第100話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その3
「アイビスったらなんて無茶をッ!」
フェアリオン、アステリオンの3機はリクセント奪還作戦の中軸を担う機体だ。それゆえにプロジェクトTDに属するツグミとコウキは進路誘導などを行なう為にハガネのブリッジにいたのだが……ポセイドン号に感化されるようにアステリオンでは想定されていない挙動を繰り返すアイビスにツグミはダイテツやテツヤがいるにも拘らず怒声を上げていた。
「ふむ、武蔵に感化されたのだろう」
「なんでそんなに他人事なのッ!? 半分は貴方のせいよ。コウキッ!」
「知らん。それに言っておくが、ここはプロジェクトTDの施設でもテスラ研でもないぞ?」
「あ……」
コウキに指摘され、ブリッジのクルーに見られているのに気付きツグミは徐々に小さくなり、騒がしくしてすみませんと謝罪の言葉を口にした。
「想定以上だな。エイタ、リクセント領まで後何分で突入できる?」
「後6分――いえ、4分ですッ!」
エイタの返答を聞いてテツヤは眉を細める。ゲットマシン、アステリオンの2機を囮として先行させ、ゲットマシンが下がると同時にハガネで突入する時間を計算し、どう足掻いても2~3分のロスが生まれる。ルーキーのアイビスを敵機の群れの中で1機で残して大丈夫なものかとテツヤは頭を回転させる。
「テツヤ大尉。アイビスはそれほど柔ではない、案ずる事はない。武蔵を戻せ、2分ほどならアイビス1人でも問題ない」
「ちょッ!? コウキッ!?」
無茶とも言える囮をアイビスに行なわせようとするコウキにツグミが驚きの声を上げる。そしてそれはダイテツやテツヤも同じだった、アイビスの実戦経験は1~3回ほど、偽物のビアンを本物と信じ、再び集結したノイエDCの兵士はDC戦争を生き延びた者達だ。余りにもハンデが大きいと誰もがそう考えた。だがコウキはダイテツ達の心配を鼻で笑った、この場にいる中でコウキだけがアイビスならば問題ないと心からそう信じていた。
「繰り返すが問題はない。アイビスは武蔵と共に飛び、そして武蔵の操縦技術を物にしようとしている。余り過保護にしてはアイビスの成長を妨げるぞ」
コウキの言葉にツグミは口を閉ざし、少し考え込む素振りを見せた。
「テツヤ大尉、武蔵に帰還指示を出していただいて大丈夫です」
「……良いんですね?」
「はい。コウキの言う通り、アイビスはテスラ研にいるときよりも遥かに成長しています。ですからきっとハガネが突入するまで耐えてくれる筈です」
芯の通ったツグミの返答を聞いてテツヤは小さく頷いた。
「エイタ、武蔵に帰還命令。そしてラトゥーニ少尉とシャイン王女を後方格納庫より出撃、その後ハガネはリクセント領へ突撃する」
今回の作戦は3段構えだ。第1段階はポセイドン号、アステリオンによる陽動、第2段階はハガネとPT隊によるリクセント城正面への突入と同時に後部格納庫からステルスを展開したフェアリオンタイプSとGを出撃させる。そして第3段階はフェアリオンによる城側面部への強襲、そして抉じ開けられた側面部からのゲッターD2の突入による制圧だ。
「ダイテツ艦長……」
「自信を持て、ワシはお前に全てを任せた」
緻密な計算、そして大胆な突入経路――その全てはテツヤ考案の物だ。ダイテツもリーもそれを認め、テツヤの作戦ならば行けるとGOを出したのだ。だから不安そうな顔をするなとダイテツに言われ、テツヤは両頬を叩いた。
「これより本艦はリクセントへと突入する! 各員奮闘せよッ!」
艦内放送で力強く指示を出すテツヤの顔に先ほどまでの不安の色は無く、自信に満ちた表情で指揮を取る姿を見てダイテツは小さく微笑み、口にしていたパイプをほんの少しだけ吹かせるのだった……。
リクセント領に侵入すると同時に開け放たれた格納庫からゲシュペンスト・リバイブ(K)を先頭にして、ハガネのPT隊が次々と出撃する。
「アイビス! 1度下がれ、もう十分だ!」
『りょ、了解ッ!』
ハガネの出現によって1度フォーメーションを組みなおしているノイエDCの機体を見てカイは深追いせずに1度ハガネの前に戻れとアイビスに指示を飛ばし、それと同時にノイエDCの戦力をざっと把握する。
