第143話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その2
マイの案内を終えた武蔵はシャイン達と別れ、格納庫のコンテナの上に腰掛けていた。その余りに真剣な表情に整備兵やキョウスケ達も声を掛けれない中、1人だけがその空気に気付かないという様子で悠々と武蔵へと近づいた。自称マリオンの弟子、頭の良い馬鹿、マオ社の核弾頭、歩くトラブルメイカー等と短い間に様々な渾名がつけられたその少女の名はラルトス・パサートと言った。
「やぁやぁ、武蔵。どうかしたのかイ?」
「ん? ラルちゃんか、元気?」
ラルトスはいつもの瓶底眼鏡に楽しそうな笑みを口元を浮かべ、ダボダボの袖を振り楽しそうに笑う。
「勿論ラルちゃんは元気だヨー♪」
にっししっと言いながら楽しくてしょうがないと言う様子のラルトスに武蔵も苦笑する。
「変な服着てんな」
「んふふ、これは萌え袖というのだヨ。武蔵、どうだイ? 萌えるかイ」
一部の性癖の人間には突き刺さる萌え袖だが、旧西暦の価値観を持つ武蔵には新西暦の、しかもニッチな性癖は理解出来なかった。
「燃える? 火でも出るのか? 服に火炎放射器を仕込むとか凄い事を考えるな」
「あーうン。違うヨ」
萌えるを燃えると解釈した武蔵にラルトスは肩を落とし、首を左右に振った。
「それデ、武蔵はどうしたのかナ? かナ?」
「いやさあ、なんか嫌な予感するし、ゲッターはフルパワーでうごかねぇし、どうするかなあって」
「自分1人で何とかする気かイ?」
ほんの少し、ラルトスの言葉にトゲが混じるが武蔵はまさかと言って肩を竦めた。
「オイラは頭も良くねぇし、運動神経もそこまで高いわけじゃない、自分だけで何でも出来るなんて驕れねえよ。だから皆に力を借りるのさ」
「……んふふふふ、そうだネ。それが1番よ、自分だけに出来る事なんて高が知れてるからね」
武蔵の言葉を聞いて雰囲気と口調が普段の物と変わるラルトス。イントネーションも変わり、落ち着いた大人の女性というべき雰囲気をラルトスは身に纏っていた。
「ん? ラルちゃん。ちょっと雰囲気変わった?」
「ンン? なんのことかナ? ラルちゃん、わかんなーイ」
だがそれは一瞬の事でその雰囲気は霧散し、いつものお茶らけた少女の仮面をラルトスは被って笑う。他の人間ならば悪ふざけかと流しただろうが武蔵は違っていた。ラルトスの気配に、その口調の中にある人物を感じていた。
「あのさ……なんだッ!?」
その事を問い質そうとした武蔵だが、その言葉は最後まで発せられる事は無く伊豆基地に鳴り響いた警報にその顔を上げる。
「行きなヨ、頑張ってネ」
「ああ、ラルちゃんも避難しなよッ!!」
避難するようにラルトスに声を掛け、ゲットマシンに向かって駆けて行く武蔵をラルトスは萌え袖を振り見送るだが、瓶底眼鏡の奥から光る瞳は剣呑な光を宿しているのだった……。
伊豆基地に鳴り響いた緊急警報。それに続くようにハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が浮上し臨戦態勢に入る。
『空間転移反応あり! 緊急出撃を急いでくださいッ! 繰り返します、空間転移反応あり! 緊急出撃を急いでくださいッ!』
伊豆基地のオペレーターの声を聞きながらリーはブリッジへと全力で走る。
「遅れてすまない! 状況はどうなっている!」
ブリッジの隊員に謝罪しながら状況報告を求めるリーの目の前で巨大な戦艦が空間転移で出現する。流線型の丸みを帯びた独特な形状をした緑色をした巨大戦艦にリーは目を見開いた。
「なんだあの戦艦は……あんな物は見たことがないぞッ!? インスペクターの物か!?」
スペースノア級、ヒリュウ級、ライノセラス級、キラーホエール級など地球の戦艦とは一線を隔すデザインのトライロバイト級「ギャンランド」にリーは驚きの声を上げる。
「艦長、出撃準備が出来ました!」
