第104話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その7
ウォーダンは眼前のアルトアイゼンを見つめ仮面の下の眉を顰めた。自分達の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲとは全く異なる姿をしているアルトアイゼン・ギーガを見つめ、戦闘データの記録を開始する。
(……サイバスター、ヴァルシオーネ……新型のヒュッケバイン……)
以前戦った時にいなかった敵機の確認を済ませ、地面に突き立ったままの斬艦刀を抜き放ち、その切っ先をアルトアイゼン・ギーガへと向ける。
『ウォーダン・ユミルだったな。貴様は何者だ?』
「何者かだと? 笑止ッ! 俺は貴様達の敵だッ!! 斬艦刀・電光石火ッ!!!」
斬艦刀を固定する為のエネルギーを刀身に集め、そのまま打ち出しエネルギー刃をアルトアイゼン・ギーガ達へと向かって放つスレードゲルミル。だがそれは全てキョウスケ達の機体の前に炸裂し砂煙を上げていた。
『外れた……?』
『馬鹿言ってんじゃねぇラッセル。外して貰ったんだ……ッ』
ラッセルの言葉にカチーナが寝ぼけた事を言ってるんじゃねえと怒鳴り声を上げる。あの距離で攻撃をはずす訳がない、意図的に外されたというのは誰の目から見ても明らかだった。
『ゼンガーのおっさんじゃねえのか?』
『ごめん、話してる時間がなかったわね。マーサ……どうもボスそっくりだけどボスじゃないみたいなのよ、レフィーナ艦長達がボスに会ってるし、ビアン博士と一緒らしいしね』
『確かに武蔵もそんな事を言ってたっけ……でもどう見ても……ゼンガー少佐だよね』
言動、そして斬艦刀を持つその姿は誰の目から見てもゼンガー・ゾンボルト――その人だった。
「この俺を前にしてまだ無駄話をするか……よほど死にたいようだなッ!!!」
殆ど一瞬でサイバスター、ヴァルシオーネの2機の目の前に移動したスレードゲルミルが斬艦刀を振りかぶり、サイバスターとヴァルシオーネの両機を胴体から両断しようとその刃を振るおうとした瞬間にウォーダンはその刃を止め、サイバスターとヴァルシオーネの目の前を通過させ、その刃を反転させ切っ先を地面に向ける。
『何を呆けている! マサキ、リューネッ!!』
アルトアイゼン・ギーガのリボルビングバンカー・オーバーチャージによる突撃が斬艦刀を通じて、スレードゲルミルの全身を大きく揺らす。あのままサイバスターとヴァルシオーネを攻撃してきたら側面をピンポイントで貫かれ、斬艦刀が砕けていたと悟り仮面の下から僅かに見える口元をウォーダンは吊り上げ、今も加速を続け斬艦刀を折ろうとしているアルトアイゼン・ギーガに蹴りを叩き込む。
『ぐっ!……舐めるなよッ!』
「ぬうッ!」
吹っ飛ばされながらも開いたハッチから放たれるクレイモアに追撃を防がれた、ウォーダンはスレードゲルミルを操り1度後退する。
「我はウォーダン! ウォーダン・ユミルッ!!! メイガスの剣なりッ!! 我が使命を阻む者は全て粉砕する……ッ!!」
エリアルクレイモアに抉られた装甲をマシンセルの力で回復させると同時に再び斬艦刀を構え、スレードゲルミルはアルトアイゼン・ギーガへ突撃する。
『あたしらだっているって事忘れんなよッ!!』
「笑止ッ! 俺の前に立つ者は全て敵! 侮りも驕りもせんッ!!!」
突撃してきた真紅のゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークを斬艦刀の柄で受け止める。そのまま斬艦刀を一閃し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲを両断しようとしたのだが……その動きが強引に止められる。
「む、小賢しい真似をッ」
ライトニングステークが防がれるのはカチーナにとっても計算の内だ。スレードゲルミルは50m級、それに対してゲシュペンスト・MK-Ⅲは約25mとスレードゲルミルの半分ほどの大きさだが、その出力は特機にも匹敵する。姿勢制御の為のブースターとスラスターを全開にすれば一時的にスレードゲルミルの動きを封じる事も不可能ではない。
