第152話 楽園からの追放者 その5
教導隊とシャドウミラー隊の戦力差は個々の戦力では圧倒的に教導隊に軍配が上がり、数で言えばシャドウミラー隊に軍配が上がっていた。この戦いは百鬼獣の増援が来るか、そしてハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が辿り着くのが先かという耐久戦であり、そして武蔵とゲッターD2を守りきるか、奪われるかという防衛戦であり強奪戦でもあった。
「このタイミングで来るか百鬼帝国ッ!!」
ギャンランドへの詰みを仕掛ける事が出来る最高のタイミングで現れた鮟鱇のような姿をした百鬼帝国の高速戦闘母艦が浮上し、無数の百鬼獣を吐き出す姿にギリアムは唇を噛み締めながら百鬼帝国の名を叫んだ。
『天は我らを見放さずと言った所だな、ヘリオス。この勝負……引き分けとしておこうか』
ギャンランドからゲシュペンスト・MK-Ⅱとエルアインスの一団が出現し、ギャンランドの前へと展開する。
『ちいっ! 完全に挟まれたぞッ!』
『これはそう簡単に突破出来る布陣ではないぞ……ッ』
前にはソウルゲインとスレードゲルミル、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱとエルアインスの軍勢、そして後には百鬼帝国の戦艦と無数の百鬼獣――いかにゼンガー達と言えど容易に突破出来ない布陣が一瞬で形成される。
『……仕方あるまい、エルザムとバリソンはゲッターロボが起動するまで格納庫を守れッ! 可能ならばその位置からゲシュペンストを狙えッ!カイとラドラは百鬼獣を抑えろッ! 私とゼンガーはアクセルとウォーダンを抑えるッ! ラミアとギリアムはギャンランドを狙えッ!』
今出来る最善策をカーウァイは叫ぶ、ゲッターロボと武蔵を失えば百鬼帝国とインベーダーに対抗する術を失い、スレードゲルミルとソウルゲインと対峙している間に百鬼獣に、また百鬼獣と戦っている間にソウルゲインとスレードゲルミルに攻撃されればカーウァイ達とて撃破される可能性が高い。この状況で戦力を分散、そして圧倒的な力を持つ百鬼獣とスレードゲルミルとソウルゲインを相手にするのは自殺行為だが、そうしなければ各個撃破に追い込まれる状況に陥ってしまったのだ。この状況の中でカーウァイは最も正しい選択をしたが、ギリアムはカーウァイの命令に反し、単騎でゲシュペンスト・リバイブ(S)をギャンランドへと向かわせた。
「ヴィンデルッ! お前をここで逃がしはしないッ!」
ここでヴィンデルを逃がせば取り返しの付かない事になる。ギリアムは己の命と引き換えにしてでもギャンランドを、いやツヴァイザーゲインを破壊するつもりだった。だがギリアムのその決死の行動も百鬼獣の放ったミサイルの雨とそれに貫かれ爆発したゲシュペンスト・MK-Ⅱやエルアインスの爆発に巻き込まれ、その動きを止めざるを得なかった。
『言った筈だ。ヘリオス、この場は引き分けにするとな、レモン。転移だ』
『了解よ。アクセル、ウォーダン。ある程度したら百鬼帝国に任せて引き上げて来なさいな、合流地点は後で連絡するから』
ギャンランドの船体が光に包まれ、転移の予兆を見せる。
「待てッ!」
『待つのはお前だ! ギリアムッ! 死ぬつもりかッ!!』
爆発に巻き込まれフライトユニットは中破、装甲もボロボロになっているゲシュペンスト・リバイブ(S)を駆り、ギャンランドへ攻撃を仕掛けようとするギリアムをカーウァイが静止する。
「カーウァイ大佐! しかしッ!」
『もう無理だ。間に合わんッ! それよりも目の前の敵に集中するんだギリアムッ! お前の行動次第で私達が全滅する可能性もあるのだぞッ!』
