進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第87話 蠢く影 その3

第87話 蠢く影 その3

 

シロガネ、ハガネ、ヒリュウ改……それぞれのブリーフィングルームに分かれて集められ、リュウセイ達の顔には僅かな困惑の色が浮かんでいた。

 

「なんで態々ハガネとかのブリーフィングルームに集まるんだ? アビアノ基地のブリーフィングルームを借りれば良いのに」

 

「確かにそうっすよね? 何でだろ?」

 

スペースノア級を2隻停泊出来、改修が可能なアビアノ基地は伊豆基地ほどでは無いが、それでも連邦の基地の中では大きい部類になる。リュウセイ達は確かに大世帯だが、それでもアビアノ基地のブリーフィングルームを使えばまとめて話を聞けるのに何故、態々それぞれの戦艦に分かれて話を聞く必要があるのか? リュウセイもアラドもそれが不思議でしょうがなかった。

 

「簡単な話よ、リュウセイ。アビアノ基地の人間に聞かれる訳にはいかない話だからよ」

 

「隊長……それは一体どういう」

 

リュウセイがヴィレッタの言葉の真意を尋ねようとした時、モニターに光が灯り、ヒリュウ改、シロガネのブリーフィングルームが映し出される。ハガネにはリュウセイ達SRXチームとラトゥーニ、アラドとカイ。ヒリュウ改にはギリアムを初めとし、リョウト、リオ、ラーダ、リンのマオ社組と、イルム。そしてプロジェクトTDのアイビスとツグミにオクトパス小隊。そしてシロガネにはキョウスケ達ATXチームとマサキ、リューネ、クスハとラミアという面子に分かれていた。

 

「さて、今回のブリーフィングだが、皆も判っていると思うがアビアノ基地の隊員に聞かれる訳にはいかない話になる。AAA機密と思い、決して口外しない事を胸に刻んで欲しい。これはレイカーの許可も得ている事だ」

 

レイカーが許可した機密事項と言う事で話を聞いていたリュウセイ達の顔が強張る。一体自分達は今から何を聞かされるのかと緊張した面持ちになる。

 

「ではギリアム少佐。進行を頼む」

 

ダイテツがヒリュウ改のギリアムに進行を促すと、ブリーフィングルームの外で待っていたコウキが部屋の中に入ってくる。

 

「あれは確かテスラ研の……ええっと……確か、コウキだっけ?」

 

L5戦役の際に自分達の機体のメンテナンスを手伝っていたコウキの事は覚えていたが、その名前ははっきりと覚えておらず、リュウセイが隣のライに尋ねる。

 

「ああ、テスラ研の技術主任にして防衛も担当しているコウキ・クロガネ博士だ。特機の専門家で轟破・鉄甲鬼の開発者にしてパイロットだ」

 

「轟破・鉄甲鬼……あれだろ? ゲッターロボに似ている奴」

 

フェアリオンと共に搬入されていたゲッターロボに良く似た巨大な特機――その写真を撮ろうと思っていた所をラトゥーニに見つかり、フェアリオンの写真を撮ろうとしていたと思われて責められたことを思い出してリュウセイは小さく震えた。自分より幼いラトゥーニがめちゃくちゃ怖く見えたのはきっと気のせいだと思いたかった。

 

『まず彼はラドラと同じ、元旧西暦の住人だ。ただし恐竜帝国ではなく、百鬼帝国の構成員の1人だ』

 

ギリアムの言葉にハガネ、シロガネ、ヒリュウ改に衝撃が走る。今現在未知の脅威である百鬼帝国の元・構成員と知り、警戒する者、これで百鬼帝国の事が判ると安堵する者……その反応は様々だが、コウキに対する警戒心は確かに生まれていた。

 

『ギリアム少佐、そいつは大丈夫なのか?』

 

『カチーナ中尉。問題ない、もし彼が百鬼帝国にまだ忠誠を誓っているのならば、L5戦役で我々に協力してくれることはなかっただろうし、腹に風穴が開くほどの重傷を負い、それを焼いた鉄で焼いて塞いでテスラ研からの脱出に協力することもなかっただろう。彼は自分自身のその行動で己の身の潔白を証明している』

