第90話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その3
R-1目掛けて全力で投擲したランスは必中のタイミングであったとアクセルは確信していた。普通あそこまでビルトファルケンに注意が向いている中の奇襲だ。反応できるパイロット等そうはいない、手首の巻き取り機が音を立てて回転し、地面に突き刺さっているランスが高速で手元に戻ってくるのを横殴りで回収し、その切っ先をR-1に向ける。
「こちら側でもリュウセイ・ダテはエースを張っていると言う所か、面白い」
SRXとリュウセイの活躍はアクセルから見てもエースというに相応しい実績と戦果を上げていた。こちら側ではまだ量産型SRXにまで漕ぎ着けていないようだが、それも時間の問題だなとアクセルは呟き通信機のスイッチを入れる。
「ご苦労だったオウカ。お前はクエルボとゼオラと共にライノセラスに戻れ」
ラピエサージュは偵察で試験運用、クエルボは元々パイロットではない、ゼオラに至っては鬼の術の被害者。そんな面子を率いて戦うつもりはアクセルには無く、撤退命令を下す。
『……了解です』
「そう心配するな、俺も本気で戦うつもりはない」
アラドとか言う義弟を殺されるかもしれないと心配そうにしているオウカだが、それはいらない心配と言う物だった。出撃前にレモンに念入りに威力偵察に止まるように念を押されている上に、ツヴァイザーゲインの試運転もある。
(それにアラドとやらを殺しただけで廃人が2人も出るなんて割に合わんにも程がある)
人形同然のゼオラもそうだが、アラドを殺せば元に戻る。だがその場合はゼオラはアラドを殺したショックで廃人、オウカも精神的に不安定になると聞いていればアクセルと言えど躊躇いもする。
『ハハハ、アハハハハハッ!』
『ゼオラ駄目ッ! 撤退よッ! くっ! アクセル隊長すみませんッ! ゼオラを取り押さえてから離脱しますッ!』
『オウカ! 右から回れ、スパイダーネットで捕獲するッ!』
アクセルの撤退命令にオウカが渋っている間にゼオラが再び暴走状態に入り、撤退させる筈だったオウカとクエルボの2人が再び戦場に戻る。
「チッ、厄日か。仕方ない、エルアインスに似た機体への攻撃は禁ずる。他の機体も撃墜するなよ、戦闘データを取る事を優先しろ」
『『『了解』』』
アクセルの指示で量産型Wシリーズが弾かれたように動き出すのを確認してからアンジュルグを見つけ、機密通信を繋げる。
「……こちらアクセル・アルマー。W17、ハガネやヒリュウ改の連中に俺達が現れた事を報告したのか?」
R-1の性能とリュウセイの能力を確認する事も大事だが、アクセルとヴィンデルの本命はあくまでハガネとヒリュウ改だ。それらが来なければ何の意味もない、ASRSを展開する前に救援信号を出したのか? とアクセルがラミアに問いかける。
『やっとりますです。目的はあの艦をここへ誘き出しちゃう事なんでございますの事なのですかね?』
「ん……? W17……貴様、ふざけているのか? それとも敵に改造でもされたか?」
ラミアの余りにおかしな口調にアクセルは眉を細め、その声に怒りの色を乗せてラミアに問いかける。その言葉にはもしそうならば、ここでお前を破壊すると言う言外の圧力があった。
『……いえ。まっこと申し訳ないこってすが、言語系に機能不全が出ておったりしとりまして……敬語だけ上手く使えなかったりしちゃうの』
「……何をやってるんだ、貴様は……そんな状態で任務が遂行できているとは思えんが、とりあえず敬語はいい報告を優先しろ」
その口調のせいで話の内容が頭の中に入ってこないアクセルは敬語を使う必要はないと言うとラミアの雰囲気が変った。
『了解。では隊長……なぜお前が直接ここまで来る必要があった?』
「ようやく動けるようになったんでな。人任せは性に合わん……だから直接見に来た、これがな。ハガネやヒリュウ改……そしてレモンの最高傑作である貴様をな。 貴様はさっそくがっかりさせてくれたが」
人形と見下している相手からのため口に若干のいらつきを感じ、皮肉めいた事を言うとラミアは小さく笑った。
『レモン様はそれでも構わないと言っていたが、やはりアクセル隊長は心が狭いな』
帰って来たのは皮肉の応酬だった。それはWシリーズではありえない上官への罵倒……その言葉を聞いてアクセルは目の色を変えた。
『ハガネにヒリュウ、それにシロガネ……着実に戦力を蓄えつつある。このままではあの時と同じ結果になりかねんぞ』
アンジュルグが急加速しヴァイサーガに向かってミラージュソードを叩きつける。それをシールドで弾きながらアクセルはラミアが自分の知るW-17ではないと言うのを感じていた。
「反逆かそれとも裏切りか?」
『冗談を言うな。私は今はあちら側の戦力だ、棒立ちをして疑われる訳には行かない。それともアクセル隊長はこの程度の奇襲に反応出来ないほどに衰えていたと? それは申し訳ない。もう少し手加減をするべきか?』
「言ったなW-……いや、ラミアッ!!」
ミラージュソードとランスがぶつかり合い火花を散らす。ヴァイサーガのコックピットにはラミアの身を案じているパイロットの声が響き、ラミアがそれに返事を返しているのだが、その声の中に人の情のようなものをアクセルは感じた。
(壊れて……いや、これは違う!?)
