと許可が下りるかも少し怪しいんだけどね、もし降りたら君の意見も聞きたいと思うんだ」

 

「招待してくれるのならば顔を出させてもらいますよ」

 

武蔵から聞きたい言葉を聞けたのかユルゲンは穏やかに笑い、ホルレーをつれて食堂を後にする。

 

「武蔵どうしたの?」

 

「いや、わかんないですけどね……ホルレーって奴より、あいつ……確かユルゲンって言ってましたよね? あいつ……なんかやばいっすよ。鬼とか爬虫人類に似てやがる」

 

マイとアヤが感じていたホルレーの危険性、だがそれよりもユルゲンがやばいと言う武蔵。アヤは何も感じなかったが、野生の勘とも言える武蔵の本能的な警告を聞いて警戒を強める。

 

「判ったわ。レイカー司令とお父様に言っておくわね」

 

「お願いします。オイラの気のせいなら良いんですけどね……」

 

気のせいなら良いと言いつつ、武蔵の目付きは鋭いままでホルレーとユルゲンに対する警戒は一切緩める事は無いのだった……。

 

 

 

 

コーウェンとスティンガーからゲッター合金とゲッター炉心を手にし、上機嫌なブライの携帯端末に連絡が入る。その端末に表示されている名前を見て、ブライは更にその笑みを深めた。

 

「私だ。やっと積極的に動く気になったかな?」

 

『ええ、その通りです。ブライ議員……1つ頼みたいことがあるのですが、よろしいですかな?』

 

「構わないともヴィンデル。私は君に協力してやるさ」

 

イーグレット・フェフは確かに優秀な研究者ではある。だがブライからしてみればイーグレットの目的は新人類を作ると言う物で面白みのない男だった。それに対してヴィンデル・マウザーの掲げる永遠の闘争は争いの中で進化するというその持論はブライからしても共感できる物であり、何よりも口八丁でイーグレットを焚き付け、アースクレイドルを制圧するという事を成し遂げている。

 

「私も御してみるか? んん?」

 

『恐れ多いです、ブライ議員』

 

これがブライがヴィンデルを評価する点だった。自分の目的を叶える為ならば泥をすすり、頭を下げることも厭わない。そして逃げる事も辞さない。この泥臭さ、己の目的を叶える為ならばなんでもすると言う野心に満ちた瞳――時が来れば鬼にしても構わないと思うほどにブライはヴィンデルを買っていた。

 

「それで私に何をさせたい?」

 

『しばし日本に武蔵の足止めを……礼としてゲッターロボD2の情報をお譲りします』

 

「ほう……その理由は?」

 

武蔵を足止めしろと言うのはブライにとっても無意味な物ではなかった。竜馬、隼人、弁慶と比べて武蔵の情報はさほど多くない、その上ゲッタードラゴンの後継機であるゲッターD2の情報もブライにとって欲しい物であった。

 

『ハガネ、そしてシロガネへ攻撃を仕掛ける際に武蔵の存在は邪魔なのです』

 

「良いだろう。引き受けた」

 

ヴィンデルはハガネとシロガネをやけに警戒している。その理由も今回の出撃で見極められるだろう……武蔵を日本に足止めするだけで得れるリターンの多さを計算し、ブライはヴィンデルの申し出を受け入れた。

 

『よろしくお願いします』

 

「構わんさ、その代り退屈させるなよ」

 

『勿論です。では準備があるので私はこれで』

 

沈黙する携帯端末を見てブライは笑う。どうしても手に出来なかったゲッター炉心、ゲッター合金、そして共行王が持ち帰ったブラックゲッターロボ……。

 

「ふふふ、はははは、良いぞ、良いぞ。全て私の思い通りになって来たッ!」

 

何十年も雌伏の時を過ごした……一時はあの憎いゲッターロボのせいで何もかも駄目になるかとまで思ったが、それでも自分の思い通りの展開になってきた。まるで「世界」から後押しされているような、お前の悲願をかなえて見せろと言われているような……そんな感覚を味わいながらブライは歩き出す。鬼の力を借りて、今まで影に徹していた者達がゆっくりと動き出そうとしていた。

 

「ふむ、なるほど……状況は把握した」

 

そして動き出したのはブライとヴィンデルだけにあらず……ブライと共に長い間を記憶を封じられていた男もまた動き出そうとしているのだった……。

 

 

 

第85話 蠢く影 その1へ続く

 

 




今回は短めの話でフラグを多数用意してみました。次回はレーツェルの視点の話、インスペクターの話、連邦大統領ふの話、そして伊豆基地での話を書いて行こうと思います。次回の話は全体的にフラグの話や次の話の準備と言う感じの話しにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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