 

普通に考えて死ぬほどの重傷を負ってまで動く利点はない、自分の命が潰えても良いと言う覚悟で動いていたコウキの行動自体がスパイなどではない証拠だと言われれば、カチーナも黙るしかない。

 

『言葉だけで信用される等とは思っていない。これからの俺の行動を見て判断してくれれば良い』

 

『コウキよ、暫くは入院だぞ?』

 

『だが断る』

 

入院するほどの重傷で今現在も車椅子なのに入院することを断るときっぱりと言うコウキにギリアムが頭を抱え、深い溜め息を吐く姿がやけに印象的だった。疲れている姿を見る限りでは、相当押し問答をしていたのかもしれない。

 

『百鬼帝国だったとしても、今の百鬼帝国と俺の知る百鬼帝国は余りにも違う。俺に今の百鬼帝国の動きは判らないぞ』

 

『それでも構わない。コウキの知る事で良い、今と昔の百鬼帝国の違いを俺達に教えて欲しい』

 

あくまで昔の、旧西暦の百鬼帝国の話だとコウキは前置きして語り始めた。だがそれは百鬼帝国の事を何も知らないリュウセイ達にとっては値千金の素晴らしい情報であり、昼から始まったブリーフィングは質問や、疑問を問う声があちこちから上がり、日が落ちても尚ブリーフィングルームからの話し声が途絶える事が無かった。その話を聞きながらラミアは以前の目撃情報の事を考えていた……百鬼帝国と共に行動していたエルアインスを見れば百鬼帝国とシャドウミラーが協力関係にあるのは明らか、そしてその上でコウキの話を聞いてWシリーズらしからぬ考えをラミアは抱いてしまった。

 

(あの時の二の舞をするつもりなのですか……ヴィンデル様、レモン様……)

 

インベーダーとアインストの脅威はラミアのデータにも色濃く残されている。コウキの話の中の百鬼帝国とインベーダーとアインストは同じ脅威に思え、それと手を組むという危険性を把握しているのかと言う事、そして利用しているつもりで利用されているのではないかとレモン達の身を案じているのだった……。

 

 

 

 

 

ラミアがレモンの身を案じている頃――アースクレイドルでは進行計画の為の準備が行なわれていた。

 

「……北米地区がインスペクターの手に落ちた……と聞いたが、それは本当か?」

 

点滴や栄養価の高い食事を取る事で体調を回復させたアクセルがノイエDCの兵士達の報告や、食堂での話を聞いてレモンにその事を尋ねに来ていた。

 

「ええ、ラングレーがインスペクターの手に落ちたって言うのは本当だけど、でも連邦の敗走って言う訳じゃないわね」

 

レモンは新しく設計した機体の最終調整をしながらアクセルの問いかけに返事を返した。

 

「敗走したわけではない? どういう事だ?」

 

「インスペクター……ガルガウを覚えてる?」

 

「……ああ、覚えている」

 

1番最初に攻め込み、あちこちの基地を破壊したガルガウとヴィガジの事を忘れられる訳が無い。なんせアクセルは初陣でガルガウとぶつかり、生存したことで見込みがあると戦時中特例で異例の昇進を遂げたのだ。そんなある意味怨敵とも言えるガウガウをアクセルが忘れる訳が無い。

 

「こっち側のグルンガスト参式――ううん。ゼンガー・ゾンボルト専用カスタムをされた参式がガルガウを単騎で大破まで追い込んでる。どうも連邦はATX計画とSRX計画の試作機の持ち出しを優先して、ラングレーを放棄したって所ね。多分ラングレーの基地設備は殆ど死んでるんじゃない?」

 

「なるほど、やはりラングレー基地の司令はこちら側でも勇猛か」

 

「こっちの司令はクレイグ・パラストル。あちら側で確か同僚じゃなかった?」

 

「……そうか、こちら側では生きているのか……」

 

「感慨深い?」

 

からかうようなレモンの言葉にアクセルは眉を顰めた。あちら側でもクレイグはいて、そしてアクセルと同じ部隊で初陣で死んだ。民間人を庇ってだ。本当に軍人の鑑のような男だったとアクセルは評価していた。

