進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

237 / 400
第95話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その8

第95話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その8

 

龍王鬼を退けはしたが、結果は引き分け……ではなく人類側の負けだった。武蔵は完全にダウンしており、向こうにはまだ味方が5体おり、ここでゲッターロボを倒すつもりならば倒す事も可能だった。今後の必要な戦力、連携の話し合いの場に包帯塗れの武蔵の姿もあった。

 

「武蔵、休んでいても構わないんだぞ」

 

「心配してくれてありがとうございます。でもオイラは全然問題ないですよ、レイカーさん」

 

包帯なんて大袈裟なんですよと笑う武蔵を見て、レイカー達の胸中はありえないの一言で埋め尽くされていた。伊豆基地の医療スタッフの診察結果は全治半年、意識を取り戻すか危ういと言う物だった。そんな重傷の武蔵が僅か数時間で意識を取り戻し、歩き出し、食事も済ませている。

 

(悪い事をしたな……)

 

武蔵の治療をしていた医療スタッフがパニックになるのも当然だった。自分達の知る医療の常識を覆されたのだ、混乱するのも当然だ。だがレイカーは武蔵が意識を取り戻してくれた事には正直感謝していた。

 

「実際に戦ってみてどうだった?」

 

「そうっすね……完全に負けですね。あの龍虎皇鬼を倒しても姿を変えて動く余力があった、それに桁外れに強そうな百鬼獣も4体残ってましたし……完全に見逃してもらった形ですね」

 

レイカーの問いかけに武蔵は自分の完全な負けだったとすぐに返事を返した。戦闘中に意識を失う……それは数秒であれ生死を分ける。そんな中で1時間も意識を失っていれば殺すのは容易かったのは馬鹿でも判る理屈だ。

 

「大気圏を突破するより熱いのは流石に予想外でしたね、丈夫で長持ちが自慢でしたけど……あれは流石に駄目ですね。ゲッターなら耐えれますけど、PTとかじゃ溶かされちゃいますよ」

 

武蔵の嘘偽りのない龍虎皇鬼と戦った感想はレイカー達にとってとても耳が痛い内容だった。用意して来た戦力が何の役にも立たず、武蔵とゲッターロボと互角の敵が複数体いると言うのは絶望的な物だった。

 

「武蔵、仮にSRXがいたらどうだった?」

 

「そうですね。かなり有利に立ち回れたと思いますよ、ロブさん。贅沢を言うつもりじゃないですけど……後1体か2体、ゲッターD2と同じ位の戦闘力の機体があればなんとでもなると思うんですよ。最悪でも、相手の動き、攻撃を妨害してくれる支援があれば……互角かそれ以上に戦えると思います。SRXがあればもっとらくですけどね」

 

相手の出鼻を挫く支援機、特機クラスだからこそ武器などにピンポイントに狙撃し僅かでも軌道や攻撃の勢いをそらす――そういった支援機があるだけでも大分変わると武蔵は言う。

 

「今回の件はすまなかった。また武蔵だけに負担を掛けてしまった」

 

「いや、気にしなくていいですよレイカーさん。正直オイラもあんなに強いと思ってませんでしたし……何よりも、今後の方針が決まった。それは凄く大きな要因だと思うんです、明確な目標。敵の戦力が判ったなら、それについていけるように考えれば良いと思うんです」

 

楽観的と言えばそれまでだが、今までは明確な方向指針も無く、ゲッターロボと共に戦える機体の開発に焦点を向けていた。だが敵の指揮官機の戦闘能力、そしてそれと戦った武蔵からの必要なサポート、欲する友軍機の戦力基準を知れたのは確かに非常に大きい要素だ。

 

「確かにその通りだ。今度百鬼帝国が動き出す前にSRXを再び使えるようにしておこう」

 

「他にも必要な戦力は整えておく、今度は武蔵だけに負担をかけないようにな」

 

