132話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その7
ビアン達との密会を終えたダイテツ達が伊豆基地に向かっている頃――地球の情勢は大きく動こうとしていた。
「ブライ議員が命がけで持ち帰った情報を嘘だと言うのかッ!」
「何故ブライ議員だけが無事に戻って来たというのだ! 何か取引をしたのではないのですか!」
ホワイトスターから帰艦したブライの傷だらけの有様を見て、連邦議会は騒乱の一途を辿っていた。
数多の機動兵器を製造しているインスペクターの本格的な侵攻は近い、今の内にラングレーの奪還は必要不可欠と告げ、意識を失い病院へと搬送されたブライ。その後に開催された議会は混迷を極める事となった。
徹底交戦派は今の内にラングレーの奪還を成し遂げるべきだと声を荒げ。
亡きシュトレーゼマン派の議員は交渉を続けるべきだと主張を曲げない。
そしてそのどちらでもなく、議員という立ち位置でありたい者達は日和美主義で、自分達に旨みのある方に協力し会議をより混乱させる。
「落ち着きたまえ。どの道オペレーション・プランタジネットは実行されるのだ、当初の予定の10日後ではなく、時間を短くし強襲を仕掛けるのが最善ではないかね?」
グライエンに扮しておる鬼がそう告げ、議会の中にいる鬼達もグライエンを支持する。
「戦力はL5戦役の英雄であるハガネ、シロガネ、ヒリュウ改をメインにし、連邦軍はそれを支援。強襲によるラングレーの奪還を第一目標。次に制圧されかけているハワイのインスペクター軍を押し返すを第二目標とし、そのいずれかの達成を目的とするべきではなかろうか」
(これでよろしいのですね、ブライ大帝)
ブライの指示通りに議会をコントールする鬼。その口車に乗り、連邦議会はオペレーション・プランタジネットの予定を5日繰り上げ、鬼達の思惑とおり、ダイテツ達に十分な準備をさせぬままラングレー奪還へと向かわせる事に合意するのだった。
「……5日後の午前0時?」
ブライの見舞いに行っていたブライアンは大統領府に戻ってくるなりニブハルに告げられた言葉に苦虫を噛み潰したような顔をした。
(嵌められたか……こりゃ完全に詰んだかな)
自分がいない間に外堀も内堀も埋められ、完全に詰みに追い込まれている事をブライアンはすぐ理解したが、それを顔に見せずいつものように飄々とした笑みを浮かべ、詳しい内容をニブハルへと問いただす。
「予定より少し早まったようだね。 ハワイの件……いや、日本近海で目撃された異形の巨人が原因かな?」
胸部に老人の顔を持つ異形と恰幅のいい人型の巨人、そしてそれらに付き従う異形が目撃されたという話はブライアンの元にも届いていた。インスペクター、ノイエDCに続く脅威とし、まずは目に見える脅威を退けるという方向で議会は進んだのだ。
「そうだ、今地球圏に確認されている数多の異形の化け物や、未知の人型機動兵器を考えれば、まだインスペクターの方が対処しやすいとは思えないか?」
「まぁ、それに関しては同意するよ。グライエン議員」
人知を超えた化け物よりかは、地球よりも優れた技術を持っているインスペクターの方が対処しやすいと思うのは当然の事だった。
「それで作戦指揮官は当初の予定通り極東方面軍のレイカー少将かい?」
確認という事で問いかけるブライアンだが、その目的はレイカーを初めとした人員の頭が封じられないかの確認という意味合いが強かった。
(ケネス・ギャレットは投獄中。それに他の司令官も大半がいない……一体誰を切ってくる。誰も切ってこないのならば……それに越した事は無いが……そこまで都合のいい話はないだろう)
ノイエDCと繋がっていた上官の多くが投獄、あるいは軍事裁判中でいない。それが連邦軍の混乱を呼んでいるのだが、それすらも百鬼帝国の策略ではないかとブライアンは考えていた。
「それに関してだが、鷹派と鳩派の良派閥からオブザーバーが付くとしか聞いていない。詳しく話が煮詰まったらまた話をしよう」