(城の前にライノセラスと百鬼獣――そしてその両サイドに動く気配の無いエルアインスが2機。恐らくあれらが指揮官機か……)
ポセイドン号、アステリオンのよる陽動は十分に効果を発揮しており、ランドグリーズやランドリオンは十分に分断されている。しかしこちらも戦力は決して充実しているわけではない。
(突入できるのは俺とイルム、それとアラドとライ、レオナとラーダ、ヴィレッタ……それにアイビスは無理だな)
百鬼獣が増援で出る危険性がある以上フォワードを務めれる機体はそう多くない。ヒュッケバイン008Lは十分なパワーがあるが、百鬼獣に対しては機体サイズの差で致命打を与えにくく、ラーダの乗るゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプSでは支援は出来ても、速度についていけず、PTやAMに対しては重装甲だとしても百鬼獣相手ではその装甲の強度は決して安心出来る物ではない。アイビスに関しては極限状態の陽動で精神をすり減らしている上に一撃喰らえば撃墜される百鬼獣に当てるのは余りにも酷だ。
「ラーダとアイビスは当初の予定通り遠距離支援を徹底しろ、ライとヴィレッタは中距離で臨機応変に支援を、レオナはファイナルフェーズでのブラックホールキャノンの使用を前提に立ち回ってくれ、最後にイルムとアラドは俺に続け、城内のランドグリーズを炙りだすぞッ! 5分以内にランドグリーズを全て誘き出せなければこの作戦は失敗だ! 全員気を引き締めて作戦に当たれッ!」
『『『『了解ッ!』』』』
カイの一喝にライ達が力強く返事を返し、リクセント奪還作戦第2段階が幕を開けるのだった……。
「どういうことかしら」
ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプRDのコックピットの中でヴィレッタは困惑した様子でそう呟いた。センサー類を同調させているレオナとラーダにもその呟きが聞こえていたのか、すぐに同意の返事が帰って来た。
『ルーキーにしても酷すぎますわね』
『ええ、機体特性を把握出来ていないとでも言うのでしょうか?』
リクセント城内に配置されているランドグリーズはその見た目の通り、重装甲の長距離射程を武器にした射撃機だ。定石で考えれば、一定の距離で足を止め、そこからの支援射撃、もしくはハガネを狙っての砲撃となるだろう。仮にヴィレッタ達がランドグリーズに乗っていればそれを選択する。だが今目の前で繰り広げられている戦いは、その定石に真っ向から刃向かった形になっている。
『うわっとととッ!』
『アラド、無理に突っ込むな! 機体の重量の差と装甲の差で押し潰されるぞッ!』
『りょ、了解ッ!』
ランドグリーズが両手にアサルトマシンガンを持ち、それを狙いなどお構いなしに乱射しながら突っ込んでくる。その後をランドリオンが追走し、ミサイルやチャフグレネードによる煙幕を作り出すという定石とは程遠い――それこそ暴挙に等しい戦術にカイ達は完全に出鼻を挫かれていた。
『作戦通りの流れと言えば良いが……ちっ、これは不味いぞ』
リクセント城内からランドグリーズを誘い出すという作戦はまさかのランドグリーズ側がハガネに突撃してくるという想定外によって為されたが、重装甲かつ無数の飛び装具を内臓しているランドグリーズの突撃戦法はカイ達にとって完全な想定外だった。
『自爆攻撃でもないのか……一体どうなっている』
アーチボルドの戦術や性格を知るライはランドグリーズを盾にし、無人機のランドリオンに爆薬を搭載し自爆させる事だと読んでいたのだが……フォトンライフルの一撃で動力部を破壊されたランドリオンから脱出するパイロットを見て、それも違うと困惑させられた。
『こりゃ、あれじゃねえか? あの百鬼獣の奴の命令なんじゃないか?』
突撃して来たランドグリーズを計都羅喉剣で切り裂いたイルムがそう呟いた。武蔵の話ではあの百鬼獣――グルンガストに酷似している闘龍鬼は龍王鬼の配下の鬼である、ハガネに真っ向から突っ込んで来たうえに人道を説く鬼の配下ならばリクセントの住人を巻き込むのを嫌っている可能性は十分に考えられる。
