第88話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その1
ライノセラスに搬入されるヴァイサーガをアクセルは落胆した素振りで見ていた。状態の良い機体と言っていたが、転移の影響でヴァイサーガやアースゲインの大半は装甲が破損しており、まともに運用出来る状態ではなかった。かといってアシュセイヴァーやエルアインス、ラーズアングリフはアクセルの趣味ではなく妥協案でヴァイサーガを選択したのだが……これも万全なヴァイサーガとは程遠い有様だった。
「アクセルよ。鹵獲して来たゲシュペンスト・MK-Ⅲを使うか?」
不服そうな顔をしているアクセルの後からバリソンがからかうようにそう声を掛けた。
「冗談言うなバリソン。俺はゲシュペンストなぞ死んでも乗らん」
「ならそんなに不満そうな顔をするなよ。急に出撃するって言ったお前が悪いんだからよ」
バリソンが100%正論を口にしており、アクセルは不機嫌そうに舌を鳴らした。
「五大剣もない、空も飛べん、防御のマントもないんだぞ」
テスラドライブは故障、武器の五大剣は中ほどから折れて使い物にならず、ビームと実弾を防ぐマントは焼け焦げて意味を成さない。ヴァイサーガのコンセプトが全崩壊しているのは流石のアクセルでも文句を言いたくなるレベルだった。
「腕がドリルのアースゲインにするか?」
バリソンの視線の先には肘から先がドリルになっているアースゲインや、何を血迷ったのかビームキャノンが付けられている物もありアクセルの目が死んだ。
「冗談は止めろ、ドリルを武器にするのはゲッター線の膨大なエネルギーが前提だろう。判った不満はもう言わん」
盾とランスを装備しているヴァイサーガでは本来の高速機動は無理だとしても重厚な装甲による足を止めた白兵戦ならば十分な戦闘力を持っている筈だ。
(ゲシュペンスト・MK-Ⅲを見極めるには十分だ)
ここで決着をつけるわけではない。あくまで威力偵察だと割り切れば機体への不満も飲み込めるとアクセルは思考を切りかえかけたのだが、ライノセラスに乗り込もうとしている3人組を見てその顔を歪めた。
「ゼオラ。手を、こっち」
「ハイ」
「ゆっくりだ。そう、それで良い」
瞳に何の光も無い少女を黒髪の女と人の良い顔をした男が手を引いてライノセラスに乗り込ませる光景を目の当たりにしたアクセルはバリソンに視線を向けた。
「なんだあれは?」
「あーあれは龍王鬼の所の部下だよ。なんでも鬼に心を砕かれたとかでな、何も考えれなくされたのを姉と保護者が介護してるって聞いてる。それに龍王鬼がいない間に襲われたらことだからって預かる事にしたそうだ」
襲われたら――それが意味するのは1つだけだった。見目麗しい男好きしそうな身体つきをした少女に下卑た視線を向けている鬼の姿を見て、怒りに顔を歪めるアクセルにバリソンは落ち着けと言って肩に手を置いた……だが掴まれた肩に込められている力にバリソンも憤っているのがアクセルにも判り、逆に頭に上っていた血が下がるのを感じた。
「すまん」
「気にするなよ、大体俺だって思う事はある。だが俺達に何が出来る? 鬼と事を構える覚悟もないのなら、今は我慢しとけよ」
バリソンの言葉にアクセルは大きく舌打ちした。イングラムとの戦いの中で割り込んで来た饕餮を名乗る鬼に、共行王を名乗った鬼は人の姿をしていても、その力は人間の範疇になかった。たとえ義憤に駆られても、アクセル達に出来る事はないのだ。
「バリソン、お前も来るのか?」
「おう、一応。あいつのフォローって所だ、戦闘に連れて行くとどうなるか正直判らんし、龍王鬼は約束を守った。それを反故にすると怖いってヴィンデルは考えてるんだろうな。まぁ有事でなければ俺に戦う予定はないけどな」
