第161話 白銀の流星、真紅の彗星 その1
アクセルとギリアムの戦闘時の会話が陸皇鬼のブリッジに流される。ファーストジャンパー……ヘリオスオリンパス、いやギリアム・イェーガーの焦りに満ちた言葉は彼が真実を語っている事を如実に現していた。そして戦闘映像の再生が終わった時艦長席に腰掛けていた龍王鬼が首を傾げた。
「ふうむ……俺様には良く判らんが、そのなんちゃらの扉を開くと世界が滅ぶってことか?」
「もうちょっと理解出来なかった、龍?」
「無理。そういう小難しいのは分からん。物事はもっとシンプルなほうが良い」
カッカッカと大笑いする龍王鬼の隣で額に手を当てて溜め息を吐く虎王鬼はヴィンデルとレモンに視線を向けた。
「私は別にやるなとは言わないけど……もうちょっと段階を考えたほうがいいかもね。共行王はどう思う?」
「ん? 大いに結構。開けば良かろう? 他の世界に踏み込み侵略し争う。人間の業は、欲は止まらんよ。それで滅ぶも発展するも私にはどちらでもいい」
虎王鬼、共行王達の会話を聞いてヴィンデルは内心安堵の溜め息を吐いていた。アクセルとウォーダンを回収した共行王はあろうことか、そのままギャンランドをも飲み込み、ラングレーに向かっていた陸皇鬼の元へと移動したのだ。
(余計な事を……)
自分達の真の目的――それが露にされたことにヴィンデルは怒りを抱いていたが、少なくとも当面は百鬼帝国には敵対行動と取られなかった事には安心していた。
「それよりもだ。レモン、アクセルとウォーダンの奴の機体の修理は間に合うのか?」
「え? ええ。十分プランタジネットには間に合うと思うけど……」
「そうかッ! そいつは良かった。なんせ大戦だ。しょっぼこい戦いじゃつまらねえからなぁッ!!」
オペレーション・プランタジネットは百鬼帝国、インスペクター、シャドウミラーの3つの勢力が集まり、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改を潰す為の作戦だ。確かに龍王鬼の言う通り大戦である事は間違いないだろう。
「さてとヴィンデルよ、ちょっと付き合えや」
龍王鬼の巨大な腕がヴィンデルの首に回され、無理やり引き寄せられる。
「龍王鬼、私は作戦の立案や戦力の配置の話し合いなどで忙しいのだが……?」
「んだよ、神経質な事言ってんじゃねえよ。全戦力を出して戦えば良いんだよ。永遠の闘争の世界を作るとか言ってる奴がけち臭いことを言ってんじゃねえよ。共行王、戦の前に酒盛りをするぜ。どうせハガネは伊豆基地で準備するからまだこっちにこねえだろ? その前に一献どうだ?」
「へえ、良いわよ。付き合うわ」
「よっしゃよっしゃ、後はアクセルとウォーダンだな。行こうぜ、虎」
嫌そうな顔をしているヴィンデルを肩に担ぎ上げ、虎王鬼に声を掛ける龍王鬼。
「レモンと話があるから先に行ってて良いわよ」
「んん? そうか、まぁ女同士で話もあるだろうな! じゃあいくかあッ!! そう言えば共行王は酒は日本酒で良いのか?」
「何でも良いぞ。酔えれば」
違いねぇと大声で笑う龍王鬼ところころと笑う共行王。人外に捕まっているヴィンデルは逃げられるわけも無く、2人に連れて行かれることになり、レモンは視線で助けろと訴えているヴィンデルに手を振りながら笑みを浮かべて見送る。
「それで私に話って何かしら? 虎王鬼」
「凄く晴れ晴れした顔をしてるからどうしたかなってね。それとあの婆の事でちょっとね」
そう笑う虎王鬼にレモンは肩を竦めて小さく笑った。
「それ絶対ちょっとじゃすまないわよね。立ったまま?」
「まさか。近くに私の部屋があるからそっちで話を聞くわよ。行きましょう」
「それなら何かお菓子が欲しいかなー?」
どうせ拒否権はないのだから少しでも話しやすい雰囲気にして欲しいとレモンがおちゃらけて言うと虎王鬼は口元を抑えて、ころころと笑う。
「カーラが美味しいからお土産で買って来たって言うチーズケーキがあるけど……私緑茶しか淹れられないわ」
