進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第98話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その1

第98話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その1

 

アステリオン、フェアリオンの調整をしていたコウキだが、背後に感じた気配に前を向いたまま後に手を伸ばし、自身に向けられている腕を掴み取った。

 

「っとそんなに警戒することも無いだろうが」

 

呆れた様子の声を聞き、コウキは眉を顰めながら振り返った。避けていた訳ではない、だがどう接すればいいかとコウキでも悩ませる人物……武蔵がジュースの缶を手にしていた。

 

「なんだ。お前か」

 

「おう、ちょいとあんたと話をしたいと思ってな。隣良いかい?」

 

人の良い顔で笑う武蔵に好きにしろと返事を返し、コウキはつかんでいた武蔵の手を放して一時調整作業を中断する。

 

「お姫様達は良いのか?」

 

武蔵にべったりと付きっ切りのシャイン王女達は良いのか? とコウキがからかうように尋ねると武蔵は肩を竦めて、手にしていたジュースの缶のプルタブを開けて口にする。

 

「ずっと一緒にいるわけじゃねえよ。と言うか正直……」

 

「正直なんだ?」

 

「どうすれば良いのかわかんねえ」

 

真顔で言う武蔵に触れてはいけない話題だったかと肩を竦め、コウキもジュースの缶のプルタブを開け、自然な口調で武蔵に問いかけた。

 

「警戒してご苦労な事だが、俺はもう百鬼帝国とは関係ないぞ」

 

温和な男だが武蔵もゲッターパイロットだ。コウキに邪気を感じれば、それこそこの場でコウキを殺す事も視野に入れていた。武蔵の殺気を感じ取っていたコウキがそう問いかけると武蔵は肩を竦めた。

 

「違うって聞いていてもな、自分の目で見ないと信じられないだろ?」

 

「まぁ気持ちは判る。それでお前の判断は?」

 

「敵じゃねえってのは判った。悪かったな」

 

顔を見て、そしてその目を見て離せばコウキが善人か、悪人かは判る。コウキの目は鬼の目と違っていただから、武蔵はジュースの缶を差し出し、右手でマグナムをズボンの中に捻じ込んだのだ。

 

「気にする事はない、竜馬なら挨拶代わりに殴ってくるだろうからな」

 

「あーそれは判る」

 

竜馬なら会話をする前に殴りつける。そしてその反応で敵か味方かを判断する、コウキの言葉に武蔵は判る判ると同意した。だが武蔵がコウキを尋ねて来たのはコウキを見定めるという意味もあったが、もう1つ大事な目的があった。

 

「あのよ、お前……「悪いが、俺はゲッターには乗らん」……そう……か。いや、すまん」

 

龍虎皇鬼と言うゲッターD2と同格の特機を目の当たりにし、今まで先送りにしていたドラゴン号、ライガー号のパイロット探しに本腰を入れようとしていた。純粋な新西暦の人間よりも、コウキやラドラの方が適正が高いのではないか? と思うのは当然の事だ。

 

「正確に言うとだな。俺は……恐らくラドラもだが……ゲッターロボには乗れるが、D2には乗れないと言うことだ。態々戦力が落ちる機体に3人揃える必要はないだろう」

 

「……どういう意味だ? そりゃあ?」

 

嫌な思い出があるから乗りたくないと言っていると思っていた武蔵がコウキにそう尋ねる。するとコウキは右手を掲げた、その手は小刻みに震えていた。

 

「何かの病気?」

 

「アホか貴様は、お前のせいだ」

 

「え? オイラ?」

 

呆れた様子のコウキの言葉に自分のせい? と武蔵が尋ねるとコウキは深い溜め息を吐いた。

 

「これは確証を得れているわけでは無いが、恐らく俺がかつて鬼だったことが関係していると俺は推測している……余りに高密度のゲッター線に触れると体調が悪くなる。恐らくラドラも同類だろう」

 

そういわれると武蔵には思い当たる節があった。ラドラはシュミレーションではハイスコアを出していたが、実機ではまともにゲットマシンを飛ばせなかったと……。

 

