進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第155話 世界を流離う者 その2

 

第155話 世界を流離う者 その2

 

ラミアとエキドナが記録としてしか知らない平行世界の話――アクセル達が何故キョウスケを危険視するのか、そして自分達の世界でも起きうる事件――今まで謎だった事が明かされる……ブリーフィングルームには異様な雰囲気が広がっていた。

 

「まずはどこから話そうか……やっぱりあれだな、インスペクター事件が1番最初だな。俺達の地球に1番最初に攻め込んできたのはヴィガジ、メキボス、シカログ、アギーハの4人だった。ここはお前達の世界と大差は無いが、俺達の世界にはエアロゲイターが攻め込んで来ていないから、あいつらは殆ど無抵抗のコロニーを拠点にしていた」

 

「コロニーをか? 統合軍はなかった筈だが、連邦軍はいたのだろう? そんなにも簡単に制圧されたのか?」

 

コロニーを拠点にしていたと言うバリソンの言葉に統合軍はいなかったとしても連邦軍はどうした? とカーウァイが問いかける。

 

「簡単ですよ、カーウァイ隊長。連邦軍は確かにいましたが兵器は旧式でPTもAMもなく、ランゼンで攻め込んでくるインスペクターの大群を押さえれる訳が無い。それにもっと言えば俺達の地球は徹底した地球至上主義が横行していて重すぎる税金、それにありえないほどに高い物価、コロニー出身ってだけで出世も出来ず飼い殺し、そんな状況で地球に攻め込んでくる異星人を食い止めようなんて思う軍人はいないですよ」

 

バリソンの語るコロニーの扱い、そして地球の情勢を聞いてキョウスケ達は思わず眉を顰めた。

 

「そこまでか?」

 

「まぁ……ありえなくはないけどよ……」

 

「信じがたいな……」

 

「言っておくが、嘘じゃないぞ? エルピス事件で指導者と呼べる人間が全滅したからな。連邦と交渉出来る人間がいなければ、圧制を覆そうと立ち上がる者もいなかった……こんな事を言うのはなんだと思うが……俺達の世界のコロニーはただの地球に住む人間の植民地だった。だから宇宙を守るように命じられていた連邦軍の大半はほぼほぼ無条件降伏を選んだ。インスペクターに支配されても、地球人に支配されても大差ないからな。むしろ技術者などが多かったコロニーはインスペクターに重宝されて安定した生活が出来る者もいたくらいだし、むしろ地球を滅ぼしてくれるならと協力した者もいたくらいだ」

 

マイヤーがいないことで統合軍が結成されず、そして地球の圧制や不平等な条約を覆せる知識人もいない、あまりにもコロニーに住む人間を蔑んだ結果がコロニーの住人のインスペクターへの協力であった。

 

「コロニーの技術の多くを得たインスペクターは地球へ侵攻し、地球の都市部の多くはほぼほぼ一瞬で制圧された。まぁ当然だ、地球の重鎮の集まっている場所、軍の中枢をコロニーの住人から聞いていたんだ。しかも重要拠点の多くの防衛システムはコロニーのエンジニアが作成していたから機能せずって所だ」

 

もしもの世界ではあるが、あまりにも酷い連邦上層部の話にブリーフィングルームにいる誰もが言葉を失った。侵略者であるインスペクターに協力しても良いと思うほどに抑圧されていたコロニーの住人達、世界は違えどコロニー出身であるライ達は目を伏せ沈鬱そうな表情を浮かべる。

 

「地球はインスペクターに支配され、軍人の多くが死んだ。それでも地球を守ろうとする意志を持つ者は地に潜りインスペクターに反撃する事を諦めなかった。それがシャドウミラーの原型、当時大尉だったカーウァイ隊長が率いた義勇部隊だ」

 

永遠の闘争の世界が理想世界だと言うシャドウミラーが最初は地球を守るために立ち上がった義勇部隊と聞いて、カチーナ達は驚いた表情を浮かべた。

 

「シャドウミラーは永遠の闘争の世界を作りたかったじゃねえのか?」

 

「本当なのですか? バリソン少佐」

 

「我々はそんな話を知りませんが……」

 

ラミアとエキドナも信じられないという表情で尋ねるが、バリソンは真実だと言い切った。

 

「それも詳しく説明するがまずはインスペクター事件からだ。最初はたった数体の廃棄される寸前のゲシュペンストから始まり、修理や改造を繰り返し、それこそインスペクターの機動兵器を奪い自分達の機体を改造し、少しずつ勢力圏を取り返しインスペクターに運用されていたハガネとヒリュウを奪い返してからは味方も増えてきた」

