第142話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その1
薄暗い部屋の中でキーボードを叩く音だけが木霊する。部屋の主はブライであり、PCの明かりだけだがその目は爛々と輝いていた。
「さて……どうしたものかな」
脇に用意しているコーヒーを口にし、ブライは誰に聞かせるでもなくそう呟いた。1人で作業をしていれば知らずのうちに独り言を口にしてしまう、これは鬼になる前のうだつの上がらない研究者時代からの癖だった。
「……まぁ、それも良かろう」
百鬼帝国の指導者、連邦議会の議員、慈善事業家という様々な顔を持っていても、最初の顔はどうしても忘れられない物だと苦笑し、ブライは背もたれに背中を預ける。
「プランタジネットは順調に進んでいる。私の計画通りにな」
ハガネやシロガネという突出戦力にノイエDCは向けていない、戦力の差で負けると分かっている相手に貴重な駒を捨てるほどブライは愚かではない。どうせ捕虜にされるくらいならば鬼に改造したり、超機人の餌にした方がよっぽど有意義だからだ。
「問題はタイミングだな……ここからは札の切り所を間違える訳にはいかん」
長い時間を掛けてブライは様々な策略を練り、そして心優しい政治家と顔を作り出した。それらを最も有効的に使う時が刻一刻と迫っている。だが切るタイミングを間違えれば用意し続けた札は屑札になる……ブライはそれが我慢出来なかった。下げたくない頭を下げ、媚び諂った若手時代、議員に始めて当選し、そこからの長い時間全てが準備時間だった。その苦労をその屈辱が全て報われなくてはならない。
「まずはブライアン大統領には死なない程度に傷を負って貰うとするか」
プランタジネットの裏で邪魔者でありブライアン・ミッドクリッドを排除する。恐らくプランタジネットでヴィンデル達も動くだろうが、それも好きにさせる。ハガネ達を潰せるのならばそれもよし、無理ならばそれでもよし、ただゲッターロボを無力化できるという自信があると言うのならばそれを見届けてみるのも悪くないとブライは考えていた。
「ムーンクレイドルもアースクレイドルもほぼ私の手中、月面に残された人間も鬼への改造が終了しつつある」
朱王鬼と玄王鬼には月面の人間を好きにして良いと指示を出している。恐らく自分達の判断で鬼への改造を進めているだろうし、人間をあえて鬼にせず家族同士や仲間同士での殺し合いなどをさせているのだろうが、それも良かろう、大事なのはムーンクレイドルの設備であり人間ではない。それにインスペクターに譲り渡した段階でムーンクレイドルの役割は済んでいる。
「……だが懸念材料もある」
ノイエDC――いやビアンに扮している五本鬼はブライの配下などでどうでもなるし、交渉を任されているグライエンも鬼だ。どんな展開ブライの思い通りになるのは当然の事だ。
「……ふぅむ……」
伊豆基地を無力化、あるいは伊豆基地のレイカーを鬼に成り代わらせたい所だが、伊豆基地は武蔵の拠点でありゲッター線の濃度も高いことを考えると鬼を送り込んでも長時間の成り代わりは持たないことを考えると成り代わりは得策ではない……。
「では正義の味方の弱点をつくことにするかな」
正義の味方ならば、善性を信じるものならば逆らえぬ一手を打てば良い、簡単な話なのだ。自主的にプランタジネットに参加させ、インスペクターと百鬼帝国、そしてシャドウミラーで囲む。それだけで詰み、後は時を見て鬼に改造すればブライの手持ちの戦力は大きく増強できる。
「問題はシャドウミラーも同じことを考えていると言うことか、まぁ、大したことは無いがね」
突出戦力であるハガネ達はどの陣営も欲しいと思っている、インスペクターも、シャドウミラーも、そしてアインストとインベーダーもだ。プランタジネットは反攻作戦ではない、自分達の邪魔をする一団を集めて刈り取る為の舞台装置と言っても過言ではない。