『てめえの好きにさせるかよッ! エクセレン! リオッ!!』
『了解っ! 動かないでねカチーナ中尉ッ!』
『行きますッ!!』
立て続けに斬艦刀を持つスレードゲルミルの右手にビームが叩き込まれ、指の保持が僅かに緩んだ。そこにライトニングステークが再び叩き込まれ、スレードゲルミルの巨体が僅かに後ろにそれた。
『悪いが、その武器を奪わせて貰うッ!』
『行きますッ!』
「ほう……」
ゲシュペンスト・リバイブのレールガン、そしてグルンガスト弐式のブーストナックルが腕に叩き込まれ、スレードゲルミルの手が斬艦刀の柄から離れる。
『貰ったッ!!』
『うおおおおおッ!』
一時徒手空拳になったスレードゲルミルを見て、好機と判断したのかリボルビング・バンカーを構えたアルトアイゼン・ギーガ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムがコールドメタルブレードを構えて突進してくる。だがその程度で遅れを取るほどウォーダンが戦った世界は甘くはない、手首から射出されたワイヤーが高速で斬艦刀へと走る。
「ふん!」
2機がスレードゲルミルの間合いに入り込む前に手から射出されたワイヤーが柄に巻きつき、高速で巻き取られ斬艦刀が再びスレードゲルミルの手の中に戻る。それを見てキョウスケもブリットも動きを止めた。
『あーらら、やっぱりそう簡単には行かないわよね』
『いや、違う、最初から誘い込まれていた』
言葉とは裏腹に苦虫を噛み潰したようなエクセレンの呟きにキョウスケが違うと口にした時、ヒリュウ改の警報が各機体に響いた。スレードゲルミルの武器は見たところ斬艦刀のみ、それを奪う事で戦力の低下を図るのは単純だが効果的な一手だった。しかしそれゆえにウォーダンも予測していることであり、そして何故一瞬でも斬艦刀を奪わせるような真似をしたのか……それも単純だった。
『熱源多数接近中! 各員は分断されないように固まってください!』
「来たか」
スレードゲルミルの周囲にゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインス、アーマリオンが降下してくる姿を見て小さく笑う。斬艦刀を奪えると思わせたのも援軍が来るのを待っていたに過ぎない、少しでも希望があれば人間はそこに誘い込まれる。明確なスレードゲルミルと言う脅威を前にすればそれはより明白になる、奪えると思わせる為に緩く握っていた斬艦刀を今度は離さぬ様に強く握りこませる。
「行くぞッ! ベーオウルフッ! そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲよッ!! 貴様は今日ッ! この地で散れッ!!!」
ウォーダンの咆哮と共に量産型Wシリーズの駆る無人機達が一斉に動き出すのだった……。
分断されないように最初こそ立ち回れていたキョウスケ達だったが、無尽蔵に現れる無人機による数の暴力によって徐々にだが引き離されていた。
『ギリアム少佐! そちらの指揮は任せますッ! エクセレン、ブリット、ラミアッ!』
このまま各個撃破に追い込まれるのならばと、先に向こうの策に乗りあえて分断されることを選択したキョウスケがATXチームの3人と共にスレードゲルミルに突貫する。しかし4体で戦うにはスレードゲルミルは余りにも強大な敵である。武蔵のゲッターD2と1対1で戦い痛みわけで引き分けに追い込んでいるのだ……4人で足止めするには余りにも厳しい敵であった。
「けりをつけたらそちらに合流する! それまで無理はするな!」
『了解ッ!』
深追いするなとキョウスケに指示を出し、ギリアムは何とか完全に分断されぬようにゲシュペンスト・リバイブ(S)の射撃武器を駆使するが、余りにも敵の数、そして応援が到着するまでのスパンが短くコックピットの中で舌打ちした。
