進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第120話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その5

第120話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その5

 

ベルゲルミル・タイプGのコックピットの中でウルズは眉を顰めていた。

 

「アンサズ、スリサズ。何をしている」

 

『何を? サマ基地を使えなくしろって言うパパの頼みじゃないか』

 

『僕達はそれを遂行しただけだ。何で責められる謂れがあるのさ』

 

共行王に厳しく躾けられたのにも拘らず、まだ反逆心を持っているアンサズとスリサズは共行王も炎の中に消えた事に溜飲を下げたようだが、それに対してウルズは冷静に不味い事になったと考えていた。

 

(百鬼獣は獣だ。そんな相手にも攻撃を仕掛ければどうなるかなんて簡単に判る筈だろう)

 

自分達を痛めつけた共行王に軽い反撃をしてやろう程度の気持ちだっただろうが、それが不味い事になったとウルズは感じていた。それもそのはず、龍王鬼はウルズ達の出撃を認めはしたが、それ以上は何もしないと言っていたのだから……。

 

『大帝様に話は聞いてる。出撃はかまやしねえが、俺様から言う事はないぜ? ちゃんと俺の名前を出して龍玄に連絡くらい入れろや? 進化した人類っつうなら簡単だよな?』

 

龍王鬼から連絡を入れさせようとしたウルズだが、アンサズとスリサズがこの安い挑発に乗ってしまい必要ないと言ってしまった。つまり今のウルズ達の状況はノイエDCの救援という扱いではあるが、敵・味方関係なく攻撃して来た乱入者である。

 

「やっぱりな……」

 

煙を引き裂いて飛んできた電撃と、斧、そして鱗の嵐――攻撃を予測していたウルズはそれを急上昇することで避け、マントで機体を包み込み防御姿勢に入る。

 

『ぐっ、なんで僕達を攻撃するんだ!』

 

『僕達はマシンナリー……『小僧共、躾が足りんようだったなあ』ッ!!』

 

共行王の怒りに満ちた声にアンサズとスリサズが息を呑んだ。馬鹿がと内心で吐き捨てながら共行王にウルズは通信を繋げる、

 

「ゲッターから引き離す為の攻撃でした。お許しを」

 

『お前は口を開けば許せ許せばかりだな、他に言う事はないのか?』

 

呆れた様子の共行王の言葉にウルズはすみませんと謝罪の言葉を口にする。

 

「アンサズとスリサズは稼働時間が短く状況判断能力が甘いです。ゲッターに組み付かれている貴女を見て動揺したのです」

 

苦しい言い訳というのはウルズでも判っている。だがそれでも口にしないわけには行かなかった……共行王はふんっと鼻を鳴らしその首をゲッターロボに向けた。その姿を見て許して貰えたと安堵したウルズだが、次の言葉に肝を冷やす事になった。

 

『アンサズ、スリサズ。少しはまともな成果を上げて見せよ、優秀な人間というのならば出来るじゃろう? もし出来ぬのならば喰らってやろう。なに死ぬことはない、お前らが死なぬ程度溶かし続けて苦しめてやろうぞ。くふふふふ』

 

その言葉を最後に共行王からのテレパシーによる通信は途絶えた。

 

「と言う訳だ、アンサズ、スリサズ。死ぬ気で頑張るといい」

 

『ウルズ。僕達を見捨てるのか?』

 

『自分だけ助かるつもりか?』

 

アンサズとスリサズの言葉にウルズはやれやれと呟いた。

 

「共行王はお前達を指名した。僕が協力すれば、戦果を上げても許して貰えないかもしれない。それでも良いなら協力しようか?」

 

アンサズとスリサズはたった2人で連邦、ノイエDC、百鬼獣と戦う事になる。それがアンサズとスリサズの行なった行動によって生まれた責任だとウルズは突っぱねる。

 

「文句を言っている間も、責任転嫁をしている時間も無い。敵は待ってくれないのだからね」

 

ベルゲルミルへと攻撃が集中し始め、アンサズとスリサズはウルズに文句を言う余裕が無くなり、そちらに集中し始める。サマ基地での乱戦を上空からウルズは見下ろし、イーグレットからのもう1つの命令――ゲッターロボの戦闘データの収集を始める。

 

