進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第159話 紅の雨 その4

第159話 紅の雨 その4

 

表向きは大統領府襲撃事件で入院しているブライだが、実際は既に影武者を入院させ、自分はプランタジネットでハガネ達を鹵獲する為に百鬼帝国へ戻っていたのだが、部下からの報告を聞いてコウメイを呼び出していた。

 

「コウメイよ、アギラに不知火の真作を与えた真意について問いたい。何故あのような者にあれを与えた?」

 

不知火はガーリオンをベースにした百鬼獣ではあり、鬼も人間も操縦出来る百鬼獣であり、そして量産が効く割りに戦闘能力が高い機体だ。しかし真作・不知火は量産機と比べて隔絶した能力を持ち、ブライの計画では優秀な鬼を名前持ちに昇格させ使わせる予定だった物を、影武者にすり替わっている間にコウメイがアギラに与えたと聞き苛立った様子を見せる。

 

「申し訳ありませんブライ大帝。ですが私の所感ではアギラ以上に不知火の能力を使いこなせる鬼がいないと判断した故にアギラに渡しました」

 

「あのような小物にお前は何を見出した? 事と次第によってはお前の特権を奪う事にもなるのだぞ」

 

コウメイの特権はブライがコウメイの優秀さを認めての物だ。だが量産が効かないワンオフの真作不知火を戦闘者でもないアギラに与え、あまつさえそれを失うことになればそれ相応の罰を与える事になるとブライが告げるとコウメイは柔らかい笑みを浮かべた。

 

「この場でも笑えるその豪胆さは買おう。それでお前は何を感じ取ったのだ?」

 

「はい、不知火はナノマシンによって残骸などを取り込み己を守る外骨格を作り出す百鬼獣です。小型でありながらその性質を十分に生かせればゲッターロボに匹敵する力を発揮出来るでしょう。ですがそれに何の意味がございますか?」

 

「ほう?」

 

コウメイの挑発的な言い回しにブライは興味を持ったのかその視線をコウメイに向ける。

 

「戦闘力で言えば龍虎皇鬼、そして超鬼神でゲッターロボの足止め、そして互角に戦える事は既に分かっております。ならば不知火は対人間に特化するべきだと私は考えました、そしてアギラという女は人の弱み、そしてトラウマを抉る事を得意としており、そして科学者という事もあり知識も豊富です。相手が苦手とする姿に逐一姿を変え戦況をコントロールするというのはあの女にしか出来ぬことだと私は判断しました」

 

ほかの鬼ならばゲッターロボを、そしてそれに匹敵する敵を倒し己の戦果を上げることを優先する。だがそれでは姿を変えるという性質を存分にいかせない、小物であり、自分が生き残ることを優先するアギラだからこそ十分に生かせるのだとコウメイはブライに進言する。

 

「一理あるな、良かろう。この件はお前に任せよう」

 

「ありがたき幸せにございます、必ずや大帝が満足する成果を出して見せましょう」

 

コウメイはブライに深く頭を下げ、その場を後にする。

 

「……余りにも今の百鬼帝国は不出来だ。これでは大帝の心労も絶えぬであろう」

 

武人と言えば聞こえは良いが、命令違反の常習犯である龍王鬼一派。

 

大帝であるブライには忠実だが、戦力としては龍王鬼達に一歩も2歩も劣る朱王鬼、玄王鬼の2人。

 

復活させた超機人達は無礼にもブライと同等のように振舞う。

 

それがコウメイにとっては耐え難い不敬であり、ブライこそが地球を支配するに最も相応しい王であると考えるコウメイにとってはゲッターロボやハガネ達は憎んでも憎み足りない敵であった。

 

「……この世には度し難い愚か者しかいない。アギラ、私は約束は守るさ。お前が成し遂げる事さえ出来ればだが……さてさてお前は力の欲求に抗えるかな」

 