「よし! 各機出撃ッ! ハガネ、ヒリュウ改と協力し所属不明艦を迎撃するッ!」
「「「了解ッ!」」」
リーの指示が飛び、シロガネのクルーが臨戦態勢に入り、PTが次々と出撃する。
『全艦、迎撃態勢ッ! PT各機、緊急発進ッ!!』
『伊豆基地を落とされるわけには行きません! 各員出撃してくださいッ!』
ダイテツ、レフィーナの指示も続き、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の前にアルトアイゼン・ギーガやヴァイスリッター改を始めとしたPT、そしてゲッターD2やグルンガスト、ジガンスクード・ドゥロ、サイバスターと言った特機・準特機も次々出撃する。
「武蔵、出撃して大丈夫なのか?」
『なんとか。ただ、普段みたいに戦うのは無理ですかね。とは言えジッともしてられないですしね』
エネルギーが枯渇しているゲッターD2は地面に着地しダブルトマホークを構えているが、その背中の翼は閉じられたままで普段の威圧感や存在感は鳴りを潜めている。
『武蔵、無茶しちゃ駄目だからね』
『ええ、僕達もいますから無理は駄目ですよ』
『分かってるって、オイラも馬鹿じゃないからな。頼りにさせて貰いますよ』
武蔵の声は明るいが、その明るさが逆にキョウスケに不信感を抱かせた。
(この状況で出撃する……いや、しなければならない理由があったのか)
エネルギーが枯渇しビームも使えず、ゲッターチェンジも難しい状態のドラゴンで何故無理をして出てきたのか、その理由はすぐに明らかになった。
『……』
『……ッ!!』
ギャンランドも部隊を展開するが、その機体を見てキョウスケ達の間に驚きが広がる。
「あれは……なるほど、亡霊達の本隊ということか」
『……そうみたいねぇ。それにしても……まぁまぁ随分と壮観ねぇ。まるで私達みたいじゃない? キョウスケ』
「ああ。俺もそう思う」
ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そしてソウルゲインに酷似しているが、それよりも簡略化されているアースゲイン、ラーズアングリフ・ランドグリーズ……そして。
『おい、あれはッ!』
『間違いないよ、エルアインスッ!』
『ということは、あいつらは未来から来た連中って事か!』
『そう見るしかないな、あの姿を見ればな』
エルアインス、エルツヴァイ、エルドライの3体2セット計6体を見てマサキ達の目の前の戦艦がなんなのかを理解する。ソウルゲインとアクセル・アルマー、スレードゲルミルとウォーダン・ユミルと言った恐ろしい強敵達の姿が脳裏を過ぎる。
『イングラム、あいつらは……』
『カイ少佐、ええ、あいつらが……いや、思い出した。シャドウミラー……平行世界の未来で俺達と共にインベーダー、アインストと戦い、この世界へと逃げてきた者達だ』
イングラムからの言葉を聞いてキョウスケ達に緊張が走る。その姿を見て、もしやと思っていたがこうして肯定されると驚きがどうしても勝る。
「未来の軍隊だろうと関係はない、俺達の前に立ち塞がると言うのならば撃ち貫くのみ……包囲網を切り開く……ッ! 行くぞッ!」
「……動くなッ! 全機に告ぐ。 直ちに武装解除して貰おう」
キョウスケの合図でリュウセイ達が動き出そうとした時、アンジュルグがミラージュソードの切っ先をハガネに向け動くなと広域通信で叫んだ。
『わお! ラ、ラミアちゃんッ!? 何してるのッ!?』
『武装解除だとッ!? ラミア、てめえ何を言ってやがるッ!』
ハガネのブリッジにミラージュソードを突きつけられ、キョウスケ達は動くことを完全に封じられた。通信でラミアにどう言う事だと次々と問いかけてくる仲間の声にラミアは沈鬱そうに眉を顰めるがミラージュソードの切っ先をハガネのブリッジから外す事はなかった。
『そうか、それがお前の選択かラミア』
「……イングラム大佐……はい、その通りでございます」
