進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第102話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その5

第102話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その5

 

リクセント城の上空に停泊したハガネの格納庫は凄まじい騒ぎになっていた。それも当然、現段階でのハガネの最大戦力の2格――グルンガストとゲシュペンスト・リバイブの中破は設備の乏しいハガネの格納庫では完全な修理は当然不可能であり、その上リクセントにはPTや特機を修理出来る設備も無いと来た。それでも自分達に出来る範囲で機体をメンテナンスを行い、次の戦いに備えようとしていた。

 

「んんームムムゥ」

 

アビアノ基地でビルトビルガーの仕上げを行っているマリオンの変わりにハガネの整備班の手伝いに来ていたラルトスは、ハンガーに固定されているゲシュペンスト・リバイブ(K)を見て深刻そうな顔で呻き声を上げる。

 

「何とかなりそうか?」

 

「ウウウムウウウ……無理ネッ!!」

 

思いっきり溜め込んだ上で無理っと叫ぶラルトスにカイは思わずずっこけた。ラルトスはそんなカイを見てノリがいいネと笑いながらも、真剣な顔で修理が出来ない理由を1つ1つ説明し始める。

 

「カイ少佐も判っていると思うんだけド、ゲシュペンスト・リバイブは特別製ネ。正しいメンテナンスはテスラ研じゃなきゃ無理ヨ」

 

「それは判っているが……何とかならんか?」

 

型式番号、データ上はゲシュペンスト・MK-Ⅲの試作機になっているリバイブとラドラのシグだが、その実全く別物の機体でゲシュペンストのパーツとは互換性が無い。闘刃鬼と殴りあった事で拉げた指とメガプラズマステークの電極自体は交換出来るが、拳のあとで陥没し、溶解している胴体部と肩部、そしてクロスカウンターが掠めた頭部、そして今も右拳に突き刺さったままの闘刃鬼の仕込みナイフが問題だった。

 

「胴体部と肩部は耐久が下がる変わりニ、チョバムアーマーを貼り付ければ何とかなるかもしれないネ。でも……多分リバイブのパワーに耐え切れないヨ」

 

「操縦中に破損する可能性があると?」

 

「……ンンー頑張っテ空中分解は回避できるかモ……後たぶんと言うカ、確実に被弾した瞬間にお釈迦ネ。悪いけド、移動する棺桶にパイロットを乗せるのは出来ないネ。頭がおかしいのはラルちゃんも自覚してるけド……死ぬと判ってる物に人を乗せるなんて言うのは科学者としても、技術者としても出来ないヨ」

 

性格に難のあるラルトスだが、技術者としての才覚、そしてその技術力は紛れも無く超一流だ。そのふざけた性格さえなければSRX計画やATX計画だけではなく、レイオスプラン、テスラ研への招致などの栄光の道があったが、いかんせんその性格によって面接で落とされ、どこも拾う所が無いと言う事でマオ社に引き取られたという経緯を持つが機体に関しては真摯で、そしてメカニックとしてパイロットを死ぬという前提の機体に乗せられないと言う一種の矜持も有していた。

 

「何とかならないか?」

 

「特に頭は酷いネ。センサー類が纏めてお釈迦になってるかラ……モニターは7割は死んでるはずネ、それにメガプラズマステークの内部配線がグチャグチャだかラ、これも修理は無理。結論スクラップ手前ヨ、修理するにはテスラ研か伊豆基地に保管されてる予備パーツが必要ネ」

 

それでも今ここで戦場を離れる訳には行かないとカイが粘る。ラルトスは瓶底眼鏡を掛けなおしながら悩む素振りを見せる。

 

「使い捨てになるけド……ゲシュペンスト・MK-ⅢのタイプSかKの装甲版の使用許可が下りれバ……なんとかはなるネ」

 

「……使い捨てなのか?」

 