「それは合わないにも程があるわね。紅茶淹れてあげるわよ。どうせユウキから貰ってるんでしょ?」
「ええ、凄いくれるのよ。でもね……淹れるのめんどくさいのよねぇ」
話をしながら歩いていくレモンと虎王鬼。人間と鬼だが、その後姿は紛れも無く気心のしれた友人と言う様子なのだった……。
「あら。本当に美味しいわね」
「あの子美味しい物見つけてくるの上手なのよね~」
カーラの手土産のチーズケーキとユウキが厳選した紅茶に舌鼓を打っていた虎王鬼とレモンの2人だが、チーズケーキを食べ終えた頃には2人とも真剣な顔をしていた。
「アギラが何か変な百鬼獣を持ち出したって聞いてたけど……不味かったのかしら?」
「かなり。不知火はナノマシンを搭載していてね、残骸とかを取り込んで外骨格を作り出すの。パイロットがその外骨格を作れるから機体性能は理論上は無限なのよ」
「それはまた随分と凄い代物ね」
ナノマシンで残骸を操作し、外骨格を作り出す。それはレモンから見れば完全なオーバーテクノロジーであり、研究者としては興味を隠せないという表情を浮かべていたが、虎王鬼は片手を左右に振る。
「やめときなさい。あれは鬼が使う前提で人間じゃ使えないわ。仮に使ったとしても薬漬けで凶暴性が増すから厄介でしかないわ。それに力に飲まれるから元々の知識も殆ど無駄になるし」
「……それが貴女達がアギラに与えた罰?」
アギラは研究者であり、その知識が無駄になると言うのはある意味研究者としては死を意味する。オウカ達の絆を断ち切ったアギラへの罪なのか? とレモンが問いかけると虎王鬼は鋭い犬歯をむき出しにして笑った。
「罰を与えるならこの手で引き裂いて殺すわよ。そんな回りくどい事はしないわ。まぁそれはおいておいてとりあえずこれでゼオラ達の安全はある程度確保出来たって所ね。大分ゼオラの反応も良くなってるし、朱王鬼の術さえ解除出来れば私達の所を逃げ出すんじゃないかしら?」
「……私にそんな話をしてどうするの?」
「んー行くなら一緒に行ったらどう?って話よ。晴れ晴れした顔してるのヴィンデル達を見限ったって事じゃないの?」
嘘は許さないと言わんばかりの言葉にレモンは両手を上げて苦笑した。
「ざーんねん、まだヴィンデル達を見限ってないわよ」
「あら? そうなの? 私はてっきり見限ったのかと。それならお目付け役頼もうかなあって思ってたのに」
お目付け役――オウカ、ゼオラ、そしてクエルボの3人が逃げる時に、一緒に自分を逃がそうとしてくれていたのが分かり、レモンは苦笑ではなく心から笑った。
「ラミアがね、私の事を止めるって。家族を止めるのは娘の仕事なんだって……あの子、私のことお母さんって言ってくれたのよ」
「あらあらあら、ふふっ! 良かったじゃない」
レモンが求めて止まなかった事……母になりたいと言う願い……それが叶って良かったと虎王鬼は自分の事のように喜び笑うが、それと同時に残念そうに首を左右に振った。
「あーあ、私の勘違いか……行けると思ったんだけどなあ」
「ごめんなさいね、勘違いさせちゃって」
母と呼ばれた事はレモンにとって想像以上に嬉しい事であり、長年の胸のしこりが取れたかのような晴れやかな気持ちだったのも紛れも無い事実だった。だからこそ、虎王鬼はレモンの事を全否定するヴィンデルを見限り、自分の目的の為にレモンが動き出そうとしていると思ったのだろう。
「今日聞いた事は内緒ね?」
「ん? ちょっとした世間話でしょ? そんなに気にすることもないと思うわ」
虎王鬼と龍王鬼の立場が悪くなるような事は言わないと遠回しに言うレモンに虎王鬼は肩を竦めて笑った。
「それにしても貴女は損な生き方をしてるわね?」
「自分でもそう思うわよ? でも止められないのよ、この生き方をね」
ほかの道があるという事はレモンにだって分かっている。それでもこの損な生き方を止めれないのだ、一時の恩を大事にし、自分を認める事が無い相手と分かっていても、それでも義理立てし、自分を認めない事に苛立つのならば見限ればいいのにそれも出来ない……余りにも賢くない生き方だが、レモンはそれを止められないのだ。