『確かにその可能性はあるな、それにノイエDCもだが』
ノイエDCの兵士は偽ビアンを本物だと思っている。だからこそ再び集った者が多く、その上ビアンの地球を守るという意志に賛同している者が多く、人質戦法を許容する兵士はやはり多くないだろう。だからこそ城の外に出て戦いを挑んでいると考えれば辻褄は合う……。リクセントの城下町を壊す事無く、そして民間人を巻き込む事無く戦えるのはカイ達にとっても嬉しい誤算であったが、それに喜んでいる場合ではない。総合的な機体スペックはゲシュペンスト・MKーⅢやアルブレードが上だったとしても、装甲や攻撃力といった一部のスペックは完全にランドグリーズが上回っている。それに加え、何時百鬼獣の増援が出現するかもしれない以上、リクセント城内から敵機が出てきたとしても決して油断が出来る状況ではないと言う事に変りはないのだ。
『まぁ良い、向こうがリクセントの住人を巻き込むつもりがないと言うのならば、俺達にとっても好都合だッ! ラトゥーニとシャイン王女が突入出来るように派手に立ち回るぞッ!』
幸いにもカイ達の思惑に乗るようにノイエDCが立ち回っている。それならばそれを利用する奪還作戦の最終フェイズ――ラトゥーニとシャインの2人の城側面からの突入を行いやすくする為に必要以上に派手に立ち回りこちらに注意を向けるぞとライ達に指示を出しながら、カイの操るゲシュペンスト・リバイブ(K)の豪腕が振るわれ、地上から伸びる雷の柱がリクセントの町を照らし出すのだった……。
凄まじい轟音と共に立ち上った雷にカーラは思わずエルアインスのコックピットで小さく飛び上がった。
『大丈夫か?』
「あーうん、大丈夫」
元教導隊のギリアム・イェーガーとカイ・キタムラの駆るゲシュペンスト・リバイブの名は良いも悪いも有名だ。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの素体、プロトタイプと言われているが、その実ゲシュペンスト・MK-Ⅲを上回るスペックを持つ再誕の名を持つ亡霊の強さはL5戦役を戦い、正体不明のブラックエンジェルに撃墜されるまで不敗を誇った事から連邦――強いてはハガネとヒリュウ改の強さの象徴と言ってもいい。それに加えて元祖EOTを流用し、暴走事故で基地を1つ吹き飛ばした初代ヒュッケバインの同型機までもがハガネで運用されていると言うのはカーラにとって大きなプレッシャーだった。
「ユウは怒ってる?」
しかしもう1つの懸念がカーラの集中力を乱していた。作戦前にアーチボルドに噛み付いたカーラ、それがあるからかユウキも無言を貫いていると思い、不安そうにユウキへとそう問いかけた。
『いや、俺もその件に関しては思うことがあった。カーラが言わなければ俺が言っていただろう』
「じゃあなんで、そんなに黙り込んでいるの?」
『アーチボルド少佐が沈黙しているのが不気味でな。また何かしようとしているのではないかと思うのは当然だろう』
アーチボルドの護衛という名目でアーチボルドが余計な事をしないように監視しろと闘龍鬼に命じられたのはカーラも判っていた。今も不気味な沈黙を続けているアーチボルド。その気質は当然ユウキとカーラと相容れるものではないではないし、何よりもアースクレイドルを任されている鬼、龍王鬼にも受けが悪い。今回は民間人を盾にしようとした事を闘龍鬼に咎められ指揮権を剥奪されているが……。
「ユウはその程度じゃ止まらないって思ってるんだね?」
『……ああ』
そもそもシャインを確保出来なかった段階でそれほどまでに百鬼帝国はリクセントにこだわっていない。そもそも龍王鬼と虎王鬼が必要としておらず、金塊等の資金元を確保した段階でリクセントを放棄してもいいとさえ虎王鬼は言っていた。そもそも百鬼獣を運用出来る以上中継拠点を確保するよりも圧倒的な暴力で進路を確保した方が良いと思うのは当然の事だ。
『連邦側の廃棄する基地の爆破というのもある』