レモンが目指しているのは人と同じ考えをする人造人間を作るという事。だがヴィンデルがスポンサーについたことで個人意思を排除した人形へとその内容は大きく変わっていた。だが自分達の手を離れたラミアは自分で考え、そして本来反抗し得ないアクセルに攻撃を仕掛け、そして挑発すら交えていた。それはナンバーズではない、ラミアという一個人になろうとしている人形がアクセルの前に立ち塞がっていた。
『何故鬼等と手を組んでいる? あいつらはインベーダーとアインストと大差がない。またあの時の様な事を繰り返すつもりか』
「なるほど、お前が苛立っているのはそれか、悪いが俺も納得しているわけではない。これがな」
人は怒りによって成長する。それは人形も同じだったのかとアクセルは苦笑する。ラミアは鬼と手を組んでいるヴィンデル達に、人の心を弄ぶ鬼に対する憎悪を抱いている。鬼への怒りがアクセルへの挑発に繋がっているとアクセルはこの短いやり取りで感じ取っていた。
(本人は気付いていないようだが……これは良くない傾向だ。レモンは喜ぶかもしれんがな)
命令に忠実な兵士である筈のW-17ではなくなろうとしている。それはレモンの目指す最終地点かもしれないが、アクセルからすればそれは受け入れられる物ではなかった。いや、それはきっとヴィンデルも同じだろう……とそこまで考えた所でアクセルの考えが変った。
「俺達が間違っていると思うのならばそれをお前の力を持って示してみろ」
『何を……?』
「俺とて鬼との協力体制が正しいと思っている訳ではない。だが俺達の意思を通すには力が必要だ、それ故の協力体制と言っても良いだろう!」
困惑しているラミアの隙を突いてシールドバッシュをアンジュルグに叩き込み、アンジュルグとの距離を強引に作り出す。
「あちら側とこちら側は違う。そうだな、ベーオウルフとだって協力するくらいの柔軟性は俺にもある。俺達の意志を通すためにハガネとヒリュウ改と協力することもあるだろう。だがハガネ達が鬼よりも弱いのならば協力する利点はないッ! だから俺に百鬼帝国よりも、鬼よりも協力するに足る存在だと、俺に示してみろッ!」
アクセルの言葉に目の色を変えヴァイサーガに向かってくるアンジュルグを見て、やはりとアクセルは呟いた。ラミアはレモンが願ったとおり、大きく変わろうとしている。だがそれはヴィンデルとアクセルの求めるWシリーズではない、裏切るかもしれない反逆するかもしれない兵士など必要ではない。ヴィンデルやレモンと会い人形に戻るか、それとも己の我を通すか、それを見極める為に操縦桿をアクセルは強く握り締める。
「ふっ、やはり出撃して正解だったな。これがッ!」
ハガネの戦力を見極める為に出撃し、こんな想像もしていないイレギュラーに遭遇した。やはり己の目で見なければ意味がないなと呟いたアクセルはヴァイサーガのコックピットの中で獰猛な笑みを浮かべアンジュルグとの戦いに身を投じるのだった……。
ビルドラプター改を駆り、ラトゥーニは……いやアルブレードを駆るアラドも必死にビルトファルケンとの距離を詰めようとしていた。だがその都度2機の間にラピエサージュが割り込み、あと少しの距離がどうしても詰められないでいた。
「オウカ姉様ッ! 邪魔をしないでッ! リュウセイなら、リュウセイならゼオラを助けれるかもしれないッ!」
『ラトの気持ちは判るわッ! でも駄目かもしれないと思ったら私は怖いのッ! ゼオラもアラド……そしてラト! 貴女を失うかもしれないというのが怖いのッ! ゼオラは連れて帰るからッ! 今は私達を追わないでラト、アラドッ』
ラピエサージュから響くオウカの声は悲壮感に満ちていて、そして狂乱状態に陥っているゼオラを連れて帰ると言うオウカの言葉はきっと真実だろう……。
『駄目だ! 鬼の所に姉さんとゼオラを帰す訳には行かないッ!』
「アラドの言う通り! オウカ姉様……ハガネの皆は助けてくれるッ! だから一緒に来てッ!!」
