進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第103話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その6

第103話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その6 

 

「あちいな……」

 

「水分補給をしっかりしとけよ、俺達に倒れてる時間なんてないんだからな」

 

「判ってる。それに俺達よりもブルックリン少尉達の方がよっぽど大変だからな。弱気な事なんていえないぜ」

 

額から大粒の汗を流しながら整備兵達は隔離されている格納庫の1区画に視線を向ける。マグマ原子炉を搭載しているヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMは稼動の際に凄まじい熱を放つという性質がある。その熱は凄まじく、隔壁越しでも機械に不良や整備兵の体力を奪うほどに凄まじい熱量だ。逃げるように整備兵が離れていく中、隔壁の中で稼動状態にあることを示す真紅に輝くヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMコックピットに腰を下ろしているブリットの額から大粒の汗が流れ落ちる。

 

「これは……想像以上にきついな……」

 

耐熱スーツを着ていてもそれを貫通する熱量にブリットは想像以上だと呟きながら、マニュアル操作でT-LINKシステムによるマグマ原子炉の出力調整に挑んでいた。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのT-LINKシステムが正常に稼動しているかのテストでリオ、リョウトに続いて、クスハ、ブリットの2人もT-LINKシステムの調整に参加していた。

 

『大丈夫? 限界ならもう降りてくれて良いよ?』

 

「いや、もう少し続ける。ハミル博士、出力をもう少し上げます」

 

『了解した。こちらで危険と判断すれば、緊急停止させるぞ』

 

カークの返答を聞いてから操縦桿を握り締め、ペダルを踏み込むブリット。獣の唸り声のようなエンジン音が響き、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの赤がますます輝きを増してくる。

 

「私達はここら辺が限界だったわよね?」

 

「うん、リオがレベル4.2、僕が4.7、クスハが5.2だよ」

 

10段階のリミッターの内丁度半分5をリオ達は越えることが出来なかった。その熱に耐えうるだけの体力が無かったのだ、最後のブリットは日々鍛錬を積み、武蔵と組み手もしている。体力面ではリョウト達の頭1つは飛びぬけているのは間違いなく、5を越えて5.2、5.4、5.6とじわじわとその出力を上げる事に成功する。

 

「ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの様子はどうだ?」

 

「ギリアム少佐。いまブリットが確かめてくれています」

 

「なるほど、俺も見させて貰おう」

 

丁度6を越えるというタイミングでやってきたギリアムは心配そうな表情を浮かべ、モニターを覗き込む。冷却を最大にしても零れ落ちる汗、それでも熱に耐えていたブリットだったが6.6を越えたあたりで様子がおかしくなって来た。

 

『ウウウウ……グググッ! ウルルルッ!!!』

 

「ハミル博士! 緊急停止だ!」

 

「判っているッ!」

 

獣のような唸り声を上げ始めるのを見てギリアムが声を上げ、カークがエンジンの緊急停止を行なう。真紅に輝いていた装甲がその色彩を失い、排出口から煙を吐き出しながらヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのカメラアイから輝きが消えた。

 

「ブリット君! ブリット君! 大丈夫!?」

 

「応答がない……医療班に電話するわよッ!」

 

「リオお願い! 僕はこっちから電気マッサージを……」

 

応答の無いブリットにリオ達が慌てて動き出すが丁度その時にブリットからの通信が入った。

 

『お、俺は大丈夫だ……いま降りる……』

 

その言葉と同時にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのコックピットが開き、ブリットがタラップにもたれかかるように崩れ落ちる。その光景を見てギリアムがタラップを駆け上がりぐったりとしているブリットの肩を掴んで声を掛ける。

 

「大丈夫か!?」

 

「ぎ、ギリアム少佐……す、すみません。肩を貸してください……」

 

消耗しきっているブリットに肩を貸しギリアムはタラップを降り、氷嚢やスポーツドリンクを用意しているクスハ達の下へブリットを連れて行くのだった……。

 

 

 

 

額に冷却シート、脇の間に氷嚢を挟みスポーツドリンクを口にしているブリットは深く深く深呼吸をした。

 

「リョウト達の言ってた「何か」って多分……メカザウルスの意志だと思う。7に差し掛かりかけた時――向こうから俺に接触して来た」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに乗っていると感じる奇妙な感覚――リョウト達もうっすらと感じていたが、深くマグマ原子炉を起動させたブリットが明確な意思を感じたと呟いた。

