進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第89話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その2

第89話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その2

 

アビアノ基地のブリーフィングルームに集められた偵察に出るメンバーはリュウセイ、ラトゥーニ、アラド、ラミアの4人だった。

 

「ラミアは調子が優れないと聞いているが大丈夫なのかね?」

 

リーが心配そうに問いかける。事実クスハドリンクでラミアは意識を失ったが、今は体力、気力共に充実していた。味は酷いが即効性の高い回復薬だったとラミアは解釈し、クスハの善意だったと思う事にした。

 

「は、問題ありませんなのです」

 

「ふむ……口調に問題があるように見えるが……まぁ、それはいつもの事か、ではこれより偵察任務の説明を行なう」

 

口調はいつも通りブレブレだが、それは何時も通りかと苦笑しリーは手元の端末を操作し、モニターにアビアノ基地周辺地図を映し出す。

 

「今回の偵察はN1008にアラド曹長とラミア、N1201にリュウセイ少尉、ラトゥーニ少尉の2人で向かって貰いたい。それぞれのDコンにこの偵察順路をコピーし、1400までに出発して貰いたい。」

 

地図に×印と偵察の為の航路が表記され、それぞれのDコンにコピーするようにリーが指示を出す。それぞれDコンを取り出し、偵察順路のコピーを行った所でリュウセイがリーに質問を投げかけた。

 

「リー中佐。1008はアビアノ周辺だから判るんだけど、1201はアビアノ基地の防衛範囲のギリギリで通常の偵察順路とも離れすぎているけど、そこに偵察をする理由はあるんですか?」

 

N1008はアビアノからも近く、ノイエDC、百鬼帝国、インスペクター……そのいずれかがいればアビアノまで攻め込まれるので偵察に向かうのは当然のコースだ。だがN1201はアビアノの防衛範囲ギリギリで、偵察のコースではない……R-1、ビルドラプター改と両者とも機動力は高いが、そんなコースを何故態々偵察に向かうのか? と問うリュウセイにリーは自身のDコンを操作した。

 

「これを見て欲しい。今はまだキョウスケ中尉達には教えていないが、ここ数日謎のPTがアビアノ周辺で目撃されている」

 

漆黒に染められたPT――いや、見様によってはAMにも見える。そんな奇妙なデザインのPTの姿がモニターに映し出され、次は4足歩行の獣、鳥とその姿を変える。

 

「可変式のPT?」

 

「ラドム博士とハミル博士はPTでもAMでもない、全くの新機構の機体の可能性が高いと言う判断を下している。便宜上ビーストと呼称した。ビーストはノイエDC、インスペクター、百鬼獣、そしてアビアノ基地の機体、それら全てに無作為に攻撃を仕掛けている」

 

「第三勢力?」

 

リーの説明を聞いてラミアがぽつりと呟くとリーはその通りだと頷いた。

 

「正体不明の未知の存在だ。ラミアの言う通り第三勢力の可能性もある、敵なのか、味方なのか、それを見極める為にアビアノ基地所属ではない、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネの機体でビーストの偵察を行う事にした。まずはSRXチームのR-1と類似機のビルドラプター、これに反応が無ければATXチーム、最後にマサキとリューネに頼む予定だ」

 

順繰りでビーストが何に反応するかを確かめるための偵察だと説明され、リュウセイは納得したように頷いた。

 

「ほかに質問は?」

 

「ビーストと遭遇した場合はコンタクトを優先し、次でエンゲージでよろしいでしょうか?」

 

「それで頼む。コンタクトを取れるのならばそれに越した事はない」

 

敵だと思いこみ、戦闘を仕掛け、これから敵と認定されるリスクよりも、会話で済むのならばそちらが良いとリーは頷いた。

 

「判りました、N1201の偵察が終了後、もしくはN1008でエンゲージが確認された場合は其方への救援優先ですか?」

 

「ビーストに関しては遭遇できるかどうかもわからないので、そちらで構わない。アラド曹長とラミアは敵と遭遇した場合は即座にリュウセイ少尉達に救援要請、その後ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改のいずれかに救援を求めるように、また30分以上通信が途絶えた場合、もしくはジャミングが感知された場合のいずれかの場合はこちらの判断で救援に向かう。通信は密にするように、質問はないな? では出撃準備をしてくれ」

