進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第94話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その7

第94話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その7

 

コックピットの中で虎王鬼はにっこりと笑いながら、龍王鬼に通信を繋げる。虎王鬼から見て戦況は6ー4で龍王鬼が不利だった……例え互いに初見の戦闘で相手のデータが殆ど無いという互いにハンデもアドバンテージもなしの戦いだが、龍虎皇鬼とゲッターポセイドン2では龍虎皇鬼の方が明確なウィークポイントが存在していた。

 

「あたしも手伝ってあげようか?」

 

龍虎皇鬼は2機の百鬼獣が合体した超鬼神だ。2人で操縦して100%その力を発揮出来る……だが武蔵がゲッターD2を1人で動かしていると知り、龍王鬼は対等な条件で戦う為にあえて単独操縦でゲッターD2と武蔵に挑んでいた。中国拳法をベースにした格闘術でアドバンテージを得ていたが、武蔵が徐々にそれに慣れ始め、ジリジリと龍王鬼は追い詰められ始めていた。

 

『おいおい、虎よぉ、俺様が助けを求めるように見えるかぁ?』

 

口から滴る血を腕で拭い、ペッと吐き出す龍王鬼の目は爛々と輝き、牙をむき出しにして押さえ切れない闘争心と高揚感をその顔に浮かべていた。それは自分が不利という状況でさえも楽しんでいる戦闘狂その物の姿だった。

 

「助けてくれって言われたらあたし、龍を見限っちゃうかも」

 

そして虎王鬼も手伝おうか? と言いつつも助けよう、手伝おうという意志は全く無く、むしろ龍王鬼を焚きつける為の先ほどの通信だった。龍王鬼は強く、己の意志を押し通す傲慢さがあった。だからこそ虎王鬼は龍王鬼の妻となった。しかしだ、自分が不利だからと助けを求めるような情けない男に心を許したつもりはないときっぱりと言い切ると龍王鬼は大声で笑った。

 

『なら心配ねえな! 俺様はお前に助けを求めるような真似はしないぜッ!!』

 

こうして言葉をかわしている間も龍虎皇鬼はポセイドン2から与えられるダメージに呻き、その振動は確実に龍王鬼と虎王鬼を蝕んでいた。だがそれがどうしたと言うのか、全力を持って戦うにふさわしい相手にめぐり合えた。それだけで2人の心は激しく燃え盛り、その全身を包み込もうとしていた。その最高の気分に水をさす通信が入り、虎王鬼は眉を顰める。

 

「後30分くらいで終わりよ、龍」

 

『なに? ヴィンデルの奴、もう撤退したのか?』

 

「そうみたいよ? となるとあたし達の仕事も終わりだし、あんまり勝手をすると大帝に叱られるわ」

 

あくまで今回の戦いはヴィンデルが動いている間武蔵とハガネを合流させない為の物であり、ヴィンデルが引いたのなら龍王鬼も引かざるを得ない。

 

『まだ時間はあるよな?』

 

「勿論」

 

『うっし、なら少し派手に立ち回るぜ。虎、龍虎皇鬼がちっと本気になったみたいだ』

 

龍虎皇鬼の全身から凄まじい覇気が立ち昇り、周囲を歪め始める。それに伴い、龍虎皇鬼の翠緑の瞳が血に染まるように真紅へとその色を変え、兜のように被っていた龍の顔がスライドし、鼻から上を覆い隠し、その筋肉が激しく隆起する。

 

【ウガアアアアアアア――ッ!!!】

 

「あらあら、龍虎皇鬼もこんな所で終わるのは嫌みたいね、本当我侭で龍みたいだわ」

 

『おいおい、俺様を子ども扱いすんなよ……虎ぁ……』

 

「じゃあ貴方は我慢できるの?」

 

『……そりゃまあ、無理だけどよ……』

 

龍虎皇鬼は意志を持つ百鬼獣――いや、ブライの手によって超機人の性質を真似て作られた百鬼帝国版超機人。それが龍王鬼、虎王鬼、朱王鬼、玄王鬼の4体の百鬼獣だった。闘争を、心踊る戦いを好む龍虎皇鬼は好敵手を前に、不完全燃焼で撤退するなんてごめんだと吼える。そしてそれを窘める立場であるはずの龍王鬼も完全に火がついていて、このまま引き下がるなんて真似は出来ない状態だった。

 

「やりすぎちゃ駄目よ?」

 