「……何、心配はない、今度は上手くやるさ。そのために準備をして来たんだろう、ブライ」
ブライにはゲッターロボGに敗れた記憶も、そしてゲッター線に取り込まれた記憶もある、そしてもっと言えば異形の化け物となりゴールと融合し、真ゲッターと戦った記憶もある。
「分かっている、判っているさ。私に任せておけ、私は上手くやる何もかも利用してな」
様々な世界の「ブライ」の集合体――それがフラスコの世界のブライの正体である。だからこそ様々な知識、英知、そして理解しきれていなかったダヴィーンの遺産も今ならば十分に理解している。
「不安材料、懸念、大いに結構。それに臆して好機を逃がすほど馬鹿ではない」
これだけ様々な陣営が入り乱れているのだ。全てが全て自分の計画通りになると思うほどブライは馬鹿ではないし、楽観的ではない。
万全の策を用意した所でどこかでそれは綻びがあるかもしれない。
どこかで自分を上回る策を持ち漁夫の利を狙ってくる者がいるかもしれない。
策なんて関係ないと圧倒的な力でそれを捻じ伏せる者がいるかもしれない。
だが心配はない……何故ならば「ブライ」はそれを全て知っているから挫折も敗北も屈辱も全てをブライは知っている。
「……真の皇帝はうろたえない。裏切り、謀略……大いに結構。私はそのすべてを凌駕してみせる」
この世界でブライは勝利者、挫折を知らない男と言われているがそうではない、ブライは常に「敗者」だった。だからこそ貪欲に勝利する事を諦めない、この世界のブライはどんな世界のブライよりも遥かに強かで、そして遥かに狡猾な全ての「ブライ」という鬼の集合体だった。
「そう私は何もかも利用する。例え怨敵でさえもだ」
ブライの操作しているPCのモニターに映し出されていたもの、それは何かの機動兵器の設計図であり……その姿はどことなくゲッターロボに酷似した物なのだった……。
アースクレイドルではプランタジネットに備え、シャドウミラー、百鬼帝国、ノイエDCが忙しく動き回っていた。そんな中レモンは何かを考え込む素振りを見えていた。
(どう考えても今の段階での勝算はほぼ無いわよねぇ)
百鬼帝国が最大戦力であり、シャドウミラーとノイエDC、正確にはノイエDCは百鬼帝国の傘下なので大した差は無いが、アースクレイドルには3つ、いや、イーグレットを含めると4つ、超機人まで数えると5つの陣営が存在していた。その中でシャドウミラーは最も弱いと言っても良い、出し抜くにも戦力が足りず、そしてエースと呼ばれるパイロットも決して多くはない。切り札の転移システムこそあれど、それだけで勝利出来るほど甘いものではないと言うのはレモンも分かっていた。
(作戦を変えるつもりがないんだもんなぁ……)
ラミアを使いハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、そしてゲッターロボを手に入れるというヴィンデルの作戦に変更はない、鬼が伊豆基地に仕掛けることは判っているのでそれを利用すると考えているようだがレモンはそれにも不安を感じていた。
(ブライは化け物よ、私達の考えなんて簡単に読んでいるはず……)
それでもあえて泳がせているブライにレモンは恐怖する。余りにも指導者としての格が違う……ヴィンデルのカリスマ性は窮地だったからこそ、支えの欲しいと迷う相手には効果を発揮していたが、今の恵まれている新西暦ではそのカリスマ性なんてあってないものと言ってもいい。アクセルが従っているのはキョウスケと決着をつけたいからこそだし、レモンでさえもヴィンデルから距離を取ったほうが良いのではと考え始めているのも事実だった。
「ん? これって!?」
