第86話 蠢く影 その2
ヒリュウ改への物資の積み替え、新型機などの移送を追え、アビアノ基地への進路をとるヒリュウ改――そのブリッジにはオブザーバーとしてクレイグの姿もある。アビアノ基地まで後3時間ほどの距離に迫った所でショーンが顎鬚を摩りながら解せないと言う表情を浮かべた。
「ふむ、追走はあると思っていたのですが……殆どありませんでしたなあ」
「……逃走経路を読まれている可能性もありますね」
警戒していたインスペクターの襲撃は殆ど無かった。殆ど……と言うのは現れたのはアーチン、そしてレストジェミラの昆虫形態であくまで偵察・巡回中に遭遇し、突発的な戦闘になっただけで、ヒリュウ改の警護をしてくれているヴァルキリオン部隊によって迎撃される程度の弱い部隊だった……テスラ研から離脱した事でヒリュウ改に新型機があるのはインスペクターも把握している筈。十中八九あると思っていた襲撃が無かった事に罠に誘い込まれているのでは? と言う不安がレフィーナ達の間に生まれる。
「……これは私の楽観的な観測になるが、インスペクターにもさほど余裕が無いのではなかろうか? ラングレーで指揮官機を中破させた、そしてレーツェル達が合流する際にもう1人の指揮官機も中破に追い込んでいると聞いている。向こうとしても我々を止めたいが、それだけの余力がないと考える事も出来るだろう?」
「その可能性はゼロではないですが……些か楽観的ですな」
「後ろ向きに考えた所で不安になるばかりだ。少しばかり楽観視したほうが良い場合もあると言う事だよ。ショーン少佐」
これは一本取られましたなと笑うショーンの姿にヒリュウ改のブリッジの悲壮感は僅かに霧散した。
「そうなると偵察機は我々の撤退路を把握する為という可能性もありますね?」
「確かにその可能性はある。だが戦力を整えさせる旨みはあちらにもないだろう……あくまで可能性程度に思っておくと良い」
インスペクターには転移装置がある。無尽蔵の戦力を送り込めるとはいえ、無人機では大した足止めにもならない。自爆前提で送り込むという事も考えられるが……新型機を鹵獲しようとしているインスペクターの今までの動きを見ればその可能性は極めて低いとクレイグはレフィーナに指摘する。
「艦長として最悪を考えるのは悪くないが、あまり最悪ばかりを考えていると不安が伝播する事になるぞ、レフィーナ中佐」
「少し弱気になりすぎていたかもしれません」
「無理もない。私だって基地を放棄して逃げて何を偉そうに、と言われてはなにも言い返せないが……生きていれば次がある。次があるのならば奪われた物は奪い返せば良い。そう思ったほうが建設的だ」
失われた物、奪われたものは決して軽くはない。だがそれに引き摺られすぎるなと言うクレイグの言葉に頷き、まだその姿も見えないアビアノ基地の方角にその視線を向ける。雲の切れ間から光が差し込んでいるが、それがかえって不安を煽り、レフィーナはその考えを振り払うように首を左右に振った。
「ユン伍長、リューネさんとマサキさんを呼んでくれますか?」
「はい、今通達を入れます」
進路の相談やライノセラスのバンとの話し合いで格納庫で待機して貰っていたマサキを呼んでくれとレフィーナが頼み、数分でマサキとリューネがブリッジに姿を見せるのだが……。
「あのマサキさん、その顔はどうしたんですか?」
「いや、うん。殴られた」
「太ったって言うマサキが悪いッ!」
マサキの頬に青あざがくっきりと浮かんでおり、リューネに太ったかと尋ねそれに怒ったリューネに殴られたようだ。
「やれやれ、女性に一番言ってはいけない事を言ってしまうとは修行が足りませんな」
「それはマサキさんが悪いですよ」
ショーンとレフィーナに注意され、マサキは小さく肩をすぼめ判ってると半分不貞腐れた様子で呟いた。
「マサキ・アンドーだな。初めましてになるか……ラングレーのクレイグ・パラストルだ。よろしく頼む」