『後悔するぞ、今ならまだ引き返せる』
「それは出来ません。これが私の任務だからなのです」
広域通信でのイングラムとラミアのやり取り。その会話は互いを知り合いのような響きがあった。
『イングラム! どういうことだ説明しろッ!』
『……俺も今思いだしたんだ。ラミア……こいつはシャドウミラーの構成員だ。とは言っても、俺も武蔵も顔は知らなかった』
『……そうすっすね、声と名前だけでしたからね。ラミアさん、どうしても命令に従うのかい?』
ラミアと武蔵、イングラムの接点は少ない、なんせ転移の前の数分間だけだ。名前はうっすらと覚えていても、どうしても繋がりに確信を持てなかった。
「それが私の存在理由なのだ。武蔵、イングラム大佐。私は与えられた命令を遂行する……それだけだ。だがお前達の事を思って言う、速やかに武装解除しろ。アンジュルグには自爆装置が搭載されている……ただの爆薬ではない。この距離ならば……お前達は疎か、ハガネやシロガネ、ヒリュウ改も撃沈出来る」
淡々とした口調で告げるラミアの言葉にダイテツ達の間にも驚愕が広がる。
「ここまで言えば、お前達が取るべき行動は……もう分かる筈だ。さぁ武装解除を」
どこまでも淡々と武装解除を求めるラミア。その声に人間性は感じられず、機械の様な印象をアラド達は受けた。
『なろおッ! こうなったら……なっ!?』
ゲッターならばアンジュルグが自爆する前に捕獲出来ると考えた武蔵がゲッターを動かそうとした瞬間、ポセイドン号にこの場にいないはずの女の声が響いた。
『……すまない武蔵、許してくれ』
『な、え、エキドナさんッ!?』
ドラゴンが動き出そうとした瞬間、そのカメラアイから光が消え、紅い光が灯りその翼を広げ、アルトアイゼン・ギーガ達を纏めて弾き飛ばす。
『うあッ!?』
『む、武蔵!? 何をッ!』
『わ、わからねぇ! ゲッターがオイラの言う事を聞かないッ!』
バトルウィングを振り回し、アルトアイゼン・ギーガ達を弾き飛ばしたドラゴンは浮かび上がりギャンランドとハガネ達の間へと移動する。
『ラミア。ゲッターロボは確保した』
「そうか、後は任せてくれエキドナ。お前はゲッターロボと武蔵を連れて帰る事を優先しろ」
広域通信で全員の機体のコックピットに響いたのは紛れも無くエキドナの声だったが、その声は冷たく人間のような暖かさを感じさせない無機質な声なのだった……。
レモンがドラゴンに仕掛けていた仕掛けは単純だが、強力な物だった。ゲッターロボの操縦というのは本来はドラゴンならばドラゴン号、ライガーならばライガー号、ポセイドンならポセイドン号と先頭機体が担当することになっている。だが制御系はドラゴン号、あるいはドラゴン号に近い機体の制御が優先されるシステムとなっており、レモンの仕掛けとはポセイドン号からのドラゴン号への遠隔操作シグナルを無効化すると言う物だった。よってライガー号に乗り込んでいるエキドナがドラゴンのコントロールを奪取していたのだ。
『え、エキドナ? 貴女、何をしているのか判っているのですか!!』
フェアリオン・タイプGのコックピットからシャインの怒りに満ちた怒声が木霊する。
「分かっているつもりだ。憎まれる事も、恨まれる事も覚悟している。それでも私に成し遂げなければならない命令がある。記憶を失い随分遠回りすることになったがな」
記憶を失う……それは武蔵とイングラムと同様だった。だがエキドナには武蔵とイングラムのような強烈なバックボーンが無く、稼動年数……即ち4~6歳前後を元に精神と記憶が再構築され、それがあのエキドナちゃんと呼ばれる幼女の状態だったのだ。
『お前もラミアと同じという事か』
「その通りだ、ベーオウルフ。いや、キョウスケ・ナンブ」
『あーらら……武蔵も知らないで助けちゃってたってことなのねん』
軽い口調だが、その言葉に強い怒りを抱いているエクセレンの声を聞いてエキドナは小さく笑う。
(そうだ、これで良い、これが私の罪だ)
