第93話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その6
伊豆基地を揺らしたのは多数の百鬼獣によるミサイルの絨毯爆撃だった。
「被害はどうなっている!?」
応接間から司令室に駆け込んで来たレイカーが伊豆基地への被害を尋ねる。しかし帰って来た返答は予想外の物だった。
「周辺都市及び伊豆基地への被害はありません! 撃ち込まれたのは模擬弾頭です!」
「何? 模擬弾頭だと!?」
訓練で用いられる模擬弾頭――超大型のクラッカー、もしくはペイントボールによる攻撃だと聞いてレイカーはその目を見開いた。
「敵機はどうなっている」
「沈黙中です。司令、しかし……今まで確認された百鬼獣とは全て一線を画す姿をしております」
司令室のモニターに映し出される百鬼獣はサカエの言う通り今まで確認された百鬼獣とは全く違う姿をしていた。今までの百鬼獣はずんぐりとしていて、巨大な姿をしている物が多かった。強いて言うのならばゲッターロボに似ていると言ってもいい、板金を丸めるや、巨大な装甲の中に無数の部品を詰め込んだ……言い方は悪いがブリキ人形のような姿の百鬼獣が大半を占めていた。だが伊豆基地を取り囲んでいる百鬼獣はその全てがグルンガスト等の特機に類似した特徴を持つ新型の百鬼獣だった。
グルンガストに良く似たシルエットをした鋭利な装甲を持つ「百鬼獣 闘龍鬼」
細身でサイバスターを連想させる腰に2振りの剣を携えた「百鬼獣 風神鬼」
背中に2つの砲台、両肩にそれぞれ2門ずつのレールガン、シールドと一体化したガトリングガンが肘から下に直接装着されているジガンスクードに良く似た姿をした「百鬼獣 雷神鬼」
逆立った金髪とこめかみから伸びた捻れた巨大な二本角と、背中に異形の日本刀を背負ったどことなくヒュッケバインに似た鎧武者のような装甲を持つ人型の鬼「百鬼獣 闘刃鬼」
ハガネを大破寸前に追い込んだ金色の龍……「百鬼獣 龍王鬼」
亀のようなシルエットをした戦艦の上で唸り声を上げる白銀の虎「百鬼獣 虎王鬼」
計7体の百鬼獣が伊豆基地を取り囲んでいた。たった7体と思うかもしれないが、単騎でハガネを轟沈寸前に追い込んだ龍王鬼、そしてシャインを救出する際に闘龍鬼と戦った武蔵は完全に互角の勝負をしていた事を思い出し、不味いなと呟いた。
「伊豆基地を……いや、日本を制圧しに来たか」
通常の百鬼獣ですら並の連邦軍では戦う事は不可能に近い。百鬼獣と同等に戦えるのはハガネやシロガネだが、今はヨーロッパにいるので救援に来ることも不可能だろう。
「援軍は期待出来ないですね」
ここで伊豆基地にとってマイナスに働くのはDC戦争、L5戦役で主軸になった基地という事で、SRX計画、ATX計画に反対意見を抱いている相手からの受けが悪い。仮に救援要請を出してもそれが届くまでに伊豆基地が壊滅するのは目に見えていた……しかしその最悪の結果は龍王鬼の声で覆された。
『最強の鬼が最強の男に挑みに来たッ!!! 巴武蔵! 俺様と勝負しやがれぇぇッ!!!!!』
伊豆基地の窓を揺らすほどの凄まじい咆哮が龍王鬼から発せられる。
「どうもオイラを指名しているみたいですね」
「ま、待て! どう見てもこれは罠だッ! 袋叩きに合うぞッ!」
司令室を出ようとした武蔵にサカエが待てとその肩を掴んだ。
「大丈夫ですよ。サカエさん、他の鬼なら信じないっすけど、あいつは違う。オイラにダイテツさん達が危ないって教えてくれた鬼だ。嘘は言ってないと思います」
「信じられるのか?」
