118話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その3
雷神鬼の襲撃によってハガネとシロガネは少なくないダメージを受け、更にはPT隊も関節部等に手痛いダメージを受けていた。
「……作戦を続行せよと言うのだな。レイカー」
『……ああ、総本部はサマ基地奪還を変えるつもりはないそうだ』
レイカーの言葉を聞いてダイテツは深い溜め息と共に背もたれに背中を預ける。雷神鬼がサマ基地で待ち受けている事は確定しており、ハガネ、シロガネはサマ基地周辺に近づく事が難しい。かと言って安全圏から出撃させれば不調を背負っているPT隊ではサマ基地に到着した段階で相当な負担を強いる事になる。
『レイカー司令、作戦開始時間を遅らせる事は可能ですか?』
『リー中佐、すまない。私の方でも努力はしたが……6時間ほどだ』
6時間では機体の修理は万全とは言い切れない、せめて後4時間あればとモニター越しで唇を噛み締めるリーを見ながらダイテツはもう1つ気になっていた事をレイカーへ尋ねた。
「応援はどうだ?」
『……すまない』
一言、その一言で応援もないと悟りダイテツとリーの額に皺が寄る。
「あからさまに妨害行動に出てきたか……」
『成り代わり……だけとは言えないですね』
成り代わりで百鬼帝国が悪いと言えればダイテツとリーもある意味気が楽だが、確実に応援を寄越さないと決めたのも、作戦実行までの時間がギリギリ修理まで間に合わない時間に設定されたのも総本部からの嫌がらせと言っても良いだろう。
『苦しいと思うがサマ基地さえ奪還すれば日本に戻れる。ダイテツ、リー中佐、頑張ってくれとしか言えない私を許してくれ』
その言葉を最後にレイカーの姿は消える。電波妨害で通信が阻害されてしまったというのは明らかだった。
『ダイテツ艦長……我々に打てる手段は1つしか』
「だろうな、了承してくれるだろうが……胸が痛いな」
ライガー2そして鉄甲鬼による地下からの強襲による雷神鬼の無力化、そしてそこからの2機のスペースノア級による突撃――それが今のダイテツ達に打てるたった1つのサマ基地攻略方法なのだった……。
「それでコウキさん。あの龍玄という鬼の言葉は真実なのですか?」
「……正直それに関しては俺には判らん。確かに鬼は通常では考えられない能力を持っている者もいるが……あそこまで人の精神に干渉できる者がいるかと言われると俺には正直判断がつかない」
「コウキでも判らないのか?」
百鬼帝国に属していたコウキならば龍玄の言葉が真実かどうか? 判断がつくと思っていたカイ達だが、良く判らないと言う返答を聞いて何故だ? と問いかける。
「正直に言うと、この時代の人間の精神力は弱い。旧西暦の人間なら……」
「洗脳される前に足にナイフでもぶっさすわな。オイラならそうするし、リョウや隼人なら……うん。自分で自分の腕をへし折るくらいやるんじゃないかな?」
洗脳されるならそれよりも早く、自分で自分を痛めつけて洗脳を振り払うという方法に出るのがデフォルトの武蔵達からすれば洗脳される、操られるというのは余り脅威とは思えないでいた。
「なるほど理解した。搦め手よりも相手より強い力で制圧するということだな」
「判ってくれて何よりだ」
洗脳したと思っていても、何時の間にか自力で洗脳を解除して寝首を掻く機会を窺っていそうな旧西暦の人間と対峙するなら、相手よりも頑丈や力が強いという方面に進む方が確実性が高い。言うならば旧西暦はフィジカルとメンタルに全振りした連中が多すぎたので洗脳等に向かうと言うのがまず少なかったようだ。
「じゃあ龍玄の言う朱王鬼だっけ? あいつを倒せばいいって言うのは嘘なの?」
鬼であるから信用出来ない、あるいはゼオラとアラドの関係を聞いたアイビスの言葉は刺々しい。事実アイビスだけではなく、カイ達も龍玄の情報にそこまでの信憑性はないのではないか? と考えていたが武蔵がその流れを断ち切った。
「んーそれに関してはオイラは少なくとも本当の事だと思うぞ、アイビス」