「圧着して、溶接してモ……多分リバイブの反マグマジェネレーターに耐えられないネ。使い捨てで強化装甲を貼り付けて破損部をカバーしテ、潰れた顔は開発中のMK-Ⅲのスナイプタイプの頭部センサーアイを流用しテ……メガプラズマステークの電極を外しテ、手甲を装備させれバ……辛うじテ戦闘は出来ると思うけド、正直ラルちゃんはMK-Ⅲを使う方が安全だと思うヨ」

 

動かせるようになったとしても、余りにもリスクが大きすぎるとラルトスはカイに今はリバイブを諦めろと告げる。

 

「ダイテツ中佐に許可を取ってくる。それで準備しておいてくれるか?」

 

しかしカイはその状態でも良いからリバイブを使えるようにしてくれとラルトスに頼む。

 

「……マジで言ってル? ラルちゃん、自分が異常って判ってるけド、カイ少佐も十分頭おかしいネ」

 

「ちょっとラルちゃん何言ってるのぉぉおおおおッ!?!?」

 

「すみませんすみませんすみませんすみませんッ!!!」

 

「この馬鹿馬鹿馬鹿娘ッ!!! なんで頭良いのにこんなに馬鹿なのッ!?」

 

「痛イ! ラルちゃん悪くないの二ッ!」

 

ラルトスの言葉を聞いて周りにいた整備兵が慌ててラルトスの首根っこを掴んで、謝罪の言葉を壊れたように口にする。しかしカイは気にするなと朗らかに笑った。

 

「いや、俺だって無茶な事を言ってるのは判る。ゲシュペンスト・MK-Ⅲを使うのが最善だと判っているさ、それでもリバイブのパワーが必要なんだ。無茶は承知で頼む」

 

「……ンー判ったネ。準備を始めるかラ、ダイテツ中佐に許可だけ貰ってきて欲しいヨ」

 

根負けしたラルトスが改造を引き受けたことでカイは助かると頭を下げて格納庫を後にし、イルム達はシロガネが合流するまでハガネで待機となり、リクセント奪還作戦での戦いについての話をしていた。

 

「アイビスはどうした?」

 

「精神的、肉体的な疲労が凄いそうなので医務室で休んでるそうですわ」

 

パイロットは格納庫で待機なのだが、そこに姿の見えないアイビスはどうした? とイルムが尋ね、レオナがどこにいるのかを伝える。

 

「確かにルーキーには厳しい戦場だった」

 

「でもアイビスさんのおかげで今回の作戦は上手く行きましたよね?」

 

初手のポセイドン号とアステリオンのかく乱と陽動のお蔭でリクセント奪還作戦は成功したと言ってもいいだろう。

 

「まぁ功労者だから先に休むのは良いか。それより武蔵とラトゥーニはどうしたんだ?」

 

「あの2人はシャイン王女にリクセント城に招待されているので、その為の準備をしているそうですよ」

 

ノイエDCと百鬼帝国に制圧されていたリクセントだが、爆弾等の仕掛けがない事が判り、シャインが指揮を取り会見の準備をしているのだが……どうもシャインの要請で武蔵とラトゥーニの2人がリクセントに向かう準備をしていると聞いてイルムは苦笑いを浮かべた。

 

「武蔵はシャイン王女にとっては王子様だからしょうがねえわな……出来ればあのゲッターロボの化け物について聞きたかったんだが……また後にするか」

 

「武蔵はブラックゲッターと言ってましたわね」

 

ゲッターD2と戦う中何度も再生を繰り返し、巨大化を続けたアーチボルドの乗るゲッターロボノワールには余りにも謎が多すぎた。失った腕や焼き尽くされたパーツを再生するなどありえない現象を起していた。

 

「でもまぁ、武蔵さんが倒してくれたから良いんじゃないですかね? ライ少尉達はその因縁があるようでしたけど……」

 

「確かに俺が倒せれば言う事は無いが……そのために無茶をするつもりはない」

 

「正直私達の機体ではどうやっても倒せるとは思えませんでしたわ」

 

