進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

299 / 400
第158話 紅の雨 その3

第158話 紅の雨 その3 

 

侵略者である鬼の中にも善人はいる。戦いを好むが人道を説き、正々堂々と戦う。戦わぬ力を持つ者を争いに巻き込む事を嫌う高潔な武人である龍王鬼とその一派は紛れも無く鬼ではあるが善人であると言える。人ではないが、それでも人の心を持つ者と言えるだろう……。

 

だが人でありながら鬼の心を持つ者もいる、人を人とも思わない、自分達の研究を進める為に何十人、何百人と犠牲にして来たアードラー・コッホ。そしてアギラ・セトメ……確かに2人は人間であろう、しかしその心は醜く、強い残虐性を持つ鬼の心である事は間違いない。それ故にアギラ達の人は心が判らない、いや理解しようとしないのだ。何故ならば、自分以外の存在を人間と見ず、ただの実験動物と見ているのだから……。

 

『お涙頂戴の和解劇はこれで終わりかの、ふぇふぇふぇ……くだらんやりとりじゃったわい』

 

百鬼獣不知火から響く嘲笑を伴ったアギラの声にオウカはラピエサージュの操縦桿を強く、強く握り締めた。姉と妹の和解――それはオウカが何よりも欲している物だ。再び弟であるアラド、妹であるゼオラ、ラトゥーニと4人で笑いあいたいと願っているオウカにはアヤとマイの和解は素晴らしい物であった。だがアギラはそれを踏み躙る、見るに耐えない茶番劇だと嘲笑う。

 

『まさかこの声は……セトメ博士ッ!?』

 

『少し若いみたいに聞こえるけど……間違いねぇ、アギラの婆ッ!!!!』

 

信じられないと声を震わせるラトゥーニと怒りを露にするアラドに対してアギラは恩着せがましい言葉を口にする。

 

『なんじゃワシが育てやったのにとんだ口振りじゃなあ。ラトゥーニ11、ブロンゾ28』

 

愛しい弟と妹を番号で呼んだアギラにオウカは目の前が真っ赤に染まるのを感じた。普段はアースクレイドルの奥深くにいるアギラが自ら戦場に出てきた……それは紛れもない好機であり、ここで殺してやりたいと、スクールの弟妹達が味わった痛みを味わわせてやりたいとオウカは心から思った。

 

『オウカ、落ち着くんだよ。この百鬼獣は龍王鬼様達の配下だけじゃない、下手に動いたら駄目だ』

 

風蘭の言葉にハッとなったオウカはモニターを確認し、ビルトファルケン・Sの背後に2体の百鬼獣が存在しているのを確認し、背中に冷たい汗が流れるのを感じ、それと同時に風蘭へと感謝した。

 

「すいません、風蘭さん」

 

『気にしなくて良いよ、大体私だってあのくそ婆を殺したいって思ってるしね。本当にとんだ下種だよ』

 

苛立ちを隠そうとしない風蘭、そしてノイエDCの兵士の中にもアギラの言動に怒りを抱いている者も多かった。しかしアギラはそれに気付かず、饒舌に言葉を紡ぎ続ける。

 

『人を番号で呼ぶんじゃねぇッ!! クソ婆ッ!!!』

 

『サンプルに名前などいらんわ、ブロンゾ28。育ての親になんという口を利いておるか、これだから名前なんぞを与えるべきではないのだ。番号による徹底的な管理、クエルボやケンゾウの奴は甘すぎる……名など与えるから、下らぬ情が移り、研究に支障が出る事になり、そして我々に逆らう。とんだ欠陥品じゃッ!』

 

アギラは持論を声高らかに語り、自分に酔いしれているような雰囲気を放っている。

 

『……隊長……あのクソ婆ぶっ殺していいですか』

 

『……気持ちは分かる。気持ちは分かるが……今は動くな』

 

『しかしッ!』

 

『我々の使命を忘れるな。泥水を啜り、卑怯者の謗りを受け、生き恥を晒している。今までの苦しみを無駄にするな』

 

『ッ……了解』

 