「あ、ああ。よろしく……とりあえずの所はレーツェルさんに聞いてる。これからどうするのか、レフィーナさん達からも聞かせて欲しい」
レーツェルから聞けたのは今の情勢と半年の間に何があったのかだ。今ヒリュウ改がアビアノ基地に向かっている事は知っていたが、そこから何をするのかというのは何も聞かされておらず、アビアノ基地でハガネと合流した後はどうするのかと言う事についてマサキはレフィーナに説明を求めるのだった……。
マサキがレフィーナからこれからの動きを大まかに説明されている頃。クスハ達はマオ社から無事に脱出を果たしたリオ達との再会を喜んでいた。
「リオ! リョウト君、無事で良かった」
「クスハこそ! 良かった。怪我はない?」
「無事で良かったよ」
お互いにマオ社とテスラ研が百鬼帝国、インスペクターに制圧されたと聞いて安否を気遣っていたからこそ、こうして無事に再会出来た事を素直にクスハ達は喜んだ。
「そちらの方は確か……コウキ博士でしたよね? 負傷されているのならば医務室にご案内しますけど」
車椅子姿のコウキの姿を見てリオが医務室に案内しましょうか? と尋ねる。
「連れて行くだけ無駄だ。コウキ博士は何度も逃亡するからこうして車椅子という妥協案を出したんだ」
「そういうことなんです。怪我人って事を全然わかってくれないんですよ、この人」
「うるさいぞ。俺は俺に出来る事をする、腸が飛び出ている訳でも、腕が千切れているわけでもないのなら俺は健康だ」
真顔で言い切るコウキを見てリョウトとリオが冗談だろうという目をクスハに向ける。クスハが首を左右に振るのを見て、それが本当なのだと判り2人は青褪めた顔でええっと呻いた。
「えっと所でお2人は……」
「プロジェクトTDのスレイ・プレスティだ。こっちはアイビス」
「あ、アイビス・ダグラスです。どうも」
「初めましてリオ・メイロンです。よろしく」
「リョウト・ヒカワです。アイビスさん達も無事で良かったです」
初見の顔合わせを済ませ、互いに何があったのかという情報交換を始めるリョウト達。その中で百鬼帝国の名前が出てスレイとアイビスの眉が寄った。
「何か?」
「いや、その……「俺の事は気にしなくて良い。本当の事だし、変えようのないことでもある。俺は元・百鬼帝国の者だ」
百鬼帝国の人間とコウキが口にし、格納庫の中に一瞬張り詰めた空気が広がるが、それはギリアムの手を打ち合わせる音で霧散した。
「ラドラと同じだ。彼の事は俺が保障する」
「ギリアムか」
「コウキ。もう少し言い方というものはないか?」
「ない。面倒ごとは先に済ませたほうが良い、大体何度も同じ話をするのは面倒だ」
コウキの言葉にギリアムは肩を竦め、周りで警戒の色を示していた警備兵達に大丈夫だと声を掛ける。
「ギリアム。お前は知っていたのか? コウキ博士がラドラの同類だと」
「レーツェル。そうだな……俺は知っていたよ。だが正直な話百鬼帝国が復活するとは思っても見なかったと言うところだ」
隠していた訳ではなく復活すると思っていなかったというギリアム、その目をレーツェルとゼンガーはジッと見つめ、小さく溜め息を吐いた。
「もう少しその秘密主義を何とかしろ」
「カイの奴に殴られるぞ」
「ああ、それに関しては大丈夫だ。まずはお前達を殴るとカイは言っていたぞ、武蔵が言っていたんだが……カーウァイ大佐が生きていて、訓練を受けているらしいじゃないか。ん?」
ギリアムからの反撃に気まずそうに目を逸らすレーツェルとゼンガーだが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに2人の肩に腕を回す。
「少しばかり話を聞かせてくれても良いだろう? 俺もカーウァイ大佐の事で聞きたい事もある。ヴィレッタ大尉、コウキ博士からの話は俺の代わりに聞いておいてくれ」