「騙されたらオイラが間抜けってことですね。一応念の為にアヤさん達に基地を守ってもらってくださいレイカーさん。百鬼獣はオイラが何とかしますから」
そう笑って司令室を出て行く武蔵はスピーカーからスクランブルの要請が掛かっているのを聞きながら、格納庫へと走るのだった……。
警報を響かせている伊豆基地を見つめながら龍王鬼は首を傾げた。
「出てこねえな? 逃げるような奴だとは思いたくないんだが……」
『龍王鬼様、やはり私達がいるからでは?』
『……その可能性は高いかと……』
風神鬼からは女の声が、雷神鬼からはしゃがれた男の声が響いた。
「んなこと言ってもよ、風蘭達もジッとなんかしてられねえだろ?」
風神鬼のパイロット風蘭は龍王鬼の言葉にその通りですけどと苦笑し、それに続き雷神鬼のパイロットである龍玄も困ったように笑った。
『いえ、武蔵はその程度では引きません。我々に備えて根回しをしているのでしょう』
『そっか、お前は武蔵と戦ったんだったな、三角……いや闘龍鬼だったな、もっとマシな名にすればよかったではないか』
『闘龍鬼は我が半身、なれば我が名も闘龍鬼以外ありえん』
以前は三角鬼と呼ばれていた鬼はリクセント制圧の公により、その階級を上げ名前持ちへと昇格したが、己の百鬼獣と同じ闘龍鬼という名を冠する事を決めた闘龍鬼に、闘刃鬼に乗るヤイバは肩を竦めた。
『ま、俺も人の事は言えないけどな。それでどうします? 虎王鬼様、ゲッターロボ出てこないんじゃないですか?』
『いえ、心配ないわ。もう来てる』
虎王鬼の来てるという言葉を尋ね返す間もなく、地響きを立ててポセイドン2が鬼達の前に降り立ち、伊豆基地の内部にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムとタイプTT、そしてエリシオネスが姿を見せ警備体制に入る。だが鬼達はPTには目もくれなかった、ポセイドン2から溢れる闘志、その力強さに戦いたいという欲求が生まれる。
「おいおい、俺様の相手だぜ。てめえらは大人しく見てろよ」
龍王鬼はその闘志を感じ取り、釘をさしてからポセイドン2の前に出る。
「良く応じてくれた。武蔵、俺は嬉しいぜ」
『そうかい。まぁお前には借りがある、借りを返すだけだ』
武蔵のぶっきらぼうな言葉に龍王鬼は笑う。自分が勝手なことをしただけだが、それを恩と感じ、決闘に応じた武蔵に自分の行いは間違いでは無かったと声を上げて笑う。
「安心しろよ、他の奴らに邪魔はさせねえ。俺と虎、それとお前との勝負だ。手は出させねえよ」
『そうか。なら始めるか……言っておくが、オイラはここでお前を倒すつもりだぜ』
燃えるような闘志、そして自分を倒すと言う強い意志を感じ龍王鬼は声を上げて笑い、その目に燃え盛る闘志を浮かべ、牙をむき出しにしてポセイドン2を、そしてそれを操る武蔵を睨んだ。
「行くぜ虎ッ!」
『ええ、良いわよ、最初から全力で行きましょうか』
「滅神雷帝ッ!!」
『神魔必滅ッ!!』
伊豆基地周辺を雲が覆いつくし、漆黒の雷鳴と暴風が伊豆基地周辺を襲う。
『うっ……』
『くうっ……ま、マイ! 大丈夫ッ!?』
『な、なんとか……でも……苦しい』
『ううぅ……なにこれぇ……ぎもちわるいぃぃ……』
念動力者であるマイとアヤを襲う強烈なプレッシャーは、念動力を持たないホルレーさえも襲い。伊豆基地の兵士やレイカー達も余りの頭痛と不快感にその場に膝をついていた。
「『邪念合一ッ!!』」
一際大きい稲妻の中に龍王鬼と虎王鬼が消え、稲妻を内部から破裂させながら金色の魔神が産声を上げる。
「無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼推参ッ!!」