ライとレオナを気遣う素振りを見せたアラドが安堵した様子で深い溜め息を吐いた。その様子を見てライとレオナは苦笑いをその口元に浮かべた、確かにアーチボルドには因縁があった。しかしどんなカラクリは判らないが、異常な再生能力を持つゲッターノワールにR-2とヒュッケバイン008Lでは決め手が無く、自分達の変わりに武蔵が倒してくれた……それで良しとしようとしていた。

 

「アラド、何の話をしてるんだ?」

 

「……あの、なんすか、その恰好?」

 

格納庫に入ってきた武蔵が何の話をしてるんだ? とアラドに尋ね。アラドが話の内容を説明しようとして振り返り、なんとも言えない表情を浮かべた。

 

「やっぱ似合わないよなあ。これ」

 

「それはしょうがないわ、我慢して武蔵」

 

武蔵は普段の剣道の胴とニッカボッカに長靴、そして安全ヘルメットに日本刀を背中に背負うという独創的な服装ではなく、連邦軍の礼服に身を包んでいたのだが、明らかに武蔵に似合っていない。

 

「ぶふうッ!!! ははははッ!!! なんだ武蔵、その格好はッ! 似合ってないにも程があるぞ!?」

 

「そんなに笑わんでくださいよイルムさん。似合わないって言うのはオイラが1番判ってますよ」

 

イルムが噴出すほど笑い出し、武蔵が嫌そうに眉を顰める。

 

「いや、そんなにおかしくはないんじゃないか? うん。なぁ? エキドナ」

 

「変」

 

イルム同様肩を震わせ、笑いを堪えながらユーリアがエキドナに声を掛けるが……エキドナは即答で変と返事を返した。

 

「おーまーえーはッ!! もう少し返事を考えろといつも言っているだろう!」

 

「いひゃいいひゃい!!」

 

変と即答したエキドナの頬を摘みながら説教をしているユーリアといたいと暴れるエキドナ。

 

「このやり取りに関してレオナはどう思う?」

 

「ノーコメント」

 

尊敬する上司のIQと行動が著しく幼くなっている光景をどう思う? とイルムに話を振られたレオナは虚無顔でノーコメントと呟き目を伏せた。どうも、上司のある意味変わり果てたとも言える光景を見たくなかったようだ。

 

「……はぁ、これならまだ学生服とかの方がマシだぜ……んで、何の話をしてたんだ?」

 

「あ、ああ。アーチボルドが何故ゲッターロボに乗っていたのかという話だが……あいつはもう死んだから関係はないだろう」

 

ライの返事を聞いた武蔵は眉を細め、少し考える素振りを見せてから首を左右に振った。

 

「あいつ、生きてるぞ」

 

「「「はぁッ!?」」」

 

生きてると断言した武蔵にリクセントでのフルパワーのゲッタービームを見ていた面子から驚きの声が上がる。

 

「どういうことですの武蔵、ゲッターノワールとやらを吹き飛ばしたのでは?」

 

「いや、もし吹き飛ばしたのなら……炉心の爆発があるはず。でもそれが無かった」

 

「ゲッタービームで炉心の爆発を押し込んだじゃないのか?」

 

「……いや、仮にそうだったとしても……絶対爆発は起きてる。だからオイラはシャインちゃんとラトゥーニに上空に打ち上げてもらったんですよ、フルパワーのゲッタービームの余波と、ノワールの爆発の事を考えて……それにこんな事を言うのは何なんですけど、オイラがアイドネウス島で自爆した時の事を思い出して貰うと判る筈……爆発が余りにも小さいって」

 

ゲッターロボの自爆でセプタギンの7割が吹っ飛んだ。それを考えればゲッターノワールの爆発は余りにも規模が小さい……。

 

「つまりあいつは……アーチボルドはまだ生きていると?」

 

「確実に生きている。間違いねぇ」

 

深刻な顔で生きていると重々しく武蔵が断言した。異常な再生能力と自己進化を持つ悪魔のようなゲッターロボ、そしてそれを駆るアーチボルドという異常者……それは闘龍鬼、ヤイバと同等の脅威が生まれたという事を現していた。

 

「あ、ラーダさん。武蔵いましたよ!」

 