 

「思う事はある、だが俺の友人だったクレイグとは違う」

 

「そう割り切ってくれるとありがたいわね。その通りよ、キョウスケ・ナンブもあちら側と違うって思ってくれると私としても楽なんだけどね」

 

キョウスケとベーオウルフは違うとレモンに指摘されたアクセルだが、不機嫌そうに眉を顰めレモンはそれを見て肩を竦め、本当に判ってるの? と呆れた様子で呟き、コンソールを流れるような指捌きで叩き始める。

 

「それとラングレーを捨てた理由だけど、百鬼獣の事もあったみたい」

 

未知の敵の分析結果、戦闘データを持ったまま孤立無援に陥るよりも恥を承知でラングレーを捨てて逃走する……敗走はしたが負けていないというレモンの言葉の意味も理解した。

 

「厄介だな」

 

「ええ、凄く厄介よ。だから私達はここ、アースクレイドルにいるのよ」

 

次勝つ為に逃げる事も辞さない――それはあちら側の自分達と同じで仮に敗れても、負けではないと奮起するこちら側のハガネ達は厄介すぎる相手だとレモンとアクセルは感じていた。だからこそ、アースクレイドルに篭もるという選択をしたレモンとヴィンデルへの不満をアクセルは口にした。

 

「……分の悪い博打だ。あまり気は乗らんな、こいつは」

 

百鬼帝国、ノイエDC、インスペクター、アインスト――それら全てを使いこちら側のハガネやヒリュウ改のデータを集め、その間はひたすら雌伏の時を過ごし戦力を整える……その余りに消極的な動き方はアクセルにとって面白い物ではなかった。

 

「またそれを言う。 こっちの戦力は、あの時以上に揃いつつあるのよ? まぁ私も思う事がない訳ではないけれど……」

 

「鬼は好かん」

 

誰かに聞かれたらどうするのとレモンが口を開きかけたとき、口をはくはくと開けている姿が見え、アクセルは反射的に裏拳を背後に向かって繰り出した。

 

「ほう。人間にしては良い拳だな、だが温い」

 

鉄を殴りつけたような重い衝撃がアクセルの拳に伝わりその顔を歪める

 

「アクセル! すみません、ちょっと「気にするな。俺様は気にしない、俺は龍王鬼。てめえの名は?」

 

「アクセル・アルマー」

 

「OK、アクセルだな。覚えたぜ」

 

カカカっと大声で笑う龍王鬼を初めて見るアクセルは誰だ? と言わんばかりの視線を向け、レモンは頭を抱える。

 

「百鬼帝国の将軍の1人よ、お願いだから無礼なことをしないでくれるかしら?」

 

「ガッハハハッ! 気にするな! 俺にとっては強き者こそ正義! この荒々しい闘気ッ! 実に良いぞ! アクセル」

 

龍王鬼はアクセルを気に入ったのか大声で笑っていたのだが、すぐにその目を細めた。

 

「レモン、あの黒いのを貰いにきた」

 

「は? え、えっと……冗談?」

 

「俺様は冗談は言わん。どうせ使う相手がいないのだろう? 俺様に寄越せ」

 

ハンガーに固定されているATX計画やビルトファルケン、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ等の情報を元にアシュセイヴァーを改造した準特機――継ぎ接ぎを意味する「ラピエサージュ」を寄越せと言う龍王鬼にレモンはしどろもどろになる。

 

「良いじゃないか、どうせ俺にはソウルゲインがあるから使わない。欲しいと言うのならくれてやればいい、格納庫の肥やしになるよりよほど良い」

 

アクセルの言い方では使う価値も無い機体なのだから欲しいと言っている相手にやればいいという響きがあり、レモンが眉を細める。

 

「龍王鬼さんには龍王鬼があるはずですが?」

 

「おう、俺様が使うんじゃねえ。オウカに使わせるつもりだ、お前に頼んだのも出来てるんだろ?」

 

龍王鬼の問いかけにレモンが頷くと龍王鬼は牙を剥き出しにし、にんまりと笑った。

 

「それならあれも貰う。まだあのクソったれなシステムは搭載してないんだろ?」

 