キルモール作戦下でノイエDC、百鬼帝国に確保されそうになった基地を爆破、あるいは基地機能の破壊など連邦側はDC戦争で基地の奪取を教訓にしており、リクセントからヨーロッパ方面に抜けるとしてもその間にある基地は十中八九基地機能の破壊や爆破の準備が済んでいるであろうし、そもそもリクセントに軍事拠点は無く、制圧していても補給も出来ない、整備も出来ないと中間基地としての価値も殆どないのが現状だ。
「あれ……ユウ。あの動きって……もしかしてアラドじゃないッ!?」
派手に立ち回っているリバイブの影で目立ってはいないが、操縦の癖を見ればアルブレードに乗っているのがアラドと言うのは一目で判った。
『どうやらハガネに回収されていたようだな……』
「そうだね……良かった」
アンノウンに撃墜されてからオウカやゼオラと別行動をしていたユウキとカーラはアラドの生存を知らず、こうして戦場と言えどアラドの生存が判った事に安堵の溜め息を吐いていた。
『ふむ……ユウキ、カーラ。お前達から見て連邦軍の動きはどう見える?』
だがいつまでも安堵してはいられない。今ユウキ達はハガネに攻め込まれているのだ、気を緩めている場合ではない。闘龍鬼からの問いかけにユウキは少し考えてから返事を返す。
『必要以上に派手に立ち回りすぎかと……』
『なるほど、俺も同意見だ、ゲットマシンという極上の囮を使い、ハガネとそのPT隊でさえも囮にする。なんと豪胆な手か』
闘龍鬼はリクセントの城下町に被害が出ないように外で戦うように命じたのでカイ達は思う存分戦う事が出来る。だがそれにしても派手に立ち回りすぎだとユウキは進言し、闘龍鬼もそれに同意した。必要以上に派手に立ち回る――それは別働隊の突入進路を確保する為の物と考えるのが普通だ。そして他の基地や部隊ならば確実に主力にする者を囮にする……闘龍鬼はなんと豪胆な手を打ってくるかと上機嫌に笑った。
「じゃあ攻め込んでいる友軍を戻しますか?」
『いいや、戻さない。ここまでやってくれたんだ、本命が出て来やすいようにするべきだろう。そしてその上で押し潰す、俺の戦う相手がゲッターロボならばなおの事良いがな』
生粋の戦闘狂だからこそ、相手の罠を踏み潰して勝利すると闘龍鬼は言い放った。そしてその直後ライノセラスから警報が鳴り響き、闘龍鬼は牙を剥き出しにして獰猛に笑った。ここまでお膳立てをして出てくる本命が何かと胸を躍らせる闘龍鬼の目の前に躍り出た物……それを見て闘龍鬼だけではない、ユウキとカーラも驚きの表情を浮かべた。
『なんだあれは……女?』
「お、女の子ロボッ!?」
光の粒子を撒き散らしながら、防衛隊を突破してきて来たフェアリオンを見て闘龍鬼はその闘志を霧散させ、困惑していた。闘龍鬼の予想では本命はゲッターロボであった、それと戦う事を前提としていたのに現れたのが20mもない小型の少女の姿をモチーフにしたAMでは困惑するのも当然だ。だがその困惑は更なる驚きによって覆されることになる、真っ直ぐに突っ込んでくるフェアリオンに向かってライノセラスから迎撃が行なわれ、ライノセラスの護衛に残っていたランドリオンからもスプリットミサイルが放たれる。それは小型のAMにとっては1発でも被弾すればその瞬間に致命傷になりかねない壁のような弾雨だった。だがフェアリオンはそれを恐れる事無く、その弾雨の中に身を投じた。
「嘘ッ!? なんであんな動きが出来るのッ!?」
『信じられん……なんという機動力だ……』
自殺行為にも見える弾雨の中に身を投じる行為、だが2機の神姫は空中を舞うように、旋回や緩急を駆使し、頭部からはなったビームで回避できない物は迎撃し、殆ど一瞬でその弾雨を潜り抜けライノセラスへと肉薄する。
『私の国は返して貰いますッ! ラトゥーニッ!』
『はい、シャイン王女ッ!!』
その機体から響いたのは紛れも無くシャインの声だった。国家元首が自ら機体を操り、自分の国を取り戻す為に戦いに身を投じた。その信じられない光景に、そのありえない現象にほんの一瞬だけ弾幕が緩んだ。その瞬間にフェアリオンは一気に加速しライノセラスへと切り込んで行った。肩部から展開されたブレードから展開されたフィールド――Tドットアレイを用いた突撃攻撃、ソニックブレイカー……しかも抜群の連携によって挟み撃ちのように突撃されたライノセラスの両弦が爆発し、格納庫ごと主砲、副砲を潰されライノセラスは一瞬で置物と化した。しかしフェアリオンはそれでも止まらず、バレルロールなどを駆使してユウキやカーラのエルアインスに攻撃を仕掛ける。