命令に従わないという道もあった。それでも命令に従い、憎まれ恨まれる事を良しとしたのだ。
「許してくれとは言わない。憎んでくれても構わない、それでも私は、与えられた命令を成し遂げる」
『……それは私も同じだ。許されたいとは思っていない、私達がお前達を裏切ったのは事実だからな』
ラミアもエキドナと同様にキョウスケ達との関係を心地よいと思っていた。だがそれよりも大事な創造主であるレモンの命令を優先した……身体は大人でも、精神が幼い子供だからこそ母であるレモンの指示を優先してしまったとも言える。
『空間転移反応あり! 熱源特機クラスです! 数……4! 来ますッ!!!』
オペレーターの報告に続き伊豆基地上空に4体の特機が転移によってその姿を現した。
『あいつ、あの時のッ!』
『スレードゲルミル……ウォーダンかッ!』
『おいおい、マジか、あいつはグルンガストじゃねえかッ!』
『……ソウルゲイン。アクセルか』
ツヴァイザーゲイン、ソウルゲイン、スレードゲルミル、そしてグルンガストとヴァイスセイヴァーの5機が悠々と転移で伊豆基地へと舞い降りる。
「ご苦労だった、W16、そしてW17」
ツヴァイザーゲインから響くヴィンデルの声は労うような言葉を口にしているが見下している響きが強かった。しかし、それよりも名前ではなく番号で呼ばれ、それに返事を返したラミアとエキドナに悲しみを伴った驚きが広がった。
『W17!? そ、それって………ラミアさんとエキドナさんの事なんですか!?』
『人を番号で呼びやがって! てめえ何様だッ!』
番号で呼ばれたエキドナとラミアに悲しみを持った声で問いかけるのはクスハであり、そして怒りを抱きヴィンデルに怒鳴り声を上げたのはアラドだった。スクールで番号で呼ばれ、名前を持たなかったアラドの怒りは凄まじく、ラトゥーニもまた沈鬱そうに俯いた。
『そう……それが私の……いや、私達の本当の名称だ』
『戦う為に作り出された人造人間、その16番目と17番目、それが私達だ』
戦う為に作り出された人造人間と告げたエキドナ。その言葉に嘘は感じられず、武蔵を裏切ったエキドナに怒りを抱いていたシャインでさえも言葉を失った。
『ヴィンデル・マウザー。隠れんぼは終わりか?』
「これはこれはイングラム大佐、ええ、もう隠れるのは終わりです。貴方達が記憶を失っていてくれたお蔭で私達は随分と動きやすかったですよ」
イングラムを挑発するように返事をするヴィンデルの操るツヴァイザーゲインが手を上げると、エルアインス達が臨戦態勢に入る。
「W-16、お前はギャンランドに帰還しろ。大事なゲストだ、丁寧に扱え」
『了解。すまないな、武蔵。同行して貰うぞ』
『……くそ……』
ヴィンデルの指示でエキドナはドラゴンを拙い動きながら操り、武蔵の悔しそうな言葉を最後にゲッターD2の姿はギャンランドの中へと消えていった。
『武蔵様!』
『動くなと言ったはずだ。死にたいのか』
ゲッターD2の姿が見えなくなり、反射的に動き出そうとしたシャインとフェアリオン・タイプGにミラージュソードを向けたアンジュルグが動くなと警告をする。
「さてとでは改めて、私の名はヴィンデル。ヴィンデル・マウザー大佐、地球連邦特殊部隊シャドウミラーの指揮官だ。会えて光栄だよ、連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズ隊長……キョウスケ・ナンブ大尉」
『なるほど……武蔵達から聞いていたが、平行世界の未来の俺とやらの名前か、それはもう聞き飽きた』
キョウスケの返答にヴィンデルは一瞬驚いたが、それも一瞬の事ですぐに口元に笑みを浮かべる。
「こちら側ではさしたる力を持たない……とは聞いている。化け物になる前に死んでおいたらどうだ? その方が地球の為になる」
『悪いが俺は化け物なんぞになるつもりはない、それよりも負け恥を晒す貴様らは随分と無様だな』
「その負けん気は買うが、今の状況を見たらどうだ?」