『ガアアアアアアアッ!!!!』
龍王鬼の名乗りに呼応するように龍虎皇鬼の雄たけびが周囲に響き渡る。威嚇の為の咆哮ではない、この叫び声自身も攻撃なのだ。戦うに値しない者の闘志を折り、戦う気概の無い者を退ける選別の咆哮。
(さぁどうだ、武蔵ッ! お前はどちらだ)
アヤ、マイ、ホルレーと伊豆基地の者は龍王鬼の基準に置いて敵とすら見做されなかった、だが武蔵はどうだ? と龍王鬼は機体を込めた瞳でポセイドン2を見つめる。そして武蔵の返答は龍虎皇鬼の顔面を打ち砕かんする剛拳だった。
「クハッ! いきなりやってくれるじゃねぇか!」
『先に仕掛けてきたのはそっちだろ? がたがた言ってんじゃねえッ!!!』
連続で振るわれる拳を防ぎながら龍王鬼はますます笑みを深める。戦えぬ者はその闘志を折る、しかし戦う者はその咆哮によってその闘志を燃え上がらせる――それが龍虎咆哮の効果だった。
「はっ! んなもん言う訳ねえだろッ!!! オラアッ!!」
『うおらああッ!!!』
龍虎皇鬼とポセイドン2の拳がぶつかり合い凄まじい衝撃音を響かせる。それが戦いの合図となり、龍虎皇鬼とポセイドン2の戦いが幕を開けるのだった……。
その日。日本中に凄まじい轟音と振動が響き、各都市のあちこちで避難勧告が飛び交った。その振動と轟音に地震、もしくはノイエDCの侵攻を誰もが予感した。しかし、それは地震などではなく海神と魔神のぶつかり合いによって生まれた戦いの余波であった。
『うおらぁッ!!!』
『おらあああああッ!!!!』
ポセイドン2と龍虎皇鬼の右拳と左拳がぶつかり合う。言葉にすればその一言だが、互いの拳が音速を越え、しかも互いに90mに迫る超巨大特機――その余波は日本のみならず、日本海、太平洋にまでその轟音を響かせていた。
「くうッ!! マイ! ホルレー! 大丈夫ッ!?」
『な、なんとかッ』
『ふ、吹き飛ばされないようにするだけでやっとだよぉ』
その衝撃の余波を1番受けているのは伊豆基地である。2機が動くだけで生まれる衝撃波はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03カスタム、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTT、そしてエリシオネスを容易に弾き飛ばしていた。
『ハッハーッ!! こいつでぶっ飛びなッ!!! 龍虎双掌ッ!!!』
『がはぁッ!?』
どす黒いエネルギーを纏った龍虎皇鬼の両手の掌底がポセイドン2の胴を穿ち、その巨体を吹き飛ばす。
「行って! シールドビットッ!!」
ポセイドン2が倒れ込んだことで発生した大津波を見て、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03のシールドビットが受け止める。だが完全にそれを受け止めることが出来ず、伊豆基地のあちこちで警報が鳴り響いた。
『この程度で死んでくれるなよッ!!!』
龍虎皇鬼の巨体が宙を舞い、エネルギー刃を展開した鋭い回し蹴りが立ち上がったばかりのポセイドン2に迫る。
『舐めんなッ!!!』
『うおッ!? うぐああッ!?』
エネルギー刃を作り出している足先を避けて足首を掴んだポセイドン2がその両腕を振り上げる。それによって龍虎皇鬼が上空に振り上げられ、そしてそのままの勢いで海に叩きつけられる。再び発生した津波を見て、アヤは自分に出来る事はポセイドン2、そして龍虎皇鬼のぶつかり合いで生まれる余波を受け止めることだけだと悟った。