(まだ出力が不安定で実戦に耐えれるレベルではない……もっと上手い使い方を学ぶとしよう)

 

ベルゲルミル・タイプGはゲッター炉心で稼動しているが、出力は不安定でサブ動力程度の価値しかない。ゲッターノワールは暴走状態なので参考にならず、安定稼動しているゲッターD2の戦闘データを取る事でより安定した運用を可能とするために、ウルズはアンサズとスリサズの2人を切り捨てる事を視野に入れるのだった……。

 

 

 

 

共行王と戦うゲッターD2の姿は既にサマ基地の近くに無かった。互いに100mに迫る特機である、それは下手に戦えば味方を巻き込むことになると武蔵はサマ基地から離脱することを選び、そして共行王もまたウルズ達を見ていると苛立って殺しかねないと考え武蔵とタイマンで戦える環境を求めた。意図した訳では無いが、2人ともサマ基地から離れる事を選んだ。

 

「くふふふ、お主の意図に乗ってやったぞ。進化の使徒よ、本気で戦おうぞ」

 

『進化の使徒、進化の使徒、どいつもこいつもなんだぁ、そりゃあ。オイラは巴武蔵だッ! 進化の使徒なんかじゃねぇッ!!!』

 

連続で振るわれるダブルトマホークの鋭さがサマ基地にいたときとは段違いの速さになっているのに気付き、共行王は満足そうに笑った。

 

「甘い男だ。味方を巻き込むのが怖いか?」

 

『ぺらぺらと良く喋る蛇だなッ!! 蛇は蛇らしくしゃーっとでも言ってろッ!!!』

 

「無粋、不敬、だが悪くない。お前は私の敵なのだからなッ!!」

 

鱗を飛ばし、口から高密度に圧縮した水の刃を飛ばす共行王。ゲッターD2はダブルトマホークを盾にし、接近しようとしたがその足を止めさせられた。

 

『マジか……』

 

「くふふ、私の知るゲッターより強いようじゃが、まだまだじゃな」

 

ダブルトマホークを中ほどまで切り裂かれた事に武蔵は驚きを隠せず、共行王もまたダブルトマホークごと、ゲッターD2を両断するつもりだったのが獲物を切り裂くのに留まったことに驚いていた。

 

(さて、どうしたものか)

 

子守を頼まれていたが、あんな我侭で恥知らずで礼儀も知らない餓鬼の面倒を見るのは共行王にとっては不快でしかなかった。その上ガワは人間でも中身がおぞましい化け物となれば歪であったとしても神として人間を守ると言う気位を持つ共行王にとっては排除するべき敵に見えていた。迷いは一瞬で、共行王は目の前のゲッターD2を敵と見定め、本気で狩りに出た。

 

「戯れじゃ、この程度で死んでくれるなよッ!」

 

『ちいっ!』

 

蛇の身体と言うのは全身それ筋肉であり、その瞬発力は驚異的だ。毒蛇は瞬発力、毒をもたぬ蛇は持久力と膂力を兼ね備えている。そして蛇をモチーフにした共行王もまたその瞬発力と膂力、そして持久力を兼ね備えた存在であった。

 

「避けるか、良いぞ良いぞ」

 

瞬きの間に放たれた3連撃を受け止め、受け流し、あるいは避けるゲッターD2を見て共行王は喜びを感じていた。今までアースクレイドルにほぼ軟禁状態であり、ブライからの頼みが無ければ外に出れぬ。しかも不完全な身体とフラストレーションを溜めていたが、本気で倒しに行っても簡単に倒せないゲッターD2に喜色を抱いていた。

 

「それそれ、抗って見せよ。私を楽しませて見せよ」

 

噛みつきと尾による打撃、1体でありながら多角的な面攻撃を繰り出しゲッターD2を攻め立てる共行王。

 

『へっ! インベーダーと比べりゃてめえは馬鹿力なだけだぜッ!』

 

「破壊魔と同じ扱いにされるのは些か不快じゃなあ、じゃがまあ……私を楽しませているから許してやろう!!」

 

ダブルトマホークでは追いきれないと判断したのか徒手空拳で打ち伏せ、時に払い、時に掴む。音速に迫る一撃を目で見てから避けるというのは不可能だ。それを可能としている武蔵に共行王は異形の身体の奥、心臓部に潜む霊体の人間の身体で笑みを浮かべた。

