進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第91話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その4

第91話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その4

 

言葉に出来ない不信感と拒絶感を抱きながらズィーリアスと戦うラトゥーニはコックピットの中で乱れた呼吸を必死に整えようとしていた。

 

「くうっ!」

 

たった一息吸うだけ……それすら容易にする事が出来ない極限状態での戦い。ズィーリアスがコックピットに向かって突き出してくるビームエッジをエネルギー切れを起したビームライフルを盾にして防ぎ、その爆発に紛れて距離を取りやっと大きく深呼吸することが出来た。

 

「はぁ……はぁ……ま、不味い」

 

想像以上、いやそんな言葉で片付けられないほどにズィーリアスは強い。反射速度、攻撃力、機動力、そして防御力……その全てがビルドラプター改を完全に上回っていた。しかし、勝てないのは機体性能の差だけではない。打ち合えば打ち合うほどに、ビームライフルでの距離の奪い合いをする度に、ズィーリアスから感じていた違和感の正体、そして嫌悪感の理由が判り始めていた。

 

(なんでこんなにも似ているの……)

 

機体を操る操縦の癖、間合いの計り方――その全てが自分の物に酷似している。それはモーションデータを流用しているなんて言う言葉で容易に片付けられる物ではない。鏡合わせ……まるで自分がもう1人いるような感覚をラトゥーニは味わっていた。

 

「はやッ!? ぐっ!」

 

姿勢を低くしたと思った瞬間殆ど一瞬で獣へと変形したズィーリアス。その速度は人型の倍近く奇襲を警戒していたラトゥーニだが速度に耐え切れず体当たりの直撃を喰らいビルドラプター改が全身から火花を散らしながら吹き飛び、背中から地面に叩きつけられる。

 

「あぐっ!」

 

ズィーリアスの前足がビルドラプター改を押さえつけ、その牙をコックピットに突き立てようとしたしたその瞬間横殴りの一撃がズィーリアスの横っ面を捉えた。

 

『大丈夫か!? ラトゥーニッ!』

 

「あ、アラド……ありがとう、それとごめん」

 

死を覚悟したラトゥーニはアラドの救援に素直に感謝し、アルブレード・F型装備の手を借りて立ち上がる。ビルトファルケン、ラピエサージュの姿がないのを見て、自分を助ける為にアラドが引き返してきたと思いラトゥーニは謝罪の言葉を口にした。

 

『ラトゥーニは悪くねえよ。生きてれば次がある……次は絶対ゼオラもオウカ姉さんも、セロ博士も取りかえす……それよりビーストはかなりやばいか?』

 

「……多分私達だけじゃ勝てない」

 

偵察でエネルギーを消耗しているから徐々に反応速度が落ちている。それに対してズィーリアスはどんなカラクリか不明だが、戦う中でエネルギーを回復している素振りがある。こっちは弱体していくのに、相手は強くなっていく……2人で戦うにはズィーリアスは強すぎた。

 

『リュウセイは?』

 

「……気絶しているみたい」

 

『撤退は無理か、いや、ラミアさんが戦っているから元々撤退なんて出来ないけどよ……』

 

指揮官機を単独で押さえ込んでいるラミアを残して逃げれる訳が無く、鬼の精神攻撃を喰らい気絶しているリュウセイも残していけない……ラトゥーニとアラドは完全に詰み一歩手前の状況に追い込まれていた。

 

「来るッ!」

 

ズィーリアスが突っ込んでくる素振りを見せ、ラトゥーニとアラドが身構えた瞬間。ズィーリアスは突如反転し、R-1の元へと引き返す。

 

『無事か! アラド、ラトゥーニ、ラミアッ!!』

 

『ごめんね! 敵の攻撃が思ったより激しくて』

 

『『各機出撃せよッ!!!』』

 

アルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改からキョウスケ、エクセレンのラトゥーニ達の安否を気遣う声が響き、その後から空域に侵入して来たハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻の母艦から一気に友軍機が出撃する。

 

『R-1がッ!? ラトゥーニ何があった!?』

 

「鬼の罠に掛かったらしく意識不明! それに加えてビーストに鹵獲されていますッ!」

 

