第107話 密約/束の間の休息
ブライアン・ミッドクリッドからの特命と言う事で禁止されている地球から月の便を使い、ブライは月面のセレヴィスを百鬼帝国に制圧されてから初めて訪れた人間――表向きはそうなっていた。
「お待ちしておりました。ブライ様」
「荷物の程をこちらでお預かりします」
「ああ。すまないな、朱王鬼、玄王鬼」
重火器を向けている鬼達の間をブライは悠々と歩き出し、その姿にブライと共に来た交渉人や警備の連邦兵達が驚きの声を上げる。だがブライはその言葉に振り返ること無く1人で空港を後にする。
「ブライ議員!? これはどうい……「死にたくなければ口を閉じろ」……ッ」
ブライと共に月面を制圧している百鬼帝国との交渉に訪れた数十人の議員は1つ角の百鬼帝国の最下層の兵士達に銃を向けられ、空港から別の場所へと連れて行かれる。
「セレヴィスシテイの住人の鬼への改造はしていないだろうな?」
「は、ご命令通りに……しかし何故鬼にしないのですか?」
当初月面を制圧した朱王鬼達はセレヴィスを初めとした月面都市の住人、そしてアースクレイドルの研究者、科学者を鬼にするつもりだったのだが、ブライから禁止されていた。ずっと疑問に思っていたそれを朱王鬼はブライに会う事が出来た今問いかける。
「なに、簡単な話だ。使えもしない鬼を増やしてもこちらの首を絞めるだけだ。それならば百鬼帝国とインスペクターに制圧されていたから鬼かもしれない、洗脳されているかもしれないと思わせた方が連邦の戦力を削ぐ事が出来て有意義だ。納得したかね?」
「無知な私に教鞭を振るっていただき感謝します。ブライ大帝」
朱王鬼と玄王鬼を引き連れてブライはセレヴィスシティを歩き出す。
「地下シェルターなどの生命維持装置は外側から維持を続けろ、それとワシが連れてきた4人の議員だけは鬼とし、記憶操作、それと記録
機器の改竄をしておけ。それとウェンドロとの連絡はついているか?」
矢継ぎ早に指示を出しながら自分が来るまでに準備をしておけと言った事は完了しているか? と2人に問いかけるブライ。
「問題ありません。既に迎えのメキボスが待っております」
「うむ、それならば良い。お前達はワシが戻るまでに処理を済ませておけ」
「護衛がいなくて大丈夫ですか?」
朱王鬼と言葉にこそしていないが玄王鬼の視線にも不安の色が浮かんでいる。
「心配はない、そもそもバイオロイドを使っている段階で向こうはワシに害をなせない。仮にだ、仮に向こうがワシをどうこうするというのならば、本国でも暴れさせるまで、そうなればあやつらは反逆者となり、帰る場所を失う――そこまで愚かではなかろう」
1人で乗り込んだとしても既にブライの手はゾヴォークの喉元にまで食い込んでいる……形式上は対等でも既にブライの方が圧倒的に有利なのだ。ゆえに案ずることはないと笑い、マオ社の試験場に立っているグレイターキンの元へブライは視線を向ける。
「出迎えご苦労」
「……いえ、態々ご足労いただき感謝します」
不満、嫌悪、敵意が入り混じった視線を向けるメキボスを見ても、ブライは余裕の笑みを崩すことはない。
「ではホワイトスターへ向かおうか? 時は金なり、無駄話をしている時間はないのでね」
ダヴィーンの者の証である角を出しながら告げるブライにメキボスは何も言う事は出来ず、この為に作った豪華な客室付きのシャトルに乗るように促し、朱王鬼と玄王鬼に睨まれながらそのシャトルを抱き上げネビーイームへと引き返す。その最中メキボスの胸中は言うまでも無く、俺はタクシーじゃねえという不満たらたらな物であったということはいうまでもない。
「ウェンドロ様の所には私、アギーハがご案内します」
「そうか。では頼もう、ああ、後メキボス君だったね。良い操縦だった、君は運転手としても優秀だな」
ネビーイーム到着後のブライの一言にアギーハが噴出しかけ、メキボスの額に青筋が浮かんだりしたのだが、ブライはネビーイームの中で少量ながら精製されているゲッター合金などを確認しながらウェンドロの待つ部屋へと向かうのだった。
「ウェンドロ様、ブライ様をお連れしました」
『ああ、入って来てくれて構わないよ』
