第148話 楽園からの追放者 その1
脅え、嘆き、震えるエキドナは幼い少女であった。身体と精神が一致していない……ある意味完全な人間を作るというレモンの目的の為に最初から大人の肉体であり、そして与えられた命令を遂行するだけの頭脳を与えられた。そこに自分の意志はなく、淡々と与えられた命令を遂行するだけの存在だった。それが人の感情を理解し、それを得た事で発生したしたエラー……いや、正確には自我と与えられた命令を成し遂げる事の2つの間でエキドナは苦しみ、もがいていた。
(……そうね。私も駄目だったのね)
完全な人間を作ろうとした。そしてその結果がこれである……レモンは自分が何もかも間違えていた事を苦しんでいるエキドナを見て理解した。
「落ち着いた? エキドナ」
「……あ……は、はい」
まだ身体は震え、目に涙が浮かんでいるが少しだけ落ち着いたように見えるエキドナの涙をハンカチで拭いながらレモンは微笑みかける。
「話をしましょう。私とエキドナは話が足りなかったわ、貴女が何を思っているのか、何を考えて苦しんでいるのか……それを私に教えて」
ラミアとは何度も話をした。だがエキドナとは話をしていない、レモンはエキドナの心を何1つ理解していなかった事に気付き、優しくその身体を抱擁しながら話をしましょうと微笑み掛ける。
「……話ですか……」
「そう、話。大事な事よ、意思疎通をするにはね」
W-16ならば一方的に命令を下せばいい、だがエキドナ・イーサッキは違う、幼く、まだ判断能力も甘いが自分で考えて行動しようとしている。レモンはエキドナが何を考えているのか、そして今何をしたいのか、それを知る為に話をしようと繰り返し口にする。
「は、はい……判りました」
「お茶を用意するから、座って待っててね」
おずおずとレモンから離れ椅子に腰掛けるエキドナ。レモンは紙パックの紅茶を用意しエキドナの前に置き、次に自分の分を置いてからエキドナの前に腰を下ろした。
「あ、ありがとうございます」
成人女性にしても大き目の身体を小さくさせて頭を下げるエキドナを見てレモンは思わず口元に浮かびかけた笑みを手で隠した。
(あらやだ、家の子が可愛いわ)
表面上はクールだが、中身はかなり残念な事になってるレモンだが、エキドナはそれに気付かずちびちびと紅茶を飲み、迷う素振りを見せながら口を開いた。
「……とても楽しかったのです」
「それはハガネに乗っている時のことかしら?」
「は、はい……そのとても恥ずかしい事をしていると言うのは判っているのですが、とても楽しかったのです」
「……ちなみに聞いておくけど恥ずかしい事って何をしたのかしら?」
レモンがそう尋ねるとエキドナは耳まで真っ赤にし、更に俯いた。
「そのあのですね……シャイン王女と子供のような痴話喧嘩に……その武蔵の取りあいとかとかですね……」
頭から湯気が出そうなくらい恥らっているエキドナを見てますますレモンのテンションは駄目な方に高まる。
(凄いわ、ラミアとは全然違う方向性だけど……エキドナは確実に自我に芽生えてる。シャイン王女……今は貴女に感謝しても良いと思ってるわ)
少々おしゃまな感じのシャインによってエキドナが恋を知り、それに伴う自我形成を行なったのだと悟りレモンは内面は物凄く興奮しながらぽつぽつと話すエキドナの話に耳を傾けていたが、インベーダーとアインストが融合したロスターの出現で記憶を取り戻し、レモンとヴィンデルの指示に従わないといけない、でもそんなことをしたくないというので悩んだという話を聞いて、レモンの心は死んだ。
(私が悪いの、それともヴィンデル? もしくは時期?)