武蔵を日本に足止めすることを了承した代わりに保護を要求された。取引と考えればアクセル達のほうが圧倒的に条件が軽い、それくらいはやらなければ鬼の中で穏健派の龍王鬼も敵に回す事になる。それを避ける為に、そして龍王鬼と話を付けやすいように預かるというのはアクセルにも十分に理解出来た。
「しかし、俺はやはり鬼は好かん」
鬼のやり方はアクセルに受け入れられる物ではなく、百鬼帝国に対する怒りを抱きながらアクセルもライノセラスに乗り込むのだった……。
椅子に腰掛けているゼオラを見て、オウカとクエルボは悲痛そうにその顔を歪めた。言われた事しか出来ず、自分で考えることもしない……水を飲めと言えば水中毒になるまで水を飲み、物を食べろといえば吐き戻すまで食事を続けるゼオラの姿に心を痛めない訳が無かった。だがライノセラスに乗り込んだゼオラは普段と違う様子を見せていた……。
「アネサマ。ワタシモシュツゲキスルカラネ?」
「ゼオラ……そんな事はしなくて良いのよ?」
「ウウン、ワタシハタタカウノ」
不気味に笑うゼオラをオウカは抱き締めて涙を流す。龍王鬼に腕を踏み砕かれてからアギラはオウカ達の前に姿を見せる事は無く、それによってリマコンと投薬の影響は抜け、オウカが本来の性格に戻って来ている事が余計にゼオラの変質を重く受け止めさせていた。
「オウカ、今回は偵察だが、私も参加する。恐らくだが……アラドも出てくるだろう」
「……セロ博士、それは大丈夫なのでしょうか?」
ゼオラは朱王鬼にアラドを殺すように命じられている。それを知って尚ハガネの偵察に出るというのはオウカにとっては不安でしかなった。これでゼオラとアラドが殺しあいになるようなことになればオウカは当然耐えられないし、正気に戻ったゼオラが発狂するのもわかりきっていた。可能ならばライノセラスに篭もっていたいというのがオウカの嘘偽りのない気持ちだった。
「虎王鬼さんから聞いたんだが、アラドに会う事で、アラドの声を聞くことで自我に刺激を与えることが出来れば……可能性としてはきわめて低いが、ゼオラが正気に戻る可能性があるそうだ」
博打も博打。アラドにとってもゼオラにとってもリスクがある……だがそれでもほんの僅かでもゼオラが元に戻る可能性があるのならばそれに縋りたいと思うのは人間にとって当然の事だった。
「ラピエサージュと私のラーズアングリフにはスパイダーネットを複数装備させておいた」
「最悪の場合は取り押さえるという事ですね?」
「ああ、それしか今の私達に出来る事はないんだ」
朱王鬼と玄王鬼がいないうちに、再びゼオラがおかしくされる前にゼオラを正気に戻す――それが嘘偽りの無いクエルボとオウカの願いだった。
「もし、ゼオラが元に戻ったらどうします?」
「そうだね。その時は……投降でもしようか」
「ふふ、それも良いかもしれないですね」
龍王鬼はクエルボ達が逃げる事も認めていた。ゼオラさえもとに戻れば、それも1つの道だとクエルボとオウカは笑いあった。その時だった部屋の扉が叩かれレモンが部屋の中に入ってきたのは……。
「セロ博士、オウカ、ゼオラ。そろそろ偵察の時間よ、準備をしてくれるかしら?」
「態々来てくれなくても良かったのに、申し訳ありません。レモン博士」
話を聞かれていたかもしれないと緊張するクエルボとオウカを見て、レモンは小さく笑った。
「はい、これ。上げるわ」
「っと、これは?」
レモンがオウカに投げ渡したのは長方形のTVのリモコンのような物だった。
「それでゼオラのファルケンは止まるわ。最悪の場合はそれで回収して頂戴」
ぎょっとするクエルボとオウカにレモンは口元を押さえて笑った。
