第110話 地獄門 その3
ハガネ、シロガネのクルー全員は精神に大きなダメージを受けた事もあり、謎の生物が発見された空域を遠くから監視しながら体力と気力が回復するのを待つ事となった。その間ダイテツ達は謎の生物、そして武蔵とコウキが何故影響を受けなかったのか、そしてリュウセイが何故アビアノを抜け出してこの場に来たのかというのを話し合う事にしていた。
「つまりリュウセイ少尉は呼ばれたからここに来たと……そういうことか?」
「はい、俺自身なんでR-1に乗ってるのかとか、ここがどこだとか全然判らなくて……困惑してるうちにあの化け物とレトゥーラが現れたんです」
テツヤの問いかけにリュウセイは自分が置かれていた状況を思い出しながら報告を口にする。
「レトゥーラ? それはビーストのパイロットか?」
「……はい、彼女はそう名乗ってました。多分――俺はレトゥーラがいなければ、あそこで死んでいたかもしれない」
アビアノ基地、そしてリュウセイが意識不明となった戦いでキョウスケに恨み節を叫び続けた謎の女とビースト。それがリュウセイを助けたと言うのはダイテツとリーからしても到底納得出来るものではなかった。
『レトゥーラか……一体何者なんだ? リュウセイ少尉と互角かそれ以上の念動力者など存在するとは思えんが……』
「声から推測される年齢から言って10代後半から20代前半――特脳研に所属していた者の子供という可能性もあるが……それではキョウスケ中尉に恨みを抱いている理由に説明がつかない」
考えれば考えるほどにその正体は霞みが掛かったように見えなくなる、与えられた情報とそれを調べた結果がどうしてもかみ合わないのだ。
「リュウセイを助けたとは言え、俺と武蔵、ラトゥーニには攻撃性を見せた。敵とも言えんが味方とも言えないだろう、敵の敵は味方くらいに思ったほうが良いだろう。それよりも今はあの化け物だ」
リュウセイだから助けたと考える方が妥当だろうとコウキはダイテツとリーに告げ、ビーストとレトゥーラよりも化け物の正体を調べるほうが有意義だと促す。
「オイラから見るとあれはインベーダーとアインストが融合したもんに見えるんですけど……あいつらって基本的に争ってるんですよね」
『争っている者同士が1つになっているか、融合して1つの生物に……いや、映像を見る限りでは1つの肉体を共有しているとも見えるが……互いに浸食しあっているようにも見える』
リーが目を細めながら僅かに記録された戦闘データを見た見解を口にする。ゲシュペンストやアーマリオンの機体骨格をベースにして、黄色い複眼に覆われた黒い体細胞と赤黒いコアから生えた触手に覆いつくされたその姿は化け物その物だ。黒い体細胞と触手は常に拮抗状態あるいは僅かにより多くを浸食しようとしている。しかしそうして互いの体組織が争い、見ている中で互いに消滅し消えているのを見てイルムが不機嫌そうに口を開いた。
「化け物同士で勝手に潰しあってくれりゃあ良いのによ……こっちを巻き込んでくれるなよ、俺でさえこれだぜ? これじゃあリュウセイだけじゃなくてブリット達でも辛いだろうよ……と言うか、レオナ。お前はどうだったんだ?」
ブリーフィングという事でアラド達の姿もあるが、その顔は皆青く明らかに体調不良という様子だった。
「正直発狂するかどうか……と言う所でしたわね、隊長が当身をしてくれなかったら気が触れていたかもしれませんわ……」
「俺達でさえあれだ。念動力者であるリュウセイやレオナ達はもっと辛いだろうな……リュウセイ、お前は大丈夫なのか? 無理ならば休んでからでもいいはずだ。きっとダイテツ艦長達も許してくれるだろう」
ハガネ――いや地球にいる念動力者の中で最もレベルの高いリュウセイはもっと大きなダメージを受けている。ライがそれを気遣いリュウセイに視線を向けるが、リュウセイは首を左右に振った。
「……正直辛い……だけど見たことを言わない訳にはいかねえだろうよ……俺が1番近くにいた、俺が多分この中で1番あの化け物を理解していると思うしな。だって武蔵とコウキは全然駄目だったんだろ?」