両腕が無く、カメラアイからも光が消えているR-1を見てライが状況報告を求め、ラトゥーニがすぐに何があったのかを説明する。

 

『部隊を分ける! ヴィレッタ大尉とライディース少尉はR-1の回収とラトゥーニ達の救出を! エクセレン、ブリットは俺に続け、ラミアを救出に向かう! カイ少佐、ギリアム少佐指揮ををお任せしますッ!』

 

キョウスケが矢継ぎ早に指示を飛ばし、救出に動き出そうとした。しかしそれはヒリュウ改からの警報で止められた。

 

『前方に空間転移反応ありッ!! 各機は警戒してください!』

 

『転移反応だとッ!? 罠に嵌められたかッ! キョウスケ中尉! 一時待機! 状況を把握後再び救助に入れッ!』

 

このタイミングでの転移反応の報告――それは罠に嵌められたと考えるのが当然であり、ラミア達の救出を行ないたいが囲まれる危険性が高いと判断したリーによって全員に一時待機命令が下される。

 

『アインスト……ッ!  いや、インスペクターかッ!?』

 

『いえ!  そのどちらの反応でもありませんッ!』

 

『更に熱源多数! その数約……45機ッ!』

 

『巨大な機動兵器の熱源も確認! 5秒後にこの戦域に出現しますッ!』

 

転移を行なう敵勢力は生物であり機械でもあるアインスト、そしてホワイトスターを制圧しているインスペクターのいずれかだと思っていたダイテツ達にエイタ達オペレーターの叫び声にも似た報告が続け様に響き、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の前方にツヴァイザーゲインを先頭にしてエルアインス、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍が姿を現す。機動兵器が大量に転移してきた事にキョウスケ達が驚く中、ギリアムだけは鋭い視線でツヴァイザーゲインを睨んでいた。

 

(やはりお前か、ヴィンデル……ッ)

 

あの転移反応は紛れも無く己の半身であるシステムXNが使われた物、そしてそれを持ち出せる者はシャドウミラーしかいない。己が危惧していた脅威が現れた事にギリアムはその眉をひそめる。百鬼帝国の復活、アインスト、インスペクターの襲来、そして己の罪の具現化……ギリアムが恐れていた全てがフラスコの世界に集まりつつあるのだった……。

 

 

 

 

 

 

ツヴァイザーゲインのコックピットの中からヴィンデルはハガネ達の戦力に目を走らせた。自分の記憶と合致しない機体が余りにも多い、新型のヒュッケバイン、そして自分達の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲとは異なるゲシュペンストの姿。そしてベーオウルフの搭乗機であったゲシュペンスト・MK-Ⅲとは掛け離れた面影だけを持つアルトアイゼン・ギーガの姿にヴィンデルは驚きを隠せなかった。

 

「なるほど、戦力は我々の世界よりも遥かに充実していると言うのは本当の事だった様だな」

 

もしもあれだけの戦力があればイージス計画を防ぐ事も出来た物をと己の世界を一瞬思ったヴィンデルだが、すぐに首を左右に振りその考えを捨て去る。

 

「存外私も人の子だったというわけか……」

 

生まれ育って世界を捨てる覚悟をし、実際に生まれ育って世界を捨てて異なる世界に来たと言うのに、まだ捨て切れない情があったかとヴィンデルは苦笑し頭を振り、アクセルからの通信に応じる。

 

『早かったな、ヴィンデル……『システムXN』の調子はどうだ?』

 

「通常転移は安定している。流石百鬼帝国と言った所だな」

 

イーグレットが無能だった訳ではない。しかしそれ以上に百鬼帝国の技術力が秀でていたと言うことだ。百鬼獣に使用されるパワーフレームや高性能のスラスターを搭載されたツヴァイザーゲインは飛躍的にその能力を上昇させていた。慢心しているわけでは無いが、このままハガネの戦力を制圧する事も可能だとヴィンデルは感じていた。

 

「ん? あれはアンジュルグ……か、乗っているのはW17か? アクセル」

 