「オペレーション・プランタジネットは大きな転換期になるわ。私達の中からも抜ける者が出てくると思うのよね。でもそれは仕方ない事だし、それを責めるつもりも無いのよ。だってそうでしょ? 皆考え方が違うわ、同じだったらおかしいと思わない?」
「そうね、皆同じだったら貧困も無いし、戦争も無い。ある意味それは究極の平和かもしれないけど……それは変化の無い地獄とも言えると思うわ」
十人十色の考えがあり、それぞれが自分の考えを色を持っている。だからこそ対立するのだろうし、争いもする。だがそれが生きていると証でもあるのだ。
「鬼が言うのもなんだけど、そんな世界は嫌ね」
「鬼は地獄に住んでいるって言うけどそれでも嫌なのね」
「当たり前よ、皆同じだったら恋をすることも愛する事もないでしょ? 私はそんなのはごめんなのよ、だから皆違う意見があって当然だと思うし、あるべきだと思うの……だから後悔しない生き方を選択をするべきだと思うのよ。レモン……貴女は今の自分の選択に後悔しない?」
気遣うように……いや、実際気遣っているのだろう。迷えば死ぬ……それが戦いの世界であり、自分の生き方に納得しているとは言え、ヴィンデルやアクセルの言動に不満を抱いているレモンに後悔しないかと、オペレーション・プランタジネットを切っ掛けにして百鬼帝国はもっと大きく動く事になるだろう。安全に、そして確実に逃げれるのは今しかないと虎王鬼が言外に言っているのはレモンにも判っていた……だからこそレモンは笑った。
「貴女も損な生き方をしてると思うわ、虎王鬼。私は自分の選択に後悔しないわ。だからありがとう、心配してくれて」
レモンの言葉に虎王鬼は驚いたような表情を浮かべ、そして笑った。勿論レモンも笑っていた……自分達は良い友人に出会えたと互いに認めるように笑った。
「そう、それならいいわ。その後悔しない選択の先に貴女だけの答えがあるといいわね。龍達が待ってるから行きましょうか?」
「こんな時間から酒盛りなんて罪深いわねぇ。でもたまにはそんなのも良いかも知れないわ」
互いに笑いあった虎王鬼とレモンは龍王鬼達が酒盛りをして居る部屋へと向かったのだが……。
「……」
ウォーダンは僅かに露出している口元から判るように顔全体が赤くなっており、完全に酔い潰されていた。
「おら、アクセル、もっと飲めよ」
「……ああ、貰おう。ヴィンデル、ヴィンデルも呑め」
「……私は……世界を変えたくてええ……」
「ははははは、こいつ泣き出したぞ!!」
泣き上戸のヴィンデルが泣き出し、目が据わっているアクセルは枡を手に持ち、龍王鬼が注ぐウィスキーを口にする。
「がっはははははッ! 美味いッ!!!」
「そうね、悪くないわね」
龍王鬼と共行王は瓶に口をつけてウィスキーをがぶ飲みし、今度はワインへと手を伸ばす。
「ほら、個性だらけで面白いでしょう?」
「これは地獄って言うと思うんだけどね」
「そう? 面白いじゃない」
面白いかもしれないけど、これは地獄に他ならないわねと思いながらもレモンの虎王鬼と共に部屋の中に入るのだった……。
「はー美味しいわねぇ」
「おうおう、良い呑みっぷりだな。ほれ、のめのめ」
「これも美味しいわよ、ジャーキーだって」
「うむうむ、美味いのぉ……」
良い潰れた男3人を壁際に押しやり、レモンは最後まで人外3人と杯を酌み交わしていたりするのだった……。
無事に武蔵の救出を終えたハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻は1度伊豆基地へと帰還していた。その理由は勿論武蔵の救出作戦で負ったダメージが想像以上に大きかったからだ。特にカイとギリアムのゲシュペンスト・リバイブのダメージは深刻な物で、動力部こそ無事だが機体各所が交換用のパーツでは間に合わないレベルに損傷していた。
「リバイブもそろそろ限界かもしれませんわね」
「ああ。言ったら悪いが旧式になりつつある」