『はっ! それは武蔵次第だなあッ! 行くぜ龍虎皇鬼ッ!!』

 

ここで武蔵を殺してはならない。それは龍王鬼も虎王鬼も判っていた、だが龍虎皇鬼の咆哮によって火のついた心は抑えることが出来ず残された時間を全力で戦う事を決め、ポセイドン2へと飛びかかるのだった。

 

 

 

 

伊豆基地の窓を全て粉砕し、その雄たけびが届いた日本各地の人間を気絶させる龍虎皇鬼の大咆哮を至近距離で聞いた武蔵。常人なら立ち竦み、恐怖するその咆哮を武蔵は受け止め、そしてその上で獰猛に笑った。

 

「こっからってかッ! 来いやぁッ!!!」

 

両腕を広げ、まるでプロレスラーのように構えるポセイドン2に向かって魔神から龍人形態に変化した龍虎皇鬼がその爪をむき出しにし飛び掛る。

 

「なろッ!!」

 

『はっはぁッ! いくぜいくぜいくぜッ!!!』

 

先ほどまでの中国拳法を元にした畳み掛けるような連続攻撃ではない。獣染みた俊敏性と本能のまま振るわれる両手足は鋭く、一瞬でも油断すればその瞬間になます切りにされるような鋭利な斬撃の嵐を前にしても武蔵は脅えることも恐怖することもなかった……何故ならば。

 

「さっきよりやりやすくなったぜッ!!!」

 

『ぐふうッ!?』

 

カウンターで突き出されたポセイドンの拳が龍虎皇鬼の顔面を捉え、龍虎皇鬼と龍王鬼の苦悶の声が重なる。

 

『ははッ! 随分と動きが良くなったじゃねえかッ!!』

 

【グルルルッ!!!】

 

殴られ、吹っ飛ばされた勢いを利用し、空中で宙返りをし空中を蹴って加速している龍虎皇鬼の突き出した左腕を脇に抱えるようにして受け止め、そのままの勢いでポセイドン2は龍虎皇鬼を海面に叩きつける。

 

「うらぁッ!!!」

 

跳ね上がって来た龍虎皇鬼の顔面に右拳を振り下ろす。凄まじい衝撃音が響き渡り、海に亀裂が走る。

 

『ぐうっ! おいおい、俺様が本気になったっていうのに何でこっちの方が追い詰められてんだよッ!!』

 

「はッ! てめえで考えなッ!!」

 

龍虎皇鬼が腕を1回振るうまでに、ポセイドン2の豪腕が1つ、2つと振るわれ龍虎皇鬼の顔面を跳ね上げ、仰け反っている龍虎皇鬼の顔面に大きく振りかぶったポセイドン2の右ストレートが叩き込まれ龍虎皇鬼の巨体が水平に殴り飛ばされる。

 

『うーいてて……おう、てめえ。化けもんとやりなれてやがるな?』

 

「その化け物が何言ってやがる」

 

龍虎皇鬼と言う事に変りはない、だが前提が違う。魔神形態の龍虎皇鬼は体術を駆使し、技術で戦う百鬼獣だ。それに対して龍人形態は言うならばその圧倒的なポテンシャルを利用した獣染みた戦いだ。メカザウルス、インベーダー、アインスト――数多の化け物と戦ってきた武蔵からすればどちらが戦いやすいかなんて言うまでも無いだろう。

 

「自分が不利だからって戦うのは嫌ってか?」

 

『はっ! 冗談を言うなよ。自分が不利な状態で相手に勝つからおもしれえんだろうがッ!!』

 

龍虎皇鬼の姿が掻き消え、海面が何度も割れ、凄まじい勢いでポセイドン2に向かって突っ込んでくる。その巨体の体当たりだけでも十分な威力を持っているのは誰が見ても一目瞭然であり、それを見れば誰だって恐怖し足が竦む。しかしそれだけではない、海面が爆発するごとに龍虎皇鬼の姿が増え、何十機という龍虎皇鬼がその目を真紅に輝かせ、三日月状の鉤爪を振りかざす。

 

「そこだぁッ!!!」

 

視界一杯を埋め尽くす龍虎皇鬼、そして一撃でポセイドン2ですら引き裂くであろう鋭い爪の嵐に武蔵はポセイドン2を走らせ、フック気味にその腕を振るう、雷かと思う凄まじい轟音が響き、次の瞬間には分身が掻き消え身体をくの字に折った龍虎皇鬼が空を舞っていた。

 