もう少し自我を形成する時間があればエキドナは命令に従う事はなかったかも知れないが、もう後の祭りでありレモンの胸中に凄い罪悪感が生まれていたりする。
「……私は自分で考えたくないんです、考えたら私はきっと……」
「そうね。そこから先は聞かなかったことにしてあげるわ」
自分で考えればレモンとヴィンデルを裏切ってしまう、だから命令を欲したのだと、自分で考える事を放棄したのだというエキドナ。それも1つの選択であるが、当然レモンはそれを受け入れるつもりも認めるつもりもなかった。
「命令が欲しいのならば自分で自分に命令をしてみたらどうかしら?」
「レモン様?」
「私もヴィンデルも貴女に今は命令を出すつもりはないわ。そうね、とりあえず武蔵のリマコンが終わるまでは」
リマコンと聞いて肩が動き、眉を吊り上げて怒る素振りを見せたエキドナを見て、レモンは満足そうな笑みを浮かべる。
(アダムとイブを誘惑した蛇ってこんな感じなのかしらね)
知恵の林檎を食べたアダムとイブは楽園から追放されるが、アダムとイブをそそのかした蛇……それが今の自分だとレモンは笑う。
「だから私達は貴女に命令を下す事はないわ。だから命令が欲しいのならば自分で自分に命令を出しても良いと私は思うわ」
「自分で自分に……」
命令という言葉を使っているレモンだが、それは実質自分で考えてみろ、そして行動してみろと言っているのと同意義だった。
「メンテナンスは終わってるから休んでくれても良いんだけど、その前に1つ頼まれて欲しいのよ。エキドナ」
レモンはそう言うとアクセル、レモン、ヴィンデルの3人しか使えない特殊コードのカードキーを机の上においた。
「格納庫にゲッター合金を使ったスレードゲルミルの斬艦刀と、正式採用型のアンジュルグ・ノワールが保管してあるの、バリソンとウォーダンを連れてこの格納庫に向かってくれるかしら?」
「それは道案内という事でしょうか?」
「そうそう、私はまだやることがあってね。よろしくね、エキドナ」
困惑している様子のエキドナを半ば追いやるようにしてレモンは追い出し、ゆっくりと振り返る。
「じゃあ次は貴女ね。ラミア」
「……レモン様……貴女は何がしたいのですか?」
カーテンによって仕切られたベッドのカーテンが開き、困惑を隠しきれない様子で問いかけるラミアにレモンは楽しくて楽しくてしょうがないと言わんばかりの笑みを浮かべ、その瞳の奥に翡翠の輝きを灯した。
「さぁね。私でも最近良く判らないのよ」
どうしたのかしらねと笑うレモン。その笑みには普段の妖艶な色は無く、狂気的な光を宿したその笑みにラミアは恐怖しながらも、レモンが今は敵でも味方でもないと悟り、痛む身体に顔を顰めながらベッドから立ち上がるのだった……。
ゼンガー、エルザムと合流したキラーホエールはバリソンのグルンガストの反応を頼りに海中を進んでいた。その間にカーウァイ達は自分達の持っている情報を出し合い、そして情報のすり合わせを行なっていた。
「なるほど、シャドウミラーというのは平行世界の教導隊と言っても良いかも知れんな」
「妙な例えだな、ラドラ。だが俺もそう思う」
カーウァイをトップにし、ゼンガー達が一時期所属していた事を考えればシャドウミラー=教導隊と取る事も出来る。
「いや、教導隊は存在していたがすぐに解散する事になっている」
「それは何故ですか? カーウァイ大佐」
「簡単だ。鍛え上げている時間が無く、すぐに戦場に出る必要があったからだ」
「……それほどの地獄だったという事ですか」
教導隊として部下を育てている時間が無く、戦場の中で戦いながら己の腕を磨き、磨き切れなければ死んでいく……それがシャドウミラーのいた世界だと知りゼンガー達は顔を顰める。
「それよりもだ。ギリアム、お前は何を知っている? そして何を隠しているんだ」
カーウァイの言葉にギリアムは少し身体を震わせ、そして首を左右に振った。
「信用していないわけではありません。ですが……「まだ」言えないのです」