「私も女だからね。思う事はあるのよ? それに貴方達は私達の部下って訳じゃないし、好きにしたら良いわ。帰ってくるのも、逃げるのも自分達で決めるといいわよ? ああ、安心してくれて良いわよ? ちゃんと守るし、護衛も出すから」
ちゃんと龍王鬼との約束は守る、そしてその上でクエルボ達の好きにすれば良いと笑うレモン。その姿を見てクエルボは搾り出すように口を開いた。
「貴女は怖い人だ」
「ふふふ、褒め言葉として受け取ってあげる。それじゃ、偵察頑張ってね」
貴方達がどんな選択をするのか楽しみにしてると笑うレモンにオウカとクエルボはなんとも言えない恐怖を感じながら、ゼオラと共に格納庫に足を向けて歩き出す。
「どうなるのかしらね。あの子達は……」
以前の自分ならこんな事はしなかった。ラミアからのエキドナの状態を聞いたり、あちら側での武蔵との共闘で自分も変わり始めていると感じていた、クエルボの親心も、オウカの妹であるゼオラを思う気持ちも痛いほどに今のレモンには判ってしまい。ヴィンデルとアクセルの考えに反すると判っていても、オウカ達を助ける為に動いてしまっていた。だがその変化は決して嫌なものではなく、むしろ心地よい物であるから困るわねとレモンは呟き、ブリッジへと足を向けるのだった……。
アビアノ基地の通信室の壁にラミアは寄りかかりながら目の前の光景を見ていた。シャインが日本の伊豆基地にいる武蔵と話をしたいとダイテツに頼み、今手の空いている人間がラミアだけだった為、通信室の設定や伊豆基地のオペレーターと話をつけ今はこうして話が終わるのを待っていた。
「私がAMに乗るのは武蔵様は反対でしょうか?」
『……そうだな。心情的にはうん、反対だ。でも……もう決めたんだよな、シャインちゃん』
「はい。私は国を取り戻す為に、己の血を流す事も、そして血に濡れる事も覚悟しております」
モニター越しとは言え武蔵に姿を見られるわけには行かないと警戒し、姿を隠しているラミアはシャインの言い分が理解出来なかった。
(何故、自ら戦場に立とうとする)
シャイン・ハウゼンはリクセントの女王――戦えと命令する立場であり、何故そんな人間が自ら戦場に立とうとするのか……? それがラミアには理解出来なかった。
『ならオイラは止めれないなあ、もう決めちまったなら……もう何を言われても引き返せないしな』
「はい、私はもう見ているだけ、待っているだけというのは耐えれないのです」
『判った。オイラは止めない、だけど1つだけ約束だ』
「なんでございましょう?」
『1人でリクセントに行こうなんて思わないでくれ、取り返すのを手伝うって約束しただろ? オイラが戻るまで待っててくれ』
「……はい、お待ちしております。すいません、エキドナさん。お待たせしました」
シャインが椅子から立ち上がるとエキドナがうきうきした様子で椅子に腰掛ける。
「武蔵は元気か? もうすぐ帰ってこれるのか?」
『オイラはめちゃくちゃ元気ですよ。ただちょっと伊豆基地が忙しいみたいなんでまだ暫く缶詰になりそうですけど……』
武蔵の言葉を聞いてしょんぼりと肩を落とすエキドナの姿はラミアの知るエキドナとは程遠い姿をしていた。
(レモン様は何故こんな様子のエキドナを私を見て喜ばれたのだ? 判らない)
幼く、自分の感情を優先しシャインと口論をし、武蔵の後をついて回るエキドナはWシリーズとしての役割を何一つ果たせていない。
そしてラミアもまたファーストジャンパーであるヘリオスの手掛かりを得ることも出来ず、連邦の主力のゲシュペンスト・MK-Ⅲのカタログスペックを手にするのがやっとで、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の何れにも工作をすることが出来ないでいた……。
(私達は何の役にも立てていない……それなのに、何故……?)