ウェンドロの返事を聞いてからアギーハが扉を開き、ブライはウェンドロの部屋へと足を踏み入れた。
「ダヴィーンの使い ブライだ。今日はよき話し合いをしたい物だな」
「ウェンドロ・ボルクェーデだ。良く来てくれたダヴィーンの生き残りよ」
2人とも表面上は笑顔だが、その間はどす黒く歪んでいるのを見てアギーハはお茶を用意してくると言って、踵を返して逃げ出した。
「さてと、こうして面を向かって話をするのだからまずは、ゾヴォークに復帰する気は? その気があるのならば僕が口引きしよう」
「そうだな、それも後々考えているが……今は必要ない。それにワシを紹介すると言っても、目に見えた戦果や成果がなければそれも難しいだろう?」
「まぁそうだね。ではダヴィーンのゾヴォークの復帰は後にするとして、ブライは地球をどうするつもりなんだい?」
「そうだな、まずは仮初の同胞を増やし地球を支配化に置く、その後信頼出来る者に分割して統治させる」
「なるほど、その後にゾヴォークに復帰し、地球を足がかりにこの周辺の星域を君の支配下におくと……ゾヴォークと戦うつもりかい?」
「まさか、それに地球を支配するとしても邪魔者が多い。連邦のハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、そして本物のビアン・ゾルダーク……そして」
「ゲッターロボと巴武蔵かい?」
「その通りだ。まずは彼らをどうにかしない事にはワシの願いは叶わない、それに君達だって良い報告は出来ないだろう? ここは適時協力し合うという事でどうかな? どうせこう考えているのだろう? ワシが連邦を制圧すれば、ゲッターロボを倒せばインスペクターは百鬼帝国を潰す。バイオロイドも別の方法で精製しようとしている……そんな所である筈だ」
「それを言えば、ブライもだろう? 僕がゲッターロボを倒せばバイオロイドを決起させて潰しに来る。違うかい?」
お茶を持ってきましたと告げ部屋にはいってきたアギーハは小さく悲鳴をあげ、お茶を置いて高速で逃げ去った。それほどまでにブライとウェンドロの間には重苦しい雰囲気があった、もはや視認出来るダークオーラと言っても良かった。互いにカップを手にしお茶を啜り、ソーサーの上に戻す。
「それくらいじゃないとゾヴォークとやり合おう何て思わないよね。良いよ、それで良い。だからまずは特機の情報が欲しいな」
「おいおい、いきなりか? まぁ良いがね。ああ、それと申し訳ないが政府に提出する為の映像の偽造と改竄を手伝って欲しい、台本はこちらで用意しよう」
「僕は役者じゃないんだけどなあ……? これは追加料金が要るね」
「業突く張りだな」
表面上は穏やかでもその内面は互いを出し抜く隙を窺っている……打算で繋がった関係だからこそ、強固な繋がりがブライとウェンドロの間に生まれているのだった……。
ハガネがリクセントを奪還してから半日後にシロガネもリクセントに訪れていた。オペレーション・プランタジネットの為の準備段階である今、奪還出来たリクセントを再び奪われる事を避ける為数日間はリクセントにハガネ、シロガネ共に駐在する事が決まっていたからだ。
「……ほう、パレード……惜しいな、初日は見逃したか」
そんな中でリーは自室でリクセント公国が発行している新聞を見て、自分が到着する前にパレードがあったと知り、惜しいなと呟きながら朝食のバタートーストを頬張る。ちなみにその新聞にはオープンカーに乗せられやけくそ気味というか完全にやけになっている武蔵がシャインと手を振っていたりするのだが……まぁそれはそれで良いだろう、問題はその下である。
「……シャイン王女と武蔵は婚姻関係だったのか?」
結婚目前かという名目が打たれており、シャイン王女は12歳で武蔵は16か17の筈だが……と呟きながらリーはコーヒーを啜りながら新聞に目を通すのだった。
「完全に逃げ道断たれてる……」
「そうだな、これは想定外だな……」
一方ハガネのブリーフィングルームでリーが見ていたのと同じ新聞を見ていたアラド達はなんとも言えない表情をしていた。
「あの、隊長。新聞の先走りかもしれないですよ?」
「……いや、私なんか23だしな、はは……」
