進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第117話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その2

117話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その2

 

連邦本部からのサマ基地奪還命令が下されたハガネとシロガネは周囲を警戒しながらサマ基地への進路を進む。敵影も感知されない安全な航路だったが、サマ基地まで後4時間と言う所でリーは眉を細め、不機嫌そうに口を開いた。

 

「……解せん」

 

「中佐?どうしましたか?」

 

副官からの問いかけに、声に出ていたかとリーは肩を竦めた。サマ基地奪還命令はリーとダイテツの連邦でも上から数えた方が早い指揮官からしても納得の命令だ。だが、スペースノア級を2機運用する必要があるのか?と問われるとリーには納得できない物があった。

 

「今回の作戦――些か納得の行かない部分がある…何故スペースノア級を2機運用する必要がある?アビアノ基地の防衛はどうする?アビアノとサマ基地の距離を考えればスペースノア級なら最大戦速、あるいはオーバーブーストを使用すれば1時間も見れば十分に合流出来る。侵攻に動く際が1番隙が出来る――これでは……」

 

『アビアノが落とされる事を本部が願っているように思えるか?』

 

「……ダイテツ中佐…はい、私にはそうとしか思えません」

 

通信を繋げられていた事に驚いたリーは一瞬口を濁そうと思ったが、考え直し嘘偽りの無い本心を口にした。

 

『確かにな、ワシもそう思う。アビアノ基地は亡きノーマン准将の派閥の基地だ……今の連邦本部には面白く無いだろうな』

 

オペレーションSRWに参加した多くの将は死亡、あるいは退役した。現在の連邦の中枢の多くはエアロゲイターへの投降派や、シュトレーゼマンの派閥が徐々に息を吹き返してきている。それも合わさり妨害工作ではないか?とリーとダイテツは懸念していた。

 

「何故このような状況でも互いの足を引っ張り合うのですか……」

 

『人が集まれば数多の意見が出ると言うことだろう。明確な敵、そして地球の危機という認識が無ければそれは変わりはしないのだろう』

 

未知の脅威が数多確認されていても、明確な侵略行動はアメリカとホワイトスターに留まっており、ノイエDCの台頭が大きく動いていると言うだけで甘く考えている者が多いのが現状かもしれない。

 

『とにかく今は作戦を遂行するしかない』

 

「それは判って……」

 

リーの言葉は最後まで発せられる事はなかった。ハガネとシロガネから警報が鳴り響き、ブリッジがレッドアラートをともす。

 

「何事だ!?」

 

「わ、判りません!レーダーの範囲外からの超遠距離射撃としかッ!」

 

「馬鹿なッ!?そんなことが出来るのは……」

 

『百鬼帝国しかあるまい。リー中佐、進路を変更するぞ』

 

レーダーの範囲外からスペースノア級の装甲を破壊出来るほどの破壊力を持つ狙撃が出来る機体は地球の……いや、人間の技術では不可能だ。サマ基地奪還作戦中に背後から狙撃される訳には行かないとダイテツとリーは進路の変更を決断し、被弾位置から推測された方向へと機首を旋回させるのだった……。

 

 

サマ基地へ続く海辺の市街地に雷神鬼、そして海中に島ほどの巨体を持つ陸皇鬼が待ち構えている無人の市街に雷神鬼の超大型対戦艦ライフルの発射の反動が伝わり、ビルが砕け散り、アスファルトに亀裂が走り、まるで大地震が襲ったような有様だ。だが、その光景を見ても龍玄の心が揺れる事はない。鬼の中でも異常と言える闘争本能を鋼鉄の精神力と冷静な思考で操る龍玄にとってはこの程度で心を揺らすことも、動じる事も無い。

 

「さて、オウカ、ゼオラ。そろそろ出撃して貰おうか」

 

『了解です』

 

オウカからの返事がすぐに雷神鬼のコックピットに響き、陸皇鬼からラピエサージュ、ビルトファルケン、そしてヴィンデルから借り受けたゲシュペンスト・MK-Ⅱとアルブレードの混成部隊が出撃する。