「マサキとリオ、そしてクスハはカチーナ中尉達と合流してヒリュウ改の護衛に向かえッ! リョウトとリューネは俺と共にキョウスケ達と合流するッ!」
分断されないと言うのは不可能だと悟りヒリュウ改の護衛とキョウスケ達と合流する組に分かれると指示を下す。
『そんなことをしなくてもサイフラッシュで吹っ飛ばしてやるぜッ!』
「マサキ待てッ!!」
ギリアムの静止の声を無視してサイバスターの放った翡翠色の閃光が市街地を染め上げ、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ達が爆発し炎を上げる。
『うっし! い……ぐおッ!?』
包囲網を抜けてキョウスケ達の元へ向かおうとしたサイバスターに何かが命中し後方へと弾かれる。
「だから待てと言ったんだッ! クスハ! リオ! サイバスターの援護に回れッ!」
ギリアムの指示を聞いて吹き飛ばされたサイバスターの援護に向かうグルンガスト弐式とAMガンナーを見つめながら、ギリアムはサイバスターを弾き飛ばした何か――市街地に隠れている何者かの姿を探るが、それらしい熱源はセンサーでも目視でも確認出来ない。
(……また見失ったッ……いや、戦闘範囲の外から狙い撃ってきてるいるのか……百鬼獣か、それとも改良型のゲシュペンストか……?)
「スナイパーに狙われているッ! 各員は不用意な長距離移動及び周囲の警戒を怠るな! 背後から狙い撃たれるぞッ!」
そう指示を飛ばしながら腰にマウントしているビームソードを抜き放ち、背後から飛来した何かを切り払うゲシュペンスト・リバイブ(S)両断された銃弾がビルに突き刺さり、ビルを崩落させる。
『なっ……こんなステルス性能を持つ機体がいるなんて……』
『おいおい、囲まれてるとかいわねえよな……?』
熱源も何も感知させずスナイプしてくる謎の機体に警戒心を強めるリョウト達――だが敵は姿を隠しているスナイパーだけではないのだ。
『くそッ! まだでてくるのかッ!?』
『ロックオン警報!? ど、どこから……きゃッ!?』
見えない狙撃手と無尽蔵に現れるゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインス、アーマリオンの軍勢――1体1体はさほど強いわけではない、だが大技を使えば狙撃手に狙い撃たれ、倒す手が緩めば増援が現れ数の暴力で押し込まれる……突破口の見えない終わりのない戦いにギリアムは眉を顰めた……強引に突破する事は不可能ではない。だがそれを行なうには手札が2枚、最低でも後1枚なければ誰かを犠牲にする可能性が余りにも高く、ギリアムは行動に移す事が出来ないでいた。
『マサキ君、大丈夫?』
『ぐっ……な、なんとかな……だけど、もう1発喰らったらアウトだ……くそ、スピードがあがらねぇッ』
1発でサイバスターを大破寸前に追い込む破壊力を持つ銃弾をレーダーからも確認出来ない距離から撃ち込んで来る狙撃手が、本来乱戦でこそ最大の効力を発揮するMAPWを搭載しているサイバスター、ヴァルシオーネ、ジガンスクード・ドゥロを押さえ込み、戦力はさほど高くないが数で押し潰しに来る量産機の軍勢が他の機体に足止めと、隙を見せれば狙撃を叩き込んでくる。その破壊力は折り紙つき、しかもその正確無比に神技とも言える狙撃の腕はコックピットを狙い撃つ事も十分に可能だとギリアムに感じさせていた。だがそれをせず、それに加えて一定以上の移動、そして明確な隙を見せなければ撃ちこんで来る事がない――その2つから導き出される答えは1つ敵の目的がウォーダンを名乗る男によるキョウスケの殺害、それを為す為だけの足止めであると言うことだ。
(このままでは不味い……)
スレードゲルミルの攻撃は苛烈で、一撃でも喰らえばアルトアイゼン・ギーガでも大破は間違いなく、ヴァイスリッターやアンジュルグ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムでは脱出も叶わず撃墜されるだろう。
(くっ……どうすればいいッ!)