龍王鬼に殺され、朱王鬼達によって人造人間の体に押し込められたアギラはその拒絶反応で苦しんでいる。だからこそコウメイは約束した、自分が求める成果を上げる事が出来ればその拒絶反応が出ないように再び手術をしてやろうと……しかし不知火の力に酔いしれているアギラがその約束を覚えているかどうかは定かではない……結局の所アギラもまたコウメイの手の中で踊らされている傀儡なのであった……。

 

 

 

 

「アハハハハ、ヒャハハハハはハハハハッ!! 凄い、凄いぞッ! なんという力じゃッ!! あっはははははッ!!!」

 

不知火のコックピットの中でアギラは狂ったように笑う。いや実際狂っているのだろう、量産機の不知火と異なり、真作・不知火は鬼が操縦する事が前提となっているが、アギラは人間だ。操縦の為に脳波を読み取るヘルメットを装着しているのだが、それには脳にまで刺さる針が内蔵されており、擬似的に鬼と同等の処理能力と身体能力を与える。だがそれはドーピングに等しく、アギラは知る由もないがパイプから流し込まれる薬の影響でアギラは完全に狂っていた。

 

「ヒヒヒ……あああ、良い気持ちじゃ。ワシの力で何もかも破壊できる……なんと心地よい事か」

 

頬を高揚させ、時折身体を痙攣させているアギラは完全にジュデッカを模した姿をした不知火の力に酔いしれていた。科学者であり、そして犯罪者として追われ、老いさらばえたアギラにとって敵を退ける力は望んで止まない物であったからだ。

 

「サンプル共を連れて帰るかのう……キヒャヒャヒャ、SRXにラトゥー二11、サンプル共がより取り見取りじゃ」

 

力が与える多幸感に呑まれてもなお、実験台を手に出来る事をアギラは喜び、ビームやミサイルの雨で地形を変えた無人島を覆う煙を振り払いSRXを探してその巨体を動かした瞬間だった。

 

『天上天下ッ!! 念動爆砕剣ッ!!!!』

 

煙を突き破って姿を現したSRXが振りかざしたZ・Oソード……いや、天上天下無敵剣が不知火の胴に深い切り傷を刻み付ける。

 

『どうだッ!』

 

「フェフェフェ、なにかしたかえ?」

 

その一閃で不知火の上半身と下半身が両断され、ゆっくりとずれていくのを見てリュウセイが勝利を確信した声を上げる。だがアギラはそんなリュウセイを嘲笑った。

 

『再生している!? リュウセイ! 離れろッ!!』

 

不知火が再生しているのに気付いたライが警告する……だがそれは余りにも遅すぎた。再び展開された装甲から放たれた光線が念動フィールドを突き破りSRXの装甲を抉る。

 

『ぐっ! なんてパワーだっ!』

 

「ヒャヒャヒャッ!!! お前らなんぞにこの不知火を止めれると思うなッ!!」

 

両肩から伸びている腕の掌から発生したビームソード、そしてハンマーによる連続攻撃がSRXに叩き込まれる。

 

『くっ! ぐあッ!!!!』

 

SRXは確かに地球最強の特機ではある。だが機体サイズが倍近く異なり、巨大ハンマーによる重い一撃と、両肩から伸びた腕による凄まじい速度の攻撃にはさすがのリュウセイも反応しきれず、ハンマーの横殴りの一撃が胴を捉えSRXが大きく弾き飛ばされ、天上天下無敵剣を地面に突き立て片膝を着いた。

 

「ヒャハハハハッ! 強い、強いッ! ワシは強いぞぉおおおおッ!!!」

 

その姿を見てアギラは勝ち誇ったように叫びを上げた瞬間、強烈な衝撃が不知火の背中を襲った。

 

「なんじゃあ? ヒャヒャヒャ、小娘共があッ!!」

 

『ぜ、全然効いてないですわッ!?』

 

『シャイン王女ッ! 離脱をッ!』

 

フェアリオンによる最高加速による一撃。それでも不知火の装甲を僅かに破壊するに留まり、背中から生えてきた小さな副腕がフェアリオンへと伸びる。

 

