進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第113話 地獄門 その6

 

第113話 地獄門 その6

 

錆び付いた異様な金属音を立てながら滑落した蚩尤塚の地下から次々とゲッターロボが這い出てくる。オイルを、火花を撒き散らし、自分の下にいるゲッターロボを砕きながら、少し前へ移動し力尽き、また別のゲッターロボが力尽きたゲッターロボを踏み台にして地底から這い出てくる。それが何十、何百というゲッターロボによって行なわれる光景はおぞましく醜悪であった。

 

「な、なにあれ……き、気持ち悪い……ッ」

 

他人を犠牲にしても自分が再び外に出るのだと、他人を押しのけてでも外に出ようとする光景を見てリオは吐き気を覚えた。

 

「武蔵さんのゲッターロボに似てるけど……少し違う?」

 

旋回しながら地面から這い出てくるゲッターロボを観察しているリョウトは地面から出現しているゲッターロボの細部やデザインが少し違う事を見て取った。

 

「試作機? プロトタイプなのか? それよりもパイロットは……なッ、む、無人ッ!?」

 

ヒュッケバインガンナー・タイプMの望遠モードで確認したコックピットは無人だった。夥しい血痕や、骨を僅かに乗せたゲッターロボは確かに無人で動き、そして……その空虚な瞳をヒュッケバインガンナー・タイプMへと向けた。

 

「リオ! しっかり掴まってッ!」

 

「え、えっ!? きゃあッ!?」

 

トマホークが、ゲッターマシンガンが、ドリルミサイルが、ゲッターミサイルが、そしてゲッタービームが無差別に放たれる。それは無軌道で互いにぶつかり合いその軌道を大きく変え攻撃の軌道をまるで読む事が出来ない。

 

「ぐうっ!?」

 

「くっ!?」

 

下部に被弾し大きく揺れるヒュッケバインガンナー・タイプM。幸い命中したゲッターミサイルは不発弾だったが、それでも射出された勢い、そして質量は凄まじくそれぞれのコックピットでリョウトとリオの身体が大きく跳ねた。

 

「近づけませんの……ッ」

 

そして攻撃を受けているのはリョウトとリオだけではない、ノイエDC、そしてアインストにもゲッターロボ軍団は攻撃を仕掛けてきていた。

 

「邪魔ですの……ッ」

 

「!?」

 

緩慢な動きでドリルを突き出してきたゲッター1の頭部、ライガーの胴体、そしてポセイドンの脚部というちぐはぐなゲッターロボの攻撃を避け、その手にした日本刀で両断するペルゼイン・リヒカイト。しかし爆発したゲッターロボの中から無数のゲッターアームが伸び、ペルゼイン・リヒカイトの両手足に巻きつき、ドリルを構えているゲッター2、ライガー、そして点滅を繰り返しながらもゲッタービームを放とうとしているゲッター1とゲッタードラゴンを見てアルフィミィは顔を歪めた。

 

 

「選ばれなかった者が未練がましいですのよッ!!」

 

アルフィミィは知っている。この地に眠るゲッターロボは選ばれなかった者、出来損ないで、それでも尚ゲッター線に認められることを願っている。

 

「……その並び……いただきますの」

 

地響きを立て、ペルゼイン・リヒカイトの回りに紫色の火柱が上がり、そこから鬼が現れ口から光線――ヨミジを放ちゲッターロボを薙ぎ払う。

 

「……本当に見苦しいですのよッ!」

 

上半身と下半身を両断されても尚動くゲッターロボを見てアルフィミィは吐き捨てるようにそう呟いた。アルフィミィが不機嫌な理由――それはアルフィミィとて理解している訳ではないが、それは紛れも無く同属嫌悪――届かぬ光に手を伸ばし続けるゲッターロボに自分を重ね、アルフィミィは攻撃的になっていた。

 

【……】

 

【……】

 

アインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDは無尽蔵に姿を見せるゲッターロボを見て、そのセンサーアイを光らせユウキとカーラ、そして風神鬼から背を向けて地底へと向かう。

 

「こら待て! ここまでやっておいて私を無視するなッ! ああ、くそッ! 邪魔するなよッ!」

 

「……ッ!」

 

無人機のゲッターロボ攻撃を受け風蘭が苛立った様子で叫ぶが、その光景を見ながらアーチボルドは現在の状況を把握し指示を出した。

 

「ふむ、なるほど。ユウキ君、カーラ君、あの地面から這い出てくるゲッターロボを何機か回収しましょうか」

 