約1名メンタルが死んでいたりするなどリクセント公国が発表した新聞は色々と物議を醸していた。
「結婚って何だ?」
「えっとそうですね……? うーん」
エキドナに結婚について問いかけられたラーダは少し考えてから、エキドナにも判るように結婚について説明するが、エキドナがそれを正しく理解できるかは謎のままだった。
「つうかマジで国全体で歓迎ムードなんだよな。武蔵」
「それも当然と言えば当然だけどね」
アードラーに攫われたシャインを救出し、メカザウルスに襲われた時に率先して助けに来て、そしてノイエDCと百鬼帝国に追われているシャインを助けに現れ、とどめはリクセントの奪還――これでリクセントの住人からの好感度が上がらなければ嘘だと言わなければならないだろう。
「でも1つ聞きたいんですけど、良いですか?」
「何がだ?」
「いや、武蔵とシャイン王女ってお付き合いしてるんですか? あたしから見ると、武蔵ってシャイン王女を妹扱いしてると思うんですけど?」
アイビスの言う通りである。確かに武蔵はシャインには優しいが、それはあくまで妹に対する扱いだ。
「周りを埋めて世論で囲い込むって所かしらね? カイ少佐はどう思いますか?」
「ん、まぁ確かにあれだ。結婚だのなんだとと言うのは互いにまだ早いだろう……ただ武蔵がリクセントの国籍を取るのはありだとは思うぞ」
実際の所武蔵は国籍不明所か、生年月日も明らかになっていない。医療保険等を受けることも出来ず、下手な国家に属すればそれこそ戦火になりかねない。そういう意味では中立にして独立国家のリクセントは武蔵にとって1番都合が良いのは間違い無いのだが……。
「シャイン王女だったら……それを盾にして婚約を取り付けてしまうかも」
ユキコと協力して外堀所か本陣まで攻め込んでいるラトゥーニがそう呟くが、正直お前言う? って言うレベルであり、というか……完全にブーメラン発言である。
「ラト。お前何時帰って来たんだ? お城に行ってたんじゃ?」
「うん、シャイン王女が公務だからって1回私は戻って来たんだ」
「じゃあ武蔵も帰ってくる?」
ラトゥーニが帰って来たから、武蔵も帰ってくるとエキドナが無表情のまま目を輝かせるという器用な真似をし、周りにいたラーダやイルムがぎょっとすると言うハプニングがあったりしたが、ラトゥーニは首を左右に振った。
「なんかルダール公と婚約届けにサインする、しないで殴りあいしてて……」
ブリーフィングームに嫌な沈黙が広がった。武蔵のフィジカルはとんでもない化物であり、とてもではないが老齢のジョイスと殴り合いをすればジョイスがどうなるかなんて火を見るよりか明らかだった。
「え? 武蔵さんとルダール公が?」
「うん」
「いや、それ大惨事だろッ!?」
ルダール公が何歳かは判らないが、武蔵のフィジカルは化け物レベルだ。そんな相手と殴り合い出来る訳がないとイルムが腰を上げたのだが、ラトゥーニは大丈夫と口にした。
「武蔵が押されてた……」
「「「「嘘だろッ!?」」」」
武蔵を倒しかけてると聞いて、ブリーフィングルームにいた全員が嘘だろと叫び声を上げるのだった……。
「いっつうう……」
「私は貴方に言いたい事がありました」
投げ飛ばされて頭を摩っている武蔵の前に立つジョイスは拳をゴキゴキと鳴らす。
「何度も我々は助けられている。その事に私は感謝しています、ありがとうございます」
「……それ絶対感謝する態度じゃないですよねッ!」
「いえいえ、これが私の感謝の証ですよッ!!!」
「良い加減にしないとオイラも怒りますよ!?」
ラリアット、後回し蹴り、正拳と繋げて来るジョイスの猛攻を受け止め、防ぎ、あるいは跳んで回避する武蔵の顔には確かに焦りの色があった。流石にジョイスに反撃するのは武蔵としても躊躇いがあり、その拳を受け止めながら武蔵が怒ると声を上げる。
「……しかしです、貴方はシャイン様を泣かせた。それをこのジョイスは許せないのですよ」
「確かにそれはオイラが悪かったですけど……」
顔を狙っての正拳を受け止める武蔵だが、片手で抑えきれずギリギリと押し込まれている。
(マジか!? この爺さん、リョウ並か!?)