「おう、なんで苦しんでるのかオイラには判らなかった」
「俺もだな。考えられるのはゲッター線の影響を受けているかどうかか……それとも単純に俺と武蔵が馬鹿かだ」
「馬鹿すぎて思念波を受けなかった可能性もゼロじゃないぜ」
馬鹿すぎて思念波を受けなかったかもしれないと言う武蔵とコウキの2人に思わずブリーフィングルームにいた全員が噴出した。
「コウキ、ふふ、貴方それ真面目に言ってる?」
完全にダウンしているアイビスの代わりにブリーフィングに参加していたツグミがくすくすと笑いながらコウキに尋ねる。
「大真面目だ。旧西暦の人間なんぞ真面目に馬鹿をやる奴しかいないぞ? なぁ武蔵」
「おう、隼人なんか突然俺はボインちゃんが大好きだとか真面目に言い出したと思ったら、なんか訳のわからんバリアとか作ってたし」
隼人の黒歴史を平然と投げる武蔵の言葉に暗い雰囲気だったブリーフィングルームが明るくなった。
「それでリュウセイ少尉。お前はあの化け物近くで何を感じた?」
「死にたくない、腹が減った、こっちへ来い、一緒に死ね……ずっとそればかりでした。あの化け物の後ろの黒い穴はもっと酷い……悪意とか憎悪とかそんなのが渦巻いてました」
念動力によって感じ取った化け物の内面――それは生存願望、そして底知れぬ食欲と共に死ねという悪意だけだったとリュウセイは語る。
「穴……穴か、あれだよな? ゲッタービームで消し飛ばした」
「ああ、ゲッターロボを模倣しようとしていたあれだな」
戦闘記録に僅かに残されている闇よりも深い漆黒の穴――そこからあの化け物は産み落とされていた。
「あの穴から出現し、何かに寄生して生物として完成するという感じか?」
映像を見ていたテツヤが見た感想を告げる。黒い穴からまず壊れたゲシュペンストやアーマリオンが落ちてきて、それに化け物が寄生して動き出すという光景を見れば、そう感じるのは当然だが武蔵とコウキがそれを否定した。
「確かに岩とかに寄生って言うよりもアレは喰ってたって感じだったよな?」
「ああ、恐らくだが無機物・有機物関係なしに物を喰らい、その熱量によってあの化け物は生きているのだろう。そして喰う物がなくなれば死ぬ、死ぬのならばお前達も死ねと自分達の側に呼び寄せているのだろうな」
あくまででゲシュペンストはあの化け物が存在する為の動力であり、肉体でもなんでもなく、存在するのに必要なエネルギーを供給するだけの、言うならば外付けのバッテリーと大差がない。
「なんとも醜悪な化け物ね、その癖始末が悪い……」
呼び寄せるだけ呼び寄せ、喰らい、貪り己の同類と化し、そして食べる物が無くなれば最初から存在しなかったように消え去る――モニターに映る消しゴムか何かに抉り取られたように消え去っていた……その余りにおぞましい光景にヴィレッタが吐き捨てるように言うと武蔵がびくりと肩を竦めた。
「近づいたら喰われるかもしれないって思ってゲッター線を放出したらこうなっちゃいましてね」
「え? 武蔵さん、ゲッター線ってそんなことまで出来るんですか?」
ゲッター線の放出によってこの惨状が出来たと聞いてアラドが引き攣った声と表情、そして敬語で武蔵に尋ねる。
「水飲む?」
「あ、うん、大丈夫」
「そう、それならいいのだけど……」
決してリュウセイを甲斐甲斐しく世話をしているラトゥーニを見て寂しくなったとか、そういうのではない。ただ今ラトゥーニに近づくとボデイに拳が飛んできそうだったから逃げたに過ぎない。
「武蔵、本当に?」
「いや、正直わかんないですよね……ラーダさん。オイラはそもそもゲッター線の事なんざ、全然知らないですし……ただ、あの化け物が
インベーダーとアインストから生まれた化け物なら、近づいたら取り込まれちまうと思ってゲッター線を放射しただけで」
「ああ、俺が武蔵にそうするように言ったが、こうなるとは想定していなかった」
まさかゲッター線を放射したら化け物が周囲の地形を飲み込みながら消滅するなんて武蔵もコウキも想定していなかったと告げる。
