進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第168話 武神装甲ダイゼンガー その5

第168話 武神装甲ダイゼンガー その5 

 

無尽蔵に襲ってくる百鬼獣、インスペクターの無人機の襲撃を抜け、やっとの思いでテスラ研に辿り着き、テスラ研を囲んでいた無数の異形の巨人を倒したキョウスケ達は休む間もなく己の機体から降り、戦闘の跡を色濃く残しているテスラ研へと歩みを向ける。

 

「ねぇ、キョウスケ。私白兵戦はそこまで得意じゃないんだけど」

 

「お前はフォローだ、前衛は俺とブリット、それとラミアでやる」

 

「本当に大丈夫?」

 

「大丈夫なんて言ってる場合じゃない、指揮は俺とギリアムで執る。武蔵とラドラ、それとコウキは好きにしてくれて良い」

 

カイの指示ににんまりと笑った武蔵は日本刀を背中に背負い、服に捻じ込んでいたマグナムを手にする。

 

「ラドラ、コウキ、どっちから攻める」

 

「正面突破、それ以外にあるまい」

 

メリケンサックのように見えるが鋭い爪を生やしたナックルガードを身につけたラドラがそれを打ち鳴らす。

 

「害虫駆除も防衛主任の仕事だ。手を抜きはしない」

 

ナイフや銃、手榴弾を白衣の中に詰め込んだコウキがゴキゴキと首を鳴らす。

 

「んじゃまあ、行くかあッ!!!」

 

「シャアアッ!!!」

 

窓を突き破り襲い掛かってきた鬼の額にマグナムをぶっ放した武蔵がテスラ研へと飛び込んで行き、その後をコウキとラドラが続く。

 

「お前達は化け物との戦いに慣れていない、チームで行動する事を徹底し、単独行動をするな。人間を保護しても鬼の擬態の可能性がある、人間を発見したらこのゲッター線照射ライトを使え」

 

武装を整えながら矢継ぎ早に指示を出すカーウァイは抱えていたアタッシュケースからライトを取り出し、それをカイ達に手渡す。

 

「はッ!」

 

「良し、では私も行く。5分後にお前達は突入開始せよ」

 

カーウァイも日本刀を背中に背負いテスラ研へと突入する、一瞬開かれたテスラ研の正面入り口からは中の喧騒が響いて来る。

 

『おらあッ!!! くたばりやがれえッ!!!』

 

武蔵の怒声とくぐもった悲鳴、そして肉がつぶれたような生々しい追突音が響いてきて、流石のエクセレンも顔から表情が抜け落ちた。

 

『遅い、遅すぎるな、そして死ね』

 

噴水のような音が響くが、テスラ研の中に噴水はないのでそれが何かを想像したレオナの顔からも表情が抜け落ちた。

 

『雑魚が、くたばれ』

 

『や、やめ……ぎゃッ!』

 

銃声と凄まじい水音まで聞こえて来た。扉が閉まるまでの数秒で中に何が起きているのかを想像したカチーナはう、うんっと唸り声を上げた。

 

「なぁ、カイ少佐。あたしら必要なのか?」

 

「俺もそう思う」

 

テスラ研の内部に鬼とバイオロイド兵の残存兵がいるかもしれないということで白兵戦や射撃に秀でた面子が借り出されたのだが、自分達にやること無くないか? とカイに尋ねる。

 

「武蔵達にだけに負担を掛けさせれる物か、それにテスラ研の内部は入り組んでいる。潜んでいる可能性は捨て切れん」

 

「5分経ったぞ、行くぞ」

 

ギリアムに声を掛けられテスラ研内部に足を踏み入れたキョウスケ達を迎え入れたのは肉片、肉片、ナイフで壁に貼り付けにされた鬼の生首、しかもそれでまだ生きており恨み言を叫んでいる。その下では血液で出来た水溜りが出来ており――ありとあらゆるスプラッタホラーであり、その光景を認識したエクセレンとレオナはふうっと溜め息と共に意識を失い背中から倒れこんだ。

 

「うっぷ……」

 