そんな中レモンの端末に通信が入り、ヴィンデルかと溜め息を吐きながら通信機を見たレモンはそこに表示されているエキドナの文字に驚き、隠れるように自室へと戻った。
「もしもしエキドナ?」
『……レモン様、お久しぶりです』
聞こえて来た声は紛れも無くエキドナの物だ。その声に小さく微笑んだレモンは椅子に座り、ゆっくりと話す姿勢になる。
「気分はどう? どこか身体の調子が悪かったりする?」
『い、いえ、大丈夫です。長い間連絡出来ず申し訳ありませんでした』
「良いのよ、そんな事は気にしないで、でも一応何があったのかだけ聞いてもいい?」
何故こんなにも長い間連絡が無かったのかとレモンが問いかけるのだが、エキドナはそれに返事を返さない。
「エキドナ?」
『……私はやります。レモン様に命じられた通りにドラゴンを、武蔵を無力化します。それが私が命じられた事だから』
固い口調で、エキドナではない、W-16だった時の声で言うエキドナにレモンは目を細めた。
「そうね、私はそれを命じた。でも……「それでいいの」?」
ラミアからの報告でエキドナが記憶を失い、シャインやユーリアと喧嘩しながらも武蔵と楽しく過ごしていた事をレモンは知っている。それが自我の芽生えに繋がるのならばエキドナは記憶を失ったままでさえ良いとレモンは考えていた。
『……それが私の、W-16の存在理由です。己で考え、己で行動する必要はないと私は考えます。全てはレモン様とヴィンデル様の為に……』
「……そう、それじゃあラミアと協力して行動の準備をしなさい。W-16」
もうレモンはエキドナとその名を呼ばない、エキドナではなく、W-16である事を望むのならばレモンはそれを尊重する。
『……はい、分かりました。レモン様……』
震えるような声で返事を返し、通信は途絶えた。何の反応も示さない通信機をレモンは指先で突く。
「私は少し期待してたのよ、エキドナ」
「すみません、私は怖いのです。自分に芽生えた気持ちが怖いのです……与えられた命令を遂行する……それだけで良いのです」
最高傑作はラミアだ、だけどエキドナはレモンの見ている前で恋をし、そして自我を得ようとしていた……それなのに自ら得かけていた自我を放棄してもなお任務を、与えられた命令を果たそうとする……それはWナンバーズとしては正しいが、人としては間違っていると言わざるを得ない。
「さよなら、エキドナ……」
もうエキドナの名は呼ばない、もうW-16はエキドナに戻る事はないと考えたレモンは名残惜しそうに最後にエキドナの名を呟くのだった……。
「……レモン様、私は、私は……そうだ、これで良いんだ」
伊豆基地の一室でエキドナは涙を流しながら、これでいい、これで良いのだと繰り返し呟く、やらねばならない事がある創造主の為に、成し遂げなくてはならない事がある。
「許してくれとは言わない、憎んでくれて構わない。今まで……ありがとう」
引き出しから取り出した便箋にエキドナは震える手で文字を書く、その文字は乱れ、エキドナの意思に反して流れる涙に便箋は濡れて染みを残す。
「……辛い、こんなに辛いのなら……私は壊れていたかった……」
記憶なんて欲しくなかった。ずっと壊れたままでいたかったと呟き、エキドナはボロボロで読むに耐えない手紙をゆっくりと封筒の中へと納めるのだった……。
プランタジネットの為の修理を終えた機体が次々と搬入されるのを武蔵とシャイン、そしてアラドの3人は世間話をしながら見つめていた。
「武蔵さんの……」
「いやあ、武蔵で良いぜ。アラド、あんまり年齢も変わらんだろうし」
「武蔵さんって何歳なんですか?」
「あん? 確か……17くらい?」
「なんで疑問系?」
「いや、自爆したりしてるから時間の感覚が「うーうーッ!!」いたいたいたい、シャインちゃん痛いって」