レイカーとケンゾウの言葉を聞いて、武蔵はよろしくお願いしますと頭を下げる。自分達の方が武蔵に負担を掛けているのに、それに対して文句を言わず、そして必ず協力してくれると武蔵は信じている。その信頼に応える為に、今まで以上に精力的にレイカー達は動く事を決めた。

 

「近いうちに連邦軍は異星人への反攻作戦に出る。それの打ち合わせでヒリュウ改が伊豆基地に来る事になっているが……武蔵はどうする? 望むのならばこのまま伊豆基地にいてくれても構わないが」

 

インスペクターと百鬼帝国への反攻作戦として発令が決定しているプランタジネッ トの準備の為に各地の連邦軍が動き出している。その一環としてアビアノ基地にいるヒリュウ改が伊豆基地に来る事が決定しているので、ヒリュウ改と行動を共にするのならば伊豆基地にこのままいてくれてもかまわないとレイカーは提案したが、武蔵は首を左右に振った。

 

「シャインちゃんにリクセントを取り戻すのを手伝うって約束してますからね。アビアノに戻ります、あ、でもその前にもう1回ジャーダさんの所に顔を出したいんですけど……」

 

「ああ。アヤ大尉から話を聞いている、明日の夕方までには準備させよう」

 

「すいません。ご迷惑をお掛けしますけど、よろしくお願いします」

 

頭を下げて司令室を出て行く武蔵を見送り、レイカー、ケンゾウ、ロブ、サカエの4人は重い溜め息を吐いた。

 

「今のままプランタジネットが発令されたとしても、勝率は余り高いものではありません。レイカー司令」

 

「そんな事は判っている。問題は、何故上層部が準備も何も出来てないのにプランタジネットを強行しようとしているかだ」

 

余りにも準備期間が短く、レイカー達にはこれが失敗前提の作戦にしか思えなかった。

 

「ゲッターロボとSRXを主力としても、跳ね返せる戦力差ではない筈だ」

 

「確かに……SRアルタードの設計と開発を始めましたが、到底完成するとは思えません」

 

「懸念材料はそれだけではない。何故ここで分断命令が出たのかと、もう1つ……何故ブライアン大統領自らが伊豆基地に来たのかだ」

 

武蔵への特別な戦時特例……これは軍上層部でさえも、命令権を持たないという特別な物だ。だがそれをブライアンが直接届ける理由はない……だがブライアンが来なければならない理由があるとすれば? 例えば大統領の椅子からブライアンを蹴落とす計画が水面下で進められているとしたら……? そしてダイテツ達がレイカーに警告した軍上層部の百鬼帝国の鬼の成り代わりの可能性……。

 

「……これからの戦いは余りにも厳しく、そしてつらい物となりそうだ」

 

謎のゲシュペンスト・MK-Ⅱを主戦力にした部隊の暗躍。

 

ノイエDCを名乗る鬼の尖兵……。

 

百鬼帝国の復活と成り代わりによる連携の崩壊……。

 

ホワイトスターを制圧し、北米を支配下においたインスペクターを名乗る異星人の襲来……。

 

そして生物であり、機械でもあると言う謎の生物群アインストの出現――。

 

今地球はL5戦役時を遥かに上回る窮地へと追い込まれているのだった……。

 

 

 

 

豪華な装飾が施されている通路を目隠しをされ歩くアーチボルドは表面上は普段通りの飄々とした表情をしていたが、内心は恐怖に震え、びくびくとした物だった。

 

「おい、早く歩け」

 

「大帝様をお待たせするんじゃない」

 

背中に押し付けられる銃口の感触に判ってますと返事を返し、どこまで歩かされるのか、自分は何か怒りに触れることをしたのだろうかと不安を抱きながらアーチボルドはひたすらに歩き続ける。

 

「ここだ、いいか大帝様に無礼な態度を取るんじゃないぞ」

 

「判ったな、人間」

 

目隠しを外され、急に飛び込んできた光に顔を顰めアーチボルドはぼんやりと見える扉の向こう側へと足を踏み込ませた。

 

(ここはどこですかね……?)