もう少ししたらアビアノ基地についてしまう。そうなればレーツェルとゼンガーは離脱してしまうので逃がす物かと言わんばかりに2人を引きずっていくギリアム。
「スレイ! ちゃんとアイビスに説明しておくんだぞ!」
格納庫に隣接した会議室に入る前にレーツェルがそう叫び、ギリアムの手によって会議室に引きずり込まれた。
「あたしに話ってなに?」
「私は主任……いや、兄様の指示でレーツェルさん達と共に行く事にした。だからアイビスとタカクラチーフとはここで1度お別れだ」
スレイの口から出た別行動をすると言う言葉にアイビスが驚きに目を見開き、口を何度も開け閉めを繰り返す。
「どういう事!?」
「レーツェルさん達と共に行動している科学者が兄様と一緒にベガリオンを設計していた開発者だそうでな。コウキ博士はアステリオンの設計には協力してくれていたが、ベガリオンはそこまでではないのだろう?」
「ああ、俺の専門は特機だからな。戦闘機はそこまで詳しくない」
「と言う訳だ。私は向こうでベガリオンを完成させて、あちら側で熟練訓練を行う。アイビス、今度会うまでにアステリオンをもっと乗りこなしておくんだな」
スレイの中でもう方針は定まっており、何を言っても無駄だと判断したアイビスは手を上げる。
「死んだら駄目だから」
「それはこっちの台詞だ。絶対にテスラ研を兄様を取り返す、それまで足手纏いにならないように力をつけておけよ。コウキ博士も無理をしないように」
アイビスを激励し、コウキに無理をするなと告げ、スレイは手を上げてアイビスの手と己の手を打ち合わせた。そしてスレイは振り返る事無くカリオン改へとその足を向けた。
「アイビスさん、大丈夫ですか?
「大丈夫だよ。スレイが死ぬ訳無いし、ちゃんとまた会えるって判ってるしね!」
そう笑うアイビスの顔は本心からそう思っているのが伝わってくるほどに明るい笑顔だった。無理をしているわけではない、絶対にスレイとまた再会出来ると信じきった笑顔だった。
「ではコウキ博士。傷が痛むと思うが話を聞かせてもらいたい」
「構わな……おい! 貴様ぁッ! 人の機体に何をしている!」
「んっふふー♪ ラルちゃんがもっと完璧にしてあげるのサ!」
「余計な事をするな! このドアホウ!!」
ヒリュウ改の格納庫に搬入された鉄甲鬼を勝手に改造しようとしているラルトスにコウキが怒号を飛ばす。
「アイビス! あのアホの所に俺を連れて行け! 悪いが話は後だ! アビアノ基地に着いたらにしてくれ!」
アイビスに車椅子を押させ、ラルを止めに走るコウキ。その姿にヴィレッタは呆れ半分で見送り、懐から携帯を取り出した。
「もしもし? 社長。ラルの馬鹿がテスラ研から搬入された機体を改造しようとしています」
『すぐに行く』
通話は一瞬で切られ、コウキの怒号を遮るラルトスの絶叫がヒリュウ改の格納庫に響くのは僅か2分後の事なのだった……。
地球連邦軍南欧方面軍アビアノ基地に停泊しているハガネの艦長室にはダイテツとリーの2人の艦長の姿があった。
「武蔵の件はどうなりましたか? ダイテツ中佐」
「レイカー預かりになった上にブライアン・ミッドクリッド大統領が特例を出したそうだ。これで武蔵に司令部は手を出せない」
大統領勅令まで出されればダイテツとリーであっても容易に指示は出せないが、むしろここまでしなければ武蔵は守れないほどに重要人物になっているという事だった。
「心配か?」
「いえ。武蔵は命令などせずとも地球を守る為に戦ってくれます。何の心配もありません」
武蔵に対する全幅の信頼を口にするリーにダイテツが苦笑すると艦長室の扉がノックされた。
「……ダイテツ艦長、リー中佐。 テツヤ・オノデラ大尉であります」
テツヤの入室許可を求める声に了承するともう1度扉がノックされ、テツヤが姿を見せた。