カーウァイとてここでヴィンデル達を逃がすのは痛手だという事は判っていた。だがシャドウミラーと百鬼帝国に挟撃されている今、感情に身を任せ行動されては皆が全滅するとカーウァイが一喝する。
「ッ! くっ……うっ……了解……しました……」
カーウァイのその言葉は何よりもギリアムに効いた。ヴィンデル達を倒す事も重要だが、そのために仲間の命は賭けられない。歯が折れんばかりに奥歯を噛み締め、ギリアムは忌々しそうに消えていくギャンランドを睨みつける。
『じゃあね、また会いましょうファーストジャンパー……ヘリオス・オリンパス』
『また会おう。今度はシステムXNを完全に回復させた後にな』
消えていくギャンランドからヴィンデルとレモンの挑発めいた言葉が発せられ、ギャンランドの姿はギリアム達の前から完全に消え去った。
「ここまで来て……アクセルッ! お前達が今している事……それがどのような結果を招くか判っているのかッ!!」
『異なる世界の扉を開き、永遠なる闘争の世界を作ろうとしていると何度言えば判るんだ? ヘリオス』
空中で反転しソウルゲインへと攻撃を繰り出すゲシュペンスト・リバイブ(S)。怒りと焦りに満ちたギリアムの言葉にアクセルは軽くそう返事を返す。だがそれは更にギリアムの怒りに油を注ぐ事になった。
「そんな単純なことではないッ! この世界は我々という異物を、いやもっと言えばゲッター線を、恐竜帝国を、百鬼帝国を、インベーダーを受け入れ奇跡的なバランスで存在が保たれている。そのバランスが崩れた結果がお前達の世界だッ!」
『何? どういうことだッ! ヘリオスッ!!』
ソウルゲインの両拳がゲシュペンスト・リバイブ(S)の両腕を掴みどういうことか説明しろとアクセルが声を荒げる。
「世界のバランスが崩れればその世界は滅びへと向かう、バランサーが存在しなければその世界は滅び消滅する、その結果がイージス計画によってお前達の世界に現れたインベーダーだッ!」
フライトユニットに残されていた僅かな武装であるビームガトリングガンの光弾がソウルゲインの胸部で炸裂し、拘束から逃れたゲシュペンスト・リバイブ(S)は両手に持ったビームソードでソウルゲインへと斬りかかる。
『ならば何故この世界は……いや、待てよ。バランサーとはッ!』
世界が滅びない理由、自分達の世界とこの世界の違いは何だと考えたアクセルの脳裏を過ぎったのはゲッターD2と武蔵の存在だった。
「そうだッ! ゲッターロボと武蔵だッ! その存在が楔となり、世界の意志と共にギリギリの所でこの世界は保たれている。だが再びアギュイエウスそしてリュケイオスの扉が開かれれば今度こそ取り返しのつかないことになるッ!」
EG装甲の回復速度を上回る速度で攻撃が叩き込まれソウルゲインが逃れるようにゲシュペンスト・リバイブ(S)から距離を取る。感情を剥き出しに叫ぶギリアムの言葉にカイ達は百鬼獣とあるいは、エルアインス達と戦いながらも困惑を隠しきれなかった。そしてそれと同時にギリアムが隠してきた物の余りの大きさに言葉を失っていた。
『お前が何故俺達をここまで敵視するのかは理解した、だがゲッターと武蔵がいれば世界は崩壊しないのだろう? ならばアギュイエウスとリュケイオスの扉を開いても問題はあるまいッ!』
「今までは大丈夫だったが、これからも大丈夫だという保障はないのだ。アクセルよ、今ならばまだ間に合う、扉を開くのは諦めろッ!」
ビームライフルの銃口をソウルゲインの顔に突き付け、最後通告だと言うギリアムの言葉をアクセルは鼻で笑った。
『お前の取り越し苦労という可能性もある。だが扉を開き世界が滅びに向かうとしても、ここまで来てはい、判りましたと言えると思うかッ!!』