『そうだ。 転移の影響か知らんが、少しおかしい……いきなり怒鳴るなよ? ヴィンデル』

 

アクセルからの警告に首を傾げながらラミアから詳しい情報を聞こうと思い、アンジュルグへと機密通信のコードを使い通信を繋げる。

 

『ヴィンデル様……その機体……まさか 完成しちゃったりしてなかったりしたりしなかったりしちゃうのでしょうですか?』

 

コックピットに響いたラミアの声にヴィンデルは眉をひそめ、声を震わせ怒りの形相を露にする。

 

「レモンの遊び道具ごときが、この私に対して……なんという口の聞き方をしているッ!」

 

『落ち着けヴィンデル。言ったろ? おかしいってな……言語系がやられているらしい。言葉遣いは気にするな。血圧が上がるぞこいつは、W17普通にしゃべって構わん、勿論俺と戦いながらだがなッ! Wシリーズよ、俺達の邪魔をさせるな、戦闘を開始せよ』

 

『了解ッ!』

 

ミラージュソードを失ったアンジュルグはイリュージョンアローを駆使し、ヴァイサーガのランスと鍔迫り合いを始め、アクセルの指示に従いWシリーズがハガネのPT達に襲い掛かる。乱戦になった事でヴァイサーガとアンジュルグが鍔迫り合いをしていても違和感は無く、まだ潜入活動を続けさせるつもりだったのでそれ自体はヴィンデルにとっての何の問題もなかった。

 

『……ヴィンデル様。ツヴァイザーゲイン……安定しているように見えるが、まさか完成したというのか?』

 

だが人形と見下しているラミアからのタメ口にヴィンデルの苛立ちは徐々に募り始める。

 

「その通りだ。見ての通り、通常転移機能に問題はないが、何かお前にとって問題でもあるのか?」

 

『何故鬼と手を組んだのだ? あれはアインストとインベーダーと大差がない、いつ我々を裏切るか判らんぞ』

 

『ふっ、どうもこいつは俺達が百鬼帝国と手を組んでいる事が気に食わないそうだぞ、ヴィンデル』

 

アクセルのからかうような口調にますますヴィンデルは苛立ちを覚える。人形であるW-17がヴィンデルに意見する。それは許されないことであった、部下は上官の言う事を聞き、たとえ死ねと命じられてもそれに従うのが部下のあり方だとヴィンデルは思っていた。あちら側ではカーウァイとイングラムの顔を立てていたが、性格的にどうしても受け入れられない事がある。

 

「人形の分際で何を言っているのか理解しているのか? W-17」

 

『人形であろうと意見はする。かつての二の舞になるような真似をしようとしている上官をたしなめるのは当然だとは思わないか? ヴィンデル』

 

アンジュルグの蹴りがヴァイサーガの胴を捉え蹴り飛ばすと同時に反転し、ミラージュアローの3連射をヴァイサーガに向かって放つ。

 

『ぐっ! この程度で俺を倒せると思うなよ!』

 

ヴァイサーガの肩を正確に狙ったアンジュルグだが、シールドで受け流しランスチャージをアンジュルグに向かって繰り出す。

 

『それはこちらの台詞だ。そう簡単に私を倒せると思わないことだッ!』

 

アンジュルグとヴァイサーガの戦いを見ていたヴィンデルはある違和感を気付いていた。怪しまれないように戦闘の振りをしているのではない、アクセルもラミアも本気で目の前の相手を敵とみなし、打ち倒そうとしているのが伝わってくる。

 

「これはどういうつもりだ? W-17?」

 

ヴァイサーガと戦っていたアンジュルグがツヴァイザーゲインに向かってミラージュアローを放った。牽制程度の意味合いだったのか、簡単に受け止めることが出来たヴィンデルだが、人形と見下しているラミアに攻撃された事にヴィンデルの額に青筋が浮かんだ。

 

『折角ここまで来たんだ。実戦テストに付き合おうと思ったのだが、余計なお世話だったか?』

 

「良いだろう、そこまで言ったのだ。ツヴァイの実戦テストにはW17……お前に付き合ってもらうぞ。それにトラブルとは言え、人形如きに不遜な口の利き方をされるのは不愉快でな。ここで破壊される事も覚悟して貰おう」