相手の狙いが足止めと判ったのが余りにも遅すぎた――分断された今、数の暴力を押し返すにはサイフラッシュ、サイコブラスター、G・サークルブラスターのいずれかが必要であるが、それは狙撃手によって封じられた。ヒリュウ改の主砲は避難こそ完了しているが、市街地を吹き飛ばす事は連邦軍の軍人としておいそれと出来る手段ではない。ここまで無尽蔵に敵の増援が来ることはない、一時分断されても合流できると判断し、人員を分けた段階でギリアム達は完全に相手の術中に嵌ってしまっているのだった……。
アンジュルグに向かって容赦なく振るわれる斬艦刀――光にしか見えぬそれを紙一重でかわしたラミアは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
(Wー15が出て来たから追加の指令と思ったんだが……)
機密コードで通信を繋げ、帰って来た返答はたった一言……「今の俺とお前は敵同士だ」。その言葉に偽りは無く、本気でウォーダンはアンジュルグを撃墜しようとしていた。これで撃墜されるのならば用無しと言わんばかりの殺意の込められた一撃だった……。
『う、うおおおおおおおッ!!! 伸びろぉッ!!!!』
ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの手にしている剣はシシオウブレードではない。PT・特機の両方に装備出来るリシュウが作り上げたゲッター合金を使用した全く新しい日本刀型ブレード――銘はまだ打たれておらず銘がない事が名であるとブリットが「無銘」と名付けた刃の刀身が伸びる。
『そのような子供騙しが俺に通用するかッ!』
『チェストオオオオオッ!!!!』
スレードゲルミルの斬艦刀の横薙ぎの一閃を正眼に構えた無銘で受け止めるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム。凄まじいエネルギー同士のぶつかり合いによって発生した衝撃波が周囲を駆け巡り、市街地を破壊していく。
『ぬ、ぬおおおおおおッ!!!』
力強く踏み込んだスレードゲルミルが斬艦刀を振るった瞬間――ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは無銘を傾けた横薙ぎを正面から受け止めていた刃を傾ければその刃は当然だがゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向かう、その瞬間にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは地面を蹴り、斬艦刀の一撃の勢いに乗せられたまま弾き飛ばされる。
『切れてない? ブリット君なにしたのッ?』
『はぁ……はぁ……武蔵との組み手の結果ですよ……』
スレードゲルミルとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは武蔵とブリットの関係に近い、一撃が重いスレードゲルミルとスピードが売りのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム――生身で出来る事がPTで出来ない訳がない。何度も殴り飛ばされ、あるいは竹刀で弾き飛ばされ、それらの戦いの中でブリットが身につけた受け流しの技によって完全に極まる前に自ら飛び斬艦刀の一撃を避けたのだ。
『速いし、重いですよ……どうすればいいのか全然判らないッ!』
『突破口がどこにもないのよね……』
しかし避ける事が出来ても倒す事が出来なければ意味がない。ギリアム達が合流する目処も無く、一撃喰らえば確実に死ぬというプレッシャーの中での戦いは精神・肉体共に凄まじい勢いで疲労という形でエクセレン達に圧し掛かっていた。