まだという言葉を強調するギリアムにゼンガー達だったが、カーウァイは得心を得たように頷いた。
「1つだけ問おう。お前は……「何処の世界」からやってきた」
「カーウァイ隊長何を言っているのですか!? ギリアムは……ギリ……アム……は?」
声を荒げたカイだがその言葉が知り蕾に小さくなっていく……そしてそれはゼンガー達も同じだった。
「む、ギリアム……お前は何処の生まれだと言っていた?」
「いや、それよりも……お前はどうやって教導隊に所属したんだ」
仲間である事は間違いない、だがどうしてもゼンガー達はギリアムの過去を思い出すことが出来ないでいた。
「簡単な話だ。ギリアムも俺や武蔵の同類ということだ。正し……」
「そうだ、俺は「過去」や「未来」と言う定義ではない、もっと遠くの所からここへとやって来た」
武蔵やラドラのように過去ではなく、もっと遠くからやって来たと言うギリアムの言葉にゼンガー達は驚愕の表情を浮かべるが、カーウァイが手を叩き、その視線を自分に集める。
「死者が生き返り、こうして行動を共にしているんだ。私が言っておいてなんだがギリアムが何処から来たとかは大した問題ではない、ただ私が確認したいのは抑止力と言う物なのかと言う事だ」
「イングラムから聞いていたのですね。ですが、俺は抑止力ではありません。ただ大きな運命の輪に組み込まれ、その中で自分に出来る最善を為そうとしているだけです」
カーウァイとギリアムの話はゼンガー達には理解出来ない超常の話に等しかった。
「つまりどういうことなんだ?」
「まぁあれだ。俺は武蔵達をずっと前から知っていたし、共に戦った事もある。世界は1つではなく何十何百という世界があり、俺はその世界をずっと流離って、そしてこの世界に定着した。もう俺は別の世界に行く事は出来ない」
「……つまりあれか、お前はずっと転移を繰り返していたと言うことなのか?」
「簡単に言えばそうなるが……もっと事態は複雑と言ってもいい、武蔵達の記憶の一部が失われているのと似たような物だが……俺はそれを口にする事が出来ない」
武蔵達が世界を超えて戻って来た時に記憶の一部を失ったという話はゼンガー達も知っている。だが口に出来ないと言うのはどういう意味だと首を傾げる。
「簡単に言うとだ。俺はこれから起きるであろう事を知っている、だがそれを発言する事は出来ない。それはこの災厄がこの世界に発生してもだ」
「知っていてもお前は誰にも協力を求める事が出来ないと言うことか?」
「協力は求める事は出来る。だがその事情を話す事が出来ないんだ。なんらかの条件が揃いやっと話せるようになる、シャドウミラーの事も俺は知っていたが、その話が出来なかったのもそれのせいだ」
話したいと思ってもギリアムはそれを説明する事が出来ない。過去の事、もう過ぎたことならば違うが、現在進行形の事はギリアムは口に出来ない。
「なんとも難儀だな……だが納得が行ったぞ、お前の秘密主義にな」
「別に隠したいと思ってるわけではないんだぞ? 本当ならば俺の知ってることを全て話して、それに備えたいとも思っている」
それはギリアムの嘘偽りのない気持ちだが、それが出来ないからこそギリアムは歯噛みし、情報部に所属し単独でPTの保有権を有し、自分に出来る事を人知れず成し遂げていたのだ。
「事情は判った。だが今は違うのだろう? シャドウミラーの事に関しては俺達に話せるのだろう」
「ああ、だからこそ言おう。シャドウミラーは神出鬼没だ、そんなやつらが表に出てきた。この好機を逃せば再びあいつは姿を消すだろう……今この時に叩き、武蔵を取り返さなければならない」
まだ話せない事情もあるが、なんとしてもシャドウミラーを叩き、武蔵を取り返す必要があるのだとギリアムは真剣な表情で告げる。
「お前が1人で何をしているのかと思った事は何度もあるが、事情も判った。辛かっただろう、だが案ずる事はない」
「ああ、お前1人で全てを抱え込む必要はない。我々は仲間だ、協力は惜しまない」