「そうかぁ……となるとゲッターロボのパイロットを見つけるのは難しいか……」

 

コウキとラドラと最有力候補がゲッターD2に乗れない可能性が高いと知ると流石の武蔵も落胆を隠せなかったのだが……。

 

「いや、候補はいるぞ」

 

「マジで?」

 

さらっと候補がいると聞いて武蔵は嘘だろと思いながらコウキに視線を向けた。エリート部隊であるLB隊、トロイエ隊も全滅し、エルザム達も武蔵の操縦について来れない中候補がいると聞いて、武蔵は信じれないと言う顔をした。

 

「こいつのパイロットだ」

 

そんな武蔵を見ながらコウキは最終調整を行なっていたアステリオンを指差す。

 

「ガーリオンか?」

 

「いや、こいつはアステリオンと言う。最高速度はゲットマシンと同じか、少し上だ。こいつを乗りこなせるパイロットなら見所はあるだろう。重力装備でもつければ乗せれるんじゃないか?」

ろう。重力装備でもつければ乗せれるんじゃないか?」

 

ゲッターD2――いやドラゴン、ライガー号にはそれぞれ空きスペースがあるのでそこに重力装備を搭載すると言うのはビアンから提案されている方法の1つだった。

 

「その人は?」

 

「今呼んでやる。ほら、あそこ見えるか?」

 

コウキが指差す方向にはフェアリオンとヴァルシオーネがあり、武蔵は目を細めフェアリオンを観察する。

 

「なんでシャインちゃんとラトゥーニの顔をしてるんだ?」

 

「そういう依頼だったからだ」

 

「……大丈夫か? 疲れてないか? オぺレーション……なんちゃらの時にヴァルシオーネの顔の作り方聞いてた時に大丈夫かって思ったんだけど、ちゃんと休んだ方がいいぞ。絶対」

 

L5戦役の途中でビアンがテスラ研に送ったデータから、フェアリオンが作られたと悟った武蔵は寝た方が良いと心のそこからテスラ研のスタッフの事を心配した。

 

「生憎俺が設計した訳ではない、カザハラ博士とフィリオだ」

 

「誰だよ……フィリオって……」

 

ジョナサンの顔は覚えている武蔵だが、フィリオという知らない人物の名前が出てきて誰だ? と尋ねるとコウキはアステリオンを指差した。

 

「こいつを設計した奴」

 

「……やっぱ疲れてね? なんでアステリオンを設計できる人間が、あんなの作っちゃうんだ?」

 

セーフかアウトかで言えば100%アウトの機体を作成したフィリオという人物が武蔵の中では、クロガネの中で偶に踊っているビアンを初めとした科学者達の姿と完全に合致してしまい、絶対寝た方が良いと武蔵が口にするのも当然の事なのだった……。

 

 

 

フェアリオンの調整をするツグミの手伝いをしていたアイビスはコウキに呼ばれ、ツグミと共にアステリオンのハンガーに向かい。そこで初めてコウキの隣に武蔵がいることに気付いた。

 

「ツグミ・タカクラ。プロジェクトTDのチーフだ。その隣がアイビス・ダグラス」

 

「どうも初めまして巴武蔵です。よろしくお願いします」

 

L5戦役の英雄である武蔵に頭を下げられ、ツグミとアイビスも慌てて頭を下げて自己紹介を始める。

 

「プロジェクトTDのチーフをやっているツグミ・タカクラです。よろしくお願いします、武蔵さん」

 

「どうも、ツグミさん。オイラこそよろしくお願いします」

 

「アイビス・ダグラスです。武蔵さんでいいですかね?」

 

「いやぁ、オイラの方が年下なんで軽く武蔵で良いですよ」

 

にこにこと笑い柔和な印象を受ける武蔵の言葉にアイビスがさんを取って武蔵と呼びなおすと武蔵はそれで良いですよとにこりと笑った。

 

「私達を呼んでどうしたの? コウキ」

 

「ああ。武蔵がゲットマシンのパイロットを探していてな、話の中でアイビスの名前を出したから顔見せにな」

 