 

「ああ、こんなに楽しいのは何時振りかッ!!」

 

『なんでドイツもこいつも戦闘狂かねえッ!!!』

 

ゲッターD2の剛拳が顔面を穿ち、激しい痛みが走る。だがそれすらも今の共行王には喜びだった、失った身体を取り戻しバラルに復讐出来ると思えば身体は不完全、漸く外に出れたと思えば重力の魔神に一蹴され、スクラップ寸前のゲッターロボを回収しただけ、しまいには人とも思えぬ化け物の御守と不平不満ばかりが募っていたが、本気で殺しに行ってもそれを避け、反撃してみせる武蔵に興奮を隠し切れなかった。

 

「そらそらそら!!」

 

『ちっ! 小細工ばっかりしてきやがって!!!』

 

「はははははッ! お前を見極めているのさッ!」

 

鱗を飛ばし、水の使い魔を召喚し、雨を降らせ氷の礫を、水の槍を、共行王に持てる全ての術を、攻撃手段を駆使してゲッターD2を攻め立てる。単独操縦で、しかも扱いきれないゲッターD2という事もあり、攻撃の手札が圧倒的に増えている共行王の攻撃を捌き切れず徐々に被弾が増してくる。だがそれと同時に攻撃の間合いを確実に武蔵は掴んでいた。

 

『そこだあッ!!!』

 

「ぐうっ!?」

 

一瞬の隙を突いて放たれた頭部ゲッタービームの速射が口内に飛び込み炸裂し、共行王は苦悶の声をあげ、口から煙を吐き出して大きく仰け反る。

 

『ダブルトマホークッ!!!』

 

そしてその隙を武蔵が見逃す訳が無く、ダブルトマホークで切りかかり共行王の胴体に深い切り傷を刻み付ける。攻守が逆転し、攻撃に打って出るゲッターD2に共行王が今度は防戦に回る。

 

『おせえッ!!!』

 

「ぎっ!? くふふふ……いやはや、少し甘く見ておったなあッ!」

 

攻撃の間合い、予備動作を完全に読まれている事を共行王は悟り、濡らした地面と空からの水の槍を同時に放ち、1度強引に距離を取りその身体を地面へと溶け込ませる。

 

『逃げるのか!』

 

「逃げる? まさか、ここから面白くなるというのに! 誰が逃げるものかッ!!」

 

再び地面から姿を現した共行王の姿は蛇ではなく、人型へと変っていた。深みを帯びた青色に女性的なシルエットの細身の身体、そしてその手に三叉の槍を握り締め、緋色の髪を翻しゲッターD2の前に立ち塞がる。

 

「くふふふ、この時代の人間で私の本当の姿を見たのはおぬしが初めてじゃ、早々に死んでくれるなよッ!」

 

『はやッ! くそッ!』

 

地面を蹴ると同時に恐ろしい速度で肉薄し槍を振るう共行王、想像を超える速さに武蔵は一瞬驚きはしたがすぐにダブルトマホークを振り上げ、槍を受け止める。

 

「それそれそれッ!!」

 

『なろッ! 舐めんなッ!』

 

ダブルトマホークと三叉の槍の音速を超えた斬りあいは周囲の地形を変え、山を崩し、大地を崩壊させる。しかしそんな事は共行王と武蔵の戦いには何の障害にもならず超常の存在同士の戦いは時が経つに連れその激しさを増させて行くのだった……。

 

 

 

 

サマ基地から遠く離れた場所から響く凄まじい激突音、それがゲッターD2と共行王の戦いが続いている証拠だった。しかしカイ達は誰も救援に向かわなかった……いや正しくは向かえなかった。武蔵と共行王の戦いに割り込める存在がいるとすれば轟破鉄甲鬼やゼンガーの駆るグルンガスト参式・タイプGクラスの特機で無ければ駄目だ。PTやAMでその戦いに割り込もうとすれば余波だけで機体は破壊される、もっと言えば武蔵が守る為に動き武蔵を追詰める事に繋がる――悔しさに歯を噛み締め、カイ達はサマ基地奪還作戦を続行する道しかなかった……だがゲッターD2が抜けた事で、再び戦況は混迷を極めていた。