「ッ!?」
ソウルゲインの膝蹴りがビームライフルを蹴り砕き、距離を取ろうとしたゲシュペンスト・リバイブ(S)を追ってソウルゲインが地面を砕きながら大きく踏み込み、一瞬で間合いを詰め拳を振りかぶった。
『だがお前の話を聞いて判った事もある、やはり武蔵とお前は連れて帰るぞヘリオスよッ!!』
ソウルゲインの光り輝く拳がゲシュペンスト・リバイブ(S)に向かって放たれようとした時、ヴァイサーガとゲシュペンスト・タイプSが割り込み、五大剣と参式斬艦刀をクロスさせその拳打を防ぎ、ゲシュペンスト・リバイブ(S)を守った。
『ギリアム少佐の言葉を聞いて、それでもなお扉を開くというのですか、アクセル隊長』
『自分達が世界を滅ぼすと聞いてもなお、止まらないのかアクセルよ』
五大剣と参式斬艦刀に弾き飛ばされたソウルゲインは空中で反転し、正眼の位置にゲシュペンスト・タイプS達を見据えながら着地する。
『思わんな、全てがヘリオスの言う通りだとするのならば来訪者であるヘリオスこそが最初に自分自身をどうにかするべきではないのか? 彷徨い人……ヘリオス・オリンパスッ!』
アクセル達よりも先に来た来訪者であるヘリオス――いやギリアムが存在する事でもこの世界は乱れる筈だとアクセルは指摘し、その言葉をギリアムは否定できなかった。
『この世界を作り出した者が何であろうと、俺達を導いた存在が誰であろうと……俺は俺の意思……自分が信じる世界の為に戦争をしている……ッ! その結果、世界が滅びるならば……それもまたこの世界が選んだ結末なのさ』
もしも本当に世界が意志を持つのならば世界を滅ぼうとする自分達を導く事はなかった。いや、もし世界が滅びると言うのならばそれすらも世界の意志だとアクセルは声を上げた。そしてその叫びに呼応するかのように百鬼獣達も唸り声を上げる。
『ふん、鬼共もこれに関しては俺の意見と同じらしいな。勝ち負けでしか俺達にとっての善悪を定める事など出来はしないッ! 俺達が間違っていると言うのならば俺達を倒してそれを示すが良いッ!! リミット解除ッ! ソウルゲインよッ! 貴様の力……今一度やつらにッ! そして俺に示してみろッ!!!』
ソウルゲインの瞳が紅く輝き、傷ついた装甲が見る間に回復し、万全となったソウルゲインがギリアム達の前に立ち塞がる。
『お前はどうする? ウォーダン。ラミア達のように我らを裏切るか?』
『……我が刃に迷いなし、我はウォーダンッ! ウォーダン・ユミルッ! メイガスの剣だッ!!!』
ウォーダンが吼えるとスレードゲルミルの全身が再び翡翠の光に包まれ、グルンガスト参式・タイプGの前に立ち塞がる。
『ウォーダンよ。お前は己で考える事を放棄するのか?』
『否。俺の存在理由はお前を越える事だ、ゼンガー・ゾンボルトッ! ならばそれ以外の事は俺にとって何の関係もないッ!』
永遠に続く闘争の世界を作り、そのためにゼンガーを倒すと吼えるウォーダンにゼンガーは1度目を伏せ、そしてウォーダンの闘志に応えるように吼えた。
『ならば最早問答無用……いざ尋常に勝負ッ!!』
『応ッ!!!』
グルンガスト参式・タイプGとスレードゲルミルの斬艦刀がぶつかり合い凄まじい轟音を周囲に響かせる。それが合図となりシャドウミラー、百鬼帝国と教導隊の戦いはより激しさを増させて行くのだった……。
百鬼獣――独眼鬼、双剣鬼、鳥獣鬼、単眼鬼、白骨鬼、牛角鬼と戦艦から姿を見せる百鬼獣は何度もカイ達が戦ってきた百鬼獣であり、その対処法も十分に理解していたと言ってもいい。だがカイ達は攻めあぐね、そして徐々に押し込まれていた。
「ちいっ、連携してくるかッ!」
『置き土産が厄介すぎるなッ!!』