ポカポカと背中を叩くシャインに武蔵はいたいいたいと対して痛くなさそうなのに口にし、余計にシャインがむくれてその背中に小さな拳を叩き付ける事になった。
「なんか仲良いっすねえ、兄妹みたいだ、いたあッ!?」
年上の兄貴にじゃれ付く妹みたいな感じに見えたアラドが兄妹というとシャインのヒールの爪先による蹴りが脛を捉えアラドは足を押さえて蹲る。
「兄妹では困るのですわッ!」
兄と妹の関係では困るのだとシャインは口にする。武蔵はシャインを妹のように扱っているが、異性として武蔵を意識しているシャインはそれが不満であり兄妹みたいと言われて苛立った様子でアラドの脛を蹴り上げた。
「まぁあれだよな。オイラデブだしな」
「違いますわよ!? そういう意味ではありませんわ武蔵様ッ!?」
だが自己肯定が低めの武蔵はデブの自分が兄貴とか嫌だよなあと落ち込む素振りを見せて、違うのですわとシャインが必死のフォローをする。
「なんかあいつら楽しそうだなあ」
「案外年齢が近いからじゃないですか? カチーナ中尉」
「ん? 武蔵の奴シャイン王女とアラドに歳が近いのか?」
「確か……17歳って言ってましたよ」
「ああ、そう言えば高校生とか言ってたな」
おろおろしているシャインを前にしている武蔵にカチーナは視線を向ける。背は高いわけでは無いが、戦う為に作りこまれた筋肉をしており、体もふくよかだがデブではなくそれ全身が筋肉の鎧である。穏やかで包容力もある武蔵を見つめてカチーナはぼそりと呟いた。
「老けてないか?」
「……いやその」
「身も蓋もなさすぎでは?」
武蔵が老けてるというカチーナにクスハとブリットは何とも言えない表情でそう呟いていた。
「お、パイロット出てきたみたいだぜ。2人とも」
おろおろしているシャインとちょっと落ち込んでいる武蔵を見て、アラドが話題をすり変えるようにR-GUNのほうを指差す。
「あの方がパイロットですね」
「女の子なんだなあ……あれ、武蔵さん。なんで小さくなるんっすか?」
R-GUNから降りてきたマイを見て、武蔵が巨体を小さくするのを見てアラドがそう尋ねる。
「イヤ、前にすれ違ったんだけどさ、めっちゃ怖がられたんだよな」
「武蔵を怖がったの? 信じられない」
「見る目がありませんわね」
武蔵は見るからに穏やかだ。そんな武蔵を怖がったと聞いてシャインとラトゥー二が信じられないと言う表情を浮かべる。
「うん? クスハどうかしたか?」
「あ、うん。ブリット君、なんでもないよ?」
マイから見えないように身体を小さくする武蔵と打って変わり怪訝そうな顔をするクスハを見てブリットがどうかしたか? と尋ねるがクスハはなんでもないと返事を返す。だがその視線はマイをジッと見つめていて、何か思う事があるような素振りを見せていた。
「まぁ良いや、ちょっと声を掛けてこよっと」
「私も行きますわ、武蔵様も行きましょう?」
「ええ、オイラは良いよ。怖がられるって」
「大丈夫ですわよ、行きましょう」
嫌がる武蔵の手をシャインが握り、アラドと共に武蔵達はマイの元へと向かう。
「ひうッ」
武蔵に気付いたマイは上擦った声を上げてR-GUNの足の方に隠れる。
「ほらオイラめっちゃ怖がられてるじゃん……」
顔を見るだけで逃げられ、武蔵はかなり落ち込んだ素振りを見せる。
「おーい、武蔵さんは怖くないぞー。出て来いよ」
「そうですわよ、なんで武蔵様を怖がるんですか」
アラドとシャインが声を掛けるとおずおずとマイが姿を見せるが、やはり武蔵を怖がってるような素振りを見せる。
「俺、アラド・バランガ、君の名前は?」
「マイ……マイ・コバヤシ」
とりあえずという感じでアラドが自己紹介をし、名前を尋ねるとマイはびくびくとした素振りでマイも自己紹介を返す。だがコバヤシの名前に格納庫にいたクスハやカチーナ達に小さな動揺が広がる。
(おい、どういうことだ? アヤの妹って死んだはずじゃねえのか?)