『お言葉ですが、ここは撤退するべきかと』

 

ユウキの言葉に生き残りのノイエDCの兵士も賛同する。無尽蔵に出現するアインストとゲッターロボ――その争いはすさまじく、ここで行動に出れば自分達にも被害が及ぶ、いま自分達を見てない内に逃げるべきだと進言したアーマリオンがゲッタードラグーンの抜き打ちで貫かれ爆発炎上する。

 

「ここの指揮官は僕です。超機人か、それともゲッターロボか、どちらかもって帰らないと僕達自身の首が危ないですよ。それとも餌になりたいというのなら別ですが」

 

餌――アースクレイドルの中に居る人食いの老人、それに差し出されるかもしれないと悟ったノイエDCの兵士達からひゅっと息を呑む音がする。

 

「僕としては超機人が欲しいんですけど……ね、それも厳しそうですしね。それならゲッターロボの方がまだ芽があると思いませんか?」

 

蚩尤塚のすぐ近くで沈黙しているグルンガスト参式と、アインストとゲッターロボの攻撃によって姿を現した超機人は最早スクラップと言っても良い超機人――それでもアーチボルドは超機人の方が欲しいと思っていたが、その周辺は特にゲッターロボの数が多い。あれを突っ切って超機人を回収するのはゲッターノワールでも酷で、仮に回収しても修理が出来なければ意味は無く、そうなればゲッター合金を回収出来た方が旨みがあり、更に命も繋がる。

 

『了解、ゲッターロボの回収を始めます』

 

「ええ、出来るだけ状態の良いのを頼みますよッ!」

 

右腕、左足が無い半壊したゲッターロボに向かってゲッタートマホークを振るわせる。だが倒した以上のゲッターロボに囲まれ、アーチボルドは舌打ちをした。

 

「僕とノワールは君達の仲間じゃないんですけどねぇッ!」

 

残された腕を伸ばし、近づいてくるその姿はゾンビにしか見えず、救いを仲間に駆け寄るように擦り寄ってくるゲッターロボの群れ、しかも近づいてくるゲッターロボはスクラップ同然で、回収する価値も無い。そんな相手と戦い続けているアーチボルドに徐々に苛立ちが募る。

 

『少佐、ヒリュウ改がこちらへ突っ込んできますッ! 約3分後です』

 

「……本当悪い事って重なりますねぇ……っ!?」

 

ヒリュウ改が蚩尤塚に近づいていると言う報告を聞いてぼやいたアーチボルドの目の前で蚩尤塚から光の柱が立ち上る。

 

「まさかッ!? あの状態で動くというのですか!?」

 

『『龍虎王推参ッ!!!』』

 

光の柱の中から現れた龍と虎の意匠を持つ超機人の姿を見て、アーチボルドは忌々しそうに舌打ちをするのだった……。

 

 

 

時間は少し遡る――蚩尤塚に背部から叩きつけられたグルンガスト参式はその前のペルゼイン・リヒカイトの攻撃とも相成って、完全にその機能を停止していた。

 

「ぐうう……ううっ!!」

 

辛うじてコックピットへの直撃は回避したが、ギリギリの所を掠めたことでグルンガスト参式のコックピット――Gラプターは致命的な損傷を受けており、ブリットもその意識を飛ばしていた。

 

『ブ、ブリット君ッ!! ブリット君大丈夫ッ!!』

 

何度も自分の名を叫ぶクスハの声で目を覚ましたが、ダメージは深刻で呻き声すら出ない状況で手を伸ばし、通信機の電源を入れるブリットは自分の機体の状況をゆっくりとクスハに伝えた。

 

「こ、こっちの操縦系がやられた……ッ! それに……折れては無いが……腕も足も殆ど動かない……」

 

意識を取り戻した事が奇跡とも言える重傷――身体を鍛えていたブリットだからこそ意識を取り戻し、こうして会話をする事が出来ているが、そうでなければ叩きつけられた段階でブリットは確実に死んでいた。

 

「Gバイソンを強制排除する……ッ!  クスハ、お前は逃げろ……ッ!」

 

モニターが死んでいて状況は把握出来ていないが、振動と爆発の近さで敵が近づいているのが判り、ブリットは震える手で緊急分離を行なう為のレバーに手を伸ばす。

 

『ダメよッ!  それじゃブリット君がッ!!』

 

「こ、このままじゃ2人ともやられてしまう……ッ! だから、お前だけでも……ッ」

 

Gラプターが大破してしまえばグルンガスト参式は動けない。それならせめてクスハだけでも生きて欲しいとブリットは願った。だがクスハはそれを嫌だと叫ぶ。

 