 

『ちいッ!! ちょこまかちょこまかと鬱陶しいぞッ!!』

 

『ぐうっ! 俺の邪魔をするか小童共ッ!!!』

 

『ははははははッ!! 遅いよッ!! そらそらそらそらッ!!!』

 

サマ基地を焼いた正体不明の3体の機体の内の2体は連邦、ノイエDC、百鬼帝国お構いなしに攻撃を仕掛けてきている。どちらかに意識を向ければ不意打ちで背後から撃たれる乱戦状態なので別の機体に意識を向けている間に攻撃しようにも、後に目があるような異様な反射速度で攻撃を回避する……そのカラクリをカイ達は知っていた。忌むべきDC戦争の最中に生み出された狂気のシステム――。

 

『ゲイムシステムフルコンタクトッ!!!』

 

『あはははははッ! お前達の攻撃なんか当たるかよッ!! 死ねッ!!!』

 

ゲイムシステム――パイロットを機体のパーツとする。アードラー・コッホが作り出したマシンインターフェイス――カイにとってはかつての友を狂気に落とした憎むべきシステムであり、シャインにとっては恐怖の象徴であった。

 

『ゲイムシステム……ッ! 何故あれがッ』

 

『信じられない……あのパイロット。ゲイムシステムを完全に使いこなしてるッ!? くっ!!』

 

縦横無尽に戦場を駆け、目に付くものに攻撃を仕掛けてくる2機のベルゲルミル。その圧倒的な攻撃と機動力にハガネのPT隊は徐々に後退に追い込まれていた。

 

『追いつけないッ! アステリオン並みの機動力があるって言うのッ!』

 

『ふふふ、君達のガラクタとベルゲルミルを一緒にしないで欲しいな』

 

アステリオンがベルゲルミルを追い、無差別攻撃を止めさせようとするがベルゲルミルの機動力が高く、後一歩の所で追いつけないでいた。

 

『下等な旧人類が僕に攻撃しようなんて許されるわけが無いだろう?』

 

『あ……』

 

ベルゲルミルが手にしていたライフルがアステリオンへと向けられる。完全にロックオンされており、アイビスはアステリオンが撃墜され、自分が死ぬ光景を幻視した。しかし引き金が引かれる前にサマ基地から放たれた雷撃がベルゲルミルを弾き飛ばした。

 

『何をする龍玄ッ! 僕が何者か知っているだろう』

 

『知らんな。偉そうに、何様のつもりだッ!! 迅雷ッ!!!』

 

『耄碌したかジジイッ!!!』

 

『貴様が何者か等と知るかッ! 攻撃を仕掛けて来たということは貴様も俺の敵だッ!!』

 

雷神鬼から放たれたビットが雷撃を放ちながらベルゲルミルを追い回し、アステリオンからベルゲルミルを引き離す。

 

『助けて……くれた?』

 

完全に撃墜されるタイミングだった。雷神鬼の攻撃が無ければアイビスは確実に死んでいた……それゆえにアイビスは龍玄に、鬼に助けられたと言う事に驚きを隠せなかった。

 

『何を呆けている! 死にたいのか!』

 

『コウキ博士ッ! すいませんッ!』

 

助けられたと呆然としている間にガーリオンのレールガンの照準が再びアステリオンを捉えており、レールガンが発射されるというタイミングで冷却から回復した轟破鉄甲鬼が支援に入りアステリオンを狙ったガーリオンは機首を反転させ……自ら勾玉に突っ込み爆発炎上した。

 

『ッ』

 

脱出装置が起動した素振りが見えず、目の前で人が死んだと理解したアイビスが声にならない小さな悲鳴を上げた。

 

『落ち着け、戦場だ。誰が死んでも不思議じゃない、あの気狂い共がいれば死人はもっと増える』

 

轟破鉄甲鬼のカメラアイがベルゲルミルに向けられた。背中から射出された勾玉が雷神鬼のビットを破壊し、手にしたライフルが雷神鬼の装甲を穿つ。

 

『ここであいつを落とす。アイビスはライとレオナと協力して支援してくれ、単体では追いきれんッ!』

 