「ん、判ったそれならその件はグライエン議員に任せよう。それで話は変るがノイエDCとの停戦交渉の方は?」
考えられる最悪の展開――鷹派、鳩派からオブザーバーを選ぶ。建前としては地球圏の存続が掛かっているので様々な意見を取り入れるためと言えるが、完全に指揮権の混乱や、作戦の変更による混乱を呼ぶ事になるが、自分がいない間に話が進んでいるのではそれを覆す事も出来ないとブライアンはその言葉を聞き入れるしかなかった。そしてその上でノイエDCとの停戦交渉はどうなってるのか? とグライエンへと問いかけた。
「根回しは済んでいる。 後はビアン総帥の確約を得るだけだ。作戦開始までには間に合わせる。とは言え停戦交渉なのでどこまでそれが続くかは判らないがな」
「そうか……それをきっかけに連邦軍ノイエDCの戦いが終われば良いんだがね」
「ビアン総帥は地球圏の平和を願っている、そこまで心配することはない」
「そうだね、本物のビアン総帥なら心配しなくても良いんだけどね……」
本物とブライアンが口にした事でニブハルとグライエンが微妙な反応を見せた。それを見てニブハルも敵かと元々信用はしていなかったからか、やっぱりとブライアンは感じていた。
「ノイエDCとインスペクターとの停戦交渉は君達に任せるよ、じゃあ僕は執務に戻るから退室してくれるかな?」
ニブハルとグライエンに退出を促し、1人になった部屋でブライアンは頭を悩ませる。
「どうしたものか」
もう完全に議会はグライエンが主導権をとっているので大統領であるブライアンが何を言っても、最早無駄。そして色々と根回しをして来たがダイテツ達もその動きを封じられる一歩手前にまで追い込まれている。しかもその上本物と口にした事で自分も命を狙われる事をブライアンは理解していた。
(僕が成り代わられるか、排除するか……無理が無いのは前者と言う所か……さて、どうしたものか)
後残されている公務は1つ……それが終わればブライアンは用済みとなり排除されるだろう。自分に残された命は残り5日かと自嘲気味に笑うブライアンだったが電話が鳴り、半ば反射的に電話を手に取る。その直通電話は鳴る事の無かった電話で、これがなったという事は直通電話を知るほんの僅かな人間からの電話であるからこそ、無意識にブライアンは受話器を手にしていた。
『ブライアン無事か? まだ無事だと思って連絡したのだが……』
先ほどまで目の前にいた男と同じ声だが親しみを感じさせる優しい声にブライアンは安堵の溜め息を思わず吐いた。
「ウィザード……今ほど君の声を聞けてよかったと思った事はないよ」
『相当追い込まれているようだな、近いうちに救出に向かう。無茶をするなよ』
返事も聞かず電話は切れる。救出という事でビアン達が最後の公務の際に動いてくれるという事を悟り……。
「まだ死ななくてもすむかも知れないね」
危ない橋を渡る事になるだろうが、それでも鬼に成り代われる為に殺される事は無く、ブライアンを利用した政治政策を使わせる事も封じる事が出来る……それで本物のビアンなのか、そしてクーデターへの疑いを与える事が出来るのならば……危険な橋を渡る意味もあるとブライアンは小さく微笑むのだった……。
伊豆基地のSRX計画ラボではR-GUNとR-3の最終調整が急ピッチで行なわれていた。その理由は言うまでも無くアインストやインベーダーという人知を超えた化け物に加え百鬼獣、ノイエDC、そして超機人と言う新西暦の常識を遥かに上回る機体と戦う為にSRXが必要になると考えているレイカーの指示による物だった。
「アヤ。調子はどうだ?」
『問題ありません、L5戦役の時よりも念の逆流が少ない上に、違和感も殆どありません』
R-3のT-LINKシステムとアヤのコンタクトは非常にスムーズに行なわれ、念の逆流やノイズと言った物は一切感知されていなかった。
「やはりゲッター合金コーティングが良かったのでしょうか? ゲッター合金は念動力との親和性が非常に高いようですし」
「どうだろうな。ワシはそうは思わない」