 

宮殿と言っても良いほどに高い天井と、血のように紅い絨毯、そして贅を凝らした装飾が施されているが、窓は全て塞がれ太陽の光が一切差し込まない異様な内部構造の通路が目の前に広がり、ずっと先に1つだけ扉が見えた。

 

「ここを歩いていけという事ですか……」

 

ベストの内側から取り出したいつものサングラスをかけてアーチボルドはゆっくりと歩きながら、頭の中で情報を整理しようとしていた。

 

(アースクレイドルから連れ出されてから約1時間ほど……乗り込んだのは車ですが……途中で浮遊感がありましたね)

 

自分の感じている感覚で移動距離を導き出そうとアーチボルドは必死に頭の中を回転させる。移動距離、浮遊時間……答えを導き出すのは難しいが決して不可能ではない……非常に難解だが、アーチボルドは大まかな距離感を把握していた。

 

(ジュネーブ付近から大穴で日本……と言った所ですかね)

 

初めて会う百鬼帝国の首領――それがまさか連邦のお膝元にいるものですかね? と頸を傾げながら扉をノックする。

 

「アーチボルド・グリムズです。ご入室しても宜しいでしょうか?」

 

『構わない、入って来たまえ』

 

聞こえて来た声にん? と首を傾げながらアーチボルドは部屋の中に足を踏み入れた。

 

「鬼よ、お前が用意した身体はそう悪くないが、腕がなければ思うように動けぬ。あの重力の……ん? なんだ、私と話をしているのに人間を呼んだのか?」

 

切れ長の目をした紅いチャイナドレスの女に視線を向けられたアーチボルド。その瞬間心臓を鷲づかみにされたような痛みを感じ、その場に膝をついて、両手で口を押さえる。そうしなければ胃の中の物すべてをぶちまけてしまいそうだったからだ……。

 

(こ、この感じ……ま、間違いないですね)

 

アースクレイドルで何度かすれ違った老人……常に死臭を纏う異様な存在と同質のナニか……人の姿をしているが、人ではない化け物だとそれを本能的に悟ったのだ。

 

「共行王よ、彼はとても優秀な人材でね。私の為に動いてくれていた、優秀な部下には褒賞が必要だ。そうは思わないかね?」

 

「判らん、判らんなあ? 私はそういう感性は理解出来ぬよ」

 

「ふむ、まぁそれも良かろう。ただ私は彼と話がしたいのだよ、少し圧を緩めてくれるかな?」

 

「……まぁ、それくらいならば妥協してやろう」

 

ふっと身体に掛かっていた圧力が消え、アーチボルドは滝のような汗を流しながら、絨毯に倒れ込んだ。

 

「あそこまで平伏すると言うのは良いな。神を敬う最低限の礼儀を守っている」

 

平伏しているのでは無いが、共行王は倒れているアーチボルドを見て、土下座し頭を上げる事を許可するのを待っていると受け取った。

 

「良いぞ人間、面を上げよ」

 

「……あ、ありがとうございます……ッ!」

 

上機嫌に笑う共行王の声を聞いて、アーチボルドが顔を上げると何メートルも先に居た筈の共行王が目の前にいて、思わず引き攣った声を上げた。

 

「よいよい、そんなに脅えるな。して、人間。名は?」

 

「共行王。彼は私の客人だが?」

 

「良いではないか、鬼よ。神を敬う人間はこのご時勢に珍しい、少しばかり興味が沸いた。さ、はよ、答えよ。私はそこまで気は長くないぞ?」

 

剃刀のように伸びた爪が自分の首元に向けられ、アーチボルドは滝のような汗を流しながら口を開いた。

 

「グリムズ! アーチボルド・グリムズと申します! 共行王様ッ!」

 

殺されないように、精一杯平伏し己の名を口にする。

 

「お主、今なんと言った?」

 

「アー……「違う、性じゃ」……グリムズと……「は、はははははははははッ!!!! あはははははははははッ!!!!!!」ッぐうッ!!!?」

 

鼓膜が破れるかと思った次の瞬間。共行王の手がアーチボルドの首を締め上げ釣り上げた。

 