「報告します。本艦のトロニウム・バスターキャノンモジュール、そしてシロガネの大型レールガン・モジュールの両方がアビアノに到着しました」
L5戦役で大破したトロニウム・バスターキャノンモジュールと、伊豆基地に安置されたスペースノア級の艦首モジュールと交換する事で使用可能になるレールガンの両方が到着したと聞き、ダイテツは小さく笑みを浮かべた。
「ようやく修理と改良が終わったか」
今のままでは1発しか使えず、不安定ということで修理を兼ねて更なる改良をしたトロニウム・バスターキャノンモジュールはその砲身をゲッター合金でコーティングし、集束率、威力、そして射程を爆発的に強化した物になる。
「これでハガネは本来の姿に戻れます。すぐに換装作業を始めますか?」
「その前に、本艦の総チェックを行う。艦首の交換作業はシロガネから始めて貰うつもりだが、リー中佐はそれで構わないか?」
スペースノア級を同時に換装する設備はアビアノ基地にはあるが、ダイテツはあえて作業を分けて行なうことを決めた。
「襲撃があるとお考えなのですね?」
「まずあるだろう。アビアノ基地の監視部隊がエルシュナイデらしき機体を目撃したと言っていたからな」
ここ数日アビアノ基地周辺で目撃されている奇妙なPTらしき機体の存在がある。遠目で確認されただけだが、可変式で鳥、獣、人型の3つの形態に変形する20m強の機体だそうだ。
「ダイテツ中佐はあれをゴーストの戦力と考えておられるのですね?」
もう製造ラインの無いはずのゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そして完成していない筈のエルシュナイデ――それらを運用する謎の部隊を一時名称でゴーストと呼称した百鬼帝国と強い繋がりがあり、鬼と幽霊で共通性を持たせることにしたのだ。
「可能性は極めて高いと言えるだろう。襲撃に備える必要性はある、所でヒリュウ改は?」
「2025……約3時間後にこのアビアノ基地へ到着します」
「そうか……何とか無事にこちらまで来られたようだな」
インスペクターと百鬼帝国の襲撃を受けても尚無事にここまでヒリュウ改が辿り着けたと言う事にダイテツは安堵の溜め息を吐いた。
「ATX計画やSRX計画の機体の受け渡しもあるでしょう。アビアノ基地周辺の警備はシロガネで引き受けます」
「すまない、リー中佐。出撃可能な者は一時シロガネに預ける、運搬作業中に襲撃があった場合は頼むぞ」
伊豆基地とラングレー基地、そしてテスラ研から運び出された物は今後の戦いにおいて重要なパーツないし、機体だ。それを失う訳には行かないとダイテツ達は気を引き締める。
「ここ数日、百鬼獣もインスペクターも動きが見られないのはやはり戦力を整えていると言うことでしょうか?」
「恐らくな、ハガネ、シロガネ、そしてヒリュウ改がこのアビアノ基地に集まったタイミングで何かがあると見て良いだろう」
ヒリュウ改が到着するまでの3時間の間にシロガネの換装作業は終わる筈だ、だが換装作業が完了するまでに襲撃がある可能性も捨てきれず、ダイテツ達はゆっくりと沈み始めている太陽を見つめるのだった……。
ヒリュウ改の到着にあわせ襲撃が起きる可能性が懸念されていたが、敵の襲撃は無く先にアビアノ基地で休んでいたハガネの部隊を分割し、周囲の警戒とアビアノ基地の防衛班に分かれ、アビアノ基地のPTと共に厳重な警戒網を敷いた状態で物資の搬入作業が行なわれていた。
「なるへそ。 じゃ、マーサはクスハちゃん達とアメリカで合流したって訳ね」
格納庫でいつスクランブルがかかっても対応出来るように待機していたエクセレンがからかうようにマサキの事をマーサと呼び、マサキがそれを定着させようとするなよと苦笑する。確かに緊張感はある、だが張り詰めた糸は切れやすい。エクセレンの軽い口調はある意味空気抜きの役割を果たしており、事実眉を細めていたマサキの顔にも若干のリラックスの色が見えていた。