今はオウカは正気だ。だがオウカの帰る場所は鬼の拠点……自分達とのやり取りを鬼に知られていて、オウカまで洗脳される可能性がゼロではない以上アラドとラトゥーニはオウカとゼオラを撤退させる訳にはいかなかった。
『どうした! その程度かッ!!』
『くっ!!』
敵側の指揮官機――ヴァイサーガを単騎で食い止めているアンジュルグも長くは持たない。ハガネが応援に来るまでは何分掛かる? アラド達に与えられた時間は決して多くない、今は偵察に回っているエルアインスやゲシュペンスト・MK-Ⅱまでが積極的に攻撃に加われば
物量で押し潰される、もしくはビルトファルケンもラピエサージュも後退するかも知れない。そうなればゼオラとオウカを助けるチャンスはない……後先考えない全力稼動――許された戦術は速攻だけだった。がむしゃらに距離をつめようと足掻きながらアラドとラトゥーニはオウカへの説得を続ける。
『鬼だけじゃねえッ! アギラのクソ婆が姉さんとゼオラ……いや俺達に何をしたか忘れた訳じゃないだろ姉さんッ! 俺達を信じてくれッ! ハガネに来てくれッ!!』
『絶対みんなが助けてくれる! だから信じてッ!』
アードラー・コッホとアギラ・セトメ……スクールを作った2人が自分達にした悪逆をアラドは忘れていない。鬼だけではない、アギラのようなキチガイのいる場所に大事な家族を行かせるわけには行かないと叫び、ビルトファルケンへの道を塞ぐエルアインスの胴にトンファーを叩き込み、返す刀で頭を潰して地面に叩き落す。
「リュウセイッ! お願いッ!」
『任せろッ! ラトゥーニッ! アラドッ!!!』
ビルドラプター改の放ったビームガトリングを避ける為に上昇したエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱの間を縫うようにR-1が跳ぶ。
『クッ!』
R-1を近づけさせまいとアサルトマシンガンを放ちながら交代するビルトファルケン。だがR-1の前面に展開された念動フィールドに防がれる。
『ゼオラッ!』
ビルトファルケンに両手を光らせて迫るR-1を見てオーバー・オクスタン・ランチャーの照準をR-1に合わせようとしたが、その手が震えて照準が上手く合わせられなかった。
(アラドとラトがあれだけ信じている……そんな人を撃てと……)
PTに乗ることを恐れ、人に恐怖するようになったラトゥーニが全幅の信頼を寄せている。いやそれだけではない、きっと恋慕の情を寄せている相手を……敵として出会った相手でさえも助けようとし、アラドとラトゥーニの言葉を全て信じ疑いもせずに助けようとするリュウセイを撃つという事をオウカは躊躇ってしまった。
『今度こそ届かせるッ!!』
ビルトファルケンに拳を叩き付けようとしたR-1はその寸前に握りこんだ拳を開き、両手から翡翠色の輝きでビルトファルケンを包み込んだ。
『ア、アアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!???』
『う、うぐあああああああ―――ッ!?!?』
ゼオラの悲鳴とリュウセイの悲鳴が同時に戦場に響き渡った。翡翠色の輝きが漆黒に染まり、R-1とビルトファルケンの両者に紫電を走らせる。
【驚いたね、僕の術を中和しようとする人間がいるなんて、でも無駄だよ。そんな物で僕の術は破れない彼女は僕の性『朱王鬼ぃッ!!!! てめえを許させねえッ! ここに来いッ! ぶちのめしてやるッ!』
闇の中から響いた朱王鬼の声をアラドの憎悪に満ちた叫びがその声を遮った。ゼオラを玩具のように扱おうとする、ゼオラを人とも思わない朱王鬼の悪辣な言葉をアラドは聞きたくなかった。
【OK、その君の無謀な挑発に免じて無駄口はやめようか、なんせ月から地球に念を飛ばすのも楽じゃないからね。念動力で干渉したらそれを伝って念動力者も僕の術中に落ちる、それが出来る人間はただ1人……リュウセイ・ダテは僕達百鬼帝国が貰いうける】