『嫌よ、絶対に嫌ッ! こっちでなんとかコントロールしてみるッ!!』

 

「や、止めろ……ッ! 俺のGラプターはもう……ッ! それにリョウト……とリオにも通信が繋がらないんだぞッ」

 

リョウトとリオならばこの状況でブリットとクスハを見捨てる訳がない。それでも連絡が通じないと言う段階で戦闘が激しくブリットとクスハを助ける事が出来ないという事を意味していた。

 

「……クスハ、頼む。俺の言う事を聞いてくれ……」

 

『嫌……嫌よ! ブリット君……お願いだから諦めないで……』

 

震えるその声を聞けばクスハが泣いているのが判り、ブリットに罪悪感が芽生えるが、それでも操縦系が纏めてお釈迦になり、再起動する目処も無く、そしてブリット本人も重傷で動けないとなればクスハを道連れにしてしまう。ブリットはそれだけは許せなかった……なんとしてもクスハだけは生かしたい……そう思った直後凄まじい振動がグルンガスト参式を襲った。

 

「ぐうっ……」

 

『きゃあッ!?』

 

モニターが死んでいて外で何が起きているのか判らない。無防備な状態の振動にクスハとブリットの悲鳴が重なり、なんの光も無かったグルンガスト参式のコックピットにどす黒い緑の光が広がった。

 

「なんだこれは……ぐっううう、うあああああッ!!」

 

『いや、止めてッ! 私の中に入ってこないでッ!!』

 

嘆き、悲しみ、恨み、絶望――ありとあらゆる負の感情が緑の光と共にクスハとブリットを襲った。

 

「や、止めろぉ……」

 

『やだ……やめてよお……』

 

その光が、ゲッター線が自分達を蝕んでいるのとブリットは感じた。武蔵のゲッターロボの光り輝く翡翠の輝きではない、地獄から溢れたようなどす黒いそのゲッター線に宿る何かの意志が……自分達を浸食してくるのをブリットもクスハも感じていた。

 

「うがああッ!?」

 

『あ、あああ……』

 

自分が自分でなくなるような不快感、そして自分の心を暴こうとしている何者かの邪悪な意思――肉体ではなく精神が死んでしまう。そう感じた時、威厳を伴う何者かの声が響いた。

 

【去れッ! 選ばれなかった者達よッ!】

 

強烈な一喝と共にブリットとクスハの心を力ずくで抉じ開けようとしていた何者かの気配は急速に遠ざかって行った。

 

「なんだ……今の声は……」

 

『この声は……何?』

 

男とも女とも取れぬエコーの掛かった声がグルンガスト参式のコックピット――いや、ブリットとクスハの脳内に響いた。

 

【吾、汝らに問う……人界の救済を望むや?】

 

『あ、貴方は誰なんですか……』

 

「待てクスハ、相手が何者かも判らないんだぞ!」

 

その不可思議な声の持ち主に何者なのかと問いかけるクスハにブリットが声を上げる。

 

【汝の懸念も判る。選ばれなかった者の怨念に触れたのだからな……】

 

「選ばれなかった者? なんだそれは」

 

【……進化の光に選ばれず、この地に残された者……皇帝に見初められなかった者達の骸。それは皇帝の使いに今一度目を掛けてもらう事を願っている。ゆえに、お前達に残る皇帝の光に引かれ、そして悪意に反応しあの者達は目覚めたのだ】

 

コックピットに光が灯り、外の光景がブリットとクスハの目の前に広がった。

 

「げっ、ゲッターロボッ!?」

 

『なんで、なんでゲッターロボがリョウト君達を攻撃しているの!?』

 

地面から現れるゲッターロボがアインスト、ノイエDC、ヒュッケバインガンナー・タイプMを襲っている光景を見て、ブリットとクスハは声を上げた。

 

「な、なんなんだ、これはッ! 何がどうなっているッ? 進化の光、皇帝、選ばれなかった者ッ!? お前は何を知っているんだ! お前は何者なんだッ!」

 

姿を見せない声の主にお前は何を知っている、お前は何者なんだとブリットが声を荒げる。

 

【吾が名は龍虎王……古より人界を守護する超機人なり、そしてかつて進化の使徒とそして真なる龍帝と共に戦った者……】

 

『龍虎……王……ッ!? さっきから私に語りかけていたのは貴方なのッ!?』

 

「超機人――本当に意志があったのか……」

 