 

「判っていると思うが、今回の戦闘は本戦ではない。あくまで進路をこちらに固定する為の物だ、過度な攻撃は禁ずる」

 

『『『……了解』』』

 

人間味の無い量産型Wシリーズの返答に龍玄は眉を細め、量産型Wシリーズへの通信を切り、ラピエサージュへと通信を繋げる。

 

「オウカ、判っていると思うが今回の作戦はあくまでお前達の物であるという事を自覚してくれ」

 

『……はい、ご迷惑をお掛けします』

 

「気にする事はない、俺もあの下種は嫌いだからな」

 

朱王鬼――龍玄の尊敬する龍王鬼、虎王鬼と同格の鬼ではあるが、その相方の玄王鬼と同様にその性格に難があり、決して好かれるような鬼ではない。龍王鬼、虎王鬼が闘龍鬼、ヤイバ、風蘭、龍玄と従えているのに対して直属の部下は一切おらず、その作戦ごとに使い捨ての部下を運用し、それこそ部下を爆弾等にし殺すような輩だ。鬼でありながらまともな感性を持つ龍玄達が嫌悪をするのも当然であり、家族で殺しあわなければ元に戻らないと聞いていることもあり同情心もある。

 

「別に怒っている訳ではない、ただ目先に囚われて視界を狭めるな。今回はゼオラがどんな反応を見るかのための物だ」

 

『結果が判れば離脱するという事ですか?』

 

「そうだ、だからノイエDCも他の鬼も使っていない」

 

名目としては攻撃を仕掛けサマ基地への進路を固定化させるというもの、この街は重要な拠点でもなければ守るべき場所でもない。ただサマ基地へ続く道として都合がいいから陣取っているに過ぎないのだ。だからこの場所を捨てる事に何の戸惑いも無く、ゼオラの反応次第では即座に撤退するつもりであった。

 

「これで自我を取り戻すのならば、そのまま戻らなくてもいいがな、それは余りにも楽観的だろう」

 

『……良いんですか?龍玄さん』

 

目の前で逃走してもそれを認めると言う龍玄の言葉にオウカは驚きを隠せなかった。

 

「逃げても良いさ、俺は追いはしない。だが戦場で敵として会えば、それはまた別問題だがな」

 

子供を殺すと言うのは龍玄の流儀に反する。そしてゼオラとオウカにも同情する心もある……だからアラドと会い、そしてゼオラの病状に何らかの改善が見られたらあるいは、元に戻ったと言うのならばアースクレイドルに戻らず、アラドと共にこの場を去ってもいいとまで考えていた。それは龍王鬼と虎王鬼も同じであり、だからこそ戦闘に入ればそれ以外の事を考えないヤイバ達ではなく龍玄を配置したのだ。

 

『龍玄さん』

 

「話は終わりだ。来るぞ」

 

感謝の言葉を口にしようとしたオウカの言葉を遮り、龍玄は自分達の目の前に現れたハガネとシロガネを見据え、獰猛な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネとシロガネを狙撃した何者かを撃墜、あるいは退ける為にカイ達は進路を変え、サマ基地の背後に回るように移動して来たが、市街地の中心と海上に陣取る2体の大型百鬼獣を見てカイは眉を顰めた。どちらも武蔵が伊豆基地で応戦した際に出現した個体であり、海中に浮かんでいる巨大な亀のような百鬼獣が戦艦の役割を果たしている事を戦闘記録からカイ達は把握していた。

 

『どうするよ、カイ少佐。こりゃ下手すれば百鬼獣まで出てくるぜ』

 

「判っている、だがここで退く訳にはいかん」

 

『……無茶すんなよ。少佐』

 

修理段階のゲシュペンスト・リバイブの状態は決して良くはない、PTやAMならば問題ないが百鬼獣と戦うには余りにも不安がある。イルムの自分を案ずる言葉にカイは小さく笑った。

 

「心配するな、その程度でどうこうなる甘い経験値ではないわ」

 