『おらぁッ!!!』
『ぐうっ!?』
倒れている龍虎皇鬼の頭を踏み潰すと言わんばかりにポセイドン2が足を振り上げ、踵落としを叩き込む。
『つぶれちまえッ!!!』
『冗談言えやあッ! こんな楽しい戦いをそう簡単に終わって堪るかよぉッ!!!』
踏み潰そうとするポセイドン2、その足を跳ね返そうとする龍虎皇鬼――そこに割り込む余地など無く、この場にいる全員がただの傍観者であった。下手に割り込めば、その瞬間に死ぬ。快楽主義で享楽主義の戦闘狂のホルレーでさえも、動いたら死ぬと判っているから動けなかった。
『ぐあッ!!!?』
『ハッハーッ!! 龍虎皇鬼には尻尾があるんだぜッ! 武蔵ぃッ!!!!』
龍虎皇鬼の尾が背後からポセイドン2の背中を殴りつけ、ポセイドン2がバランスを崩した隙にポセイドン2の足から逃れた龍虎皇鬼は両腕だけで身体を支え、カポエラのように回し蹴りを叩き込み、その反動で距離を取ると同時に両腕で身体を跳ね上げ、飛び膝蹴りをポセイドン2の顔面に叩き込んだ。
『ちょこまかと動きやがってッ!!』
『違うぜ、お前が遅いんだッ!!』
攻撃力と防御力はポセイドン2の方が上だ。だが龍虎皇鬼はその瞬発力と手数の多さでポセイドン2の上を行っていた。
『おらおらッ!!! 行くぜ行くぜ行くぜッ!!!』
両足の装甲が分離して作り出された三日月刀を振り回す龍虎皇鬼は完全に勢いに乗っていた。近接特化の相手と戦う上で1番不味いのは相手の流れに巻き込まれる事――防戦一方になれば、そこを巻き返すのは至難の業。特にそれが目に見えて白兵戦特化、そして気力に左右されるタイプの龍王鬼では相手の勢いに飲み込まれたら負けと言うのは判りきっていた。ゲッターロボならば、1度分離して再合体して流れを変える事も出来る……アヤはそう思っていたのだが、戦いを見ていてどうして分離しないのかを悟った。
(……オープンゲットしないんじゃない、出来ないんだわッ!?)
武蔵としてもオープンゲットをしたいのだろう。だが自動操縦のゲットマシンを晒すことは龍王鬼相手では致命的な隙になりかねない……だから徒手空拳のポセイドン2で必死に攻撃をいなし、反撃の隙を見出そうとしているのだろう。
(支援……いや、駄目。そんな事をすれば武蔵がもっと劣勢に追い込まれるッ)
今戦いを見ている4体の百鬼獣――もしアヤ達が戦いに割り込めば嬉々として動き出すだろう。龍王鬼の邪魔をしない為に傍観者に徹しているが、戦いに割り込む大義名分を相手に渡してはいけない……アヤ達には今は何も出来ない、何をしても武蔵の邪魔になる。その現実を理解し、アヤはコックピットの中で強く唇を噛み締めるのだった……。
アヤが割り込む事が出来ないと言うのを悟ったのと同じく、司令部にいるレイカー達もそれを悟っていた。
「武蔵君1人では流石にこれ以上は……」
「しかし支援を行えば……」
「間違いなく百鬼獣が動き出すッ」
伊豆基地の設備、そしてアヤ達ならば一瞬の隙を突いて龍虎王鬼の動きを止めることは十分に可能だ。だがそれを行なえば4体の百鬼獣が動き出し、それらと戦う事が出来ないアヤ達を庇いながらの戦いになり、ますます武蔵を劣勢に追い込むことになる。
『博士ぇ、攻撃した方が良いぃ?』
自分達ではどうすれば良いのか判らなくなり、ユルゲンに指示を求めるホルレーの声が司令部に響く、ユルゲンがレイカーに視線を向け、レイカーが頷いたのを確認してからユルゲンはマイクを手に取った。
「ホルレー、そのまま待機だ。コバヤシ大尉の指示に従い行動してくれ」
『アヤはぁ……動くなぁって』
「ではその通りにしてくれ、決して攻撃などしないように。良いね?」