【グギャアッ!?】

 

『ぐほっ!? は、ははははははッ!!! 良いぜ良いぜッ! やっぱりお前は最高だッ!』

 

吹き飛ばされながら身体を回転させ、龍虎皇鬼の爪がブーメランのように飛び、ポセイドン2へと迫る。

 

「んなもん利くかあッ!」

 

両腕をクロスさせコックピットを守りながらポセイドン2は龍虎皇鬼の後を追い、ショルダータックルを叩き込むと同時に両肩のゲッターキャノンを乱射し、龍虎皇鬼への追撃を続ける。

 

『そうかい、だけどよ。俺様と龍虎皇鬼を舐めるんじゃねえよッ!!!』

 

【グオオオオッ!!!】

 

「ぐ、うあああああーーーッ!?」

 

反転した龍虎皇鬼の胸部が風船のように膨らみ、そこから吐き出された青白い炎にポセイドン2が飲み込まれ、炎の中から武蔵の苦悶の声が響き、着地した龍虎皇鬼が執拗にポセイドン2に炎を吐きかける。

 

『む、武蔵ッ!?』

 

初めて聞いた武蔵の苦しそうな悲鳴にアヤが思わずゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムを操り、助けに動こうとした瞬間炎の中から縄が伸び、龍虎皇鬼の右腕と左腕に絡みついた。

 

「まだまだぁッ!!」

 

『はッ! 上等ッ!!!』

 

自分の方に引き寄せようとするポセイドン2とそれを腰を落として耐えながらも、炎を吐き続ける龍虎皇鬼――このぶつかり合いがこの戦いの勝敗を分ける最後の駆け引きなのだった……。

 

 

 

 

龍虎皇鬼とポセイドン2の戦いは2機の巨体さも相まって、それこそ神同士の戦いのようにレイカーには見えていた。

 

『ぬあああああッ!!!』

 

『はっはぁッ! 温い電撃だなぁッ!!!』

 

龍虎皇鬼は青白い炎を吐き続け、ポセイドン2は帯電している縄を龍虎皇鬼に巻きつけ、自身の方に引き寄せようと力を込める。

 

『っとッ! そう思い通りに行かせるかよッ!!!』

 

炎の勢いが増しポセイドン2の装甲が赤く光り始める――凄まじすぎる熱によってポセイドン2の装甲の表面が融解を始めていた。

 

『うぐうッ!?』

 

そしてポセイドン2の装甲が融解を始めていると言うことは当然武蔵は灼熱地獄の中にいると言うことだ。だが武蔵はその強靭な精神力でその熱に耐え、龍虎皇鬼を自分の方に引き寄せるのを一瞬たりとも緩める事は無く、しかもそれと同時に反撃にフィンガーネットの電圧を上げ、龍王鬼への攻撃を続けていた。

 

『うがぁッ!!!』

 

『ぐうう……ッ! どうしたあッ! 温い電撃じゃねえのかッ!!』

 

『うるせえッ! 温すぎて欠伸が出たんだよッ!!! そっちこそもう苦しいじゃねえのかッ!』

 

『冗談言ってんじゃねえッ!!』

 

『それはこっちの台詞だぁッ!!』

 

龍虎皇鬼の吐き出す炎の勢いが増し、フィンガーネットからの電撃は雷に迫る勢いになる。

 

『『がぁぁああああああッ!!!!???』』

 

ポセイドン2の装甲の融解が一気に進行し、装甲の隙間から中の内部装甲が見え火花を散らす。

 

龍虎皇鬼もまた過度の電圧をその身に浴び続け、あちこちがショートしているのか黒煙を上げている。

 

それでもポセイドン2と龍虎皇鬼は一切攻撃を緩める事無く、互いに苦悶の呻き声を上げながら自分が倒れるよりも先にお前を倒してやると言わんばかりに攻撃を続ける。

 

『ぐあッ!?』

 

そして先に限界を向かえたのは龍虎皇鬼だった。一際大きな音を立てて、龍虎皇鬼の全身から力が抜けた。過度な電圧を前に龍虎皇鬼の内部が一部ショートし、その機能を停止させた。百鬼獣である龍虎皇鬼は即座にショートした箇所を回復させ脱力した身体に再び力が篭もる。

 

『貰ったぁぁあああああッ!!!』

 

1秒にも満たない脱力時間だったが、それは武蔵にとっては十分すぎる隙だった。フィンガーネットを高速で巻き取り龍虎皇鬼を引き寄せ、その肩の装甲を掴みそのまま回転を始める。