 

「ハガネがインスペクターに奪われたのか?」

 

『ヒリュウ改もですか?』

 

自分達の母艦までインスペクターに奪われていたと聞きブリーフィングルームにざわめきが広がる…ダイテツとレフィーナも信じられないという様子でバリソンに詳細を聞かせてくれと問いかける。

 

「ああ、奪われたというよりかは上層部が生き残る為にインスペクターに献上したんだ。まぁそれを隠したいから勇敢に戦ったとか言ってたけどな。ああ、言っておくが艦長は全員違うからな」

 

平行世界の自分達がそんな愚かな事をしたのかと深刻そうな顔をしているダイテツ達に違うと声を掛け、バリソンは話を続ける。

 

「テスラ研を奪還してから俺達は破竹の勢いでインスペクターを宇宙まで押し返すことに成功し、最終決戦に挑む為に数多の最新機が作成された。その中でも俺達のフラグシップとして、そして最高の機体と言われたのはインスペクターの指揮官機を全て単独で撃破した英雄機ゲシュペンスト・タイプS、そしてカーウァイ隊長の活躍によってインスペクター軍は撤退し、地球を取り返した俺達は英雄部隊と言われることになった。地球やコロニーの鍔迫り合いとかもあったし、散発的だが異星人の襲撃もあったが、その都度俺達は取り戻した平和を維持しようと戦った。その中で軍備強化やコロニーの地位向上もあってな、俺達の戦いは無駄じゃなかったってアクセルや、ヴィンデルの奴と良く話したもんさ」

 

誇らしげに、いや実際に誇らしいのだろうバリソンの顔は輝いていたが、それもすぐに曇る。

 

「だがそれは何時までも続かなかった。僅かに生き残った議員や連邦の上層部はコロニー出身のカーウァイ隊長が少将の地位になったこと、そして異星人の襲撃を防ぐ度に多くの民間人上がりを抱えながら英雄と言われる俺達を疎ましく思い始めイージス計画を実行に移した。地球をバリアで覆い、異星人の襲撃を防ぐという目的で数多くの賛同を得た計画だったが……開発の途中で謎の生物が出現するようになった」

 

「……インベーダーか」

 

口ごもったバリソンの言葉を継いで武蔵がインベーダーの名前を口にするとバリソンは頷いた。

 

「その通りだぜ武蔵。インベーダーに続き、アインストも出現し再び地球は騒乱に包まれた。上層部はイージスシステムさえ起動すれば化け物はいなくなるとして計画をゴリ押しした。だがそのイージスシステムがインベーダーやアインストを呼び寄せている事が分かったんだ。俺は学がないから分からんが、高エネルギーによる時空の歪みとかどうとか……」

 

バリソンのふわふわした説明にビアン達は顎の下に手を置いてふむと呟いた。

 

「考えられるのはエネルギーの方向性の違いか?」

 

「それもありますが、アインストに寄生されたキョウスケという線も捨て切れませんね」

 

「確かに、アインストのコアのエネルギーは凄まじい物だ、それがイージスシステムに影響を与えた可能性は高いな」

 

何故イージスシステムでアインストとインベーダーが出現したのか、その理由を考察し始めるビアン達の姿にバリソンは咳払いをした。

 

「おっと失礼、話を続けてくれ」

 

「ああ、イージスシステムについてはまた後であんた達で考えてくれ。話を戻すが、俺達はイージスシステムの起動を止めようと俺達はしたんだが……上層部はそれを認めず、俺達が戦争を続ける為にイージスシステムを狂わせたと言い出した」

 

バリソンはそう言うと肩を震わせ、拳を硬く握り締めた。

 

「馬鹿な奴らだ、俺達にそんな事が出来るわけもねぇ。だが俺達を面白く思っていない上層部によって情報を改変され、俺達がイージスシステムを狂わせたというのが広がってシャドウミラー隊は解散を命じられ、カーウァイ隊長はクーデターを起こしイージス計画を止めようとした。俺達はベーオウルフが何かを宇宙に向けて放出してる姿と、それによって出現するアインストとインベーダーの大群を見たが、ベーオウルフを倒すよりもイージスシステムを破壊し、上層部を一掃、その後全勢力をつぎ込んでベーオウルフの撃破が最も成功率が高いと踏んだんだが……結局は失敗しちまった」