 

「戦いたい、壊したい、そればっかりだ。緊急停止されてなかったら暴走事故を起していたと思う」

 

メカザウルスの意志にブリットが飲み込まれ、その意志に突き動かされ格納庫で暴走を起していたかもしれないと言うブリットの言葉にリョウト達の顔から血の気が引いた。

 

「本当に大丈夫? ブリット君」

 

「ああ。意志に触れたと言っても短時間だから大丈夫だ。それよりもタイプMは4割未満で運用したほうがいいと思う」

 

エンジン出力を高めれば高めるほどにメカザウルスの意思は強くなる。3割か4割の出力で使わなければその意志に飲み込まれるリスクが高いとブリットが告げる。

 

「しかし何故……ギリアム少佐やカイ少佐のリバイブは暴走の予兆もないのに何故ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMだと暴走を起すんだ。何か理由があるとでも言うのか……」

 

恐竜帝国の脅威を目の当たりにし、未知の脅威と戦う為に設計したヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM。だが暴走の可能性を捨てきれず、特機クラスの出力は確保出来るがそれ以上を使えないとなると開発した意味が無いとカークが暴走の理由に考えをめぐらせているとギリアムが口を開いた。

 

「俺やカイのリバイブにラドラのシグはマグマ原子炉をそのまま利用していない、反マグマプラズマジェネレーターに加工する必要があるのではないか? 言うならばマグマ原子炉はメカザウルスの心臓と言ってもいい、それをそのまま搭載しているんだ。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMはPTではなく、メカザウルスと考えるべきではないか?」

 

「それは……そうだと思いますけど、マグマ原子炉と反マグマプラズマジェネレーターは基本的に同じの筈、そんなに差がでますか?」

 

マグマの熱を利用してエネルギーを精製するという構造上マグマ原子炉と反マグマプラズマジェネレーターは同じ存在だ。だからそんなに差が出るはずが無いとリョウトが不思議そうに首をかしげる。実際精製されるエネルギー総量はほぼ互角で、反マグマプラズマジェネレーターの方が僅かに安定性が高く、武器などに転用しやすい性質を持っていると言うだけでそこまで大きな差はデータ状では存在していない。

 

「流石に俺もそこまでは判らないが……もしもラドラに会えたのならば1度見て貰う方が良いかも知れないが……今はリミッターを外すべきではないと言うのは確かな事だ」

 

新西暦で唯一マグマ原子炉についての知識を持つのはラドラだけだ。何を話しても机上の空論に過ぎないが、明確に暴走する基準が判っているのだからリミッターをつけて出力が上がらないようにするべきだとギリアムは提案する。

 

「私もそっちの方がいいと思う。リョウト君が危ないわ」

 

「うん。リオの言う通りだと思う」

 

ただ操縦するだけでも熱中症や酷ければ火傷するリスクを背負っているのに、それに加えてメカザウルスの意思によって暴走するのでは運用するにあたり危険すぎる。

 

「ハミル博士。やはり僕達には旧西暦の技術は早すぎたのかも知れません」

 

「……ラドラ氏に話を聞けるまではリミッターを外さない用に設定しよう。だが私は諦めないぞ」

 

今は駄目でも何れはフルパワーでヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを稼動出来るようにするというカーク。それは異星人の脅威や蘇った旧西暦に存在した侵略者、そして未知の化け物達の台頭……それらに対抗する為の力であり、それを危険だから封印すると言う選択肢はカークにはなかった。そしてカークの気持ちが判るからこそ、ギリアムもヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを封印しろとは口にしなかった。

 

「キョウスケ中尉達が偵察に出るみたいですね」

 

「そのようだ。そろそろトルコ地区に侵入する頃合か……ブリット達も出撃準備を整えておけ。スクランブルが掛かる可能性が高いからな」

 

「「「了解」」」

 

ギリアムの言葉に頷きリョウト達がパイロットスーツに着替える為にロッカールームへと足を向ける。ヒリュウ改が連邦の勢力圏を抜け、ノイエDCの勢力下へ入ろうとしている頃――アースクレイドルでもまた出撃の為に量産型Wシリーズが次々と己が機体へと乗り込んでいた。