「そういう事だ。今までの分はそうだな、戦いが終わった時に宴会代として払って貰うとするか」
「それは良いな、情報部は高給取りだ。精々財布係となってもらうとするか」
「おいおい、カーウァイ大佐も何か言ってくださいよ。悪乗りするなと」
「武蔵の食費は凄いが預金はあるか?」
そう言う事じゃないと苦い顔をするギリアムだが、あえて馬鹿な話題を続け笑わせようとしていると言う事に気付き、楽しそうに笑う。確かにこの世界はギリアムの世界ではない、だがギリアムを受け入れ、そして確かな居場所になってくれているゼンガー達にギリアムは心の底から笑みを浮かべて感謝の言葉を口にする。だが和やかな空気も何時までも続かない、キラーホエールのブリーフィングルームにアラートが鳴り響き、オペレーターの報告が発せられる。
『熱源多数補足ッ! 戦闘中と思われます』
戦闘中と聞きカーウァイ達は腰を上げる。インベーダーか、アインストか、それとも連邦軍の部隊か……何者かがシャドウミラーを補足し戦闘を始めたのだと判断しカーウァイ達は自分達の機体の元へと走り出すが、そこでは想定外の出来事が広がっているのだった……。
レモンと向き合うラミアはその顔に緊張と敬愛する創造主に牙を剥く事を恐れる色が浮かんでいた。身体能力で言えば圧倒的にラミアが上であり、レモンが警報を鳴らす前にラミアはレモンを組み敷く事が出来る。窮地であるのはレモンの方だったが、レモンは狂気さえ感じさせる柔らかな笑みを崩すことは無く、余裕さえ感じさせる動きで椅子に腰掛けた。
「ラミアも座りなさいな。話をしましょう」
警報を鳴らすでもない、味方を呼ぶでもない……ラミアが恐怖を感じていたのはレモンの狂気を感じ取っていたからだった。
「失礼します……レモン様……ん?」
「ああ。言語系は修復しておいたわよ? 私は貴女の前の喋り方好きだったんだけどね、ヴィンデルがうるさいから」
肩を竦めながらカップに紅茶を注ぎ、ラミアへと差し出すレモン。ラミアは困惑しながらもカップを受け取り、少し悩む素振りを見せてから砂糖とミルクを加えた。
「何か?」
「いえ、貴女が自分の嗜好を見せてくれたのが嬉しくてね」
砂糖1杯とたっぷりのミルク……それはラミアの味の嗜好と言っても良い、レモンが求めた自我を自然な動きで見せるラミアにレモンは歓喜の表情を浮かべた。
「……レモン様。貴女は何がしたいのですか?」
「ん? そうねえ。さっきも言ったけど……自分でも最近良く判らないのよね」
にこにこと笑うレモンは楽しそうだが、ラミアはレモンの行動が本当に理解出来なかった。反逆し、自爆してヴィンデル達を道づれにしようとしたラミアは間違いなく裏切り者であり、レモンが修理を施す必要なんてない。むしろこうして目を覚ましていることさえ異常な事だとラミアは感じていた。
「気になってるのはどうして貴女が修理されてるかってことね? あの自爆でツヴァイは致命傷を受けシステムXNは損傷してね、撤退せざるを得なかったのよ。私は少しだけ戦って撤退する所で奇跡的に残っていたアンジュルグのコックピットブロックを回収……損傷箇所を修理したのよ。言語系も含めて、ね」
「ありがとうございます……何故私を生かしたのですか?」
反逆者であるラミアが命を取り留めたのは偶然だが、それをこの世につなぎとめたのはレモンだ。何故自分を生かしたのか? とラミアが問いかけるとレモンは楽しそうに笑った、楽しくて楽しくてしょうがないと言わんばかりの狂気を感じさせる笑みだった。
「貴女は指令を無視したばかりか、 味方である私達もろとも消えようとした。その理由は何かしら?」
「……この世界に……我々の居場所はありません。それが……分かっただけです。だから私は……全てを消し去ろうとした」
永遠の闘争を望む者はこの世界に異物に過ぎない。だからラミアは全てを巻き込んで自爆しようとしたと言うとレモンは殺されかけたと言うのに笑みを浮かべた。