キョウスケの挑発にヴィンデルは挑発を返す。伊豆基地の回りはシャドウミラーの機体で囲まれ、ハガネ達はアンジュルグによって抑えられている。自爆を躊躇わないラミアを考えれば完全に詰みの状況だ。ヴィンデルは勝利を確信していたが、レモンは違っていた。
(あの子はどんな選択をするのかしら)
ハガネのブリッジを制圧し、アンジュルグを遠隔操作で自爆させろとレモンは指示を出していた。だが蓋を開ければアンジュルグで外から脅しを掛けている。それはレモンの計画とは異なる事だし、鹵獲や迎撃もされる可能性がある。それなのに外から制圧している……それを見てレモンは楽しそうに微笑んだ。自分で考えて1番正しい選択をしろと言ったが、ラミアがどんな選択をするのかが楽しみで楽しみでしょうがなかった。
(それと……彼女もね)
ヴァイスリッター改に乗っているエクセレン・ブロウニング。その存在もレモンにとっては何よりも興味深く、そしてどうなるのか楽しみでしょうがないことでもあった。レモンにとってシャドウミラーに属しているのは恋人であるアクセルがいる事とWナンバーズを作るのにヴィンデルが出資してくれたからだが、今はその心はどちらと言えば傍観者という立ち位置に近い。だからこそラミアが不審な動きをしていてもそれを口にする事はなく、ただただ現状を静観していた。
「では……返答を聞こうか、ダイテツ・ミナセ中佐。 武装解除に応じるか、否か?」
ヴィンデルの問いかけにダイテツ達は沈黙を貫く、圧倒的に不利な状況だがこうして武装解除を望むという事はヴィンデル達にとってもそれは最終手段であると言うことだ。あえて沈黙を貫く事でヴィンデルからその目的を聞き出そうとダイテツは考えていた。
『こちらは伊豆基地司令、レイカー・ランドルフだ。ヴィンデル・マウザー大佐、貴官の目的は何だ? 現在の地球の状況を知りつつこのような暴挙に出ているのか?』
「暴挙……確かにその通りだな、百鬼帝国、インスペクター、アインストにインベーダー……地球は窮地に追い込まれていると言っても良いだろうな」
レイカーの問いかけにヴィンデルは自分の非を僅かに認める。仮にも地球連邦の軍人だった男だ、こうして暴挙に出たのには何か理由があると考えていた。
『こちらは貴官らが百鬼帝国やインスペクターと戦うというのならば共闘する事とて可能だと考えている。ゆえに貴官らの目的を聞きたい。何ゆえこのような暴挙に出たのだ、ヴィンデル大佐』
レイカーの問いかけを聞いてヴィンデルは小さく笑う、自分達の世界にはいなかった軍人だ。このような男が居れば自分達の世界も少しは違ったのではなかろうかと自嘲気味に笑う。
「貴方の問いに答えよう。我らの目的は1つ……理想の世界を創る事だ」
『理想の世界? それは自分達が指導者となると言う事か? 武力を持って何もかも支配すると言うのならばそれは世界征服と大差ないぞ』
「言い方を変えればそうかも知れん。だが、何を以て理想の世界とするかは世界を創る者のみが決定する権利を持つとは思わないか? そして、世界征服はその権利を手にし、行使する為の過程に過ぎない」
世界征服も、争いも自分達の理想の世界を作るための過程であり、目的ではないとヴィンデルは告げる。その声を聞いてレイカーは眉を顰めた、この短いやり取りでヴィンデルという人間についてレイカーはある程度の理解を得ていたからだ。
(なんと危うい男だ……しかしそれでいて頭が切れる……)
夢想家ではない、確固たる信念を持ち人を導く資質がある。ただその言葉の中には狂気が見え隠れしていることをレイカーは敏感に感じ取っていた。
『御託はいいッ! てめえの理想とやらを言ってみろッ!』
回りくどい言い回しにカチーナが怒りを露にしヴィンデルの理想を言えと叫ぶ、その声を聞いてツヴァイザーゲインはやれやれと言わんばかりに肩を竦めるジェスチャーを行い、それが更にカチーナの怒りに油を注ぐ事になる。だがその怒りはヴィンデルの次の言葉に急速に冷えることになった。正確には人の姿をしているがヴィンデルが人に思えず、何を言っているのか理解出来なかったと言っても良いだろう。