修理、整備不全の機体で戦った事もあるカイにとっては問題はないと笑い、アラドに通信を繋げる。

 

「アラド、判っていると思うが単独で突っ込むなよ」

 

『……りょ、了解ッ』

 

了解と返事を返すアラドだが、明らかに気負っている。それを感じ取ったカイはフェアリオンで出撃しているラトゥーニに通信を繋げた。

 

「ラトゥーニ、シャイン王女とアラドのフォローは出来るか?」

 

『……すみませんカイ少佐、私も……アラドと同じ気持ちです』

 

『ラトゥーニとアラドの家族と言うのならば、私も取り戻すのに協力しますわ』

 

ストッパーであるラトゥーニに止まる気配が無く、アラド以上に気負っているラトゥーニ、そしてアラドとラトゥーニに協力すると言うシャインの返答にカイは頭を抱えたが、気持ちはカイにも良く判っていた。

 

「気持ちは判るがまずは様子見だ。前回の二の舞にならないためにもな」

 

ラピエサージュとビルトファルケン。それぞれに家族が乗っている――百鬼帝国に占領されているアースクレイドルで何が起こるか、どんな扱いを受けるか判らない以上早く助け出したいと思うのは当然の事だ。

 

「市街地に陣取っているあの巨大な百鬼獣の武装を破壊するッ!機動力に長けた機体で取り付けッ!アラド達はファルケンの奪還を優先……ッ!全員散れッ!!!」

 

指示を出している最中で雷神鬼の両腕のガトリングが、背部の超大型対戦艦ライフルが火を吹き、カイの散れという指示から数秒遅れて凄まじい轟音が鳴り響いた。それはポセイドン2がハガネとシロガネへと放たれた雷神鬼の狙撃を防いだ音であり、腰を落とし両腕をクロスさせてコックピットを庇う姿勢のポセイドン2から武蔵の声が響いた。

 

『ちっ!カイさん、イルムさん、リュウセイ!オイラはここから動けんぜッ!早いところ何とかしてくれッ!』

 

完全に雷神鬼はポセイドン2を足止めすることに専念しており、装備している火器の殆どをポセイドン2とハガネ、シロガネに向けている。そうなればハガネとシロガネを守る為にポセイドン2は動けず、ブリッジはポセイドン2が守っているお蔭で一撃での轟沈を免れているが、全身火器の雷神鬼の攻撃は凄まじく、E-フィールドを貫通した攻撃によってハガネとクロガネから黒煙が上がる。

 

『ぐっ!E-フィールドも長くは持たんッ!』

 

『短期決戦だッ!5分以内にあの大型百鬼獣の武装を破壊するんだッ!それ以上はハガネもシロガネも持たんッ!!』

 

E-フィールド、そしてポセイドン2によって庇われていてもハガネとシロガネへのダメージは凄まじく、警報が鳴り響く中ダイテツとリーの指示が飛ぶ。

 

「艦長達の指示は聞いたな、まずはあの百鬼獣を行動不能に追い込むッ!イルム、リュウセイ、ライ続けッ!ヴィレッタとラーダはラトゥーニ達のバックアップを頼むッ!」

 

返事を聞いている余裕も、躊躇っている時間も無い。今も雷神鬼からの砲撃は続き、ポセイドン2の装甲を削り続けている。そして防ぎきれなかった砲弾がハガネとシロガネのE-フィールドを貫通し確実にダメージを重ねている。圧倒的な不利な状況、そして敵は強大、最大戦力のゲッターは動けず、時間を掛けていれば母艦が撃墜される――余りにもカイ達にとって不利な状況での戦いが幕を開けるのだった……。

 

 

 

雷神鬼の姿はジガンスクードに酷似しているだけあり、その強固な装甲、そして巨体はそれだけで脅威だった。背中と両肩からは実弾とレールカノン、ビームキャノンが絶え間なく放たれ、胸部、腰部の装甲が展開され砲門が姿を見せると同時に両腕のガトリング砲とシールドが一体化した特殊兵装と共に稼動音を上げ始める。ジガンスクードに迫る巨躯、そして全身の重火器は巨大な要塞のようにイルム達には見え、背中に冷たい汗が流れる。それほどまでの圧倒的な威圧感を雷神鬼は放っていた。