求められている事は何一つ出来ていないのに、何故あんなにもレモンの声が優しかったのか、何故叱責されないのかがラミアには理解出来なかった。
『お土産はちゃんと買って帰りますから』
「……うん」
「何を買って来てくれるのですか?」
エキドナのように何もかも忘れて過ごせるのならば、それも幸福なのではないか? とラミアは思わずにいられなかった。
「ラミア、子守を任せてすまない。シミュレーターの準備が出来ている。俺と交代だ」
「ギリアム少佐、はい。判りました」
通信室に入って来たギリアムと交代で出て行こうとしたラミアだが、足を止めて振り返った。その視界の先には今も武蔵と楽しそうに話をしているシャインとエキドナの姿があり、なんとも言えない気持ちを感じながらどうしたと問いかけてくるギリアムに尋ねた。
「少佐。1つお聞きしたいことがあるでごんす、失敗をしても怒らない上司というのはいるでありんしょう?」
「怒らないと言うのはそうだな、部下に原因が無いとかならば叱り様がないが……お前が求めているのはそれではないのだろうな」
ギリアムはそう言うと一拍おいて、迷いや不安の色が瞳に浮かぶのを隠せないでいるラミアに視線を合わせた。ギリアムの目にはラミアには親とはぐれた子供のように見え、その瞬間にギリアムは自然とある言葉を口にしていた。
「親はどれだけ失敗をしようが、間違いをしようが絶対に子の味方だ」
「親は……子の……味方……」
親は子の味方……信じたいと信じられないと言う2つの相反する感情を見せながら、ラミアは一礼し今度こそ通信室を出て行った。その後姿をギリアムはジッと見つめ、何かを考え込むような素振りをしているのだった……。
アビアノ基地の格納庫では急ピッチで試作機の組み立てや調整作業が行なわれていたが、その中でもヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの回りは耐熱スーツを着たマリオンやカーク、耐熱スーツを着て車椅子に座っているコウキや、ラルトスやツグミと研究者が大勢集まっていた。そんな中コックピットが開き、そこからパイロットスーツを着たライが額から大粒の汗を流しながら姿を見せる。
「どうだ? ライ。タイプMは?」
「……とんでもないじゃじゃ馬ですね。動力を安定させることすら出来ませんでしたよ」
R-02カスタム、R-2、SRXとピーキーな動力設定をされている機体を乗りこなして来たライでさえタイプMの動力設定を安定稼動値に持って行けなかった。昇降機で降りて来たライはヘルメットを脱いで、タオルで汗を拭う。
「はーい、ライ少尉。スポーツドリンクだヨ!」
「……ああ。すまない」
独特なイントネーションのラルトスからスポーツドリンクを受け取り、それを飲みながら放熱を続けているヒュッケバイン・MK-タイプMを見上げるライ。
「何か気になることでも?」
「いえ、そう言う訳では……ただ、私はこれを運用するべきではないと言わせていただきたい」
リョウトは温厚で穏やかな性格だ、だがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに乗ると気性が荒くなるというのは既に確認されている。それはマグマ原子炉を利用しているからこその何かではないかとライは感じていた。事実念動力などの素質が無いライですら何かを感じたのだ。これは危険だと、パイロットとしての本能が告げていた。
「コウキは何か意見は?」
「マグマ原子炉はメカザウルスの心臓と言っても良い、それに宿る意志が無いとは言い切れないな」
メカザウルスの意志――炉心だけになってもその中で生きている。普通ならオカルトと笑うが、事実そのオカルトの塊のようなコウキに言われるとそれも真実味を帯びてくる。
「対処法がないとなると封印か」
「ですがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの力は惜しいですわよ」
「対処法がない訳ではないぞ」
封印か、それとも危険を承知で運用するかと話し合うマリオンとカークにコウキはなんでもないように対処法があると告げた。
「あるのか? そんなものが」
「ある。メカザウルスも鬼もその摂理は単純で明快だ。強い者が正しい、それだけだ。屈服させろ、炉心に宿るメカザウルスよりも己が強いと認めさせればいい」
「オカルトですわねえ……そもそも屈服させろといいますがどうすれば良いのです?」