 

安い挑発と判っていたが、今までのラミアの不遜な口の聞き方に苛立ちを覚えていたヴィンデルはラミアの安い挑発に自ら乗った。これがラミアだけならば無視していたが、アルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改、そして新型のゲシュペンスト・MK-Ⅲが揃った事でベーオウルフと戦い、直にその戦闘データを取る事をヴィンデルは選んだ。

 

『1人で戦う等と言うなよ。ここまでお膳立てされて俺はみすみす引かんぞ』

 

「判っている。ベーオウルフとこちら側のキョウスケ・ナンブの違いを確かめる良い機会だ。良く見極めていけ」

 

アクセルとキョウスケの因縁はヴィンデルも十分理解している、そしてそれは勿論ヴィンデルも同じだ。ベーオウルブズに何度も舐めさせられた辛酸を思い出し、アルトアイゼン・ギーガを睨みつける。

 

『連邦軍特別任務実行部隊『シャドウミラー』指揮官、ヴィンデル・マウザー大佐……』

 

既に眼中になかったラミアの言葉にヴィンデルは眉を細めた。

 

『実戦テストだと言ったな、不幸な事故が起きようが私に何の非もない、何があっても恨まないで貰おうか……ッ!』

 

「人形風情が面白い事を言う……W17ッ!」

 

『お前こそ何があっても俺達を恨むなよッ!』

 

ラミアの挑発に乗ったわけではない、だが人形と見下している相手からの挑発、そして世界は違えど自分達の因縁の相手であるキョウスケを前にし、アクセルとヴィンデルはアルトアイゼンにこの場にいないゲシュペンスト・MK-Ⅲを重ねて見てしまっているのだった……。

 

 

 

 

 

機能を停止しているR-1を救出する為にライとヴィレッタだけではなく、リオやリョウトも動き出した。だがズィーリアスと対峙しているのは左のハイゾルランチャーを失ったR-2パワード。そしてラルトスの開発したデスペラードユニットを装備した、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDだが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDは右腕に装備しているシールドガトリングユニットの銃身を失い、右腕も肘から下を失い火花を散らし、戦闘力を大幅に失っている。武装は失っていないがエネルギーと弾薬が半分を切っているビルドラプター改とアルブレード・F型装備の4機だけがズィーリアスと対峙する事が出来ていた。

 

「ちいっ! なんだこれはッ!」

 

当然カイ達も応援に向かおうとするが、近づいた瞬間凄まじい衝撃を受け、火花を散らしながらゲシュペンスト・リバイブ(K)の巨体が弾き飛ばされる。いや、それだけではなくメガ・プラズマステークが拉げ、それでもリュウセイを助ける為に再アタックしようとするカイにヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのリョウトがそれを静止する為に通信を繋げる。

 

『カイ少佐! 無理をしないでください! これは桁違いに出力の高い念動フィールドです! 下手に突っ込めばライディース少尉とヴィレッタ大尉の二の舞ですッ!』

 

R-2パワード、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDはズィーリアスの展開した念動フィールドに切り裂かれ、戦う前に武装を失った。視認出来るほど強力な念動フィールド、そしてそれを攻撃と防御に同時に使用出来る――それはリュウセイの高レベルの念動力と、アヤの精密な操作を併せ持っているという事を示していた。

 

『メガバスターキャノンッ!!』

 

『ギガワイドブラスタァァアアアアアーーッ!!』

 

直接攻撃が駄目ならばとゲシュペンスト・リバイブ(S)のメガバスターキャノンとジガンスクードのギガワイドブラスターが直撃するが、ズィーリアスの展開している念動フィールドは全く揺るがない。その信じられない光景にこの場にいる全員が絶句した、直撃すれば戦艦ですら轟沈させる一撃を2回も喰らってもブレイク出来ないバリアという信じられない光景を見てカイとギリアムの2人は今はあのバリアを突破出来ないと悟らざるを得なかった。

 

『カイ少佐、ギリアム少佐! 流石にこれ以上はこっちも持たないぜッ!』

 