ブリットは口を押さえてテスラ研の外へ走り出し、そとからは吐いている音が響いて来る。

 

「うげ……流石に無理だわ」

 

「何を言っているんですか、イルム中尉。カチーナ中尉は平気そうですよ、俺達が泣き言を言ってどうするんですか」

 

「キョウスケ中尉。カチーナ中尉ですが、立ったまま気絶していたりします」

 

「「は??」」

 

勇ましく男勝りの女傑カチーナ・タラスクは意外にも料理や炊事、洗濯と家庭的なスキルも非常に得意であり、弱点など無いと思われていたのだがグロテスクな物が苦手であり、インベーダーの段階でもかなり来ていたのだがそれでも耐えていた。だが生首と目があったことでキャパオーバーを起こし立ったままで失神していた。

 

「……キョウスケ達は下がれ、俺達でやる」

 

「私は大丈夫でございますゆえ、お手伝いします。インベーダーに寄生された人間と比べれば鬼は……「シャアッ」……恐ろしくもなんともありませんゆえ」

 

通風孔を突き破り姿を見せた鬼に躊躇う事無く、スタンロッドを突き刺しその高電圧で鬼を焼き殺すラミアなら大丈夫かと判断したカイとギリアムはラミアだけを連れてテスラ研の捜索に乗り出し、テスラ研から運び出された鬼やバイオロイドの死体の数は100に迫る勢いであり、清掃を含め作業を借り出された者の顔からありとあらゆる感情が抜け落ちていたのは言うまでも無い……。

 

 

 

 

殆ど血みどろのテスラ研で話し合いなど出来るわけも無く、ジョナサン達との話し合いの場は各戦艦のブリーフィングルームで行われる事になったのだが……謎の特機である神龍、神虎を操るフェイとバロンも参加する事に誰もが首を傾げることになった。

 

「やぁやぁ、すいませんねえ……お手数を掛けさせまして」

 

「はっ! 犯罪者扱いをする連中になんで頭を下げるんだよ、ええ、バロン」

 

「はっはは、まぁそうなんですけどねぇ。まぁ社交辞令って奴ですかねぇ……それにリシュウ先生に迷惑を掛けるわけにも行きませんし」

 

刺々しい態度のチャイナドレス姿のフェイと穏やかに笑っているが剣呑な光をその目に宿しているバロンの姿にキョウスケ達は一瞬身構えたが、そんな態度を見てもバロンはにこにこと笑っていた。

 

「ヴォルフ兄さん」

 

ライがポツリと兄と呼び、その声にバロンがサングラスを外してその目をライに向ける。

 

「んん? おお、ライじゃないですか。いやあ、元気そうですねぇ、それに大分背も伸びたみたいですねぇ」

 

「あん? てめえの弟がハガネに乗ってたのか?」

 

「従兄弟ですよ、ライとエルザムの父親のマイヤー叔父さんの兄が僕の父親でしてねぇ」

 

目の前の飄々とした男がブランシュタインに名を連ねる男と分かり、ブリーフィングルームに驚きが広がる。

 

『ヴォルフ、今まで何をしていたんだ?』

 

「やあやぁエルザムもお元気そうで、あ、それとヴォルフって言うの止めてくれます? 僕はほら、狼って感じじゃないでしょう? 今はバロンと名乗っているので出来ればそっちで呼んで欲しいですねぇ」

 

『ではバロン、何をしていたんだ? DC戦争よりも前に地球に下りたと思えばテロリストとして指名手配、その上消息不明と聞いて心配していたんだぞ。あと、私もエルザムではない、レーツェルだ。』

 

テロリストとして指名手配された人物であると聞いてブリーフィングルームに緊張が走るが、リシュウが手を叩いた事でリシュウへ視線が集まる。

 

「誤解を招くような事をいうではない」

 

「いやまあ事実ですしねぇ、はっはっは、政府はあれですねぇ。自分達が隠したい事を知ってる人間をよほど排除したいようで」

 

その言葉に今はバロンと名乗っている男が、武蔵と同様に政府によって都合の悪い事実を知って冤罪で追われている人物だと言う事をこの場にいる全員が理解した。

 