「予知能力、キヒャヒャヒャッ!! これは良いサンプルになりそうじゃなあッ!!!」

 

伸縮自在に加えて再生する副腕を迎撃しながら離脱しようとするラトゥー二とシャインだが、腕はどんどん増え徐々に逃げ道が奪われる。

 

「予知でどこまで避けれるかなあッ!!!」

 

『くっ! 狂っているようで冷静ですわねッ!!』

 

『厄介ッ!』

 

リアルタイムの予知で避けるのならば避けられないように攻撃すれば良い、単純な考えだ。腕を増やし逃げ道を断つ……酷くシンプルな考えだが、単純が故にフェアリオンには有効な一手だった……正しそれは同時に複数の相手を出来れば、の話である。

 

『ガウンジェノサイダァァアアアア――ッ!!!』

 

『ラトゥーニ! シャイン! 今の内にッ!!!』

 

『……逃がしはしない』

 

ガウンジェノサイダーが直撃し爆発する不知火の胴体部、そしてR-GUNとアルブレード・F型の手にしたパルチザンランチャーによる射撃で副腕が潰れたうちにラトゥーニ達は離脱する。

 

『大丈夫か! 2人とも!』

 

『た、助かりましたわ!』

 

『リュウセイ、ありがとう』

 

SRXが即座に前に出てフェアリオンを庇いながら不知火の前に立ち塞がる。しかしコックピットの中でリュウセイ達は不知火を信じられ無い物を見つめるような表情で見ていた。

 

『な、なんなんだ……こいつは……』

 

『中身が無いのか」

 

ガウンジェノサイダーの直撃で破壊された胸部は空洞で中身が無い、それなのに動き回っている不知火はリュウセイ達から見ても化け物だった。

 

『多分張りぼてなんだわ……核はガーリオンみたいな百鬼獣』

 

『あれを破壊しない限りは倒せないと見てもいいわね』

 

ジュデッカを模した身体はアヤとヴィレッタの予測通り張りぼてであり、不知火からコントロールされている人形に過ぎない。即座に再生するカラクリはただの装甲だからという事だ。

 

『だけど今は再生してねぇ! 畳み掛けるな「フェフェフェ、馬鹿め」なっ!?』

 

再生を始めない不知火を見て今がチャンスだとリュウセイがSRXを操り、不知火へ攻撃を仕掛けようとした時アギラの嘲笑が響き渡り、最初のミサイルとビームの雨からやっとの思いで復活したノイエDCのAMに不知火の副腕が突き刺さる。

 

『う、うわあああああッ!!!』

 

『い、いだいいだいいいいッ!!!』

 

腕に貫かれたAMは分解され、不知火に吸い込まれるようにして消え次の瞬間には巨大な槍へとその姿を変えていた。

 

「1人、2人死んだ所で問題はない、それに……R-2のパイロットは念動力者ではないのじゃろう? ならば死ぬのはお前じゃッ!!」

 

高速で射出された槍がSRXの腹部に突き刺さろうとした瞬間、漆黒の影が上空から飛来し赤黒い念動力の刃で槍をバラバラに切り裂いた。

 

『……やらせない。だってリュウセイは私が守るんだから……』

 

『味方では無いが協力はしてくれると約束を取り付けた。ハガネがここに来るまで後5分……利用出来る者は何でも利用する。そうだろう? 風蘭』

 

『こんだけ好き勝手やってくれたんだ。それなりの制裁は受けてもらうさ、ま、でもあんた達は味方じゃないけどね。敵の敵は味方ってところで良いんじゃない?』

 

イングラムが説得したのか暴風を伴って風神鬼がゆっくりと舞い降りてくるのだった……。

 

 

 

 

時間は少し遡る。不知火の放った一撃は百鬼獣、ノイエDCと関係なしに全てを襲った。ヴィレッタ達はSRXの近くにいた事もあり念動フィールドに守られたが、R-SWORDとイングラムは自力で全てを避けるか、迎撃する必要があった。

 

「厄介な」

 