『数が多すぎるッ!! ぶっ潰してもぶっ潰しても増援が来やがる!』

 

イルムとカチーナが指揮を取っていたがエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍を相手にするには戦力が足りなかった。ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の防衛にも機体を回さなければならない。

 

『サイフラァァッシュッ!!!』

 

『こいつでぶっとびなッ! サイコブラスターッ!!!』

 

サイバスターとヴァルシオーネのMAPWによって一時はエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱが止まる。だが撃墜した数以上のエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱが再び姿を見せる。

 

『くそ、こいつら何体いるんだッ!?』

 

『流石にこれ以上はサイコブラスターも使えないよッ!?』

 

広範囲攻撃であるが故に消耗の激しいサイフラッシュとサイコブラスターを連射し、サイバスターとヴァルシオーネのエネルギー量は危険域を迎えようとしていた。

 

『くっ! これはまずいですわねッ!』

 

『数が多すぎるッ!』

 

ハガネやシロガネを直接撃墜しようとしているのか対艦ライフルやレールガンを装備している個体も姿を見せ始め。ガーリオンに乗っているレオナと艦橋に乗って直援をしていたラッセルの焦りの声が響く。ズィーリアスの危険度を把握し、R-1の救出を最優先したが、それが完全に裏目に出ようとしていた。

 

『計都瞬獄剣ッ!』

 

『クスハッ! 道は私が作るから、対艦レールガンを装備しているのを落としてッ!』

 

『あ、あたしも手伝うよッ!!』

 

それでも完全に劣勢に追い込まれていなかったのは、AMガンナー、そしてアステリオンがその高機動を生かし、対艦レールガンやライフルの発射を妨害し続けていたからだ。だが数がこれ以上増えればそれも難しくなる……。

 

『カイ少佐、こっちは俺が何とかする。カイ少佐は……』

 

『いえ、その必要はないわ。カイ少佐、ギリアム少佐。こっちはこっちで何とかするわ、ハガネを優先して頂戴』

 

ヴィレッタの言葉を聞いてカイとギリアムは一時、バリアの破壊を断念すると言う決断を下す。

 

「聞いてたわね、ライ、ラトゥーニ、アラド。私達だけでビーストを突破するわよ」

 

『了解です、大尉』

 

『了解しました』

 

『……やるっきゃねえかッ!』

 

念動フィールドによって分断されているが、逆を言えば念動フィールドによってズィーリアスの機動力も失われている。4機で戦術を組んで戦えば十分に対応出来るとヴィレッタは判断していた。

 

「ラトゥーニ、アラド。悪いのだけど、前衛をお願いするわ。私とライでビーストの動きを制限する、狙いはあの背中の翼よ」

 

背中の翼がズィーリアスのT-LINKセンサーの出力を倍増させているアンテナだとヴィレッタは判断し、翼を狙うように指示を出す。

 

「作戦会議はここまでッ! 臨機応変に対応してッ!」

 

背部から射出された菱形のビット、それが高速で動き出すのを見てヴィレッタはそう指示を飛ばし。ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDを操りながら眉をひそめた。

 

(私はこの状況ではかなり不利ね)

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDは足を止めての射撃、もしくはフライトユニットと脚部の下駄状の追加装甲を併用し、高速ホバーによって機動力を確保している。だがその性質上移動範囲が狭くなれば十分な加速の範囲を得ることも出来ず、デスペラードユニットを使用すれば味方も巻き込みかねない。左腕に残されたシールドガトリングユニットで弾幕を張りながら右へ左へと移動する。

 

『ッ』

 

「やっぱりね……私達じゃ不利ね」

 

『そのようですね……』

 

ビームと実弾を突き出した腕から発生した念動フィールドで防ぎ、そのまま腕を振り上げ念動フィールドを刃として振るうズィーリアス。それをシールドガトリングユニットで受け止め、そのままの勢いで後ろに向かって飛びミサイルを撃ち込むゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRD。ズィーリアスはさっきと同じ様に念動フィールドで防ごうとする、だがヴィレッタは元々ミサイルを命中させるつもりは無く、急速に勢いを失ったミサイルはズィーリアスの足元で炸裂し、煙幕を作り出す。