マントを翻しベルゲルミルに肉薄する轟破鉄甲鬼とサマ基地から放たれる雷撃――ベルゲルミルを前に敵や味方と言うのは無く、コウキと龍玄はベルゲルミルのパイロット――スリサズを生かしてはいけないと判断し、互いに何も言わずにベルゲルミルを敵と見定めていた。

 

『追いつくんだ! 動きを少しでも束縛するんだッ!』

 

ベルゲルミルは早い、全方位からの攻撃でも回避してみせる。アイビスにはゲイムシステムが何かは判らない、だがコウキでも追いきれないのならばコウキが追いつけるようにする。それだけを考え、操縦桿を握り締め、ペダルを踏み込む。上空で射撃武器の差しあいをしているベルゲルミルと轟破鉄甲鬼の戦いの中にアイビスもまた身を投じる。

 

『アラド・バランガ……いや、ブロンゾ28ッ!』

 

忌むべき名を正体不明機のパイロットに叫ばれ、アラドはビルトビルガーのコックピットの中で顔を歪めた。

 

『お前にはここで死んで貰うッ! 僕達の名誉の為にねッ!!』

 

折りたたみ式の銃身の短いライフルの下部に装着されたブレードをスタッグビートルクラッシャーで受け止めるが、ベルゲルミルの出力が高く、ビルトビルガーは押し込まれる。

 

「な……何だって!?  どういう意味だッ!?」

 

『それを知る必要はないッ! ただお前が僕にとって邪魔なんだよッ!!』

 

激昂と共に振るわれた銃剣――アームナッターの一閃でビルトビルガーが宙に弾き飛ばされる。

 

『細胞1つ残さず消えうせろッ!!』

 

マシンナリー・ライフルが変形し、その銃口をビルトビルガーに向ける。共行王の雨に濡れ、今も尚本調子に程遠いビルガーは空中で姿勢を持ち直すのがやっとだった。

 

『させんッ! ハイゾルランチャーシュートッ!!』

 

『ブーステッドライホゥッ!!!』

 

拡散するハイゾルランチャーの弾雨とブーステッドライフルの音速を超えた一撃――それは通常ならば命中する攻撃だった。

 

『そんなの当たるか! ゲイムシステム……フルコンタクトッ!』

 

ベルゲルミルのカメラアイが輝き、残像を残しながらの高速移動でハイゾルランチャーとブーステッドライフルの弾頭を回避する。

 

『『はぁぁぁッ!!!』』

 

『ちいっ!!』

 

そこにフェアリオンが左右から斬り込み、アンサズは苛立った様子で舌打ちを打った。確かにゲイムシステムは優秀なインターフェイスだ。パイロットを廃人にすると言う致命的な欠点を持つが、それさえ克服出来れば地球で最も優れたインターフェイスであると言う事はビアンですら認めている。しかしそんなゲイムシステムにも天敵が存在している……それがゲイムシステムに1度は組み込まれたシャインの存在だ。

 

『行きますわよッ!』

 

『はいッ! シャイン王女ッ!』

 

リアルタイムによる予知、コンマ1秒先の未来まで予知すればゲイムシステムを上回れる。

 

『ちょこまかとッ……ッ!?』

 

『避けれるならば避ければいい。避けれるのならね』

 

ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプRDの圧倒的な弾雨――狙いなど定めていない装備している重火器をただ只管に撃ち込む。ヴィレッタらしからぬ暴挙――だがその暴挙こそが、ベルゲルミルの動きを封じる。

 

『ぐっ!?』

 

いくらアンサズ達がゲイムシステムに適合するように調整されていたとしても、余りにも多すぎる情報量には対応出来ない。ゲイムシステムに必要なクールタイムを早めることになり、ゲイムシステムが一時的にその能力を緩める。

 

「何で俺がお前の名誉の為に死ななきゃならねえんだッ!?」

 

『出来損ないが知る必要はないと言った筈だ! ブロンゾ28ッ! お前は黙って僕に殺されれば良いんだよ!!』

 

「俺をその名で呼ぶんじゃねえッ!  俺はアラド・バランガだッ!!」

 

スタッグビートルクラッシャーとアームナッターがぶつかり火花を散らす……サマ基地を巡る戦いは時が経つにつれ激しさを増していくのだった……。

 

 

 

 