自分達を助けた存在――それが超機人だと判り、ブリットとクスハは驚きの声を上げた。

 

【汝らは破邪強念を有す……故に吾はそれに応えた……吾の目覚めは、的殺の彼方か羅喉神が迫る証とならん。然るに、吾が使命はその使者たる百邪を退け、人界を護る事となり、そして今代の進化の使徒が誤った道へ進まんとした時、それを止める事なり】

 

百邪――そして進化の使徒が誤った道に進まんとした時――その言葉は余りに抽象的だったが、ブリットとクスハは初めて龍虎王が何を言おうとしているのかを理解した。

 

『百邪とはアインストの事ですか?』

 

「進化の使徒とは武蔵の事なのかッ!」

 

教えてくれとクスハとブリットは龍虎王に問いかける。だが龍虎王はその問いかけに返事を返す事は無かった。

 

【時が無い、吾らに……残された時間……は最早無きに等しい……】

 

龍虎王の声にノイズが混じり、その声が遠ざかっていく……。

 

【汝ら……吾らの主と……なる資格あり……吾らの……真なる覚醒……五行器の輪転には、2人の……強念者を要す……】

 

2人の強念者――それが念動力者である自分達であると言うことが龍虎王から語られた。

 

「今は教えてくれないのか……」

 

【時が……無い……吾ら、そして進化の……使徒の因縁を……語るには時が足りぬ……吾らには使命がある……汝ら、人界の……救済を望まば……吾、神体を以て汝らの意を遂げん】

 

龍虎王は全てを語った訳ではない……だがそれでも言葉の節に進化の使徒、恐らく武蔵の身を案ずる響きがあり、そして地球を守りたいという意思をブリットとクスハは感じていた。

 

【吾、汝らに問う……人界の救済を……そして友を救う力を……望むや?】

 

『わ、私は……ッ!』

 

「俺達はここで終わる訳にはいかない……ッ!」

 

地球を救いたいという願いはブリットとクスハにもある。その根底はL5戦役で武蔵がメテオ3に特攻する光景を見ていることしか出来なかった無力感にある。

 

『貴方が私達の世界を守る存在だと言うのなら……』

 

「俺達の力をあんたに貸すッ!!」

 

ブリットとクスハの強い決意が込められた言葉を聞いて龍虎王の声が明るい物となった。

 

【ならば、唱えよ……必神火帝……天魔降伏……龍虎合体】

 

「必神火帝ッ!」

 

『天魔降伏ッ!』

 

『「龍虎合体ッ!!」』

 

グルンガスト参式が、己の身体が分解され、龍虎王に吸い込まれていくような感覚をブリットとクスハは感じ、龍虎王に完全に吸い込まれる瞬間に巨大なゲットマシンが地球を覗いているそんな映像が2人の脳裏を過ぎったのだった……。

 

 

 

 

光の柱が立ち、そこから現れた巨人を見て風蘭は身を震わせた、圧倒的な闘気、そして存在感――そして龍虎皇鬼を連想させる龍と虎の意匠に、これこそが龍王鬼が求めて止まない強敵だと悟ったからだ。

 

(さぁ、見せて見せなさい。超機人ッ! 貴方の力をッ!)

 

興奮を隠し切れない風蘭は風神鬼のコックピットで牙をむき出しにして笑った。龍虎皇鬼はアーチボルドがブライに献上した超機人について纏めた資料を元に作成された百鬼獣だ。そういう意味では超機人のデッドコピーと呼んでもいい、だが風蘭も、龍玄もヤイバも闘龍鬼も、誰もデッドコピーなんて思っていない。自らの王が操る機体が出来損ないの複製品などと思う臣下がいるわけが無い、龍虎皇鬼が龍虎王よりも強いと誰もが信じている。そしてそれと同時に龍虎皇鬼と同格の強さを龍虎王が持っていなければならないと言う思いがある。

 

『龍虎王……貴方の力を……』

 

龍虎王の全身から雷が放たれ周囲を染め上げる。その雷はアインストを、ゲッターロボ軍団を焼き払い、ユウキ達にも神罰と言わんばかりに降り注ぐ。

 

「ははッ!! はははははははッ! そうだね、そうだね!! こうじゃないとねッ!!」

 

その雷は風神鬼にも降り注いだが、それを回避しながら風蘭は笑い続ける。そうだ、こうでなければならない、龍虎皇鬼は雷を操る、龍虎王もまた天候を操って貰わなければならないと言わんばかりに声を上げて笑う。

 

『私達に示してッ!!』

 