 

『切り裂けッ! ビームチャクラムッ!!!』

 

煙幕を突っ切ってR-2パワードの射出したビームチャクラムがズィーリアスの胴を捕らえる。だがビームチャクラムはズィーリアスの装甲を切り裂く事無く霧散する。

 

『対ビームコートかッ!?』

 

「少し違うかもしれないけど、ビーム系の武器は余り効果がないみたいね」

 

ビームチャクラムを無効化しているのは特殊な装甲による物だとヴィレッタは判断した、念動フィールドに加えて特殊な装甲を非常に強固な装甲をズィーリアスは有している。

 

「でも、それは計算の内よ」

 

ヴィレッタが小さく呟いた瞬間、ズィーリアスの背部が爆発し、たたらを踏んだ。念動フィールドで防がれることを前提にし、ミサイルの爆発によって生まれた煙幕を隠れ蓑にし、そしてR-2パワードのビームチャクラムすらも捨て駒にし、射出したスラッシュリッパーを本命にしていた。

 

『いっくぜぇッ!!!』

 

『今ッ!』

 

瞬発力に長けたアルブレード・F型とビルドラプター改はその隙を見逃さず、一気に懐に飛び込みブラストトンファーとコールドメタルナイフを振るう。

 

「させないわ!」

 

『防ぎたければ防げばいい。防げる物ならなッ!』

 

特殊な装甲とバリアと言うのは確かに己の身を守る物になる。だがそれは時に己の首を絞める結果にも繋がる、R-2パワードとゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDの攻撃を防ぐ為に展開された念動フィールドとズィーリアスの装甲によって防がれ、霧散したビームの熱がチャフの効果を果たす。コンマにも満たない一瞬だが動きを止めたズィーリアスにブラストトンファーの一撃が叩き込まれる。しかしその光景を見てもヴィレッタの顔は決して明るい物ではなかった。

 

「これも何時まで通用するか判らないわね」

 

被弾した瞬間にズィーリアスの動きが変った。無人機かパイロットがいるのか判らない、だが時間が経てば経つほどその動きを変えるズィーリアス。

 

『こいつもうこっちの動きにッ!?』

 

『あと少しなのにッ!』

 

アラドとラトゥーニの動きを模範したのか、遠距離攻撃に加え至近距離と中距離攻撃を組み合わせ、ラトゥーニ達だけではなくヴィレッタ達にも圧力を掛けてくるその姿を見て、ヴィレッタの背中に冷たい汗が流れるのだった……。だがヴィレッタの不安と警戒は全く無意味な物だった……模範しているのではない。ズィーリアスはビルドラプターも、アルブレード・F型装備もR-2パワードもゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDも既に敵とみなしていなかった。

 

『ヴァイサーガ……アンジュ……ルグ……ベーオ……ウル……フ』

 

この場に本来この世界で生まれる筈のない機体が一堂に会した。その光景はズィーリアスのパイロットを強く刺激した、激しい頭痛とラトゥーニに向けていた殺意を遥かに上回る憎悪……外の光景を写すモニター以外の光が何も無い闇の中で蒼と金色に輝くオッドアイだけが、まるで人魂のように浮かんでいるのだった……。

 

 

 

 

ランスとリボルビングバンカーがぶつかり合い凄まじい火花と轟音を響かせる。コックピットにまで響いて来るその衝撃にキョウスケはその眉を顰めた。

 

『キョウスケッ! 大丈夫ッ!?』

 

「俺の事は良いエクセレン。ラミアとブリットのフォローをしてくれ。こいつは俺が抑える」

 

心配そうな声を出すエクセレンに向かって俺よりもラミアとブリットのフォローに入るように頼み、キョウスケは紅いカメラアイを輝かせるヴァイサーガに再び視線を向けた。念動力が無くともキョウスケにはアクセルの肌に突き刺すような鋭い殺気、そして敵意がひしひしと感じられていた。

 

「何者かは知らんが……俺の前に立ち塞がるのならば打ち貫くのみッ!!」

 