スタッフの言葉にケンゾウは苦虫を噛み潰したような顔で返事を返した。そもそも何故旧西暦の存在であるゲッター合金と念動力の親和性が良いのか、その理由すら判っていないのにただただ数値が良くなっているだけで安堵出来るほどケンゾウは無知ではなかった。
(まるでゲッター線がアヤの力を増幅させているようだ)
ゲシュペンストMK-Ⅲ・タイプR03カスタムの時はL5戦役のデータとほぼ同じだが順当に成長しているようなデータが記録されていた。しかしゲッター合金コーティングを行なったR-3に乗った瞬間にL5戦役終盤のリュウセイと同じTPレベルを記録していた。これはケンゾウの経験上ありえない事だった。念動力は生まれ持った素質が物を言い、アヤは念動力を高いレベルでコントロール出来ているがその分突出した物を持たない筈だった。それが突出した念動力者であるリュウセイと同じ数値を記録する事は誰の目から見ても異常であることは明らかだった。
「しかし数値が良い事に何の問題があるのですか? この数値ならば「すまないが、R-GUNの調整の方を手伝いに回ってくれるかい?」オオミヤ博士……はい、判りました」
配属されたばかりの若いスタッフの言葉をロブが遮り、管制室から追い出す。
「ケンゾウ博士、俺は今の段階でSRXを使う事に反対です。余りにも未知数すぎる」
「……気持ちは判る、ワシも同じ気持ちだ」
ならっと声を上げたロブにケンゾウはしかしと口にし、その言葉を遮った。
「SRXなくして、これからの戦いに我々が出来る事は何がある?」
「それはッ」
L5戦役では武蔵1人に押し付け、その結果が特攻となった。武蔵は生きていたが、L5戦役でケンゾウ達が出来た事は余りも少ない。
「それに何よりもリュウセイ少尉達は今度こそ武蔵と共に戦う事を願っている。ならばそれをワシ達に止めることは出来ない」
「……それはその通りですが……しかし危険性が」
「どの道トロニウムでリスクは背負っているのだ、ならば我々はもっとトロニウムとゲッター線への理解を深める事が最終的にアヤ達を守る事に繋がるのだ」
不安はある、リスクもある。だがそれ以上にリュウセイ達は武蔵と共に戦う事を望んでいる。それを止める権利はケンゾウもロブも持ち合わせていなかった。
「R-GUNの実験準備が出来ました」
管制室に入ってきたスタッフの言葉でケンゾウとロブの話し合いは終わりを告げ、今日の本来の実験――R-GUNとR-3のツインコンタクトが行なわれる。
「……R-GUN、 スタンバイモードで起動」
薄暗い格納庫でハンガーに固定されているR-GUNのカメラアイが光り輝き、ゆっくりとその四肢に力が篭もる。
「T-LINKコネクター、1番から10番までを接続しろ、異常があれば即座に停止だ」
「了解です。T-LINKコネクター接続。 パイロットの脳波、脈拍共に異常なし」
ロブの報告を聞いてケンゾウは小さく頷き、管制室のマイクを手に取る。
「アヤ、今からT-LINKツインコンタクトのテストを開始する。何か異常があれば即座に停止する、無理をするんじゃないぞ」
ゲッター合金でコーティングされたRシリーズの耐久度は以前とは比べられないほどに上がり、SRXの合体制限は消え去ったと言っても良いが、それを手放しで喜べるほどケンゾウは愚かではなかった。
(リスクはあるが、これである程度はわかるはずだ)
もしも本当にゲッター線が念動力を高める効果を持つのならば……アヤとマイのツインコンタクトで何らかの変化が起きるはずだ。ケンゾウは緊急停止のレバーに手を掛けながら実験を開始すると宣言するのだった……。
R-3とRーGUNのツインコンタクトシステムの実験は始まった当初は安定していた。しかしHTBキャノンを使用可能になるTPレベルに到達した時――マイの意識は闇の中へと沈み込んだ。
「ま、また……お前か……ッ!」
何も見えない深い闇の中に自分と瓜二つの顔をした少女が自分を見下した顔で見つめてくる。
「お前はそこで何をしている……? そんな物に乗って何をしている……?」
「お、お前は……誰だ……? 何故、私に語りかけてくる……?」