「そうだな。戦いの中でメカザウルスの意志に触れるかとかそこら辺になるだろうな。今いる面子の中で出来そうと言えば……カチーナあたりが妥当だな」
「カチーナ中尉は喜びそうネ! 呼んで来ますか? マリーシショー」
「カチーナ中尉は今はアラドのシミュレーターに付き合っている筈ですから後で良いですわ。当面はリミッターで炉心の出力を制限することにしましょう」
ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMは熱を攻撃に転用しているので、カチーナを乗せるのは危険すぎる。敵は倒せるかもしれないが、周りの被害を考えるとリターンよりリスクが大きいので、炉心の出力が一定以上にならないようにリミッターを重複させる事でヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを運用する事を決めた。
「すまないな、ライ。危険性は承知しているが、今は戦力を遊ばせている余裕が無い」
「……いえ、余計な事を言いました。リミッターを付けましたらまたテストに来ます。それでは」
格納庫を出て行くライを見送り、マリオン達は再び機体の調整を再開する。カークの言う通り機体を遊ばせている余裕は無く、少しでも戦力になる機体を増やしたいと全員が思っていたからだ。
「タカクラチーフはフェアリオンの設定と調整に専念してくれ、コウキはラルトスと一緒にラプターの再調整を頼む」
フェアリオンの調整を任せるという言葉にツグミは明らかにホッとしていた。
「ラプターをもっと改造して良いのカ! ハミル博士! ファルケンのタイプKみたいに改造したいと思ってたネ!」
「おい、この馬鹿を止めろ。色物をこれ以上増やしてどうする」
アルトアイゼン・ギーガ。ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRデスペラード等という色物と言うか頭のおかしい物しか作らないラルトスがエキサイトし、コウキが止めろというとカークは机の上の書類を手にした。
「実際に操縦したラトゥーニ少尉の意見だ。彼女の希望する設定から+-0.5以内の誤差なら認めよう」
「そんな殺生ナ!」
「リン社長呼びましょうか?」
「ア、スミマセンデシタ」
企画書を見て面白くないヨと騒ぐラルトスだったが、ツグミの一言で大人しくなりトボトボとビルドラプターの元へと歩き出した。
「コウキ、彼女を頼むぞ」
「了解。地獄に落ちろ」
問題児を押し付けられたコウキは真顔でカークに地獄に落ちろと吐き捨て、車椅子を操りラルトスの後を追って移動を始める。
「彼女を外すべきでは?」
「いや、頭の中身こそあれだが、ラルトスは優秀なんだ。考えがおかしいだけでな、ああ。まともな人間には理解出来ない思考回路をしているが、技術は優秀だと認めよう。人格と思考回路が論外だがな」
技術は認めるが性格は全否定するカークにツグミはあははっと乾いた笑い声で相槌を打つのがやっとだった。
「では私は参式の1号機は後々のエンジン交換作業と……T-LINKシステムの調整の事もあり、私が担当する」
「3号機の方は?」
アビアノ基地に搬入されている2機の参式の内の1号機の話しかしないカークに3号機はどうするのか? とツグミが尋ねる。
「参謀本部から命令で、このアビアノ基地へ預ける事になった」
「全く、人間同士で内輪揉めをしている場合ではないと言うのに、本当に上層部は愚かですわね」
マリオンの言葉で本来ならば3号機もハガネで運用する予定だったのだが、ハガネに戦力を集まるのを嫌がったほかの基地からのやっかみでアビアノ基地に参式が保管されることが判りツグミは溜め息を吐いた。
「本当にこんな事をしてる場合じゃないのに……」
今は動きを見せていないがノイエDCが積極的に反連邦勢力を取り込んでいるのは連日ニュースで報じられている。それに加えて百鬼帝国、インスペクター、そしてアインストと言う化け物もいると言うのに何故こんなに内輪揉めをしているのかとツグミは今の連邦のあり方を憂いた。
「嘆いても仕方ありませんわよ。いま自分達に出来る事を全力で行なうだけですわ、では私はビルガーの調整をしてきますわね」
「ああ。そうしてくれ、それとお前の弟子。あれに釘を刺しておいてくれ、持ち込んだ試作機は地球にあるマオ社の工場で保管する。だから勝手に手を加えるなとな」
あちこちのパイロットに改造しないか? こんなのはどうか? と改良案を出しているラルトスに釘を刺せと言われ、マリオンはわかってますわと返事を返し、机の上の資料を手にしビルガーではなく格納庫の外に足を向ける。