(そ、その筈なんですが……植物状態か何かで入院していたのではないでしょうか?)
死んでいるはずのマイがいる、それとも死んでいなかったのかと困惑するカチーナ達。しかしそれに気付かないシャインはマイに方に一歩踏み出す。
「私はシャイン・ハウゼンです。それでなんで貴女は武蔵様を怖がるのですか?」
「……え、えっと……良く判らない」
「良く判らないのならば武蔵様を怖がる必要はありませんわよ。とっても優しい人ですから」
逃げようとするマイをシャインが捕まえて、半ば引っ張るように武蔵の前に連れて行く。
「あー巴武蔵だ。前も言ったけど改めてよろしく」
「よ、よろしく……ま、マイです」
互いに何とも言えない様子で自己紹介をする武蔵とマイ。普段朗らかな武蔵も脅えているマイを見てどうすれば良いか判らない様子だし、マイはマイで脅えているしと微妙な雰囲気となっている。
「それじゃあ行きましょう」
「ど、どこへ?」
その微妙な空気を嫌ったシャインはマイの手を取り行きましょうと口にする。どこへ連れて行こうというのかと困惑するマイにシャインは笑みを浮かべ、武蔵とアラドに視線を向ける。
「ハガネの中をマイに案内しようと思うのですがどうでしょう?」
「良いなそれ! ここには俺達ぐらいの歳のパイロットって少ないし、友達になろうぜ」
「私もそう思いますわ。でもまずは……武蔵様を怖がらないようになりましょうね」
「え、あ……うん」
シャインの妙な迫力に頷いてしまったマイ。それを了承と受け取りシャインは笑みを浮かべ、ラトゥーニに手招きする。
「ラトゥーニ、貴女もおいでなさいませ」
「は、はい……」
楽しそうに笑うシャインに駄目とは言えず、ラトゥーニも武蔵、アラド達と共にマイを案内する為に格納庫を後にするの。
「やっぱりよ、あのガキ……どっかで見たような気がするぜ……どこだったかな」
カチーナは顎の下に手を当てて、マイの姿をどこかで見たことがあると呟き思い出そうとし、急に顔を上げた。
「そうだ! オペレーションSRWの時だッ! あいつ、エアロゲイターのレビ・トーラーに似てやがるぜ!」
映像にノイズが走っており、鮮明ではなかったからうろ覚えだったがカチーナはマイがレビに似ていると声を上げる。
「あン時、 奴の映像はハッキリしてかなったが、 あの顔立ちは……資料室にあの時の……「カチーナ中尉、私はそうは思いません」あん? クスハ」
レビに似ているとその証拠を探そうとするカチーナにクスハが待ったを掛けた。
「レビ・トーラーはあの時に死んだんです。だからあの子はアヤ大尉の妹……それで良くありませんか?」
「クスハ……お前……あ、ああ。そうだな、きっと俺達の考え違いですよカチーナ中尉」
クスハの悲しそうな顔を見てブリットもクスハの意見に同意する。その姿を見てカチーナは頭を掻いて2人に背を向けた。
「どうもあたしも寝不足かね。見間違えたみたいだな、とりあえずアヤの奴が何かを言うまで待つことにでもするぜ」
ここで追求することは容易いが、カチーナはブリットとクスハの意を汲んで口を噤む事にし、仮眠でも取るかと言って格納庫を後にする。
「俺も少し休む事にするよ。クスハも抱え込みすぎるなよ?」
「う、うん……分かった」
そう笑うブリットに頷き、クスハも少し休息をとる為に格納庫を後にするのだった……
ハガネのダイテツの艦長室にはシロガネのリー、ヒリュウ改のレフィーナの艦長室の映像が映し出され、ヴィレッタとイングラムの姿があった。機密会議の議題はイングラムのMIAの解除及び、復隊をどうするかという事。そしてR-GUNのパイロットに関しての事だ。
「まずはレイカーはイングラム少佐の復隊を望んではいないと言う事を理解して欲しい」
「ええ、分かっています。俺は存在するが、存在しないという扱いで構いませんよ」
ダイテツの切り出しにイングラムは分かっていると柔和な笑みを浮かべて返事を返す。