「いやいや!? コウキ博士何考えているんですか!? あたしがゲットマシンにのれるわけないじゃないですかッ!?」

 

なんでそんな感じで紹介するんですか!? とアイビスが声を上げる。

 

「あれ? ゲットマシンのシュミレーターに乗れるってコウキに聞いたんだけど?」

 

「いや、乗れるは乗れますけど乗れるだけで、合体までいけないよ」

 

「最大加速で連続飛行3時間だ」

 

アイビスは自分には無理だと武蔵に訴える。だがゲットマシンの最大加速で3時間まで耐えれると聞いて武蔵の目が期待に輝いた。

 

「連続3時間も飛べるなら全然大丈夫ですよ。それならめちゃくちゃ期待大ですねッ!」

 

コウキとラドラが駄目だったが、変わりに乗れるかもしれない相手を見つけたと武蔵のテンションは上がっていた。そしてそこまで期待されるなら……と思ったのだが背後に視線を感じて振り返り、ひっと息を呑んだ。

 

「…………」

 

コンテナの影にいるシャインを見つけ、ここで頷いたら殺される……アイビスは本能的にそれを悟った。

 

「いやあ、あたしはアステリオンがあるからゲッターロボには乗れないかなあ」

 

「え、あー……そうですよね。すんません、変なことを言っちゃいましたね」

 

申し訳なさそうにする武蔵。しかしアイビスからすれば命を守る為に武蔵の申し出を断ったので、罪悪感が凄まじく酷く暗い顔をする事になった。

 

「おやぁ? おやおやあ? 何をそんなに暗い顔をしてるノ?」

 

突如聞こえて来た奇妙なイントネーションの声に振り返るとラルトスが懐中電灯で顔を照らしていて、なんとも言えない不気味さがあった。

 

「「「ほわあッ!?」」」

 

心構えが出来ていなかったのでその余りに不気味なラルトスに武蔵、ツグミ、アイビスの3人の驚きの声が上がる。

 

「いやあ、良いリアクションネ、やった甲斐があったネ!」

 

にこにこと笑うだぼだぼの白衣に瓶底眼鏡姿のラルトスに武蔵が困惑していると、ラルトスはいつもの変則ピースサイン……小指と薬指を曲げた独特のピースサインを取る。

 

「ウエーイ」

 

「うえーい?」

 

武蔵が困惑しながら同じ様にピースサインを取るとラルトスは満面の笑みを浮かべた。

 

「武蔵だネ! よろしくゥ! 残念系美少女ラルちゃんだヨー♪ 気軽にラルちゃんって呼んでヨ」

 

変人を見る目、こいつは大丈夫かという視線がラルトスに向けられる中、武蔵だけは違っていた。

 

「どうもどうも、武蔵です。ラルちゃん」

 

そう呼んで欲しいと言うのならば、そう呼ぶべきではなかろうか? と思い武蔵だけはラルちゃんと呼んだ。それにコウキ達は驚きの表情を浮かべ、ラルちゃんと呼ばれたラルトスは更に笑みを深めた。放置されるか、叱られるか、仕置きされるかという中で変則ピースに加えて、ラルちゃんと呼んでくれた武蔵にラルトスは近づいてその手を取った。

 

「好きッ!!」

 

「はい?」

 

「いや、だからす……ふぎいッ!?」

 

もう1度好きとラルトスが叫ぼうとした瞬間。スパナがその頭を捉えラルトスは奇声を発して気絶した。

 

(……いるッ!?)

 

そしてアイビスだけが下手人――両手にスパナを持っているエキドナとその隣にいるシャインに恐怖していた。

 

「何を騒いでいる。またラルトスが迷惑を……何があった?」

 

騒ぎを聞いてリンがやってきたんのだが、白目を剥いて倒れているラルトスを見て何があった? と武蔵達に尋ねる。

 

「何処かからスパナが飛んで来てな。余り騒がしくするから整備兵が怒ったのだろう」

 

「そうか、ならこの馬鹿の自業自得だな」

 