竜馬ほどの殺人空手ではないが、確実に人を壊す術を修めているのに気付き、力を込めようとするとジョイスはそれに気付き、武蔵の腕を振り払い地面を蹴って距離を取り、懐から紙と万年筆を取り出す。
「それならばこの婚約届けにサインを、あとリクセントへの移住届けにもサインを」
「……いや、だからオイラにとってシャインちゃんは妹みたいな……っ!」
武蔵の頬を切り裂いてジョイスの手にしていた万年筆がリクセント城の壁に突き刺さった。
「貴方がどう思おうがシャイン様は貴方に恋をしている。それに変わりは無く、それを妹みたいとは……ははは、久しぶりに切れちまったよ……ッ」
正拳ではなく、虎のように拳を構えるのを見て武蔵は思わず声を上げた。それは確実な殺人拳、それも鍛えた握力と加齢によって失った腕力を鋭い腕の振りで補う格闘術――それは隼人を思わせる鋭い武術であり、武蔵を持ってしても応戦せざるを得ないと覚悟させる物だった。
「いや、元から切れてたよなあんたぁッ!?」
「叩きのめして、サインさせてくださいと言わせてやるよッ!」
口調まで代わり、鋭い踏み込みと共に低い姿勢から抉りこむように繰り出される貫手を弾く武蔵だが、手首を掴まれ姿勢を崩された所に垂直に蹴りが放たれた。
「やっぱりあんたやべー奴だッ!?」
振り上げた足がそのまま踵落しになり、腕をクロスして防いだ武蔵だがその圧倒的な威力に武蔵は顔を歪めた。
「お褒めに預かり光栄だッ!!!」
受け止められる事すら計算に入れていたのか、地面を蹴り跳躍したジョイスの蹴りが顔に向かって放たれる。
「褒めてねーよッ!! ああくそ、覚悟しろよ。オイラもここまでやられてジッと何てしてられねえからな!」
蹴りの風圧で頬を切られた武蔵は相手が老人だからという考えを捨て、竜馬や隼人に匹敵する相手として武蔵は認識し、拳を握り締める。
「好きにしてくれて構わない、とにかくお前は叩きのめす。決定事項だ」
リクセントの核弾頭ジョイス・ルダール――シャインの父に心酔し、執事へと転職した経歴を持つデストロイヤーの牙が数十年ぶりに解き放たれた瞬間だった……。なおボロボロで帰ってきた武蔵はリュウセイ達にこう告げた。
「ジョイスさん、多分あと5年若かったら、いや3年若かったらゲッター乗れるわ。あの人化けもんだ、リョウクラスの戦闘力だぞ、あれ」
「あの素手で鬼の首を引き千切ったり、裏拳1発で鬼の首を圧し折る竜馬クラスか。惜しい人材だな」
「本当なぁ、若かったらゲッター乗ってくださいって頼むレベルだわ、リョウと比べるとまだ常識の範疇だけどさ、もしリョウの殺人空手だったらオイラ多分負けてるぜ」
「そこまでいうか……ままならんものだな」
「本当だよなあ、2人乗ってくれればもう少しオイラも楽に戦えるんだけどなあ」
ジョイスがゲッターロボパイロットの中で1番やばいとされる竜馬クラスの戦闘力と聞き、武蔵が自分で消毒や絆創膏を張る姿を見ながらハガネの面子はその顔を引き攣らせていた。
なおこれは余談だが……龍王鬼の母艦である陸皇鬼ではこんなやり取りが行なわれていた。
「目、どうしたのよ。闘龍鬼」
後ほんの少し傷が深ければ失明したであろう傷痕に消毒をしている闘龍鬼に風蘭が声を掛ける。
「あん? てめえ怪我してたか?」
共に出撃していたヤイバも振り返り、どうしたんだ? と問いかける。
「これはリクセントの人間にやられたのだ。人間も捨てたものではないな」
「「「マジで?」」
「ああ。ジョイス・ルダールと言っていたな。シャイン王女がいないあいだ、リクセントを守る使命が私にはあると戦いを挑んで来たのだ。老人であったが恐ろしいほどの強さだった、後5年……いや、3年若ければ俺の目は完全に潰されていたな」