朱王鬼は最初からゼオラを取り返しに来る前提で作戦を組んでいた。L5戦役終盤でイングラム・プリスケンを操る力をSRX……いや、リュウセイが断ち切った事に着目した。裏腹だがリュウセイの力がブライに匹敵する前提で罠を仕掛けていた。お人よしのその性格を利用し、念動力によるゼオラへの術を干渉した瞬間にリュウセイをその手中に納める為の罠を張り巡らせていた。
【リュウセイ・ダテがこちらに渡れば、SRXは使えない。人間の切り札は今この瞬間1つ潰えた】
『がッうぐッ! あがああああああッ!!!』
『リュウセイ!』
『くそッ! させるかよッ! ラトゥーニは左腕! 俺は右腕だッ!』
R-1のT-LINKシステムは胴体、そして両腕に搭載されている。両腕を破壊すればT-LINKシステムは機能を停止する……リュウセイを助ける為にR-1の両腕を破壊しようとした瞬間だった……ビルトファルケンとR-1の間に黒い影が通り抜けた。その瞬間R-1が爆発し、ビルトファルケンから弾き飛ばされる。
『あ、ああ……』
『うぐ、がぁ……おえッ……』
ゼオラの苦悶の声とリュウセイの苦しむ声が同時に響いた。その声にラトゥーニは我に帰り、リュウセイの救出に動き、アラドはファルケンを鹵獲しようと動きをつめる。
『すまない! アラド、ラトゥーニ! 許してくれッ!!』
『え!? せ、セロ博士ッ!?』
もう少しでアルブレード・F型装備がファルケンに触れるという瞬間に育て親と言っても良い、クエルボの声が響き、アラドは動きを止めその前を凄まじい勢いでレールガンの弾頭が通過し、その衝撃波で引き離された隙にラピエサージュがビルトファルケンを守る位置に位置取る。
『セロ博士ッ! なんで、なんでッ!』
『すまない……』
余りに動きが固くルーキーが乗っていると思っていたランドグリーズにクエルボが乗っているとは思っていなかった。アラドはどうしてとクエルボを責め、クエルボは苦渋に満ちた声で謝罪の言葉を口にする。
「リュウセイ、リュウセイ! 大丈夫ッ!?」
『うっく……悪い……動けねえ……ッ』
「今助け……きゃあッ!?」
T-LINKシステムに過度な負担が掛かった上に朱王鬼の術によって身体の自由が効かないリュウセイのフォローにラトゥーニが入ろうとした瞬間、ビルドラプター改が大きく後方に弾き飛ばされる。
「な、なにが……ッ!」
周りに敵機はいなかった。混乱しながらラトゥーニはR-1の方に視線を向ける。そこには紅いカメラアイを輝かせたビーストがR-1をその背に庇い、ビルドラプター改を敵だと言わんばかりの凄まじい敵意を向けてくる姿があった。
「リュウセイを返してッ!」
ビーストの目的が不明であり、リュウセイを鬼のように鹵獲するつもりかもしれない。そう判断したラトゥーニはリュウセイを奪還する為にビーストへの攻撃へと踏み切った。そしてビースト――ズィーリアスのコックピットの中でオッドアイの少女は自身に向かってくるビルドラプター改を憎悪、そして羨望を込めた瞳で見つめ、手の甲から出現させたビームクローで迎え撃つのだった……。
リュウセイは行動不能でビーストの人質、ラトゥーニはビーストからリュウセイを奪還する事だけに思考が固定され、アラドは義姉と恩師の2人を前にして動くに動けず、ラミアはアクセルを相手に完全に足止めされていた。
『どうした。その程度でよくこの俺を相手に挑発など出来たなッ!!!』
アクセルの怒号がアンジュルグのコックピットに響き、凄まじい勢いで振るわれるランスをミラージュソードで受け流し、あるいは受け止める事しかラミアには出来なかった。
(ヴァイサーガの本来のコンセプトとは真逆と言うのに……なんという圧力だ……ッ)
本来のヴァイサーガは機動力を生かした、ヒット&アウェイと五大剣による様々な剣技によって翻弄し、風刃閃、光刃閃で切り込み一撃で両断する。攻撃と回避の両方に特化した機体と言える、機体の全身を覆うようなシールドとヴァイサーガの全長の倍近い大きさのランスを見て勝機はあると一瞬でも思った自分がいかに浅はかだったのかをラミアは思い知らされていた。