 

リーの言葉にリュウセイ達は了解と返事を返し、格納庫へと向かって行く。1人会議室に残されたリーはモニターをジッと見つめていた。

 

「一体何者なのだ……これほどの腕前のパイロットが今まで表舞台に出ていない訳が無い」

 

1対10などの圧倒的な不利な状況も覆し、変形を自在に操るパイロット……それこそ教導隊クラスの腕前のパイロットが今まで表部隊に出ていない訳が無い。以前のように誰かが洗脳されているという考えもリーの脳裏を過ぎる。

 

「なんだ、また見ていたのか?」

 

「テツヤか。ああ、これほどの腕前のパイロットが表舞台に出ていない訳が無い」

 

「確かにな……」

 

リーの隣にテツヤも腰掛けモニターに視線を向ける。数秒長くて数十秒という短い戦闘時間、しかも余りに早すぎて残像しか見えない。その異常な速度はテスラドライブでもGを無効化出来るかどうかというレベルだ。一体どこの企業がこんな物を作り出したのかと謎でしかなかった、何度も巻き戻し、戦闘データから類似機がないかを調べるリーとそれに付き合うテツヤ。

 

「ん? リー、ちょっと巻き戻してくれ、そこだ。そこで止めてくれ」

 

「なんだ? ここがどうかしていたのか?」

 

人型から飛行形態に変形する一瞬の所でモニターの映像が止められる。テツヤはそれをジッと見つめ、突然身体を捻って下から見上げるような姿勢になる。

 

「どうした!? 何をしている!?」

 

「似ている……R-1だ。リーも見てみろ、こいつ……R-1に似ているぞッ!」

 

言われた通りに画面の上下を反転させてみるとビーストの変形機構はR-1の変形機構に酷似していた。

 

「馬鹿な、SRX計画のデータが流出していると言うのか!?」

 

「判らない、判らないが……R-1に……何事だッ!?」

 

ビーストがR-1に似ていると混乱するリーとテツヤ。しかしその事を話し合う時間も無く、アビアノ基地に緊急警報が鳴り響くのだった……。

 

 

 

 

アビアノ基地の周辺の空を飛ぶ漆黒の機体と改造されたビルトファルケン、そしてその下をホバーで移動するラーズアングリフ――基地の防衛ラインに触れるか触れないかのギリギリのラインで偵察活動を続けていた。

 

「ゼオラ、前に出すぎだ。もう少し下がるんだ」

 

『ハイ……』

 

突出しすぎてレーダーに感知されそうなゼオラにクエルボが声を掛けると、ファルケンは失速しクエルボの頭上まで下がってくる。

 

『セロ博士、このあとの予定は?』

 

「そうだね、もう少しこの辺りを偵察して、アクセル達と合流してからライノセラスに戻ろう」

 

オウカの問いかけにそう返事を返し、クエルボは祈りを込めながらレーダーに視線を向ける。

 

(来るな、頼むから来ないでくれ)

 

誰も自分達を見つけないでくれと心からクエルボは祈っていた。日常生活では何も出来ないゼオラだが、機体に乗れば自分の手足のようにビルトファルケンを操っていた。だがそれは自分の身を守ろうという意志も無く、ただ敵を見つけて倒す。自分がどうなっても良いと言う物だった。

 

『ゼオラ……』

 

「祈ろう。敵に遭遇しないことを……」

 

不安そうなオウカに敵に遭遇し無い事を祈ろうとクエルボは呟いた。だが破壊活動やテロ行為に組しているクエルボの願いが叶う訳が無かった。

 

『敵機確認ッ!』

 

「くっ……やっぱりかッ!」

 

天使のようなシルエットの準特機と自分達に同行しているエルアインスに酷似したフライトユニットを装備した機体の登場にクエルボとオウカは揃って顔を歪めた。

 

『ハガネノキタイ。アクセルタイチョウニレンラクヲ、オウカアネサマ。センコウシマス』

 