『はぁぃ……』
明確な助言を貰えると思っていたホルレーだったが、動くな、アヤの指示に従えという言葉しか貰えず。不機嫌そうに通信をOFFにした。
「申し訳ありません。レイカー司令」
「いや、試作機であるエリシオネスの応援を頼んだのは私だ。責めるつもりはないさ、ユルゲン博士」
伊豆基地で今すぐに動かせる機体がアヤとマイのゲシュペンスト・MK-Ⅲであり、戦力が余りにも不足していると言うことでユルゲンに応援を頼んだのはレイカー本人だ。ホルレーの言動に対してユルゲンを責めつもりは毛頭なかった、元々自分達が無理を言っているのだ。責めれる訳がなかったのだ。
「レイカー司令、失礼します」
SRX計画のラボで百鬼獣の解析を行っていたロブが司令部に駆け込んでくる。
「オオミヤ博士、何か判った事はあるかね!?」
遠隔による熱源や音波による解析結果――それが何かの突破口になればと期待したサカエがロブにそう尋ねるが、ロブの顔色は青色を通り越して土気色に近かった。
「サカエ参謀。非常に言いにくいことなのですが……動かず戦いを見ている百鬼獣がゲッター1に匹敵するパワーを有しているとしか、判りませんでした。特にゲッターロボと戦っている百鬼獣はゲッターとほぼ互角のエネルギー総量を持ち合わせています」
「「「なっ!?」」」
ゲッター1と同格のエネルギー総量を持つ百鬼獣が4体、そしてゲッターD2と互角のエネルギーを持つ龍虎皇鬼の存在――本気の百鬼帝国の戦力はゲッターロボと同格の特機を同時に複数体送り込む事が可能という死刑宣告に等しい言葉に司令部にいた誰もがその目を大きく見開き絶句した。
「馬鹿な……それほどまでの力を有していると言うのかッ!?」
「ゲシュペンスト・MK-Ⅲでもまだ足りないのか……」
自分達に出来る事は全てやって来たつもりだった。だがそれすらも一蹴するほどの力を百鬼帝国はまだ隠していた……司令部に絶望的な空気が広がり始める。
『へ、やるじゃねえか、だが俺様の勝ちだぜ。武蔵ぃいッ!!!』
そしてそれは巨大な三日月に両断される寸前の所を両手で挟み、白羽取りの姿勢で耐えているポセイドン2の姿を見てより強くなる。
『オイラを……ゲッターを舐めるんじゃねえッ!!!』
『ぬあッ!?』
その絶望的な雰囲気を弾き飛ばしたのは、孤軍奮闘している武蔵の雄叫びだった。ポセイドン2の脚部が2足モードからキャタピラモードに変わり、頭2つ分下がる。急に高さが変わったことでたたらを踏んだ龍虎皇鬼の胸にポセイドン2の張り手が叩き込まれ、その手から三日月刀――邪龍剣がすっぽ抜け、戦いを見ている百鬼獣達の目の前に突き刺さる。この戦いを見ている誰もが百鬼獣の誰かが剣を取り、龍虎皇鬼に投げ返すと思っていたが、予想に反して百鬼獣達は全くと言って良いほど動く気配を見せず、龍虎皇鬼も拳を握り、ポセイドン2と向き合っていた。
『部下に武器を拾わせないのか?』
『おいおい、タイマンで部下を使う馬鹿がいるっつうのか? あいつらは俺様の戦いを見に来ただけ、割りこまねえよ。まぁ、そっちが攻撃をしてきたらその限りじゃねえけどよ』
ガッハハハっと高らかに笑った龍虎皇鬼。レイカー達の考えていた通り、アヤ達に待機命令を下したのは正解だった。下手に動いていれば、1体、1体がゲッターロボに匹敵する百鬼獣が戦いに動いていたのだ。
『それによ、安心しろよ。俺様と龍虎皇鬼は……素手のがつえぇッ!!!』
『そうかいッ!! なら言ってやるよ! てめえよりもオイラとゲッターの方が強いってなあッ!!!』