そもそもリバイブ自体が突貫工事の改造品だ。機体性能こそ高いが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲのような互換性があるわけでもなく、伊豆基地とテスラ研にしかパーツの製造拠点が無く、テスラ研を抑えられている以上修理を完璧にするのは難しい問題だった。
「そこを何とか出来ないか? ハミル博士、ラドム博士」
「いやカイ、無理を言うべきではない。L5戦役からここまで良く持ったと言うべきなのかもしれん」
修理が難しいのは分かるが何とか出来ないかとマリオンとカークに無理を言うカイだったが、ギリアムの無理という言葉に振り返った。
「ギリアム、お前まさか……ゲシュペンストから降りるというのか!?」
「まさか。俺は一生ゲシュペンスト・ライダーだ、それを変えるつもりはない。ラドム博士、正直に教えて欲しい。リバイブの過負荷は俺達の操縦にリバイブが付いて来れてないということではないのか?」
百鬼獣、インベーダー、アインスト……人智を越えた相手と戦い続けて来たことによる過負荷だとカイは考えていたが、ギリアムは違っていた。鍛錬を続け、己を鍛え続けて来たカイとギリアムにリバイブの方が付いてこれないのではないか? という問いかけにカーク達は揃って頷いた。
「確かに戦闘による過負荷もあるが、大本はそこになる。リバイブはL5戦役道中の機体だ。中身はゲシュペンスト・MK-Ⅱの改造である事を考えれば、今のカイ少佐達の動きには付いて来れないのは当然の事だ」
「ですが、取り替えるというのも簡単な話ではありませんし、1から建造し直すのではプランタジネットには間に合いません。修理だけならば可能なのですがね……しかし修理した所でリバイブをこれ以上強化するのも難しいですから、いつかは限界が来て機体全体が駄目になりますわよ」
2人の操縦に機体が着いて来れないのならばまた機体は破損する事になる、そうなればいつかは機体全体が駄目になると言うマリオン。
「それに関してなのだが、カーウァイ大佐のゲシュペンスト・タイプSのデータを貰って来た。ゲッター炉心と反マグマプラズマジェネレーターと動力は違うが、基本的な部分は似たり寄ったりの筈だ。そしてここに俺の改造案がある。リバイブを改造するのが難しいのならば強化しなければいい。外付けのアーマーパーツによる強化と言うのはどうだ?」
ギリアムが差し出した資料をカイは受け取り、それを確認するとその目を輝かせる。
「悪くない…いや、むしろこれは俺達にこそ最も適しているのではないか?」
基本的な部分は変わらず、新造したチョバムアーマーを装着し耐久力・攻撃力を強化する。コックピット部分のみに限れば中身を取り替えることは可能である、なんせ元々2人のゲシュペンストのコックピットを流用しているのだからコックピットの細部をカイとギリアムの物に合わせたものにすれば交換は可能だ。
「なるほど……ふむ。悪くない」
「基本コンセプトはアサルトアーマーに酷似していますからね。データもあります。まぁラドラにかなり駄目だしされた上に改造されておりますがね」
マリオンの嫌味にカークは眉を顰めたが、ラドラの指摘は的を得ていた上に実際にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMとの合体時も十分な成果を上げており、稼動データ含めてカーク達の物よりも良い結果を出しているのは紛れも無い事実だったからこそ、カークは何も言わず頷くに留まり、ギリアム達の要望を聞き入れる事にした。
「分かった。その方面での強化を行なおう。詳しい要望を聞かせて欲しい。オペレーションプランタジネットに間に合うとは言い切れないが……努力は惜しまないつもりだ」
オペレーション・プランタジネットが終わりではないのだ。これからの戦いに備える為にカークはカイとギリアムの意見の詳細を纏め、許可が下りれば急造にはなるがカイとギリアムがオペレーション・プランタジネットに万全な状態で参加出来るように努力は惜しまないと力強く告げ、2人と共に製図室へと足を向ける。