 

「ウォーダン。貴方の今回の任務はヒリュウ改の足止めよ」

 

連邦が計画しているオペレーション・プランジッタの詳細な作戦内容が手に入る前にヒリュウ改に大きく動かれると都合が悪い。その為にレモンはウォーダンにヒリュウ改の足止めを命ずる。

 

「ベーオウルフの処置は?」

 

「貴方は……どうしたい? ヒリュウ改の足止めをしてくれるなら、その間は何をしてくれても良いわよ」

 

ヒリュウ改の足止めさえすれば何をしても良いとレモンに言われたウォーダンは少し考え込む素振りを見せる。それは本来のW-15なら取りえない行動であり、自我の芽生えを露にしていた。

 

「武蔵とゲッターロボは?」

 

「リクセント奪還に参加してるみたいだからヒリュウ改の方にはいないわ。ベーオウルフよりも武蔵と戦いたいのかしら?」

 

「アクセル隊長より先にベーオウルフを倒す訳には」

 

武蔵と戦いたいと言うのもあるが、アクセルに気を使っていると判りレモンは笑みを浮かべる。

 

「馬鹿ね、そんな事を気にしなくていいわ。貴方に倒されるのならばベーオウルフは私達の脅威とはなりえないっていう安心感に繋がるし、何よりもアクセルの暴走も止まるしね。だから貴方の好きにするといいわ」

 

「承知した」

 

レモンはあえて戦ってもいいともいけないとも言わなかった。ウォーダンの判断に任せることにした、アクセルとヴィンデルの意に反するが、これが1番正しいとレモンは思ったのだ。スレードゲルミルに足を向けるウォーダンの背中を見つめていると量産型Wシリーズがレモンにある報告をする。

 

「レモン様、トルコ海周辺にクロガネの姿を確認しました」

 

「あら? それは耳寄りな情報ね。今はどうなってるのかしら?」

 

「搭載機であると思われる黒いゲッターロボとグルンガスト参式のカスタム機、そして新型のゲシュペンストを発進後、深海へと潜っていきました」

 

「手が早いわねぇ……とりあえず潜った周辺を捜索、進路を確認したらまた報告してくれるかしら?」

 

「了解」

 

神出鬼没のクロガネを発見したと言う情報はシャドウミラーにとっては非常に有益な情報だった。イングラム、カーウァイの2人にビアン・ゾルダーク、そしてゲッター炉心とシャドウミラーの欲している全てがそこには揃っている。

 

「どうかした?」

 

クロガネを見つけたと聞いて足を止めるウォーダン。レモンはウォーダンが何を言おうとしているのかを知りつつ、あえてどうした? と悪戯っぽく尋ねる。

 

「……奴が現れた場合は俺はどうしたらいい?」

 

ウォーダンのいう奴とはオリジナルであるゼンガー・ゾンボルトに他ならない。これだけ自分の意識を見せつつ、それでもまだレモンに許可を求めようとするウォーダンにレモンは何も言わず背を向けた。

 

「……好きにしなさいって言ったでしょう? 全部貴方に任せるわ」

 

ヒリュウ改の足止めさえ遂行するのならば何をしてもいいとレモンは告げ、量産型Wシリーズと話をしながら格納庫から歩き去っていく、明確な指示を与えられず、自分の判断に任されたウォーダンは無意識にレモンの背中に手を伸ばしたが、それをぎゅっと握り締めた。

 

「……承知」

 

固く握り締められたその拳は歓喜かそれとも不安かは判らないが激しく揺れ、ウォーダンは誰に言うでも無く承知と呟き、今度こそスレードゲルミルの中にその姿を消すのだった……。

 

 

 

 

 

 

トルコ地区に侵入したヒリュウ改のブリッジでレフィーナは鋭い視線でモニターを見つめていた。

 

「艦長、肩に力が入りすぎですぞ?」

 

「……副長。そうですねすみません……でも仮に私が向こうの指揮官ならば、仕掛けるのはこのタイミングなんです」

 