「そこよ、そこが素晴らしいの。元々Wシリーズは指令に対して 疑問を持つ所か……それに逆らって行動するような思考ルーチンを組み込んではいないのよ……表向きわね」
「表向きは?」
ぺろりと舌を出したレモンの言葉にラミアは驚きながら、その言葉の真意を問いかけた。
「私が作りたかったのは人間なのよ。言う事を聞くだけの人形じゃない、だけどヴィンデルはそれを認めなくてね。だからWシリーズの思考ルーチンにはロックが掛かっていて、自分の考えは出来ないようになってるの、全てが終わったにロックを解除すれば思考ルーチンだけじゃなくてもう1つの機能も解除される設定だったの」
「……もう1つの機能?」
「うん、生殖機能ね。子供を産めるようするのは苦労したのよ」
「ふぁッ!?」
生殖機能と子供を産めると聞いてラミアが上擦った声を上げるとレモンはますます楽しそうに笑みを深める。
「初心ねぇ、別の世界に行った時にね、もしもっていう可能性があるからね、いろいろ工夫してるのよ」
「は、はぁ……そうなのですか……」
何とも言えない顔をしているラミアだが、レモンの思い描くWシリーズの最終形態と言うのは人と変わらない生活をする存在だ。永遠の闘争を望むヴィンデルの意志に反するが、それでも自分の夢をしっかりとラミア達に継承させている。
「では、私は……やはり壊れているのでしょうか? 本来ロックされている筈の物が機能している上に、今も私の考えは変わりません」
「ラミア、貴女は壊れたんじゃないわ。貴女のロックは今も機能している……つまり貴女は人間に近づいたのよ、貴女とエキドナだけが私の望むままの存在になりつつあるのよ」
ラミアは自分が壊れたと感じていたが、思考ルーチンのロックは今も機能しており、ラミアとエキドナの迷いは2人が感情と自我を得た証だった。
「私だけではなく……エキドナも?」
「ええ、そうよ。彼女も自分で考えて行動しようとしている。私は自分で考えて、自分で行動しろと言ったけど……貴女達はそれが出来ないようにされている。Wシリーズは本当の意味で「自分で考え」「決める」事は出来ないように作られているの」
最終ラインで製造される筈のWシリーズは最初から人間として製造される筈なのでその限りではないが、ラミア達戦闘をメインとするWシリーズはそれは出来ないはずだった。だがラミアは人の善性に触れて、エキドナは武蔵への恋心で己に課せられた枷を突破したのだ。
「シャドウミラーが求める、兵器としての Wシリーズという意味では失敗作……でも……科学者としての私が、貴女達に望む最終形…それが貴女よ」
レモンが望んだ存在にラミアとエキドナだけが至った。シャドウミラーの思想ではなく、レモン・ブロウニングが心から望んだ存在にラミアとエキドナは辿り着いたのだ。
「レモン様が作りたかったのは……何だったのですか?」
「ん、んーそうね……私は子供が産めないの、それでもお母さんになりたかった。だからWシリーズの原型である人造人間を考え始めたの」
腹を撫で子供が産めないというレモンにラミアはを目を見開き、そして悲しそうな表情を浮かべた。
「そんな顔をしないの。私が産んだ子供じゃないけど、貴女達は紛れもなく私の子供。だから私はなりたかった母親になれたから満足しているわ」
そう笑うレモンに対してラミアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「レモン様……私は……私は……「ラミア、気にしなくていいわ。だけど貴女の言葉で聞かせて、貴女は何をしたい?」
レモンの言葉にラミアは俯き、そして肩を震わせ搾り出すように一言だけ呟いた。
「……出ます。私は……私の信じる道を行きます」
もうラミアは永遠の闘争の世界を望む事が出来ない、戦いが終わり平和な世界をこの目で見てみたいと願っている。ラミアの道はもうレモン達の道に重なる事は2度とないのだ。
「後部格納庫にヴァイサーガが置いてあるわ。 それに乗ってお行きなさい」
「レモン様……ッ!」