 

クーデターを起そうとしたと聞いてキョウスケ達は信じられないと言う顔をしたが、カイ達はむしろ納得という表情を浮かべた。

 

「なんで驚かないの? ギリアム少佐達は」

 

「俺達は知っているからな」

 

「カーウァイ大佐ならそうする」

 

「うむ」

 

「最終手段として踏み切るだろう」

 

『むしろゲシュペンストの開発の段階からそんな感じだったぞ』

 

「……お前達は私をなんだと思っている?」

 

理知的に見えるカーウァイだが、実際の所は知略と軍略に長けたバーサーカーと言うのはゼンガー達の年代の軍人には広く知られていたりする。

 

「クーデターとかはしないと言うのならば、話は変わるが……」

 

「同じ状況になったのなら選択肢に入れる」

 

「諦めろ、こいつも武蔵の同類だ。覚悟完了してるからとんでもない行動に出る大馬鹿野郎だ」

 

イングラムが武蔵とカーウァイを指差して言うが、武蔵とカーウァイは不満げな表情を浮かべる、

 

「オイラもですか?」

 

「酷い言われようだと思わないか?」

 

「思いますよ。オイラとカーウァイさんが何をしたって言うんですか……」

 

何をしたと嘆く武蔵だが、覚悟完了しているととんでもない暴挙に出る人間が何を言っていると完全にスルーされた。

 

「情報操作や、世論の締め付けを受けていてな。正当な方法で覆すというのは不可能だった。だからこそのクーデターだったが……キョウスケ・ナンブ率いるベーオウルブズを初めとしたウルブズによって失敗し、カーウァイ隊長は投獄され、見せしめの意味もあり銃殺刑、英雄機ゲシュペンスト・タイプSも反逆の証として爆破された。そこからだな、ヴィンデル達がおかしくなり始めたのは……そんなに戦争を俺達が起こそうとしているというのならばそうしてやろうってなったんだけどな……後はそっちも知っての通り、イージスシステムが起動し、インベーダーとアインストが闊歩する地獄になったって言うのが俺達の世界の地球だ」

 

最初は平和を求めた。だが権力者や上層部に疎まれ全ての責任を押し付けられた挙句に隊長は殺され、全ての元凶とされた。その憎しみも恨みも分かる、そしてそうなったのは平和な世界になったからだと言われればアクセル達の言う永遠の闘争も分からない訳ではない……だがだからと言って悲劇を撒き散らして良いという訳ではない。

 

『確かに同情するべき所はある。だが侵略活動を始めた所で私はお前達は被害者ではなく、加害者となったのだ』

 

「分かってるさ、ただ……お前達も違うとは言い切れないだろ? 俺達みたいな馬鹿な真似はしてくれるなって言いたいのさ。愚痴っぽくなったけどな」

 

ダイテツ達もまた疎まれ、そして味方である筈の連邦軍に妨害工作を受けている。それはバリソン達が歩んだ苦難と良く似ている、だからこそバリソンは警告として自分達の世界の話をしたのだ。

 

「脱線して悪かったな。ベーオウルブズ、そして俺達の世界のキョウスケ・ナンブの話をする。だが俺達の世界の話も完全に意味のない話じゃないって事は分かってくれ、ベーオウルブズ、そしてシャドウミラーの関係性はかなり複雑なんだ。だが全ての始まりはインスペクター事件、そしてイージスシステムから始まったんだ……」

 

バリソンはそう言うとベーオウルブズの始まり、そして向こう側のキョウスケがどんな人間だったのかを思い出すかのようにゆっくりと話し始めるのだった……

 

 

 

 

バリソンは懐から自分のDコンを取り出して、それを操作してキョウスケに投げ渡す。それを受け取ったキョウスケはDコンに映っている写真を見て目を見開いた。

 

「……これはまさか」

 

「おう、お前の隣にいるのがアクセル。その隣がレモン、一番後ろで不満そうな顔をしているのがヴィンデルだ」

 

シャドウミラーの構成員の写真と聞いてエクセレン達もキョウスケの手の中のDコンを覗き込んだ。

 

「あら、結構なイケメンね。ワイルド系かしら?」

 

「エクセ姉様、そこはちょっと違うと思います」

 

「あらやだ……ラミアちゃんが突っ込みを覚えてるわ」

 

「ふざけてんじゃねえ。しかしなんだ……ここにいる面子の顔は殆どねえな」

 