「グリムズ、グリムズ……ああ、憎きかなエドワード・グリムズの子孫かえ……私を壊した憎き男の子か」

 

「がっぐっ!?」

 

超機人の因縁はアーチボルドも知っていた、だが自分には関係ないことと思っていた事が、自分に跳ね返って来た。自分が関係ない事で何故殺さなければならないのか。

 

「冗談じゃないッ! ご、ご先祖が勝手にやったことッ!! 僕には……何の……関係もないッ!!! 殺される……謂れはないッ!!!」

 

勝手なことをして、財産を食い潰した先祖も親も、祖父も何もかもアーチボルドは憎かった。だからこそ、そんな人間の尻拭いで殺されて堪るかと自分の爪が剥がれても、共行王の手首をつかんで抵抗の意を見せると共行王は楽しそうに笑い出した。

 

「……んふふふ、そうじゃ、そうじゃな。お前はエドワードとはまるで違う、くふふふ、許せよ。人間」

 

パッと首から手を放され、尻餅をついたアーチボルドは咳き込みながら、必死に息を吸う。

 

「くふふふ、お主。気に入ったぇ……バラル、そしてバラルと共に戦ったゲッターロボ……憎きかな、憎きかな……ふふふ、鬼よ。こやつへの褒章、我も1つ噛もうかえ」

 

手にしていた扇子が振るわれると、小さな光が扇子から飛び出し、アーチボルドの目の前で巨大な鉄の板になる。

 

「部屋を壊さないで欲しいな」

 

「良いではないか、どうせ金で済むこと問題なかろう? アーチボルド、お主の黒き、禍々しき魂を私は大層気に入った。バラルを憎め、壊せ、ゲッターロボを壊すが良かろう」

 

楽しそうに笑いながら歩き出す共行王を唖然とした様子でアーチボルドが見つめていると、背後に気配を感じ振り返ると部屋の主……鬼達が大帝と呼び、畏れ敬う鬼が目の前にいた。

 

「……ブライ議員?」

 

「そうだね、君はノイエDCの中で私の正体を知った新西暦の初めての人間だ。アーチボルド・グリムズ君。さ、手を貸そう」

 

「は、はぁ」

 

手を握られ立ち上がらせられるアーチボルドは完全に混乱し切っていた。政界の大物ブライ議員が百鬼帝国の指導者なんて、夢にも思うわけがない。

 

「君はとても良くやってくれている。鬼になるに相応しい人材だ、そして君に与える機体も準備が出来ているんだ」

 

「は、はい……」

 

「君は人間のままで終わりたいかい? もっと強い力、肉体、英知が欲しくないかい?」

 

ブライの言葉を聞いている内にアーチボルドの意識は薄れて行き、ブライの言葉に従うように鬼の身体が欲しいと口にしていた。そしてこの日、アーチボルド・グリムズという人間は死に、新たな鬼が生まれる事となるのだった……。

 

 

 

 

 

シャドウミラー隊がアースクレイドルに戻る道中。そのブリーフィングルームではヴィンデルがレモンの責任を追及していた。

 

「どういうことだレモン。W-17が私とアクセルに逆らったのだぞッ!」

 

ツヴァイザーゲイン、ヴァイサーガの戦闘データに残されていたラミアの言葉は挑発的で、そして戦闘も虚偽ではなく本気でヴィンデルとアクセルを倒そうとしているのが見て取れた。

 

「これは反逆行為だ。Wシリーズはやはり不安定な人形だったのではないか?」

 

「怒っているけどヴィンデル、貴方どれだけ理不尽なことをラミアに要求してるか判ってる? あの子、今ハガネに所属してるのよ。これで貴方とアクセルを攻撃しなかったら自分がスパイだって認めているようなものじゃない」

 

ハガネに所属しているのだから攻撃してくる謎の部隊に反撃してくるのは当然でしょう? とレモンはラミアを擁護する言葉を口にする。

 

「だがあの挑発的な態度、人形にあるまじき行為だ」

 