尾の先の宝珠が切り離され、それを龍虎王が掴むと異様な形の大剣へとその姿を変える。

 

『龍王破山剣ッ!!』

 

『は、はや……ううっ!?』

 

殆ど一瞬でペルゼイン・リヒカイトの懐に飛び込み、その大剣の切っ先をペルゼイン・リヒカイトに突き刺し、横薙ぎ一閃で弾き飛ばす。その直後正眼に構える。

 

『逆鱗断ッ!! えええええいッ!!』

 

裂帛の気合と共に振るわれた一閃がペルゼイン・リヒカイトに深い切り傷をつけて斬りとばす。しかし龍虎王の攻撃はそれだけに留まらず、吹き飛ぶペルゼイン・リヒカイトを追って空を駆ける。瞬きほどの一瞬で青い龍神の姿が白銀の獣神へと変り、数えるのが馬鹿になるほどのラッシュをペルゼイン・リヒカイトへと叩き込む。

 

『これでトドメだぁッ!!』

 

『!?』

 

高速で回転する右拳がペルゼイン・リヒカイトの胴に叩き込まれ、そのままゲッターロボが這い出てくる地底の窪みに向かってペルゼイン・リヒカイトが叩き付けられ、地表が砕け、崖が崩れる。その凄まじい破壊力は風蘭の目から見ても龍虎皇鬼と遜色なく、賞賛に値する力をその目の前で見せていた。それだけで風蘭はこの戦いには意味があったと笑みを浮かべた、龍王鬼、虎王鬼の2人に良い土産話が出来た。後はゲッター合金でも持ち帰れば戦果としては十分でおつりが出る。

 

「アーチボルド、撤退しな。私が殿をするからさ、忘れないでゲッターロボ持って帰りなよ」

 

そう考えてアーチボルドに風蘭は撤退命令を出す。

 

『よろしいのですか?』

 

「別に残って戦えるなら良いけどさ、そこの所どう? 超機人は連邦に行ったし、アインストもゲッターロボも、ついでにヒリュウ改も来たけど?」

 

ノイエDCの包囲網を突き抜けて蚩尤塚に姿を現した真紅の戦艦――「ヒリュウ改」の姿を確認し、風蘭がそう尋ねる。

 

『失態に失態を重ねることになりそうですねぇ……』

 

「まぁリクセントの件は私達はフォローしないけど、今回の件はフォローして上げるよ。それでどうする? 残ってくれるの?」

 

ギギギっと音を立てて動き出すプロト・ゲッターロボ。そしてよろよろ立ち上がったペルゼイン・リヒカイトを支える無数のアインスト軍団、そして今地面を吹き飛ばして再び姿を見せたアインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDに加えて、一騎当千のヒリュウ改と超機人「龍虎王」……正直乱戦も乱戦、しかも多勢に無勢という状況だ。

 

『すみません、ここは下がります。ゲッターロボの残骸だけはしっかりと持ち帰りますね』

 

「うん、そうしなよ。最低でも3体は持ち帰ってよ」

 

判りましたと返事を返し、ゲッターロボの残骸を抱え離脱するゲッターロボ・ノワール。それに続くように生き残っていたノイエDCの兵士達もほんの僅かだがゲッター合金を抱えてASRSを起動して次々と離脱する。

 

『風蘭さんでしたね、お気をつけて』

 

『本当に大丈夫?』

 

「大丈夫大丈夫、私も何も死ぬつもりも無いし、程ほどの所で帰るよ。ほら、行った行った」

 

風神鬼の手をひらひらと振り、さっさと逃げろと言うとユウキとカーラに率いられ、ノイエDCの部隊も蚩尤塚を離脱する。

 

(さてと……随分と因縁がありそうだねえ)

 

風蘭とアーチボルド達が話をしている間にヒリュウ改から部隊が展開され、損傷の大きなペルゼイン・リヒカイトは転移で離脱し、入れ替わりにクノッヘン、グリート、ゲミュートのアインストが出現する。普通ならば死を覚悟する混迷を極めた戦場――だがこの舞台こそが風蘭が1番得意とし、風神鬼の力を発揮出来る戦場でもあるのだった……。

 

 

 

 

 

ブリット達からの救援信号を受け蚩尤塚に辿り着いたキョウスケ達を出迎えたのは異形――「アインスト」の群れ、そしてコックピットが無人で全身からオイルや火花を撒き散らしながら動き続ける残骸「プロトゲッターロボ」――そして風を司る百鬼獣「風神鬼」と「風蘭」そして今までのアインストと一線を画した姿をした漆黒のアインスト「アインスト・ゲシュペンストS」そして白銀のアインスト「アインスト・R-SWORD」の姿だった。