「良かったわ、ヴィレッタ。召集コールが聞こえなかったの」

 

重苦しい雰囲気を散らすようにラーダとツグミの声が格納庫に響き、ヴィレッタは自分のDコンがコール音を立てているのに今気付いた。

 

「ごめんなさい、ちょっと話をしてたのよ。もう準備は出来たのかしら?」

 

「勿論、バッチリです! 見てください、自信作ですよ」

 

ツグミが満面の笑みを浮かべ、自身とラーダの後ろに隠れていたラトゥーニを武蔵達の前に押し出す。

 

「あう……」

 

気恥ずかしそうにしているラトゥーニは白と紫をベースにしたゴシックロリータドレス姿ではなく、赤とピンクのシャイン王女のドレスと似た色彩のゴシックロリータ姿にレースとフリルをふんだんに使い、首元と髪に大きなワインレッドのリボンをあしらった誰がどう見ても美少女というべき姿をしていた。

 

「これはまたずいぶんと化けたなあ」

 

「ラトゥーニ、すげえ似合ってるじゃん!」

 

「確かにこれは自信作というだけはありますわね」

 

ツグミの趣味はゴシックロリータファッションの作成で、いまラトゥーニが着ているドレスもツグミの手作りの品だ。実はその業界ではかなり有名なデザイナーだったりする。勿論プロジェクトTDがあるので、それほど流通はしていないが幻のデザイナーとして実はかなりの有名人だったりする。

 

「なんで着替える必要が?」

 

「シャイン王女に招待されているからよ。大丈夫、とても良く似合ってるわ、さ、時間が無いから行きましょう」

 

自信を持ってとツグミに言われたラトゥーニだが、私の言いたい事はそれじゃないと言うのがその表情が物語っていた。

 

「それじゃあ武蔵、ラトゥーニと先にリクセント城に向かって貰えるかしら?」

 

降下用のエレベーターでリクセント城の城門に降りた武蔵とラトゥーニにラーダが軽い感じでそう告げたが、武蔵とラトゥーニの顔は引き攣っていた。

 

「ラーダさん、1つ質問があります」

 

「何かしら?」

 

「ここを歩いて行けと?」

 

「そうよ」

 

ラーダの短い言葉に武蔵もラトゥーニも絶望感に満ちた表情を浮かべる。それもそのはず、城門から城の入り口までの間には近衛兵が並んでおり、リクセントの旗を掲げた者とラッパやドラムと楽器を構えている者が交互に並んで列を成していた。

 

「マジですか?」

 

「どうしてもここを歩かないと駄目ですか?」

 

ツグミとラーダの返事は無く、2人はにこりと微笑み武蔵とラトゥーニの背中を押し、それと同時に降下エレベーターでハガネへと引き返し退路も完全に断った。そしてその直後に鳴り響いた音楽に武蔵とラトゥーニは肩を竦め、2人ともなんでこんな事にと言わんばかりの引き攣った笑みを浮かべ、リクセント城に続く長い道を歩き始めるのだった……。

 

 

 

 

武蔵とラトゥー二がハガネで準備をしている頃――シャインは自らの足で城下町を歩き、兵士やリクセントの住人達を自らの目でしっかりと見つめ、長い時間を掛けてリクセント城へと歩いてきた。城門をくぐると鳴り響くラッパの音色――それは城に勤める近衛兵達のシャインの帰還を喜ぶ音色であり、目に涙を浮かべながらラッパを吹く兵士達に深く頭を下げ感謝の意を示してから城の中へと足を踏み入れた

 

「お、おお……シャイン様……ッ!」

 

「爺、 私……戻って参りましたわ」

 

シャインの姿を見て感極まった様子で目に涙を浮かべ駆け寄って来たジョイスにシャインは力強い口調で返事を返す。

 

「まさか、シャイン様ご自身が奪還作戦に加わっておられたとは……」

 

「ごめんなさい、ジョイス。心配を掛けたでしょう……ごめんなさい、でも私は……私の手でリクセントを取り戻したかったのです」

 