力が入りすぎとショーンに注意されるレフィーナは形だけ謝罪の言葉を口にしたが、その目はモニターから離れる事はなかった。連邦とノイエDCの勢力圏の丁度中間ポイント――それがトルコ周辺だ。友軍からの支援は難しく、ノイエDCからも攻め込みにくいポイントではある……だがだからこそレフィーナは自分ならばここに包囲網を張る。どちらからの援軍も期待出来ず、強攻策で突破するかどうかの判断に悩まされるこのポイントで必ず仕掛けてくるとレフィーナは考えていた。レフィーナの反応を見てショーンは小さく微笑んだ、ショーン自身も仕掛けてくるのならばここしかないと考えていたからだ。

 

「偵察中のアサルト1より連絡ッ! 本艦の針路上で敵影を確認ッ! こちらへ接近中との事ですッ!」

 

アラートとユンの報告を聞いてレフィーナは即座に戦闘配置につくように指示を出し、敵機を迎え撃つ為に市街地へ進路を取るように命じるのだった……。

 

「こちらアサルト1。 敵機は約30秒後にこちらと接触する」

 

「ちょっと急いでね~けっこー敵の数多いわよ~」

 

偵察に出ていたキョウスケとエクセレンの報告がヒリュウ改のブリッジに入ると同時にヒリュウ改のレーダーが敵機の姿を確認する。

 

「敵部隊、戦闘区域へ侵入ッ!  識別はRPT-007ですッ! 数は約30ッ! 熱源更に増加中ッ!」

 

正体不明の転移能力を持つ特機と行動を共にしているゲシュペンスト・MK-Ⅱの軍勢が自分達の進路を塞いで来た。

 

「やはり足止めが目的ですか……各機、周囲を警戒しつつ迎撃態勢を取ってくださいッ!」

 

大量のゲシュペンスト・MK-Ⅱで足止めをし本隊を送り込んでくる。レフィーナはそう判断し、周囲を警戒しつつ迎撃態勢を取るようにキョウスケ達に指示を出す。

 

「支援は主砲を使用せず、副砲およびミサイルをメインとし、E-フィールドの出力を最大で維持してください」

 

「「了解ッ!」」

 

転移による強襲に最大の警戒をし、支援よりもヒリュウ改が沈められない事を優先する指示を出しレフィーナは鋭い視線で戦況を映し出すモニターにその目を向けるのだった……。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅱ……前回と同じ連中のようだな」

 

市街地を埋め尽くすゲシュペンスト・MK-Ⅱの軍団にキョウスケは眉を顰めながら呟いた。ゲシュペンスト・MK-Ⅱが確認された戦場では必ず転移反応もしくは強力な特機の出現が確認されているからだ。

 

『艦長達も警戒態勢ね、キョウスケ。どうする?』

 

Eフィールドを最大出力で展開し防衛に入っているヒリュウ改を見て、エクセレンがキョウスケにどういうフォーメーションを取る? と問いかける。

 

『キョウスケ中尉、待ってください』

 

「どうした? リョウト」

 

キョウスケが指示を出す前にリョウトが待ってくれと声をかけた。

 

『凄く嫌な予感がするんです。大きくヒリュウ改から離れるのは避けた方がいいと思います』

 

『私もそう思います……凄く嫌な予感がするんです』

 

『俺もだ。すげえヤな感じがするぜ……』

 

念動力を持つ面子が口々に嫌な予感がするとキョウスケに進言する。

 

『まーたそれかよ。 適当な事言ってんじゃねえ』

 

カチーナは口ではそう言いつつもある程度はリョウト達の意見に同意していた、だが戦闘前に士気が落ちる様な事を言うのは縁起が悪いと諌めるように言うが、ブリット達の話は続いた。

 

『いえ……あの敵は今までのノイエDCと何かが違います。前の時は普通のパイロットも混じっていたと思うんですけど……いま俺達の前にいるのは人でも機械でもない……そんな気がするんです』

 

『人でも機械でもないと言う事はインスペクターのバイオロイドという事か?』

 

『それはすみません、ちょっと判りません……でも普通じゃないのは間違いないと思います』

 

ギリアムの言葉にクスハがバイオロイドと同じとは断言出来ないが、普通じゃない相手だと感じ取ったと返事を返す。リョウト達の話を聞いてアンジュルグのコックピットでラミアは驚きと困惑を隠せなかった。

 

(データによれば、念動力者は人間の特定の思念を感知する能力に長けているという事だったな)

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱを操っているのは量産型Wシリーズだ。人でも機械でもないと言うのはある意味当たりではある……だからこそラミアはリョウト達の発言に驚きを隠せなかった。