「そんな人間がいたのかよ。いや、最高だな。そりゃッ!」
「そうよねえ、強い相手って言うのは良いね」
「然り、私も話してみたかった物だ」
闘龍鬼に傷を付けた人間としてジョイス・ルダールは龍王鬼一派の記憶に残る民間人(?)となっていたりする。
伊豆基地に向かうヒリュウ改の格納庫ではヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの炉心の調整が慎重に行われていた。
「つまりマグマ原子炉というのはむき出しの闘争本能ということか?」
『簡単に言うとそうなるな、メカザウルスの闘争心や人工知能に直結してる。闘争本能や破壊願望しかないが、これ自身が人工知能と言ってもいい』
防護服に身を包んだラドラがハンドサインを出し、それに従ってカークがマグマ原子炉をヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMから露出させる。
「どうだ? その段階でも調整できるだろうか?」
『完全な形での調整は無理だ。そもそもこれを外して、反マグマプラズマジェネレーターにするとしても、それだとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMとは規格が合わん』
元々反マグマプラズマジェネレーター自身がゲシュペンストに合わせて開発されたもので、ヒュッケバインに対応していないのだ。仮にヒュッケバインに対応した反マグマジェネレーターを開発しようとすればそれこそ半年以上の時間が掛かるとラドラは告げる。
『大体理解した。闘争回路とかがフルドライブになっている、これを調整すれば最悪は回避出来るだろう』
タラップを降りて来たラドラは被っていたヘルメットを脱いで汗を拭った。
「調整して出力が落ちる事はありますか?」
「いや、そこら辺は問題ない。そもそも調整と言ったが、話はもっとシンプルだ」
にやりと犬歯をむき出しにして笑うラドラの顔は凶悪その物で、リオとリョウトが小さく息を呑んだ音がした。
「どうするんだ?」
「簡単だ。シグを近づけて威嚇する。マグマ原子炉の階級は2だから中型メカザウルス用の炉心だ。俺のシグの階級4の超大型メカザウルス用だからな」
「えっと、それはどういうことですか?」
「ん? ああ、判りにくかったか。では大幅に噛み砕いて言うと、草食恐竜に肉食恐竜を近づけると言う事だ。自分よりも凶暴な奴が近くにいるとなれば大人しくなるというものだ」
そんな方法で? とリョウト達が見つめる中、ゲシュペンスト・シグがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに近づくと、一瞬グラフが振り切った後、今までにないレベルで安定した、あとついでに熱の放熱も前みたいに命の危険レベルから大分低くなった。
「僕達の苦労って……」
「なんだろうな、このやるせない感じは……」
科学でも技術でもない、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのマグマ原子炉より大型のゲシュペンスト・シグを近づけるだけでこうなるなんてと、リョウトとカークの2人はその場に崩れ落ちるのだった。
「なんだ我侭な奴らだ、折角調整してやったというのに、とは言え、これは脅して弱体化させているだけだから本来のパワーと比べると大分劣るな、最善はリョウトが闘争本能で上回り隷属させる事なんだがな」