誘導性能などは無いが、純粋に火力が高い攻撃に舌打ちしながらイングラムは必死にR-SWORDを駆り、辛うじて不知火の攻撃を回避する事に成功していた。

 

『……知ってる。私は……お前を知っている』

 

SRXが出現してから沈黙を保っていたズィーリアスがR-SWORDの前に現れそう問いかける。

 

「そうか、俺もお前を知っているぞ。生きていた……いや違うな、死にきれなかったのだな」

 

イングラムはズィーリアスを見て一目でそれがR-1であるということ、そしてその操縦の癖からベーオウルフと共にドラゴノザウルスに噛み砕かれて死んだラトゥーニだと確信していた。

 

『死にきれなかった……何を言っている? 私は……私は……? 私は……私達は……なんだ?』

 

呆然とした声、幽鬼のような覇気の無い声にイングラムは触れてはいけないものに触れたと悟り、即座に謝罪の言葉を口にする。

 

「すまない、気のせいだった。それよりもだ、お前はリュウセイを守りたいのだろう? あの化け物と戦うのに協力しろ」

 

下手なことを言ってレトゥーラの自我を崩壊させれば、被害が甚大になることを悟ったイングラムは即座に話題を摩り替える。

 

『……何故私がそんなことをしなければならない?』

 

「良いのか? リュウセイが死ぬぞ」

 

『……ッ』

 

歯を噛み締める音が響いた。苛立ちと怒り、そしてリュウセイへの執着――それがレトゥーラとズィーリアスからは感じ取れた。そしてそれはイングラムにレトゥーラの正体を確信させると同時に新たな敵の存在を、あの世界で何度も姿を見せた異形を思い出させた。

 

(……こっちに来ているのか? 可能性はゼロでは無いが……)

 

メタルビースト・SRXが出現した時からその可能性は考えていたが、ラトゥーニの動きを持つレトゥーラを見て、それは確信へと変わっていた。

 

『……リュウセイは死なせない。良いよ、手伝う。あの婆は気に食わない』

 

言うが早く翼を展開しSRXの元へと向かうズィーリアスの姿を横目にイングラムはR-SWORDを反転させ、ビームライフルの銃口を向ける。

 

『こっちには協力しろって言わないんだ?』

 

「あれはお前達の味方だろう? とんでもない物を連れ出してくれたな」

 

イングラムの言葉に風神鬼は肩を竦めるようなジェスチャーを取る。

 

『あれは別に私の仲間って訳じゃないし、そもそも私は龍王鬼様にあいつを監視しろって言われてたんだけど、見ての通り暴走してるのよね。だからさ、私の仲間が離脱するまで、ううん。そっちの味方が来るまで共闘するからさ。手伝ってよ、あの馬鹿を制圧するの』

 

風蘭からの持ちかけにイングラムは眉を顰める。風蘭が何を考えているのか、まるで判らなかったのだ。

 

「お前は何を考えている」

 

『べっつにー。手伝いながらあいつをそっちが殺してくれたら都合がいいなーってくらいしか考えてないよ。それでどう? 断るなら……

百鬼獣もあんたたちの敵になるけど?』

 

「……良いだろう。お前が龍王鬼の配下だと言うのならば背後から撃ったりしない筈だからな」

 

『さっすが話が判る。私は風蘭、あんたは?』

 

「イングラム、イングラム・プリスケン」

 

『OK、イングラム。始めよう、これ以上あいつを巨大化させるとそれこそ手が付けられないからね』

 

味方では無いが不意打ちなどを避ける為にイングラムは風蘭の提案を呑まざるを得なかった。ジュデッカのような特殊能力は持たないが、純粋に巨大であり、そして強い力を持つ不知火を相手にするのに背後からの不意打ちにまで警戒する余裕は無く、敵が逃げるのをみすみす見逃すことになるが、全員が生き残るにはそれが必要だと判断しての物だった。

 

『イングラム教官、どういうおつもりですか?』

 