 

『おいおいおい……なんだこりゃあ、出来の悪いB級ホラーか?』

 

そこに人はいない、いるのは化け物ばかり、カチーナの言うB級ホラーと言うのも納得の例えだった。

 

『キョウスケ中尉、グルンガスト参式の姿がありませんのです』

 

『キョウスケ中尉! 私もブリット君も無事です!』

 

竜と虎の意匠を持つ特機から響いたブリットとクスハの声――それは姿の見えないグルンガスト参式が撃墜されたかもしれないと言う不安を吹き飛ばす明るい声だった。

 

「ブリット、クスハ……もしやその機体は……?」

 

『ええ、これが蚩尤塚の中で眠っていた……超機人「龍虎王」です』

 

『何でお前らが そんなのに乗ってんだよッ!? と言うかあの化け物連中と出来損ないのゲッターロボの群れはなんだ!?』

 

「そ、それは……説明すると長く……』

 

「……事情は後で聞く。 ブリット、クスハ……行けるんだな?」

 

キョウスケの確認の言葉にブリットとクスハが返事を返す。

 

「良し、ならばいい。タスクとラッセル少尉はリョウトとリオのフォローをしつつ、輸送機の救出を、それ以外のメンバーはアインストと

ゲッターロボを迎撃する。マサキとリューネはサイフラッシュとサイコブラスターでアインストとゲッターロボの動きを止めろ」

 

キョウスケが手早くそう指示を出し、その指示に従ってマサキ達が動き出そうとした時だった。

 

『おっと待ちなよ、ここは私の戦場、私の風の世界さ。無粋な風に割って欲しくないねッ!! こいつで吹っ飛びなッ!! 破邪・騒乱破ッ!!!』

 

風神鬼の開かれた翼から無数の札が飛び出し、札同士がエネルギーで繋がりあい、そこから刃を作り出し巨大な風車となって戦場を駆け巡る。

 

「「「!?!?」」」」

 

「「「!!!」」」」

 

アインスト、プロトゲッターを引き裂き、蹂躙し吹き飛ばす。キョウスケ達も踏ん張りはしたが、その凄まじい暴風と風の刃に致命傷とは言わないが各機も少なくないダメージを受ける。しかし、風神鬼の攻撃は敵を倒す物ではなかった。

 

『なっ、出力があがらねぇ』

 

『こっちもッ!?』

 

スピードを得意とし、MAPWによる殲滅を武器とするサイバスターとヴァルシオーネの機動力を封じ、そしてサイコブラスター、サイフラッシュを封じる特殊な電波を発生させる専制攻撃――これによってキョウスケ達の戦術はいきなり瓦解する事になった。

 

『言っただろ? 無粋な風はいらないんだよッ! 私は風蘭、そしてこいつは風神鬼ッ! 龍王鬼様と虎王鬼様の配下さッ!! さぁ踊ろうじゃないかッ! サイバスター、それにヴァルシオーネッ!!!』

 

凄まじい速度で切り込んでくる風神鬼はサイバスターとヴァルシオーネの2機を相手に舞うようにその手にした三日月刀を振るう。

 

『どうするキョウスケ』

 

「何も変らない。風神鬼とやらの広域攻撃で敵は散開した。ここで一気に巻き返す、それだけだ」

 

敵の攻撃によって作られた状況というのは面白くないが、それでもキョウスケ達が作ろうとしていた状況だ。だからこそ巻き返せばいいとキョウスケは平坦に返事を返す。

 

『あんまり熱くならないでよ?』

 

「悪いがそれは無理な話だな」

 

ゲッターロボ軍団その全ては武蔵が乗っていたゲッターロボに酷似している。それがあんな姿で戦っていると言う光景はキョウスケ達の心を逆立てていた。

 

『ラドラ、大佐達はアインストに取り込まれたわけじゃないんだな?』

 

『ああ、もしそんな状況になっていれば連絡が入る、それがないという事は出来の悪い模造品だ』

 

ラドラとギリアムの声にも怒りの色が浮かんでいる。どうしても許容できない物――それがプロトゲッターロボ、そしてアインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDの存在だった。

 

『もう、しょうがないわね。フォローしてあげるから好きにしなさい』

 

「すまないな」

 

『別に私も嫌な気分になるのは本当だしね』

 