エルアインスとエルシュナイデ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱはスラッシュリッパーを装備し、そしてビームショットガンとスプリットミサイル等の面攻撃の武装を多数装備している上にシールドまで装備しており、それらの面攻撃で思うように移動、あるいは追い立てられ百鬼獣に対して無防備になりカイとラドラは少しずつだがダメージが蓄積していた。
『グルルルウ』
『キシャアアアーッ!!!』
そして百鬼獣の無理に攻め込まず、自分達が不利と悟れば即座に後退しエルアインス達を盾にし、修復機能で傷を再生する事を徹底しており、数自体は多くないのだが、明確な隙をついて強烈な一撃を叩き込んでくる百鬼獣は厄介だった。
「エルザム! ギリアムッ! なんとかならないかッ!」
『やっているが、こいつらは防衛に特化しているッ!』
『攻め切れんッ!!』
ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベ、ゲシュペンスト・リバイブ(S)の射撃武器を集団で密集する事で防ぎ、そしてダメージを分散させる事で撃墜をされることを抑え、カイとラドラの妨害を続けるエルシュナイデ達には流石のエルザムとギリアムの苛立ちを隠せない様子だ。
『こいつらは支援特化型だッ! とにかくでかい火力でぶっ飛ばさない限りは駄目だッ!』
バリソンのゲシュペンスト・MK-2改がビームライフルとスプリットミサイルで攻撃を仕掛けるがシールドとジャマーを駆使し、攻撃を防ぎ、そしていなし致命的なダメージを避ける。
『くそっ! やっぱり駄目かッ! グルンガストクラスの特機でもなきゃ突破できねえぞッ!』
妨害と援護に特化している量産型Wナンバーズを突破するにはPTの火力では足りない、ゲシュペンスト・シグやリバイブ(K)は単体火力こそ特機並だが範囲攻撃を持たない為倒しきれない。
『この乱戦の中ではブラックホールキャノンは使えん……ッ!』
『フレンドリーファイヤの可能性が高すぎるッ』
高火力の武器はあるが、逆をいえば火力がありすぎてエルアインスを倒すと同時にゼンガー達を巻き込むリスクがあり、それが判った上でエルアインス達は厭らしい立ち回りをしており、少しずつ数を減らす事か空を飛び交うスラッシュリッパーやミサイルを迎撃しているが、それでも数が多すぎて全てを迎撃出来ず数発がゲシュペンスト・シグとゲシュペンスト・リバイブ(K)の回りに着弾し、煙を発生させその煙を突っ切って来た双剣鬼の斬撃と単眼鬼のビームが2人の機体を襲う。
「ぐうっ! ちょこまかとッ!!」
『ジリ貧だな』
百鬼獣はエルシュナイデもろとも攻撃してくるので誘爆、そして半分機械であり半分生物である百鬼獣の攻撃は見切りにくく、反撃の糸口が見出せなかった。
「ぬおおおおッ!!!」
「はぁあああああッ!!!」
グルンガスト参式・タイプGとスレードゲルミルの斬艦刀がぶつかり合い、凄まじい轟音を響かせる。
【斬艦刀疾風怒濤】
【斬艦刀雷光切り】
グルンガスト参式・タイプGの横薙ぎ一閃とスレードゲルミルの上段からの切り下ろしがぶつかり合い凄まじいエネルギーの奔流を周囲に撒き散らす。
「チェストオオオオオッ!!!」
「ぐうっ! まだだッ!!」
【斬艦刀牙壊】
ゼンガーの裂帛の気合と共にグルンガスト参式・タイプGの一撃がスレードゲルミルを捉えるが、弾き飛ばされながらスレードゲルミルの放った一撃が参式斬艦刀の柄を穿ち、刀身が僅かに緩み始める。
「……敵ながら見事」
「ただでは俺は斬られんぞ、ゼンガー・ゾンボルトッ!!」