スパナを投げつけられたというのは一歩間違えれば死んでいてもおかしくない、それを自業自得ですませようとするリンに武蔵達は絶句する。だがそれだけトラブルなどを起しているので、リンからすれば恨みや怒りを買っていてもおかしくないと言う判断になったのだ。

 

「いや、あの社長。それで納得してしまうのはどうかと思うのですが……?」

 

「俺もそう思う」

 

そしてそれはリンの後を着いて来ていたレオナとイルムも同じだった。

 

「こいつは色々と面倒ばかり起してくれているからな、一々気にしていられるものか。それよりも、コウキ博士。丁度良い所にお前に頼みがあったんだ」

 

「俺にか? 機体のメンテか?」

 

「ああ。ヒュッケバイン008Lをレオナ用に調整してやって欲しいんだ」

 

コウキからすれば初のEOT搭載PTに興味が無いと言えば嘘になる。それにレオナのガーリオンでは百鬼獣との戦いでは力不足になるだろうし、ブラックホールエンジンを搭載しているヒュッケバイン008Lを運用出来れば相当な戦力強化になるのはコウキにも判った。

 

「それは構わない、アステリオンの調整が済めばヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの調整も手伝う事になっているからついでに出来ないことは無いが……」

 

「良いんですか? リンさん。その機体を手放してしまって……」

 

コウキと武蔵の懸念――それはリンの性格からすれば奪われたマオ社をそのままにしているとは到底思えないと言うことで、イルムとレオナに何か言われたのではないか? と思ったのだ。

 

「一時的に預かるだけですわ。社長はパリに向かわなければなりませんからね」

 

「そういうことだ。私のフォーマットを保存しておいてくれるか?」

 

マオ社の社長としてやらなければならない業務が数多ある。それが終わるまではリンは戦線に加わる事が出来ない、しかしその間ヒュッケバイン008Lを遊ばせておくのは余りにも勿体無い。それゆえに今搭乗機のないレオナに008Lを預ける事にしたのだ。

 

「面倒なことを頼んでいるのは判るが、頼めるか?」

 

旧式の008Lには最新機のような簡単なフォーマットの変更機能は搭載されていない。イルムの言う通り極めて面倒な作業ではある……だがコウキはふっと小さく笑った。

 

「ふっ、良いだろう。代金はイルムにつけておいてやろう」

 

「それは助かる、こいつは余計な金を持っていると女遊びが酷くてな、搾り取ってくれて構わんぞ」

 

「おいッ!?」

 

「「え? イルムさん浮気してるんですか?」」

 

「2人は離れた方がいいわ、さ、行きましょうか」

 

「……」

 

武蔵とアイビスからの浮気しているんですか? という純朴な瞳を向けられた上に、武蔵とアイビスという純粋コンビにイルムは悪影響と言わんばかりのツグミの行動に加えて、上官という事で何も言わないが汚物を見る目をしているレオナにイルムが降参と叫ぶのは僅か2分後の事なのだった……。

 

 

 

 

格納庫で騒がしくも穏やかな時間が流れている頃――集中治療室の隣のメディカルルームではアラドとラトゥーニ、そしてラーダの3人の姿があった。

 

「そう、クエルボが……」

 

アラドが偵察に出た時、ゼオラ、オウカ、そしてクエルボの3人と遭遇した事をアラドは勿論報告していたし、ブリーフィングルームでの会議の議題にもなっていた。しかし、それとは別にアラドはクエルボを知るラーダと、ゼオラとオウカの事を案じているラトゥーニにより詳しい話をしたかったのだ。

 

「セロ博士……」

 

「ラトゥーニはセロ博士嫌いか?」

 

アラドとゼオラ、そしてオウカにとっては番号ではない名前をくれた名付け親で、慕うべき人物だが……ラトゥーニはそうではない。アラドが不安そうに尋ねるとラトゥーニは首を左右に振った。

 

「ううん。セロ博士は私にも優しくしてくれたから……」

 

「そっか……良かった。それで、ラーダさん。何かリュウセイを目覚めさせるヒントになりましたか?」

 