「シッ!!!」
『ぬうんッ!!!』
ファントムアローの4連射を装甲で受け止め、突進してくるスレードゲルミルの圧力は凄まじく空中で宙返りする事で直撃は回避したアンジュルグ――だが、その胴体にスレードゲルミルの手首から伸びたワイヤーが巻き付いていたのにラミアは気付かなかった。
『ふんッ!!!』
「なっ……ぐううッ!?」
腕を振り上げ、振り下ろされた事でアンジュルグは地面に叩き付けられ、その衝撃に肺から酸素を押し出されたラミアが苦悶の声を上げる。
『ラミアッ!!』
トドメを刺そうと斬艦刀を振りかぶったスレードゲルミルとアンジュルグの間にアルトアイゼン・ギーガが割り込み、額のヒートホーンでワイヤーを断ち切ると同時にリボルビングバンカーを突き出し斬艦刀を受け止める。
『『ぐうッ!?』』
ウォーダンとキョウスケの苦悶の声が重なりスレードゲルミル、アルトアイゼン・ギーガが共に弾き飛ばされる。
『温いッ! その程度で俺は止まらんぞ! ベーオウルフッ!!!』
アルトアイゼン・ギーガが体勢を立て直すよりも先にスレードゲルミルが動き出し、斬艦刀でアルトアイゼン・ギーガを両断しようと振り下ろす。
『やらせないわよッ! ブリット君ッ!』
『はいッ!』
オクスタンランチャー改Eモードのフルパワー射撃が斬艦刀に向けられ、ビームショットガンの弾雨がスレードゲルミルの頭部に向かって撃ち込まれる。両方とも斬艦刀を破壊する威力もその場に留める威力もない、ビームショットガンに至っては完全な牽制用の武器で攻撃力など無きに等しい。ブリットにとっては一瞬の目晦まし程度出来ればいい、それだけの時間があればキョウスケならば離脱してくれるという確信が合った。しかしそれがブリットにとっては計算外の祝福を齎した……威力等無きに等しいビームショットガンを必要以上に大きな動きで回避した。
『ぬ……ッ』
アインスト、インベーダーの脅威を知るウォーダンは潜在的にある行動がプログラミングされている、これはラミア、エキドナ、そしてすべてのWナンバーズに共通している事でもあるのだが……初期のインベーダー、アインストの攻撃力は低く、寄生する為のそれこそ触れたら消滅する程度の攻撃を繰り出す事がある。そして数時間後に宿主を乗っ取りインベーダー、あるいはアインストとしての活動を始める。ベーオウルフというアインストに寄生され、変異しきったキョウスケを知るからこそ、ビームショットガンという余りに威力が低すぎる武器を寄生攻撃だとウォーダンではない、Wナンバーズの本質的な部分が避ける事を選択した。ウォーダン・ユミルならば絶対に取らないこの場での最も最悪の選択肢、だが【W-15】にとっては最も最良の選択肢――寄生される前に逃げるという行動に出てしまった。
「(そうだな……私達ならばそうする)だがその隙は逃がさんッ!」
それはWナンバーズを守ると言う思惑でプログラミングされた物ではない。逃走を続ける身であるシャドウミラーがアインスト、インベーダーのいずれかに寄生され、追跡される事を避ける為に寄生されない事、次に寄生された場合は速やかに死ぬ為のコードATAはシャドウミラーの全ての機体に搭載されているシステムだった。人としての矜持を守る為の自らの手による死――化け物に寄生され人なざる物になるのも、味方に被害を加えるのも避ける為の最終システムだった。
『全弾持って行けッ!!!!』
目に見えた大きな隙を見せたスレードゲルミルを紅蓮の不死鳥と鋼鉄の弾雨が飲み込むのだった……。
キョウスケは確かな手応えを感じると同時に違和感を抱いていた。
(なぜあんなにも大袈裟に避けた……)
ビームショットガンは牽制程度の威力しかない武器だ。それなのにウォーダンはその一撃に当たってはならないと思っているように、大袈裟に回避した。