アルトアイゼンという機体は最大攻撃力を得る為に加速する為の距離を必要とすると言う欠点があった。しかしそれはギーガユニットに搭載されているテスラドライブによって大幅に改善されている。勿論パイロットの負担は度外視だが機体を僅かに浮遊させてからの全身のスラスターと背部のフライトユニットによって、最大加速に入るまでの距離と時間が今までの半分ほどに軽減されている。0から10の爆発的な加速と共に繰り出されたリボルビングバンカーの一撃はアクセルの見たことのない速度だった。

 

「なッ!? ぐうッ!」

 

最初のぶつかり合いでヴァイサーガが自分の動きの癖を把握している事に気付いたキョウスケは、あえて改良型のリボルビングバンカーを使用しなかった。テスラドライブ・フライトユニットの合わせ技による爆発的加速による突撃はアルトアイゼン・ギーガの最大攻撃の1つであった。しかしだ、その速度は諸刃の剣……カウンターを合わされれば大破するのは己自身……故に切るタイミングをキョウスケは慎重に測っていた。

 

「これでも決まらんかッ!!」

 

「舐めるなよッ! ベーオウルフッ!!」

 

完全に奇襲のタイミングだった。だがアクセルはそれに対応して見せた盾を構えるのではなく、アルトアイゼン・ギーガに向かって、合えて突撃した。シールドチャージとリボルビングバンカーがぶつかりあり、僅かにリボルビングバンカーの切っ先がそれた。それによって肩にリボルビングバンカーが突き刺さり、肩の装甲を弾き飛ばされたが両腕は健在だ。シールドを捨てたヴァイサーガの拳がアルトアイゼン・ギーガの顔面に叩きつけられる。

 

「うぐっ!?」

 

センサーとモニターを狙っての攻撃でコックピットにノイズが走り、キョウスケは一瞬ヴァイサーガの姿を見失う。

 

「もう1発もって行けッ!!」

 

勿論ヴァイサーガも強固になったアルトアイゼン・ギーガの装甲を殴りつけて無事な訳が無い。拉げて、指がつぶれシールドをもう装備できないと悟ったアクセルは躊躇う事無く盾を捨て、前蹴りをアルトアイゼン・ギーガに向かって叩き込んだ。

 

「悪いが良いようにやられるつもりはないッ!!」

 

左腕の装甲が展開し、そこから放たれた小型クレイモアがアルトアイゼン・ギーガとヴァイサーガの間で兆弾を繰り返し、互いの装甲を容赦なく抉る。

 

「ぐっ……なるほど、俺の知るベーオウルフよりも強いな。これがな」

 

「こいつ何者だ、何故ここまで俺のモーションを知ってる」

 

アクセルはアインストに完全に変異する前のベーオウルフより強いと獰猛に笑い、キョウスケは何故ここまで自分の動きに対応できるのかと困惑を隠せなかった。ランスを手に再び突撃しようとするヴァイサーガとそれを迎え撃つ為にアルトアイゼン・ギーガがリボルビングバンカーを構えたとき、アンジュルグ、ヴァイスリッター、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムと戦っていたツヴァイザーゲインが転移で割り込み、ヴァイサーガのランスをその手に掴むと同時に転移し、アルトアイゼン・ギーガの前から離脱する。

 

「ヴィンデル邪魔をするな」

 

『これは威力偵察だ。エルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱを50機使い潰した、これ以上は被害が大きすぎる』

 

ツヴァイザーゲインの装甲にも深い切り傷があり、修復されているが相当追い込まれていたのが判ったアクセルだが、不機嫌そうに舌を鳴らす。

 

『それともあれに巻き込まれるつもりか?』

 

ズィーリアスがどす黒いオーラを撒き散らしながら暴れている光景を見て、アクセルはやっと操縦桿から手を放した。

 

「力のそこは見れていないが良いだろう、こちら側のベーオウルフはまだアインストに寄生されていない。それが判れば御の字だ」

 

『判った用で何より、転移するぞ』

 