「どういうつもりも何も無い、生き残るためだ。今のこの状況であの化け物を相手にしながら、ビーストと百鬼獣とは戦えない。無差別攻撃をして来るんだ。百鬼帝国にとってもこいつは敵……ならば利用出来る者は何でも使う」

 

『しかし』

 

『心配しなくて良いさ。言った事は覆さないよ、それに……『この小娘がああああッ!!!』うるせえ! このクソババア!!』

 

不知火の攻撃は風神鬼も襲っており、アギラの罵声に負けないくらいの大声で風蘭が怒鳴り返し、風の刃を不知火に向かって射出する。

 

『見れば分かるでしょ? こいつ私を殺すつもりなんだよ。私はまだ死ぬつもりが無い、だからそっちに協力する。道理でしょ?』

 

不知火の攻撃には風蘭を殺すと言う明確な悪意があり、それを感じ取ったアヤは風蘭の言葉が真実だと悟る。

 

『ライ、今は敵じゃないわ』

 

『……大尉、分かりました。百鬼獣に関しては納得はしていませんが、しょうがないのでしょう。ですが……あれはどうしますか?』

 

『……何のつもり?』

 

『何のつもりも無い、私はリュウセイを守る。それだけ、邪魔をするならお前も殺す』

 

『……リュウセイリュウセイ、何様のつもり。ストーカーは気持ち悪い』

 

挑発合戦をしているラトゥーニとレトゥーラ。しかしそれでいながら不知火へ攻撃をしているのだから始末に終えない。普段大人しいラトゥーニがここまで敵意を露にしていることを考えるととことんそりが合わないのだろうが……今はそんなことをしている場合ではないとヴィレッタが声を掛ける。

 

『何をしているの、今はそんなことをしている場合じゃないわ……こいつますます巨大化しているわ……』

 

無人島の残骸も取り込み、巨大化を続ける不知火を前にこの場にいる誰もが身を震わせる。

 

「分かっただろう? 今は何でも利用する。あの巨体のどこかにある核を破壊するぞ! リュウセイがフォワード! 俺達は支援に徹するぞ!」

 

イングラムが指示を出すが、それはとてもあやふやな物であり、イングラム自身が百鬼帝国である風蘭、そしてレトゥーラをこの一時だけでも仲間として引き入れたのはリュウセイ達だけでは勝てないと言うものを感じての物だったのかもしれない……。

 

 

 

 

 

不知火妖蛇の装と戦闘を始めて数分で無人島は跡形も無く消し飛び、SRX達は中空に飛行しての戦闘を強いられていた。

 

『アヒャヒャヒャッ!! そらそらそらッ!!!』

 

狂ったように笑うアギラの声が響いたと思った瞬間に海面が光り輝き、鋭い刃を持つ槍となり凄まじい勢いで空中のSRX達に向かって放たれる。

 

「リュウセイ! 受けようと思うなッ! 避けるか、迎撃しろッ!!」

 

『分かってる! ハイフィンガーランチャーッ!!!』

 

SRXの指から放たれる実弾の嵐が水の槍を迎撃し、不知火の身体を穴だらけにする。だがライ達の見ている前で装甲は見る見る間に再生していく……。

 

『なんて再生能力なのですか……駄目ですわ。「私達だけでは勝てない」』

 

『ッ! シャイン王女。それは』

 

『ええ、最悪の予知ですわ。私達だけでは攻撃力が足りていませんわッ!』

 

SRXを有してもなお攻撃力が足りないとシャインが悲痛な声で叫んだ。圧倒的な再生能力、そしてアギラ自身の空間把握能力が低いから反撃をする事が出来ているが、超火力による範囲攻撃を前に無理に突撃するのは無理、更に言えば溜め時間が必要なR-GUN・パワード、R-SWORDとの合体は不可能に等しいのだ。

 

『マイ! あぶねぇッ!』

 

『え……あ、ありがとう』

 

水の槍と剣の奇襲に反応出来なかったマイをSRXが庇い、手にしていた天上天下無敵剣で水が姿を変えた剣を切り払う。

 