かなりの大人数がいることから集合写真と言う事は分かるが、そこにカチーナやタスク、それにリュウセイ達の姿は無く殆ど知らない人間となっている事にカチーナは首を傾げた。

 

「こっちと俺達の世界は違うからな。シャドウミラー隊とATXチームは仲間としてインスペクター事件を戦い抜いた。その時はキョウスケは普通だった、ちょっとまぁギャンブル癖があったが……おい、なんで目を逸らす?」

 

ギャンブル癖があったと聞いて全員が目を逸らし、バリソンはこっちも同じなのかと呆れた様子だったが、首を左右に振り話を続けた。

 

「ATXチームは連邦の僅かな生き残り部隊で全員地球人ってのが上層部に気に入られてな、俺達は厄介払いで戦場を転々と、キョウスケ達は都市部に栄転となり、そこで戦果を認められて発足された地球連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズが結成されることになった」

 

ベーオウルブズ――何度もアクセル達の口から語られた部隊名がATXチームだったと言うのにはATXチームだったブリット達が驚く事になった。

 

「俺はいなかったのか? それにエクセレン少尉も……」

 

「……エクセレンはあれだろ? レモンの妹、とっくの昔に死んでるっつう話だが……こっちでは生きてるんだな」

 

キョウスケの隣のエクセレンを見ながら言うバリソン。だが自分が死んでると言うのはエクセレンとしても面白くなかったのか眉を顰める。

 

「ちょっとちょっとー、そういう事言うのはどうかと思うわよ~?」

 

「そいつは悪かったな、んでお前さんは誰だ? 少なくとも俺はあんたを知らないが……お前もATXチームなのか?」

 

ブリットにそう問いかけるバリソン。ブリットは自分がATXチームじゃないって事に驚きながらも自己紹介をする。

 

「ブルックリン・ラックフィールドだ。ATXチームメンバーだ」

 

「ブルックリン? ああ、お前が……なるほどなあ……」

 

ブリットの名前を聞いて得心が行ったのかジロジロと見つめるバリソンにブリットは居心地が悪そうに肩を竦める。

 

「ブリット君がどうかしたんですか?」

 

それを見てクスハがブリットを庇うように前に出ながら尋ねるとバリソンは両手を上げた。

 

「悪い悪い、名前だけは知ってるんでな。顔を見てこんな顔をしてたのかって思っただけさ」

 

『その口振りだとお前達の世界ではブリットは……』

 

コウキがそう尋ねるとバリソンは首を左右に振った。それだけでバリソンの世界のブリットがどうなったのか察して余りある物だった

 

「悪いが死んでるな。俺達の世界のヒュッケバインのパイロットで起動実験に失敗して吹っ飛んでる」

 

「ブリットがヒュッケバインのパイロットだったのか……」

 

「そうみたいだな……少し信じられないが……」

 

この世界ではライがヒュッケバインのパイロットであり、機動実験で腕を失った。だがバリソンたちの世界ではブリットがパイロットに選ばれ、そして機動実験で死んだ。世界が違うだけで笑いあっていた友がいない……今こうして笑いあっている事が実は奇蹟なのではないか? 思わずそんな馬鹿な考えが脳裏を過ぎった。

 

「ベーオウルブズが結成され、異星人の襲来が2~3度あった頃合からか……ある噂が流れ始めた。曰く、キョウスケ・ナンブは人間ではないと、人知を超えた力を振るいベーオウルブズの隊員も皆おかしくなっているとな」

 

バリソンの語り出しにそれこそが自分の求めている話だとキョウスケはすぐに悟った。

 

「人知を超えた力とはアインストの力か……?」

 

「ああ、異常な反射神経に身体能力、それに治癒能力、だが俺達が1番恐れたのは同類を増やす能力……ベーオウルブズに撃墜された機体もまた時間を掛けて蘇り、ベーオウルブズと同じになった。その頃にはアインストとインベーダーが闊歩していたからな、ベーオウルフ――つまりキョウスケ・ナンブが既にインベーダーかアインストに寄生され人間狩りを始めたって言うのはすぐに広がった。俺達もべーオウルブズとは何度も戦った。最初こそ互角の勝負が出来たし、撃墜する事も撤退させる事も出来たが、戦う回数が増えれば増えるほどにベーオウルフは強くなり手が付けられなくなった。事態を重く見た連邦政府はSRXチームにベーオウルブズの討伐を命じたが……結果はラトゥーニ・スゥボータを残しSRXチームは全滅しSRXも破壊され、事実上連邦軍は壊滅した」