「私もうかうかしてはいられませんわね」
カークの熱意に触発された……と言う訳ではない、自分達に出来る最善を行う事……それが戦場に立つ事が出来ないマリオン達が出来るただ1つの事なのだ。
「ゲシュペンスト・MK-Ⅲの後継機にズィーガー……いえ、ヴァルキリオン・ズィーガーの組み上げ、ビルガーとファルケンのコンビネーションのプログラミング……」
指折り呟くマリオン、自分がやるべき仕事は山ほどあるのだ。こんな所で休んでいられないといわんばかりにその目を輝かせ、再び作業へと取り掛かるのだった……。
ビアン達からのテスラ研奪還作戦の号令が掛かるまでの間、伊豆基地で短い休養と機体整備などを行なっていたリュウセイ達は突然ブリーフィングルームに呼び出され、そこでレイカーから告げられた言葉に皆が目を見開いた。それは到底受け入れられない命令だったからだ……。
「何!? ノイエDCと共同戦線を展開するだぁ!? どういうことだよ! レイカー司令ッ! あたし達に全滅しろってかッ!!」
これが他の連邦軍ならば受け入れていただろうが、カチーナ達はノイエDCが百鬼帝国の傘下であると言う事を知っている。そしてラングレー基地を制圧しているのは百鬼帝国とインスペクターであり、ノイエDCとの共同戦線など背後から撃たれて来いと言っている様なものである。
「落ち着け、カチーナ中尉。レイカーとて本位ではない。だが上層部からの正式な命令だ」
上層部からの正式な命令と聞いてブリーフィングルームにいた全員が顔を顰める。そんな中武蔵達はと言うと……。
「なぁ、コウキ」
「なんだ?」
「人間に化けてる鬼ってわからねぇ?」
「……装備を作れば可能だ」
「よっしゃ、じゃあ話は早いな」
「待て、武蔵。お前何をするつもりだ?」
「え? いや、その鬼に成り代わられてる上層を刈ってこようかと」
「「「止めろ馬鹿ッ!!」」」
「ええ……こっちの方が早いですよ? なぁコウキ?」
「闇討ちが必要だ。夜まで待つべきなのと、姿が分からないようにする装備を用意しろという事だろう?」
「ああ。なるほど」
「「「違うッ!!!」」」
闇討ち前提で考えている武蔵とコウキの物騒な思考にあちこちから違うと言う声が上がる。
「証拠を残すなって事じゃ?」
「別に出来ない事はないぞ? なぁ武蔵。贅沢を言えばラドラが入ればもっと楽だが」
「ああ、確かに楽だよなあ。でもまぁそこまで贅沢は言えないだろ? オイラとコウキで楽勝楽勝、と言う訳でレイカーさんどうですかね?」
「却下」
即答で却下と言われ嘘だろって顔をする武蔵とコウキだが、リュウセイ達からすればなんでそれが通ると思ったと思わざるを得なかった。
「それも1つの方法ではあるが、上層部が鬼と分かれば混乱は大きく広がる。武蔵君達の提案は本当に最終手段としよう。大統領府の襲撃時に2人のビアンが現れた事もあり、ノイエDCとの共闘は現場からは到底受け入れられるものではないと言うことは皆は判っていると思う。だがこれは一般の部隊までは話が通っていない上に大統領府にいたマスコミは皆監視状態にある」
「……上層部にとって都合が悪いからな。だがそれは返って今の連邦上層部への不満を強める事になっている。ここで一気にその不満を起爆させるわけにはいかんのだ」
数多の侵略者がいる中で連邦への不満が爆発し、そしてクーデターや反乱活動が多発すればそれこそ人類は一気に敗れる。
「ですがノイエDCの中に鬼が紛れていれば、挟み撃ちになり俺達の全滅する可能性が高まりますが……」
「それに関してだが……オペレーションSRWを生き抜いたキョウスケ中尉達にしか出来ない命令を私は下そうと思う」
その深刻なレイカーの表情を見れば、この中の誰かが死ぬかもしれない……その可能性を秘めた命令をレイカーが下そうとしている事を誰もが悟った。