甲高い金属音が響き、ゲッターD2と共行王が弾かれたように間合いを取る。ベアー号のコックピットで武蔵は口の中に溜まった血を吐きだし、眉を顰めた。

 

(こいつ……強い)

 

女性的なシルエットをしているがゲッターD2と互角に鍔迫り合いを行なえるパワー、そして蛇の形態時にも使っていた多彩な攻撃――突破力と面攻撃を兼ね備えた共行王は武蔵から見ても強敵と言えるだけの相手だった。

 

『くふふふ、楽しい楽しいなあ。お前は楽しくないか?』

 

友人に語るような口調と共に突き出された槍は閃光にしか見えず、武蔵は己の勘に従ってその攻撃を避けていた。目では見えない、レーダーも役に立たない。そうなれば己が最も信用するのは己自身だ。

 

「悪いがオイラは戦いを楽しいなんて思った事はねえんだよッ!!」

 

ウォーダンとの戦いでコツを掴んだ白刃取りで槍の切っ先を掴み、膝蹴りでトライデントを中ほどからへし折る。

 

『見事! かかかかッ! 天晴れな武人じゃ。じゃがまぁ……無意味じゃがな』

 

へし折った槍は水になり、共行王の手に収まると今度は三日月刀と盾にその姿を変える。

 

「随分と手品が得意なんだな」

 

『水の神じゃからな、それにお前はこっちの方がやりやすかろうッ!!』

 

盾を構え突撃してくる共行王の姿を見て、武蔵は地面に突き刺したダブルトマホークを拾い上げ、振るわれた三日月刀を受け止める。

 

『槍では一方的に攻め立てるだけで面白くない。くふふふ』

 

ゾッとするような、嘗め回すような視線を感じ武蔵はびくっと肩を竦めた。本能的に受け入れ難い視線――餌か何かを見るようなその気配に武蔵は反射的にレバーを操作し、共行王の腹に蹴りを叩き込ませる。

 

『酷い男じゃ、女の腹に蹴りを入れるとは……』

 

「化けもんが何言ってやがる」

 

左手にもダブルトマホークを握らせ、共行王を油断無く睨む武蔵。その気配を感じ取ったのか、共行王から喜色に満ちた気配があふれ出す。

 

『くふふふ、化け物とは酷いのう。これでも私はそれなりに美人だと思うんじゃがなぁッ!!!』

 

「鬼だか、インベーダーだが、アインストだかわからねぇ奴なんて化け物で十分だッ!!」

 

三日月刀とダブルトマホークがぶつかり合い凄まじい火花を散らす。直接的な攻撃力ではゲッターD2が上で三日月刀が打ち合った勢いのまま弾き飛ばされ、大きく態勢を崩す共行王を見て武蔵は好機だと判断した。

 

「ゲッタァァビィィイイムッ!!!」

 

頭部からのゲッタービームを撃ち込む。本来ならばもっと慎重に立ち回る武蔵だが、サマ基地で正体不明機と戦っているリュウセイ達が心配であり、また敵の強さもある程度理解していた事もあり速攻を心掛けていた。それが共行王の罠とも知らずに……。

 

『甘いのうッ!!』

 

掲げられた盾がゲッタービームを吸収し、そのままの勢いで跳ね返してくる。

 

「何ッ!? ぐあッ!?」

 

胴体に当たり弾き飛ばされるゲッターD2と武蔵の悲鳴を聞いて共行王は楽しそうに笑った。

 

『そらそら! 今度は私の番じゃなッ!!』

 

振るわれた三日月刀から三日月状の水の刃が無数に飛び出し、吹き飛ばされたゲッターD2を追う。ダブルトマホークを両断した水刃を思い出し、今の姿勢では避けきれないと判断し武蔵はレバーを引いた。

 

「くそッ! オープンゲットッ!!!」

 

分離し水の刃を回避したが、降り注ぐ雨が空中で固まり、腕となりゲットマシンを捕まえようと迫る。

 

「チェンジドラゴンッ!!! 『ほれ、捕まえた』しまッ! ぐああああああ――ッ!!!」

 

ポセイドンにチェンジしている時間がないと再びドラゴンにゲッターチェンジしたと同時に、空中に現れた水球が氷の塊となりゲッターD2を押し潰し、再び水へと変りゲッターD2を水牢の中に閉じ込める。