『ダイテツ中佐、それはどういうことなのでしょうか? 私はイングラム少佐には再び復帰して欲しいと思っているのですが……』
「イングラム少佐のR-SWORDは旧西暦のゲッター炉心を搭載している。軍に復帰されてはそれらを徴収しようと動く者もいる。更に
L5戦役で操られていたこともあり、復帰には多大なリスクが付き纏う事になる」
「監視でもつけられては困るのですよ。リー中佐、お気持ちだけ受け取っておきます」
ラドラやコウキ、そしてイングラムはレイカーの戦時特例で庇われているが、それぞれが旧西暦の遺産を持つ者だ。今の情勢で復帰させるにはリスクがありすぎると考えるのは当然の事であり、仮に復帰するにも百鬼帝国を倒すまでは無理だろうとダイテツは話を続ける。
『考えが甘かったです。申し訳ありません』
「構わない、ワシも出来ればイングラム少佐には復帰して貰いたいと思っているからな」
今は時期尚早だが、いずれイングラムには連邦に復帰してもらいSRXチームの指揮を再びとってほしいというのはダイテツの嘘偽りのない気持ちであった。
『そう言えば量産型Rシリーズの残骸を回収した後に破棄したと報告がありましたが、修理をするのは難しかったのですか?』
レフィーナの問いかけに量産型Rシリーズの残骸の回収作業を行なっていたイングラムは少しの躊躇いの後に口を開いた。
「量産型Rシリーズが念動力を使用できた理由が残骸を回収したことで明らかになりました」
『それならば尚の事何故廃棄したのだ? その機構を流用出来れば念動力を武装として転化出来たのではないか?』
リーの問いかけのもっともだ。量産型エルアインスとエルドライは全機念動力を使用していた。その上インベーダーも使用できたという事はパイロットではなく、機体能力である。それを分析し、量産する事で友軍全体の強化が望めるのに何故と問いかけたリーにイングラムは小さな声で呟いた。
「ブラックボックスは念動力者の脳がクローニングされたもので、確認出来た物はにはイニシャルのみ刻印されており、それぞれ「K・M」「B・L」「R・G」「R・H」と」
『まさか……それは』
「間違いなく平行世界のクスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールド、レオナ・ガーシュタイン、リョウト・ヒカワの4名でしょう。DNAサンプルと87%合致しております。残りの13%はリュウセイ・ダテの脳データです」
『そ、そこまで追詰められていたのですか……』
『余りにも非人道的すぎる……こんな物を公表するわけには……』
複数の念動力者の脳を複製し、それを組み合わせ機械でコントロールする。それが量産型Rシリーズが念動力を使用できた訳である。
「この件に関しては緘口令を引く、決して公言せぬように……次に大尉。R-GUNの状況はどうなっている?」
これ以上ブラックボックスについて議論するつもりのないダイテツはすぐに議題をすり替え、R-GUNについての説明をヴィレッタに求める。
「は、現在R-GUNはコネクトパーツの調整中の為HTBキャノンは一時使用不可となります。更にT-LINKセンサー回りの強化も必要になるのでプランタジネットには間に合わないかと」
ヴィレッタの報告を聞いてレフィーナが不思議そうな顔をした。
『何故T-LINKセンサー回りも強化する必要があるのですか?』
「それなのですが、マイとアヤの2人でもリュウセイの念動力には届かないからです。リュウセイの念動力に引っ張られないように様々な対策が必要となります」
リュウセイの念動力に合わせようとすればマイとアヤの負担が大きくなるので、それを避けるための調整だとヴィレッタは説明する。
『マイ曹長か……うむ、彼女の事情は知っている。私としては庇うつもりではあるが……ううむ』
『確かにこれは思うようには行かないと思いますよ』