フェアリオンはシャインのもつ承認コードがなければ起動しない。空を飛ぶフェアリオンの姿を見てジョイスが気が気ではなかったという事を悟りシャインは謝罪の言葉を口にした。

 

「いえ、こうして無事に戻ってこられた……そしてシャイン様のお姿は私も、そしてリクセントの民も皆を鼓舞してくれました」

 

自らの国の姫が自らAMを駆り、そして国を取り戻しに来た姿は戦いの中で恐怖していた民達を勇気付けていた。

 

「いえ、私に出来た事はそれほど多くありません。リクセントを取り戻せたのは……武蔵様、ラトゥー二、そしてハガネの皆様のおかげです」

 

これはシャインの嘘偽りのない気持ちだった。ラトゥーニがいなければフェアリオンは空を飛べなかったし、武蔵がいなければ反対意見を諌める事も出来なかった。そして何よりもシャインに願いをハガネの皆が聞き入れてくれなければリクセント奪還作戦は成功しなかった。だから自分に出来た事はさほどないのだとシャインは告げた。

 

「それよりもジョイス……皆は無事ですか?」

 

自分を賞賛する声よりもシャインが今知りたかったのは城に勤める者達やリクセントの民が無事かどうかであった。シャインならばそれを尋ねると思っていたジョイスはシャインが戻るまでに可能な限りの安否確認を済ませていた。

 

「はい。私も含め城の兵士やメイド、コック長達、そしてリクセントの市民達は皆龍王鬼、虎王鬼を名乗る2人の鬼によって保障されておりました」

 

「……龍王鬼と虎王鬼。武蔵様と戦った鬼ですか……」

 

「はい、私も何度か顔を見合わせて話す事になりましたが……あれではアーチボルドの方がよっぽど鬼で化け物と思うほどに高潔な人物でした。医者の手配から迷子の親探しに食料の配布……私含めて全員が驚きを隠せませんでした」

 

最初は毒を疑ったジョイス達の目の前で物を食い、物を飲み大丈夫だと言い。ノイエDCの兵士の非道な行為を諌め、制裁を与える等鬼でありながら、その精神は極めて高潔で、そして人質として捕えてはいるが、可能な限りの譲歩をしてくれていた。

 

「ジョイスがそこまで言うのならば……きっとそうなのでしょうね」

 

シャインからすれば龍王鬼は武蔵を意識不明に追い込んだ憎い相手ではある。だがジョイス達を守ってくれたと言う事には感謝していた。

 

「しかし、よもやノイエDCの者達がシェルターに爆弾を仕掛けていたとは……」

 

鬼よりも同じ人間の方があくどい一手を打ってくるとはジョイスでも読みきれなかった。ヤイバがいなければ、リクセントは壊滅的な打撃を受けていたのは間違いないだろう。

 

「このような状況だからこそ、余計に人間の醜さというのが出てしまうのかもしれませんわ……それに今回と同じような事が他の国でも起きているのかもしれませんわね……」

 

鬼の方が人間に近く、人間の方が鬼とも言える。勿論それが全てと言う訳では無いが……それでも間違い無く人間の中にも悪意は確かに根付き、芽吹こうとしていた。

 

「爺……私は」

 

シャインが意を決した表情で何かを言おうとした時。再びラッパの音が鳴り響いた、それは武蔵とラトゥーニの2人がリクセントの城門に向かってきていると言うことを示していた。

 

「また後で、いまは私に出来る事をやってまいります。飛行許可は得ておりますから、心配しないでください」

 

そう笑いドレスの裾を翻し駆けて行くシャイン。その先には礼服に身を包んでいる武蔵とラトゥーニの姿がある。

 

「シャイン様」

 

満面の笑みを浮かべて武蔵に話しかけている姿を見れば、どんな馬鹿でもシャインが武蔵に思いを寄せているのは丸判りだ。だが底抜けの馬鹿である武蔵はその視線に気付いていない……というよりも、武蔵のシャインに対する対応は妹か親戚の子供を相手にするような物でジョイスの目に冷ややかな怒りの炎が宿った。