反逆すると言ってるラミアに戦う為の武器を渡そうとするレモンにラミアは心配そうな表情を浮かべ、その名を呼んだ。だがレモンは柔らかく微笑むだけだ。
「それと……壊れたアンジュルグも、予備パーツごと破棄しておくわ。もし使う気があるなら、後で回収なさいな。大丈夫、2機とも自爆装置はつけてないわ。さ、判ったらお行きなさい。多分エキドナも動く頃合だと思うからね」
自分で自分に命令しろとレモンが口にした時、エキドナも悲しそうな、ラミアと同じ目の色を浮かべていた。エキドナも自分の道を決めたのだ。その道がレモンの望んだものではないとしても、母としてレモンはその選択を尊重した。ラミアに背を向けるレモン、それは前を向いたときに追っ手を出すという無言のメッセージだった。
「……申し訳ありません、レモン様。 ですが、貴女によって与えられた命……そして……貴女によって与えられたチャンス……この戦争で、力の限り使わせていただきますでごんす……んん?」
「ふふ、ごめんなさい。私やっぱり貴女のあの喋り方好きだったのよ。また元通りにさせてもらったわ」
前を向いたまま握りこんでいるスイッチをラミアに見せるレモンにラミアは嬉しそうに笑った。
「嫌だった?」
「いえ、素晴らしい判断なのです。 私を私のままにしてくれた事……感謝しちゃいますのです……レモン様」
この奇妙な口調が好きだというレモン、そしてラミアもまたこの口調が好きになり始めていた。W-17ではない、ラミアという個をあらわしているような気がしていたからだ。
「ラミア、最後に1つ聞かせてくれるかしら? ATXチームのエクセレン・ブロウニング……彼女は……どんな子だった?」
前を向いたままそう尋ねてくるレモンにラミアは出口に向かいかけた足を止め、もう1度レモンに視線を向けた。
(やはり……エクセお姉様はレモン様の家族だったのですか?)
その言葉はラミアでも口にして良い物に思えず、ぐっと喉元まで込み上げた言葉を飲み込み、レモンが求めているであろう返事を返した。
「ベーオウルフのパートナーです。 掴み所のない、不思議なお方……私にも良くして下さいました。そして……どことなく雰囲気が似ています。レモン様と……」
ずっとエクセレンとレモンに感じていた事、余りにもレモンとラミアは良く似ていた。ブロウニングの名の示す通り、もしかしたらこの世界では生まれていないが、向こう側の世界では姉妹だったのではないか? とラミアは考えていた。
「ありがとう、ちょっと気になっていたのよ。それじゃ、エクセレンの話をしてくれた お礼に一つだけ教えてあげましょう。アギュイエウスの扉……もうじき開かれる事になるわ」
シャドウミラーの最終目的……永遠の闘争を成し遂げる為の平行世界への自在の転移……その門を開く準備が出来ているとレモンに告げられ、ラミアは驚きと驚愕にその目を見開いた。
「例の機能回復にはもう少し……掛かるし、まだコアを見つけてさえいないんだけどね。私達の計画は最終段階に入っているわ、ゲッターロボとシステムXN――それを組み合わせればどんな世界にだっていける」
ゲッター線とシステムXN、そしてヘリオス……それが揃えばヴィンデル達はどんな世界にも攻め込んでいける、そしてその世界の機動兵器を持ち帰り、報復の為にやって来た平行世界の住人と無限に争い続ける。それがヴィンデルの望む永遠の闘争であり、そして百鬼獣、アインスト、インベーダー、インスペクターと戦い勝利する為の計画だった。
「これ以上話すことはないわ。急ぎなさいラミア。ヴィンデルとアクセルがいつまでも大人しくしているなんて思ったらとんでもない事になるわよ?」
「判っております……レモン様。色々とありがとうございます」
深く頭を下げラミアはレモンの部屋から出る為に動き出す。だが、出る寸前で名残惜しそうにその足を止めた。この部屋を出れば敵同士……歪な関係ではあるが、母と娘という関係も終わる……それが名残惜しいとラミアは感じていた。