『ゼオラ! 駄目よ待ちなさいッ! くっ、セロ博士!』

 

オウカの静止を振り切ってエルアインスを引き連れて前に出るビルトファルケン。その姿を見てラピエサージュのオウカからクエルボに通信が入る。

 

「ゼオラを止めるんだ。アクセルにはこちらからも連絡する!」

 

『はいッ!』

 

ビルトファルケンを追って前に出るラピエサージュ、だが機体のサイズゆえにラピエサージュの方が僅かに遅れている。

 

「あの動きはッ!!」

 

エルアインスに似た機体の挙動を見てクエルボは大きく目を見開いた。それはきっとラピエサージュのオウカも同じだっただろう……前に出る動きにアラドの癖があったからだ。

 

「最悪だッ!」

 

天使型の機体――アンジュルグはアースクレイドルでも見た。つまりあの機体はシャドウミラーからハガネへと潜り込んでいるスパイであり、アラドだけが部外者に等しい立ち位置になっていた。アンジュルグのパイロットが目撃者のいないうちにアラドを仕留めに掛かるかもしれない……その最悪の予想が頭を過ぎったクエルボは殴りつける様に操縦桿を握り締めた。

 

「あの機体のデータ取りを行なう! 撃墜は避けてくれッ!」

 

『『『『了解』』』』

 

一時的にしろ、クエルボはこの偵察隊のリーダーと言う地位を与えられている。アラドの機体を撃墜するなと量産型Wシリーズに命じる……だがそれはより上位の指揮権限を持つアクセルがこの場に訪れるまでの時間稼ぎに過ぎない。

 

「アラドをこの場から逃がさなくてはッ!」

 

狂ったように笑うゼオラの声を聞いて、自分とオウカが抱いた一縷の希望は途絶えた。ゼオラにアラドを殺させる訳には行かないとクエルボは慣れない機体の操縦に四苦八苦しながらスパイダーネットの発射準備を整えさせ、ラーズアングリフを走らせるのだった……。

 

 

 

エルアインスの攻撃を回避しながらラミアは冷ややかに戦況を見つめていた。見たことのない新型、改造されたであろうビルトファルケン、そして3機のエルアインスと2機のゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そしてラーズアングリフ……ノイエDCを隠れ蓑にして行動しているシャドウミラーの偵察組と鉢合わせしていた事により、ラミアの思考は与えられていた任務を遂行する為のW-17の思考へと即座に切り替わっていた。

 

『び、ビルトファルケンッ! ゼオラッ……』

 

偵察という事で機体同士の周波数を合わせていた為、アルブレード・F型装備のアラドの悲痛な声がアンジュルグのコックピットにも響いていた。

 

(……本隊のゲシュペンストとエルアインス、連絡が無いという事は任務を遂行しろという事だ。私のやるべき事はアラドのフォローをする事ではない)

 

その余りにも悲痛な声を聞いてなんとも言えない胸のざわめきを感じたが、それを無視して自分がやるべき事はなんだと己に問いかける。そうでなければ、アラドの為に動き出そうとする己の手足を御す事が出来なかったからだ。

 

『くそ、ファルケンのッ……ファルケンの周波数はッ!』

 

「アラド曹長。敵と会敵した場合はアビアノに反転せよという命令が出ている」

 

アラドにそう注意しながらもW-17としての己はASRSをジャミングモードで起動し通信を妨害している。だがラミアという個人はアラドをこの場に残す訳には行かないとフォローに入っている……心と身体の動きが合致しない。

 

(私はどうなっている……ッ!)