「は、速いッ!?」
『くっ!? 照準が定まらんッ!!』
AMの常識を遥かに越える速度、そして仮に命中しても完全に威力を無効化する強固なフィールドを前にショットガンなどの武装は意味が無く、そのフィールドを突破出来るであろうツインビームカノンはその速さゆえに照準さえ合わせられず、瞬く間にリクセント城前に陣取っていたライノセラスを初めとしたノイエDCの機体にダメージが蓄積する。
『ユウキ少尉! カーラ曹長何をしているッ! 速く迎撃に……なッ!?』
ライノセラスの艦長がユウキとカーラを叱責した瞬間、内部から爆発しライノセラスのブリッジからの通信は途絶えた。
「え、えッ!? な、何が起きたのッ!?」
『内部から……まさかアーチボルド少佐かッ!?』
ハガネからの攻撃でも、ましてやそのPT隊からの攻撃でもない、母艦である筈のライノセラスは内部から破壊され、乗っていたクルーごと爆発四散した。そんな非道をするのはライノセラスの中にいたアーチボルドに他ならない。……そして爆発したライノセラスの残骸から巨大な手が姿を現し、リクセント城の壁を掴んでゆっくりと立ち上がった。爆煙と炎に照らされる真紅の巨躯……。
『くふ、ふふふふッ! あーはははははははッ!!!!! いやいやいや、まさかまさかこんなに楽しいショーがあるとは思いませんでしたよ。ねぇ? プリンセス・シャイン?』
ライノセラスを破壊し現れたのは2本の角を持つ巨大な特機――だがそれは百鬼獣にあらず、そしてましてや新西暦の技術で作られた機体にあらず……それは旧西暦から新西暦まで海底の底で存在し続けた本物のゲッターロボ。
『ひひひ、ひゃーはははははははッ!! どうですかどうですか! 本物のゲッターロボが敵に回った気分はッ!!! ひゃーははははははッ!!!』
狂ったように笑うアーチボルドの声がゲッターロボから響き続ける。だがその笑い声をシャインは一蹴した、リクセントの民に、自分の国に全てに届くようにシャインは広域通信できっぱりとした口調で告げた。
『本物? いいえ、紛い物ですわ。そんな物はゲッターロボではありません』
『ほう? 何を持って紛い物というのか、僕に教えてくれませんか? プリンセスシャイン』
ノイエDCによって制圧されたリクセントの民は外に出ることも叶わず、食料等も手にする事が出来ない極限状態の中でも希望はあった。自分達の国の王女は無事に逃げ延びてくれた、シャインさえ生きていれば再びリクセントは復興出来る。幼くとも優しく、自分達の事を思ってくれているシャインさえ生きていれば良いのだと心からそう願っていた。
「ああ……そんなシャイン王女が……」
「どうして……なんで」
リクセント公国を奪還しにハガネが現れ、ノイエDCと連邦による戦火が広がり、恐怖し、脅えるリクセントの民の耳に届いたのは紛れも無く自分達が敬愛する幼き王女の声、そして自らAMを駆り自分達を助けに来た勇ましい姿だった。
『僕のゲッターロボは本物ですよ。旧西暦からずっと眠り続けていた本物のゲッターロボなんですよ』
『いいえ! 偽物ですッ! そんな物がゲッターロボであるわけがありませんわッ!!』
リクセントにとって絶対の存在であるはずのゲッターロボがノイエDCによって操られ、シャインの乗るAMに攻撃を繰り出すその姿はリクセントの民にとっては悪夢と言っても良い光景だった。
『武蔵様は言いました、ゲッターロボは正義のスーパーロボットであり、正義の心があるからこそゲッターロボなのだと』
『ははっ! それはおかしなことを言いますね。武蔵が人を殺めていないとでも? それとも正義を名乗れば殺人をしても許されるとでも言うのですか?』
シャインとアーチボルドが話している間もゲッターロボは斧を振るい、拳を振るう。フェアリオンはそれを回避しながらボストークレーザーによる反撃を続ける。