「レモン様……私は、いえ、私は貴女を止めたいと思います」
「それは何故?」
「……家族が……母が道を違えちゃったりしたとき、それを止めるのは娘の責務と思っちゃったりするからです。お母さん、お元気で」
驚き動きを止めたレモンから今度こそラミアは背を向けて格納庫へと走り出した。
「……驚いちゃった……ふふ、何かしらね……凄く嬉しいって思うのは何でなのかしら……?」
自分で思う以上に義理堅い性格のレモンは自分の意志では最早シャドウミラーを抜けることは出来ない。それを知っているからこそラミアはレモンを止めると言い残し、それはある意味自分ではどうしようもない所まで来てしまっていたレモンが最も欲しいと思っていた言葉なのだった……。
ラミアの事があり量産型Wナンバーズが部屋の前で監視している中、エキドナはレモンに言われた言葉をずっと繰り返し考えていた。
(自分で自分に命令を……私が何をしたいか……ヴィンデル様達は武蔵にリマコンをしようとしている)
リマコンをすれば武蔵はシャドウミラーの為に戦ってくれる。そうすれば一緒にいられるだろうが……それは果たしてエキドナが想いを寄せた武蔵だろうか? 考えるまでも無くそれは違う、量産型Wナンバーズのように自分の意志を感じさせない人形……その隣に自分がいる光景を想像したエキドナは自分の身体を抱いて震えた。
「嫌だ……それは嫌だ……」
それはもう武蔵ではない、そんな武蔵は見たくないとエキドナは何度も頭を振る。
「……私……私はッ!」
武蔵を裏切ったのは紛れも無い事実だが、それでもエキドナは武蔵を助けたいと思った。例え憎まれるとしても、恨まれているとしても……エキドナは武蔵を助けたいと心から願った。
「……レモン様、ヴィンデル様……アクセル隊長……許してください。私はやはり……壊れたままのようです」
シャドウミラーの思想はもうエキドナにとっても受け入れられるものではない、そして何よりも武蔵が人形になる姿を見たくない……。
「武蔵を助けてゲッターの所まで届ける……例えその後殺されたとしても、私はそれでいい」
自分自身に武蔵を助けると命令を下したエキドナは意を決した表情で部屋を出ようとし、それよりも先に扉が開いた。
「あん? エキドナか、量産型がいるから武蔵がここにいると思ったぜ」
「ば、バリソン……少尉? 何故」
「何故? んなもん決まってる。反逆だよ、俺はもう永遠の闘争なんて言うくそ下らん物に従うつもりはねぇ。んでお前はどうする? 俺を始末するか? W-16」
獰猛な笑みを浮かべるバリソンにエキドナは首を振った。
「私はエキドナ、エキドナ・イーサッキだ。W-16等と呼ばないで貰いたい」
「はっ、少しは見れた面になったな。行くぞ」
バリソンに放り投げられた日本刀とマグナムを受け取ったエキドナはそれが武蔵の武器だという事にすぐ気付いた。
「俺は武蔵が何処に囚われてるか知らん。案内できるか? エキドナ」
「出来ます。行きましょう、バリソン少尉」
「おう、行く……っとなんだ!?」
エキドナとバリソンが動き出そうとした時、基地の警報が鳴り響き、困惑するバリソンが窓の外に視線を向けるとヴァイサーガがソウルゲインと対峙していた。
「ラミアの奴も自分の道を決めたみたいだな。ラミアがドンパチしてる間に行くぞ。武蔵を救出して機体を奪取する」
「了解です」
量産型Wナンバーズが持っていたマシンガンを肩から下げ、バリソンとエキドナは基地の中を走り出した。楽園からの追放……いや偽りの楽園を捨て自らの理想郷へと辿り着く為に茨の道を走り出すのだった……。
第149話 楽園からの追放者 その2へ続く
と言う訳で今回は戦闘開始前のシナリオデモとなりました。ゲームではラミアだけでしたが、今回はエキドナとバリソンもシャドウミラーからの離反ルートになります。ここもかなり盛り上がるところなので気合を入れていくつもりなので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い