「……参式1号機のパイロットは、カザハラ所長の指示でブルックリン少尉とクスハ少尉に決まっていますが……ビルトビルガーには誰を乗せるのですか?」
出て行こうとするその姿にパイロットに会いに行くのだと感じたツグミがそう尋ねるとマリオンはにっこりと微笑んだ。だがそれにはなんとも言えない殺気のような気配が洩れていて、ツグミはやばいと本能的に悟っていた。
「ふふ……ファルケン・タイプKを乗りこなすアラド・バランガがいるのですから、ビルガーのパイロットもアラドで決まりですわ」
勝手に決めるなというカークの突込みを無視して、マリオンは今度こそ振り返る事無く格納庫を後にした。
「良いんですか?」
「私は知らない。もう好きにすれば良いとしか言えんな」
マ改造を容認するような事を言うカークにツグミは良いのかなあと困ったように呟きながら、自分の受け持ちであるフェアリオンの調整作業を始めるのだった……。
シュミレータルームでは改めてアラドのPTとAMの適正を再検査する為の試験が行なわれていた。対戦相手はラミアで、機体は互いにゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ガーリオン、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そして現在の搭乗機であるアンジュルグとビルトファルケン・タイプKの計4連戦だ。
「カイ少佐。アラドの試験はどんな様子ですか?」
「ラドム博士ですか、今のところ2戦目のガーリオンが終わった所です」
丁度良い所に来たとマリオンが微笑み、シュミレーターの内容を映しているモニターに視線を向ける。
『わ、わっ!?』
アラドの混乱しきった声と比例するようにギクシャクとした動きをするガーリオンの姿を見て、カイと同じく試験の判定に来ていたカチーナ、キョウスケと、偶然通りかかったリュウセイの3人はなんとも言えない表情をしていた。
「駄目だな、ありゃ。根本的にAMの操縦に向いてないな」
「そのようですね……」
PTと比べAMはその操縦に癖がある。テスラドライブによる重力の軽減を施され、その操縦感覚はふわふわとしていて頼りない物に感じられる者もいる、それゆえにベテラン勢からリオンシリーズに乗り換えるものは少なく、ゲシュペンスト・MK-Ⅲや、MK-Ⅱにフライトユニットを装備する事を好むものが多いのも、その操縦感覚によるものが大きくアラドは典型的なそのタイプだった。
「リュウセイはどう?」
「俺はAM乗れないからパス。偉そうなこと言えないから」
エクセレンに意見を求められたリュウセイもその口で、AMに関しては門外漢なのでノーコメントと言った所でラミアが大きく動いた。近づけさせないようにガトリングを使っていたアラドだが、AMでそんな重量のある武器を使う物は居らず、マシンキャノンの一射が銃身を打ちぬきガトリングを破壊する。爆発で発生した煙幕を利用し突っ込んで来たラミアのガーリオンが近づいてくるのを見てアラドが溜まらず声を上げた。
『わわっ! ラミアさん、ちょっとタンマッ!』
『……実戦でそんな物が認められると思うのか?』
すれ違い様にミサイルを打ち込まれアラドのガーリオンは撃墜判定を喰らい、シミュレーターが緊急停止する。
『うう、2回連続負け……俺自分が弱いって判ってるけど落ち込むなあ』
『落ち込んでいる暇はないぞ。続けてヒュッケバイン・MK-Ⅲだ、早く自分用に設定をフィッティングしろ。ノーマルで私と戦いたいというのなら別だが?』
『ま、待って! ちょっとラミアさん厳しすぎません!?』
休む暇も無く続けてヒュッケバイン・MK-Ⅲの試験に入ると言うラミアに慌てて、アラドも自分の機体の設定を始める。
「キョウスケ中尉。今の所の採点はどうですか?」
「ラドム博士、そうですね。俺はゲシュペンスト・MK-Ⅲに関しては70、ガーリオンに関しては10と言う所ですね」
「あたしはゲシュペンストは50、ガーリオンは0って所だな。あいつはAMには向いてねえよ」
「ゲシュペンストに関しては荒削りだが光る物がある、75。AMに関してはてんで駄目だから私も10と言う所ですね」
「俺はこれからの努力に期待して50・50って所で」
カイ、キョウスケ、カチーナの3人はゲシュペンストに関しては高評価だったが、ガーリオンに関してはほぼ適正0という結果だった。