この通信はオウカ達には聞こえない、秘匿通信でのやりとりだが若い兵士の怒りを老年の隊長が押し留める。ビアン一派であることを隠し、ノイエDC、百鬼帝国に紛れている者達もまたアギラへの強い怒りを隠す事が出来なかった。ほんの少しのやり取りでこれほどまでの怒りを自分へと集める……アギラがどれだけ非人道的な性格をしているのか良く判る。

 

『ケンゾウ博士を知ってる……まさか、アヤもスクールの……ッ!?』

 

ケンゾウの名前を聞いてリュウセイはアヤもスクールの関係者だったのではないかと声を荒げたが、それはアギラによって否定された。

 

『それは違う。その女はワシが特脳研におった頃の被験体じゃ』

 

特脳研の名前を聞いてアヤだけではなく、リュウセイも驚きの声をあげ、アギラはそれを自分の事をアヤ達が知らないからだと思い。そこを更に刺激してやろうとサディステックな笑みを浮かべる。誰もがトラウマを刺激されれば動きが鈍る、そこを叩けばAMの操縦が素人に近い自分でも撃墜することは出来、貴重なサンプルを手にする事が出来るとアギラはほくそ笑んだ。

 

『ワシの事を……いや若くなっておるから分らんかも知れんが。ワシはお前の事を良く知っておるよ、被験体ナンバー7、そしてナンバー5』

 

不知火がその指をR-3・パワードとアルブレード・F型へと向ける。

 

『ナンバー……5ッ!?  わ、私の事かッ!?』

 

アヤが返事を返さない事をアギラはトラウマを刺激されたか、ケンゾウによるプロテクトが発動した物と思い込み、畳み掛けるようにアヤ達のトラウマを暴露する。人の心を傷つけることを好む自分自身の性癖を満たし、仲間達の結束を崩そうとする。

 

「風蘭さん、これ以上は……」

 

『動くんじゃないよ。あの馬鹿に好きに自分語りをさせればいいのさ。良く考えてみなよ、お前の弟はこの状況で黙っていられるか? 仲間が傷付けられているのに動かない冷血な男なのか?』

 

「ち、違います! アラドが黙っていられる訳が……」

 

そこまで言いかけた所でオウカはハッとした表情を浮かべた。アラドは仲間想いで、そして家族想いだ。そんなアラドがアギラに知られたくない過去を暴かれている仲間を黙ってみている訳が無いとすぐに思い至ったのだ。

 

『それが正解だよ。興奮してこんな馬鹿みたいな時間稼ぎに引っかかってるアホを私は初めて見たよ』

 

くっくっくっと喉を鳴らす風蘭はアギラ以外の面子へと通信を繋げる。

 

『熱源感知だ。もうすぐ本命が来るよ。あの馬鹿はほっておいていいから身構えておきな』

 

風蘭がそう警告し、ノイエDCのAM隊と風神鬼は分らない程度に後退する。

 

「ゼオラ、私達も下がるわよ」

 

『ハイ、ネエサマ……』

 

咄嗟に反応出来ないゼオラを庇いながらオウカもラピエサージュを後退させる。自分だけが百鬼獣と前線に放置されている事に気付かないアギラは更に饒舌に事実を語ろうとする。

 

『ナンバー7、お前が何故定期的にT-LINKシステムとリンクしなければならないか知っておるか? いや、それ以前にお前が本当にケンゾウの娘と思っておるのか?』

 

最も残酷な事実を告げ、アヤとマイの精神が砕ける光景を想像し歓喜と興奮に身を震わせるアギラ。

 

『念動力とは未知の存在じゃ、あの当時は強いストレスによって生存本能を刺激させ念動力を発揮させるのが1番ベストな形じゃった。だからこそ検体はみなリマコンが施され擬似的なトラウマを刻み付けたのじゃよ。フェフェフェ、お前はケンゾウの娘でもなければナンバー5と姉妹でも……『黙れ、婆』は……? なんと言った? ナンバー『人を番号で呼ぶんじゃないわよッ! このクソ婆ッ!!!』ギャアアッ!?』

 

最後の楔を打ち込もうとしたアギラの言葉をマイの静かな言葉が遮り、再びナンバーで呼ぼうとしたアギラの乗る百鬼獣不知火に念動集束レーザーキャノンが撃ち込まれ、アギラの苦悶の声が響き渡る。

 

『馬鹿な、馬鹿な! 何故打ち破れたんじゃッ!』

 