『ぬおおおおッ!!』
「くっ……うあッ!?」
ランスを投げつけると同時に手首と繋がっている鎖を利用し振り回しによる広範囲攻撃、それを回避した瞬間に烈火刃による投擲攻撃が炸裂し、アンジュルグの高度が落ちる。そして烈火刃を投げると同時にブースターで加速していたヴァイサーガはシールドを正眼に構え最大速度によるシールドバッシュが叩き込まれ、アンジュルグの装甲とフレームが大きく軋む音がする。翼を羽ばたかせ、空中で何とか反転し強引にヴァイサーガをロックオンする。
「シャドウランサーッ!! ファントムアローッ!」
シャドウランサーで足を狙い、ファントムアローを3連射し、両肩の関節部を狙う……だがシールドで防ぎ、ランスを突き出してくるヴァイサーガの攻撃をミラージュソードで受け止めるが、その質量と重量を何度も受け止めていたミラージュソードは甲高い音を立てて中ほどから砕け散る。
『うおおおおッ!!!』
「ッ!? がはぁッ!!」
ミラージュソードが砕けた光景に一瞬我を失った隙をアクセルが見逃す訳が無く、固く握り締められたヴァイサーガの鉄拳がアンジュルグの顔面を打ちぬき、その衝撃にラミアの意識が一瞬飛んだ。
『この程度かラミア……いや、W-17。ならば死ねッ!』
「ま、まだだッ!」
シールドによる押し潰しを倒れたまま、後方に向かって跳ぶ事で回避しファントムアローを構えさせる。だがそこから攻撃に移る事が出来なかった……。
(隙がまるで見えないッ)
どこを狙っても、どんな攻撃を組み合わせてもヴァイサーガにその攻撃が届く姿がラミアには想像出来なかった。本来の搭乗機であるソウルゲインとは違う、不完全なヴァイサーガの性能をアクセルは100%以上に引き出していた。
『やはり俺達が百鬼帝国と協力する事を選択した事は間違いではなかったな。その程度で相手と協力する価値もない』
見下すようなアクセルの口調にラミアは苛立ちを隠せなかった。いや、それが苛立ちとも認識していなかっただろう。無意識に、ハガネやシロガネ、ヒリュウ改の仲間を無能と口にしたアクセルに怒りを覚えていた。
(はっ……違う、今私は何を考えた)
アクセルは自分の上官だ、そして敬愛するレモンの恋人でもある。それなのに……ラミアはアクセルを敵とみなし、そしてハガネを仲間だと思っていた。
『どうした? 俺達が間違っているのだろう? ならばそれを正して見せることも出来ないのか? 俺は期待していたんだぞ』
期待していたと言うアクセルの言葉にラミアは動きを止めた。今までアクセルがそんなことを口にした事はなかった……急に何を言い出したのかラミアはその本意が判らなかった。
『お前だけだ、性能試験で俺と引き分けたのはな……そんなお前の意見だから聞き入れてやっても良いと思ったが、やはりお前は言語障害だけではない。戦闘能力にも不具合が出ているようだな。もう良い、失せろ。お前の意見を少しでも聞いてやろうと思ったのが間違いだった。人形は人形らしく、俺達の指示に従っていれば良い』
それはラミアにとって喜ぶべき言葉だった。自分で考える必要が無く、与えられた指示に従えばいい……アクセルに謝罪し、また元の自分に戻ればいい、それがもっとも正しい道だと判っていた。
「……アクセル隊長。1つ言い忘れていた事があった」
『なんだ。W-17』
謝罪すれば良い、自分の無礼を詫びて再び命令を貰えば良い……そう思っていた。だがラミアの口から出た言葉は全く逆の言葉だった。
「私は決着を付けたいと思っていた。私の方が優れていると、レモン様の最高傑作であると胸を張って言う為に私は貴方を倒す」
『……良いだろう、やって見せろッ! お前が本当に俺を打倒できたのならばッ! 貴様の意見を聞いてやろうッ!!』
アクセルはラミアの言葉に満足そうに笑い、ヴァイサーガをアンジュルグに向かって走らせ、ラミアもアンジュルグを繰りヴァイサーガとぶつかり合う。その戦いの熱気は凄まじいほどに白熱し、その戦いは時間が経てば経つほどに激しさを増させて行くのだった……。