 

SRXが破壊されたこと、そしてラトゥーニを除いて全員死んだと言う事にひゅっとラトゥーニが息を呑む音が響き、リュウセイ自身も信じられない、いや信じたくないという気持ちが強い中、身体を震わせているラトゥーニの手を強く握り締める。

 

「悪いな、まぁ俺達の世界の話って事で聞き流してくれ。話を続けるがベーオウルブズの侵攻は続き、人類が人工冬眠する為のアースクレイドルの破壊と人工冬眠していた4万人の殺害、そしてアースクレイドルの守人ゼンガー・ゾンボルトの殺害とアインスト化。生き残りの連邦軍はそれぞれの守りたい者を守る為にベーオウルブズに攻撃を仕掛けたが、SRXやスペースノア級を失った人類が勝てる訳も無く成す術も無く敗退……人類はインベーダーとアインストに敗北した。こんな世の中に絶望して自殺する者、僅かな物資の奪い合いによる殺し合い、インベーダーかアインストに寄生された人間による虐殺……権力者はスペースノア級や戦艦によって地球圏から脱出……俺達の世界は一言で言えば世紀末と言っても良い、もう俺達じゃどうしようもない破滅へと向かった世界……だから俺達シャドウミラー隊はヘリオスの残したシステムXNを用いて平行世界に逃げることを計画、民間人などの救出作業も行なっていたが……」

 

そこで言葉を切ったバリソンは深い、深い溜め息を吐いた。懺悔、後悔、怒り……複雑な感情が入り混じった表情を浮かべた。

 

「インベーダーとアインスト出現を俺達の所為にしようとしたイージス計画推進派が避難所に爆弾を設置、救助作業中に起爆されシャドウミラー隊は俺、アクセル、レモン、ヴィンデルを除き全員死亡、保護するはずだった民間人も皆死んだ……俺は救助作業中に吹っ飛ばされて、中破したゲシュペンスト・MK-Ⅱで僅かな生存者がいないかを探している間にインベーダーとアインストに追われている道中に武蔵達に助けられたんだ。その後は武蔵達も知っての通り、システムXNを求めてインベーダーやアインストと戦いながらの逃亡を繰り返す事になったんだ」

 

余りにも大きなアインストに寄生されたキョウスケが齎した被害。アクセル達がキョウスケを危惧する理由は地球を滅ぼしたからであり、それもある意味当然の結果だった。だが根底にあるのは平和によって腐敗した上層部、特級階級による支配と癒着、自分達こそが正しいという横暴、ほんの僅かな話し合えば避けれていたかもしれない数多の悲劇……だがそれすらも行なわれずほんの僅かな掛け違いでどうしようもないほどに壊滅した世界――それがバリソン達の地球なのだった。

 

 

 

 

 

 

バリソンが話を終えるとブリーフィングルームには嫌な沈黙が広がった……それも当然と言えるだろう。何もかもが手遅れになった世界、もう自分達ではどうしようもなくただただ滅びへと進む世界……可能性未来の話だが、自分達の世界もそうなるかもしれないと思うと誰も言葉を発する事は出来なかった。

 

「何を深刻そうに考えている? バリソンの語る話は可能性未来の形であり、未来は今を生きる者の行動で変わる。諦める必要も、絶望する必要も無い。最悪を知るのならば、最悪へと至らないように行動すればいいのだよ」

 

ビアンの言葉は決して感情的ではない、理知的で、そして静かな声であったがそれ故に大きくブリーフィングルームに広がった。

 

『ビアン博士の言う通りだ。システムXNを作り、シャドウミラーをこの世界に招き入れた俺が言えることでは無いが……未来は幾らでも変えられる』

 

バリソンの語る世界も確かに1つの結末ではあるが、バリソンの世界とキョウスケ達の世界は同じ歴史を歩んでいない、それが1つのバリソン達の世界とは違うと言う1つの証明でもあった。

 

『そ、そうだよな。未来は変えられる……諦めることなんか無いんだ』

 

『ああ、俺達にはやるべき事がある。こんな所でくじけている場合ではない』

 

ビアンとギリアムの言葉でブリーフィングルームに明るい雰囲気が戻ってくる。確かに破滅の未来も可能性として存在している、だがその未来に縛られ歩む事を止めればそれこそ破滅の未来に繋がる……未来を変える為にまずは行動しなければならない。

 