「ゲッター線に弱い性質を持つ化け物だから消し飛んだという可能性もあるな」
「カイ少佐はそのようにお考えなのですか?」
「まぁな。オカルト染みているが……そもそもゲッター線に恐竜帝国、そして百鬼帝国とオカルトが続いてる。今更驚きもしないと言う所はある」
自分の目で見てきたからこそ、この世界にオカルトが満ちているとしつつもカイはどこか納得してない様子で腕を組んだ。
「あの化け物の事はデッドマンと呼称する」
「デッドマン? ダイテツ艦長、どういう意味ですか?」
「既に死を迎えているのにそれを受け入れず、現世を彷徨い。道ずれにして消え去る亡者ということだ。」
周囲の生き物を呼び寄せるだけ呼び寄せ、喰らい一体化して消え去る――悪辣でそして歪んだ生物。そして自身はもう死んでいるのに、それを受け入れず生物を巻き込み共に死のうとする悪辣なその性質は正しく亡者……それ故にダイテツのデッドマンという名称はピッタリだった。
「武蔵、ビアン博士とは連絡はつくのか?」
「んー一応やってみますけど絶対とは言えないですね。どうせ暫くは動けないんですし、その間に連絡は取ってみようと思います」
「では連絡がついたらブリッジに報告を入れてくれ。皆無理をさせてすまなかった、これより本艦とシロガネは6時間この地でデッドマンの再出現がないか監視する。身体を休めてくれ」
再びあの化け物が出現しないとも言い切れない。しかしそれ以上にハガネとシロガネのクルーは肉体そして気力をデッドマンによって痛めつけられている。休養を取る為にこの場で停泊することを決めるのだった……
ゼオラとアラドの邂逅は紛れも無くゼオラにとって大きな影響を与えていた。勿論それにはリュウセイの念動力による干渉もあるが、ゼオラの精神の中に宿っていた朱王鬼の意志がリュウセイと遭遇したことで霧散したことも影響をしていた。
「どうですか? 虎王鬼さん」
「んーとりあえずあのクソッタレの精神の残りは消えてるわね」
「そ、そうですか……」
虎王鬼の言葉を聞いてオウカは安堵の溜め息を吐いた。だが虎王鬼の険しい顔を見て、まだ何かあるのかとその顔を引き攣らせた。
「朱王鬼の干渉を受けなくなったのは良い事だと思うわ。だけどそれとこの子が自意識を取り戻すかは別問題よ」
「で、でもゼオラはアラドの名前を呼んでッ」
何度もゼオラはアラドの名前を呼んでいた。それをオウカとクエルボの2人はゼオラが自我を取り戻そうとしていると解釈していたが、虎王鬼は首を左右に振った。
「朱王鬼の意志が途絶えたからアラドを殺そうとしているのかもしれない、本当にアラドを求めているのかもしれない……それは私にも判らないわ。とにかく楽観的に受け入れないで、良く様子を見ていなさい」
朱王鬼の意志が途絶えた事が吉と出るか凶と出るかは虎王鬼にも判らないのだ。こと精神においては虎王鬼よりも朱王鬼の方が秀でている、虎王鬼が感知出来ないだけでまだ罠が仕掛けられている可能性はゼロではないのだと虎王鬼は語る。
「……判りました。ありがとうございます」
「気にしなくていいわよ? 貴女達は私と龍の部下だからね。守ってあげるわよ」
ウィンクをする虎王鬼の笑顔に吊られてオウカも笑みを浮かべた。
「虎王鬼様、アーチボルドが蚩尤塚に向かうらしいけど、どうします? あの馬鹿勝手にやらせて大丈夫ですかね?」
「……そうねえ、不安しかないわね。同行してくれるかしら? 風蘭」
「了解です。では虎王鬼様、行ってまいります」
気配も無く現れ、そして話をすると同時に一礼し消え去った風蘭にオウカが驚いた顔をすると、虎王鬼はくすくすと笑った。
「風蘭は風の鬼だからね、スピードと風を利用した幻影やカモフラージュの専門家なの」
「それはもしかして……勝手についていくってことですか?」
「そうよ? アーチボルドは好き勝手するからねぇ。釘をさせる相手を置いておかないと危ないわ」