「この作戦は罠である。諸君らを一網打尽にする悪辣な罠だ、だがこれを拒否すれば伊豆基地も、そして諸君らも反逆者として人からも追われる立場になるだろう……そんな状況で戦い抜く事は不可能だ。ならば我々はこの作戦を利用する。オペレーション・プランタジネットには恐らく偽のビアンも現れるだろう。そして百鬼帝国も本腰を入れてくるはずだ」
話を聞けば聞くほどに絶望的な状況だ。軍人であるから死んで来いという命令を下される覚悟は皆もしていたが、次のレイカーの言葉に皆が呆けたような表情を浮かべた。
「命令する、死ぬな。諸君らの命はこのような場所で潰えていい物ではない。だから命令する。死ぬな、生きるんだ。罠と分かっていて、その上死ぬ可能性の高い戦場に送り出す癖に何を言っていると思うかもしれない。だが死ぬな、生きるのだ。鬼の存在を明らかにし、地球を狙っている者はインスペクターとノイエDCだけではないと言う事を明らかにする。それが私とビアンの計画だ」
武蔵に混乱を起こさないために襲撃するなと言っておきながら鬼の存在を明らかにすると言うレイカーの言葉は矛盾だらけだ。
「レイカー司令。貴方は何を考えているのですか?」
「上層部に鬼がいると言うことを明らかにするつもりはない、だが鬼と百鬼獣の存在は明らかにする。そして偽のビアンの正体も明らかにする。インスペクターから北米を取り返すのは不可能だろう……その代りにノイエDCは確実に潰す。恐らく向こうの計画は連邦の最大戦力である我々を撃破することにある。武蔵君とゲッターロボが協力してくれたとしても……百鬼帝国・インスペクターの挟撃は厳しい戦いになるだろう。だがL5戦役を潜り抜けた諸君ならば大丈夫だと私は信じている」
「ホワイトスター攻略戦と同じ様な状況だが、味方はいない。それでも成し遂げねばならん。これは我々にしかできない作戦だ」
ノイエDCを潰し、そして百鬼帝国・インスペクターと戦い、偽ビアンの正体を暴く――余りにも厳しい戦いだが、他の部隊では成し遂げる事が出来ないことだと言われればカチーナ達とて奮起する。
「やってやるさ、オペレーションSRWと似たようなもんだ」
「それよりも厳しいけどな、だけど俺達ならば出来るさ」
慢心しているわけではない、そして驕っている訳ではない。誰かがやらねばならないのならば自分達がやるしかないのだと奮起する。
「ではリー中佐、テツヤ大尉。作戦概要の説明を」
「「はっ」」
レイカーに促され、テツヤとリーの2人が作戦概要の説明を始める。
「まずだが、我々にはいくつかの切り札がある。1つはクロガネ、そして武蔵とゲッターロボ、最後にテスラ研を奪還する為に先行しているゼンガー少佐とレーツェルの2人の為の特機だ」
「親父の秘密兵器ってやつだね、特機なのかい? リー中佐」
「そうだと聞いている。ゲッター炉心を搭載し、ゲッター合金で建造された大型特機だそうだ。流石にビアン博士はそれ以上は教えてくれなかったが……ゼンガー少佐とレーツェルの事を考えれば大まかな機体タイプは想像出来る」
専用機と言う事を考えればゼンガーの機体はグルンガスト系列の大火力である事が予想され、レーツェルの機体は機動力を生かした1対多に特化した機体であると言う事が予測される。
「コウキ、お前はテスラ研にいたはずだ。その機体について何か知らないか?」
「俺はフレームしか見ていないが、ゲッターロボGに使用されていた人造筋肉などを組み込まれた機体であるとは言える。だが懸念材料もある。インスペクターに奪取されていないかだ。こればかりはフィリオとカザハラ博士が上手く隠してくれていることを祈るしかない」
ビアンが人類の切り札、そして地球の守護者として開発した機体だ。その強力さはその肩書きからも十分に推測出来る。
「だからこそ、今回の作戦はスピードが要求される。ビアン博士からの連絡があり次第、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネは可能な限りの機体を出撃させ、一気に太平洋側から襲撃を仕掛ける。短時間だがSRXにも動いて貰う。派手に動く事でクロガネ、そしてテスラ研に向かっているアイビス達の支援を行う。戦力の大半がこちらに向かってくるだろうが……それでも俺達ならば不可能ではない」