百鬼獣不知火はガーリオンをベースにした百鬼獣であり、鋭利なシルエットと特徴的な肩パーツは不知火にも継承されており、人造筋肉よる柔軟性と、マシンセルを応用した装甲を持ち再生能力を持ちながらガーリオン同様量産が効く百鬼獣であった。さらに不知火はアギラの嗜好と朱王鬼の嗜好を十分に生かせるように精神干渉系の武装を多く搭載していた。トラウマを刺激され、その光景が脳裏を過ぎったマイとアヤが動けないと思っていたアギラは何故だと声を荒げる。

 

『血の繋がりは確かに絶対だ。だが……血よりもなお濃いものがある。紡いだ絆は不変だ、それをお前のような下種の考えで破れると思うなよ。アギラ』

 

『ケンゾウッ! 貴様何故ッ!』

 

『マイが飛び出して行ったとイングラム少佐から連絡があってな。お前がご高説を垂れている間にアヤとマイには真実を伝えさせて貰った』

 

『それなら何故だ! 何故動ける!? ワシが告げたのはトラウマコード……動けるはずが無いッ!!』

 

特脳研時代の悪しき遺産……念動力者が自分達に逆らわないためのセキュリテイ。それを発動させているのだから動けるはずが無いとアギラは声を荒げるが、R-3・パワードから響くケンゾウの声は冷静な物であった。

 

『お前とアードラーは番号で呼ぶことを徹底した。だが私とクエルボは違う、確かにワシ達の犯した罪は決して許される物ではない……そしてこの業は命ある限り償っていかなければならない……だが私はアヤとマイを娘として確かに愛しているのだ』

 

記憶の改変、そして念動力を開眼させるための非道な実験……それはケンゾウが一生を掛けて償わなければならない彼自身の業である。研究だけに生きて来たケンゾウは不器用で、そして己の愛を伝える術を持たない。それでもアヤとマイという2人の義娘をケンゾウは心から愛し、そして守ろうとしてきた。

 

『そんな偽善の言葉などでなぜッ!』

 

『何故? そんな事も分らないのね。確かに与えられた記憶だったと言うのは辛いわ。だけど……それは私を作る1つに過ぎないわ。今の私にはリュウやライ、隊長、それに少佐……色んな人に支えられて私はここまで来たッ! それは貴女に作られた記憶じゃないッ! 私の、私だけの本物の記憶なのよッ!』

 

アヤが吼えるように叫ぶとその気迫にアギラは呑まれ、不知火を後退させる。

 

『ふん! 実験動物如きが『アヤ大尉をマイを実験動物等と言わないで貰おうか』『私達の仲間をこれ以上侮辱するのは止めて貰うわよッ!』な、なにいいッ!?』

 

海中から飛び出してきたR-2・パワードのビームチャクラムが不知火の胸部に横一線の切り傷を刻みつけ、R-GUN・パワードの構えたツインマグナライフルの連射が不知火を大きく弾き飛ばした。

 

「何時の間に……」

 

『動力を絞って、移動用の何かで海中を移動してきたみたいね。はは、しかしあいつ馬鹿すぎて笑うわ』

 

自分の思い通りになっていると思っていたアギラだが、実際は全て無視されており、ケンゾウの言葉によってアヤとマイはアギラの呪縛を打ち破っていた……操り人形、実験動物と言っておきながら1番の道化はアギラだったと風蘭は手を叩いて笑う。

 

『リュウセイ! SRXへの合体を許可するっ! 俺達の仲間を侮辱したあいつを叩き落せッ!』

 

海面をホバーで走るR-SWORDのイングラムからSRXへの合体許可を得てリュウセイは弾かれたようにR-1を動かす。

 

『教官遅いぜッ! 行くぜッ! ライッ! アヤッ!! ヴァリアブルフォーメーションだッ!!!』

 

『分っているッ! 全力で行くぞッ! リュウセイ!』

 

『好き勝手してくれた分きっちりお返しするわよッ!』

 

R-1がRーウィングと変形し、R-2・パワードとR-3パワードがそれを追って上昇する。

 

「風蘭さん、どうしますか?」

 

『無粋な事は言う物じゃないわよ。それに良い気味だわ』

 