 

「……ゴキリッ!」

 

ジョイスの拳が音を立てながら握り込まれた。若き日にリクセントの核弾頭とまで言われた老執事が臨戦態勢に入っている事を武蔵が知るのはもう少し先の話なのだった……。

 

 

 

 

伊豆基地へ向かうヒリュウ改はアビアノ基地から東に向けて出航し、トルコを経由し日本へ向かう進路を取っていた。トルコ周辺に入るまではノイエDCの勢力下ではなく、最も安全な航路と言う事もあり、トルコに侵入する前にヒリュウ改の格納庫では機体の整備や改造が急ピッチで行なわれていた。

 

「どうだ? タスク。なんとかなりそうか?」

 

その中で最も整備兵が集まっているアルトアイゼン・ギーガの足元でキョウスケがタスクにそう問いかける。

 

「いやキョウスケ中尉。これは俺でも無理ッス」

 

「……そんなに無理か?」

 

「無理ですね」

 

「んんー? キョウスケ、何無茶振りしてるの?」

 

無理となんとかならないか? と押し問答をしているキョウスケにもたれかかるようにしてエクセレンがそう尋ねる。

 

「ああ、エクセレン少尉からも言って下さいよ。バンカーにテスラドライブを増設できないかって言うんですよ?」

 

「え? いや、それは流石にあれじゃない?」

 

「そうか? 1つついているのなら2つつけても問題はない筈だ」

 

「そんな単純なもんじゃないです。そもそもこれに関してはマ改造ところか、キチガイ改造です」

 

リボルビングバンカー改はテスラドライブを装甲内に装着することでインパクトの瞬間に爆発的に加速し、杭の部分にT-ドットアレイを展開し、通常のリボルビングバンカーよりも衝撃を相手に伝えるというシステムを採用している。テスラドライブを攻撃に転用すると言う頭のおかしい武装なのだとタスクは丁寧にキョウスケに説明する。

 

「整備やメンテナンスは出来ますけど改造は無理ッス。設計者と開発者のラルちゃんじゃなきゃ無理っす。諦めてください」

 

ビルガーの為にアビアノに残ったマリオンの代わりにハガネに乗り込んでいるラルトスじゃなきゃ無理だと言われて、やっとキョウスケは改造を諦めた。

 

「なんで急にそんなことを言い出したのよ? キョウスケ」

 

「……嫌な予感がするんだ」

 

キョウスケが真剣な顔で嫌な予感がすると口にしたのを聞いて、エクセレンもタスクもギョッとした表情を浮かべた。

 

「マサキとリューネが偵察から戻ったら私とキョウスケの番だけど……」

 

「この様子だと不味い事になりそうッスね。アルトの改造は出来ないですけど、プロペラントと予備弾装は多めに詰んどきます。それで我慢してください」

 

出来る限りの準備はする。それで我慢してくれと言われキョウスケは判ったと返事を返し、ハンガーに固定されているアルトアイゼン・ギーガを見上げ、そして胸に手を当てた。

 

(なんだ。この感覚は……)

 

何をしても無駄と言われている様な、それでも何かしなければならないと言う強い焦燥感がキョウスケの胸の中で渦巻いていた。伊豆基地で何か起きるのか、それともアインストやビースト、そして百鬼帝国のような脅威が自分達の前に現れるのかもしれないと言う言葉にならない不安をキョウスケは感じていた。

 

「大丈夫?」

 

「ああ。大丈夫だ、心配を掛けてすまない。もう大丈夫だ」

 

大丈夫だというキョウスケ。だがその顔色は決して良くは無く、エクセレンに偵察の時まで少し横になっているといいと言われ、キョウスケは渋りながらもエクセレンに手を引かれながら格納庫を後にするのだった。

 

「キョウスケがあそこまで言うなんて普通じゃねえな」

 

「そうみたいですね。それでカチーナ中尉は俺に何のようですか?」

 