「仲間割れとかではなくですか? 何か根拠はあるんですか?」
普通に考えれば龍玄の言葉は嘘で対立している相手を殺させようとしていると受け取るのが普通だ。事実ツグミもカイもその可能性が高いと考えていたが、武蔵は朱王鬼を倒せばゼオラが元に戻ると言うのは本当の事だと思うと口にする。
「勘か?」
「まぁ半分くらいは勘ですけど、ほらカイさん。オイラがハガネに合流した時あったじゃないですか」
「ウォーダン・ユミルが初めて現れた時の事か?」
「ええ。その時オイラはユーリアさんと一緒に街を散策してたんですよ。ね、ユーリアさん」
「あ、ああ。情報収集をしていた時だな、そういえばあの時も急に敵襲だと言っていたな、その事と何か関係があるのか?」
警報が鳴る前に敵襲だといっていた事を思い出し、そのことと関係しているのか? とユーリアが尋ねる。
「それも含めて説明しますけど、アラド、ラトゥーニ、お前らの言うオウカって黒髪ロングで、背は高めで、気が強そうに見えるけどちょっと儚そうな雰囲気のある凄い美人の人じゃないか?」
「なんで知ってるんっすかッ!?」
「どこかであったのッ!?」
余りにも特徴を捉えている武蔵の問いかけにアラドとラトゥーニが声を上げる。
「やっぱりか……物凄い落ち込んでるのを見て、なんか日本人みたいだったし声を掛けたんだ。姉妹、姉弟と争うのが辛いって言ってた人の声に似てるなって思ってたんだ。まぁそれは置いておいて、オイラにウォーダンが来るって教えてくれたのが龍王鬼でな、あいつの部下ならある程度は信用できると思う」
「敵なのにか?」
「敵は敵ですけど、一本筋が通ってますし、ある程度は信用出来ると思いますよ。それに独自の信念とかを掲げてるみたいですし、普通の百鬼帝国の鬼とは少し違う感じです」
顔を見合わせ、そしてタイマンで戦ったからこそある程度の人となりは理解していると言う武蔵。
「武蔵がそう言うのならば、そうなのだろう」
「信じてしまうの?」
「武蔵の獣の勘で大丈夫と判断したのなら大丈夫だ、裏があるような男をこいつは信用しない、馬鹿だが人を見る目はあるからな」
酷い言いようだと苦笑する武蔵だが、気を害した訳ではない様子で朗らかに笑う。
「ラトゥーニ。そのオウカって言う人物はどんな人ですの?」
「え? えっとお?」
「私の勘では危険な、そう危険な気がするのですわ」
恋する乙女センサー的な何かでオウカを敵認定しているシャインと目を白黒させているラトゥーニに気付かず武蔵は話を進める。
「オウカさんか、彼女もアラド達の所に来たいと思っているけど、朱王鬼の呪いがあるから思うように動けなくて、それを緩和出来るかもしれない龍王鬼と虎王鬼の元にいるって見て良いと思う。少なくともあいつの下にいるのならオウカさんもゼオラも大丈夫だとオイラは思う、難しいと思うけどオウカさんとゼオラを取り戻すのなら朱王鬼を倒すのが1番早いとオイラは思う」
「つまり武蔵は俺達のオウカとゼオラを捕らえるのは反対か?」
武装解除をして洗脳が解けるまで監視すると言うのが1つの案だったが、武蔵の口振りでは反対しているように聞こえ、イルムがその真意を問いただす。
「反対って言うか危険かなって、えっと……コウキ誰だっけ? ちっこい爺さんの鬼」
「グラー博士か?」
「そうそう、そんな名前だったと思う。あいつが人間を改造した時さ、すげえ馬鹿力だったんだよな。生身で武器もなしでおばあちゃんなのに爬虫人類を殺したし」
武蔵の言葉に全員がギョッとした。訓練もしてない、武器もない、生身の老婆が爬虫人類を殺す……それは到底信じられないことだった。
「グラー博士の研究の1つだな。人間を使い捨ての兵器にする案だった筈……」
「まさかゼオラもそうなってるって言うんですか!?」
思わずコウキに掴みかかったアラドだが、その手がコウキの肩に掛かる前に武蔵が掴んで止めた。
「落ち着け、オイラ達の話はあくまで可能性だ。ただ鬼はそう言う事が出来るって事を考えると……」
「安易に救出するのは危険という事か……」