怒りと哀れみを伴った声が脳裏に響き、マイは目の前の少女に逆に問いかける。お前は何者なのかと……。
「まだ私の事が判らないのか……? お前は私、私はお前だ。私を誰よりも理解しているのは他でもない、お前自身である筈だ」
「私がお前……うう、う……ッ!」
人差し指を向けられ、目の前の少女が自分自身だと告げられ、それを鸚鵡返しのように尋ね返した時……マイを激しい頭痛が襲った。
「思い出せ……私の名を……」
「ううう……ッ! い、いやだ……思い出したくないッ! 私は思い出したくないんだッ!!」
思い出してはいけない、それを無意識で理解し、嫌だと声をマイが上げる。
「思い出したくないのならば教えてやる。お前/私はレビ・トーラー……お前の真の名を……思い出せ」
「レ、レビ……ッ!?」
目の前の少女が笑いながらそう告げた時、マイの脳裏にぼんやりとした数多の映像が浮かび上がった。
「し、知らない! 私はお前なんか知らないッ!!」
「いいや、知っているはずだ。お前は私を知ってる、そうだろう? 知りたくない事へ目を向けず、知らねばならない事実に目をそむけ、そんな有様であいつの力になれると思うのか?」
幼子に諭すように声を掛けてくるレビに知らない知らないとマイは頭を振りながら叫び声を上げる。
「あいつ……あいつって誰……」
「判っている筈だ。私達の心に踏み込んで来たのは2人……お前はあの女に光を見出したが、私は違う、あいつこそが私の光ッ!」
マイの脳裏に突如フラッシュバックするトリコロールのPTの姿、その手を翡翠色に輝かせ、自分に手を向けているその機体の姿がぼんやりと脳裏に浮かび上がった。
「……知ってる……私は知って……」
「私の方が力になれる……だからお前の身体を私に……【いいや、その身体を貰うのは私だ】……貴様ッ! また私の邪魔をするのかッ!!」
激昂するレビの声を遮って第3者の声がマイの脳裏に響いた。マイを間にし、レビとマイを成長させたような少女が現れる。
【●●●●●の力になれるのは私だ。お前は消えろ】
「うるさいッ! 私に命令するなッ!!! くたばり損ないがッ!」
レビとマイに似た少女の間に挟まれているマイは2人の強烈な念をぶつけられ、激しい痛みに呻き声を上げる。
「うっ! あああっ!!」
『マイ、どうしたの!? しっかりしてッ! うっ……な、なにこれ……』
マイが苦しんでいるのに気付き声をかけたアヤの脳裏にもマイが見ている光景と同じ物が映し出され、その顔を苦悶に満ちた表情に変える。
「実験は中止するッ!」
その2人の反応を観測していたケンゾウは緊急停止のレバーを引こうとするが、その手を若いスタッフが掴んで止める。
「まだレッドゾーンではありません! それに候補のパーツはまだいますし実験を……「ふざけるなぁッ! この有様で実験を続行など出来るかッ!!」……げぶっ!?」
科学者とは思えない強力で自分の腕を掴んでいる若いスタッフを振り払い、緊急停止のレバーを卸すケンゾウ。
「そいつはSRX計画に不要だ! 連れて行けッ! パイロットをパーツ等という破綻者は必要ないッ!!」
激昂しそう叫んだケンゾウは管制室を飛び出し、医療スタッフによってコックピットから救出されたマイとアヤの元へと走った。
「れ、れび……」
「ッ!?」
意識を失っているアヤと異なり、ぼんやりとした様子でそう呟き意識を失ったマイの姿を見て、ケンゾウは愕然としその場に膝をついて崩れ落ちるのだった……。
マイとアヤの2人が医務室送りになった後、実験のログを調べなおしていたケンゾウはあの短い時間でとんでもない事が起きていた事を始めて知った。
「TPレベル14と28だと……一体あの時に何があったというんですか!?」
「判らない、だが……恐らくだがその内の片方はレビの物だろう」
「レビ!? 何故今レビの名前が出てくるんですか!?」
ケンゾウに告げられたレビの名にロブは混乱しながら何があったのかと問いかける。
「可能性としては深層意識の奥深くにレビが潜んでいるのやもしれん……」