マイ=レビに辿り着くものは必ずいる。ケンゾウの意向で伝えるつもりはないダイテツ達だが遅かれ早かれマイ=レビに辿り着く者がいるだろう。
「あの戦いで……エアロゲイターに明確な人の意思というものは存在しなかった。結局、我々が戦っていた相手はジュデッカという機械に操られていた地球人だった……」
レビ、ゲーザ、ガルイン、アタッド……それら全てはエアロゲイターに操られていたイングラムがネビーイームに連れ去った地球人であり、異星人の侵略などではなく操られた地球人との戦いだった。
「……それはネビーイーム、そしてジュデッカの役割だった。俺も罪がない訳ではない」
ジュデッカの、いやユーゼスの枷に縛られ操られたイングラムもまたレビ達と同罪なのだ。こうして我が物顔で伊豆基地にいるが、勿論イングラムを憎んでいる者だって伊豆基地に存在しないわけではない。
「……過去の罪は消せん。 だがそれを償う事は出来るはずだ。 大尉、そして少佐お前達のようにな」
ヴィレッタもまたエアロゲイターとして地球に攻撃を仕掛けていた1人であり、そしてイングラムの意志を継いでリュウセイ達を護ろうとしたが、それでも地球を攻めたという過去は消えない。
「ワシは常々思っておる……ワシの艦とヒリュウには不思議な縁があると……かつて敵対していた者が我らの同胞となり、共に戦う……。 そういう縁のある艦だ。だから……真実を打ち明ける事を恐れるな」
マイがレビであると言う事を知られ迫害される事をケンゾウは恐れている。ダイテツも人の親だからこそその気持ちは分かる、だが偽りの絆は綻びを生み、そして何れは大きな争いの火種となる。
「ワシの部下達にはそれを受け入れる度量がある……ワシはそう信じておる」
『勿論私の部下達もだ。不安もあるだろう、恐怖もあるだろう。だが……大丈夫だ、同じ艦に乗る仲間を私は信じる』
『私もです。どうか、抱え込みすぎないでください』
何もかも背負う必要も、隠す必要も無いのだと、時を待ちたいという気持ちも分かる。だが逃げるなと言うダイテツ達の言葉にヴィレッタとイングラムは小さく頷くのだった……。
アンジュルグのコックピットの中でラミアはレモンからの指示を受けていた。それはラミアがシャドウミラーへと戻るという事を意味していた……。
『……という訳で指令は以上よ。 理解してくれたかしら?』
「了解しちゃいましてございます。 そちらのタイミングに合わせて……ハガネ、ヒリュウ改、シロガネを制圧したりなんかしやがればよろしいのね」
ラミアに与えられた命令はハガネ、ヒリュウ改、シロガネの制圧。その後にヴィンデル達がダイテツ達と交渉をする手筈となっていると聞き、問答無用で殺さないと言う事にラミアはひそかに安堵していた。
「ゲッターロボと武蔵は……」
『そっちはW-16が何とかするわ。だから貴女は心配しないでラミア』
自分をラミアと呼び、エキドナをW-16と呼ぶレモン。自分を呼ぶ中に親しさを感じられたのに、W-16と呼んだレモンの言葉の中に冷たさを感じ、ラミアは胸が痛んだ。
「……レモン様。質問をしてしまいましてよろしいのですのことですか?」
『構わないわ、自分で考えてそして私に聞きたいことがあるのでしょう? どうしたのラミア?』
どこまでも優しい声と慈愛に満ちた視線……ラミアは気付く筈もないが、その視線は紛れもなく母としての顔だった。
「何故エキドナをW-16と呼ぶのですか? 貴女は前はエキドナと呼んでいた筈です」
『……そうね、そうだわ。だけど……彼女はエキドナが嫌だと言うの、私は自分で考えたくない、私達からの命令で動きたいって……ラミア、貴女のように自分で考えて自分で行動するのが怖いそうなのよ』
エキドナはレモンが求める存在になれなかった。だからW-16と呼ぶのだと感じ、ラミアは自分も何かを間違えていればW-17と呼ばれていたのだと悟り、その身体を抱いて小さく震えた。
『大丈夫? 怖いのかしら? ラミア』