 

(だが……私も含め、Wシリーズからそのような物は発せられていない筈だが)

 

念動力者が感じ取るべき念がWシリーズには存在しない筈――ではリョウト達が感じ取っているのは別の何かではないか? とラミアは推測した。

 

『キョウスケ中尉。アインスト、もしくはヒリュウ改が遭遇したと言うインベーダーという化け物の可能性があったりなかったりしちゃったりして』

 

自分達に念はないからリョウト達の感じ取っている念はインベーダーとアインストの可能性があるのでは? と口にする。

 

『うーん、ここまで不思議ハンターちゃん達が言ってるんだから、絶対裏があるわよ。どうする? キョウスケ?』

 

『おいおい、悩んでて良いのかよ。敵は待ってくれねえぞッ!?』

 

指示を仰ぐエクセレンと、臨戦態勢に入っているゲシュペンスト・MK-Ⅱを見て声を荒げるマサキ。だが、キョウスケは悩む素振り見せずに指示を出す。

 

「何か隠れていると言うならば炙りだすまでだ。だが敵は転移を駆使する、各員ペアで動く事を徹底し単独行動を取るな。万が一に備えヒリュウ改との距離を常に意識しろ」

 

転移による分断、そして鹵獲、ヒリュウ改の撃墜に気を配れ――つまりいつも通りに臨機応変に対応しろと指示を出し、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの大群に向かってヴァイスリッター改と共に切り込んでいくのだった……。

 

 

 

 

既に避難が完了し無人になったトルコの市街地には最初に確認された30機のゲシュペンスト・MK-Ⅱを上回る50機のゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿があった。だが数こそはキョウスケ達を上回っているが、機体性能は勿論パイロットの操縦技量に圧倒的なまでの差があり次々と撃墜され沈黙する。

 

『オラッ!!』

 

カチーナの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークに貫かれ、膝から崩れ落ちて沈黙するゲシュペンスト・MK-Ⅱ。

 

『中尉! コックピットは可能な限り避けてくださいッ!』

 

PT同士の戦いの中で不慮な事故はある。だとしてもコックピットを直接狙うのは暗黙の了解でNGとなっている。それなのに躊躇う事無くコックピットにライトニングステークを突き刺したカチーナにラッセルがそう声を掛けるが、カチーナはラッセルの言葉を鼻で笑った。

 

『気にしすぎだラッセル! これだけ撃墜してるのに脱出装置が起動する素振りもねぇ! こいつらは無人機ッ! そうに決まっているッ!』

 

最初はコックピットを避けていたし、脱出装置が起動するかを外からの衝撃で確かめていたカチーナだったが、それは最初の数機に留まり、今ではコックピットを破壊していた。脱出装置が正常に作動するのに脱出する素振りもない、更に言えば破壊したコックピットにパイロットの姿もない――だからカチーナは無人機と判断し、コックピットを破壊して速やかにゲシュペンスト・MK-Ⅱを戦闘不能に追い込んでいた。

 

『で、でも! これを無人機っていうのは無理があるんじゃないですか!?』

 

カチーナの言葉にクスハが異を唱える。機動力に劣るグルンガスト弐式を複数体で足止めし、有人機のような滑らかな動きで攻め立てて来るゲシュペンスト・MK-Ⅱはカチーナのように思い切りの良くないクスハにはもしかしたらパイロットが乗っているんじゃないかと思わせ、クスハの攻め手を緩めさせていた。

 

『クスハ! 俺が支援に入るッ!』

 

『!』

 

攻撃に中々踏み切れないクスハのグルンガスト弐式の横を通り、ブリットのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムがグルンガスト弐式の関節部を狙いメガプラズマカッターを振るったゲシュペンスト・MK-Ⅱに胴体に蹴りを入れて強引に引き離す。

 

『っ! これでもすぐに体勢を立て直すかッ!?』

 

速度の乗った一撃を胴に叩き込めば熟練のパイロットであれど、数秒は意識を失う。それでも即座に体勢を立て直すゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿は誰の目から見ても異常だった。

 