『気にするなよ、マイ。仲間だろ』

 

『……う、うん……それでもありがとう』

 

ダメージの蓄積が大きく、動きが鈍くなっているアルブレード・F型を庇いながら、SRXのガウンジェノサイダーが不知火を襲う。

 

『ヒャヒャヒャ!! 無駄じゃ無駄じゃッ!!』

 

『ラトゥーニ! シャイン王女! 合わせてッ!』

 

『了解ッ!』

 

『私にお任せくださいなッ!』

 

胴体に風穴が開くがアギラの高笑いが消えることは無く、内部がむき出しならばダメージも通るだろうとR-GUN・パワードの手にしたツインマグナライフルと2機のフェアリオンのボストークレーザーが風穴の開いている不知火の胴体へと飛び込み、大爆発を起す。

 

『無駄じゃ無駄じゃ!フェフェフェフェッ!!』

 

胴体を失ってもなお、頭部と4本の腕は宙に浮いており、そこから放たれたビームがSRX達を襲う。

 

『ぐうっ! アヤ! まだ大丈夫か!?』

 

『ええ! だけど余り長くは皆の盾にはなれないわッ!』

 

SRXの念動フィールドをもってしても防ぎきれない、不知火の圧倒的な火力。念動フィールドでSRXがマイ達を守っている間に不知火は悠々と自己再生を行なうが……。

 

『そうはさせない、ヴィレッタ!』

 

『ええ、分かってるわよ、イングラム』

 

そうはさせないとR-GUN・パワードとR-SWORDが不知火へ飛びかかり、ビームカタールソードとビームソードによる斬撃が不知火の両腕を引き裂き、発射しようとしていたレーザーが消滅する。

 

『今の内に態勢を立て直せ! 隊列を崩すな!』

 

『逃がさんぞッ!!』

 

『うっさい婆だねッ! 風刃ッ!!!』

 

肩から千切れた腕を操りSRXへの攻撃を仕掛けようとした不知火だが、風神鬼の放った風の刃がその異形の腕を肘まで切り裂いた。

 

『驚いたわね、ちゃんとフォローしてくれるね』

 

『今は味方でしょ? 私は裏切ったりしないのよ』

 

風神鬼から風蘭の楽しそうな声が響き、舞うような動きと共に放たれる風の刃が不知火を拘束する。

 

『動きは止めれるけど、こいつの不死身の理由が私も判らないんだよ。このままだとジリ貧だ、なにか良い考えはないか?』

 

自分だけでは倒しきれないと悟った風蘭がそう声を掛けてくるが、正直イングラム達にも打てる手は無かった。圧倒的な再生能力、そして攻撃力の高さ。巨体ゆえに機動力が低いから攻撃を当てることは容易いが、生半可な攻撃では不知火を巨大化させる事に繋がる……。

 

(状況はかなり詰みに近いが……不幸中の幸いはアラドが戦っていない事か)

 

不知火が現れてからアラドは逃げるビルトファルケンを追っている。ゼオラが関わると冷静さを失うアラドがこの場にいないことに安堵するライ。

 

『う、ううううううッ!!』

 

『ゼオラッ! ゼオラ逃げるなッ!! こっちに来いッ!!』

 

時折R-2のコックピットに響くのは苦しそうな少女の声と、それに向かって必死に呼びかけているアラドの声だった。追われているのに攻撃する気配を見せないファルケンの姿はアラドの声が少しずつゼオラに届いている証のようにライには思えていたが、その呼びかけはアギラの怒りを買うことになった。

 

『良い加減に邪魔じゃぁッ! 出来損ないのブロンゾ28がッ!!!』

 

「リュウセイ! 止めろッ!!」

 

『分かってるッ!!』

 

音を立てて不知火の装甲が開き、島の半分を消し飛ばしたビームの雨が放たれようとし、それを妨害しようとSRXがガウンジェノサイダーを放とうとした瞬間、その頭部に強烈なビームが撃ちこまれ、不知火は2~3度痙攣し後退し、アギラが怒りに満ちた怒声を上げた。その視線の先にはオーバーオクスタンランチャーを構えたラピエサージュの姿があった……。