「むしろ救出させた後に暴れさせるって事も考えられる。龍玄のいう事を鵜呑みにする訳には行かないが……朱王鬼とやらを倒すのが1番ベストだろう。この中で朱王鬼に会った事があるのは?」
コウキの問いかけに武蔵とアラド、そしてラーダが手を上げた。月面から脱出の際に武蔵とアラドは朱王鬼と戦っている。この場にはいないが、リョウトとリオ、そしてリンも遭遇している。
「強いか?」
「かなり、龍王鬼と虎王鬼と同じタイプの百鬼獣で合体して形態を変えます。オイラが見たのは合体した後だから分離形態の姿は判らないです」
「それは俺が判ります。朱王鬼は燃える鳥の姿をしていて、実弾も直接攻撃も殆ど効きません、下手に近づけばPTが溶けるほどの高熱ッス」
「玄王鬼は巨大な亀の姿をしていて、とにかく巨大です。機体的には固定砲台という感じでバリアなども装備していました」
PTでもまともに近づけば溶けるほどの高熱で守りを固めている朱皇鬼、そしてそれと対為す強固な拠点防衛に特化した玄皇鬼。
「合体した後はどんな感じかしら?」
「朱皇鬼が上半身の時は炎の弓と背中の……あれは……なんだろう?」
「レールガンね」
「そうそう、それです。ラーダさん、それと両腕に亀の甲羅型のシールドを装備してて、防御力と射撃能力に特化してる感じです。逆に玄
皇鬼が上半身の時はとにかく早いです、飛行能力も高くてライガーでやっと追いつけるかどうかって感じで」
「龍虎皇鬼と互角って事か……」
「アラド、ラトゥーニ、そんなに泣きそうな顔をするな。絶対にお前達の家族は取り返してやる」
「「はいッ!」」
そんなに泣きそうな顔をするなと笑うカイにラトゥーニとアラドは元気良く返事を返し、そこからはサマ基地奪還作戦へのブリーフィングへと動き始めるのだった……。
アースクレイドルに帰還したオウカはファルケンからゼオラを引きずり出し、血の気の引いた顔で虎王鬼の元へと走った。
「虎王鬼さん! ゼオラ、ゼオラがッ」
「龍玄から聞いてる、早くこっちへッ!」
虎王鬼に促され、オウカはゼオラをベッドに座らせる。今までの人形めいた表情ではない、血の気が引いた、それこそ幽鬼のような顔色でぶつぶつと繰り返し呟いている。
「ラド……アラド……いや、いやだ……捨てないで、捨てないで……いや、いや……」
「ゼオラッ! オウカ、何があったッ」
オウカが鬼気迫る表情で走っていたと聞いて虎王鬼の部屋にクエルボが駆け込んでくる。
「セロ博士。判らない、判らないんです。ゼオラの雰囲気が変わって……もしかしたらと思ったらアラドを巻き込んで自爆しようとして……ゼオラ、手を、駄目よ」
硬く握り締められた拳からは血が滴り落ちていて、オウカがその手を開かせようとするがその手は余りにも硬く握り締められていた。
「手伝おう」
「セロ博士……お願いします」
オウカとクエルボの2人がかりでやっと手を開かせる事に成功したが、その手は真紅に染められていた。
「やだ……やだよ……アラド、アラド……」
「ゼオラ、ゼオラ、しっかりするんだ。僕を見るんだ」
「ゼオラ、しっかりして、私が判る?」
頭を振り、黒く濁りきった瞳を虚空に向ける。今までは形だけだが、クエルボとオウカに反応をしていたが、今はそれすらも無く悪化しているように思えたのだが、虎王鬼は大丈夫と口にし、ゼオラの額に札を貼り付けた。
「大丈夫、大丈夫よ。アラドは貴女を捨てない」
「捨て……ない?」
「そう、捨てないわ、絶対に貴女を迎えに来るわ。オウカとクエルボも、また皆で過ごせるように」
「みん……なで……」
「そう。皆でよ、さぁ……しっかりして、大丈夫よ」
徐々にぼんやりとした人形のような状態のゼオラへと戻るが、先ほどまでの鬼気迫る様相は消えていた。しかしその代りに狂気的な形相でアラドを求め始めた。
「でもでも……アラドが……アラド……死なないと、一緒に死なないと……」
「ゼオラッ! 何を言ってるのッ!」
一緒に死なないといけないと言うゼオラに手を伸ばそうとするオウカを虎王鬼が制する。
「なんで一緒に死なないといけないの?」