「百鬼帝国を退け、インスペクターを迎撃する。そしてインベーダーとアインストを駆逐する……確かにどれも困難を極めるだろう……だが私達ならばやれる、L5戦役だって絶望的な戦いだった。だが我々は勝利し、地球に平和を齎した。1度出来た事が2度出来ない訳が無い……我々ならば出来る。平和を愛する心が、地球を護りたいと言う願いがあれば成し遂げる事が出来るのだ」

 

偽物のビアンにはない、本物のカリスマ――それが確かな熱となり大きく広がる。

 

「その為にもまずシャドウミラーの戦力について知りたい、プランタジネットの中でシャドウミラーが強襲してくる可能性はゼロではないからな、ラミア、エキドナ、バリソン。シャドウミラーの戦力の規模はどうなっているんだ?」

 

ラングレーを制圧しているインスペクターと戦う中でシャドウミラーが強襲を仕掛けてくる可能性は極めて高い。備えるという意味も込めてシャドウミラーの戦力を大まかでもいいから把握する必要があるとビアンは考えていた。

 

『今シャドウミラーはアースクレイドルで百鬼帝国と協力して兵器を開発しているから詳しい数は判らない。だがこの世界に来る時の戦力の数なら分かる』

 

「それで構わない、この世界にどれだけの戦力が転移してきたのだ?」

 

『ゲシュペンスト・MK-Ⅱやエルアインス、アースゲイン等のEGシリーズに、地球連邦に見限りを付けて合流したDCや連邦の部隊をあわせれば……恐らく3500機ほどになるかと思います』

 

3500機……連邦の戦力、そしてクロガネをあわせてもなお届かない圧倒的な物量だ。

 

『ラミア、不安を煽る様な事は言うな。転移する寸前にベーオウルフの襲撃を受けた、数はもっと少ない筈だ』

 

『確かになぁ……オイラとかも戦ったけど、どんどん戦艦とか撃墜されていたし……』

 

イングラムと武蔵がもっと数が少なくないか? と言うとラミアとエキドナは暫し考え込む素振りを見せる。

 

『確か、転移前の数は1796の筈だ』

 

『テスラ研攻防戦で半数ほど撃墜された筈だが……』

 

『正直な所良く判らないっつうのがほんとの所になるビアン博士。ヘリオスがいるから説明は任せるが、転移に関しては莫大なリスクがある実験の結果を考えれば……集まった数の半分、いやもっと少ない数がこの世界に来れていれば御の字の筈だ』

 

「む? そうなのか? ギリアム少佐」

 

転移を多用するシャドウミラーは完全に転移のメカニズムを理解しているとビアンは思っていたのだが、莫大なリスクがあると聞き驚きながらギリアムに詳細を教えてくれと声を掛ける。

 

『俺の作ったシステムXNは空間転移と時空転移の2つの転移が可能です。空間転移は座標が分かっていれば失敗するリスクが少なく、インスペクターの使用している転移システムと良く似ていると言えるでしょう。ですが時空転移は不確定要素が多く、何よりも不安定になる、例えるのならば濁流の中で蜘蛛の糸を辿るような物……』

 

「なるほど、分かったぞ。道標が無く、どこへ繋がるかも分からないと言う事だな?」

 

『流石ビアン博士話が早い。そもそもが俺が作りたかったのが元の世界に帰るための時空間転移システムだった。だが余りにもイレギュラーが多く、成功率も低かった。それならば1度空間転移システムを作り、より詳細なデータを集めようとしたんだ。だがその作業の中でシステムXNが暴走し俺はこの世界に来ることになったのですがね』

 

余りにも不確定、そして暴走の危険性がある。それでもヴィンデル達は詰んでいる世界を捨て、新たな世界を目指したのだ。

 

『ギリアム少佐の言う通り、テスラ研攻防戦を生き延び転移した部隊の者の大半は……残念ながら時空の捻れに巻き込まれて……消滅した。私の言語系に誤動作が起きたのも……エキドナが記憶を失っていたのもこの時の影響だと思われる。私とエキドナの素性は分かっていると思うが改めて言おう。私の正式名称はW-17、ヴィンデル大佐達の指令を忠実に実行し、戦争を継続させる為だけに生まれた人形だ』

 

悲壮感に満ちた表情でラミアがそう告げる。だがバリソンが手を叩き、自分に注目を集めた。

 