「はい、まだ調整段階ですから」

 

「なら良い、あのクソ婆が絡んできたらいらないって突っぱねてくれや」

 

手をひらひらと振り歩いていく龍王鬼の背中を見つめながらアクセルがレモンに問いかけた。

 

「なんだそのクソみたいなシステムとは?」

 

「……ゲイムシステムよ」

 

「なに? こちら側にもあるのか?」

 

ゲイムシステムは第一次インスペクター襲来の際に連邦へ亡命したアードラーが提供したシステムだが、フレンドリーファイヤを多発し、インスペクターよりも友軍機を多数殺したシステムだ。

 

「あんなものはいらんな」

 

「ま。それは私も同意するわね、ラピエサージュにゲイムシステムを搭載しなくて済むってだけで気が楽だわ」

 

最終調整を再開するレモンを見て、アクセルはこれ以上ここにいても邪魔になると思ったのか背を向けて歩き出した。

 

「……はぁ、アクセルも爆発寸前ね」

 

ラミアから送られてくる情報や、こちら側のキョウスケ・ナンブがベーオウルフにならないかと警戒を強めているアクセル。今は何とか押さえれているが、レモンから見てアクセルは爆発寸前――おそらくヴィンデルが動く時に動かせる機体があれば、それを勝手に持ち出してでも出撃するだろうと考えていた。

 

「……エキドナ」

 

ラミアから送られて来た情報の中にはシャイン・ハウゼンと口論している子供のような顔をしているエキドナの姿があった。記憶喪失になり、武蔵に随分となついていると聞いてレモンはなんとも言えない気持ちになった。それはまるで初恋を経験した娘が自分の手から離れていく悲しさと成長を喜ぶ気持ち――それは母が我が子を思う気持そのものだった。

 

「思い出さない方が貴女は幸せなのかもしれないわね……」

 

このまま自分達の事を思い出さずに、ただの1人の女として生きてくれても良いかもしれない――それはレモンの嘘偽りのない気持ちなのであった……。

 

 

 

 

ラピエサージュを自分が引き取ると話を付けた龍王鬼はそのままヴィンデルの元にやってきていた。

 

「待たせたな、俺も欲しいものがあったんでよ! お前ん所が開発してる黒いの、あれ貰ったぜ!」

 

「構わない。ではそろそろ打ち合わせを始めたいのだがよろしいか?」

 

「おう、構わないぜ」

 

ヴィンデルの前に腰を下ろし、龍王鬼はヴィンデルに視線を向けた。大帝の指示で協力しろと言われていたが……まずはヴィンデルという男の人間性を見極めない事には龍王鬼の性格ではいやいや協力するか、全面的に協力するかに分かれる。

 

(……まずまずというところだな)

 

痩せぎすに見えるがヴィンデルの肉体は必要な物だけに特化し、その目的の為だけ絞られた肉体だ。筋肉を付けて体を大きくするのではない、必要な物だけにこそぎ落とし、それを極限まで極める事に特化している。

 

「して、1つ問いたいのだがよろしいか?」

 

「あん? なにがだ?」

 

「何ゆえインスペクターと百鬼帝国は協力体制にあるのかと……」

 

朱王鬼と玄王鬼の2人が月での窓口となり、インスペクターと何らかの取引をしていると言う話は龍王鬼も聞いていた。正直何故侵略者と取引をするのか? と言うのは龍王鬼自身も謎に思っていたが、それをヴィンデルの口から聞くとは思わなかったと笑う。

 

「お前達と同じだ。自分達にとって有利な盤面を作る為に、何もかも利用する。そういうもんだろ? 戦争っていうモンはよ?」

 

「御せると?」

 

「おいおい、それはブーメランっつうもんだろ? お前達も俺様達を御せるつもりか?」

 

協力体制にあるが、それは邪魔者である連邦を押さえ、そして武蔵を倒すそれまでの共闘と言っても良い。ブライは宇宙を視野に入れているので地球にはさほど興味が無いが、それでも自分の支配下におき、その管理をヴィンデルに任せる程度に考えているだろう……今は協力体制ではあるが、それが嫌ならば反乱もある。その程度の関係性であーだこーだ言うのはお門違いだと言われればその通りでヴィンデルは頭を振った。