「だって……私、私……こんな……性格だから……アラドに嫌われる……いや、いや……捨てないで、離れないで……やだ……やだ……」
強気でアラドを子供のように扱っていたのはゼオラが演じていた性格、本来のゼオラの性格は暗く、そして粘着質とも言えるアラドへの執着心が根底にあった。
「大丈夫よ、落ち着いて。ね? 大丈夫よ、ほら。少し寝たら気分が良くなるわ」
「……あ」
虎王鬼がゼオラを抱き締めて、その頭を撫でる。最初は抵抗していたゼオラだが、徐々にその抵抗が弱まり、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「ふう、これで当面は大丈夫。また人形状態だけど、自傷行為しようとはしないはずよ」
虎王鬼の言葉にオウカとクエルボは安堵の溜め息を吐いて、2人とも揃って腰から崩れ落ちた。
「何が……ゼオラに何があったんですか?」
「多分だけど朱王鬼の最後の罠って所ね、ゼオラの執着心とか依存心を媒介に術を掛けていたみたいだから……アラドだっけ? 彼に近づける事がゼオラを元に戻す鍵であると同時に全てを終わらせる事にもなるかもしれないわ」
「元に戻るか、アラドと共に死のうとすると?」
外れていて欲しいとオウカは願ったが、虎王鬼は目を伏せて頷いた。
「なんとか、何とかならなんですかッ!」
「……朱王鬼が死ぬか、それともゼオラが自力で術を解除するか……あたしにはもうこれ以上は出来ないわ。ごめんなさい」
虎王鬼はあくまで防御や幻術に特化した能力者であり、洗脳などに特化している朱王鬼には一歩劣る。自傷行為を封じ、今の壊れてしまいそうなゼオラの心を守るのが虎王鬼に取って出来る最善であり、最後の手段だった。
「またゼオラがおかしくなったら教えて」
「……はい、ありがとうございます」
泣き崩れるオウカに居た堪れなくなった虎王鬼は部屋の外に出て、怒りに任せその拳を通路に叩き付けようとした。
「止めとけ、虎」
「龍……あ、あたし……」
「大丈夫だ、お前は悪くない」
「助けて……助けてあげたかったの……」
「判る、判るさ俺様だってそうだ。だけど……もう俺達には出来る事はねえんだ」
泣き崩れる虎王鬼を抱き締めて龍王鬼も天を仰いだ。鬼でありながらも、その性質が余りにも人間に近い龍王鬼と虎王鬼は己の無力さに唇を噛み締め、そして余りに酷な道を進む事になるオウカ達に心から同情し、朱王鬼への怒りを抱くのだった……。
許可を得た人間しか入る事の出来ないイーグレットの専用ラボでは苦しそうに呻く女の声が響いていた。
「もう少し静かに出来ないのか? アギラ」
「……殺して……殺してやるうッ! イーグレットぉぉおおおッ!」
龍王鬼によって殺され、マシンナリーチルドレンの技術と百鬼帝国のクローニング技術によって新しい肉体を与えられたアギラだが、肉体と精神の差、そしてクローンの肉体という事も相まって薬を定期的に飲む必要がある。
「あがああッ!! あああああッ!!」
薬の効果が切れた痛みは筆舌にしがたく、血反吐を吐き、喉を掻き毟りながら苦しみ、自分をこんな目に合わせているイーグレットと朱王鬼への怒りを燃やす。
「だから何度も言っているだろう? 俺が悪い訳ではない」
「ががががあ……」
「聞こえてすらいないか、やれやれうるさくて叶わんな」
龍王鬼との取引で得たプロトゲッターロボの解析をしているイーグレットは意味不明の叫び声を上げるアギラを見て、めんどくさそうに眉を細める。
『んん、そろそろ良いかな。これ以上は死んじゃうから薬を打ってあげてくれるかい?』
「判りました」
苦しみアギラを見て恍惚の表情を浮かべていた朱王鬼に促され、イーグレットはめんどくさそうに立ち上がり首筋に無造作に注射針を撃ち込む。その中の薬剤が投与されたアギラは大きく目を見開き、その場に崩れ落ちて動かなくなった。
『イーグレット、そろそろ君の子供達も動かせるのだろう? 働きっぷりを僕に見せてはくれないのかい?』
「それは出来ない」
『何故だい? この僕が言っているのに?』