「マオ社の新型機やプロジェクトTD、それにATX計画とSRX計画の機体も 何とか持ってこられたし……これでようやく肩の荷が下りたよ」
「プロジェクトTDって……あのこっわーい強面お兄さんが一緒にいた奴でしょ? 確かカリオンだっけ?」
ヒューストン基地で共闘したコウキの事と、守ってくれたと言う事で見せてくれたカリオンの事を思い出しながらエクセレンが呟いた。
「いえ、違いますよ少尉。カリオンの発展機のアステリオンとカリオンの発展機のデータ取りの為の改造機ですね。そっちはレーツェルさん達と一緒に行ってしまいましたが……」
レーツェルの名前が出た所で話を聞いていてキョウスケがその中に入って来た。
「ゼンガー隊長を見たんだな? リョウト」
「はい、新型のグルンガスト参式で僕達を助けてくれました」
リョウトの言葉を聞いてエクセレンとキョウスケは揃って安堵の溜め息を吐いた。
「そっか、なんかウォーダンって名乗る斬艦刀持ちの特機とやりあったんだよな」
「そうよ、武蔵が違うって言ってたけど、やっぱり私達は誰も親分を見てないから正直ちょっと不安だったのよね」
「だが、これでゼンガー隊長と別人と分かれば何のためらいもない、今度は撃ち抜く」
ゼンガーかもしれないと言うことで二の足を僅かに踏んだが、ゼンガーに会ったというリョウト達の話を聞いて、今度こそ別人と分かりキョウスケは今度こそ倒すと気炎を燃やす。
「ちょっ、ちょっとラルトス! 部屋で大人しくしてろって社長に言われたでしょ!」
「大人しくするヨ! でもその前に1度話を聞かないとジッとしてられないネッ! キョウスケ・ナンブぅ! そこで少し待ってるヨ!!!」
リオに注意されながらも凄まじい勢いでキョウスケの名を叫び駆けて来る小柄な少女――見覚えのない人物から名指しキョウスケが首を傾げる。
「何々? キョウスケのファンかしら?」
「違うだろう? しかし誰だ? マサキ達は知っているか?」
ラルトスを知らないキョウスケが尋ねるとリョウトとマサキ、そしてリューネは揃って苦笑いを浮かべた。
「え? なにその反応?」
「ギーガユニットとかを開発した設計者で、ラドム博士の弟子を自称しているラルトス・パサートっていう子なんですけど……えっとそのですね……」
「変人・奇人の類なんだよ」
言いよどむリョウトの隣でばっさりとリューネが変人・奇人だと告げる。
「ほら、あれ、あれを設計してた」
長大の折りたたみ式のガトリング砲と4枚の翼を装備し、両腕と両足に追加装甲を装着したゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDが搬入されていく、その機体を見てキョウスケとエクセレンは確信した。
「なるほど、ラドム博士の弟子を自称するだけの事はある」
「完全にマ改造ねえ……」
マリオンの弟子を自称するだけあり頭のおかしい改造だと笑ったエクセレンとキョウスケだったが、その後を続いて運搬されて来た機体を見て、完全に声を失った。
「……何あれ?」
「シャイン王女とラトゥーニに見えたが……?」
シャインとラトゥーニをそのままAMサイズにし、武装を装備させたようなシルエットの機体を見てキョウスケだけではなく、格納庫にいた全員が声を失った。
「フェアリオンと言います。プロジェクトTDの一環で開発された機体でシャイン王女の依頼で設計しております」
そんなキョウスケ達の背後から別の女性の声が響いた。
「タカクラチーフでしたか?」
「はい。お久しぶりです、キョウスケ中尉、エクセレン少尉」
ヒューストンで数分話をしただけだったがプロジェクトTDのチーフのツグミ・タカクラの姿がそこにはあった。
「えっとこんな事を言うのはなんなんですが、正気ですか?」