百鬼獣ならばSRXの合体を妨害出来ただろう……だが風蘭はそれを良しとせず、そしてノイエDCもアギラへの怒りを抱いており妨害する事は無かった。

 

『今まで随分好き勝手に俺の仲間を馬鹿にしやがったなあッ!! お前に泣かされたラトゥーニにアヤ、マイの分までぶん殴ってやるから覚悟しやがれッ!!』

 

鋼の戦神――SRXから響くリュウセイの怒声。それは純粋に仲間を思い、そして己の事のように怒りを燃やせる男……何故ラトゥーニが思いを寄せているのかをオウカは理解した。

 

「……そうだったのね」

 

『どうしたの? オウカ』

 

「いえ、私の妹は人を見る目があったなって思ったんです」

 

『……そうみたいね。でも傍観はここまでよ、流石にここまで動いたらジッと見てはられないわ』

 

アギラには死んで欲しいと思っている風蘭だが、SRXまで出て来て動かないということは出来ず戦闘開始の合図を出し、オウカもラピエサージュを待機モードから戦闘モードへと切り替える。

 

『オウカ姉様……』

 

『貴女がラトゥーニのお姉様なのですね? どうか抵抗無く、投降してはいただけませんか?』

 

ラピエサージュの前に立ち塞がるフェアリオン・タイプGとタイプSを見てオウカは小さく笑う。

 

「ごめんなさい、それは出来ないの……ゼオラがまだ元に戻ってない、ゼオラが元に戻るまで私は百鬼帝国からはなれるわけにはいかないの、アラド……ゼオラは貴方を殺しに来るわ。だから近づくのは止めなさい、それが貴方とゼオラの為なのよ」

 

敵として戦うのではない、妹であるゼオラを守る為に、そしてゼオラにアラドを殺させないために愛しい弟と妹の前に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

自分達の前に立ち塞がるラピエサージュをラトゥーニとシャインは悲しそうな表情で見つめていた。

 

「オウカ姉様。それが貴女が私達の元へ来てくれない理由なのですか?」

 

ゼオラに掛けられている朱王鬼の術、それがある限りゼオラが何時ラトゥーニとアラドを殺すか判らない。だからハガネにはいけないと言うオウカの言葉の真意をラトゥーニは問いかける。

 

『そうよ、それに……風蘭さんは龍王鬼さんの配下だから信用出来るけど……全てがそうじゃない』

 

百鬼獣がラピエサージュとビルトファルケンSの背後を陣取っており、怪しい素振りを見せれば撃つと言わんばかりの動きをしている。

 

『貴女自身も人質という事なのですね……』

 

『その通りです。そして私に戦わないという選択はありません、手加減はします。ですが……手を抜く事はしません』

 

ラピエサージュにネオプラズマカッターを構えさせるオウカの声は悲壮感に満ちていた。

 

『悪い姉さん。俺はゼオラを助けに行くぜ、ゼオラァッ!! 俺はここにいるぞッ!!』

 

『アラド……アラドオオオオオッ!!!』

 

ゼオラの名を叫ぶアラドに雄叫びのような声を上げてゼオラがアラドの名を叫び、対のPTは同時に最大加速に入りはるか上空でのドッグファイトを繰り広げる。

 

『アラド、ゼオラ駄目よッ!』

 

朱王鬼の術が掛かっているゼオラはアラドを殺してしまう……それを知っているからオウカは駄目だと叫んだ。

 

「ううん。駄目なのはオウカ姉様。貴女の方」

 

『貴女がラトゥーニ達の事を案じているのは判ります……ですが言わせていただきますわ。ラトゥーニ達は貴女にずっと守られていた子供ではもうないのですッ!』

 

洗脳、リマコン、そして投薬の影響が抜けたオウカは心優しい姉へと戻っていた。だがそれでは駄目なのだとラトゥーニとシャインは声を上げる。

 

「私はずっとオウカ姉様に守られた……だから今度は私達が助けるッ! ゼオラもオウカ姉様も取り戻すッ!」

 

『守られるのではありませんわ。もうラトゥーニとアラドは貴女を助ける事が出来る。それを理解するんですわッ!』

 