 

「確かにその通りだった。失礼した、我々はこの後アビアノ基地のハガネに襲撃を仕掛ける予定だ」

 

「おう、そう聞いてる。俺様は武蔵を日本に足止めする……って事で良いんだろ?」

 

今地球で1番強い武蔵、そしてゲッターロボD2と戦える――その押さえ切れない好奇心と闘争心を感じとりヴィンデルはにやりと笑った。

 

「戦闘データなどは必要か?」

 

「あん? いらねえよ。データはデータ、役にたたねえ。俺は目の前で戦う今の武蔵にしか興味はない」

 

「それは失礼した。ではオウカ・ナギサとゼオラ・シュバイツァーはこちらで運用して良いのだな?」

 

「運用つうか、あれだ。お前達の機体を使うんだから、実戦でしっかり慣らさせろってこった。使い潰してみろ、お前を潰すぞ?」

 

武蔵との戦いにオウカとゼオラを連れて行くつもりは無く、ヴィンデル達の機体を使うのだから責任を取って面倒を見ろと龍王鬼は言っているに過ぎず、使い捨ての駒として預けたんじゃないとヴィンデルを睨む。

 

「了解した。食客とまでは言わぬが、怪我などをさせずにお返しすることを約束しよう」

 

「おう、それとだ。ついでにクエルボも預けるから、しっかりと話し合ってどうやって使うか考えろや。んじゃあ俺様は行くぜ」

 

クエルボを預ければオウカとゼオラに無理を強いることはないだろう。そう判断し龍王鬼が格納庫に向かっているとクエルボが顔色を変えて龍王鬼に駆け寄って来た。

 

「り、龍王鬼さん! い、今の状況でゼオラとオウカを出撃させるとはどういう事なのですか!? そ、それに何故私まで」

 

周りに誰もいないのを確認してから龍王鬼はクエルボの細い首に己の丸太のような腕を回す。

 

「おいおい、クエルボよぉ? お前も一応パイロットであいつらもパイロットだ。ずっと隠れてる訳にはいかねえだろ?」

 

「で、ですが」

 

「まぁ聞けや。新型機と改良機の試験運転程度に思えば良い。お前が一緒に行って面倒を見てればいい、だろ?」

 

文句を言うクエルボを脅しつけるような素振りを見せながら龍王鬼が耳元に口を寄せる。

 

(俺様がいなきゃ、木っ端鬼は止めらんねえ。オウカとゼオラは年頃で見目も良い女だ、どこで下卑た考えを持つ鬼が来るかわからねえ。そう考えたら出撃してる方が安全なんだよ)

 

「そ、それはッ」

 

あくまでオウカとゼオラが安全なのは龍王鬼、虎王鬼と言う百鬼帝国でも位の高い鬼がいるからだ。だが2人がいなければ下卑た考えをする鬼は勿論、ノイエDCのテロリストもいるだろう。なんせゼオラは人形状態、ゼオラを人質にすればオウカは従うしかなく、自分で考えて動けないゼオラは抵抗することもしないだろう。

 

「判ったな? 判ったら出撃準備を急ぎな。なに、お前達は偵察で本陣はヴィンデル達だ、楽にやれ。逃げても文句はいわさねえ、楽にやってこいや」

 

「……すみません、ありがとうございます」

 

一礼して引き返していくクエルボを見ていると通路の影から虎王鬼が姿を見せる。

 

「ちょっと優しすぎじゃない? 妬けちゃうわ」

 

「おいおい、勘違いするなよ。虎……お前は俺様の大事な妻なんだぜ? 他の女になんか見惚れたりしねえよ」

 

腕の中に包まれにくる虎王鬼を愛おしそうに龍王鬼は抱き締める。

 

「良いの?」

 

「良いさ、あいつらの選択だ。俺様はそれを尊重するだけだ」

 

ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改にシャドウミラーは攻撃を仕掛ける。その中でクエルボ達がハガネに亡命するのもまた良し、それとも任務を遂行しても良し、どちらを選択しても龍王鬼はそれを咎めるつもりも、責めるつもりも無かった。