正眼に構えるグルンガスト参式・タイプGと切っ先を下にむけて構えるスレードゲルミル。踏み込みの速度はほぼ互角、そして装甲と攻撃力もまたほぼほぼ互角――勝敗を分けるのは2人の腕前の差、そして気迫の差だった。
「「参るッ!!」」
スレードゲルミルとグルンガスト参式・タイプGの戦いは激しく、誰も割り込める雰囲気ではない。下手に割り込めば斬艦刀は割り込んだ者を襲うだろう。ゼンガーとウォーダンの戦いは正々堂々とした一騎打ちの様相を呈しており、そこには誰も割り込める状況ではなかった。
「乱戦こそ俺達の最も得意とする戦場だ。卑怯等と言うなよッ!!」
インベーダー、アインスト、連邦軍と3つの陣営と戦い続けていたアクセル達からすれば乱戦、挟撃こそもっとも得意とする戦場であり、EG装甲で回復するソウルゲインの機体特性もあいまって2対1という状況でもアクセルがやや優勢となっていた。
「命のやり取りで卑怯も何もない。だがこの状況を利用できるのがお前だけと思わないことだッ!」
『援護しますッ!』
しかし乱戦はカーウァイも得意とする戦場であり、ラミアの支援もあることもあり完全に劣勢に追い込まれる事を避け、器用に立ち回っていた。
「はぁッ!!」
「おおおおッ!!」
参式斬艦刀とソウルゲインの拳打。振る必要のある参式斬艦刀の方が取り回しが不利であるにも拘らず、カーウァイは完全にアクセルを攻め込ませず、片手に持ったビームブレードガンと参式斬艦刀を使いこなしアクセルの出鼻を器用に挫き、機体サイズの差を巧く埋めていた。攻めきれないと感じていたアクセルはソウルゲインを後退さえ、広域通信でカーウァイに称賛の言葉を投げかけていた。
「やはり戦上手だな……カーウァイ大佐。お前でなければこれだけ時間を稼ぐ事は出来なかっただろう……だがこれで終わりではない、これからだッ!」
ハガネ、ヒリュウ改、シロガネが空域に姿を現した事で、アクセルの闘志は更に燃え上がり、基地に残されていた量産型Wシリーズが乗り込んだラーズアングリフ、アシュセイヴァー、エルアインス、エルシュナイデ、そしてアースゲインが次々と姿を現すのと、ハガネのPT達が出撃してくるのはほぼ同じタイミングであり、それを見てアクセルはより獰猛な笑みを浮かべる。
「仕切りなおしだ、まだ戦いは終わらんぞッ!」
そう吼えるアクセルの駆るソウルゲインは拳を打ち鳴らし、そのカメラアイをより強く輝かせるのだった……。
DC戦争時に廃棄された基地から熱源反応が多数感知され、それがバリソンと名乗るシャドウミラーの兵士の進路の合致する事もあり、急行して来たハガネ、ヒリュウ改、シロガネの3隻からアルトアイゼン・ギーガを先頭にし次々とPTが出撃する。
「やっぱりボス達が先行してて正解だったみたいね、なにこの地獄絵図……」
普段ふざけているエクセレンでさえ真顔になるほどに廃棄された基地の戦いは酷い様相を呈していた。百鬼獣に、ソウルゲインとスレードゲルミル、そして無数のシャドウミラーの量産機に挟撃に合いながらも全機無事なのはカーウァイ達でなければ不可能だっただろう。
『悪いが話している余裕はないぞ、百鬼獣とシャドウミラー。どちらでも良いッ! お前達で押さえろッ! 武蔵はゲッターD2に乗り込んでいる、黒いアンジュルグが倒れているあの格納庫だッ! 誰でも良いあの格納庫を確保しろッ』
百鬼獣、シャドウミラーの機体を相手にしながらカイがゲッターと武蔵のいる格納庫を確保しろと指示を出す。
「黒いアンジュルグ……あれはカイ少佐達が破壊したのか?」
『キョウスケ中尉、それは違う。エキドナが1人で武蔵をゲッターの元へ送り届ける為に戦い続けたのだ』
状況説明を求めたキョウスケに返事を返したのはエルアインスを両断したヴァイサーガのラミアの広域通信による物だった。