モニター越しに威圧感が増すが、イーグレットはどこまでも冷静に、そして平静を保っていた。
「龍王鬼にゲッターロボを融通して貰った。アギラに勝手をさせないこと、そして俺の子供達を出撃させない事を約束した」
『……対価がないって事か、強かだ』
「お褒めに預かり光栄だ」
月にいてイーグレットが何をしても対価を得れない朱王鬼の言う事を聞くよりも、龍王鬼から先物で物を貰っているのでそれを優先すると言うのは当然の事だった。
『ではこうしようか、イーグレット博士』
「これはッ! ブライ議員。お元気そうで何よりです」
朱王鬼とイーグレットの間に割り込んできたブライの声を聞いて、イーグレットは立ち上がり頭を下げる。ブライはコーウェン、スティンガーに次ぐイーグレットの大事なスポンサーである、朱王鬼とは対応が変るのは当然の事だった。
『連邦にサマ基地を使われると私達にとっては都合が悪いのだよ。連邦……いや、ハガネとシロガネにはもう少し足踏みをして貰いたい』
「……それでしたのならば龍王鬼達に指示を出せばよろしいのではないでしょうか?」
『ふっふ、お前は慎重だな。勝ち戦にしか自分の子供を出したくはないか?』
ブライの言葉にイーグレットは眉を細める。完全に図星だった、これがハガネだけならば良いが、ゲッターロボがいる。それを知っていればまだ不安定な子供達を出す訳には行かないと思うのは当然の事だ。
『君の子供達を守る為に共行王に頼んでもいい、何、簡単な仕事じゃないか。サマ基地の設備を破壊して、ほんの少しその力を私に見せてくれればいい』
ブライの言葉は麻薬のような物である。長い間議員とし、人を救って来たのは紛れも無くブライだ。だが記憶を取り戻す前のブライである、善と悪、光と闇、それを使いこなしてきたブライは的確に人の弱点を、人の妥協点を見出す。
「しかし、ブライ議員。今の機体状態を考えるとそこまで大きな活躍は出来ないのです」
『百鬼獣、ゲッター炉心、合金、そしてマシンセルを組み込んだ君の頭脳を私は高く評価している。失敗もするかもしれない、だが実働データがなくては改良案など判るまい? 護衛がつくんだ。これほど安全なものはない違うかい?』
「……ですが」
『君はとても誠実な男だ。龍王鬼との約束も守らなければならないと思っているのだね、ではこうしよう。サマ基地を万全な状態で連邦に渡さないように後詰を君に頼むと龍王鬼と話を付けよう。それならどうだい?』
妥協案であるが、それがどこまで本当なのかとイーグレットは不安に感じる。だがこれ以上渋れば自分の命が危ないとイーグレットは感じていた。アースクレイドルは実質百鬼帝国の拠点だ、そこにいる以上鬼はあちこちにいる、そんな中で何時までも断り続けられるほどイーグレットは豪胆ではなかった。それにスポンサーの機嫌を損ねれば研究も出来なくなるという恐怖もあった。
『大丈夫。私は嘘はつかない、さぁ君の返事を聞こう』
「……判り……ました」
それが最後通告だとイーグレットは本能的に悟り、ブライの甘言に頷いだ。
『それは良かった。ではすぐに龍王鬼に話を付けよう、では期待しているよ。イーグレット君』
優しげな口調だが、これに失敗すれば自分の首はない。断っても死、成果を上げれなくても死……余りにも絶望的な命令にイーグレットは不安と恐怖を抱きながらも基地の設備を破壊するだけならば問題はないはずと自分に言い聞かせ、研究室を後にする。
「「「パパッ!」」」
「アンサズ、ウルズ、スリサズ。お前達に仕事を頼みたいんだ。なに、そんなに難しい仕事じゃないんだが、俺の話を聞いてくれるか?」
イーグレットの役に立てると喜びに目を輝かせるマシンナリーチルドレン達。その姿が15歳前後と言う事で愛らしさもあったが、その目はどす黒く濁り、子供特有の悪意無き邪悪さをその身に宿しているのだった……。