「結局の所、貴方が怒ってるのはそこでしょ? ラミアに馬鹿にされたってのが気に食わない。馬鹿みたい子供じゃないんだから、もっと有意義なことを言ってくれないかしら?」

 

 

どれだけ話を聞いてもレモンにはヴィンデルが自分を怒鳴りつけているのが、ラミアに馬鹿にされたことに対する怒りにしか思えなかった。

 

「貴様ッ!」

 

「おい、ヴィンデル。今回の件だが俺もレモンに賛成するぞ、少し頭を冷やせ。W-17はいい仕事をしてくれたと俺でさえも思うぞ」

 

レモンに掴みかかろうとしたヴィンデルの腕をアクセルが掴んで止めさせる。

 

「アクセル……人形の肩を持つのか?」

 

「アクセル……貴方」

 

ヴィンデルとレモンはアクセルがラミアを擁護したことに驚きを隠せなかった。

 

「擁護するわけではない、だがW-17はあの状況で最善をなしたと俺でも判る。率先して俺達に攻撃を仕掛ける事で、自分と俺達に何のつながりもないと思わせる良い立ち回りだった」

 

あの戦闘データを見れば誰も、ラミアがヴィンデル達の仲間だとは誰も思わないだろう。Wシリーズという立場でありながら、完璧な立ち回りをしたとアクセルはラミアを賞賛した。

 

「だがあの人形は、私達が百鬼帝国と協力している事を咎めるような事を口にしたのだぞ」

 

「悪いがそれに関しては俺もお前の正気を疑っている。鬼などアインストとインベーダーと大差がない、何故協力しようとしているのか俺にはまるで理解出来ん」

 

捨てた己の世界で猛威を振るっていたアインストとインベーダーと大差がない。そんな相手と手を組むなどと正気じゃないと言うアクセルにヴィンデルは眉を寄せた。

 

「好き嫌いはお前の感情論だ。アクセル、私は今最も最適な……」

 

「好き嫌いの感情論っていうとヴィンデル。貴方がラミアに言っているのと同じよ?」

 

鬼が気に食わないというアクセルとラミア、そして人形だからとラミアを嫌うヴィンデル……そこに差異はないと言われるとヴィンデルは唖然とした様子になり舌打ちをした。

 

「少し頭を冷やしてくる」

 

「ええ、そうしなさいな。良く考えればラミアの行動が間違いじゃなかったって判る筈よ」

 

苛立った様子でブリーフィングルームを出て行くヴィンデル。その様子をレモンとアクセルは呆れた表情で見送り、その直後に陸皇鬼の龍王鬼から通信が繋げられた。

 

『お? ヴィンデルの奴はどうした?』

 

「ごめんなさい、龍王鬼。私達のトップは今へそを曲げてるのよ」

 

「おい、レモン」

 

ヴィンデルを馬鹿にするような言葉を口にするレモンをアクセルが窘めるが、レモンはくすくすと笑うだけで全く気にした素振りを見せていない。

 

『肝っ玉の小さい男ね、全く。トップって言うならどっかりと座って構えられないのかしら?』

 

「本当よね、虎王鬼。それでそっちはどうだった?」

 

『強かったぜぇ! 武蔵はよッ!! 良い勝負だった!!!』

 

伊豆基地で武蔵の足止めをしていた龍王鬼は楽しくてしょうがないと言う様子で笑った。その姿を見てアクセルもレモンをたしなめるよりも龍王鬼の話を聞くことを優先することにした。

 

「どっちが勝った?」

 

『引き分けだ、タイマンなら俺様と武蔵の力はほとんど互角だな。虎が協力してくれたら俺様の勝ち、向こうのパイロットが増えれば向こうの勝ちっつう単純な話だ』

 

武蔵と互角の力を持つ龍王鬼と龍虎皇鬼の存在にアクセルは笑みを浮かべる。そして龍王鬼もそんなアクセルの様子を見て獰猛に笑った。

 

『向こうに帰ったら1つ組み手でもやるか? ええ、アクセルよ』

 

「良いだろう、俺もそう頼もうと思っていた」

 