「いえ、大丈夫です。もう1つ聞いても良いですか? これを最後の質問にしますので」
『構わないわ、何を聞きたいのかしら?』
優しく問いかけてくるレモンの声を聞いて、ラミアは自分の唇が急速に乾くのを感じた。無意識に舌で唇を舐めて意を決した表情で問いかける。
「戦争の無い世界に望まれた子供と、戦争をする為に生まれた子供……その違いは何でございますのでしょうですか?」
戦争のない世界を生きる事を望まれているジャーダとガーネットの子供。
それに対してラミアは戦争をする為に生まれた子供。
同じ子供だが、そこに何の違いがあるのかとラミアはレモンに問いかけた。
『……そうね、それはとても難しいわラミア。だからこの話は今回の指令を遂行した後で……ゆっくり話し合いましょう?』
「レモン様今答えて下さい、お願いします。それさえ聞ければ……私は……私は……ッ」
煙に巻こうとしたレモンにラミアは答えてくれと震える声で懇願する。その言葉を聞いてレモンは深く溜め息を吐いた。
『……私も知りたいわ。私にとって貴女達は大切な子供、出来れば平和な世界で生きて欲しいって思ってる。だけど……ヴィンデル達はそうじゃない……私はどうすれば良かったのかしらね……』
「レモン様にも分からないことがあるのですか?」
『そんなこと沢山あるわ。だから……ラミア、これが終わったらゆっくり話し合いましょう。そしてその上で……どうするか貴女の言葉で私に教えて?』
考えて考えて、悩んでそして自分の出した答えを聞かせてくれというレモンにラミアは頷いた。
「……了解いたしたりしました……指令の遂行を最優先にしちゃいますのです……」
その答えを、レモンとラミアが求め続ける答えを得る為に指令を遂行するというラミア。
『そうね、自分で考えて最も正しいと思う選択をしなさい。ラミア』
忠実に動こうとするラミア。だがレモンはそれを良しとしようとせず、自分で考えるのだという言葉を投げかけ通信の電源を今度こそ切った。
「……正しいと思う事……1番正しい……行かないと」
作戦実行までの時間は残されていない、それでもその前にやらなくてはならない事があるとラミアはアンジュルグのコックピットを飛び出し、どこかへと駆けて行く。
「ラミア、いや、W-17……何をしに来た」
ライガー号にもぐりこんでいたエキドナの元にラミアはやってきていた、どうしてもエキドナに問いかけなければならない事があったからだ。
「……エキドナ、お前はそれで良いのか?」
「……良いも何も無い、私達は与えられた指令を成し遂げれば良いんだ」
「だが武「良いから! 早くアンジュルグに行け! 私をこれ以上迷わせないでくれッ!」……すまない、そんなつもりではなかったんだ」
悲壮な表情で叫ぶエキドナにラミアは謝罪の言葉を口にし、エキドナに負けないほどの悲壮な表情を浮かべ、アンジュルグへと背を向けて歩き出した。その姿を感情が込められていない無機質な瞳で見つめる何者かの姿があり、無人となったアンジュルグのコックピットにその身体を滑り込ませる。
「……妹への姉からの贈り物だよ。どうか、悔い無き選択を……」
アンジュルグに潜り込んだ何者かは素早くアンジュルグのプログラムの一部を書き換え、何事も無かったかのようにその場を後にするのだった。
第143話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その2へ続く
今回はシナリオデモですがかなり長くなりました。ここは盛り上がるところですし、テキストも多いところですしね。
エキドナとラミアを対照的に書いたつもりですが、上手く表現出来たかはちょっと不安な所ではあります。
この後は紅の幻想ですが。紅の幻想は後で回想って感じでやるつもりなのでシナリオを飛ばすことになりますのでご了承願いします。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い