インスペクターとの交渉から戻らないブライ議員の救出及び交渉任務を与えられたニブハルはホワイトスターとの通信による交渉に挑んでいたのだが、その任務自体が罠であると知ったのは通信が繋がってすぐの事だった。ウォルガのウェンドロ・ボルクェーデ、そしてブライの2人が揃っているのを見て、流石のニブハルもその顔を驚きに歪めた。
『そんなに驚く事かね? ニブハル。それともワシが死んでるほうが都合が良かったかな?』
「いえいえ、とんでもありません。無事で何よりです、ブライ議員」
ニブハルとてブライが百鬼帝国の首領という情報は掴んでいた……と言うよりも記憶を取り戻したアルテウルから情報を与えられていた。しかし、こうしてウェンドロとブライが和やかにお茶会をしている光景は想定外だった訳だ。
(しかし何故……)
ウェンドロからすればブライは下等な野蛮人であるはず……何故こうしてお茶会をしているのかと困惑しているニブハルにウェンドロは挑発するような笑みを浮かべた。
『へぇ、知らないんだ。それとも教えてあげてないのかい?』
『2枚舌、いや、4枚舌の男をワシが信用すると思うのかね? ウェンドロ。お前は確かに腹に一物を抱えているが、根底は1つ。ゆえに好感が持てる。だがこいつは駄目だ、ゾヴォーク、バルマー、ウォルガ、そしてワシ。どの陣営にも耳当たりの良い言葉を口にする。信用には値しない』
隠していた、あるいは口にしていなかったことまで言い当てられた事にニブハルの額に汗が浮かんだ。いやそれよりもだ、ブライの1人称は私だったはず、それがワシに変わっている事に気付き、何かが違うとニブハルはやっと悟った。
『彼はダヴィーンの使者だよ、ニブハル』
「そ……れはッ」
『ほう、お前でも動揺するか? んん? 我らダヴィーンの技術を奪い、高く売ったお前の祖先はとても良い仕事をしたなあ? なぁ? ニブハルよ』
ニブハルの祖先はダヴィーンの技術を奪い、それを売り払う事で富を得て当時では破格の地位を得た。だが中途半端な技術と知識による暴走事故で没落、その後ゾヴォークは彼らの中でも異形とされるダヴィーンに頭を下げバイオロイドなどの技術提供を受け、ダヴィーンをゾヴォークでも優遇する必要があったという過去がある。それ故にダヴィーンの名を持ち出されては動揺するなというのが無理な相談だった。
「ブライ議員、確かにそれは私の祖先のした事。ですがその子孫として私に出来る事があれば何でも致しましょう」
『相変わらず耳当たりの良い言葉を口にする奴だ』
そうは言いつつも笑うブライにニブハルは自分の言葉が間違って無い事を察した。
『それよりもブライ。ゾガルにかんしてこいつが知ってるなら僕はそれを知りたいなあ』
『気持ちは判るがね、シュウ・シラカワに迎撃されて慌てて逃げたゼゼーナンからこいつは何の報酬も得ていない。どうせ持ってる情報なんて、我々とそう大差ないさ』
馬鹿にされていると言うのは判っていた、それでもニブハルは表情を変えず申し訳ありませんと口にし、ほんの少しだけ意趣返しが出来そうな2人が手にしていないであろう情報を口にした。
「そういえばご存知ですか? 南極で聖騎士団の遺物が発見されましたのは」
ピクリとブライとウェンドロの眉が僅かに動いた。これはニブハルにとっても想定外だったのだが、アルテウルの命で南極のリ・テクの査察に赴いた際にそれを見つけた。
「皇帝の痕跡もありましたよ。さてさて、地球は一体なんなのでしょうね?」
ダメ押しに皇帝の名を口にする。聖騎士団、皇帝の2つが意味するものをブライとウェンドロが知らないわけが無い。
『ふぅん……嘘ではなさそうだね、どう思う?』
『ありえぬ話ではない。ワシではないワシはゲッター線の中へ帰った、皇帝もそして破滅の王の事もあながち間違いではなかろう』
『君ではない君ってどういうことさ?』
『ブライという鬼が、人間が歩む可能性は1つではないと言うことだよ。ワシはゲッター線に協力するなど死んでもごめんだが、どこかのワシはそれに取り込まれることを良しとしたのもいると言うことだ』
世界は巡る、そして様々な姿、結末を迎える。ブライの語ることもその1つであり、そしてニブハルが見つけた物もその過程の1つだ。