 

「あいつらにゃあ、ここは不憫すぎる」

 

「そうね」

 

安心して身を休める事も出来ない場所にいるよりかはと思うのもまた龍王鬼の優しさだった。

 

「さーて野郎共! 準備は良いか! ゲッターロボにカチコミ掛けるぜッ!!!」

 

「「「「オオオオオーーーッ!!!!!」」」」

 

龍王鬼の言葉に拳を振り上げ雄叫びを上げる鬼達を見て龍王鬼は牙を剥き出しにして笑う。オウカ達の身を案ずるのも、そしてまだ見ぬ強敵との戦いに心を躍らせるのも龍王鬼と言う鬼のあり方なのだった……。

 

 

 

 

ライノセラスに機体を搬入し、出撃を間近に控えたそのブリッジの中でレモン達は出撃前の最後の打ち合わせをしていた。

 

「……状況はほぼ同じとは言えないわね、百鬼帝国と交渉している以上。相手の出方は読めないわよ?」

 

あちら側では百鬼帝国は存在しなかった。だから現在進行形でインスペクターの情勢は変り続けている。それはあちら側での戦いの記憶が邪魔になると言う事を意味していた。

 

「それでもだ。今は百鬼帝国の庇護下にいる方が都合がいい」

 

「何れ食い破る為に?」

 

「そうだ、その為には相手の情報を集める事を優先すれば良い、2度とあのような失敗はしない」

 

以前は焦り、ことを仕損じた。今回はそんな失敗はしないとヴィンデルは言い切り、そんなヴィンデルを見てレモンは溜め息を吐いた。

「基本的は方針はヴィンデルに任せるわ。でもラミアはまだこっちに戻さないから」

 

「ラミア? ああ、W-17か。それは好きにするが良い、量産型Wナンバーズの生産が軌道に乗ったからな」

 

ワンオフよりも替えが効く量産型がいるからラミアは必要ないと言わんばかりのヴィンデルに内心むっとしたレモンだが、それを隠していつものように笑う。

 

「武蔵達の情報を集めるにはハガネにいてもらった方が都合が良いから助かるわ。呼び戻せって言われたらどうしようって思ってたのよ」

 

「武蔵か……今日本にいるはずだが、良いのか? 百鬼帝国をぶつけて」

 

「かまわん。日本にいる戦力は少ない、それに龍王鬼の性分を考えれば武蔵が全力で戦えないと考えれば攻撃を収めるだろうしな」

 

あくまで足止め要請を聞いて出撃するのだからやりすぎる事はないだろうと言うヴィンデルにアクセルは少し眉を寄せたが、司令官がそう考えているのならばと余計な口を挟む事はなかった。

 

「W17はカーウァイ大佐達の居場所は把握しているのか? それにヘリオスの件についてもだ」

 

「ヘリオスの件に関しては判らないわね。だってほら、彼仮面で顔を隠してたし……そもそも私達もどこかですれ違ってる可能性もあるのよ?」

 

声は知っていても素顔を知らないヘリオス・オリンパスを探すのは砂漠の中から1粒のダイヤを探すに等しい、結果を求めるのが早すぎるわよと言われアクセルは肩を竦めた。

 

「カーウァイ大佐はやっぱりクロガネだと思うわね。ま、ノイエDCが動いていればそのうち姿を見ることもあるでしょう。百鬼帝国の前には何度も現れているのだしね」

 

戦いの中でいずれ会う事になる。それはレモンだけではなく、ヴィンデルやアクセルも感じていた。

 

「それで何故このタイミングでハガネに攻撃を仕掛けることにしたんだ? もう少し後でも良かっただろう?」

 

自分が本来の機体で出撃できないタイミングで何故攻撃を仕掛けることにしたとアクセルがその顔に不満の色を浮かべ、ヴィンデルに問いかける。

 

「あちら側のハガネのデータはもう何の役にも立たない。ならば現状での戦力を調べておきたいからだ」

 

「こちら側は凄いわねえ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲのバリエーションが凄いし、何よりも完全に量産態勢が出来てるし、正直私でもゲシュペンスト・MK-Ⅲは複製出来ないわね」

 