「……ラミアッ!」
「ラ、ラミアさんッ!!」
「お前、無事だったのかッ!?」
自爆した筈のラミアからの通信にキョウスケ達の間に驚きが広がった。
「エキドナって武蔵を連れ去った奴が何で武蔵を守って戦ってやがるんだ。それにお前もだ、お前も元いた所に戻っただけだろうがッ! 守ったなんて良く言えたもんだなッ!」
カチーナの言葉も最もである、エキドナがいなければ武蔵が連れ去れる事は無かっただろう。それを恩着せがましいと思うのは当然の事である。
『……ああ、確かにその通りだろう。だがそれでもエキドナは武蔵を牢屋から救い出しゲッターの元へ送り届けた。それは嘘ではない、そして自分が死ぬ覚悟をして戦い続けた。それは紛れも無い事実だ』
両足が砕け、翼を失い、腕も1本しか残されていないアンジュルグ・ノワールは紛れも無く大破しており、パイロットであるエキドナが無事であるとは思えない有様だった。
『経緯はどうあれ、今の彼女達は我々の味方だ。それは私が、いや……』
『俺達が保障する。とにかく今はあの格納庫を確保しろッ!』
ラミアとエキドナ――シャドウミラーの構成員である2人が教導隊と共に戦っている、そしてエルザムとカイ達が味方であると保障するとまで言うのだ。信用したいと言う気持ちが無い訳ではなかったが……それでも裏切ったのは紛れも無い事実であり、それをすぐに信用しろと言うのは難しい問題だった。
『レーツェル、俺達にその言葉を信じろというのか?』
『レーツェル? 何を言っているライ、私はエルザムだ』
……この状況なのにレーツェルとエルザムは別人だと主張するエルザムにライの目が死んだ。むしろどうすれば良いのかと困惑していると言っても良いだろう……。
『その気になればラミアは俺達を背後から討つ事も出来た。この状況を見てみろ』
『この状況で私達を陥れようとしているように見えるか?』
量産機と百鬼獣に挟まれ、その上ソウルゲインとスレードゲルミルがいる――この状況でラミアが陥れようとしているのならば教導隊のメンバーの誰かは撃墜されている筈だ。それが全員揃っている事がラミアの身の潔白を表していると言っても良かった……だがそれでもだ、善人ばかりのハガネのクルーの事を考えカチーナはあえて悪者となる事を選ぶ、それがカチーナなりの仲間の守り方だからだ。
「今まで あたしらを欺いてきた奴だぜ? そう簡単に……」
『彼女の戦に迷いはない。 結果がそれを証明している』
『……私も同感だ』
ゼンガーとギリアムにまで気勢をそがれては流石のカチーナも沈黙し、そして無言のままゲシュペンスト・MK-Ⅲを駆りヴァイサーガへと走る。
『ちゅ、中尉!? 何をッ!?』
「何をだ? んなもん決まってるだろうがッ!!!」
そう吼えたカチーナが駆るゲシュペンスト・MK-Ⅲは地面を蹴り跳躍すると同時に急降下して来た鳥獣鬼の顔面にライトニングステークを叩きつけ殴り飛ばす。
「あの面子にあそこまで言われたら信じるしかねえだろうがッ! それにぐだぐだ言ってる場合じゃねぇッ! とっとと押し返すぞッ!! 野郎共ッ!!」
百鬼獣の侵攻は激しくなり、ここで押し問答をしている場合じゃないとカチーナが叫ぶ。
「本当……カチーナ中尉は素直じゃないんだから……とりあえず今までの事は水に流すって事で……詳しくは後でね、ラミアちゃん」
『エクセ姉様……お心遣い、感謝します……』
思う事はある、全てを信用する事は出来ない。だがそれでもラミアはこの絶体絶命の窮地の中で戦い続けていた、それがラミアの身の潔白を示す確かな証拠でもあった。
『ならリューネ! まずは格納庫までの道を空けるぜッ!』
『OK! マサキッ!!