「ゲシュペンストのカスタマイズは?」
「あータイプAをベースに重装備のタイプSの装備をくっつけたゲテモノにしてたのよ、あの子」
「ほう? それは随分と面白いことをしますわね?」
加速力に特化したタイプAに砲撃戦用のタイプSの装備、相反するコンセプトのカスタマイズを1つにして、その上で50点を超える採点を得たアラドにマリオンは興味深いという顔をする。
「よくもまあ、あんな重いのをぶん回すもんだ。あの思い切りは買うがよ、ありゃあないな」
「完全に装備同士が喧嘩していたからな」
「それでもタイプKを選択したラミアに食いついて、右腕と左足を奪ったのは天性の物だな」
相性不利のカスタマイズ、重装甲と加速力が欲しければタイプKを選択すれば良いのに、それでもAとSを組み合わせたのはタイプKでは軽すぎたのだろう。
「うわ、あいつまたやってるよ」
「うーん……アラドはカスタマイズした専用機でも上げたほうが良いんじゃない?」
身軽さが売りのヒュッケバイン・MK-Ⅲの筈なのに、装備を大量に身につけ、アーマーを装着している姿を見てリュウセイとエクセレンはまた駄目だなと一目で結論を出した。
「ふふ、愉快なパイロットではありませんか、まだやらなければならないことがあるので私はもう行きますが、アラドに向いている機体と装備について聞かせて貰えますか?」
メモを取る姿勢を取ってカイ達に今の段階でアラドに向いている機体は何か? とマリオンが問いかける。
「俺はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプSをカスタマイズして、破壊力重視の大型武器……ハンマー等が向いていると思います」
キョウスケは重装甲で操縦の癖として重いものを好むのならばとタイプSを改造する事と遠心力を活かして相手を押し潰すハンマーのようなものが良いと告げる。
「あたしは逆だな、鋭い出入りが出来てるからタイプK……いや、タイプAの肩を取っ払って、もっと重装備に変えてやればいいと思うぜ? 武器はそうだな、キョウスケと同じで破壊力重視の物が良いと思うが……斬艦刀とまでは言わないが大型のブレードなんて良いと思う」
重装甲の機体でタイプKに匹敵する素早い出入りが出来るのならば、タイプAのクレイモアを取り外し、装甲を厚くして切れ味よりも重さで叩き切るような武器が向いているとカチーナは称した。
「俺はアルブレードを思いきって改造すれば良いんじゃないかって思うんだけど……」
「む、俺もそう思っていた。瞬発力があり、装甲が厚いアルブレードに手を加える方が良いんじゃないかと思うぞ」
カイとリュウセイは今は乗るパイロットがいないアルブレードに手を加えれば良いと提案する。試作機という側面があり、拡張範囲の広いアルブレードなら好きに改造できると言うのも間違いではない。
「アルブレードはその内赤く塗ってあたしが使おうと思ってたのに……しゃあねえ、今回はあいつに譲ってやるか」
「また勝手に赤く塗るつもりだったの? カチーナ中尉」
以前勝手にゲシュペンスト・MK-Ⅱを赤く塗装して自分の専用機にしてしまったカチーナ。アルブレードもそうしようと狙っていたと言うその言葉にエクセレンはなんとも言えない表情を浮かべて苦笑いした。
「判りました。色々と参考になりましたわ、では、後はよろしく。ああ、あとアラドにはビルガーを与えるつもりなので、アルブレードはカチーナ中尉が使いたければダイテツ中佐に許可を得てください。後で改造してあげますわ」
ビルガーを与えるのでアルブレードは好きにして良いというマリオンの言葉にカチーナがガッツポーズを取った後ろでアラドのヒュッケバイン・MK-Ⅲがラミアのヒュッケバイン・MK-Ⅲの頭部と肩部を奪うが、反撃でコックピットを潰され、アラドの3連敗が決まった。
「アラド。1回休憩にしろ、ラミアもだ」
キョウスケがそう口にした所でシミュレータールームの扉が開いた。マリオンが戻って来たのか? と全員が振り返る。
「あら? クスハちゃんどうしたの?」
しかしそこにいたのはマリオンではなくクスハだった。その姿を見てエクセレンがどうしたの?と尋ねる。
「アラド君とラミアさんがここで特訓をしてるって聞いたので、飲み物を持ってきたんです」
満面の笑みでクスハが魔法瓶を差し出した。しかもただ魔法瓶ではない、レジャー用の2Lは入る大型魔法瓶だ。
「……馬鹿な……ッ!」
「な、何だと!?」
「ク、クスハ……ま、まさか、その飲み物って……」