「……永遠の闘争……絶えず争いが行われている世界……それが我々の理想の世界だ」
自信満々にそれこそが理想の世界だとヴィンデルは言い放った。
『ふざけるなッ!!! そのような世界のどこが理想の世界だッ!!! 貴様自分が何を言っているのか理解しているのか! 罪なき者を戦火に巻き込むというのかッ!!!』
ヴィンデルの言葉に真っ先に怒りを露にしたのはリーだった。民間人を守り、地球を救う、それこそが軍人の責務であり成すべきことだ。ヴィンデルの理想の世界、それはリーにとって最も唾棄するべき物だった。
『その通りだ! どこが理想の世界だ! てめえ、狂ってんのかッ!!』
『どうすればそんな結論に辿り着くのかねぇ。とにかくてめえらと俺達が相容れないって事はよーっく分かったぜ』
戦争を無くす為に、平和な世界を作ために戦っているハガネのクルー達はヴィンデルの理想は到底受け入れる物ではなかった。だがコウキとラドラはその理想が分からない訳ではなかった。
『なるほどな、お前の理想の世界とは破壊と創造を意味していると言うのか……分からんでもないな』
『コウキ!? 何を言ってるの!?』
『コウキ博士!?』
鉄甲鬼からの発せられたコウキの言葉にツグミとアイビスが驚きの声を上げる。コウキが何故そんなことを言い出したのか理解出来なかったからだ。
「ほう? 君は私の理想に共感してくれるのか?」
『ふざけるな、誰が貴様の理想なんぞに共感するか。だが分からんでもないと言うだけの話だ、戦争があったからこそテスラドライブは人型のPTに搭載できるほどに小型化、高性能化しただろう。それにヒュッケバインやRシリーズのようにEOTを応用した人型機動兵器は
異星人との戦いがなければ生み出されなかっただろう』
『ゲッターロボだって恐竜帝国の襲撃がなければ元の宇宙開拓用のロボットであっただろうし、ドラゴンのような戦闘特化のゲッターロボが開発される事もなかっただろうな』
コウキの言葉を引き継ぎ、ラドラもまた戦いによって生まれたであろうゲッターロボGやゲッターD2も開発されることがなかっただろうと小さく呟いた。
『その通りね。貴方達が使っている兵器、そして私達の使っている兵器は戦争が生み出した技術の結晶……人類の叡智とも言えるものなのよ』
『そんな事が…… そんな事があってたまるもんかッ!』
『科学は人類の発展の為にある物よ! 戦いの為なんかじゃないわ!』
レモンの我が物顔の言葉に星の海を飛ぶと言う目的の為を抱くアイビスとツグミが怒りに満ちた叫び声を上げる。だがヴィンデルはそんなアイビスとツグミの言葉を鼻で笑った。
「お前達の意見も分からない訳ではない。だが、戦争無くして人類の発展はあり得ん。それは歴史が証明している、異星人の襲撃がなければPTは開発されなかっただろうし、外宇宙を航行できるスペースノア級も今ほど発展する事は無かった。争いが文面の発展に大きく関係していると言う事は紛れもない事実なのだよ」
争いが無ければ生まれた無かった技術はヴィンデルの言う通り数多ある。戦争の中で発展し、目まぐるしい成長を遂げた技術もあるだろう。だがそれでもリュウセイ達は争い続ける世界を受け入れる事はない。どこまで言ってもヴィンデル達とリュウセイ達の意見は平行線であり交わることは無いのだ。
『だからと言って、 戦争を継続させるなんて間違ってると思います!』
『そうだッ! 俺達は戦争を続ける為に戦っているんじゃない! お前達のような連中からこの世界を……そこで生きる人達を守る為に戦っているんだ!!』
『そんなに戦いたいっていうのなら何でインスペクターや百鬼帝国と戦わねぇッ! てめえらの言ってる事はめちゃくちゃだッ!!』