(……ベーオウルフ。その言葉に何の意味がある)
ビースト、そしてウォーダンが自分の事をベーオウルフと呼び、必要以上に警戒を強める理由がキョウスケには判らなかった。だがファントムフェニックス、そしてエリアルクレイモアを喰らい、穴だらけの装甲と燃えるスレードゲルミルの手から斬艦刀が滑り落ちたのを見て勝利を確信した。
「エクセレン、ギリアム少佐達の支援……『キョウスケ避けてッ!』……何を……ッ!?」
今も尚分断されているギリアム達の支援に向かうと言おうとした瞬間に耳に響いたエクセレンの悲鳴にも似た声に反射的に操縦桿を傾けた。その瞬間に何かがアルトアイゼン・ギーガの横を掠めた。
「馬鹿な……」
『まだ動くのか!?』
全身の装甲は穴だらけ、その上顔も半分以上潰れている。それなのにスレードゲルミルはゆっくりと炎の中から立ち上がり、アルトアイゼン・ギーガに向けて放ったドリルブーストナックルを回収する。
『誤解していた。そうだ、そうだな。キョウスケ・ナンブ、お前はベーオウルフではない、そしてその機体もゲシュペンスト・MK-Ⅲではない……確かにお前は強いが、想像以上ではない』
静かな呟きだが、信じられない重みを伴ったウォーダンの声が響き、1度は消えた闘志が再び周囲を埋め尽くす。
「「「ッ!」」」
その凄まじい闘志と激情を伴ったオーラはキョウスケ達でさえも気圧される凄まじい物だった。
『だがお前がベーオウルフにならぬとは言い切れん……』
「貴様の言うベーオウルフとはなんだ! 俺と何の関係があるッ!」
自分に怨嗟の叫びを上げたビーストのパイロットと思わしき少女の叫び、そして今も尚ベーオウルフと呼んだウォーダンにキョウスケが問いかける。
『貴様が知る必要はない、貴様がそこに至るとも言えぬからな……だがッ!! 例え貴様がベーオウルフとならずとも我等にとって脅威となる事は間違いないッ!!!』
その咆哮と共にファントムフェニックスの業火が吹き飛び、スレードゲルミルが姿を見せる。だがその装甲はやはり穴だらけ、その上ファントムフェニックスで焼かれ、あちこちから火花を散らし到底戦えるようには見えない。死ぬ寸前にキョウスケを惑わす為の強がりを言っているようにこの場にいる全員が感じていた。
『後顧の憂いを絶つ為に、ここで死んで貰うぞッ!! キョウスケ・ナンブッ!!!!』
ウォーダンの言葉がただの強がりのように見えたのは一瞬の事で、穴だらけの装甲が盛り上がるように修復し、煤けていた装甲も見る見る間に元の白亜の輝きを取り戻していく……その光景は誰の目から見ても悪夢その物だった。
『そ、損傷箇所が修復してるッ!?』
『あーらら……そりゃあ単騎で武蔵とゲッターとタイマンも張るわ。だって治るんだもの……』
武蔵とタイマンで戦ったウォーダンは自殺行為のように思っていたが、そうではない自己修復するのだから戦えたのだ。圧倒的な攻撃力と大破寸前の損傷でさえも修復するその継戦能力――武蔵が仕留め切れず撤退したと言うのも判るとエクセレンは理解した。
『倒し損ねたんじゃなくて、倒せなかったのね……』
あの時は基地を自爆させ百鬼獣ごと吹き飛ばすと言う作戦だった。戦えた時間は決して長くはない、それに互いに自己修復能力を有していれば決め手に欠け撤退するのは当然の事だった。
「長引けばこちらの不利は明白か……ならばここで勝負を決める」
『キョウスケ中尉。なにをするつもりなのであるのですか?』
「狙いを制御系に絞る……そこを潰せば、奴とてすぐに再生は出来ない筈……蛇を殺すには頭を……と言う事だ」
覚悟を決めた声で作戦とも言えぬ博打を口にするキョウスケにブリットが声を上げる。
『い、いくらなんでも無謀が過ぎますよ!? 相手の制御系がどこにあるのか判らないのにッ!?』