納得はしていないが、邪魔者があれだけいては戦いにはならないと判断したアクセルに頷き、ヴィンデルは短距離の転移を行なう為のコードを入力する。その時だった、イーヴァリアスから憎悪と殺意に満ちた女の声が周囲に響き渡ったのは……。

 

『『殺してやる! 殺してやるッ!!! お前だッ! お前が殺したッ!!! お前が殺したんだッ!!! ベーオウルフゥゥウウウウッ!!!!! 死んで詫びろッ!! 殺してやるッ!!! うああああああああッ!!!!!』』

 

ツヴァイザーゲインがヴァイサーガの肩に手を当てて、転移するまでの数十秒。暴れ回るズィーリアスのから響いた声にヴィンデルとアクセルは動きを止めた、だが発動している転移を止める事が出来ず怨嗟の叫び声を聞きながらアクセルとヴィンデルはライノセラスへと帰還した。

 

「あの機体のパイロット……俺達の仲間か?」

 

「いや、知らない機体だが……面白いことになって来たようだな」

 

転移する瞬間にズィーリアスも転移しその場から消え去っていたが、アルトアイゼン・ギーガを、キョウスケをベーオウルフと呼ぶ女の声……それは自分達と違う方法で転移してきたのか、それともこちら側に辿り着けなかったシャドウミラーの構成員のいずれかが敵討ちの為に行動していたことを示しており、アクセルとヴィンデルはほかにもまだ仲間がいるかもしれないと小さく笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

転移で消えたツヴァイザーゲインとヴァイサーガ、そして強制的に回収されたように見えるズィーリアス。それら全てが転移で消えた……その信じれない光景にキョウスケ達はしばし放心していた。

 

『おい、キョウスケ。ベーオウルフって何だ? お前の渾名か?』

 

「いえ、そんな名で呼ばれた事は1度もありませんイルム中尉」

 

『だとしても、あれだけの恨み節だぜ? 尋常じゃねえぞ』

 

キョウスケをベーオウルフと叫び、身も凍るような怨嗟の叫び声を上げ続けていた姿は尋常ではないとカチーナが告げる。転移で消えた敵勢集団とキョウスケに尋常じゃない恨みを抱く女の声……ノイエDC、アインスト、インスペクターという脅威に加え、転移で現れる新たな敵の存在にキョウスケ達の顔色は悪い。

 

『あの鎧騎士とビーストは仲間なのでしょうか?』

 

『転移で消えたからって同じ組織と思うのは早計だ。それに余りにも機体の形式が違いすぎる』

 

『じゃああれか? 宇宙人か?』

 

『それも違うだろ。エルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱが従っているように見えた。あれも地球人だと俺は思うぜ』

 

戦いがあったとは思えない静寂が広がった。その静寂は今までの戦いが夢か幻のように思わせるほどの静まりようだったが、周囲に広がる破壊の跡が現実だと言う証明だった。

 

『ビーストの件は気になるが、今はR-1の回収し、アビアノ基地へと帰還する。各機着艦せよ』

 

シロガネのリーからの指示に着艦していく仲間達、だがキョウスケだけはその場に止まっていた。

 

(どういうことだ)

 

蒼い鎧騎士は自分の事を知っていた。攻撃の挙動、間合いの計り方……その全てを完全に把握していた。だがキョウスケの知り合いにあんな殺気を出す者はいない。

 

ビーストもそうだ。自分を仇と呼び、凄まじい憎悪を叩き付けてくる謎の女……人違いなどではなく、あの女は間違いなくキョウスケを憎み、そして殺そうとしていた。

 

(武蔵と同じなのか……?)

 

過去から未来ではない、未来から過去にやってきた敵なのか? これからキョウスケが行なう何かが……。

 

『キョウスケ、帰還しましょう』

 

「……ああ。判った」

 

考えにふけるキョウスケにエクセレンが声を掛け、思考の海から引き上げれたキョウスケはエクセレンと共にハガネに引き返したが、キョウスケの胸中にはどうしても割り切れないしこりが残っているのだった……。

 

 

 

第92話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その5へ続く

 

 

 




次回の前半で状況整理、後半ではキョウスケ達がツヴァイザーゲインと戦っている間に武蔵が日本で戦っていたと言う話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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