かなりのリスクを背負う作戦だが、それしか撃てる手段が無いと言うのはキョウスケ達も判っている。だからこそテツヤの説明に口を挟まず、その説明に耳を傾ける。
「その後、我々はアメリカ大陸を横断するように移動し、テスラ研とラングレー基地の奪還へと向かう。これは我々の独断だが、ノイエDCに背後をとられないようにし、ラングレー基地で向かい合う形で合流する為のものだ。皆に負担を掛けるだろうが……頑張って貰いたい」
本来の作戦を一部変更し、ノイエDCに背後を取られない為の物だと説明するリーだが、その表情は決して明るいものではない。
「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。リー中佐、俺達ならば出来る」
「上官が部下を信じなくてどうするんだよ。リー中佐」
「……っ。すまない、その通りだ」
余りにも絶望的な状況に気落ちしていたリーだがキョウスケとカチーナの言葉に弱々しいが笑みを浮かべ、作戦概要の説明を続ける。オペレーション・プランタジネット……これが地球の明暗を分ける最初の大一番である事をこの場にいる全員が感じ取っているのだった……。
「スレイッ!」
ゼンガー達と共にクロガネにやってきたアイビスはそこで久しぶりに再会したスレイに満面の笑みを浮かべて駆け寄った。それに対してスレイは少し気恥ずかしそうにしながら片手を上げる。
「アイ……ビスウッ!?」
「スレイ! 元気そうで良かったよッ! あれ? どうしたの?」
タックルもかくやという勢いで突っ込まれ、蹲っているスレイにきょとんとした顔をしているアイビスにスレイは苦笑しながら立ち上がり。
「お前のせいだ、この馬鹿ッ!!」
「いたあッ!?」
スレイの空手チョップに痛いと声を上げるアイビスだが、それは誰が見てもスレイの台詞だっただろう。
「それはアイビスが悪いわよ」
「ええ~ツグミまであたしを責めるの!?」
酷いと声を上げるアイビスの姿にスレイは苦笑し、改めて久しぶりだなと声を掛ける。
「久しぶりだな、アイビス。だが再会を喜んでいるだけでは駄目だ」
「分かってるよ、スレイ。あたしがここに来たのはテスラ研を取り戻して、フィリオ達を助けるためだ。そこは間違えないよ」
強い意思の込められている目を見てスレイは笑みを浮かべる。自分もルーキーの域を出ておらず偉そうな事を言える立場では無いが……今のアイビスならば大丈夫だとスレイは確信した。
「行こう、時間が無い。ノイエDCを先にテスラ研に行かせる訳には行かない。休んでいる時間は無いが大丈夫か?」
「バッチリだよ。ちゃんと身体は休めてきたからね。取り返しに行こう、あたし達の夢を……ッ」
大事な物を自分達の夢を取り返しに行くんだと力強く言うアイビス。その姿はテスラ研にいた時とは別人に見えるほどに力強さに満ちていた。
(アイビスも良い経験をしたのだな)
自分がクロガネで鍛え上げられたようにアイビスもまたハガネで鍛え上げられたのだ。テスラ研を追われ、大事な物をインスペクターに奪われ、星の海を飛ぶという夢も消えかけた……それでも心を折らず、屈辱を噛み締め大事な物を取り返すと言う決意を抱いてスレイもアイビスも戦ってきた……サマ基地襲撃時にコウキに守られていただけの雛鳥は、自由に大空を飛ぶ為の翼を手にし、大空へと飛び立とうとしているのだった……。
第162話 白銀の流星、真紅の彗星 その2へ続く
今回はシナリオデモでしたが結構長い目の話になったと思います。フラグとか、今後の展開に関係するようなイベントをいれましたが、主にはリバイブの更なる進化イベントがメインになったと思います。次回からは原作ではサイバスターとアステリオンでしたが、今回はスレイとアイビスによる突破劇を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い