制御系がどこにあるかも判らない機体をぶっつけでその制御系を狙い撃つなんて真似が出来るわけがない。
「ある程度予測はついている。あいつの機体はグルンガスト系列、それに顔を必要以上に庇った……ならばコックピットは頭部だ」
グルンガスト系列である事は解析データが出ている。そしてブリットの攻撃で顔を庇ったのを見てキョウスケはスレードゲルミルの頭部が制御系であると同時にコックピットであることを予測していた。
(オーバーチャージは後1発か……弾数が足りんな)
リボルビングバンカー・オーバーチャージは特殊なカートリッジと腕部のテスラドライブを同調させる必要があり、その弾数は1度の出撃で3発までとなっている既に2発使用しており残されたカートリッジは1発だけだった。
『で、ですがキョウスケ中尉ッ! 下手をすれば死ぬのはキョウスケ中尉でありますよ!?』
『か、考え直すべきです! ギリアム少佐達が突破して合流してきてくれるのを待つべきでは!?』
キョウスケに考え直せとラミアとブリットが声を掛けるが、キョウスケの腹は既に決まっていた。何を言われても、この行動を変えるつもりはなかった。
『あちゃあ~……ここんとこ大丈夫だったのに……悪い病気が出たわね。 やっぱし不治の病だったって事ねえ』
呆れたと言わんばかりのエクセレンの声が広域通信ではなく、アルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改のみの通信チャンネルでコックピットに響いた。
「エクセレン……奴が怯んだら……一斉攻撃を仕掛けろ。……俺がどういう状態になっていてもだ」
キョウスケから見てもこの勝負はイチかバチかではなく、イチかジュウ――死ぬか生きるかの2つに1つしかないと悟っていた。この攻撃で自分が死に掛けていてもそれを無視してスレードゲルミルを攻撃しろという指示にエクセレンは小さく息を呑んだ。
『ッ……しょうがねいわねぇ……おデート10回、お代はキョウスケ持ち……朝までコースも当然アリで、許してあげましょ……』
相打ちなんて許さないと言外に言うエクセレンにキョウスケは小さく微笑み、最後の特殊カートリッジを左手に握らせる。
『エクセレン少尉ッ!?』
『エクセお姉様何をッ』
キョウスケを止めると思っていたエクセレンがGOを出した事にブリットとラミアが声を上げるが、既に賽は投げられていた。
「……ウォーダン・ユミル。待たせたな……俺の手札はあと1枚……クズ手か切り札か……確かめてみるか?」
敢えて見せ付けるように特殊カートリッジをスレードゲルミルに向けるキョウスケ、今までのウォーダンの言動でこう声を掛ければ乗ってくるというが判っていた。
『よかろう』
斬艦刀を構えキョウスケの挑発に乗ったウォーダン、それを見てキョウスケは特殊カートリッジを装填する。
「ここで全てを使い切る……ッ! 行くぞッ! ウォーダン・ユミルッ!!」
『来るが良いッ! キョウスケ・ナンブッ!!』
スラスターを全開にし赤い流星となったアルトアイゼン・ギーガが真っ直ぐにスレードゲルミルに突撃する。
『なッ!? キョウスケ!? おめえなにやってる!?』
『キョウスケ中尉ッ!? 死ぬつもりですか!?』
その姿は量産型Wシリーズによって分断されているカチーナ達にも見えていた。制止する声が響くが、キョウスケは広域通信をOFFにしてスレードゲルミルだけを睨みつける。
『遅いッ! 先手は貰ったぞッ!!』
「ちっ、やはりかッ!」
最大速度での踏み込み――それはこの戦いで、いや、キョウスケすら初体験の速度だった。凄まじいGに耐えながらキョウスケは自分の予測が正しい事を悟っていた。
(こいつは知っている。未来の俺をッ!)