「あれを調整っていうのはどうなんですかね……?」
リョウトとカークの気持ちが判るリオはなんとも言えない表情を浮かべ、ラドラはここには我侭な連中しかいないと不満を口にしていた。
『なああああああああああ――――――ッ!!! ラルちゃんの最高傑作がァァアアアアアアッ!!!』
「すまん」
スレードゲルミルの斬艦刀で切り裂かれたギーガアーマーが大破寸前という現実を目の当たりにしたラルトスの号泣がモニター越しでヒリュウ改の格納庫に響き渡る。
『うォォオオオンッ!!!!』
「これ女の子の悲鳴じゃないわよね……」
聞いている者がドン引きする程の嘆きようにエクセレンも苦言を呈したのだが……急にぴたりと泣き止んだラルトスは顔を上げる。
『あースッキリしたネ。OKOK、ギーガアーマーも壊れるヨ、どうせ形あるものいつか壊れル。この世の摂理ネ』
泣くだけ泣いてケロッとした顔をするラルトスにエクセレンもキョウスケもぎょっとした表情を浮かべる。
『整備兵さんいまス? A-17とB-19、あとD-47のコンテナにギーガアーマーのユニットを隠してあるネ。それを取ってきて欲しいヨ』
「道理で重量おかしいと思ったよッ! てめえ、なにやってくれてんだコラァッ!」
「なんど俺達が武装の確認したと思ってやがるッ!!」
『ごめんネ? 許して欲しいヨ』
「「「軽いッ!!」」」
こっそりというかとんでもない事をしてくれてる割に謝罪がめちゃくちゃ軽いラルトスに整備兵の嘆きの声が重なる。
『でもアルトの事を考えるト、補修は必要ネ。修理できるネ?』
「まぁ、そだな。だが今度からはちゃんと先に連絡しておいてくれや、お嬢ちゃん」
『リョーかいネ、んじゃ整備長、修理の図面と組み替え方送るからネ、よろしくヨ~』
言うだけ言って通信を切ったラルトスにキョウスケ達は苦笑を隠しきれなかった。だがギーガアーマーを修理出来ると言うのは大きなプラス要素だった。事実ヒリュウ改の設備と整備兵の技量では修理が出来ず、ノーマルのアルトアイゼンに戻す話まで出ていたからだ。
「キョウスケ中尉、なんか腕にソニックブレイカー追加とか、肩部にバリアユニット追加とか、すごい際どい事書いてあるパーツがあるんだけどどうするよ?」
「……とりあえずアビアノを出発する前の装備に合わせてくれ、それはあるんだろ?」
「了解、んじゃすぐに作業に取り掛かるぜ」
ったく、チェーンソーとバンカーくっつけた装備とかなに考えてるんだろうなあと嘆く整備長。
「アルトちゃんで実験してない? 何これ? え? プラズマクラスター?」
「……あいつはやはり頭がおかしいな」
技術は折り紙つきだが、性格、開発するもの共に難のあるラルトスにキョウスケとエクセレンは引き攣った顔を浮かべることしか出来ないのだった……。
「つまり伊豆基地にかつて百鬼帝国にいた鬼がいると?」
「ええ、今はキジマ・アゲハと名乗り女優をしています」
「キジマ……今NO.1の若手女優でしたなあ……しかしまさかあの方がラドラ少佐と同じだったとは……」
ギリアムがヒリュウ改と共に伊豆基地に向かった理由――伊豆基地に保護されているアゲハと話をするためだった。
「彼女は百鬼帝国については?」
「いや、かつての百鬼帝国については知っているそうですが、今の百鬼帝国に関しては何も知らないそうです」
「うーむ、では何故ギリアム少佐は伊豆基地に?」
今の百鬼帝国について知らないアゲハになんの用事があるんですかな? とショーンが問いかけると、ギリアムはDコンを机の上においた。