人間ならば違ったが、鬼となった事で好き勝手出来なくなったアーチボルド。しかしそれは戦果を上げて昇格し、虎王鬼や龍王鬼が何も言えなくならないようにする為の監視工作でもあった。これが朱王鬼ならば相性も良く好き勝手させたが鬼でありながらも、人間に近い感性の龍王鬼と虎王鬼がそんな好き勝手を許す訳が無かったのだ。
「私達はどうすれば?」
「暫くは待機していてくれて良いわ。でも私達のテリトリーからは出ないでくれる?」
アースクレイドルには女を犯しながら喰うのが趣味の鬼や、龍王鬼と虎王鬼の庇護下にいて守られているゼオラやオウカ、クエルボを良く思っていない者も多い。だからテリトリーから出ないようにと念を押す虎王鬼に頷き、オウカは虎王鬼の部屋を後にしようとし、それよりも先に扉が開いた。
「あら、オウカここにいたのね、丁度良かったわ」
「……」
レモンと鉢合わせ、オウカはその足を止めた。
「レモン博士、私とゼオラに何か?」
「うん、貴女達の機体を改造してるでしょ? 完成が近いから見て貰おうと思ってね。それにこっちだと研究が捗るわー♪」
ウォーダンの敗北でぐちぐち言ってくるヴィンデルとアクセルの元ではまともに研究も開発も出来ないと一時的に虎王鬼の所にレモンは身を寄せていた。一応虎王鬼の配下の整備班がついているが、ヴィンデルとアクセルが根負けする方が恐らく早いだろうと虎王鬼は踏んでいた。
「イーグレットも私と意見合わないしね」
「ああ。あの馬鹿ね……ああいうのとは付き合わないほうが一番よ」
この場にいないイーグレットの悪口を言いながら虎王鬼とレモンが並んで歩き出し、その後をオウカとゼオラが続き、百鬼獣が格納されている格納庫へと足を踏み入れる。
「チェストオオオオオッ!!!」
「オオオオオオーーッ!!!」
格納庫に足を踏み入れた瞬間にオウカの耳を震わせたのはウォーダンと闘龍鬼の雄叫びだった。2人が手にしていた木刀が砕け、審判をしていたヤイバが立ち上がる。
「闘龍鬼の方が長く残ってんな、お前の負けだ。ウォーダン」
「……不覚」
「いや、良い踏み込みだった。まだ続けるか?」
「無論だ」
独断行動をした挙句、キョウスケを殺す機会を失い、それだけではなくゼンガーにトドメを刺すのを拒否したウォーダンもまたレモンと同様に虎王鬼の所に身を寄せ、毎日のように闘龍鬼、ヤイバと剣を交えその技量をメキメキと上昇させていた。
「さーて、じゃあオウカの機体のラピエサージュ、それとゼオラのファルケン・カスタムのご披露と行きましょうか」
アクセルとヴィンデルの元にいた時よりも生き生きしているレモンが手を上げ、量産型Wシリーズがコンソールを操作し、隠されていたラピエサージュ、そして改良されたビルトファルケン・カスタムがライトアップされるのだった……。
「気分はどうかな? アギラ?」
「良いと思うか、イーグレットッ!」
アースクレイドルの奥の奥、オーガ1が格納されている区画に半ば監禁されている状態のアギラがイーグレットに向かって声を上げる。だがその声はしゃがれた老婆の物ではなく、若い女性の物だった。
「お前が研究が出来ないと嘆くから俺が協力してやったというのに、なにが不満なのだ?」
「ワシの体をどうした!」
「身体? はて、お前の目の前にあるだろう?」
「イーグレットォッ!!!」
「そんなに怒るな。お前が龍王鬼を怒らせ、手を砕かれたのが悪い。その体はマシンナリーチルドレンの物ではないし、お前の肉体から作った物だ。怒る理由が無いだろう?」
百鬼帝国、インベーダー、そしてシャドウミラーからの技術を得たイーグレットにまともな倫理観は既に存在していない、許可を得ずに勝手にアギラを改造し、こうして悪びれも無く笑う。
「貴様ぁ!」
「ふう、うるさい奴だな。若い身体と手足を戻した。それになんの不満がある? 若返った事で再び思う存分研究出来る。良い事三昧だろう?」
確かにイーグレットの言う通りでアギラは言葉に詰まる。その様子を見てイーグレットは邪悪な笑みを浮かべる。
「報復したくないのか? お前の腕を奪った龍王鬼を、お前を助ける素振りも無いクエルボやオウカ、ゼオラが憎くないのか?」
その言葉にアギラの瞳にどす黒い憎悪の炎が宿る。それを見てイーグレットはますます笑みを深めた。