ベーオウルフと呼ばれる後のキョウスケ・ナンブを知っているのだ。それが執拗に自分を狙う理由だとビーストのパイロットの少女の慟哭も、ウォーダンが自分を危険視する理由もそれしかないと――武蔵という過去からの使者を知っているからこそ、キョウスケはその答えにたどり着いていた。過去から来た人間がいるのならば、未来から来た人間だっていてもおかしくないのだと――少し強引な推測ではあるが、かなり真に近づいているとキョウスケはその直感で感じていた。
『はあああっ!! 斬艦刀ッ! 一文字斬りッ!! これで終わりだッ! キョウスケ・ナンブッ!!』
最大加速のアルトアイゼン・ギーガに難無く切っ先を合わせ、突撃に合わせて振るわれた一閃がアルトアイゼン・ギーガを襲い、左腕の肘までとスラスターを斬り飛ばされる。
「ぐうッ! だがッ! それで隙が出来た筈だッ!」
未来のキョウスケを知っているのならば、今の未熟な自分の動きには対応出来るはず。それを大前提にしていたキョウスケは左腕と背部のスラスターを切り捨てた、脚部、腰部、そして背部のユニットが残っていればアルトアイゼン・ギーガはまだ加速出来る。
「狙いは外さんぞ、ウォーダン・ユミルッ!」
斬艦刀を振り切った姿勢のスレードゲルミルに向かって急加速し、リボルビングバンカー・オーバーチャージがスレードゲルミルの頭部で炸裂し、ウォーダンの苦悶の声が周囲に響き渡った。
「直撃だ……手応えはあった。これですぐには再生……ッ!」
完全に直撃――いや、コックピットを潰した手応えをキョウスケは感じていた。事実スレードゲルミルの頭部の右半分は消し飛んでいた。しかしウォーダンは全く怯むことなく、その鉄拳を握り締めアルトアイゼン・ギーガの背中にスレッジハンマーを叩き込んだ。
「ごぼぉお……ば、馬鹿な……」
『フ、フフフ……』
地面に叩き付けられた衝撃でクレーターが出来、あちこちがひしゃげたアルトアイゼン・ギーガのコックピットにレッドアラートが灯る。
『肉を切らせて骨を断ったか……見事だ。だが俺を倒すにはまだ足りん』
スレードゲルミルの頭部が盛り上がるように再生し、その手に握った斬艦刀を振りかぶる。
『キョウスケッ! ブリット君、ラミアちゃんッ!』
『『了解ッ!』』
キョウスケを救う為にエクセレンがブリットとラミアと共に動き出すが、それよりも先にスレードゲルミルが倒れているアルトアイゼン・ギーガにその切っ先を突き立てる方が速い……。
「……お前は……人間なのか?」
『ここで死んでいく貴様には関係のないことだッ! 散れッ! キョウスケ・ナンブ!!』
自らの死を悟ったキョウスケが最後にそう問いかけた。だがウォーダンがそれに応える事はなく、斬艦刀の切っ先がアルトアイゼン・ギーガに触れようとした瞬間だった。
『っちいッ!!!』
風を切り裂き飛来した何かがスレードゲルミルに襲いかかり、斬艦刀を振り上げ迫って来た何かをスレードゲルミルは切り払った。
『え、あれって……』
『げ、ゲッタートマホークッ!?』
キョウスケを救った飛来物――それは無骨で巨大な戦斧……紛れも無くゲッタートマホークの姿だった。そしてそれに続くように紺色の装甲をしたグルンガスト参式が現れ斬艦刀を構える。
『我が名はゼンガー……ッ! ゼンガー・ゾンボルトッ! 悪を断つ剣なりッ!!』
『ッ! ぐっ!?』
ゲッター線の証である翡翠色の輝きを放ちながらスレードゲルミルへと突進するグルンガスト参式。斬艦刀の一閃がスレードゲルミルを直撃し、その胴に逆袈裟の深い傷跡を刻み込みスレードゲルミルをアルトアイゼン・ギーガから引き離す。
『遅れてすまない。こちらも襲撃を受けていてな』
『遅れた分は取り戻させてもらうッ!』
グルンガスト参式・タイプGに続きゲッター・トロンベ、ゲシュペンスト・シグがキョウスケ達の救援に現れ、トルコでの戦況は大きく変ろうとしているのだった……。
第105話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その8へ続く
今回はゼンガー達の登場までを書いて見ました。決着は次回への持越しとなります、ベーオウルフ=未来の自分と勘違いしているキョウスケさんですが、ビーストやウォーダンを見ていると勘違いするのは当然なのでそれはしょうがない誤解ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い