エクセレンは驚きに目を見開き絶句し、キョウスケは普段の冷静さを投げ捨て、カチーナは嘘だと言ってくれと言わんばかりの表情をその顔に浮かべた。そしてリュウセイが魔法瓶の中身をクスハに問いかけるとクスハは華が咲くような美しい笑みを浮かべて、死刑宣告を口にした。
「うん、特製の栄養ドリンクよ」
シミュレータールームに葬式もかくやという絶望的な沈黙が広がった。
「すみません、少尉。わざわざ俺達の為に……ありがたくいただきます」
「そうだな。折角だからいただこう」
「どうぞどうぞ、今回は味も自信作で美味しいと思うんですよ!」
満面の笑みでどす黒い液体を差し出すクスハ。差し入れだから飲めない物ではないと判断し、アラドとラミアはリュウセイ達が止める間もなくカップの中身を呷り、ラミアは呻き声を上げ昏倒し、アラドは美味いと声を上げるのだった・・・・・・。
「うん? 偵察部隊が体調不良だと?」
「はい、今は回復しているそうですが、もう暫く時間を欲しいと」
アビアノ基地の兵士の報告を聞いてリーは眉を顰め、ダイテツに向き直る。
「どうしますか? ダイテツ中佐。偵察部隊のローテーションを変更しますか?」
体調が優れないのならば手の空いている者が出ればいいとリーは考え、ダイテツに偵察部隊の編成を変更しますか? と尋ねる。
「30分待とう、それで体調が優れないのならば編成を考えると医務室に伝えてくれ」
「了解しました」
敬礼し会議室を出て行く兵士を見送り、ダイテツ達はモニターに視線を戻した。
「これがビーストか……リー中佐はどう思う?」
モニターに映し出されているのは漆黒の獣、鳥、人型のPTだった。姿は不明瞭で、先日姿を確認された最新の物だった。
「第三勢力であると貴官は考えております」
PTともAMとも違う、ウォン重工業の開発しているゲシュタルトシリーズに似ている部分もあるが、それは関節部などでウォン重工業が関わっていると言う確証も無い。
「今回の偵察でビーストとエンカウントする危険性を考えているのですね。ダイテツ艦長」
「ああ、アビアノ基地のPTや偵察機を完膚なきまでに破壊している。これ以上被害を出す訳には行かない」
ビーストにはアビアノ基地だけではない、ノイエDCも百鬼獣にも襲いかかりそれを破壊している。目に付いたものを全てに襲い掛かり破壊する狂獣――ゆえにビースト。これ以上ビーストによる被害を抑える為に、今度の偵察でビーストの正体を、その目的をダイテツ達は探り出そうと考えているのだった。
・
・
・
「……様。またあいつ出て行っちゃったよ?」
「どうしましょうか? 連れ戻しに行きますか?」
「わ、私はあれは怖くて、す、少し苦手なんですけど……行けというのなら……」
どこか判らない闇の中で小柄な影が3つ、闇の中に佇む巨大な何かに窺いを立てる。
『いえ、構いません。まだあれは調整中……戦いの中で自我を確立させるのならばそれも良し。今はこの巨神を制御することを考えましょう』
狂ったように雄叫びを上げる異形の影、ゴーグル型のカメラアイが闇の中で赤く輝く光景を謎の集団は嘲笑うように見つめていた。
『『痛い、いたい……頭が、痛い……』』
破壊したノイエDCが発する炎に照らし出される漆黒の機体はその手首から伸びた爪からオイルをまるで血のように垂らし、返り血のように飛び散ったオイルが赤いセンサーアイから零れ落ちる……だがそれはパイロットの慟哭を、泣くことの出来ない誰かの悲しみを代弁し涙を流しているように見えた。
『『助けて……ああ、誰、誰に助けて欲しいの……判らない、判らないよぉ』』
二重に聞こえる少女の声を森の中に響かせ幽鬼のように足を引き摺り進み続けるビーストはその姿を人型から文字通り獣の姿へと変え、森の中へとその姿を消すのだった……。
第89話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その2へ続く
現れた影も難易度マシマシ、今回は謎の黄色ユニットも参戦する予定です。一体誰なんだ……(すっとぼけ)。正直ゲームでの30話くらいの所で90も行ってる、しかもオリジナル話が増えるので更に倍になる予定でどういうスケジュールと言われるかもしれませんが、許してください! では次回の更新もよろしくお願いします。
それと年始の休みの間は毎日昼の12時に更新しますので明日の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い