サイバスターとヴァルシオーネが同時に飛翔し、エルアインス達の頭上を取る。何をしようとしているか悟ったキョウスケは即座に指示を飛ばす。
「加速力のある機体は一気に包囲網を抜けてゲッターD2の格納庫へ向かえッ! 攻撃力のある機体は百鬼獣を抑えるッ! 巻き返すぞッ!!!」
『サイフラァアアアアシュッ!!!!』
『サイコブラスタァアアアア――ッ!!!』
緑と桃色の閃光が基地上空を染め上げ、その光の直撃を受けたエルアインスやエルシュナイデは細かい爆発を繰り返し、片膝を付いて動きを止める。
『ちいっ! MAPWかッ!!』
『面妖なッ!』
サイフラッシュとサイコブラスターは敵味方を識別し、アクセル達や百鬼獣の動きを止める。その隙を突いてヴァイスリッター改、アステリオンが先行し、その後をすぐサイバスターとヴァルシオーネが続きゲッターロボと武蔵の確保へと向かう。
「お前の相手は俺だ。アクセル」
『ふっ、元より追うつもりなど無い……勝負だ。ベーオウルフッ!!!』
ゲシュペンスト・タイプS、そしてヴァイサーガに目もくれずソウルゲインは地面を蹴り一直線にアルトアイゼン・ギーガへと突撃する。
『補給装置を持ってるゲシュペンスト・MK-Ⅲが待機してる。1度エネルギーを補給したほうが良い、このタイミングでガス欠なんて洒落にならんぜ』
『すまん、1度下がる。カイ、ギリアム! お前達も補給を受けておけ、この戦い――まだまだ終わらんぞッ!』
ハガネ組と入れ代わりずっと戦闘を続けていたカーウァイ達が補給装置を持っているラッセルのゲシュペンストへ向かおうとした瞬間だった――百鬼獣を出撃させ海中に沈んでいた百鬼帝国の戦闘母艦が再び浮上し、ヴァイスリッター改達へ向かって何かを射出した。
『なんだ、ミサイル……じゃねえッ! なんだありゃあッ!?』
『戦闘機……そんな……まさかあれはッ!?』
最初はミサイルだと思ったのだがミサイルにしては大きすぎ、そして加えてミサイルにしては早すぎた。そしてミサイルにしてはその姿は異形だった……それがなんなのかを確かめようとした瞬間、その何かから射出されたミサイルがレオナのガーリオンや、カチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲのすぐ隣に着弾しを爆発と共に周囲に火柱を作り出した。
『うあっ!? なんだこれはッ!?』
『ナパーム弾!? でもこの火力は一体ッ!?』
ナパーム弾だと最初は思った。だがそれはナパーム弾等という生易しい物ではなく、下手をすればPTでさえ一瞬で焼き尽くすほどの火力を持ったマグマミサイル弾だった。カチーナ達は慌てて退避するが、その装甲は数秒で融解し、火花を上げていた。
『マグマミサイルだと!? 馬鹿な何故あれを百鬼帝国が持っている!? 散れッ! 直撃を受けたらPTでは跡形も無く消し飛ぶぞッ!』
それが恐竜帝国の武器であると事に気付いたのはラドラであり、警告を飛ばすが3機の戦闘機は容赦なくマグマミサイル弾を周囲に放ち、基地を火の海へと変え悠然と炎の海の上を飛ぶ航空力学に喧嘩を売った様なその特徴的な形状は紛れも無くその姿はゲットマシンの姿だった。だがそれは武蔵のゲットマシンとは似ても似つかない姿をした生物的な意匠を持つゲットマシンだった……。
どこか生物的な意匠を持つ鋭利な装甲を持つ爬虫類の王の名を異名を持つゲットマシン――ボアレックスが先頭を飛ぶ。
その後を追ってライガー号に良く似たシルエットをしたその機体は爬虫類最速の異名を持つゲットマシン――ガリムがマグマミサイル弾を無作為に放ち、百鬼獣、シャドウミラー、ハガネのPT隊の周辺を火の海へ変えながらボアレックスの後を追う。
そして最後尾を続くのは爬虫類一巨大なる物の異名を持ち、ボアレックス、ガリムよりも巨大なメガロンが加速する。
ボアレックスに突き刺さるようにガリム、メガロンと続き3体のゲットマシンはキョウスケ達の目の前でゲッターロボへと姿を変える。
【ガオオオオオーーーンッ!!!!】
だがそれはゲッターロボであって、ゲッターロボではないもの――武蔵の知る歴史とは異なる世界で恐竜帝国によって作り出されたゲッターロボ――ゲッターザウルスは凄まじい咆哮を上げ、棘つきの棍棒であるダブルシュテルンを振るいヴァイスリッター改達を力任せに殴りつける。
『あぐっ!?』
『うわああああ――ッ!!!』
耐久力に劣るヴァイスリッター改とアステリオンは殴り飛ばされたままの勢いで海中へと弾き飛ばされ沈没する。そしてサイバスターとヴァルシオーネはダブルシュテルンを受け止めたが……。