可能性としてはゼロではないが、ロブはケンゾウのその言葉を信じたくなかったと言うのが本音だった。しかしそうなると別の問題が浮上してくる……TPレベル28。レビの14を遥かに上回る数値の持ち主は誰なのかという問題だ。
「レビではないのではないですか? ゲッター線による念動力の向上を誤認しているのではないですか?」
そうであって欲しいとロブは願いながら口にしたのだが、ロブの淡い希望は簡単に砕かれる事になった。
「いや。本人がレビの名を口にした、間違いなくマイはレビの干渉を受けている」
レビの事を知らないマイがレビの事を口にする訳が無い。レビの名がマイの口から出たことでマイがレビの干渉を受けている事は確実な事になった。
「ではTPレベル28は何だというのですか、レビの倍の数値――これはリュウセイにも匹敵する」
今のリュウセイのTPレベルのアベレージは20前後、最大値は25を記録しているが、リュウセイの数値ですら異常だというのに、それを遥かに上回る数値はなんなんだとロブが声を荒げる。
「それに関してだが、ツインコンタクトのテスト中に不可解なテレキネシスα波のパターンが複数検出された。考えられるのはゲッター線で念動力の増加で別の世界と交信してしまったかだ……」
ケンゾウの出した答えはゲッター線によって増幅された念動力によって別の世界の何かと交信してしまったのではないか? と言う物だった。
「ではやはりゲッター線による念動力の増加は……」
「ああ、まず間違いないな。念動力者はゲッター線によってその能力を増加させる事が出来る。これならばワシ達の想定した数値をもっと
安全に、そしてマイやアヤに負担をかけずに得る事が出来るだろう」
「まさか事実を隠蔽すると?」
ケンゾウの口振りではゲッター線で念動力を増幅させれば、必要とされる数値よりも低い数値で問題ないと言う物であり、マイ=レビというのを隠蔽しようとしているようにしかロブには感じられなかった。
「対策が練れるまでの緊急措置だ。レイカー司令にも承諾は得ている……マイの今の状態は極めて不安定だ。心労を与えるような真似はしたくない」
真実を知ることで過度なストレスを与えればそれこそレビが意識を取り戻す危険性がある。そのリスクを考えケンゾウは今は真実を伏せる事を選択したのだ。
『ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が伊豆基地へ帰還しました。整備兵各員はメンテナンスの準備を急いでください』
ダイテツ達が伊豆基地へ帰還すると放送が響き、ケンゾウは座っていた椅子から立ち上がる。
「リュウセイ達には時期を見て話す。今は黙っておいてくれ、ロバート」
ケンゾウの苦渋に満ちた顔を見ればその判断もケンゾウにとっては苦渋の決断である事は明らかで、今も震えるケンゾウの肩を、固く握られた拳を見れば彼が葛藤しているのは明らかでロブは判りましたと小さな声で返事を返すのがやっとなのだった……。
長い戦いを終え、伊豆基地へと戻って来たリュウセイ達は僅かな時間だが休息に入っていた。超機人の事を調べているアンザイ博士やシキシマ博士、そしてハガネとヒリュウ改で独自で改造されていたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMやビルトビルガーと言った機体の整備などやらなければならない事は山ほどあり、しかしそれに加えてオペレーション・プランタジネットの発令まで5日間しか余裕が無いと言う事で伊豆基地の整備兵達はフル稼働になっていたのだが……その代りにパイロットであるリュウセイ達は僅かでも身体を休めるようにとレイカーから休息を言い渡されていた。
「わお! ジャーダとガーネットの子供……双子だったのッ!?」
伊豆基地に戻って来たと言う事でジャーダとガーネットと連絡を取っていたラトゥー二から妊娠し除隊したガーネットのお腹の中には2つの命が宿っていると知り、久しぶりの明るいニュースに伊豆基地のブリーフィングが一気に明るくなる。