アラドがクエルボから聞いたキーワード――元から百鬼帝国がリュウセイを狙っていたと言うこと、そして恐らく数秒だがゼオラの意識とリュウセイの意識が共鳴していたことは明らかで、クエルボがノイエDC、百鬼帝国から逃れたいと思っていると言うこと、そしてオウカが既にリマコンと投薬の影響が完全に抜けていると言う情報……特脳研にいたラーダならば、何か判るのではないか? とアラドが期待を込めた視線をラーダに向ける。

 

「多分だけど……もう百鬼帝国の影響は受けてないと思うわ」

 

「「えッ!?」」

 

ラーダから告げられた予想外の言葉にアラドとラトゥーニが揃って困惑の声を上げた。リュウセイが眠り続けているのは百鬼帝国――朱王鬼の術の影響だからと思っていたからだ。

 

「私は百鬼帝国の術は判らないけど……ゼオラと引き離された段階で多分術の影響は抜けていると思うわ」

 

ゼオラを媒介にしてリュウセイに干渉したのだから、ゼオラと離された段階でリュウセイは百鬼帝国の術の影響から抜けていると見て間違いない。

 

「じゃあ、なんでリュウセイは……眠ったままなんですか?」

 

「ケンゾウ博士と話をしたんだけど……多分問題はその後……ビーストのほうにあるらしいわ」

 

謎の可変式のPTであり、桁違いに強力な念動力を持つビーストの影響を受けていると聞いて、アラドとラトゥーニの顔色が変る。アラドはリュウセイが目覚めないのかもしれないと言う不安の色、ラトゥーニは憎悪と嫌悪の入り混じった鬼の形相だった。

 

(どういうことなのかしら……)

 

ラトゥーニが何故ここまで嫌悪と憎悪を見せるのか……そのヒントはケンゾウの考察にあった。ケンゾウにカルテと、モニター越しにリュウセイの診察をしてもらい、僅かに残ったビーストのパイロットの脳波データが信じられない物であったのだ……。

 

(どうしてラトゥーニの脳波データが……いえ、何故2つの脳波データが……)

 

限りなくラトゥーニの脳波データと同じ物と、それにかぶさるように記録された脳波データ……ビーストのパイロットは1人で2人分の脳波を持ち、その脳波が念動力のゆがみを生み、それがリュウセイの意識を封じていると言う見解だった。

 

「とりあえず今の段階では様子を見ている事しか出来ないわ。下手に念動力で干渉をすればそれこそリュウセイが目覚めない可能性がある」

 

リョウトやリオ、クスハやブリットによる念動力による刺激を与えると言う方法を考えていたラーダだが、それはケンゾウからストップが掛かった。2人分の脳波の影響を受けているリュウセイに更に念動力で刺激を与えるのは危険すぎとの事だった。

 

「もう少しケンゾウ博士と話し合ってみるわ。リクセント奪還のブリーフィングもある筈だからそっちに集中して頂戴」

 

念動力による昏睡状態では何時目を覚ますかも判らない。それにリクセント奪還の任務のブリーフィングも始まるから其方に向かうようにラーダは促し、1人で眠り続けるリュウセイの脳波データの記録、そしてケンゾウから伝えられた即効性は無いが音楽等を聞かせることで快方に向かうと言う言葉を信じ、リュウセイの眠る病室に音楽を流し始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネとシロガネがリクセントの奪還を試みていると言う情報は既にノイエDC、ひいては百鬼帝国にも伝わっていた。ブライアンやダイテツ、そしてグライエンが危惧したとおり連邦軍高官と成り代わっている鬼からの情報の流出だ。それ自体は大した問題ではない、最初からそれは十分想定されていた事で驚くべきことではない。だがユウキにとっては看過出来ない大きな問題が浮上していた。

 

「んーふふふふ、いやあ、この万能感ッ!! いやあ最高ですねえッ!!! ひゃひゃひゃ――ッ!!!」

 