『武蔵様は言いました。覚悟だと、例え自分が悪人だと、殺人者と罵られようがそれでも守りたい者がある。救いたい物がある。それならば戦うしかないのだと』
これはカイ達も、もっと言えばビアンでさえも知らないであろう武蔵の心情の吐露だった。シャインだからこそ武蔵は話し、そしてその話を聞いたからこそシャインもまた戦いの中に身を投じる覚悟をしたのだ。
『ほう? では貴女の戦いとはなんですかね? プリンセスシャイン?』
『民と国を守る……それが私の戦い。ですから私は戦に身を投じる決意をしました』
『……それが何を意味するかお分かりですか?』
『己と他人の血を流すという事でございましょう? その覚悟は出来ています……ッ!』
武蔵に感化されたから戦うのではない、一国の指導者として、そして自分を慕う民を国を守る為にシャインは戦う決意をしたのだ。その決意の言葉はリクセントの民だけではない、闘龍鬼の胸にも強く響いた。
『この赤いフェアリオンはその証ッ! 私の国と民を脅かす者に容赦は致しませんわッ!』
真紅のフェアリオンは己の血、そして他人の血で濡れても尚民を守ると言うシャインの決意の表れだった。
「ああ……シャイン王女……」
「神様、どうか……どうかシャイン王女をお守りください」
自分達の為に戦いに身を投じるシャインの叫びは避難所に避難しているリクセントの民にも届き、その声を聞いたものはシャインの無事を心から祈った。その尊い覚悟を、並々ならぬ決意を持って戦いに身を投じたシャインの身を心から案じた。だがアーチボルドはシャインのそんな悲痛なまでの決意を鼻で笑った。
『僕にはそんな甘えた考えは判りませんねぇ、まぁ判りたくもないですが……高貴なる者の務めとでも言いたいのでしょう。ならば今が切り札の使い時……ですかねえ』
シャインの決意を笑ったアーチボルドは広域通信をONにしたままハガネに向かって絶望的な言葉を告げた。
『プリンセス・シャイン、そしてハガネの皆さん……直ちに戦闘を中止し、武装解除して貰いましょうか? 市内にいるリクセントの国民が爆死する事になるのは嫌でしょう?』
アーチボルドからの武装解除要求――断れば民間人を殺すと言うアーチボルドの言葉に敵味方問わず、凄まじい衝撃が走った。
『んふふふ、念の為にですね。民間人の集まっている所に 爆弾を仕掛けてありましてね。今すぐ抵抗を止めていただかないと……ボン、ですよ? いやあ備えあれば憂いなしとはこの事ですねえ』
ゲッターロボという圧倒的な力を手にしても尚、いやその力を手にしたからこそ、無抵抗の人間をなぶり殺しにする為にその力を使おうとした。だがその余りに非道な戦術は当然味方からも避難を買う事になった。
『貴様ッ! 何をしているのか判っているのか! アーチボルドォッ!!』
『少佐! あんた、最初からそのつもりでッ!?』
闘龍鬼、カーラからの怒りの怒声にアーチボルドは余裕の笑みを浮かべる。
『ええ、最初からそのつもりですよ。言ったでしょう? 民間人は僕達の盾だとね?』
『己! 卑怯にも程があるぞッ!』
『アーチボルト貴様ぁッ!!!』
カイ達からの怒声が響くがアーチボルドはその非難の声を聞いて、楽しくて楽しくてしょうがないと言う笑みを浮かべた。
『なんと言われようが勝てば官軍、負ければ賊軍ですよ。さ、早く武装を解除してください』
繰り返し武装解除を要求するアーチボルドの背後で大きな爆発が響いた。
『『『なッ!?』』』
連続的に起こる爆発にカイ達はアーチボルドが避難所を爆破したと思い、驚愕の声を上げる。しかしアーチボルドは起爆スイッチを押しておらず困惑の声を上げる。その直後だったゲッターロボの前の空間が歪み、1体の百鬼獣が姿を現したのは……。
『うおらぁッ!!! くたばりやがれッ!! この外道ッ!!!』
『え、あ……ぐぼおッ!?』
だがその百鬼獣は動けないでいるフェアリオンやゲシュペンスト・リバイブにも目もくれず、ゲッターロボの胴体に燃え盛る剛拳を叩き込みその巨体を殴り飛ばした。仲間割れにしか見えないその光景にハガネのパイロット達に混乱が広がる。
『ヤイバッ!? お前、どうして!』
『なにやってんだ、闘龍鬼のド阿呆ッ!! あの腐れ外道を好きにさせたらこうなるって判ってただろうがッ!』