動き出す亡者を鋭く睨み、緩慢な動きで動き出すゲッターロボの胴体にリボルビングバンカーの一撃が叩き込まれるのが戦闘開始の合図となるのだった……。

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジで戦況を見ていたレフィーナは眉を細めた。確かに状況は乱戦、そして敵味方が入り乱れている……だが戦況は決して一方に傾きすぎないのだ。

 

(戦況をコントロールしてる……一体何の意味があって……)

 

アルトアイゼン・ギーガのリボルビングバンカーでプロトゲッターロボが纏めて吹き飛ぶが、その残骸の影から伸びて来たゲッターアームがアルトアイゼン・ギーガに絡みつき動きを止める。

 

『こんなものでッ!』

 

それは一瞬にも満たない時間だが、アルトアイゼン・ギーガの動きを止め、プロトゲッターロボごと吹き飛ばすと言わんばかりにアインスト・グリートのビーム、そしてアインスト・クノッヘンの骨を飛ばすブーメランがアルトアイゼン・ギーガに迫る。

 

『そうはさせないわよん、ラミアちゃん!』

 

『了解でごんす』

 

高速で迫る骨のブーメランをヴァイスリッター改とアンジュルグの5連ビームキャノンとシャドウランサーが迎撃し、ビームはビームコートと腕をクロスした状態で防御したアルトアイゼン・ギーガの装甲のほんの一部を焦げ付かせるに留まる。

 

『遠慮はいらん、全弾持って行けッ!!!』

 

両肩・バックパックから射出口が展開されベアリング弾の嵐がアインストクノッヘンとグリートを貫き粉砕する。

 

『『『…………』』』

 

その光景を鎧のアインスト――ゲミュートは腕組し、じっと見つめているだけだ。

 

『おらぁッ!』

 

『お前らに付き合ってる時間はねぇッ!』

 

カチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークとジガンスクード・ドゥロのギガントナックルがゲミュートを殴り飛ばし、強引に道を作り出す。

 

『これでッ!』

 

『ここさえ突破できればッ!』

 

タウゼントフェスラーへの道を塞いでいるプロトゲッターに向かってそして大火力こその攻撃をする余力は無いが、牽制程度の攻撃が可能なヒュッケバインガンナー・タイプMのリープミサイル、ラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱのスプリットミサイルが放たれ、プロトゲッターの動きを止め、その隙にジガンスクード・ドゥロがタウゼントフェスラーに隣接する。

 

「これでアンザイ博士とシキシマ博士の安全は確保出来ましたな、いえ、害成す気が無かったとも言えますかな?」

 

ショーンの言葉にレフィーナは返事を返さないが、その通りだと思っていた。アインストとプロトゲッターも、そしてキョウスケ達とアインスト、プロトゲッターロボは三つ巴の様相を呈し、互いに攻め込みすぎれば無防備な背中を晒す事になる。ゆえに戦況を冷静に見極める必要があるのだが、アインストとプロトゲッターにはキョウスケ達を倒そうという意思が感じられなかった。

 

『ははッ!! 良いね良いね。そらそら、もっと遊ぼうよッ!』

 

『ちっ、やりにくいったらありゃしないッ!』

 

『全くだぜッ!』

 

風蘭と風神鬼――風を司る鬼とその百鬼獣は確かに風を司っていた。春風のように穏やかで、夏の風のように激しく、冬の風のように厳しく、ころころとその姿を攻撃の緩急を変え、サイバスターとヴァルシオーネと舞うような、見惚れるような激しい舞いを踊っていた。

 

『戦いは楽しくないと行けないねッ!』

 

『バトルマニアとは付き合ってられないぜッ!』

 

『そういうことッ!』

 

サイバスターとヴァルシオーネの挟撃をするりと避け、両手を突き出す。

 

『悪いね、鬼は戦ってなんぼ、そして戦いを楽しまなきゃやってられないのさッ!!』

 

『ぐっ!?』

 

『うあッ!?』

 

その手から放たれた電撃を伴った回転刃がサイバスター、ヴァルシオーネの胴を捉え地表に向かって叩き落す。

 

『やるね、良い男に良い女だよ』

 

墜落しながらもカロリックミサイルとハイパービームキャノンを放つサイバスターとヴァルシオーネの攻撃は風神鬼を確かに捉えていた。

 

『でもね、やっぱり私と風神鬼の武器はそんな物じゃないのさッ!』

 

『はっ! サイバスターと俺を舐めてくれるなよッ!』

 

『あたしとヴァルシオーネもねッ!』

 