「……カザハラ博士とフィリオ少佐がずいぶんと暴走した結果でして、あの私これからシャイン王女に説明に行かないといけないんですけど……大丈夫でしょうか? 不敬罪とか言われませんか?」
物凄く心配そうにしているツグミにキョウスケ達はなんとも言えない顔をした。
「多分大丈夫、武蔵がいないから凄く気落ちしてるから」
「武蔵が戻って来たらとりあえずとりなしてくれる筈だ」
「……はい。じゃあ、行って来ます」
後にエクセレンはシャインの部屋に向かうツグミはまるで処刑台に向かうようだったと呟いていた。
「やぁやぁ! キョウスケ中尉! ラルちゃんの作ったギーガユニットはどうだったかナ? カナ!? 使ってみた感想とかを教えてほしいんだヨ! ハリーハリーッ!!!!」
「あんまり調子に乗ってると社長に電話するわよ!」
「ごめんネ!!!」
リンの名前が出ると即座に土下座し謝罪するラルトスの姿を見て、キョウスケとエクセレンは変人・奇人呼ばわれも当然だなと苦笑し、改めて自己紹介から始める事にするのだった……。
武蔵がいないというだけでシャインとエキドナのテンションは凄まじく低かった。
「武蔵がいないと暇……」
「そうですわね……」
武蔵がいれば対抗意識も喧嘩もする。だが武蔵がいなければ喧嘩する理由は無く、女王としての威厳を最低限保つ事はしていたが、退屈を持て余していた。
「……シャイン王女、ご依頼の機体についての説明に来ました。入室してもよろしいですか?」
部屋の外からそう声を掛けられ、入室許可を出した頃には先ほどまでのタレパンダのようなシャインの姿は無く、凜とした女王としてのシャインの姿があった。
「ご迷惑を掛けて申し訳ありません。自分達も危ないのに運び出してくれたことに感謝します」
エキドナが信じられないものを見る目をしていたが、シャインはそれを無視してツグミと向き合っていた。
「これがそちらからご依頼のあった。フェアリオンのデータです」
「ありがとうございます。 早速拝見させていただきますわ」
端末に映し出された機体を見てシャインは思わず停止し、そんなシャインが気になったのかエキドナも端末を覗き込んだ。
「シャインとラトゥーニにそっくりだな」
「そ、そうですわね……あの聞いていた話と少し……いや大分違うのですが……」
聞いていた話ではリオン系列の筈がそこにあったのは自分と瓜2つの顔をした少女の姿だった。
「え、あ、あの、それは……カザハラ所長の独断で、それらしい外見であるべきだと……しかも、フィリオ少佐まで所長の意見に賛同してしまって……2人してテスラ・ドライブの改造どころか、予定外のシステムまで……」
弁明を続けるツグミを無視してシャインはジッとフェアリオンを見つめていた。確かに想像していた物とは違うが、これ以上にないと言うほどに自分を映し出している。
「い、一応こちらはパレード用でして、戦闘時はこのように……」
モニターの画面が切り替わると口元や額を隠すようにアーマーが装着され、お姫様という姿から勇ましさを感じさせる姿へと変っていた。
「私、 格好は気に入ってるんですけど……どうでしょうか? やっぱり、やり過ぎ……」
「いえ、流石カザハラ所長とフィリオ少佐でございますわ」
不安そうにしているツグミの言葉を遮ってシャインはジョナサンとフィリオの2人を賞賛した。武蔵がいなくて気落ちしていたが、フェアリオンを見て武蔵がいなくなってから久しぶりに心からシャインは明るい笑みを浮かべた。
「めっちゃイケて……いえ、大変気に入りました。私はこれで戦えますわ」
戦えると聞いてツグミは目を見開き、その言葉を理解した瞬間にシャインの肩を掴んでいた。
「シャイン王女。危険です、フェアリオンは確かに強力な機体ですが……あくまで祭典用の機体です。武装は護身程度のものしか……」
「タカクラチーフ。心配してくれるのは判ります。でも……私はもう待っているだけというのは嫌なのですわ」