狂ったように笑うアーチボルド……そのこめかみからは禍々しい赤い角が生えていた。そう、ブライにその能力を認められたアーチボルドは鬼へと変貌を遂げていた。鋭く伸びた爪、そして鋭く伸びた犬歯は正しく鬼そのものであり、細身ではあるが鬼になった事で鋼のように鍛え上げられた肉体は人間という領域を大きく越えていた。しかし問題はそこではなかった、アーチボルドという異常者が鬼の肉体を得てしまった、そしてその精神性を大きく歪めていると言うのが問題だった。

 

「ああ、楽しみだなあ。この爪で人を殺したらどうなるんだろう、ヒヒヒ、ひゃひゃひゃひゃッ!!!!」

 

殺す事が楽しみで楽しみで仕方ないと涎をたらして笑うアーチボルドは完全な異常者であり、そして鬼となった事で龍王鬼にリクセントを任されている闘龍鬼に発言する権利を得たことが問題であった。

 

「ハガネとシロガネは僕に任せてくださいよぉ、闘龍鬼さん。ああいう連中と戦うのは僕の得意分野なんですよ」

 

「……言っておくが無益な殺生を認めるつもりはない、それを努々忘れぬことだ」

 

「ひひひ……ええ、えええッ!! 判ってますともッ!!!」

 

狂ったように笑うアーチボルドには僅かに残っていた人間としての理性も、知性も残されていなかった。今のアーチボルドを突き動かすは鬼の常識――人間社会破壊論だけだ。

 

(どうする……俺はどうすればいい)

 

出撃準備、迎撃準備をしている今からビアン達にアーチボルドが鬼になったと伝える事は不可能であり、隠れて通信する事は自分がスパイだと声を高らかにして叫んでいるようなものであり、何の為にユウキがスパイとしてノイエDCに潜り込んでいるのか、その意味すら無くなろうとしていた。余りに無力、何の為にと己に問いかけているユウキの目の前では「漆黒」のゲットマシンを「真紅」へと塗り替える作業が進めれており、それはリクセント公国にとってゲッターロボが特別な意味を持ち、それを用いてリクセント公国の民の心を傷つけると同時に、ゲッターロボが味方ではないという事を全世界にアピールすると言うアーチボルドの悪質な策略が行なわれようとしていた。

 

「ユウキ、ユウキ。どうかした?」

 

「は、はい! すみません、どうかしましたか? 虎王鬼さん」

 

どうすればアーチボルドを止めれるか、スパイとばれる覚悟でビアンに連絡を取るか悩んでいたユウキは虎王鬼に呼ばれているのに気付かず、肩を掴まれ声を掛けられていたと気付き、すみませんと頭を下げた。

 

「別にいいのよ。それよりもごめんなさい、今回は私も龍もついていけないの」

 

「それは……判っています」

 

龍王鬼と虎王鬼がいればアーチボルドのストッパーになるが、龍虎皇鬼の損傷が酷く、龍王鬼と虎王鬼は出撃出来ないでいた。だがアーチボルドの危険性を十分把握している龍王鬼と虎王鬼はアーチボルドのやり方を嫌っているユウキにある物を託すことを決めていた。

 

「もしもアーチボルドが何か怪しい行動をしていたら、これを破きなさい」

 

「これは?」

 

差し出されたのは白銀に輝く10枚の御札。少し冷たいそれを見て困惑するユウキに向かって虎王鬼はにこりと笑う。

 

「おまもりよ、あの外道がとんでもない事をしそうになったら使いなさい、良いわね?」

 

「……はい、判りました」

 

虎王鬼の真剣な眼差しを見て、これがあればアーチボルドの謀略を止めることが出来ると信じて、虎王鬼に託された札をユウキは懐の中に入れた。

 

「ユウーッ! 機体の調整をしてくれって整備兵が呼んでるよー!」

 

カーラの言葉にユウキは判ったと返事を返し、虎王鬼に頭を下げてその場を後にする。様々な謀略、そして様々な者の思いが入り混じりリクセント公国での開戦の火蓋が切って落とされようとしているのだった……。

 

 

 

 

第99話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その2へ続く

 

 




今回はここまでにしたいと思います。次回はシャインをメインにして戦いを書いて行こうと思います、後は鬼になったアーチボルドがどんな立ち回りをするのかを楽しみにしていて貰えると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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