『がっ!? こ、こいつなんて馬鹿力ッ!?』
『だ、駄目だ。押さえ切れないッ!!! うわッ!?』
ディスカッターとディバインアームを砕きながらサイバスターとヴァルシオーネを地面へと叩きつけ、振りかぶったダブルシュテルンを格納庫の前に陣取っていたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベとゲシュペンストMK-Ⅱ改へと投げ付ける。
『避けられんッ! 機体を盾にするしかッ!』
『くそがッ!』
アンジュルグ・ノワール、ゲッターD2が背後にいるので避ける事は出来ず、バリソンとエルザムに出来たのは己の機体を盾にすることだけだが、ダブルシュテルンの一撃を耐える事は出来ずヴァイスリッター改とアステリオン同様弾き飛ばされ、水柱を上げて海中へと沈んでいく……。
『メカザウルスなのか、ゲッターロボなのかッ!? どっちなんだッ! ラドラ少佐、あれはなんなんだッ!』
『判らんッ! だが……メカザウルスであり、ゲッターロボなのかも知れんッ!!』
ラドラはゲッターザウルスの事を知らない、だがメカザウルスであり、そしてゲッターロボであると言う事はその直感で感じ取っていた。そしてその力の強大さもだ。
『いかんッ! このままでは武蔵がッ!』
『ゼンガー。俺を前に余所見をするなど死にたいのかッ!!!』
『ちいっ!?』
ゲッターザウルスではゲッターD2も破壊されてしまうかもしれない――ゼンガーが救援に向かおうとするがスレードゲルミルがその前に立ち塞がり、ゼンガーの動きを妨害し、サイフラッシュ、サイコブラスターのダメージから復活したエルアインス達が百鬼獣と共に壁を作り、完全にキョウスケ達とゲッターD2とアンジュルグ・ノワールを分断する。
『主砲! メカザウルスにあわせッ! 格納庫に当てるなよッ!』
『副砲の照準をメカザウルスへッ! てぇッ!!』
ハガネとヒリュウ改の主砲と副砲が命中するがゲッターザウルスの装甲を傷つけるのがやっとであり、その動きを止める事は叶わない。悠然と格納庫の前に歩みを進めるゲッターザウルスは血走った目でアンジュルグ・ノワールを……いや格納庫にいるゲッターD2を睨みつけ怒りに満ちた雄叫びを上げる。
【ゴガアアアアアアーッ!!!】
アンジュグル・ノワールごと格納庫を破壊せんとゲッターザウルスがダブルシュテルンを振りかぶり、唐竹斬りの一撃を繰り出す。それはアンジュルグ・ノワールに命中する寸前に格納庫が内側から砕け散り、そこから伸びて来た真紅の腕がダブルシュテルンを受け止める。
「エキドナさんはやらせるかよ、この出来損ないのトカゲゲッターがッ!!!」
ゲッターD2の鉄拳がゲッターザウルスの頭部を捉え殴り飛ばすが、ゲッターザウルスはすぐに体勢を立て直しダブルシュテルンを構え唸り声を上げる。
「はっ、トカゲゲッターが本物のゲッターロボに勝てると思うなよッ! ダブルトマホークッ!!!」
【キシャアアアアアーッ!!】
ダブルシュテルンとダブルトマホークがぶつかり合い凄まじい轟音と衝撃波を撒き散らし、基地の設備を容赦なく破壊、そして基地に広がっていた炎を掻き消す。
「なるほどな、力だけはゲッターと互角ってことかよ。キョウスケさん、エルザムさん! こいつはオイラとゲッターが相手をします! その代り何とかしてエキドナさんだけでも回収してくださいッ! おら、来いやあッ!!!」
【キシャアアッ!!!】
武蔵とゲッターD2に向かって憎悪の咆哮をあげたゲッターザウルスは地面を砕きながらゲッターD2へと走り出し、ダブルシュテルンを振るう。そしてゲッターD2もその一撃を向かえ討たんとダブルトマホークを振り上げ、再び凄まじい衝撃波が基地全体へと広がるのだった……。
第153話 楽園からの追放者 その6へ続く
百鬼帝国の新兵器はフラスコの世界へと流れ着いたゲッターザウルスでした。百鬼帝国の技術で強化されたゲッターザウルスはゲッターD2より少し弱いですが、それでも十分に強い機体となります。ゲッターザウルスが破壊されるのか、それとも回収されるのか今後の展開次第ってことですね。ゲッターロボにはラドラは乗れないですが、ザウルスなら乗れるかもしれないですし……でもゲッターを友軍機にしすぎるのも考えてしまうので、どうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い