 

痛くて、苦しい……自分が何をするべきなのか、W-17としての任務を遂行すれば良いのか、それともラミアとしてアラドと共にアビアノに帰還すれば良いのかラミアは完全に混乱していた。

 

『アラド……アラドミツケタ……イタイノ、クルシイノ』

 

その時だったファルケンの方から広域通信で無機質な少女の声が響いた。生の気配を感じさせない人形のような声……それにラミアは嫌悪感を隠せなかった。それは、その声は……自分自身だった。ハガネに来る前の自分自身が目の前にいる――そんなありえない光景がラミアの脳裏を過ぎった

 

『ぜ、ゼオラッ』

 

「待て! アラド曹長! 不用意に近づくなッ!!」

 

そんなことを言うべきではないと判っていたのにアラドに近づくなと叫んだ直後、アルブレード・F型装備にノーモーションで向けられたオクスタンランチャーのビームが放たれた。

 

『アナタガイルカラ、クルシイノ、イタイノ……アナタヲコロセバシュオウキサマガアイシテクレルッテワタシニイッタノヨ……』

 

『ゼオラッ……な、なんであいつの事なんかを様をつけて……ッ』

 

朱王鬼――それはマオ社を制圧する為に現れた百鬼帝国の将軍の1人。おぞましき呪いを掛けた忌むべき鬼……ッ。

 

(違う違う、私は今何を考えた)

 

シャドウミラーがヴィンデルが協力体制を築くべく行動しているのならばラミアにとっても上官であるはずの朱王鬼に対してラミアは抑えられない怒りと憎悪を感じていた。

 

『ダカラダカラ……シンデ? ワタシガスキナラ……ワタシノタメニシンデヨ、アラドォッ!!!!! ハハッ! アハハハハハハハはハハハハハハハハッ!!!!』

 

『ゼ……オラ……』

 

狂ったように笑うゼオラの声を聞いて茫然自失に陥っているアラドに向かってビルトファルケンが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱが、エルアインスが動き出す。その光景を見てW-17はアラドを見捨てろと叫んだ、だがラミア・ラブレスはそれが正しいと判っていたのにそれを間違っていると判断した。

 

「アラド曹長ッ! しっかりしろッ! 彼女の言葉は真実ではない筈だッ!!」

 

アルブレードを背中で庇い、シャドウランサーを射出しながらアラドにラミアは声を掛けていた。

 

『ら、ラミア……さん』

 

「鬼がお前に告げた事が真実ならば、ゼオラはまともな思考が出来ない状況だ! ならば彼女の言葉はお前を傷つけ、動揺させる為の言葉だッ! そんな戯言に耳を貸すなッ!」

 

月での戦闘記録はラミアも目を通していた。ゼオラを元に戻したければ、アラドが死ぬか、ラトゥーニが死ぬか、それともオウカという人物が死ぬか、そのいずれかだと鬼は笑いながら告げた。だがそれが真実である証拠はどこにも無いのだ、そしてそれはゼオラの言葉が偽りであると言う可能性を同時に示していた。

 

「彼女を助けるんだろうッ! アラド・バランガッ!!! 何を呆けている! 前を見ろッ!」

 

『ッ! ああ、そうだッ! ラミアさん、ありがとうッ! 俺が何をすれば良いのかが判ったッ!!』

 

アラドの感謝の言葉を聞いて、ラミアは自分は何をしていると困惑した。何故、あんな事を叫んだのか……何故アラドに発破を掛けたのかそれが何もかも判らなかった。

 

『ファルケンには手を出さねえでくれッ! あいつの相手は俺がするッ! 俺がゼオラを助けるッ!』

 

「なら周りは私が抑える。行けッ!」

 

判ったと叫びエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱの間に身を捻じ込み、ビルトファルケンへと向かうアルブレード。それを追ってエルアインス達が動こうとするが、その間にアンジュルグが立ち塞がった。

 

「悪いが今私はむしゃくしゃしている。新たな指令が無いのならば、私はATXチームの一員として貴様らを排除するッ!!」

 

ラミア・ラブレスはアラドを助けるべきだ、アラドの邪魔をするべきではないと判断していた。

 

W-17はアラドを見捨て、自分だけが命からがら生存したと言う状況を作れと命じていた。

 

どちらが正しいか、それは迷うことでもないと判っていた。W-17としての考えが正しいとラミアは判っていた……だが自分はアラドを

助けることを選択した、それが自分が壊れているという事を思い知らされているような気がして、八つ当たりじみた感情を抱きながらラミアは量産型Wシリーズの前に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

 

 