『や、やっぱりこれは無人機なのかッ!?』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのコックピットでリョウトが驚きの声を上げる。熱を攻撃に転用するヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMはいうならばパイロット殺しのPTである。熱でパイロットの意識を刈り取り、機体をオーバーヒートさせる。しかしその熱を物ともせずに動き続けるゲシュペンスト・MK-Ⅱは無人機と判断するには十分だった。

 

『でも無人機にこんな攻撃が出来るって言うのリョウトッ!』

 

『俺にはパイロットが乗ってるようにしか思えないぜッ!?』

 

マサキとリューネの2人が無人機とは思えない波状攻撃でサイバスターとヴァルシオーネの機動力を封じられ声を上げる。戦況はヒリュウ改が圧倒的に有利ではあったが、無人機か、有人機なのかと言う事で迷いが生まれ完全に攻め切れないでいた。

 

(甘い事だな……自分達を攻撃してくる相手に情けを掛けるか)

 

ファントムアローでコックピットを狙い撃ちしていたラミアは口論を続けているブリット達を見て甘いと内心で吐き捨てていた。襲ってくる者ならば、例え数時間前に言葉をかわした友人であれ殺せ、それが友を救う方法である――インベーダー、アインストの生存競争に挟まれていた人間達はそう思う事にした。そうでなければ、友人を殺したと言う罪科に人間は耐えられなかった……ラミアの中にもプログラミングされていた絶対のルールの1つである。

 

『敵機……』

 

しかしこのまま押し込まれ、インベーダーやアインストが出現しては困るとラミアがフォローの言葉を口にしようとしたその瞬間に広域通信がONになりアンジュルグのコックピットに怒号に等しい2人の男の声が響き渡った。

 

「落ち着け!」

 

『落ち着けッ! 無人機であれ、有人機であれ敵である事は代わりはないッ! 落ち着いて冷静に対応しろッ!』

 

ギリアムとキョウスケの指示が同時に飛んだ。確かにゲシュペンスト・MK-Ⅱが無人機か、有人機かで攻撃方法や対処法は変ってくる。だがそこで悩んでいては数の差で押し込まれる。襲ってくるのならば敵だと告げるキョウスケとギリアムにラミアは一瞬驚いた表情をしたが、これで良いと思う事にし、発しかけた言葉を再び胸の中へとしまいこみ、ファントムアローの照準をゲシュペンスト・MK-Ⅱに向け、引き絞った幻影の弓矢を放った。

 

『確かに悩んでる場合じゃないわなッ!』

 

『敵増援確認! 数約25! 第2陣、第3陣も確認ッ!』

 

ジガンスクード・ドゥロがギガワイドブラスターの発射態勢に入り、その上空で旋回したAMガンナーがGインパクトキャノンの銃口をゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊に向ける。

 

『もう考えたり、躊躇ってる時間はないわね、キョウスケ』

 

「ああ、ここまで俺達を足止めするんだ。確実に本命がもう近くまで迫っているのは間違いないな」

 

執拗な足止めを見てキョウスケ達も本命が近づいて来ていると感じ取っていた。

 

「エクセレン、少し下がれ、射角に入っている」

 

『……それマジで使うつもり?』

 

「当たり前だ」

 

背部に背負っているバックパックが変形し、アルトアイゼン・ギーガの脚部の装甲が展開され、道路にその爪を突き立て姿勢を保持する。

 

「俺の後にオクスタンランチャー改を撃ち込め、増援を全滅させるぞ」

 

『了解、でも撃ったら後に吹っ飛ぶとかやめてよ?』

 

「それは知らんな」

 

両肩のクレイモア、内部ハッチに増設されたクレイモア、更にバックパックから姿を現した更に2つのクレイモアが全てゲシュペンスト・MKーⅡに向けられる。

 

「カチーナ中尉、ラッセル少尉。ブリット、クスハ下がれ、巻き込まれるぞ」

 

言葉短く繋げられた通信に何のことだ? と振り返ったカチーナは武装を展開しているアルトアイゼン・ギーガを見てぎょっとした表情を浮かべる。

 

『待て待て!? あたしらも巻き込むつもりかッ!?』

 

『文句を言ってる暇があったら下がってください! 巻き込まれますよッ!』

 

『中尉!? クスハ、下がるぞッ!』

 

『わ、判ったッ!!!』

 

射角に巻き込まれていると気付きカチーナ達が後退を始めるのとゲシュペンスト・MK-Ⅱが降下してくるのは殆ど同じだった。

 