互いに譲れないものがある。自分が相手よりも強い、自分の半身の方が相手よりも強いという傲慢とも言える自負。相手が強いことなんてわかりきっている、だからこそまず気持ちで負けない事。
『『オラアアアアアッ!!!!』』
大きく振りかぶったポセイドン2、龍虎皇鬼の豪腕がぶつかり合い、周囲に凄まじい衝撃を撒き散らす。龍王鬼と武蔵の戦いはまだ始まったばかりなのだった……。
龍虎皇鬼とポセイドン2の戦いを見ていた風蘭はあーあと溜め息を吐いた。
「良いなあ、龍王鬼様。めちゃくちゃ楽しそうじゃん」
風神鬼のコックピットで緩く弧を描く1本角を生やしたチャイナドレス姿の風蘭がその裾が捲れるのもお構いなしで、足を上げ詰まらないと嘆いた。
『仕方あるまい、俺達はあくまで見届け役と伊豆基地へのプレッシャーを掛けるのが仕事だからな』
雷神鬼のコックピットでしわくちゃの肌に雷神鬼の巨大さからは想像も出来ない小柄な姿の老人の左側頭部からは灰色の中ほどで砕けた角を生やした龍玄が窘めるように言うが、その龍玄自身がその身から溢れる闘志を押さえ込む事が出来ないでいた。
『やれやれ、これならオウカ達についていったほうが面白かったかなあ?』
コックピットの中で胡坐をかいた16歳ほどの若い青年に見える鬼――ヤイバは5cmほどの短いこめかみから伸びた角を撫でながらそう呟いた。龍王鬼、虎王鬼の配下の鬼は龍王鬼の性質に似通った者が多かった、闘争を好みながらも無益な殺戮を好まない生粋の闘争者――それが風蘭、龍玄、ヤイバ、そして闘龍鬼の4人の格上の鬼達であり、その配下の名も無い鬼達も大なり小なり、鬼としての逸れ者が多かった。
『闘龍鬼、お前はなんか言わないのか?』
『何も言う事はない。この素晴らしき闘争をこの目に刻む、それで俺は十分だ』
他の3人と違い闘龍鬼は冷ややかに、龍王鬼と武蔵の闘いを見つめていた。だがその冷めた態度が他の3人の顰蹙を買うことになった。
「良いわよねぇ、あんたはゲッターと戦ってるんだからさ」
『然り、お前には判るまいよ。この身を焦がす、闘争への熱をッ!』
『だよなあ、あークソ、アーチボルドのゴミと組むのが嫌だって言ってリクセントに行くのを断らなきゃ良かったぜ』
『後悔後先たたずだな。しかし、そう落ち込むことも、燻ることも無いだろう』
『『『あッ?』』』
挑発するような闘龍鬼の言葉に3人の鬼のドスの利いた声が響くが闘龍鬼は笑いながら、その嫉妬さえ込められている殺気を受け流す。
『これは顔見せ、決して本気で戦いに来た訳じゃない。俺達だってまだ戦える機会は残されている』
「……まぁ、そう言われればそうよね?」
『確かにその通りだな』
『別に敵はゲッターロボだけじゃねえし? おもしれえ敵もいるかもだよな』
今回の出撃はヴィンデルの頼みの足止めであり、本気の進軍ではない。ならば適当な所で龍王鬼も戦いを切り上げるだろう、ならば自分達が戦える時を待てばいい。闘龍鬼の言う通りだと風蘭、龍玄、ヤイバは1度大きく息を吐いて、気を落ち着ける。そして何れ自分達が戦うであろうまだ見ぬ強敵との戦いに胸を躍らせながら武蔵と龍王鬼の戦いを見つめ、闘志を燃やしているのだった……。
第94話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その7へ続く
トップがバトルマニアなので、配下もバトルマニアばかりでした。絶望的な気持ちで見ているアヤ達と違い、自分達も戦いたいとうずうずしていると言う温度が差大きいですね。次回も武蔵と龍王鬼の戦いをメインで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い