『そいつは違うぞ。元々なレモンは人造人間の開発プロジェクトに関わっていた。その目的は宇宙なり、平行世界に辿り着いた際に新しく人類が繁栄する為の物だった。確かにラミアとエキドナは人造人間だ、これは覆しようが無い事実だが戦争を続ける為に作られた人形じゃない、生き残った僅かな人間のパートナーとなる為に計画されたんだ』

 

人間のパートナー、そして見目麗しい女性の姿であるラミアとエキドナ。それが何を意味するかは察して余りある物で、初心な面子は赤面し、何人かは咳払いをし、強引に話を変えようとする。

 

『まぁそれもインベーダーとアインストの所為で話が変わったが、人形とか必要以上に卑下すんなや。生きて考える事が出来てるんだ、それはもう人間だろ?』

 

『そうよ、ラミアちゃんもエキドナちゃんも生きている人間なんだから自分の事を人形だなんて言っちゃ駄目よ』

 

『そうだぜ、ラミアさん! もうそのW-17とか言うのは止めた方がいいっすよッ!!』

 

『そんな番号みたいな名前捨てちまえ』

 

同意を求めるように視線を向けるバリソンだったが、そんなことをしなくても皆が同じ気持ちであり、ラミアとエキドナは人形ではなく生きている人間だという声があちこちで上がる。

 

『……なんと言えばいいんだろうな……言いたい言葉があるのに出てこない……な』

 

『私は……良いのだろうか、W-16ではなくエキドナで』

 

『今度そんなことを言ったらもう1発叩きますわよ、武蔵様を想っている。それだけで貴女は人形じゃなくて人間なのですわ。そんな馬鹿な事を考えてる暇があったら、どうやって裏切ったことを償うのか考えたほうがよっぽど有意義ですわ』

 

『……そ、そうだな……そうしようか』

 

『それはそれで何か違う気がするがな』

 

仲間の温かい言葉に涙を浮かべるラミアと、シャインに言いくるめられそうになっているエキドナとそれは違うと突っ込みを入れるユーリアと温度差が若干凄い事になってはいるが、その代わりにバリソンの話を聞いた時の悲壮感は既に無くなっていた。

 

『ウォーダン・ユミルはお前達と同じなのか?』

 

『はい。彼はW-15……15番目の個体で人格コピー型になり、ゼンガー・ゾンボルト少佐の精神データをコピーした存在です。ですがそれ故に己という存在が不安定であり、自分が確立した個であることを目的としています』

 

エキドナからウォーダンの話を聞いたバンとビアンは得心が行ったと言う表情で頷いた。

 

「自分がゼンガーのコピーであると言う事を知っているからゼンガーを倒す事で己という存在を確立させようとしたのか……」

 

「何とも言えんな……しかし逆を言えばそれらをしなければ生き残れなかったという事か……」

 

人格コピーと言えど、それはクローン技術と大差ない。同じ人間を複製するという禁忌を犯さなければあの世界では生き延びる事が出来なかったのだろう……あちら側に関してはビアンは勿論、ダイテツやレフィーナ、リーとて思う事はある。だが自分達の世界が滅んだ理由が平和となったことだからと言って、別の世界に攻め込み永遠の闘争などという世界を作ろうとする事を受け入れられる訳が無い。

 

『……永遠の闘争……戦い続けることでバランスを取る地獄のような世界を認める事など出来はしない……ッ!』

 

シャドウミラーの理想。永遠の闘争をリーは力強い言葉で否定する。同情出来る部分もある、ヴィンデル達の言葉にも真実はある。

 

「戦いの度に技術は進歩した。テスラドライブなども戦争が無ければここまで優れた物は作られなかっただろう」

 

『なんだ? 親父はシャドウミラーの考えも一理あるって言うのか?』

 

「勘違いしないで欲しいなリューネよ。確かに戦争は技術を発展させる……これは紛れも無い事実だ、だがそれは流血を伴う発明だ。科学とは平和を作る為にある、ゆえに私はそれを受け入れる事はない。力とは使いようだ、破壊の為に生まれた力であったとしても平和を作ることは出来るのだ」

 

戦争によって発展した技術だったとしても平和の為に使えないと言う訳ではない……力とは使い様なのだとビアンは力強く宣言する。

 

『オイラもそう思いますよ、確かにオイラ達は戦ってきた。だけど壊す為だけに戦ったんじゃない、平和を笑いあえる世界を作る為に、世界を滅ぼそうとする敵から地球を、大事な人達を守る為に戦ったんだ』

 