『ふざけんなッ! 俺達は兵士であっても兵器じゃねえ! マシンじゃねえんだッ!!』
『そう、私達には意思がある。貴方の言う理想の世界なんて私達には必要ないッ!』
『私も同意見だ。貴官らと我々の考えは決して相容れないようだな、ヴィンデル大佐。我々は永遠の闘争等は認めない、そんなことの為に私達は戦っているわけではない』
レイカーからの返答を聞き、ヴィンデルの操るツヴァイザーゲインは残念そうに頭を振った。
「残念だ、ならば貴様らは死ぬしかないな。W-17、自爆しろ。それが争いの為に生まれたお前の最後の役割だ。死んで我々の障害を排除せよ」
ヴィンデルからのどこまでも冷酷な死ねという命令がラミアへと告げられる。
『駄目だ! ラミアさん! 自爆なんかしちゃ駄目だッ!!』
『そうよ! 貴方は人形なんかじゃないッ! 自分で考えて生きている人間なのよッ!』
『お前は何度も俺達を助けてくれた、それは命令ではなかった筈だ。ラミア、自分の命運を他者に委ねるなッ!!』
自爆しろというヴィンデルの言葉に従うなと今まで共に戦ってきた仲間達が口々に叫び、アンジュルグのコックピットでラミアは硬く操縦桿を握り締めた。
『ヴィンデル・マウザーよ。闘争が人類の発展を促す……確かにその通りだ、それを否定する事はワシには出来ない。だが、戦いによって生み出される物、そして失われる物……それらは決して等価値ではないッ!! 戦争の意味を理解せず、結果だけを見る者に戦争を語る資格などないッ!』
ダイテツの一喝……そして仲間達の声を聞き、ラミアは自分が為すべき事、そして自分が思うもっとも正しい事は何かを悟った
「……そうだ。それが正しいのだろう」
アンジュルグが急反転しツヴァイザーゲインの胴に抱きつくようにその腕を回す。
「む……ッ!? Wー17! 貴様何をするッ!!!」
「コードATA……ASH TO ASH……発動……ッ!」
アンジュルグの装甲が光り輝き、自爆装置によって過剰に供給されたエネルギーは出力に劣るアンジュルグでツヴァイザーゲインの装甲を凹ませるほどに強力な力を発揮していた。
「ヴィンデル様、レモン様……我々はこの世界……こちら側に来るべきではなかったのだ……ッ! 戦争によって成り立っていた世界……それが向こう側……我々の世界だ。しかし、戦争を否定する事によって創られていく世界もある……それがここだったッ!!」
「貴様何を言ってる!! 壊れたかッ! 人形如きがッ!!!」
ツヴァイザーゲインの自由になっている両腕がアンジュルグを打ち据え、その装甲を見る見る間に破壊する。だがアンジュルグはラミアの意志に従い、ツヴァイザーゲインの胴に回した腕の力を緩める事は決して無く、翼を羽ばたかせツヴァイザーゲインを上空へと連れて行く。
『貴様の好きにはさせんぞッ! ウォーダン! バリソンッ!!!』
『……ッ承知ッ!!』
『ちっ、距離が不味い、出遅れたぜ』
ツヴァイザーゲインとアンジュルグを共に自爆などさせるかとアクセルの指示が飛んだ。バリソンが即座に動き、それに一挙動遅れスレードゲルミルが動き出す。その動きを見てアンジュルグのコックピットでラミアは薄く笑った。
「それがお前の限界だ! ウォーダンッ! 与えられた命令しか出来ないお前のなッ!!」
スレードゲルミルがソウルゲインとグルンガストの間にいた為、アクセルとバリソンはコンマ単位だが出遅れる。そこから放たれたソウルゲインの玄武剛弾、スレードゲルミルのドリルブーストナックル、グルンガストのブーストナックルは当然スレードゲルミルが先行し、その後を玄武剛弾とブーストナックルが続く形になる。
「私の計算……うぐっ!?」
あえてアンジュルグの下半身をドリルブーストナックルにぶつけるラミア、それによって下半身が破壊されるが砕けた残骸と命中した事で僅かに勢いを落としたドリルブーストナックルが玄武剛弾とブーストナックルに干渉し、その速度を低下させる。
『そんな、そこまで計算したと言うのッ!?』