「僕はオーダー、オーダーのバロンです。こちらはフェイ――妖機人や悪の超機人に備えている組織の者です」

 

「2人しかいないけどな」

 

組織と言いつつ2人しかいないだろというフェイの突っ込みにバロンは声を上げて笑う。

 

「笑ってる場合じゃねえだろ、エセ貴族」

 

「痛いッ!?」

 

裏拳を頬に叩き込まれ痛いと呻くバロンと疲れたように肩を竦めるフェイ――その2人のやり取りはどこかコント染みていた。

 

『申し訳ないが我々には時間がない、テスラ研に出現した妖機人を知っていると言うから話し合いの場を設けたのだ』

 

「はいはい、すいませんね。僕達もあんまり時間がないですし、大事な話ですが、まぁまだ本格的にバラルは動いていませんし、重要な話だけしますね。まずバラルとは旧西暦から存在する自称守護者の犯罪者集団ですねぇ」

 

「「「は?」」」

 

守護者を名乗る犯罪者集団と言うバロンの言葉に理解出来ないと言う困惑気味な声があちこちから上がる。

 

「一応は人というか地球を守ると言う名目は保っているんですけどね、その手段がどうにもね。なんと言えば良いんですかね」

 

「言葉を選んでるんじゃねえよ。念動力者の女を攫って孕ませようとしてんだよ、んで生まれた子供を洗脳して自分の手駒にするか、妖機人に組み込もうとしてんだよ」

 

「……一応女性なんですからもう少し言葉選びません?」

 

「は! 歯に衣を着せるのは苦手なんだよ」

 

ぶっきらぼうに吐き捨てるフェイの言葉にはバラルという組織に対する強い敵意が感じられていた。

 

「まぁともかくですね、そう言う事をする組織でまぁ碌なもんじゃないわけですよ。僕とフェイはそれに対抗する術としてかつて使われた兵器を探してるうちにテロリスト予備軍にされてしまったんですねー」

 

あっはっはと笑うバロンだがいつか動き出すかもしれない敵に備えていたのにテロリストにされる。それは余りにも笑えない話だが、バロンは呆気からんと笑っていた。

 

『そんな非道をしていて人類の守護者を名乗っているのか?』

 

「まぁ本人達はですけどね? 人間に味方した超機人龍虎王に1度負け、今度はオーダーに負けて逃げたので自称ですよ、とは言えその力は本物ですよ。オーダーが勝利出来たのは全世界が1つになった事ともう1つ、ゲッターロボが味方してくれたからですね。とは言えバラルもゲッターロボを運用してましてね、それは凄い戦いだったそうですよ」

 

『武蔵君かね?』

 

『え? 違うと思いますけどね……えっとバロンさんでしたっけ? そのゲッターロボのパイロットって判ります?』

 

「ん? はいはい、分かりますよ。バラルに味方したのがタツヒト、そして人類に協力してくれたのがリョーマです」

 

竜馬と達人と聞いて武蔵が驚いたのがモニター越しでも伝わってくる。

 

「お知り合いですか?」

 

『あー竜馬はオイラと一緒にゲッターロボに乗ってた奴だけど……達人、達人さんかあ……名前は知ってるけど達人さんとは面識はねえなあ、オイラがゲッターに乗る前に死んだらしいし……でも早乙女博士の息子がなぁ。そんなのに協力するかなあ』

 

早乙女博士の息子が達人と言うのは武蔵も知っていたし、どう考えてもバラルに協力するとは思えないと武蔵が擁護する。

 

「それならばやはり洗脳されていたと言う線が濃いですね。孫光龍はそういう事が出来たらしいですし」

 

『孫光龍ッ!? オイラそいつ知ってるぞ!? 月で会ったッ! ほらビアンさん、えっとあれなんでしたっけ?』

 

『尸解仙だ。中国の仙人の一種だが――バラルが中華に関係するのならば恐らく同一人物だろう』

 

孫光龍を知っていると叫んだ武蔵の言葉にサングラスの下のバロンの瞳がギラリと輝くのだった……。

 