「年老いた身体では思うように動けまい? 復讐する為の姿を与えてやったんだ。感謝して欲しいな」
「……ちっ、今はお主の口車に乗ってやるわ」
「そう言ってくれると思ったよ。では俺の研究に協力して貰おうか? 無論俺もお前に技術提供をするさ」
忌々しそうに返事を返すアギラを内心で嘲笑うイーグレット。その姿にかつてのソフィアの思想に共感した科学者の姿は無く、狂気に落ちたおぞましい悪魔の研究者の姿があるのだった……。
イスルギ重工の社長室でミツコが携帯を片手に上機嫌でどこかへ電話をしていた。
「そうですわ、LTR機構がついに超機人を発掘したとか……ええ、私がスポンサーなんですもの、間違いありませんわよ」
『まぁ貴女の情報ですから間違っていると言うのを疑っているわけではありませんが……如何せん貴女の情報は最近イレギュラーが多い、違いますか? ローズ』
受話器の先の相手の言葉にミツコは眉を細めた。ノイエDC、百鬼帝国、インスペクター、シャドウミラー、そして連邦軍――5つの場所を器用に立ち回り、その先で得た情報をリークし、それを元にして商売を行なう。それがミツコの商売だった、そこに罪悪感や後悔など無く、いかにイスルギを大きくするか――それだけがミツコの全てであり、父レンジにその身体を用いての取引や契約に何度も借り出されたミツコの存在理由だった。レンジが亡くなってもなお、いや亡くなったからこそイスルギをもっと大きくしなければならない――そんな脅迫概念にも似た考えがミツコを突き動かしていた。
「酷いですわね、私はちゃんとオペレーションプランタジネットの情報も流しておりますし、機体の設計図だって可能な限り横流ししてますわよ? ゲシュペンスト、ヒュッケバインのMK-Ⅲの事を忘れないで欲しいですわ。あれも結構大変だったのですよ?」
『……そうですね、失礼しました。ではこれからも良い取引を』
その言葉を最後に受話器から男の声は途絶え、それを確認してからミツコは携帯を懐に戻す。
「ここ最近商売が上手く行きませんわね……やはりイレギュラーが多すぎます」
情報の売りところ、戦力を売るタイミングを見抜く眼をミツコは持っていた。だがここ最近それが上手く行っていない――その理由は言わずもがな……クロガネとビアン達の存在であった。
「あの2人も失敗してくれてましたし……」
必ず仕留める事が出来ると豪語したのでそれを信じたが、製造工場に侵入して来たバンを取り逃がす結果になった。その上翌日には監査の話が来て、ヴィンデルとレモンから齎された情報を下に開発した新型機を隠すのにミツコは尽力することになり、用意したばかりの製造プラントを放棄することになった……電卓を弾くミツコの顔は険しい。
「プラスマイナスは殆ど無し……はぁ……試算ではかなり儲けていた筈なんですけどね」
隠し工場などを破壊されていてはそれの補填費などが出て、利益はどんどん下がっている。
「今回の件で確実に+になるはずですわ」
超機人の件、次にオペレーションプランタジネット、そしてニブハルに仲介して貰いインスペクターとの取引、そのどれもが表で計上しなくて良い利益となる筈だとミツコは笑うのだが……想定していない横槍で再び計算が大きく狂う事、そして……。
「ペット型ロボットのプレゼンテーションを行ないたいそうですが……」
「却下ですわッ! 後魔法少女も、女騎士も全部全部却下ですわッ!!! 私はそういうのは嫌いなんです!」
秘書の言葉に怒鳴り声を上げるミツコ。どこから洩れたのか、ミツコが隠し通してきた趣味――魔法少女等が好きという少女趣味が露出していることでその胃に相当なダメージが蓄積しているのだが、その情報を流した張本人コウキがそれを知るわけも無いのだが、コウキの反撃は確実にミツコにとっての痛恨の一撃と化していたのだった……。
一方その頃蚩尤塚で発掘作業を行なっているエリ達はというと……やっと見つけた超機人の頭部に盛り上がりを見せていた。
「やっとですね。アンザイ博士!」