 

『俺の名は龍玄。こいつの名は雷神鬼という、短い間だがよろしくと言っておこうか、人間達よ』

 

地響きを立てながら動き出す雷神鬼と龍玄の言葉にリュウセイ達は思わず面を食らった。パイロットが乗っているのは感じていたが、まさか戦いの前に名乗りをあげて来るとは思っていなかったのだ。

 

「てめえ、あれだな?龍王鬼と闘龍鬼の仲間だな」

 

百鬼帝国の中で何度も対峙している龍王鬼の一派――名乗りからイルムは龍玄も龍王鬼の一派だと判断し、そう声を掛けた。すると雷神鬼から楽しそうな笑い声が響いた。

 

『然り、お前はイルムガルトだな。闘龍鬼と龍王鬼様から話を聞いている』

 

「……もううんざりだよ、てめえらの一派にはよッ!!」

 

圧倒的な戦力を持っている上に、戦闘狂が揃っている龍王鬼の一派にはもううんざりだとイルムは叫び、ブーストナックルを打ち込む。

 

『そう言ってくれるな、長い付き合いになるかもしれないのだからな』

 

防ぐ素振りも避ける素振りも見せない雷神鬼にブーストナックルが命中し、甲高い金属音が響きブーストナックルが弾き飛ばされる。

 

「ちっ、めちゃくちゃかてえじゃねえか!」

 

『見た目通りという事か、リュウセイ続けッ! 俺とお前でかく乱するぞッ!』

 

『了解ッ!』

 

5分という時間は余りにも短い、ポセイドン2自身は耐え切れるがハガネとシロガネが雷神鬼の攻撃に耐え切れない。しかしグルンガストでは雷神鬼も攻撃を避けきれないとR-1とゲシュペンスト・リバイブ(K)が先行し、雷神鬼へと取り付こうとする。

 

『トドメは任せます。イルム中尉、攻め所を見誤らないでください』

 

「判ってる、あーくそッ!こんなの俺のキャラじゃないにも程があるぜッ!」

 

万全な状態のR-1とゲシュペンスト・リバイブならば雷神鬼にも痛手を与えられるが、リュウセイは念動力が不安定な上にロスターを呼び寄せる危険性を考慮し、T-LINKセンサーは起動しないように設定されているので十八番のT-LINKナックルを初めとした念動力を使う武器は使用出来ず、ゲシュペンスト・リバイブ(K)は闘刃鬼との戦いで中破したのを強引に修理し運用しているために万全には程遠いスペックで、被弾すればそれだけで致命傷になりかねない。アーマリオンやエルシュナイデとビルトファルケン、ラピエサージュの混合部隊を抑えるには当然ながらかなりの人数が必要であり、雷神鬼と対峙しているイルム、カイ、リュウセイ、ライの4人に増援も期待出来ない、その上5分以内に背部の砲門を破壊しなければハガネとシロガネが轟沈しかねないと言う圧倒的な不利な状況での戦いにイルムは眉を細める。

 

『良い動きだ、悪くない。だがそれだけでは俺には勝てんッ!!』

 

『くっ!くそっ!攻撃範囲が広すぎるッ!』

 

『リュウセイ!迂闊に突っ込むな!』

 

4倍近い機体のサイズ差があり、雷神鬼からすれば牽制程度のバルカン攻撃もその巨体による横薙ぎと共に放たれれば十分な脅威であり、取り付こうとしたR-1が慌てて後退し、ゲシュペンスト・リバイブ(K)からカイの怒号が飛ぶ。

 

『ターゲットロックッ!ハイゾルランチャー、シュートッ!!』

 

「こいつはどうだ!ファイナルビームッ!」

 

R-2パワードのハイゾルランチャー、そしてグルンガストのファイナルビームが雷神鬼へと迫る。それは並みの特機ならば容易に粉砕する一撃――。

 