 

 

 

 

『ふむ、では武蔵君。その孫光龍という人物はどんな容姿をしていましたか?』

 

手帳を開きながら問いかけてくるバロンに武蔵はえーっとと唸りながら、孫光龍の容姿を必死に思い出す。

 

「白いスーツを着てて、えっと胸に花を刺してて、金髪で外人さんって感じだったかな……後は凄い飄々としてて掴み所がなさそうな感じで……トカゲ野郎に似てるって思ったかな」

 

『容姿に関してはオーダーの資料と一緒ですね、ほかには?』

 

「他ですか? んーほかには誰もいなかったかなぁ?」

 

『おい、デブ、孫光龍と何の話をしたんだ? 事と次第に寄っちゃあ……てめえ殺すぞ』

 

混じり気のない殺意と憎悪を向けてくるフェイだが、武蔵はその殺気を軽く受け流し、フェイの目を真っ直ぐに見つめた。

 

「あんな胡散臭い奴の話なんか聞くわけ無いだろ。なんか女神様がどうとか言ってる危ない奴にしか思えなかったしな」

 

神を信じていない武蔵には孫光龍の話は胡散臭いもので、信用する、しない以前の問題の怪人物だった。だからこそフェイの心配は取りこし苦労に過ぎない。

 

『嘘は言ってねえな、悪いな。ちっと気が立ってた。おい、バロン。後は任せるぞ』

 

『はいはい、どうぞどうぞ、すいませんね、彼女はかなり気が短いもので、しかしスカウトを蹴ってくれたのは良いですね。君が味方にいてくれるのならばとても心強いです』

 

バロンはフェイの無礼を謝罪し、笑みを浮かべるがそのサングラスの下の目は細く細められており、まだ武蔵を観察しているような素振りを見せていた。

 

「超機人もゲッターロボに恨みを持ってるみたいだったけど、なんでか知ってるかい?」

 

『それでしたら知ってますよ。転移で現れたゲッターロボを重宝したバラルの大本に反逆した者が多いんですよ、その多くが妖機人になってますね』

 

『馬鹿じゃないのか?』

 

『はっはっは、バラルは実力主義者らしいですからねぇ、まぁそれで反逆され敵になっているので馬鹿そのものですけどね』

 

辛らつな言葉を吐き捨てるバロンは楽しそうに笑いながら、自分が得ているバラルの情報を惜しむ事無く伝えていく……。

 

『とにかくですね、バラルには洗脳する術があり、そして妖機人を作り出す事も出来る訳ですよ。テスラ研の周りを転がってるあの槍とかは触らないほうが良いですね。あれは槍とか武器が本体の妖機人でしてね、危険な存在ですよ。回収せずにゲッターロボのゲッタービームで焼き払ってしまうほうがいいでしょう。これから大作戦を控えているのに背後から撃たれるなんていうのは避けたいでしょうからね』

 

「助言感謝する、君の言う通りにしよう」

 

『ええ、それがよろしいかと……それとバラルはゲッター線を神聖視している節がありますので、ダイゼンガーでしたっけ? それを運用する限りバラルが妖機人を送り込んでくる可能性は高いでしょう』

 

「あの2体か……あの強さの妖機人を簡単に用意できるのか?」」

 

弓と槍の超機人、そしてそれが合体したシュウの強さを思い出し、ゼンガーが渋い表情で問いかける。

 

『んーあの強さとなると早々用意は出来ないと思いますが……あれはあくまでベースになった個体、百鬼獣とかが強かったのが大きな要因ですね。通常のPTやAMに寄生されたのならばそこまでの強さではないと思いますよ、そうですね、精々グルンガストクラスでしょうか?』

 

「それでも十分に厄介ではあるがね」

 

武器を元に寄生し、グルンガストクラスの特機の性能になる妖機人は決して甘く見れる相手ではなく、その数と相まって極めて厄介な敵と言えるだろう。

 

『後はそうですね、バラルは我々ブランシュタイン家、トウゴウ家、グリムズ家と因縁があります』

 