 

『アウルム1何をするうううううッ!』

 

『何をするじゃないよ! このクソ婆ッ! さっきからフレンドリファイヤばっかりしやがってッ!!! オウカ! お前は早くゼオラと撤退しな、ゼオラを追いかけている奴を何とかしてなッ!』

 

『……風蘭さん、ありがとうございます』

 

上空のラピエサージュを攻撃しようとした不知火の側面から、風のフィールドを纏った風神鬼の体当たりが叩き込まれ不知火は頭部と胴体の大半を失い、動きを止めた隙にラピエサージュは反転し急上昇し、ビルトビルガーとファルケンを追っていく。だが風蘭の命令は抽象的で、オウカはゼオラとアラドをアギラから守れと命じられていると判断した。

 

『貴様も失敗作かああッ!』

 

上昇していくラピエサージュに向かって再生し始めている腕をむけ、熱線を放とうとした不知火だが突如その動きを止めた。

 

『……お前の声は耳障りだ』

 

『己ぇええええええッ!!!』

 

ズイーリアスが不知火の体内で念動フィールドを作り出し、再生の妨害を行った所で不知火が巨大化している理由、そして異常な再生能力の正体……。

 

『あれは……ナノマシン?』

 

『なるほどな。読めてきたぞ……あいつのカラクリがな』

 

光り輝く粒子が海水を持ち上げて不知火の装甲へと変化するが、当然海水なので透けている。だからこそイングラムは、いやライも再生能力、そして何故巨大化できるのかを見抜く事が出来ていた。

 

「超小型の百鬼獣が材料を確保し、固定化していたのですね」

 

『ああ、つまり装甲の変わりになる物がある限り、あいつを倒す事は不可能だ』

 

ナノマシン状の百鬼獣の群態が海水や、百鬼獣の残骸を集めて不知火の装甲を作り出す。そして損傷は即座に材料を集めて再び装甲を作り出す。

 

『海水でも装甲を作れるならどうやって倒せばいいんだよ!? 教官』

 

「落ち着けリュウセイ。何もあの巨体を打ち倒す必要はないんだ」

 

『ライの言ってることが判らない。アヤ、どういう?』

 

「あいつの今纏っている装甲を全て破壊する。海水に置き換われば核である百鬼獣の位置が分かる筈だ」

 

『……ライ、今のお前凄い馬鹿なこと言ってるぜ?』

 

リュウセイにそう指摘されるが、そんな事はライも分かっている。

 

「仕方ないだろう。あの装甲がある限り核を見つけるのは不可能だ。再生されると分かっていても攻撃を続けるしかない」

 

『でもライ少尉、そろそろ私達の機体は弾薬が……』

 

フェアリオンのラトゥーニが不安そうに言うと、ライは小さくふっと笑った。

 

「大丈夫だ。ラトゥーニ……俺達は最低限の勝利条件は満たした」

 

『クレイモアッ!! 全弾持って行けッ!!!』

 

海面を突っ切ってSRXの前に躍り出たアルトアイゼン・ギーガの両肩、そして背部から放たれたクレイモアの弾雨が不知火の装甲を一瞬にして穿ち、その後からハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻による3連射の連装主砲が不知火へと叩き込まれ、あれほどの猛威を振るった不知火は糸が切れた人形のように崩れ落ち海の中へと沈んでいく。

 

「逃げられたのか?」

 

『いや、そんなはずは……気配は感じていたわ……でももしかすると不利を感じて逃げたのかもしれないけど……』

 

何処かから再び姿を見せるかもしれないと警戒していたイングラム達だが、不知火は再び現れることは無かった。だがそれも至極当然である、不知火を操縦する為に投薬や一種の洗脳が行われ攻撃的な性格になっていたとしても、アギラは元々が小心者であり、命を賭けて戦う考えなどは最初から無くナノマシンが海水で装甲を作り出した頃には既に海の中に潜り、この海域から離脱していたのだから……。