「今確認されている百鬼獣とアゲハの知る百鬼獣の違いなど調べる事は山ほどありますし、もしかしたら鬼に成り代わられている人間の見分け方も判るかもしれない。キジマ・アゲハには凄まじいほどの価値があります」
未知の脅威である百鬼帝国――反撃の手札は少しずつだが、ハガネ、ヒリュウ改の手元へと集まり始めているのだった……。
薄暗い通路に歩く音が木霊する――闇の中を蠢く黄色の複眼、そして男を引き裂こうとする触手は男――アルテウルに触れる前に翡翠の輝きに弾かれる。
「シッ!!」
「ふっ、甘いな」
闇の中から飛び出してきた小柄な暗殺者の刃を首を傾けるだけで回避し、顎、腹に1発ずつ拳を叩きこんで殴り飛ばすアルテウル。
「ぐっ……父さん達には触れさせないッ!」
口から血を垂らしながらもナイフを構える少年――フォーゲルを見てアルテウルは肩を竦め、スーツの内側から拳銃を取り出す。
「銃は剣よりも強し、さて君は撃ち抜かれる前に私の喉笛を切り裂けるかな? 無駄な事はやめて私を案内したほうが有意義だとは思わないかね?」
「誰が!「フォーゲル、僕達は大丈夫さ」と、父さんッ!? 危ないです!」
闇の中から浮き出るように現れたコーウェンとスティンガーに危ないとフォーゲルは叫ぶが、コーウェンとスティンガーは柔らかく笑みを浮かべる。
「だ、大丈夫さ。さ、フォーゲル、傷の手当をしておいで」
「で、でも……」
殴られた箇所は青黒く腫れており、凄まじい力で殴られた事が容易に判る。それに足も揺れているフォーゲルにスティンガーが笑いかけ、傷の手当をしておいでと言うがフォーゲルは渋る。
「大丈夫だよ。さぁ、行きなさい」
スティンガーに続いてコーウェンに言われればフォーゲルは頷くしかなく、アルテウルを睨みつけ闇の中へと消えていった。
「それで君は誰なんだい? それよりどうやってここに来たのかなあ?」
「そ、そう! どうやってここに来たんだい?」
コーウェンとスティンガーの拠点は時空がずれている。招待されない限りは誰も足を踏み入れることの出来ない場所だ。それなのにどうやって入ってきたとアルテウルに口から出した触手を向けながら詰問する。
「ゲッターエンペラー」
「「!」」
ぼそりと告げられた言葉にコーウェンとスティンガーの顔に大粒の汗が浮かぶ。
「ゲッターセイントドラゴン」
次に告げられた言葉に2人は目を見開いた。エンペラー、そしてセイントドラゴン――ゲッター線の最後の形と言っても良いそれを何故と驚きと恐怖の色がコーウェンとスティンガーに浮かぶ。
「世界は幾つもそれこそ何百個と存在している。だがそれを認識できる者は少ない、だが私は違う。私は知っているぞ、エンペラーを聖ドラゴンを、そして真ゲッタードラゴンもだ」
「何が望みだい?」
「君達の力を借りたい、私の目的を成し遂げる為にね。損はさせないさ、ギブ&テイクというだろう?」
ゲッター線の輝きに照らされるアルテウルの影は仮面を被った奇妙な男の姿であり、影の手がコーウェンとスティンガーに手を伸ばし、コーウェンとスティンガーはその伸ばされた手を握り締めかえし、ここに密約は成されるのだった……。
第108話 地獄門 その1へ続く
と言う訳で今回はここまでで、ウェンドロ&ブライ、コーウェンとスティンガー&それも私おじさんという最悪のタッグが誕生しましたが、OG2編では暗躍してるくらいなので大丈夫ですね。次回はハガネ、ヒリュウ改ともに地獄門ということで地獄を見てもらうことになります、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い