「グリムズ家とも?」

 

『ええ、元々グリムズ家はオーダーの活動費を見ていてくれましたし、人格者も多くいますが……超機人の力に魅了されてからは没落し、正義の味方なんてくだらないというアーチボルドみたいな奴もいますが、過去は共に戦ってくれたらしいですよ。そこら辺に関してはリシュウ先生の方が詳しいですかね?』

 

『馬鹿を言うな、ワシも文献を調べている段階で、詳しい情報など無いわ。まぁ1つだけ知っているとすれば、バロンと言うのはオーダーに所属していたグリムズ家の通り名と言う事じゃな』

 

ブランシュタイン家とグリムズ家の因縁を知りつつ、バロンを名乗っているとヴォルフはにやりと口元に笑みを浮かべる。

 

『ええ、アーチボルドが本来得たであろう栄光と名誉を見せ付けてやろうかと名乗り始めたんですよ。まぁまさかのテロリスト扱いですけどね』

 

あっはっはっと楽しそうに笑うバロンだが、やってる事は中々に外道な行いである。レーツェルがそれを指摘しようかするまいかと悩んでいるとテスラ研のジョナサンから通信が入った。

 

『補給と整備の準備が出来た。順番に着艦してくれ』

 

オペレーション・プランタジネットの発令まで時間が無い、整備と補給の準備が整うまで情報交換をしていたが、どうやら今回はここまでのようだ。

 

『それは失礼を、とにかく僕達はこれからもオーダーとしてバラルの事を調べますし、詳しい情報の裏付けが取れましたらお伝えしますよ。いつまでもお邪魔していては申し訳ないですしね』

 

出来ればもっと詳しい話を聞きたいが、バラルの姿は不明瞭で本格的に何時動き出すかも判らない。その上情報は文献を解読するのみと入手経路は極めて限られている。この争いの中に隠れ暗躍している謎の組織バラルへの警戒は現状難しく、ダイテツ達に出来るのは1つだけだった。

 

『LTR機構のアンザイ博士の連絡先を伝えておこう』

 

『それはとても助かりますね、彼女は超機人の権威だ。何か分かることもあると思いますよ、では皆様方のご健闘を遠くにてお祈りしております。さ、行きましょう。フェイ』

 

『おう、じゃあな。今度会うまでにくたばってるんじゃねえぞ』

 

たった2人で政府、そして世界の陰で暗躍しているバラルに立ち向かう事を決めたバロンとフェイの2人をダイテツ達は黙って見送るのだった……それが窮地を救い、歴史の陰に隠れている組織の事を教えてくれた2人に対する最大限の感謝の形なのだった。

 

 

 

 

 

テスラ研で短い時間だが休息を取る事になったキョウスケ達だったが、流石に短時間では武蔵達が大暴れし、鬼やバイオロイドを切りまくっていた全てを清掃できる訳も無く、僅かな居住空間での食事や、テスラ研のリラクゼーションのマッサージ器などを使えるようにジョナサンが手を回してくれたが、女性隊員の多くはハガネやヒリュウ改といった自分達の戦艦に残る事にした。

 

「カチーナ中尉も苦手なものあったのね……」

 

「……スプラッタホラーとグロテスクなのは駄目でな……いや、マジでテスラ研に行ったの後悔してる」

 

ぶるりと身震いし、弱っているカチーナは普段の強気の様が嘘のようにしおらしく、可憐な様子だった。

 

「暫く悪夢に見そうですわね……」

 

「そ、そんなにですか?」

 

白兵戦が余り得意ではないと言うことで戦艦に残っていたクスハはそこまで酷かったのか? とレオナに問いかける。

 

「……ゾンビ物の映画より酷かったですわ、鬼の――「言うなあッ! あたしに思い出させるんじゃねぇッ!!!」……はい」

 

レオナが自分が見たものを言おうとし、それをカチーナの怒声が遮った。怒鳴ったカチーナ本人はと言うと自分で自分の身体を抱き締めて小刻みに震えていた、少し思い出してしまったようだ。

 