「はい……そうみたいです」
「随分と腹がでかいと思ってたけど双子か! そりゃあ良いなあッ! こういう明るいニュースならオイラも大歓迎だ」
浅草でジャーダ達に会っていた武蔵だが、妊婦を見た事が無く随分と腹が大きな位に思っていたのだが、双子だと知りそりゃ腹も大きくなるわなと自分で納得し笑みを浮かべていた。勿論他の面子も子供が生まれるというおめでたいとあちこちから祝いの言葉が上がる。
「産まれたら、皆でお祝いを送りませんか?」
そんな中リオが出産祝いで何かを送りましょうと提案する。それを聞いてラーダがニッコリと微笑んだ。その顔を見て、何人かがアカンやつだと思う中ラーダは悪びれも無く、むしろ善意100%である提案をした。
「そうね。 アサナの本なんかどうかしら」
「そ、それは ちょっと早すぎるんじゃない?」
「お、俺もそう思うっす」
折り曲げられた経験のあるエクセレンとアラドがそれは余りにも早すぎると引き攣った声で言うとラーダはそうかしら? と納得して無い素振りで首を傾げる。
「んじゃテスラ研特製のブースター付き三輪車でも送っとくか?」
「そ、それも ちょっと速すぎるんじゃない?」
「……別の意味で速過ぎるんじゃないですかね?」
アサナは年齢的に早すぎ、ブースター付き三輪車は別の意味で速過ぎるだろという声があちこちから上がる。
「普通に乳母車とか、ベビーベッドの方が良いと思いますけど……」
「あ、ベビーべッドならもうあるぞ? ジャーダさんが作ってるのオイラも手伝ったし」
「まぁ普通に子供が生まれるなら準備してるだろう。それならクスハの言う通り乳母車や、チャイルドシート、それに消耗品になる紙おむつとかが良いんじゃないか?」
カイが必要になるであろう物を指折りしながら言うと、確かに必要な物であり、喜ばれる物はそういう方向だろうと誰もが頷いた。
「クスハが変な物を送らなくて良かったぜ」
「リュウセイ、変な物って言うのはあまりにも酷くないか?」
長い付き合いでクスハの趣味を知っているリュウセイは子供に送るものじゃないだろと安堵し、ブリットはそれは酷くないか? と言ったが、それはブリットがクスハへの理解が足りていないからだ。
「クスハの事だから、私は健康グッズを贈るとか言い出すのかと思ってたわ」
リオの言葉に腕を組んでリュウセイがうんうんと頷く。するとクスハは違うのと言って首を左右に振った。
「それは赤ちゃんが大きくなってからにしようと思ってるの……ベビーストレッチチェアとか、 ベビーパワーリストとか色々あるのよ」
悪意無しのどこまでも澄んだ顔で言うクスハだが、ブリーフィングルームにいる面子は引き攣った表情を浮かべる中……エクセレンがぽつりと冷や汗を流しながら呟いた。
「……今までの全部贈ったら、筋骨隆々で体が柔らかくてかつ高速移動するっていう超人が完成するわね……」
真面目な顔でエクセレンが言う物で全員の脳裏にジャーダとガーネットに似た筋骨隆々の青年を想像し噴出す。あのカイですら噴出したのだからその相当インパクトのある光景を想像してしまったのだろう。
「エクセ姉様……そのジャーダとガーネットというお方はどなただったりしたりいたしますのですか?」
ジャーダとガーネットと接点が無いラミアが不思議そうな顔をしてエクセレンへそう問いかける。
「そうかラミアちゃんは知らなかったわね、私達のお仲間よ 前の戦争の時ハガネに乗ってて……一緒に戦ってたのよね」
「それで、戦後暫くは武蔵さんを探してたんですけど、妊娠したのが判って軍を辞められて……ご結婚なされたんです」
「……なんか凄い申し訳無い事をしたような気がする……」
自分を探して結婚の時期が遅れたと知り武蔵が渋い顔をする、まさか旧西暦でインベーダーとドンパチをしている間にジャーダとガーネットが自分を探しているなんて想像もしてなかった。
「まぁ戦いに区切りが付いたら武蔵はもう1回ジャーダとガーネットの所に顔を出した方が良いわね。まぁ子供はいわゆる愛の結晶だから……あの2人もやることはやってたってことねえ」