「遠慮はいらん。全弾持って行けッ!!!」

 

戦艦の主砲クラスの轟音が響き渡り、アルトアイゼン・ギーガから放たれた破壊の嵐が全てを飲み込み、上空に大量の爆発を引き起こすのだった。

 

『キョウスケ、私のやる事がないんだけど……と言うかそれ使用禁止』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱのみではなく、市街地の地形を完全に変えているのを見て、エクセレンが使用禁止とキョウスケに告げる。

 

「そうだな。市街地で使う武器ではないな」

 

『そういうことじゃないわよ?』

 

破壊力、射程共に優れていたがフレンドリファイヤと民間人を巻き込む可能性が高いので市街地では使えないなと言うキョウスケにそうじゃないとエクセレンが突っ込みを入れる。

 

『てめえ! キョウスケェッ! そんな頭のおかしい武器をそうやすやすとぶっ放すんじゃねえッ!!』

 

「すいません。俺も初めて使う武器だったので、しかし敵を一掃出来たので効果はあったと思います」

 

無尽蔵に送られてくる増援がとまったことを考えれば確かにキョウスケの行動は正しかった。だが余りにもリスクがありすぎる武器にカチーナは使い所を良く考えろと言うに留まった。

 

『こちらゴースト1。ドラゴン2、敵機はどうなった?』

 

『は、はい! こちらドラゴン2ッ! 敵機全機撃墜を確認! 敵増援も確認出来ませんッ!』

 

ギリアムの問いかけにユンがすぐに敵機の索敵を行い、敵の姿が確認出来ないと返事を返す。

 

『ったく、キョウスケの馬鹿がとんでもねえ事をしてくれたが、とりあえず敵はいなくなったのなら良いか。おい、タスク。嫌な予感ってのは消えたか?』

 

『う~ん……それがまだビミョーなんスよ。おかしいな、敵の姿なんて見えないのに……』

 

敵の姿が見えないのに嫌な予感が消えないとタスクがぼやくように呟いた瞬間――念動力を持つ、ブリット、クスハ、タスク、リョウト、リオの5人に激しい頭痛が襲い掛かってきた。

 

『『『『ッ!!』』』』

 

『く、来るッ!?』

 

頭痛に呻く4人と凄まじい闘志を放つ何者かがこの場に迫っているとクスハが声を上げる。その直後ヒリュウ改のブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「艦直上に熱源反応ッ! 急速接近中ッ!  敵の増援だと思われます!」

 

「上方にEフィールドを展開しつつ、緊急回避ッ!!」

 

ユンの報告を聞いてレフィーナが指示を出すが、それは余りにも遅すぎた。いや、襲撃者が速すぎた……閃光がヒリュウ改に向かって放たれ、右舷が爆発し、その高度を著しく落とす。

 

「きゃああっ!!」

 

「被害状況はッ!?」

 

激しい振動を爆発に悲鳴を上げるレフィーナを支えながらショーンが被害状況をユンへと問いかける。

 

「う、右舷主翼の先端が欠落ッ! テスラ・ドライブも損傷しましたッ!」

 

主砲に回す分のエネルギーも防御に回していたのにそれを貫通した。それはヒリュウ改の防御が敵機にとって何の意味もないものだという事を現していた。

 

「くっ……不味いですな。ユン伍長、タスク少尉にヒリュウ改に戻るように伝達をッ!」

 

「りょ、了解!」

 

たった一撃でヒリュウ改が轟沈寸前に追い込まれた。信じられない光景に驚きが広がるが、それよりも大きな驚愕がキョウスケ達の間に広がった。ヒリュウ改を一撃で大破寸前に追い込んだのはバスターソードのような形状をした巨大な刀――それは紛れも無く斬艦刀の姿。

 

「なるほど、本命はあいつだったという事か……全員気を緩めるなよ。ここからが本番だ」

 

斬艦刀を追う様に崩壊した市街地に降り立った白亜の巨神――スレードゲルミルがキョウスケ達の前に立ち塞がったのだった……。

 

 

第104話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その7へ続く

 

 




ゲシュペンスト戦は前哨戦なのであっさりと、本命はスレードゲルミル&ウォーダン戦を2話ほど書いて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。 

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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