「か、カチーナ中尉がここまでなるんだ……私行かなくてよかったかも……」

 

「女子供が見るものじゃないわね、シャイン王女がトラウマになってなきゃいいけど」

 

戻って来た血塗れの武蔵を見て、気絶したシャインを思い出しながらエクセレンがしみじみと呟いた。

 

「はい、次カチーナ中尉よ、こっちへ。あとクスハはテスラ研へ向かってくれるかしら、龍虎王の調査に同行して欲しいそうよ」

 

「……おう」

 

「分かりました。すぐに行きます、カチーナ中尉途中まで肩を貸しますね」

 

「すまねえ」

 

メンタルカウンセラーとしてスプラッタなものを見た面子のカウンセリングを行なっているラーダが顔を見せ、フラフラと歩いているカチーナに肩を貸しながらクスハも食堂を後にする。

 

「もう少し手加減できなかったの? 武蔵?」

 

「んぐ? あんですか?」

 

「……良くあれだけ暴れておいて普通に食べれますわね?」

 

ステーキやカツ丼を食べている武蔵に思わず口元を押さえながらレオナが呟くと、焼きたてのステーキを手にしたラドラが背後を通り、青を通り越して白い顔になったレオナが机に突っ伏した。

 

「別に慣れてるし、なぁ?」

 

「元爬虫人類の俺が言う事では無いが、銃で撃ったくらいで死なないからな、脳味噌を完全に潰すのは基本だ」

 

「そうそう、頭切り落としてもまたくっつくしな」

 

ドタドタと音を立てて食堂を出て行くエクセレン達や整備兵を見て武蔵はあっという顔をする。

 

「悪いことしたかな?」

 

「仕方あるまい、馴れてもらうしかないだろ」

 

「ん? エクセレン達はどうした?」

 

「テスラ研の事を思い出したみたいで、多分トイレっすね」

 

「……まぁ仕方ないな、俺達は別にどうとも思わんが」

 

鋼のメンタルをしているカイ達は呆気からんとしているが、やはりテスラ研の惨状は女性陣には厳しかったようだ。

 

「ハガネの厨房も実に充実している。しゃぶしゃぶとすき焼きの準備をさせてもらった」

 

「レーツェルさん、待ってましたぁ!」

 

整備でフル稼働しているクロガネで食事が出来なかった武蔵と調理が出来なかったレーツェルはハガネでその腕を振るい、テスラ研に突入した面子は肉料理でスタミナと体力の回復に努め、テスラ研の惨状を見ている面子に致命的なダメージを与えていたりするのだが、当然食べている本人達は全くそんなことを考えておらず、消耗した体力の回復に努めているだけなのだが周りへの被害がとんでもない事になっていたりする……。

 

「お兄ちゃんッ!! 無事で良かった」

 

やっと兄であるフィリオの安否を知る事が出来たスレイは周りに人がいるにも拘らず、お兄ちゃんと呼びフィリオに抱きついていた。

 

「スレイ、うん。僕は無事だよ」

 

「……良かった良かった」

 

敬愛する兄が無事だった事にフィリオに抱きつきながら涙しながらも笑みを浮かべるスレイだったが……その笑顔は次の瞬間に凍りついた。

 

「フィリオッ!」

 

スレイの後から格納庫に入ってきたツグミを見て、フィリオがスレイに背中に回していた手を放し、駆けて来たツグミを抱き締める姿を見て、スレイはギギギっという擬音が聞こえて来そうな動きで振り返った。

 

「心配かけたね、ツグミ……」

 

「……貴方に会って色々言いたいことがあったけど……貴方が無事だった……今はそれだけで良いわ……」

 

「……ごめんよ……」

 

馬鹿でも分かる甘い雰囲気にスレイはそのままゆっくりとアイビスに視線を向ける。

 

「……お兄ちゃんとツグミは付き合ってた?」

 

「……みたいだね……あたしも知らなかった」

 

敬愛する兄とツグミが付き合っていたと言う事実にスレイは大きなショックを受け、そしてアイビスもえっと驚いたような表情を浮かべるが、思ったよりも失恋というダメージは受けていなかった。何故ならば……。