バトルジャンキー2人の会話に虎王鬼とレモンは揃って肩を竦める。

 

『それでクエルボ達は?』

 

「帰って来たわ。やっぱりアラドに会うだけじゃ駄目みたいね」

 

『そう……あの子には負担ばかり掛けてしまってるわね。レモン、悪いけどそのまま守ってあげて頂戴』

 

「判ってるわよ。私、これでも頼まれたことはキッチリとやるのよ?」

 

ヴィンデルは不在だが、アクセルとレモンは龍王鬼達との情報交換を続けていた。これの情報によって、これからの立ち回り、そして武蔵との対応が変わってくるからだ。

 

「……ド……アラ……ド……どこ……さびしぃ……よ」

 

「せ、セロ博士ッ! ぜ、ゼオラ、ゼオラがッ!!」

 

「オウカ! 呼びかけるんだ! ゼオラ! ゼオラッ! しっかりするんだ!」

 

「ゼオラッ! ゼオラッ!! しっかりしてッ!」

 

アラドとの出会いはやはりゼオラに影響を与えており、何の光もないその瞳に僅かな光が戻り、クエルボとオウカの2人はゼオラに必死に声を掛け続けていた。そしてアースクレイドルに戻り、虎王鬼がゼオラの様子を見た時――ほんのわずかだが、光明が差す事となるのだった……。

 

 

 

 

日本を発つ前に武蔵は再びジャーダとガーネットの所を訪れていた。

 

「そうか、もう行っちまうのか……美味いもんでもご馳走してやろうと思っていたんだが……」

 

「ありがとうございます。気持ちだけでオイラは十分ですよ、それにほら。オイラ食べ過ぎちゃうから、子供が生まれるジャーダさんに悪いですよ」

 

「ばっかやろう。んなこと気にするんじゃねえよ!」

 

武蔵の頭を軽くたたき心配すんなと笑うジャーダに武蔵も笑みを浮かべ返す。確かに新西暦に武蔵の家族はいない、だけど家族のように心配してくれる人間がいる。ビアンやエルザム達、そしてジャーダ達の存在は武蔵にとってとてもありがたい存在だった。

 

「武蔵、今度はあのときみたいな事はしちゃ駄目よ?」

 

「はい、判ってます。もう、あんな事はしません」

 

「約束よ。ちゃんと子供を見に来てね」

 

お腹を摩りながら笑うガーネットに武蔵は勿論ですと笑みを浮かべた。

 

「んじゃあ、オイラはそろそろ行きます。ジャーダさん達も気をつけて」

 

「おう。武蔵、今度はあんな馬鹿な真似をするんじゃねえぞ」

 

「本当よ、ちゃんと今度は帰ってきなさい」

 

2人の言葉に武蔵が頷くと、ジャーダとガーネットの2人は行ってらっしゃいと笑い、武蔵は行ってきますと返事を返した。

 

「すいません、アヤさん。お待たせしました」

 

「いえ、良いわよ。そろそろ「武蔵! はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと待ってくれッ!」……コウタ。すいません、アヤさん。もう少しだけ待ってください」

 

アヤの運転する車に乗ろうとした武蔵だが、コウタの自分を呼ぶ声に足を止めた。

 

「いいわよ。まだ時間はあるから」

 

「すみません」

 

アヤに謝罪し、武蔵はコウタの元へと近づき、息を切らしているコウタの背中を摩りながら大丈夫か? と声を掛けた。

 

「どうした、コウタ」

 

「……悪かった。化け物を見るような顔をして、謝りたかったんだ。すまねえ」

 

コウタは鬼を倒す時の武蔵の冷酷な顔を見て恐怖した、そして命の恩人を一瞬でも恐怖した己を悔いて、謝りたいと思っていた。今日運よく、武蔵に出会えた事でコウタは武蔵に謝りたかったのだ。

 

「気にすんなよ、大丈夫。オイラは気にしてねえ」

 

「それでもだ。すまねえ……」

 