嫌な予感がするなあという顔をしながらタスクがカチーナに問いかける。するとカチーナは指令書をタスクに向かって突き出した。

 

「えっと……え? マジ?」

 

「大マジだ。あたしのゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造許可が下りたぞ。どんな風にするか話すから付き合え」

 

「ええーッ」

 

レオナのガーリオンの改造を始めようとしていた所をカチーナに掴まり、タスクは聞いている者が憐れに思うような声を上げながらブリーフィングルームへと引き摺られて行き、その光景を見ていた整備兵達は皆無言で敬礼しタスクとカチーナを見送るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

アースクレイドルの格納庫の一角では不気味に脈打つ巨大な繭があった。その鼓動は一定でまるで人間の心音のようであった。

 

「ここまで来ると化け物と変わらないわね」

 

繭の中身はゲッターノワールであり、アースクレイドルに戻るなり繭を作り自己再生・自己進化を行ない始めていた。ゲッターD2と戦いその戦闘力を学習し、変異をする姿はレモンからすればインベーダーとアインストと大差なく、嫌悪の象徴でしかなかった。深い溜め息を吐き龍王鬼達の区画へと向かうレモンの耳がブライの声を拾った。

 

「やぁ、アーチボルト君。随分と暴れたようだね?」

 

「ああ、ブライ大帝……このようなお見苦しい姿で申し訳ないですね……」

 

医務室をちらりと覗き込んだレモンの視線の先には顔だけを培養液から出しているアーチボルトの姿があるが、培養液の中の手足は肘・膝から先が無く、達磨の一歩手前の有様だった。

 

「鬼の再生能力ならば問題なく治るさ、次は期待しているよ」

 

「ご期待に添えるように頑張ります」

 

(あほくさ)

 

ゲッターノワールは実験台であり、そのパイロットも使い捨てと聞いている。ブライの聞き心地のいい言葉を聞いて笑みを浮かべているアーチボルトに蔑みと哀れみを混ぜた視線を送ったレモンは早足で歩き出す。レモンの目的地は龍王鬼と虎王鬼の支配区画であり、そしてメイガスとアクセスできる数少ない場所であり、ウォーダンの調整の為に早足で歩いていると、背後からレモンを呼び止める虎王鬼の声が響いた。

 

「レモン、ありがとね。ゼオラとオウカの事助かったわ。所でどうかした? 凄い顔をしてるけど」

 

「……顔に出てた?」

 

「うん、めちゃくちゃ不機嫌ですって顔をしてたわよ? どうしたのよ」

 

レモンと虎王鬼は気が合うらしく、龍王鬼とアクセル、ヴィンデルがいない時に限るがお茶を共にしながら話をする程度には気心が知れた仲になっていた。不機嫌そうなレモンにどうしたのと友人に尋ねる感覚で虎王鬼が問いかける。

 

「虎王鬼はウォーダンってどう思う?」

 

問いかけに問いかけを返され虎王鬼は首を傾げながらも自分の所感を伝える。

 

「凄く真面目で頑張ってるなぁって思うけど?」

 

「そうよ! ウォーダンは頑張ってるのよ。それなのにヴィンデルとアクセルと来たら……不安定だの、人形だの……ああッ! もう腹立つッ!」

 

「どうどう、落ち着きなさいよ」

 

「ウォーダンだけじゃないのよ!? 私の最高傑作のラミアも不良品って言うのよ!?」

 

「判った、判ったから落ち着きなさい。ほら、お茶淹れてあげるから」

 

情緒不安定のレモンにおいでおいでと声を掛け、虎王鬼はレモンを自室に招き入れる。

 

「はい、落ち着くわよ」

 

「ありがと」

 

差し出された湯のみを受け取り、それと1口啜ったレモンは落ち着いたのか深い溜め息を吐いた。

 

「本当にあの2人って人の神経を逆撫でするのよ」

 

「そうねえ、良い性格はしてないわね。鬼の私が言うのも何だけど」

 

鬼である虎王鬼から見てもアクセルとヴィンデルの性格はちょっとと物言いしたくなるレベルだった。

 