待っているだけでは、また武蔵は遠くに行ってしまうかも知れない。分不相応かもしれないけれど、それでも武蔵と共に飛べる翼をシャインは欲していたのだ。
「シャインは頑固だから意見を曲げないと思う」
「っ……分かりました。ではダイテツ中佐達に許可を頂ければ、武装や装甲の取り付け作業を行ないます。許可を得れなければ駄目です」
「ええ、それで結構ですわ。行きましょう、タカクラチーフ」
ツグミを伴って歩き出すシャインの姿は幼くはあるが、生まれ持っての人の上に立つべき王気を全身から放っており、それと同時にもう置いていかれたくないと言う強い意思の光がその目に宿っているのだった……。
1度目の巡回を終えた所でアビアノ基地に帰還して来たイルムはブリーフィングルームでリンと共にクスハからテスラ研の話を聞いていた。
「そうか……テスラ研もインスペクターに……」
「ごめんなさい……カザハラ所長やリシュウ先生を一緒に連れてこられなくて……」
マオ社は百鬼帝国、テスラ研はインスペクター。勢力は別だが完全に制圧されてしまっている。クスハはジョナサン達を連れて来れなかった事をイルム達に謝罪する。
「そう暗い顔すんなって。あの親父の事だ、俺達が助けに行くまで何とか保たせるよ」
「その通りだ。自ら残ったと言う事は時間を稼ぐ算段があったに違いない」
脱出が可能だったにも拘らず、脱出せずにテスラ研に残ったのは運び出せない何かを守る為とテスラ研の情報や資料をインスペクターに渡さない為だと推測出来る。だからクスハの責任ではないとフォローするが、それでもクスハは申し訳なさそうな顔をする。
「異星人にテスラ研の新型機を奪われるよりはマシさ」
「そうだ。所長の判断とお前達の行動は間違っていない。後はどうやって彼らを救い出すか、だ」
後悔していても何も変らない。どうやってジョナサン達を助けるかという事を考えるべきだと言うイルムとリンの言葉にクスハの顔に明るさが戻ってくる。
「リン社長やイルム中尉の言う通りだ。所長や先生達を助け出す機会は必ず来る……その時に全力を尽くそう」
「うん……」
だが1番はブリットの言葉が1番クスハに響いたようで、ブリットに微笑みかけるクスハ。
「あ。そうだ、ゼンガー少佐が鍛錬に励めって」
「ゼンガー隊長にあったのか! そうか……そうかぁ……」
ウォーダンと名乗る男とゼンガーが似すぎていると思い悩んでいたブリットはゼンガーを見たと言う言葉に安堵の表情を浮かべる。
「リン、どうした?」
「なに、あの馬鹿がまた暴走してくれたようでな。キョウスケ中尉に迷惑を掛けたそうなので止めてくる」
邪悪な笑みを浮かべて歩いていくリンの背中を見てイルムは手を合わせ、内心ラルトスに感謝していた。
(お前のお蔭だ。感謝するぜ)
イルムに向かうはずのリンの怒りがラルトスに向けられており、こうして普通に話が出来る事にイルムは感謝し、良い雰囲気になっているブリットとクスハをブリーフィングルームに残し、仮眠を取る為に自室に向かって歩き出したのだが格納庫から響くカメラのシャッター音が気になり足を止めた。
「おい、マジか……」
シャインとラトゥーニをそのままAMサイズにした機体がヴァルシオーネの隣に固定されており、整備班達がそれを撮影している光景に流石のイルムもなんとも言えない表情を浮かべていた。
「リュウセイも写真を撮りに来たの?」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「……」
「……はい、撮りに来ましたごめんなさい、で、でもフェアリオンとかじゃなくてあのなんかやたらゴツイ特機の写真をだな」
自分がAMサイズになった機体の写真を撮られているだけでも年頃のラトゥーニにとっては複雑なのは当然で、しかもそれが想い人までとなればなおの事その心境は複雑になるだろう。
「言い訳はいい」
「いや、言い訳とかじゃなくて」