自ら機体を破壊し追撃を防ぐという行動は正気ではない。下手をすれば機体の機能を失うのにラミアは最も被害の少ない部分で受け、追撃を防いだ。その間もツヴァイザーゲインの攻撃が頭部を襲い、既に無事な部分は胸部とコックピット部分という有様だが、それでもアンジュルグの腕の力は決して緩む事は無かった。
「私のような作り物……戦争の為に生まれた子供が介入すべき……いや、介入出来る場所では無かったのだ……! 私は私の意思で最も正しい選択をするッ! 私達シャドウミラーは間違っていたッ!! あの時、我々はインベーダーとアインストに敗れ死ぬべきだっんだ!!」
ラミアの下した決断……血を吐くようなその叫びにレモンはその身体を振るわせた。レモンが望んだとおり、レモンが願ったとおりにラミアは自我を発現させ、そして創造主である自分達に逆らおうとしている。
「ラミア……それが貴方の出した答え。そして選択なのね……素晴らしい、素晴らしいわラミア……貴方は完全に私の予想を超えたッ!」
「何を言ってるレモンッ! これは貴様の責任だぞッ! ええい、所詮は人形ッ! 貴様、狂っていたかッ!」
ツヴァイザーゲインの右拳がアンジュルグの頭部の右半分を砕き、爆発を繰り返すアンジュルグのコックピットの中で笑みを浮かべた。
「向こう側の尺度ではそうだろう。 だが……学んだと言って貰おうッ! それと私はW-17ではない! 私は……私はラミア・ラヴレスだッ! 人形などではないッ!!」
強烈な意志の光……ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改のクルーと共に戦い、数多の疑問を抱き、そして迷いながらも得た答え。最早ラミアはW-17と言う人造人間ではなく、今を生きる1人の人間だった。
「貴女は……次のステージに進んだのね……やはり、貴女は……いいえ貴女こそが……最高傑作……そして私の娘」
「……いや、私は欠陥品だ。仲間を欺き、生みの親にすら牙を向く……な。貴女の娘ではない、こんな裏切り者は貴女の娘を名乗る資格はない……」
悲しそうに、しかしそれでも強い意思が込められた言葉でラミアはレモンの言葉を退けた。
「すまない……許してくれとは言わない……だが、お前達と過ごした時は……とても楽しく、充実した日々だった……」
その言葉を最後にアンジュルグが爆発し、ツヴァイザーゲインの姿はアンジュルグの生み出した爆発の中へと消えていくのだった……。
「ああっ!!」
「ラ、ラミアちゃんッツ!!」
「そんな……ッ!」
「自爆したのか……ッ!」
「う、嘘だろ……ッ!? ラミアさんッ!!」
「……俺達を…守る為か……ッ!? ラミア、何故そんな真似をしたッ!」
降り注ぐアンジュルグの残骸を見てキョウスケ達の悲痛な叫び声が伊豆基地へと響き渡る。だが悲劇はまだ終わっていない、爆発の煙の中からほぼ無傷のツヴァイザーゲインが出現する。
「嘘だろ……あの爆発で無傷だと」
「そんな……それじゃあラミアは無駄死にじゃないかッ」
「ラミアさん……どうして……」
ラミアの決死の行動も無駄であり、今も健在のツヴァイザーゲインの姿に、そして自ら命を散らしたラミアに誰もが声を失うのだった……
第144話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その3へ続く
OG2の序盤の見せ場なのでかなり頑張ってみました。ケネスがいないのでレイカーが表に出る感じとなりましたが、これも二次の魅力の1つト思っていただければ幸いです。会話などに違和感があるかもしれませんが、原作を踏まえつつオリジナルを出すとこんな感じにするのが私の限界でしたので、もし違和感などがあれば教えてください。時間を見て修正したいと思います、次回も戦闘描写は薄めとなりますが次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い