ビースト……ズィーリアスとビルドラプター改の戦い――少しでも気を抜けば、その瞬間に己の死が決まるその極限の集中はラトゥーニの精神を容赦なく削り、そしてビルドラプター改にも深い傷を与えていた。
「くうっ!?」
ハイパービームライフルの銃身がズィーリアスの振るうビームエッジに切り裂かれ爆発する。その衝撃で弾き飛ばされモニターからもラトゥーニの視界からもズィーリアスの姿が消える。
「う、うううッ!?」
反射的に転がって回避したがズィーリアスの放ったビームの余波でビルドラプター改はゴミの様に弾き飛ばされ森の中に背中から叩きつけられる。
「つ……強い……強すぎる……ッ」
攻撃力もさることながら防御力・機動力がビルドラプター改を完全に上回っている。荒い息を必死に整え、ズィーリアスをラトゥーニは睨みつける。
『……』
無言で佇むズィーリアスはビルドラプター改、いやラトゥーニには何の興味も示していない。自分がR-1に触れようとするのを邪魔するから排除しようとしているように見えた。
「ふざけないで……ッ」
R-1に……いや、その中に入るリュウセイにだけ興味を示している。その姿はラトゥーニの神経を大きく逆撫でた、怒り、嫉妬、ありとあらゆる負の感情がラトゥーニの中で鎌首を持ち上げた。
「リュウセイは貴方のものじゃないッ!!」
R-1に触れようとしているズィーリアスの肩を掴んで強引に自分の方を向かせ、その頭部に拳を叩き込む。
『ッ』
初めてズィーリアスの方から激しい殺意がラトゥーニに向けられた。だがそれはラトゥーニも同じだった、言葉にならない……本能的な物と言っても良い、目の前のズィーリアスが、そのコックピットにいる何者かが死ぬほど気に食わなかった。言葉をかわした訳でもない、その顔を見た訳でもない……だがラトゥーニと言う少女を形作る全てがズィーリアスのパイロットを嫌悪し、そして憎悪した。それはラトゥーニが今までに感じた事のない、それこそアードラーへの恨みをも凌駕する憎悪だった。
『……あいつ、痛い……いたい(痛い)……ッ』
そしてそれはズィーリアスのパイロットも同じだった。目の前のビルドラプター改がおぞましい物に見えていた、自分の名前も、自分が何をしたいのかも判らない。ただ苦しんでいるトリコロールの機体を見ていられなかった。助けたかった、触れれば何か判るかもしれない……そんな羨望に似た希望、その周りにいるビルドラプター改が目障りでしょうがなかった。
「リュウセイを返せッ!!」
『『お前は邪魔だッ!!』』
そこに技術はない、そこに知性はない、あったのは混じり気のない「殺意」そして「憎悪」と「恐怖」だけ……目の前の相手の存在を許せば自分が消えなければならない、自分が大切に思っている者を奪われる……それを互いに恐れ、白と黒は何度もぶつかり合うのだった。
「アラド、久しぶりだね。生きていてくれて嬉しいよ」
それはクエルボの嘘偽りのない気持ちだった。アラドが生きていた……本当ならば何よりも嬉しい事だ。だがそれは駄目なのだ、朱王鬼によって狂わされたゼオラはアラドを殺そうとする。
『ゼオラは意識を失っているようです』
「そうか、オウカ。そのままビルトファルケンを拘束しておいてくれ、レモン博士から預かっている外部からの武装ロックもしてくれ」
R-1……いや、リュウセイ・ダテがゼオラを解放出来るかもしれないと言うのはクエルボも虎王鬼から聞かされていた事だった。桁違いの念動力を持つリュウセイならば、朱王鬼の術を解除出来るかもしれない……それはクエルボも抱いていた希望だった。だがそれは目の前で打ち崩された。
(リスクがありすぎる)
朱王鬼はリュウセイも手中に納める為の罠を仕掛けていた……かりにゼオラを取り戻せたとしてもリュウセイが百鬼帝国の手中に落ちるののでは余りにも割に合わない。
『セロ博士……なんで邪魔をするんですか! オウカ姉さんだけじゃない、ゼオラも! セロ博士も一緒に来てくれればッ!』