アルブレード・F型装備と聞けば聞こえは良いが、実際はフライトユニットを装備したアルブレードと言うだけで、機体性能が飛躍的に向上したわけでも、攻撃能力が上昇した訳でもない。強いてあげれば飛行能力を得たことと加速力が僅かに上昇しただけで、アルブレードの武器管制と組み付けもされていないのでフライトユニットには一切武器は付けられていない。機体スペックで言えばレモンが改良したビルトファルケンの方が小回りも利くし、攻撃力も飛躍的に上昇している。未熟な腕前のアラドではその手はビルトファルケンに届かない……筈だった。

 

『おおおお――ッ!!!』

 

『ッ!』

 

操縦技術、機体性能を上回る気合――それがアラドにはあった。朱王鬼にアラドに遭遇した時言えと言われた言葉を言うと言う事しか考えておらず、その言葉によってアラドの気合と闘志を折る前提だったが、ラミアの発破で完全に回復し、それ所かゼオラを取り戻すと気合を入れているアラドは自分で考えることの出来ないゼオラを完全に圧倒していた。

 

『ゼオラ! 俺が絶対にあの鬼をぶっ飛ばす! だからこっちに来いッ! こっちにはラトもいるんだぞッ!!』

 

『ウルサイッ!!』

 

アルブレード・F型を近づけさせまいと取り回しの悪いオクスタンランチャーではなく、アサルトマシンガンによる弾幕を選択したゼオラ。それは決して間違った判断ではない、相手の方が早く、そして白兵戦に特化した機体を近づかせまいとするのならば弾幕を張るのが正解だ。だがアルブレード・F型は……いやアラドはそれを1度減速し、弾幕の位置をずらした所を急加速して一気に抜けた。

 

『ゼオラァッ!!!!』

 

『コノッ!』

 

ゼオラの名前を叫ぶアラド。しかし戦闘にだけ最適化されたゼオラの思考は突っ込んでくるアルブレード・F型の進路を読み、オクスタンランチャーの銃口を向ける。その銃口にエネルギーが集まり、今にも放射されるという瞬間アルブレード・F型の目が輝き、その場に残像を残し、その姿を消した。

 

『ど、ドコヘ!?』

 

『おおおおお――ッ!!!!』

 

混乱するビルトファルケンの頭上からアラドの雄たけびが響いた。特殊な能力はアルブレード・F型には「ない」。だが旧式のフライトユニットはアルブレードの企画に合わず、プロジェクトTDの予備用の新型のテスラドライブを搭載した新型フライトユニットだ。理論上はブーストドライブの使用が可能であるがアラドの技量では無理だと言う判断が下されていた。しかし、アラドはゼオラを取り戻す、それだけに集中し、足りないのならばもってくる。そんな単純な考えでブーストドライブを自力で使いこなした。

 

『少しだけ我慢してくれゼオラァッ!!!』

 

腰にマウントしていたラルトスが作ったスタンブレードをビルトファルケンの背中に叩き付けようとした時。その間に割り込むように実弾の嵐が放たれ、それに気付いたアラドは急旋回しビルトファルケンから距離を取り、ビルトファルケンもその隙にアルブレード・F型装備から距離を取る。

 

『待てッ! 待ってくれ! ゼオラッ!! 行くなッ!!!』

 

開いた距離を詰めようとするアルブレード・F型、しかしその前に立ち塞がるようにラピエサージュが現れ、ネオプラズマカッターを振るう。

 

『ッ! その動き……姉さん! オウカ姉さんかッ!?』

 

「……ごめんなさい、アラド。今はゼオラを連れて行かせるわけには行かないの」

 

オウカから見てもアラドの動きは生き生きとしていて、必死に訓練を積んだのが判った。だが、今ゼオラをアラドに回収させ、アラドかラトゥーニを殺させる訳には行かないとオウカはゼオラとアラド達を守る為にアラドの前に立ち塞がった。

 

『ゼオラだけじゃないオウカ姉さんもハガネに来ればいい! リー中佐もダイテツ中佐も助けて……ううッ!?』

 

オウカを説得しようとするアラドに向かってビルトファルケンのスプリットミサイルHが放たれ、その爆風にアルブレード・F型が地面に向かって降下する。

 

「ゼオラッ!」

 