自分1人で何もかも出来る訳じゃないと言う武蔵の言葉がオウカの脳裏を過ぎる。ラトゥーニ達と協力すればファルケンを取り押さえることも出来るのでは? という考えが頭を過ぎる。

 

【グルルル】

 

【ガオオオンッ!】

 

だがその考えは唸り声を上げた双頭鬼と鳥獣鬼の唸り声によって掻き消される。ここで裏切る素振りを見せれば自分達だけではなく、ラトゥーニ達の身も危ないと悟ったオウカはラピエサージュをフェアリオンに向かって走らせる。

 

「オウカ姉様ッ!?」

 

『どうしてですの!』

 

襲ってきたラピエサージュにラトゥーニとシャインが驚きの声を上げる。

 

『私を守ってくれるという言葉はとても嬉しいわ。ラトゥーニ……でもね、今はその言葉を受け入れる訳には行かないの、私を、ゼオラを守れるというのならば……その力を私に見せてッ!』

 

「オウカ姉様……分った……私達の力を見せる。もう守られるだけじゃないって見せてあげる。シャイン王女」

 

『ラトゥーニ。私の事は心配しないで大丈夫ですわ』

 

大事な姉を取り戻すために神姫は舞い、継ぎ接ぎの魔王はその力を試すかのように神姫へと向かう。互いに互いを気遣い、そしてまた笑い会いたいという願いを胸に抱き、望まぬ戦いへと身を投じる。

 

『アラド……アラド、死ね死ね死ねッ!!!』

 

「うるせえっ! 俺は死なないし、ゼオラッ! お前も死なせねえッ!!」

 

乱射されるオクスタンランチャーBモードの弾雨を避けながら、少しずつ、少しずつだがアラドの駆るビルトビルガーはビルトファルケンへの距離を詰める。

 

(ラルトスの言う通りなら……勝機はある)

 

スタンブレードもしくはスタンカノンを命中させてビルトファルケンを鹵獲する。朱王鬼の術を解除する術はまだ見つかっていないが……それでもこうしてゼオラが自分の目の前に出てきた好機をアラドはみすみす逃すつもりはなかった。

 

「ゼオラ! お前は俺が助けるッ!!」

 

『死ね、死ねえええええッ!!!』

 

半狂乱で死ねと叫ぶゼオラ、その叫びを聞けば正気ではないと言うのは明らかで、その声を聞いてアラドは顔を一瞬歪めるが、強い決意を込めた視線をビルトファルケンへと向ける。

 

「オウカ姉さんもお前も俺は助けるッ! 絶対に、絶対にだッ!! だから少しだけ待っていてくれ……ゼオラぁッ!!!」

 

『アラ……ド……』

 

ビルトファルケンの操縦桿を握る光の無いゼオラの瞳から涙が零れる。朱王鬼の術はまだゼオラを蝕んでいる……だがアラドの叫びは確かにゼオラへと届いているのだった……。

 

 

 

 

 

SRXの前には数体の百鬼獣が立ち塞がり、不知火は百鬼獣の奥に隠れてしまった。

 

「逃げんなあッ!!!」

 

『リュウセイ! 落ち着けッ! SRXと言えど百鬼獣相手に無策に突っ込めばどうなるか言うまでもないだろうッ!』

 

ライからの警告でリュウセイの頭に上っていた血が僅かに下がる。だがそれでも操縦桿を握る手は強く、その目には強い怒りの炎が宿っている。

 

『リュウ、私とマイの為に怒ってくれてるのは判るわ。だけど冷静さを失ったら駄目よ、イングラム少佐とヴィレッタ隊長を巻き込んでしまうわ』

 

ノイエDCの機体を相手にし、SRXとリュウセイが百鬼獣に専念出来るように立ち回ってくれているR-SWORDとR-GUN・パワード。あのまま怒りに身を任せ突撃していたらアヤの言う通り巻き込んでいた可能性が高い事に気付き、リュウセイは気を静めるように深い、深い息を吐いた。

 

「すまねえ、2人とももう大丈夫だ」

 

『そのようだな、心配するな。出力は安定している、百鬼獣などにSRXは遅れを取らないさ』

 

『行きましょう、リュウ』

 

「おうッ!!! 行くぜぇッ!!!」

 