「これで我々の研究も安泰ですね!」
「ええ。そうね、でもまだこれで安心は出来ないわ、ここから掘り進める事がどれだけ難しいか判っているでしょう?」
超機人を覆い隠している土壌は尋常じゃない強度を誇っている。ここまでは爆弾やドリルを使っての作業だったが、超機人らしいものを発見した今、慎重に慎重を重ねる必要があった。
「シキシマ博士は?」
「あーまだ地下ですね。超機人の発掘作業に協力して欲しいってお願いしたんですけど……」
「しょうがないわね。彼にとっては超機人よりも、ゲッターロボだからね」
超機人かゲッターロボか、そのいずれかを発掘できると喜んでいたが、シキシマにとっては超機人だったことで落胆し、今も地下に篭もっていると聞いてエリはシキシマを呼ぶ為にエレベーターに乗り込んだ。
「……相変わらず不気味ね」
発掘現場の地下は夜になると翡翠色に輝く――それはこの地に紛れも無くゲッター合金などが眠っていると言う証だった。人魂のように飛び交うゲッター線の光を抜け、エリは採掘音の元へ向かう。
「シキシマ博士。もう今日の採掘は終わりよ」
「エリか……いいや。もう少しだけ進める」
「駄目よ。これ以上は危ないわ、何かあったらどうするの?」
地下であり、そして夜はゲッター線の光が発生する。1人で採掘するのは認められないと現場責任者の権限でドリル等の電源を強制的に落とすエリにシキシマは不機嫌そうに振り返る。
「……もう少し、もうすぐ側まで来ておるんじゃ、あんな紛い物のゲッターロボではない、本物をこの目に出来るんじゃ」
採掘の護衛として国連から回されて来た量産型ゲッターロボは姿こそ同じだが、ゲッターロボではない。それがシキシマに火をつけていた、本物のゲッターロボを、ゲッター線レーダーに反応している何かを見つけ出すと今まで以上に精力的に採掘を行い、その結果が超機人の発見へと繋がっていた。
「ええ、判るわ。でも明日にしましょう」
この先に何かが眠っている事はエリも判っている。エリ本人としてはこちらの採掘作業を進めたい。だがLTR機構としてはスポンサーの意向に従わなければならない、過去の遺物であるゲッターロボよりも超機人を優先しろという命令なのだ。
「ハガネにゲッターロボがいるっているのよ? 伊豆基地に行けばゲッターロボもパイロットにもあえるわよ?」
「それとこれは話が別じゃ。ワシはこの手でゲッターロボを掘り当てる、知りたい、知りたいんじゃ……ゲッターロボが、ゲッター線が何を齎したのか! ワシはそれを知りたいんじゃ」
シキシマを突き動かすのは狂気――それは晩年のエリの父マコト・アンザイと同じだった。だからこそ、エリはシキシマを迎え入れたのだ。
「判るわ、でも今日は終わり。明日にでも連邦に応援を頼むわ、そうすればゲッターロボも掘り当てれる」
「……そうか、そうじゃな。行こうか」
「ええ。そうしましょう」
シキシマの手を引いてエリは地下を後にする。蚩尤塚の地質は地下に進めば進むほどゲッター合金の比率が増してくる、そしてそれに伴い心霊現象のような物も引き起こしている。
(この先に何があるのかしらね)
蛍のように飛び交うゲッター線、そして地下と言う事でひんやりとした空気――地獄に続いていても驚くことはないわねと心の中で呟き、エリはシキシマを連れてエレベーターに乗り込んだ。
ガラリ……
そして2人の姿が消えると同時にシキシマが採掘していた岩壁が崩れ落ちた。崩れ落ちた岩壁からはひび割れ、錆び付き、顔の左半分が砕け散ったゲッター1が姿を現し、動く筈の無いカメラアイが昇っていくシキシマとエリを見つめ続けているのだった……。
第111話 地獄門 その4へ続く
アギラ若返りは別に趣味でも何でもありません、ただ老婆のままだとグラビリオンで道連れが出てしまうので、それ対策です。なので若返っていても容姿とかは気にしていませんし考えてもいませんのであしからず、次回もややオカルト風味で続けて逝こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い