『ドウシテオコルノ? テキハコロサナイトッ!!』

 

急降下しアルブレード・F型の後を追いながらアサルトマシンガンを乱射するビルトファルケン。その姿を見てオウカは止めに入らなければとしたのだが、ここにはレモンが貸し与えてくれた量産型Wシリーズがいる。ここで明らかにアラドを庇えばライノセラスに戻った所で反逆、裏切りの意ありと報告されるかもしれない。

 

(どうすれば、どうすれば……)

 

リマコンの効果が薄れ、投薬もされなくなりオウカは本来の気質である、心優しい姉としての側面が強くなっていた。ゼオラも助けたい、アラドも助けたい――その2つの思いの間に板ばさみになり、反応が一瞬遅れた。

 

『くそッ!』

 

『ジャアネ、アラド……サヨナラ』

 

「駄目! 駄目よ! ゼオラッ!!!」

 

アルブレードにオクスタンランチャーを押し付ける姿を見てオウカがそう叫んだ直後、翡翠色の閃光がアルブレード・F型とビルトファルケンの間を通り過ぎた。

 

『アラド! 大丈夫かッ!』

 

『ファルケン、ゼオラッ! やっと見つけたッ!!』

 

R-1、そしてビルドラプター改の2機がこの戦場に現れ、戦況は大きく変わろうとしていた……しかしそれはリュウセイ達にとって有利な戦況ではなく……R-1、ビルドラプター改のアラドへの救援、それはオウカ達と同じく偵察に出ていたアクセル達を呼び寄せる事に繋がった。

 

「敵機を補足したか、いくぞ」

 

『『『了解』』』

 

ランスを装備したヴァイサーガが反転し、爆発的な加速で移動をはじめ、その後をエルアインス、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの混成部隊がリュウセイ達の所に向かう為に動き出しているのだった……。

 

 

 

 

 

アラドとラミアからの連絡が30分途絶えた事でリュウセイとラトゥーニはビーストの捜索を中断し、ハガネとシロガネに通信を送った後、N1008に急行した事がアラドの命を繋いでいた。

 

『す、すまねえ。助かった!』

 

「いや、間に合って良かったぜ。あれが……スクールの仲間の生き残りってことで良いのか?」

 

ビルトファルケンがアルブレード・F型のコックピットにオクスタンランチャーの銃口を押し付けている姿を見て、T-LINKソードを打ち出したが、それはアルブレード・F型とビルトファルケンを引き離す為の攻撃だった。無論撃墜する事も可能だったが、アラドとラトゥーニが探しているゼオラと言うスクールの仲間の可能性もあり、撃墜を断念し牽制にリュウセイは攻撃を切り替えたのだ。

 

『ファルケンにはゼオラ、あの黒い新型にはオウカ姉様が乗ってる』

 

ラトゥーニの言葉を聞いてリュウセイは改めてビルトファルケン、ラピエサージュの両機に視線を向ける。耳鳴りにも似た音が響き、リュウセイの念動力……いや、サイコドライバーの資質がビルトファルケン、いやゼオラを覆うどす黒い念を感じ取る。その感じにリュウセイは覚えがあった……L5戦役終盤アストラナガンに乗っているイングラムを操っている何者かの念を感じ取った時に良く似ていた。

 

「俺なら何とかできるかもしれない」

 

スプリットミサイルHの弾雨を回避しながらリュウセイはそう呟いた。念動力で操られているのならば、それを上回る念をぶつければ消し飛ばせる……理屈は簡単だ。撃墜しない分ゼオラの安全性もこちらの方が上だとリュウセイは感じていた。

 

『ど、どういう事っすか!?』

 

『リュウセイ……もしかしてイングラム少佐の時と同じ……?』

 

スプリットミサイルHを迎撃していたアラドとラトゥーニにもその小さなリュウセイの呟きは聞こえていた。何とかなるかもしれないというリュウセイの言葉アラドが声を荒げ、ラトゥーニはイングラムと同じなのかとリュウセイに問いかけた。

 

「多分、確信はねえけど……接近出来れば何とか出来る可能性は十分にあると思うぜ」

 