下世話な事を言うエクセレンになんとも言えない表情を浮かべるカイ達の後でラミアは首をしきりに傾げていた。
(……子供……愛の結晶? ……む? どこかで……どこかで聞いた言葉だ)
どこで聞いたのか思い出せないが、その言葉をどこかで聞いたことがあるとラミアは必死にそれを思い出そうとしていた。
「だが、これで何が何でもオペレーション・プランタジネットを成功させなきゃならなくなったな」
「はい。ジャーダさんとガーネットさんの赤ちゃん達の為にも戦争を早く終わらせないと……」
「リョウ達がやりそこねたのならオイラが百鬼帝国を今度こそぶっ潰しますよ」
「そう気負うなよ、俺達だって足手纏いにはならないぜ」
「判ってますよ、頼りにしてます」
戦争を続けるのではなく、戦争を終わらせる――そして平和な世界を夢見て闘志を燃やす武蔵達を見てラミアはやっと思い出せた。
(……そうかレモン様だ。私がロールアウトした時……レモン様が言っていた。私達Wシリーズは……自分の大切な子供だと……この者達は、生まれてくる子供の為にに戦争を終わらせようと言った)
平和な世界を生まれてくる子供達に与える為に戦うのだというリュウセイ達。しかしラミアは騒乱を続ける為に生み出された子供達だ……
同じ子供なのに、どうしてこうも違うのだとラミアは疑問を胸に抱いた。
(だが私戦争を継続させる為に……戦う為に生まれた……レモン様……そこに疑問を感じる私は……)
生まれた理由を成し遂げられない自分は壊れているのか……それとも「最初」から造られたことが間違いだったのかと思考の海にラミアが沈みこんでいると凄まじい音で思考の海からラミアは引き上げられた。
「エクセ姉様?」
その音の正体は椅子を倒しながら立ち上がったエクセレンだった。その顔は感情が抜け落ちたような能面のような顔をしていた
「エクセレン少尉……?」
「止めろ! エクセレン少尉を止めるんだッ!!!」
「なんか判らんが止めれば良いのかッ!?」
リュウセイが血相を変えた表情で叫び、武蔵がその手をエクセレンに伸ばしたがエクセレンはその手をかわしぶつぶつと何事か呟きブリーフィングルームを出て行く。
「リュウセイ! 何が起きてる!?」
「俺と同じなんだ! 誰かに呼ばれてるッ!! 止めないと危ないッ!!」
呼ばれている……それはロスターと呼称された化け物にリュウセイが誘い出されたのと同じ状況だとカイはすぐに理解し、ブリーフィングルームの通信機をONにした。
「駄目だ! ヴァイスリッターがもう出撃しやがった!」
アラートが鳴り響き、ヴァイスリッターが飛び去る光景を見てカイは早くブリッジに繋がれと貧乏ゆすりを続ける。
「こちらカイだ! エクセレンの様子がおかしいッ! リュウセイが言うには呼ばれているそうだッ! 足の速い機体に追跡させてくれ!」
『わ、わかりました! すぐに出撃準備を行ないます!』
「頼んだぞ大尉! 俺達も出撃できるものはすぐに追うッ!」
何に呼ばれているのか定かでは無いが、間違いなく不味い状況なのは間違いないカイ達はいずこへと飛び去ったヴァイスリッターを追う為にブリーフィングルームを飛び出して行く、そこで待ち構えている物がかつて武蔵達を苦しめた異形であると言うことも知らずにその場へと誘い込まれていくのだった……。
133話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その8へ続く
今回はブライアンの生存、そしてレビと未来マイに干渉を受けているマイと、迷いを抱くラミアをメインに書いて見ました。次回から戦闘回に入って行こうと思いますが、前回のラスト通りメタルビースト・エルアインスの参戦となります、このハードモードをどうやって潜り抜けるのかを楽しみにしていてください。
PS
スパロボDD
ゲッタータラクがチャはサンダボンバー祭で地獄でしたシャインボンバーが欲しかったのになあ……。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い