謝るコウタの背中を武蔵はバンっと音が出る程に叩き、コウタがいてぇ!っと声を上げる。

 

「謝るな、オイラは気にしてねえ。怖いって思うのは当然だ、お前は悪くねえよ」

 

「つっ……でもよ」

 

「だから謝るなって、戦いなんて怖いもんさ。怖いって思うのは当然だ、だから気にしなくていい、オイラだって鬼と戦うなんて怖いんだからよ」

 

「……武蔵、お前も怖いのか?」

 

怖いと口にした武蔵にコウタがそう尋ねると武蔵は当たり前だと笑った。そして真剣な顔でコウタの肩を掴んだ。

 

「そら誰だって死ぬかもしれないんだ。怖いに決まってる、でもそれ以上にオイラはダチを守れなかったのが怖い」

 

「ダチ……俺がか?」

 

「そうさ。もうオイラとコウタはダチ、そうだろ?」

 

にかっと笑う武蔵にコウタはつられて笑みを浮かべ、武蔵はもう1度コウタの背中を叩いた。

 

「怖いって思うのは悪くねえ。でも、男だったらてめえの守りたい者を守る為に歯を食いしばって戦うしかねえ、そう思えば大丈夫だ。コウタ、またな」

 

「……おう、またな」

 

手を振り歩いていく武蔵にコウタは手を振りかえし、夕日の中車に乗り込む武蔵をジッと見つめていた。守りたい者を守る為に戦う……それは後にコウタが戦いに身を投じた時に大きな支えの1つとなる言葉になるのだった……。

 

「武蔵、イングラム少佐はいつかこっちに合流してくれるのかしら?」

 

「近いうちにイングラムさん達も動くと思います」

 

クロガネを出る前に慎重に動くと聞いていたが、最早そんな事を言っている猶予がないと言うことは武蔵も感じていた。

 

「リュウセイ達によろしく伝えておいてくれるかしら、私は伊豆基地で出来る限りの準備をするって」

 

「武蔵、これから我々はまた君に多く頼ることになるだろう……だが地球を守る為にその力を貸して欲しい」

 

「大丈夫です、心配ありません。ちゃんと判ってますから」

 

レイカー達が自分に戦いを強要しているのではないか? 武蔵が自分達を恨んでいるのではないか? と不安に思っている事は武蔵も判っている。だが武蔵は自分が戦うことを選び、そして戦い続けてきたのだ。それを強要されたと思ってもいないし、押し付けられたとも思っていない。レイカー達に見送られながら武蔵はゲッターD2へと乗り込み、再び戦火の中に身を投じるのだった……。

 

「あーあ、行っちゃったぁ……博士、良いのぉ?」

 

伊豆基地から飛び立つ翡翠の光を見つめながらホルレーはコンソールを叩いているユルゲンに問いかける。本当ならゲッターD2と模擬戦をする予定だったのに、鬼のせいで完全に瓦解してしまい、機動テストすら伊豆基地では出来ず、別の基地へと向かっていた。

 

「構わないさ、全力稼動のゲッターロボを見れた。それだけで十分価値と戦果はある」

 

「そうなのぉ? ねね、博士。今度はあたしもっと頑張るから、頑張ったら褒めてくれるぅ?」

 

「勿論さ、ホルレー。期待しているよ」

 

「博士ぇ、あたし、もっともーっと頑張るよぉ……だからあたしをもっと沢山褒めてねぇ……」

 

ユルゲンに頭をなでられ、気持ち良さそうに目を細めるホルレー。その光景をコンテナ車に備え付けられた培養液の中に浮かんでいる脳や無数の眼球が見つめていた。だがユルゲンもホルレーもその異様な光景に一切動揺する事無く、父と娘……いや、歳の差のある恋人とでも言うべき甘い空気の中、2人は伊豆基地を後にするのだった……。

 

 

 

第96話 激動の世界 その1へ続く

 

 




次回はビアン陣営の話をメインに書いて行こうと思います。後は武蔵がいない間のアビアノ基地での話とかを重点的に書いて、また分岐ルートの話に向けて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。