地響きを立てながらSRXは双頭鬼へと走り出す、双頭鬼は自身に迫ってくるSRXを見て恐怖をその目に宿しながらも4つの瞳から黒い破壊光線をSRXへと放つ……いや、双頭鬼だけではない、豪腕鬼は自らの角をミサイルにしSRXへと連射し、2機の土龍鬼はその尾で無人島の山を砕き、石礫をSRXへと打ち出す。念動フィールドを展開すればその攻撃は全て無効にする事は出来るだろう……だがその代りにSRXの活動時間を大幅に削ることに繋がるが……だがリュウセイは念動フィールドを展開する素振りを見せず、真っ直ぐにSRXを走らせる。

 

「ヴィレッタ隊長ッ! マイ頼むぜッ!」

 

リュウセイは1人ではない、頼りになる。自分を守ってくれる仲間がいる……だからリュウセイは攻撃にだけ専念する事が出来る。

 

『リュウ! そのままで大丈夫だッ! 行ってくれッ!!』

 

『その調子よ、マイッ!! リュウセイッ! そのまま突っ込みなさいッ!!』

 

アルブレード・F型とR-GUN・パワードの手にしたパルチザンランチャーのエネルギー弾が百鬼獣の攻撃を打ち落とす。

 

「うおおおおッ!! 至高拳……ザイン……ナッコオッ!!!」

 

【ギギャアアッ!?】

 

SRXの鉄拳が双頭鬼の両頭部へと叩き込まれる。金属の拉げる音と双頭鬼の苦悶の声が重なり、双頭鬼は潰れた頭部からオイルを撒き散らしながらひっくり返り爆発炎上する。

 

【ギッ! キュアアアアアアッ!!!】

 

双頭鬼が一撃で破壊された事に鳥獣鬼は驚きと怒りの声を上げ、SRXの上空を旋回し、翼をミサイルのように撃ちだした。

 

「念動波……ガウン……ジェノサイダアアアアアアッ!!!」

 

SRXの特徴的なフェイスパーツから放たれた念動波が鳥獣鬼の翼ミサイルを全て空中で迎撃し、爆発の華を咲かせる。

 

『リュウセイ、照準は合わせたぞ。行けッ!!』

 

「サンキューライッ! ハイフィンガランチャーーッ!!!!」

 

SRXの両指から放たされた実弾の嵐が空中の鳥獣鬼の全身を撃ちぬき、鳥獣鬼は苦悶の声を上げてSRXの頭上へと落下してくる。

 

「ブレードキィイイイイックッ!!!!」

 

念動刃を展開したSRXの回し蹴りが墜落して来た鳥獣鬼の胴に叩き込まれ、鳥獣鬼は胴体と下半身が両断される。苦悶の声を上げる間もなく鳥獣鬼は爆発し炎上する。

 

【ギギャァッ!!!】

 

【キシャアアアッ!!!】

 

土龍鬼はその通りモグラを模した百鬼獣であり、地面の中に隠れてSRXへと奇襲を仕掛けようとする。

 

「逃がすかよッ! アヤッ!!」

 

『任せてッ!! 念動集中……』

 

硬く握り締められたSRXの両拳に鮮やかな念動力の光が灯る。

 

「念動結界……ドミニオンボールッ!!!!」

 

そしてリュウセイの叫びと共に放たれた念動力による球体は地面に隠れようとしていた土龍鬼を拘束し、空中へと引きずり出す。

 

「こいつでトドメだ。テレキネシスミサイルッ!!!」

 

SRXの脚部から放たれた念動力で操作されるミサイルの雨はドミニオンボールの結界をすり抜け、ドミニオンボールの中で全て起爆し土龍鬼を完全に破壊する。

 

【ゴガアアアアアアーッ!!!】

 

豪腕鬼が雄叫びと共に煙を突っ切って姿を見せ、その豪腕をSRXへ向かって叩きつける。

 

『リュウセイ!』

 

『リュウッ!!』

 

「心配ねぇッ! 見えてるぜッ!!」

 

正確には見えているのではない、念動力によって敵意と殺意を感知していたリュウセイは豪腕鬼の奇襲をSRXの巨体では信じられない速度で避け、がら空きの胴に膝蹴りを叩き込み豪腕鬼を上空へと蹴り飛ばす。

 