『ますます地球をほっておけなくなったね。ニブハル、話を聞く気になったよ。態々通信して来た理由は何かな?』
やっと交渉、いや。同じ目線に立つ事が出来たとニブハルは小さくほくそ笑んだ。
「私が受けた命令はブライ議員の安否確認です。ですが、当然私の目的はそれだけではありませぬが」
『ワシが生きている事でそれは達成出来たようだしな。それで、オペレーション・プランタジネットの事か?』
「……その通りです」
こっちが切るべき札がブライの手によって切らされる事にニブハルは少しの苛立ちを覚えたが、どちらも大狸。その程度でイラついている場合ではないと小さく溜め息を吐いた。
『そう言えば、ブライは連邦とノイエDCを手を組ませて僕達と戦わせるつもりらしいけど、なんでそこまであんな幼稚で愚かな生き物に気を掛けるんだい?』
ウェンドロの問いかけにブライはティーカップをソーサーの上にお気、ウェンドロに向かってたしなめるように口を開いた。
『お前は確かに優秀だが、結論を急ぎすぎる。愚かで幼稚だからこそ利用しやすいのだよ』
『そんなものかな? 僕には判らないなぁ』
『1人の賢人には限界がある、愚かであれ、光る物があればそれを伸ばし、利用する。自分1人ではなく、相手を利用する事を覚える事もまた君主に必要なことなのだよ』
その短い会話ではニブハルは何故ブライとウェンドロが和やかに会話をしていたのかを理解した。優秀な頭脳を持つ子供を更に育てようとするブライと、子供扱いされていることに反発しながらもブライの頭脳と君主としてのあり方に一定の興味と理解を示しているウェンドロ……互いに敵同士ではあるが、それ故にどこか共感出来る部分もあり。歪ではあるが、師弟関係のような物があるのだろう……だがどちらも戦いが進めば互いが邪魔になる。それでも一時でも手を組んでいるのはそれだけゲッターロボを恐れているからに違いないとニブハルは感じていた。無論それを指摘すればニブハルの首は物理的にも、そして政治的にも跳ぶことになるだろう……だがそれであるからこその好機なのだ。ゲッターロボという明白な脅威……そして聖騎士団の遺物――ブライやウェンドロが脅威であると考える物がある。力も知識もニブハルよりもブライ達の方が上だ、だがこの件に関してはニブハルでなければ出来ぬ事がある。
「情報が判り次第、かならずお伝えします。ですから……」
『殺すなと、ふん、良かろう。ではまずは今のプランタジネットの状況を聞こう。次に聖騎士団の遺物が見つかった事に関する詳細もな』
『その内容次第でブライとどう言う風に立ち回るか決めるから、虚偽や謀ろうとすればどうなるか判っているだろうね』
ブライとウェンドロからの強烈なプレッシャーを受けながらもニブハルは微笑む。ホワイトスターを根城にしているウェンドロ、そして地球に帰れば慈善事業をしているブライ――その2人に入手出来ない情報を手に入れることが出来る以上自分の身は安泰、その後はアルテウル、ブライ、ウェンドロの間を今までと同じ様に立ち回ればいい。
「それではまずハガネとシロガネに関してですが……」
最もブライ達が欲するであろう、シロガネとハガネ、いや、ゲッターロボと武蔵の事をニブハルはゆっくりと語り出すのだった……。
119話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その4へ続く
プレイ動画ですが、MDを見始めたのでフューリーも少し触れてみるテスト。正し全部まだ見切れていないので、解釈違い、設定違いの危険性があるのでルイーナと戦っていたの所だけを使おうと思います。次回はサマ基地そしてインベーダーズがヒャッハーして生まれたマシンナリーチルドレンの初陣を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
後スパロボDDにSRX実装はめでたいけど期間限定オンリーは酷い
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い