 

 

 

 

救難信号を頼りに現場に急行してきたキョウスケは拍子抜けしたものを感じていた。

 

(どういうことだ)

 

SRXの疲弊具合を見れば相当な強敵であったのは間違いない。だがエリアルクレイモアの一撃で姿が崩れ、海へと消えていったのは想定外と言ってもいい……それに加えて正体不明の襲撃者であるズィーリアス、そして風神鬼の姿もあり、一体この場で何があったのかとキョウスケを含めたハガネの面子は困惑することしか出来ない、だがそれでもズィーリアス、風神鬼と戦う可能性も考え身構えるが、それは杞憂で終わる。

 

『キョウスケ・ナンブ……お前は必ず私が殺す。お前の罪を忘れるな、絶対に私はお前を許さない』

 

身も凍るような怨嗟の言葉を残しズィーリアスは空中に紅い線を残し、キョウスケ達の前から姿を消した。

 

『私もこれ以上戦うつもりはないし、じゃあねえ~』

 

風神鬼も手を振り風を身に纏って姿を消した。

 

『んー何があったのかしらん? マイちゃんが見つかったのは良いんだけど……誰か何があったのか説明してくれない?』

 

何があったらズィーリアスや風神鬼と共闘する状況になるのかとエクセレンが説明を求める。

 

『それにあの敵は百鬼獣でしたよね? なんで龍王鬼の部下が……』

 

僅かに見ただけだが不知火を見れば百鬼獣であることは明らかで、戦う前に逃げられ拍子抜けしつつ、何があったのか、どういう状況だったのかと説明を求める。

 

『ちくしょう、ちくしょうッ! 後少しだったのに……うわああああああ――ッ!!!』

 

そこにアラドの絶叫が重なりますます状況の把握が困難になる。状況を1番把握しているリュウセイ達もリュウセイ達で不知火との戦闘で疲弊しきっており、疑問に答えたいという気持ちはあるのだが口を開く余裕が無いと言う地獄絵図の形相を呈していた。

 

『キョウスケ、どうかした?』

 

「いや……少しな、思うことがあった」

 

『ビーストの事? だけどあれはキョウスケとは関係がないわ、私は逆恨みだと思うわ』

 

口ごもるキョウスケにエクセレンはすぐに見破り、レトゥーラの恨みはお門違いでキョウスケの責任ではないと声を掛ける。

 

「いや、そうじゃないんだ。あのパイロット……前よりも冷静になってなかったか?」

 

『え? そうかしら? 私はちょっと分からないわ……キョウスケの気のせいじゃない?』

 

謂れの無い罵詈雑言でキョウスケが悩んでいると思っていたエクセレンはキョウスケの問いかけに困惑した様子で気のせいじゃないか? と返事を返す。

 

「それなら良いが……まぁ良い、敵の襲撃も無さそうだ。帰艦する事にしよう、武蔵の事もある。いつまでもこの場に留まっている訳には行かないからな」

 

今優先すべき事は武蔵の救出に向かっているゼンガー達からの連絡を待つことであり、そして武蔵を無事に救出する事だ。この場に留まり敵の増援が現れる可能性が高いこともあり、キョウスケ達はハガネへと帰艦し、この場を後にするのだった……。

 

 

 

第160話 紅の雨 その5へ続く

 

 




今回も戦闘が少なくて申し訳ありません。元のシナリオが殆ど戦闘がないこともあり、アギラの百鬼獣の顔見せ程度のシナリオとなってしまいました。動きが少ないシナリオはアレンジと肉付けが難しいのが難点ですね。次回は不知火と戦っている時のアラド達のやり取りと、少しのシナリオデモ、そして紅の雨のその1へと話をつなげていこうと思います。


PS

スパロボDDガチャですが、奇跡的にステップ3で期間限定の蜃気楼と新規のブラックサレナがそろうという快挙

どちらも育成している機体なので大幅な戦力増強となりました。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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