武器での、命を奪い合う戦いは終わった。次は自分達の本来の主戦場――超高速のドッグファイトへと変り、音速の壁を突破した証であるベイパーコーンを蚩尤塚の上空に作り出し、空中に自分が飛んだ証であるエネルギーの後を残しながら3機が入り乱れ、空を飛び交う。

 

『……』

 

『……』

 

『見ているな、厄介だ』

 

『紛い物……とも言い切れんな』

 

ラドラとギリアムの相手をしているアインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDの動きを見てレフィーナの予想は確信へと変った。

 

『ちっ、やりづらい』

 

『……手札を容易に切れんな』

 

ラドラとギリアムのコンビですら容易に動けないと断言した。互いの獲物はビームライフルのみ、それを防ぎ、撃ち、避ける。PTという人型の機動兵器による模範的な戦闘技術、確実に狙って撃ち、攻撃を防ぎあるいは避ける――詰め将棋のような理知的で、そして互いの技量を競う。PTがまだ戦争の為の兵器として開発される前に、1時期だけあった競技としての戦い。互いに切れる札は山ほど残っている、しかしそれを切ってしまえば、相手もそれを上回る札を切ってくる。それが判っているからこそ、ラドラ達は千日手に追い込まれ互いに動けなくなっていた。戦闘こそは激しい、だがそこに倒すと言う意志がない……それは観察する為の、こちらの出方を伺う為の戦いだとレフィーナは判断し、ショーンにどう思うかと問いかけた。

 

「どう見ますか、副長」

 

「そうですなあ、捨て駒でしょうな」

 

自分が考えていた事をショーンに告げられ、レフィーナはある決断を下した。

 

「現在戦闘中の各員に告げます。全力で行動しないでください」

 

はっ? という困惑の声がブリッジに響くがレフィーナはその命令を覆すつもりは無かった。

 

「繰り返します。各員は余力を残し戦闘を続けてください」

 

『ちょいちょいちょい、艦長。どういうこと?』

 

『納得の出来る理由を聞かせてくれッ!!』

 

エクセレンの困惑した声、カチーナの苛立った声。それも当然だ、命がけで戦っているのに指揮官に手を抜いて戦えといわれ、判りましたと言える訳が無い。

 

「敵性存在はこちらの戦力、戦闘パターンを解析している可能性があります。アインストは出現するごとに戦力を増していますが、今周囲に出現している個体はあまりにも弱すぎる、それにゲシュペンストとR-SWORDを模した個体は逃げに回っている事から、本気で戦うつもりが無いあるいは戦況分析をするのが目的だと思われます」

 

これからまだ強くなる可能性のある敵にこちらの手札を全て見せる必要はないとレフィーナはきっぱりとした口調で告げた。

 

『俺もそうするべきだと思う、向こうは様子見を徹底している』

 

『気を抜けとは言わんが5分の力で戦うべきだろう』

 

ラドラ、ギリアムの2人の後押しもあり、その命令に不服そうにしながらもエクセレン達は了解と返事を返した。

 

「……」

 

「艦長、その癖は止めた方がよろしいですぞ?」

 

「あ、え……はい、すみません」

 

知らずに親指を噛んでおり、ショーンに窘められ親指を口から離すが、それでも無意識にレフィーナは親指のツメを噛みそうになっていた。ここで1度気を緩めたら再び引き締めるのは難しい、自分の出した指示は正しかったのか? それに思い悩むレフィーナは戦況を写すモニターを見続ける。4つの陣営による乱戦は始まった時と同じく唐突に終わりを告げた、動いていた無人のゲッターロボは電池が切れたようにその動きを止め、アインスト達は活動限界と言わんばかりにその身体を消滅させ、アインスト・ゲシュペンストとR-SWORDはこれ以上戦っても実入りはないと言わんばかりに転移で姿を消した。

 

『あいつらも逃げただろうし、私も帰ろうかなー。じゃね、今度はもっと本気で戦おうね』

 

そして風神鬼は空中に溶けるように姿を消した。今までの戦いが嘘だったように静寂に満ちる蚩尤塚。誰もが肩透かしを食らったような顔をし、蚩尤塚での超機人を巡る戦いは終焉を迎えるのだった……。

 

 

 

第114話 地獄門 その7へ続く

 

 




今回の話は今まで書いて来た中で1番難産でしたね。龍虎王降臨で書く所終わりましたし、スクラップのゲッターも、2機の特別なアインストもここで決着まで戦えないですし、余力のない状況で生まれているので完全ではない。ここは突然のノーゲームによる終了という終わり方しか思いつかなかった私を許してください。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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