 

『さぁさぁ、見るが良い。私の舞は美しいぞ』

 

三日月刀と盾が三度水に変り、共行王の手に扇子になり収まる。その光景を見て武蔵はゲッターD2の操縦桿とレバーを握るが、全く反応を見せない。

 

『さぁさ、ご覧あれ。私の美しき……』

 

扇子を手に動き出そうとした共行王がその動きを突然止め、いらついた様子で舌打ちを打った。次の瞬間に水牢が弾け、地響きと共にゲッターD2が地面に叩き付けられた。

 

「何が……」

 

『しまいじゃ、鬼の君主がやかましいのでな。くふふふ、私の舞はまた今度見せてやろうかの、くふふふふ……』

 

「お前は何がしたいんだ、何が目的なんだ」

 

先ほどまでの殺気が嘘のように静まり返り、戦う意志を見せない共行王に困惑した武蔵がそう問いかける。返事はない、武蔵はそう思っていたのだが、共行王は意外にも返事を返した。

 

『復讐だ。私を操り、戦わせた狂った仙人共。そしてそうじゃなあ……龍虎王と雀武王とも決着をつけたいという気持ちはあるかのう……後は私を蘇らせた鬼にも恩義があるからそれを返すくらいの気持ちがあるから百鬼帝国にいるにすぎん』

 

「……敵じゃないのか?」

 

『さぁ? どうじゃろうなぁ、敵の敵は味方と言うが……くふふふ、お前達次第とでもいっておこうかのう……ではの、また会おう今代の進化の使徒よ。バラルに気をつけよ、奴らはあくどいぞお?』

 

楽しそうに笑いながら共行王はその身体を水に変え、大地に溶けるように姿を消した。

 

「見逃されたのか……くそっ! そうだ、それよりも『武蔵! 武蔵無事か!』 テツヤさん! はい! こっちは大丈夫ですッ!」

 

ハガネに通信を繋げようとした所でハガネのテツヤから通信が入り、武蔵は慌てて返事を返す。

 

『敵はどうした?』

 

「なんか見逃された感じです。オイラよりもそっちは大丈夫ですか!? すぐに救援に」

 

『いや、その必要はない。ノイエDCもアンノウンも、鬼も全て水の球体に取り込まれ、その姿を消した。恐らく……武蔵と戦っていた共行王とやらの仕業だろう』

 

リュウセイ達も無事と判り、武蔵は安堵の溜め息を吐いた。だが状況は今だ不明瞭なままで、すぐにその顔を引き締めた。

 

「そっちに合流します」

 

水による転移、そして人型の姿を持っていることを考えれば予断を許す状況ではなく、武蔵はすぐにゲッターD2を立ち上がらせサマ基地へと帰還する。

 

「ふうむ……まさか共行王が人の姿を持つとは……」

 

「これは少し想定外だ、四罪、四凶の超機人の魂を回収されるわけには行かないね、やれやれ、孫光龍がしくじってくれたから面倒事になったものだよ」

 

「それもあるが我々の超機人を真似た百鬼獣も腹正しい物じゃな。どうするつもりじゃ夏喃? 龍虎王も復活した、状況によっては……」

 

「泰北、それは余計な心配だ。龍虎王に頼る必要なんて無い、僕達だけで十分さ」

 

夏喃の言葉に泰北はやれやれと肩を竦め札を掲げる。

 

(今の段階で叩かねば不味い事になるというに……)

 

不完全な復活なら良いが、百鬼帝国によって更に強化されている四罪、四凶の超機人の事を考えると、その内応龍機のような四霊の超機人――いやもっと言えばそれに匹敵する凶悪な超機人が生み出される可能性もある。その可能性を考え、泰北は困ったように溜め息を吐きながら、プライドの高い弟子に困った奴だと呟きその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

121話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その6へ続く

 

 




苦戦したぜ……今まで1番の内容だったかもしれない。決着やイベントの無い話が難しい、私に閃きが足りないのか、それとも文才が無いのかといつも悩みます。そして問題は後半も決着つかないんだよぉ……だけどこれはかなり頑張れそうな気がします。アルトアイゼン・ギーガVSソウルゲインを全力で頑張りたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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