解析は出来ても、それを複製することは出来ないとレモンが言い切った。確かに技術に関してはレモンも優れているが、それとはまた方向性が違うのだ。完全に旧西暦の技術を新西暦の物に置換え、それを実用段階にしている所で、この世界の常識的な部分がレモンにとってのブラックボックスであり、それを理解しない限りはゲシュペンスト・MK-Ⅲの量産はおろか、複製すら不可能。それがレモンの出した結論だった。

 

「だから私の判らない部分を知る為にも……仲間に出来ないかしら? ハガネとヒリュウ改を」

 

ハガネとヒリュウ改を仲間に出来ないか? と提案するレモン。確かにハガネとヒリュウ改の技術を取り入れれば、インスペクターもアインストも百鬼帝国とも互角に戦える。知識と力が足りないならそれを持つ者を仲間に引き入れようとするのは当然の考えだった。

 

「今は難しいだろう……だが状況を整え、現状と未来を理解させれば……あるいはそれは不可能ではない」

 

「自分達が勝つと考えている内は……ということね」

 

自分が勝つと思っている間に降伏勧告を受け入れる筈も無く、降参する訳も無い。仮に仲間になったとしても、自分達が取り込まれては意味がない。自分達が上、そしてハガネ達が下という図式を作るためにはまず相手の心を折る必要がある。

 

「だがそう簡単に相手は折れんぞ。武蔵がいるからな」

 

「だろうな。私達もそれは経験しているから判っている」

 

武蔵がいれば勝てる。負ける訳が無いとヴィンデル達でさえも思ったのだ、仮初の協力体制である時でさえそう思ったのだ、真の協力関係にあるハガネを初めとした連邦の心を折るにはまずゲッターロボに勝つ必要があるとヴィンデルは考えていた。

 

「だからこそ私が出る。ツヴァイでな」

 

あちら側でさえ最後まで見せる事の無かったシャドウミラーの最後の切り札を投入すると告げたヴィンデルにアクセルは驚きの表情を浮かべた。

 

「まさか……もう修復できたのか? システムXNを……ッ!?」

 

「いや、そうではない。百鬼帝国やアースクレイドルの設備を使ってもなお、システムXNの修理は7割と言う所だ。だがそれでもツヴァイは十分に稼動できる」

 

自分達の切り札を部外者に触れさせていると言うことにアクセルは苛立ったような表情を浮かべた。

 

「あのままでは使えなかったのだから仕方あるまい?」

 

「……お前達が良いと考えているのならば俺はなにも言わん。だがお前が出るのなら俺も出る」

 

「良いだろう。プロト・ヴァイサーガでもアンジュルグでも、アースゲインでも好きな物を使うが良い」

 

妥協案として自分も出ることを条件にヴィンデルの出撃を認めると言うアクセルにヴィンデルは好きな機体を使えと許可を出した。

 

「レモン、状態の良いアースゲインか、ヴァイサーガを出せ、それで出る」

 

「はいはい。もう止めても聞かないんでしょ? 好きにしなさいよ」

 

既に答えが決まっているのなら一々聞かないでよと言いたげにレモンは頷き、アクセルが使えそうな機体のピックアップを始める。その様子を見届けてからアクセルはレモンに背を向けブリッジを出て行った。

 

「そうだ、レモン。お前の量産型Wシリーズ、そしてナンバーズだが……あまり成果が出ないようならばフェフ博士の子供達に切り替える事となるぞ。良い加減にまともな成果を出すんだな」

 

ヴィンデルは一方的にそう告げてアクセルの後を追ってブリッジを出て行く、自動扉が閉まる寸前に振り返ったレモンの形相は鬼と良いほどに怒りによって歪められていた。

 

「私の子供達とあんな人形を一緒にしないで欲しいわね。ヴィンデル」

 

己で考える事もしない人形と、己で迷い、考え、そして人を愛すること学ぼうとしているラミア、ウォーダン、エキドナを一緒にするなと呟いたレモンの瞳には激しい怒りの炎が灯っていた。その炎がヴィンデルとアクセルに向けられる事になるのか……それは今はまだ誰にも、それこそレモンにさえも判らないのだった……。