『温い、その程度かッ!!!温すぎるぞッ!!!その程度で俺の首を取れると思っているのかッ!!!』

 

バリアでもない、腕で防いだ訳でもない、純粋に装甲だけで一点に集中させたハイゾルランチャーを、グルンガストのファイナルビームを防いだ。しかもただ防いだだけではない、全くのノーダメージで耐え切った雷神鬼の緑の瞳が真紅へとその色を変える。

 

『少し気合を入れてやろうッ!』

 

雷神鬼の全身のから何かが射出された――R-1のモニターに映るそれを見たリュウセイは困惑の声を上げた。

 

『なんだ?棒?』

 

T-LINKリッパーのような刃ではない、ストライクシールドのような半自動で動く武器ではない、ただ無造作に射出された棒だった……何がしたい? とリュウセイだけではない、ライやイルムも一瞬困惑したが雷神鬼が放電したのを見てそれが何かを悟った。

 

『いかんッ!散れッ!!』

 

『もう遅いッ!砕け散れいッ!!迅雷ッ!!!!』

 

雷神鬼から放たれた電撃がR-1達を囲んでいた棒――特製の電極によって増幅され、電撃の檻が作り出される。

 

『うわあああ――ッ!!!』

 

『ぐっ……ぐううううッ!!!?』

 

ライとリュウセイの悲鳴が木霊し、R-1、R-2が共に感電し全身から黒煙を上げる。

 

『イルムガルトぉオオオオオ!!!』

 

「わ、わかってるぅううううッ!!!』

 

電撃で焼かれ、叫び声を上げながらのゲシュペンスト・リバイブ(K)のバックパックから放たれたビームキャノンと、グルンガストのブーストナックルが電極を砕き、電撃の檻を破壊する。数秒の放電だったが、その電圧は凄まじくR-1達は機体の不調を露にしていた。

 

「くそったれ、雷神ってついてるからって電撃まで使うんじゃねえよ。クソがッ!」

 

『ちっ、今のであちこちやられた。イルム、お前はまだ大丈夫か?』

 

「なんとか、グルンガストじゃなきゃお釈迦だった」

 

対電撃の処理を施されているが、それでもR-1は脚部に負荷がかかり、機動力を完全に奪われた。R-2パワードはハイゾルランチャーとR-2のエネルギーパイプが破壊され、ハイゾルランチャーが完全に死に武器になった。

 

『センサーが半分逝かれた、それにあちこち反応が鈍い、なんとかしてみるがすぐに復旧は無理だ』

 

5分――いや後3分を切っている中で機体の不調は絶望的だ。嵐のように放たれる雷神鬼の砲撃は確実にシロガネとハガネ、そしてポセイドン2にダメージを与え続けている――最早一刻の猶予も無い。

 

「了解!俺が何とかするしかねぇって事だなッ!」

 

計都羅喉剣を構えたグルンガストが雷神鬼へと駆け出し、その姿を見た龍玄はコックピットの中で笑みを浮かべほんの少しだけ攻撃の手を緩めグルンガストへと己が半身を対峙させるのだった……。

 

 

 

 

 

存在しない筈のエルシュナイデの後方に浮かんでいる漆黒の準特機ラピエサージュ、そしてその後にいる装甲の一部が改装され、期待の各部が漆黒に染まっているビルトファルケンを見つめ、アラドはビルトビルガーの操縦桿をしっかりと握り締めながら、出撃前のマリオンの忠告を思い出していた。

 

『アルブレード・F型、ビルドラプター改では貴方には操縦しきれないと言う事でビルガーを準備しましたが、調整は6割ほどです。使用できない機能も多数あるという事を覚えておいてください』

 

『具体的にハ、アーマーパージしたらバラバラになるネ!』

 

『それでも15秒は持ちますわ』

 

15秒しか維持出来ない最大加速――それは紛れも無く今のアラドにとっての切り札であった。

 

『オウカ姉様』

 

「オウカ姉さん」

 