「なんで一緒にいるのよ? もう離れたら? 私の所に来るなら龍に声を掛けてあげるわよ?」

 

「アクセルはあんなんでも恋人だし……ヴィンデルは私を拾ってくれたし……」

 

難儀な女ねぇと虎王鬼が苦笑しながら言うと、レモンもそう思うと返事を返す。そしてウォーダンの事をぶつぶつと呟き始める。

 

「ウォーダンは今は大事な時期なのよ。自我に芽生えかけてるの、私はそれを尊重したいのに上から命令ばっかりされたらそれが全部無駄になるわ」

 

Wシリーズの根底にはヴィンデル、アクセル、レモンへの服従がプログラミングされている。自我が芽生えるかどうかという段階でヴィンデルとアクセルに上から押さえつけられるように命令されたらそれが全部無駄になるとレモンはお茶を啜りながら愚痴愚痴と呟いた。

 

「人造人間が自分の意志を持つか否かか……人の姿をしてるなら自我を持つのは当然でしょう。本当に理解の足りない男は駄目ね、家の龍とは大違い」

 

肉体は精神に引っ張られる。ならばその逆も然り、精神は肉体の影響を受ける。鬼になった者が凶暴性を発露させるのと同じだ、たとえ誰かの人格データをコピーしていたとしても人の姿をしているのならば自我を持つのは当然だと虎王鬼はレモンの意見に同意した。

 

「惚気られているのはあれだけど……他人に言われると安心感が違うわ」

 

「そう、それは良かったわ。まぁ大事に育てなさいな、何を言われてもね?」

 

レモンはシャドウミラーの内情を話さないし、百鬼帝国の事も尋ねない。愚痴で虎王鬼が何かをぼやいている時くらいしか自分から問うことはない……そして虎王鬼も同じである。互いに属する組織には思う事はあれど、レモンは虎王鬼個人を嫌いではなく、虎王鬼もレモン個人を嫌ってはおらず。むしろ好いていると言っても良い、そんな奇妙な友情が2人の間にはあった。

 

「ねぇウォーダン。貴方は私に何を見せてくれるのかしら?」

 

虎王鬼との話を終えて、メイガスの間にやってきたレモンは今だ人格を安定させる為にメイガスとリンクをしているウォーダンを見つめる。ラミアは自分で考え、そしてヴィンデルとアクセルに異を唱えて見せた。それがヴィンデルとアクセルには不快だったかもしれないが、レモンにとっては何よりも嬉しい事であった。それにラミアから報告される記憶を失い、幼い少女のように振舞っているエキドナもレモンにとっては歓迎するべき物であった。

 

「楽しみだわ、ウォーダン。ゼンガー・ゾンボルトの精神データをコピーした貴方がゼンガーその物になるのか、それともウォーダン・ユミルという個を作り出してくれるのか……」

 

幼年期など無いエキドナが子供のように振舞っている。それはエキドナという作られた人間が個を作り出したと言ってもいい、もし記憶を失っているのならば動きもしない、喋りもしない。無機質な、人の姿をしているだけの何かになる筈……そうではなく笑い、泣き、怒り、誰かを想う姿を見せるのは紛れも無く個の発現である。記憶を失い、己のやるべき使命を失った代わりに得た個をレモンは祝福していた。

確かに正常な母の感性ではない、だが紛れも無くレモンがウォーダン、エキドナ、ラミアに向けるのは母が子に向ける無償の愛なのであった。

 

「具合はどう?」

 

ゆっくりと目を開いたウォーダンにそう尋ねるレモンの顔は本人に自覚があるか定かでは無いが、紛れも無く慈愛に満ちた母の顔をしているのだった……。

 

 

 

第103話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その6へ続く

 

 




今回で1度リクセントの話は終了で、武蔵とリクセントのやべー奴ルダール公との再会は次の章に回す事に変更しました。キョウスケの理由の無い焦りとレモンの無自覚な母としての覚醒を書きつつ、次回ウォーダン戦を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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