 

 

 

 

シャドウミラーが動き出そうとする中。リュウセイ達のまた戦いの準備に明け暮れていた……そしてハガネのシミュレータールームにはユーリアとレオナ、そしてアイビスの姿があった。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「そうだな。悪いがトロイエ隊の採用試験基準で考えれば君は不合格だな」

 

ガーリオンとアーマリオンのシミュレーターを続けて行い、AM乗りとしては上から数えた方が早いユーリアに指導を求めたアイビスは深く肩を落とした。

 

「だが思い切りの良さは買おう。それと戦闘の中で新しいコンバットパターンを作り出す頭の回転、そしてその考えを即座に行動に移せる実行力……トロイエ隊の隊長としては認められんが、1パイロットとしては君は十分に好感が持てる」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

駄目だと叱られていると思っていたアイビスだが、好感が持てるという言葉に顔を上げた。

 

「ああ、荒削りだが、良い腕をしている。だがそうだな、君はまだAMに慣れていないのではないか?」

 

「うっ、はい。今までは戦闘機でしたから……」

 

「そうか、だが気にする事はない。レオナ、相手をしてやれ。戦いの癖は戦いの中で矯正するしかない、そうだな……15セットほどで良いだろう」

 

じゅ、15セットとアイビスは声を上げたが、レオナは薄く微笑むだけだった。

 

「15セットとは随分とお優しいですね」

 

「なに、飛び始めたばかりの雛に無理強いも出来ないからな。まずはここから馴らして行くのさ」

 

15セットもシミュレーターを行なえば疲労で身体がボロボロになる、だがそれでも優しいと軽いと言うユーリアとレオナにアイビスは驚くと同時に自分がいかに未熟だったのかを改めて思い知った。

 

(そっか、そうなんだ。これが一流って事なんだ)

 

今まで自分が行なっていたのは機体に慣れる為の物……そこから上に行こうと思えば、スレイがいる高みに行こうと思えば今まで通りでは駄目なのだ。

 

「スレイに追いつけるようになりたいのでよろしくお願いします!」

 

「よろしくてよ。ですが、私はそう優しくないので厳しく行きますわよ」

 

「はいッ! よろしくお願いしますッ!!」

 

スレイと共に飛ぶ為に、そしてフィリオを助け出すために……今までの己を越える為にアイビスはユーリアとレオナの2人の指導を受けながら、ただひたすらにアステリオンを乗りこなす為の訓練を続けた。

 

「よく粘ったがまだまだだな。どうする? もうやめるか?」

 

「はぁ……はぁ……ま、まだまだ!」

 

シミュレーターから這い出るように姿を見せたスレイの額からは滝のような汗が流れ落ち、その髪が頬や首筋に張りつき疲労困憊という様子だが、スポーツドリンクを口にしてタオルで汗を拭ったスレイはまだだと不屈を訴える。教導隊であるエルザム、ゼンガー、ラドラとシミュレーターでひたすら戦い、特機との戦い方を文字通り身体に刻み付けようとしているスレイはもうかれこれ3時間はシミュレーターに篭もりきりだ。

 

「良し! その気概は良いぞスレイ。今度は私が相手をしてやろう!」

 

「よ、よろしくお願いしますッ!」

 

今度はカーウァイ自らが相手をすると聞いてスレイは緊張した面持ちで再びシュミレーターへと乗り込む。

 

「ゼンガー、どうみる?」

 

「才はある。だがまだ足りん」

 

「ああ。特機を相手にするには思い切りが足りないな」

 

教導隊の3人の評価はAM乗りとしては最高峰、だがこれからの戦いには力不足と言う物だった。

 

『臆するな! 後に道はないぞ!』

 

『ぐっ! は、はいッ!!!』

 

スレイもまた己がNO.1なのだという誇りをその胸に抱き、そして必ずフィリオを助け出すという決意の元地獄のようなトレーニングをひたすらに積んでいるのだった……。

 

 

第88話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その1へ続く

 

 




今回はかなり長くなりましたが状況整理と次の話の準備は出来たと思います。次回は出撃までの話とオウカとゼオラの話などを書いて、偵察に向かうまでの話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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