戦わなければ守れない者がある。だから戦ったが、戦いたくて戦ったのではない。愛する者を守る為に戦う為の力を手にしたのだ……それを間違えてはいけない。

 

『その通りだ。だから俺達はなんとしても彼の企みを阻止し、システムXNを破壊せねばならん』

 

『世界をこれ以上乱さない為にもな』

 

アギュイエウス、リュケイオスの扉が開かれる事で世界は乱れる。そして世界の許容量を超えればバリソン達の世界のように避けられない滅びへと進む……それを防ぐ為には戦うしかないのだ。

 

「方針も決まったことで私から1つ提案がある。ゼンガー達が戻り次第我々はテスラ研奪還作戦を実行する」

 

『テスラ研を奪還するのは確かに重要な意味を持つが……クロガネの戦力だけで良いのか?』

 

『ビアン博士が求めるのならばシロガネかヒリュウ改が援護に回りますが……』

 

武蔵の奪還作戦で相当な痛手を負っている以上、テスラ研を奪還することは急務だがクロガネだけでは不安があると思うのは当然の事だ。だがビアンは首を左右に振った。

 

「過剰戦力でインスペクターが自棄になられても困る。テスラ研を制圧しているのはヴィガジという男だからな、奪還されるくらいならばテスラ研を破壊しかねない危険な男だ。それを防ぐ為に少数で攻撃を仕掛け、誘導組と潜入班に分かれる」

 

 

『いや、話は判るぜ? だけどよ、危険すぎるだろ? テスラ研にはあんたの作った防衛装置が残ってるんだぜ?』

 

『え!? 敷島博士みたいに毒ガスとか、目と鼻と耳を破壊する防衛装置とかですか!? 早乙女研究所1回半分くらい吹っ飛んでるですけど大丈夫ですか!?』

 

「い、いや、確かに色々と作ってはいるがそこまでではない、常識的な範囲だから問題はないし、私の作ったマスターコードがある。防衛装置は殆ど機能を停止させるから問題はない」

 

そんなものをテスラ研に残してたのかと冷めた視線を向けられるが、ビアンは咳払いをし話を進める。

 

「ヴィガジという男の性格を考えれば少数で突入すれば自ら迎撃する為に出撃するだろう、その間にジョナサン達を救出しテスラ研の地下の秘密兵器を持ち出す。あれさえ使えれば百鬼帝国やインベーダーにだって引けを取らん筈だ」

 

『ビアン博士、その秘密兵器とは?』

 

「リー中佐、君は分かっていないな。秘密兵器は秘密だからこそ意味があるのだよ、だから私はここで言うつもりはない」

 

『『『おいっ!!』』』

 

そんなことを言ってる場合かという突込みが入るがビアンは無視をして柔和な笑みを浮かべる。

 

「ダイテツ達にはテスラ研の人質を解放後に合図を出す、それと共に突入してきて欲しい」

 

『後詰めという事か……了解した。テスラ研奪還作戦はビアン達に主導して貰う。我々は合図が来るまで可能な限りの戦う為の準備を整える』

 

バリソン達から自分達が歩んだかもしれないもしもの話は聞いた。だがそれが全てではない、最悪の結末を避ける為に戦うという決意を新たに、ダイテツ達はテスラ研奪還作戦へ参加するための準備を整える為に伊豆基地へ向かって動き始めるのだった……

 

 

第156話 紅の雨 その1へ続く

 

 




今回の話は反省要素しかない……私の頭脳のレベルが足りなかったばかりに想定していた話とかなり雰囲気が変わることになってしまいましたが……許してください。私の頭脳ではこれが限界だったのです……次回は1度時間を戻して紅の幻想――つまり鬼に改造された妖怪クソBBAが出現しますし、ダークネスラトちゃんにも進化してもらおうと思います、この話が納得出来なかった分、次回の話は気合を入れていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

ダブルバーニングファイヤーのスキルの気力上限UPが欲しかったので1ステップのみ引いてきました

結果はアルドノアゼロのSSR×2 目からビームと可でも無く、不可でも無く、とりあえず気力上限出来ただけよしとする事にしました。


PS2

それと今回のオバロ版の飯を食えを卵掛けご飯という事で若干手を抜いてるかなあとか悩んでいると執筆しちゃいなよ!という内なる声が聞こえたので頑張ってダンまち版も書き上げることが出来ました。

21時にはオバロ版・ダンまち版の生きたければ飯を食えを更新しますので、21時の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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