『……その声はラトゥーニにそれにアラドね。元気そうで良かったわ』

 

元気そうで良かったと言うオウカの声は疲れ切っていた。それが判らないラトゥーニとアラドではない、血の繋がりはない。だが確かにオウカは2人にとっての姉だった。

 

「今度はちゃんと連れて帰る!オウカ姉さんも、ゼオラもッ!!」

 

『シャイン王女』

 

『ええ、参りましょうッ!!』

 

ビルトビルガー、フェアリオンが宙を舞い、ラピエサージュ、ビルトファルケンへと向かう。

 

『気持ちは判るけど、先行し過ぎに注意して。アイビスは支援を、ラーダは私とバックアップ、コウキ博士はどうかしら?』

 

『はいッ!!』

 

『了解です』

 

『雷神鬼とやらに取り付く、あのデカブツを止めない事にはどうにもならん……とでも言って欲しいか?くだらん茶番だ』

 

時間差で出撃して来たラーダとコウキも加わるが、コウキは茶番と吐き捨てた。

 

『やっぱり……そうなのね?』

 

『沈める気はない、ただの悪ふざけ……いや、違うな。これは慈悲だ、随分と人間味のある鬼がいる物だ』

 

他の百鬼獣の姿は無く、本気で沈めるつもりではなく危機感を煽る攻撃。そしてほぼ棒立ちのエルアインスやゲシュペンストMK-Ⅱを見れば、これが戦いではなく何らかの目的を持って用意された舞台であると言うのは明らかだった。

 

『ッ!!』

 

「ゼオラアッ!!」

 

高速で飛び交うファルケンとビルガー……この場での戦いはファルケンとビルガーの為だけに用意された物だとコウキは判断していた。

 

『伏兵に気をつける事だ。ではな』

 

『ええ、カイ少佐達をよろしく』

 

トマホークを装備し雷神鬼へと向かう轟破鉄甲鬼を見送り、ヴィレッタもゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDを駆る。

 

『やっぱりね、私達は招かれていないって訳ね』

 

『そうみたいですね、一体何が目的なんでしょう』

 

ビルトビルガー、フェアリオンに対しては攻撃を仕掛けないが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDを見るなり攻撃態勢に入るエルアインス達を見て目的はなんだと思いながらヴィレッタ、ラーダ、アイビスの3人はシャドウミラーの機体との戦いを始める。

 

『……』

 

「ゼオラッ!!逃げんなッ!』

 

何の感情も感じられないビルトファルケンをアラドは必死にビルガーを繰り、その手に武器すら持たせず、がむしゃらにその手をファルケンへ伸ばす。それは普通に考えればただの自殺行為――実際ビルトファルケンはオクスタンランチャーの銃口をビルトビルガーへと向け、その指が引き金へと掛かる。

 

『ッ……ッ!!!』

 

『ゼオラ、駄目よッ!』

 

オウカの制止する声が響いたが、それよりも先にビルトファルケンはオクスタンランチャーを格納し、ビルトビルガーに背を向けて逃げる。

 

「ゼオラぁあああッ!逃げるなッ!!俺はいるッ!!俺は生きて!お前の目に前にいるんだッ!!俺を見ろッ!!!」

 

『……ド……ラド?』

 

「そうだッ!俺だッ!俺はここにいるッ!」

 

ぼんやりとしたゼオラの口から、途切れ途切れだがアラドを呼ぶ声がする。それを聞いてアラドは声を上げる、ここにいると繰り返し叫ぶ。

 

『ゼオラ……』

 

『ラトゥーニから話は聞いております。どうか抵抗なさらぬように』

 

『オウカ姉様、ハガネへ、こっちへ来て』

 

ゼオラとアラドのやり取りを見て動きを止めたオウカとラピエサージュをフェアリオンが左右から挟み込み、降伏勧告を告げる。

 

『……アラ……ド……いらないって……私を……いらないって……』

 

「馬鹿野郎ッ!俺がそんな事を言うかッ!ゼオラッ!こっちへ来いッ!!」

 