 

『こんなこけおどしが効くと思ってるのか?』

 

『そいつは最後まで見てから言いなッ!!! うおらああああッ!!!!』

 

キャタピラモードによる高速回転、それによって龍虎皇鬼の身体はほぼ水平となり、ポセイドン2に振り回されている。だがそれだけだ、それだけでは龍虎皇鬼にダメージを与える事は出来ない。だがポセイドン2の回転が上がるにつれて徐々に龍虎皇鬼とポセイドン2の距離が広がって行き、遠心力による回転は激しさを増し、台風を作り出す。

 

『こ、こいつはぁッ!?』

 

『うぉぉおおおおおおおッ!! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!』

 

龍虎皇鬼の肩を掴んだ時に身体に巻きつけられていたフィンガーネット――それを伸ばしながら高速回転することによって生まれた凄まじい遠心力は龍虎皇鬼であったとしても脱出不可能な真空の渦を作り出していた。

 

『おろしぃぃいいいいいッ!!!!!』

 

『う、うおおおおぁぁあああああああ――ッ!?』

 

そしてそこから放たれるは武蔵の十八番である大雪山おろし。高速回転したまま振り上げられ、そのままの勢いで跳ね上げられた龍虎皇鬼は螺旋回転しながら上空へと投げ飛ばされる。今までの大雪山おろしだったならば、これで終わりだ。だが武蔵もここに至るまでの戦いでその技量を大きく上げ、最強の大雪山おろしを身につけていた。

 

『こっからが新しい大雪山おろしだぁッ!!!! ゲッタァアアサイクロォォォンッ!!!!!』

 

胸部の装甲がパージされ、姿を見せた大型フィンから放たれたゲッター線の証である翡翠の光に包まれた暴風が伊豆基地上空で回転している龍虎皇鬼を飲み込み、更に上空へと跳ね上げる。

 

【グルアアアアッ!!!】

 

『ぐ、はははははッ!!! まだだ、まだやろうぜええッ!!!』

 

真空の刃に引き裂かれ全身からオイルを撒き散らしながらも龍虎皇鬼の闘志は折れず、空中を蹴り強引に間合いを詰めようとする。だが次の瞬間竜巻を引き裂いて飛んできたフィンガーネットに龍王鬼はその顔色を変えた。

 

『フィンガァァァネットォォォオオオオッ!!!!』

 

即座に伸ばされたフィンガーネットが龍虎皇鬼を包み込み、ポセイドン2はジャイアントスイングの要領で回転しながらフィンガーネットを巻き取り、真空の刃で龍虎皇鬼を引き裂きながら己の元へと引き寄せる。

 

『う、うおァああおッ!?』

 

連続で縦、横、斜めと振り回された龍王鬼は三半規管がめちゃくちゃになり、自分が今どこにいるのか、そしてポセイドン2との距離も全く判らない状態に陥っていた。

 

『こいつでトドメだッ!!! 極ッ! 大ッ!! 雪ッ!!! 山ッ!!!!! おろしぃぃいいいいいいッ!!!!!!!』

 

再び龍虎皇鬼を捉えた武蔵は今度はフィンガーネットを巻きつけることは無く、生身で大雪山おろしを放つように繊細な重心移動、そして今までの戦いで培って来た全てを己の糧として繰り出された大雪山おろしは正しく、武蔵の今までの戦いの集大成であり、極・大雪山おろしの名に偽り無しの必殺技はその名の通り龍虎皇鬼に致命傷を与え、ポセイドン2は仁王立ちしたままそのカメラアイから輝きを消すのだった……。

 

 

 

海面に叩き付けれる寸前に龍虎皇鬼から虎龍王鬼に転神し、受身を取った龍王鬼と虎王鬼だったが武蔵とポセイドン2同様、そのダメージは深刻で、コックピットの中で2人は揃って血反吐を吐いていた。

 

「ごほッ! いや、流石にこれはきっついわねえ……」

 

『おお……流石の俺様もこれ以上は無理だ……な』

 

鬼の身体であったとしても、あれだけ長時間電撃に晒され、その上大雪山おろしをあれだけ重ねて喰らえば、そのダメージは無視出来る物ではない。

 

「もうヴィンデル達も決着がついただろうし、帰りましょうか」

 

『おう。決着はつけてえが……これくらいだろうぜ』

 