「必殺ッ! 念動爆砕剣ッ!!」

 

【ギギャアアアアアアアーッ!】

 

SRXの両拳から展開された念動力の刃で胴体を×字に切り裂かれた豪腕鬼は断末魔の雄叫びをあげ、SRXの目の前で爆発四散する。

 

「ライ、まだエネルギーは大丈夫か?」

 

『ああ、大丈夫だ、信じられないくらいにエネルギーが安定している。まだ全然戦える』

 

「なら残るはあいつだけだ」

 

百鬼獣を盾にし、隠れていたアギラの乗る不知火に視線を向けるSRX、そしてその視線に気付いた不知火は高度を下げてSRXの前で滞空する。

 

『随分と暴れてくれたのう……お蔭で百鬼獣が全滅じゃ』

 

「てめえを守る盾はいなくなったぜ、クソ婆。覚悟しやがれ、次はてめえだッ!」

 

リュウセイの言葉にアギラは声を上げて笑う、お前は何も分かっていないと馬鹿にするように笑った。

 

『これはワシの盾ではない、これはな、ワシの機体のパーツなんじゃよ。壊してくれて感謝する。余計な手間が省けたわッ!』

 

不知火の装甲が光ると破壊された百鬼獣やAMの残骸が浮かび上がり、不知火の装甲に張り付いていく……。

 

「な、なんだ……何が起きてるッ!?」

 

『嫌な予感がする、下がれリュウセイッ!』

 

「うおッ……な、なんだこれ……でかいハンマーかッ!?」

 

ライの警告でSRXを下がらせるリュウセイの目の前でスクラップが巨大な槌になり、地響きを立てながら無人島にめり込み凄まじい亀裂を入れる。そしてそのハンマーを握っているのは元はガーリオンに酷似した百鬼獣とは思えないほどに変貌を遂げた異形の百鬼獣の姿だった。

 

「なんだ……この化け物は……あの婆の百鬼獣がこんな姿になったっていうのかよ……」

 

『リュウセイ気をつけなさい! とんでもないエネルギー反応よッ! あの巨大アインストに匹敵するわ!』

 

呆然とするリュウセイにヴィレッタの一喝が飛んだ。残骸であるが複数の百鬼獣、そしてAMの動力部を取り込んだ不知火はヴィレッタの警告の通りレジセイヤに匹敵するエネルギーを内包していた。しかし問題はその姿だった……L5戦役に参加したものならば、誰しもその姿を知っていたからだ。

 

『フェフェフェ。これがワシの百鬼獣不知火の真の姿……SRXとは言えどこの合成百鬼獣には勝てんぞッ!』

 

両腕は豪腕鬼で、肩からは新しい腕が生え、4本腕となっている。そして背中には鳥獣鬼の翼、極めつけは下半身は土龍鬼とノイエDCのAMの蛇全ての残骸を取り込み蛇のような長細い形状をした異様なシルエット――そしてSRXを上回る異形の巨体となった不知火からアギラの勝ち誇った叫びが海上に木霊するのだった……。

 

『あ……ああ……知っている、私はあの姿を知ってるッ』

 

『マイ! しっかりしなさい! あれはホワイトデスクロスじゃない』

 

不知火が百鬼獣を取り込んで変化した姿はジュデッカに酷似していた。その姿を見て動揺するマイに向かってアヤがしっかりと声を掛ける。

 

『フェフェフェ、不知火妖蛇の装……キヒヒヒ、お前達に打ち破れるかあ!!』

 

不知火の装甲が開き、そこから放たれたビームとミサイルの雨がこの海域にいる全てに襲い掛かり、凄まじい爆発と火柱があちこちで発生するのだった……。

 

 

 

第159話 紅の雨 その4へ続く

 

 




新型百鬼獣不知火の登場です、巨大化したギミック等は次回で解説する予定です。ただ次回も戦闘描写はやや薄目となるかも知れませんが……ご容赦の程をよろしくお願いします。 


PS

スパロボDDの赤い彗星は誰なのかのガチャ結果

デビルブロー×3
ファイナルカイザーブレード
カイザーブレード
フィンファンネル(ハイニューガンダム)
シャーリー支援×2

でした。ナイチンゲールが欲しかったのでかなり無念

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。