「……アラド、気持ちは判る。私もそうした方が良いとも思う」
『じゃあッ!』
「だけど、ゼオラがアラドを、オウカを、ラトゥーニを殺すかもしれない。そしてその後に自殺するかもしれない……そんなリスクを私は背負えないんだ」
ゼオラはアラド、ラトゥーニ、オウカのいずれかの死で我に帰るという朱王鬼の言葉は嘘ではなかった。虎王鬼も間違いないとクエルボに告げていた。仮にここでハガネに向かったとしよう……そこでゼオラが誰かを殺したら? きっとゼオラはその罪に耐え切れず死んでしまう。肉体が生きていても、精神が死んでしまう。
『でも、でもッ! アギラの婆に鬼のいる所になんか俺は帰って欲しくない!』
「大丈夫、アギラはもう廃人寸前だから何も出来はしない。私達は龍王鬼という強い鬼の下にいるから大丈夫だ」
『だけど!』
「……アラド。今は駄目なんだ、私もオウカも鬼の所になんて帰りたくはない。だけど、それによって齎される悲劇を考えれば、今は行く事が出来ないんだ」
アラドの願いを、思いをクエルボだって無碍にしたくはなかった。だが今は出来ないのだ、アラドと会う事でゼオラの意識が戻る事を期待したがそれも駄目、リュウセイの念動力を頼りにしたがそれも駄目。
「私達もゼオラを元に戻す為に頑張る。だから今は追わないでくれ、ラトゥー二を助けるんだ」
ズィーリアスとの戦いで劣勢に追い込まれているラトゥーニを助けろとクエルボはアラドに告げる。今はゼオラを助けられない、ならば今助けれる命を救えと言われたアラドは苦しそうに言葉を搾り出した。
『……絶対、次は助けます』
「ああ。待ってるよ、アラド。私もオウカも、ゼオラもね……いや、それよりも先に私達がそちらに行くかもしれないな」
『……その時は皆に紹介する。じゃあ、またセロ博士』
アルブレード・F型が反転しビルドラプター改の元へと向かう。その姿を見て、クエルボは強くなったと思わず呟いた。
「オウカ、撤退準備だ。ハガネが来た」
ハガネ、シロガネの2隻のスペースノア級、そしてヒリュウ改の3機の連邦が誇る最強の戦艦が揃い踏む。更にL5戦役を潜り抜けた垣根なしのエースパイロット達が次々と出撃してくる。
『しかし、離脱出来るでしょうか?』
「いや、こちらも応援が来る」
クエルボの乗るラーズアングリフは特別製だ。元よりクエルボのPTやAMの操縦技術はルーキーに毛が生えた程度だ、ラーズアングリフは旧式で特別な操作などが必要ないこと、そしてホバーによる機動力の高さとその防御力による生存能力を期待し、偵察、そして戦闘データの収集に特化したカスタマイズをされている。本来ラーズアングリフが装備しているFソリッドカノンをオミットし、両肩のマトリクスミサイルは1サイズダウンし、ジャミング弾頭に換装され、背部と頭部に掛けて円形のパラボナアンテナのような、大型レーダーを背負っている。その高性能さの変わりに大きくなりすぎて、時代に逆行したアンテナには転移反応がしっかりと検知されていた……全身に鋭利な刃が生え、闇色の装甲と捻れた角状のアンテナは鬼を思わせる巨大な特機が時空を歪ませ、何十機と言うエルアインス、ゲシュペンスト・MK-Ⅱを従えてシャドウミラーの頭領「ヴィンデル・マウザー」そしてその搭乗機――ツヴァイザーゲインが時空を越えてハガネの前に現れるのだった……。
第91話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その4へ続く
大分長くなってしまったのでヴィンデル登場で話を切ろうと思います。想像より話が伸びてしまいましたが、その分読み応えはあると思うので許してください。ラトゥーニと戦いズィーリアス、そしてそのパイロットが何者なのかが明らかになるのかまだまだ先なので、正体がわかってもおくちにチャックでお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い