ヒュッケバインに良く似た細身の百鬼獣から響いたのは年若い青年の声だった。
『虎王鬼様に感謝しときな。俺を小人にしてリクセントに潜り込ませてたんだよ、あの外道が必要以上に人を殺さないようにな。ったくぎりぎりで間に合って良かったぜ』
ヤイバと呼ばれた鬼が乗る百鬼獣――闘刃鬼は振り返り、ハガネにその視線を向けた。
『あの馬鹿が仕込んでた爆弾は全部ぶっ飛ばしたからよぉ、思う存分戦おうぜッ!! 人間共ッ!!!』
背中に背負った異形の日本刀を構えた闘刃鬼からは全てを飲み込むような圧倒的な闘気が放たれる。それはリクセントの民にとっては耐え切れない凄まじい恐怖を齎した。自分達が避難している場所にまだ爆弾が残っているかもしれないという恐怖から避難していた民間人達がシェルターを飛び出してくる。
『いかん! 動いてはならんッ!』
『くっ……ッ!?』
人の波が生まれ、完全なパニック状態になっている、こんな状況で動けば民間人を踏み潰す事は勿論、将棋倒しによる圧死などありとあらゆる二次被害が生まれかねない。ダイテツの指示が飛び、カイ達はその場で一歩も動けない状況に陥ってしまった。
『恐れないで! リクセントの皆ッ! 大丈夫だからシェルターへ戻ってくださいッ!』
そのパニックを止めたのはシャインだった。恐怖に脅え、死にたくないと逃げ惑う住人であってもそのシャインの言葉に耳を傾けるだけの知性は残っていた。
『大丈夫です! シェルターに戻ってください、私達が、ハガネの皆が貴方達を守ります。絶対に死なせません、だから私を信じてシェルターへ戻ってください。それに……なにも恐れる必要はないのです。だって私達には……』
フェアリオンがその両手を夜空に向かって掲げる、それは祈りを捧げるようにも、あるいは愛しい誰かを迎えるようにも見えた。そしてその直後リクセントの住人の目の前に3つの流星――いやゲットマシンがその姿を現した。
『本物のゲッターロボが……武蔵様がついているんですから、何も恐れることなんてありませんわ』
フェアリオン・タイプGから響くその声は明るく、何も恐れることはないと言わんばかりの……いや愛しい相手に向けるような甘く蕩けるような響きに満ちた声だった。
『チェェエエエンジッ!!! ドォォォオオオオラゴォォォンンッ!!!!!』
そしてその声を掻き消すように怒りに満ちた武蔵の雄叫びがリクセントの上空に響き、避難所から出てきたリクセントの住人の目の前でゲッターD2へと合体を果たす。その姿を見てシェルターを出ていたリクセントの住人からは口々に武蔵とゲッターロボの名を叫ぶ声が発せられる。
『この糞野郎ッ! 覚悟しやがれッ!!』
闘刃鬼に殴り飛ばされたゲッターロボへと向かっていくゲッターD2から響いた武蔵の声。その声を聞いたリクセントの住人達はもう大丈夫なのと、もう安心だと思ったのかシェルターへと引き返す。
『本当、武蔵の人気凄すぎだろ……驚きを通り越して呆れてくるぜ…』
『そんな事をいっている場合じゃないぞ、イルム。民間人の安全は保障された、ならば俺達も何の憂いも無い! このままリクセントを奪還するぞッ!』
『おらおら!! 掛かってこいやッ! このヤイバ様と闘刃鬼が相手をしてやるぜッ!』
『行くぞ! 全機進軍ッ!!』
カイとヤイバ、闘龍鬼の指示が飛び交い、リクセント奪還戦はより激しさを増していく事になるのだった……。
第101話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その4へ続く
書きたいことを書いていたら予想以上に長くなり申し訳ありません。会話や地の文がかなり多くなりましたが、ここからはちゃんとした戦闘を書いていけると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
スパロボDDの次の期間限定はランページゴーストのようですね
750ジェムあるので1回だけ挑戦してみたいと思っております
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い