ビルトビルガーの腕がファルケンの肩を掴んだ。その瞬間だった、ファルケンの――ゼオラの雰囲気が変わった。

 

『いかんッ!!』

 

その変異を感じ取ったのは龍玄だった。朱王鬼の悪辣さを知っているからこそ、第二、第三の仕掛けを用意していると警戒していた。朱王鬼の呪が起動したのを感じ取った龍玄は直撃を覚悟し、雷神鬼を反転させる。

 

『……アラド……アラド……アラド……』

 

「ゼオラ?おい、ゼオラッ!!」

 

『ネェ……アラド……イッショニシンデヨ』

 

ビルトファルケンの黒く染められた装甲から鎖が伸び、ビルトビルガーの首、肩、足に巻きついた。

 

「ゼオラッ!くそッ!まだあの野郎のッ!!」

 

『イッショナラコワクナイノ、ダカラダカラ……イッショニシノウ?』

 

ビルトファルケンの手足から黒煙が上がり始める……それは明らかに自爆の予兆だった……。

 

『ゼオラッ!アラドッ!』

 

オウカが空の上にいる者の中で1番早く気付き、フェアリオンのソニック・スウェイヤーでラピエサージュの装甲をへこませながらも救出に向かおうとし、それに続くようにフェアリオンが弾かれたように動き出す。

 

『許せ小僧』

 

だがそれよりも早く雷神鬼の背中のキャノンが火を噴き、その余波でビルトビルガーとビルトファルケンを引き離す。互いに錐揉み回転しながら墜落するビルガーとファルケンだが、ファルケンはまだその手をビルガーへと伸ばしていた。

 

『アラド……ラド』

 

『オウカ!ゼオラを回収しろッ!』

 

『龍玄さん……はいッ!!』

 

ラピエサージュがビルトファルケンを回収し、そのまま離脱する。

 

「ゼオラッ!行くな」

 

『止まれ小僧、今お前が近づけばあの娘は今度こそお前を殺すだろう。そしてその上であの娘も死ぬ、それでも追うか?そしてお前達もまたこの場で死ぬまで戦うか?それならば相手をしよう』

 

雷神鬼からの言葉にビルトビルガーが動きを止め、圧倒的な威圧感を放ち始める龍玄にリュウセイ達が動きを止める。口振りから戦闘をやめようとしているのを感じ取り、深追いするべきではないと判断したのだ。雷神鬼が手を上げるとシャドウミラーの機体が全て陸皇鬼へと帰還していく。

 

『この場はお前達の勝ちだ、サマ基地にて待つ』

 

『待て、あの娘にお前は何をした?』

 

『……裏切り者の鬼か、1つ言っておくが俺達は何もしていない。あの娘をおかしくしたのは朱王鬼であり、俺達の頭領の龍王鬼様達ではない。なんとか呪を解く事は出来ぬかと思っていたが……どうも相当根深いようだ』

 

「あんたはゼオラを助けようとしてくれているのか?」

 

『助けるというつもりは無いが、心を砕かれたのは憐れと思うし、救ってやりたいとも思うが……それもまた難しかろう。あの娘自身が朱王鬼の呪を覆すか……お前達が朱王鬼を殺さねばあの娘はあのままであろう。それまでは下手に近づかぬほうがいい、それが互いの為になるだろう……俺達の戦いの決着はサマ基地でつけるとしよう。今度はこのような甘い攻撃はせん、本気で、それこそ俺を殺す気で来るが良い。ではさらばだッ!!』

 

音も無く雷神鬼は消え去り、数分の戦いによって作り出された破壊の跡とは思えない市街地にとんでもなく重い空気と共にリュウセイ達が残されるのだった……。

残されるのだった……。

 

 

118話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その3へ続く

 

 




今回はイベントが進めば終了というので考えていたのでここで終わりです。次回は少しインターバルを挟んですぐにサマ基地戦に入って行こうと思います。マシンナリーチルドレン改め、インベーダーズチルドレンの登場ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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