足止めのはずが完全に熱が入ってしまった……龍虎皇鬼のダメージはおいそれと回復する物ではなく、仁王立ちしたまま意識を失っている武蔵も龍王鬼と虎王鬼からすれば敵ながら天晴れと賞賛するべき物であった。だからこそ、ここで戦いは終わり。これ以上戦うつもりは龍王鬼達には無かった。

 

「さて、皆帰るわよ。今回は痛みわけってことでね」

 

こちらから仕掛けたのだ、手を引くのもこちらからが道理と言う虎王鬼に風蘭が問いかける。

 

『宜しいので?』

 

動きを止めているポセイドン2を見れば、完全に武蔵が意識を失っているのは明らか、ここで倒しきれるのに良いのですか? と問いかける風蘭に龍王鬼と虎王鬼は声を上げて笑った。

 

「これだけ楽しい戦いだったんだもの、これで終わるのは勿体無いわ」

 

『そういうこった! さーて、野郎共帰るぞぉッ!!!』

 

今回は足止め、それがブライからの指示であった。少しやりすぎたが、ここでゲッターと武蔵を倒せという命令も受けていない。ならば足止めを終えた段階で後は龍王鬼の自由なのだ。だから龍王鬼は自由に戦い、そして満足したので撤収するというのは道理だった。

 

『じゃあな! 人間共! 良い勝負だったって武蔵に伝えておいてくれよな!! んで決着はまた今度付けようぜッ!』

 

「武蔵によろしくね。じゃあ、今度はちゃんとした戦場で会いましょう」

 

亀のような百鬼獣に龍王鬼達は回収され、島と同じ大きさの百鬼獣――「陸皇鬼」はステルスを展開し、最初からそこに存在しなかったように消え去るのだった。

 

『お、終わった……?』

 

『あんな化け物と戦うなんてごめんですねぇ……』

 

『武蔵! 武蔵! 応答してッ!?』

 

『いかん! ゲッターロボを回収しろッ! 医療班は格納庫へッ!!!』

 

龍王鬼達が姿を消しても、その戦いの爪跡は伊豆基地に深く残されており、気絶している武蔵を救出する為のレイカーの指示が司令部から響き渡るのだった……。

 

「終わったみたいだね……アルテウル」

 

「そのようですね、大丈夫ですか? 大統領」

 

伊豆基地地下のシェルターで戦いを見ていたブライアンとアルテウルは揃って安堵の溜め息を吐いた。

 

「大統領はこちらでお待ちください。私が話を聞いてきますので」

 

ブライアンの返答を聞かずにシェルターを出たアルテウルはどす黒い光をその目に宿し、伊豆基地の通路を進む。

 

「あんなゲッターロボを私は知らない、だが……素晴らしい、記憶を取り戻してすぐにあんなものを見れるとは……ニブハルに感謝しなければな……」

 

従順な大統領補佐官の姿はそこには無く、漆黒の意志をその目に宿し、己の行なう全てが正しいと信じている――そんなおぞましい意志がアルテウルから放たれていた。

 

「3人……3人揃えば、届く、届くぞ……ッ!」

 

記憶を失っていた時間が長く、本来の計画は何一つ進んでいない。だがゲッターロボがあれば、あの真ゲッターをも越えるゲッターロボがあれば己の願いは叶うとアルテウルは狂ったように笑みを浮かべる。

 

「アルテウル大統領補佐官! シェルターから出られては困ります!」

 

背後から兵士の声が響いた時、アルテウルが浮かべていた邪悪な笑みは消え去り、その瞳には柔らかな光が宿っていた。

 

「すみません。振動が収まったもので、戦いはどうなったのですか?」

 

「鬼は無事に退けました。今からその報告に向かおうとしていたのです」

 

「ああ、それは良かった。武蔵君、彼に感謝しなければいけませんね」

 

そう、アルテウルは武蔵に感謝していた。しかそそれは命を救われたからではない、今はまだ遠くても必ず太極に辿り着く者――最も新しく、そしてもっとも旧き進化の使徒の存在にアルテウルは心から感謝しているのだった……。

 

 

第95話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その8 へ続く

 

 




今回で龍王鬼との戦いは一時決着、結果はドローとなりました。少なくともこれで四邪の鬼人は武蔵と同等クラスの化け物だったと判っていただけたと思います。そして暗躍を始めるアルテウルとフラグもバッチリ用意できたと思います。次回は各陣営の状況把握等の話を書いて次の話に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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