おろおろしているリュウセイとこれを気に攻め込むと言わんばかりの顔をしているラトゥーニを見て、イルムはリュウセイも潮時かねと呟き仮眠を取ろうとしていた足を止め、自販機に足を向ける。
「たまにゃあ俺もなぁ……」
恋人であるリンと折角顔を合わせたのだから、少しは恋人らしい真似をしたいと思うくらいにはイルムもまだ若いのだった……。なお最終的にリュウセイは壁際まで追詰められ、ラトゥーニは狩を楽しむハンターのような顔をしていてイルムはそれを見なかったと言わんばかりに背を向けてその場を後にするのだった……。
~おまけ~
ジョナサンが提出したテスラ研の開発データを態々紙に出力した物をヴィガジは唸り声を上げながらゾヴォークの共通言語に変換しなおしていた。
「うぐぐぐ……カザハラ! カザハラ!! 今すぐ俺の部屋に来いッ!!」
『またかね? そんな様子ではいつまで経っても情報を纏める事なんて出来ないぞ』
「良いからすぐに来いッ!!」
苛立った様子で受話器を叩きつけたヴィガジは机の上の資料を見て深い溜め息を吐いた。
(分からん、これっぽっちも分からんッ!!)
紙の山を見て何故紙のデータなのだと怒鳴ったヴィガジだが、ジョナサンは深刻そうな表情をしながら内心は上手くいったとほくそ笑みながら自分がヴィガジに告げた言葉を思い出していた。
『ここは最新の兵器を開発している研究所だ。それ故にハッキングやスパイが差し向けられる可能性が極めて高い。それ故に資料は全て紙に出力した後に保管用・提出用・研究用の3種類に分け大本のデータは厳重にロックを掛けてメインコンピューターに保存するようになっている。メインコンピューターへアクセスするにはラングレー基地のクレイグ司令のIDコードが必要であり、我々ではどうする事も出来
ないのだよ。だが保管用の資料はいくらでも提出出来るさ』
嘘と真実を混ぜられたジョナサンの言葉をヴィガジは最初は信じなかったが、メインコンピューターに強引にアクセスしようとし、データ消去を開始しますというアナウンスに肝を冷やしたヴィガジはジョナサンの言葉を信じるしかなかった。
「やれやれ、今度は何が分からないんだ?」
「このVX-91というのは何だ? それにこのXXX77-41もだ」
ビアン博士の趣味で作られたフェイクの暗号コード。しかも悪乗りし、専用の翻訳コードを使わないと正しい文字にならないと言う手の込んだ遊び。勿論連邦軍に提出する物はそうでは無いが、テスラ研の内部の資料の多くはビアンが残したお遊びの極秘コードで記されて保管されている。
「ああ、それならばDのディスクを使えば正式なデータに切り替わるよ。それよりもやはり我々が解析したほうがいいのではないかね?」
「……いらん、お前達が軍にこちらの警備情報を流さないとは言い切れんからな」
「まぁそれなら構わないがね、では私は資料を運んでくる準備でもしてくるよ」
唸っているヴィガジに背を向けて通路に出たジョナサンは笑いそうになるのをグッと堪える。ここで笑ってしまえばすべてが台無しになるからだ、本当にテスラ研ではこの形式でデータを保存していると思わせる必要がある。
(ビアン博士に感謝だな)
テスラ研の研究員の多くはビアンの影響を受けている、お遊びで作っていた暗号コードがまさかこんな形で役に立つとはなと心の中でジョナサンは呟き、バイオロイドに銃を向けられながらその場を後にするのだった……。
第87話 蠢く影 その3へ続く
まだ状況整理の話は続きます。第88話くらいで次の話にシャドウミラーとの戦いを書いて行こうと思います。レモンさんとかをメインで書いていけたら面白いかなとか色々考えておりますので暫く話が動いておらず申し訳ありませんが温かい目で見ていただければ幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い