ゼオラを操っている念をリュウセイの念で弾き飛ばせばゼオラが元に戻る可能性は十分にあるとリュウセイはアラドとラトゥーニに告げた。

 

『だがリュウセイ少尉、話はそう簡単ではないぞ?』

 

「ああ、判ってる、だけど今ならッ! 悪い、フォローを頼むぜッ!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインスから1度距離を取り、リュウセイ達に合流して来たラミアが重々しい声を出した。リュウセイ達が応援に来たのと同じタイミングで空中からエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱがそれぞれ5機ずつ増援に現れフォーメーションを組んだ。ビルトファルケンとラピエサージュの2機の前に隊列を組み始めるエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱに向かってR-1は右腰にマウントしていたGリボルバーを投げつけ、左腰にマウントしていたGリボルバーを抜き放ち、自らが投げつけたGリボルバーを撃ち抜いた。

 

『何をしてるんっすか!?』

 

『何をしたいんだ、リュウセイ少尉』

 

アラドとラミアはリュウセイが何をしたいのか理解出来ず、困惑した声を上げる。だがラトゥーニはリュウセイが何をしたいのか、そして何をしようとしていたのかを理解していた。

 

『静かに! リュウセイの邪魔をしないでッ!』

 

ラトゥーニの一喝にアラドとラミアが黙り込んだ瞬間、撃ち抜かれ暴発したGリボルバーの弾丸に翡翠色の光が灯る。

 

「捉えたッ!! いけッ!!! T-LINKシュートッ!!!」

 

『『『!?!?』』』

 

念動力に操られた銃弾は空中で爆発的な加速で動き出し、隊列を組もうとしていたゲシュペンスト・MK-Ⅱとエルアインスを弾き飛ばし、強引にビルトファルケンへ続く道を作り出した。

 

「うおおおおぉぉッ!!!!」

 

『ゼオラッ!!! 避けてッ!』

 

『ウ、ウウウ……ッ』

 

R-1がゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインスの前を駆け抜ける姿を見て、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ達同様弾き飛ばされていたラピエサージュからオウカの悲痛な叫びが響き、ビルトファルケンのゼオラはその強すぎる念動力に当てられて動きを完全に止めていた。

 

「超必殺ッ! T-LINKナッ……ッ!」

 

翡翠色に輝く拳をビルトファルケンに向かって突き出そうとしたR-1。その拳がビルトファルケンに触れるかどうかというその瞬間、リュウセイは凄まじい殺気を感じビルトファルケンから距離を取った。その直後ビルトファルケンの前を高速で何かが通過した、あのままR-1が突っ込んでいればその何かにR-1はどてっぱらを貫かれ撃墜されていただろう……。

 

『敵の新型……あんなのもいたのかよッ』

 

『見た感じだと指揮官機……それにまだ敵の増援の反応が……このままだと不味い』

 

敵の指揮官機の登場、そして敵の増援の反応にアラドとラトゥーニが顔を歪める。

 

(ヴァイサーガッ……アクセル隊長か、それともバリソン少尉か……ここで本隊が動いてくるとは……ッ)

 

ラミアはヴァイサーガに乗っているのをアクセルかバリソンのどちらかだと判断し、本来ならば喜ぶべき状況である筈なのに、ラミアの顔は苦々しい色に染められていた。

 

「くそッ! まだ増援がいたのかよッ!」

 

リュウセイからすれば命中を確信した攻撃を外され、そしてその上自分の命が危なかったのを地面に突き刺さる巨大なランスを見て悟り、背中に冷たい汗が流れるのを感じ、ランスが飛んで来た方角を睨みつける。そこには群青色の装甲を持ち、巨大な盾を片手に持った西洋騎士の様な特機――ヴァイサーガが禍々しいまでの紅い眼光を光らせ、R-1を見下ろしているのだった……。

 

 

第90話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その3へ続く

 

 




今回はヴァイサーガ乱入の所で終わりにしたいと思います、ゼオラが念動力で救えるというのは鬼の術で操られているので、それよりも強い力をぶつければ洗脳を解除出来ると言う理屈ですね。次回はキョウスケ達の応援と決着、もしくは撤退までを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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