 

「テスラ研の防衛装置がやはり殆ど駄目か……」

 

「はい、コウキ主任どうしましょうか?」

 

「連邦に警備を任せるのは不安すぎる……ビアンに頼んでLB隊かトロイエ隊に警備を頼むか……?」

 

優しいがフィリオはやや優柔不断であり、まだ幼さのあるスレイとアイビスにとっては頼れる男――即ちコウキの方が魅力的に見えていた事が、フィリオへの失恋のダメージを大きく軽減していた。惜しむらくは……。

 

「リシュウ先生、グルンガスト参式の修理はやはり無理そうですね」

 

「うむ。そのようじゃな……所でコウキよ」

 

「何ですか?」

 

「……おぬしに向けられてる視線に思うことはないのか?」

 

「虐殺の事ですか? それは仕方ない事ですよ。血に濡れる覚悟は出来ている、殺す覚悟も殺される覚悟もとうの昔にしている。その為の恐怖や蔑みの視線など俺は気にしない」

 

「……そう言う事ではないんじゃがな」

 

無骨で恋愛などした事が無く、美人や美少女に胸をときめかせる等という青い青春を行なっていないコウキには、恋慕の情等は理解の対象外であった事だろう……。

 

「コウキ、僕も手伝うよ」

 

「必要ない、お前はあれだ、同じプロジェクトの面子のメンタルケアでもしてろ」

 

「いや、でも」

 

「殴るぞ、休んでいろと言っているんだ。スレイ、アイビス、連れて行け邪魔になる」

 

出発まで時間が無いのにいつ倒れるかも分からないフィリオを手伝わせるわけには行かないと、コウキはぶっきらぼうな言葉でフィリオを敢えて突き放し、スレイとアイビスに連れて行けと指示を出したが、スレイとアイビスはどこか納得言っていない表情でツグミと共にフィリオを半ば引き摺るように格納庫から連れ出した。

 

「なぁ親父、コウキってこんな奴なのか?」

 

「唐変木を極めた男、それがコウキだ。色恋のいの字も知らないんじゃないか?」

 

自分に向けられている熱視線に気付かないコウキに、色男のイルムとジョナサンは揃って深い溜め息を吐くのだった……。

 

 

 

 

テスラ研の通路にリシュウの履いている下駄の音が木霊する。

 

「リシュウ先生、こんな所にいらっしゃったのですか」

 

「ゼンガーか、どうかしたのか?」

 

「は、ビアン博士がリシュウ先生を探しています。ダイゼンガーの剣撃モーションを更に調整したいそうで」

 

ダイゼンガーのモーションの調整と聞いてリシュウは首を傾げた。

 

「参式のゲッター炉心を調整するのではないか?」

 

参式は大破したがゲッター炉心は無事な筈、貴重なゲッター炉心を放置するのか? と言うリシュウの問いかけにゼンガーは珍しく歯切れの悪い素振りを見せた後に口を開いた。

 

「何故か完全に参式の炉心は機能停止してしまった……ビアン博士が言うには参式とダイゼンガーのゲッター炉心が統合されたようで、ダイゼンガーの出力が想定よりも遥かに上昇しているそうです」

 

「ふうむ……それはまた不思議な事が起きておるな。しかし……参式の炉心が動かなくなったのは惜しいの」

 

ダイゼンガーの出力が上がったとしても、参式の炉心が使えなくなったというのは余りにも惜しいとリシュウは思わずぼやいた。

 

「本当に参式の炉心を再起動出来ないのか、それを調べながらダイゼンガーの微調整を行いたいそうです」

 

「あい分かった。龍虎王を見てからクロガネへ向かおう」

 

そう言って歩き出すリシュウの後をゼンガーは歩き出す。下駄の音とゼンガーの靴の音だけが格納庫へ続く通路を木霊する。

 

「ゼンガーよ。お主、戦場でシシオウブレードを持ったガーリオン・カスタムに会った事はあるか?」

 

「いえ、俺は会っていませんが……カーウァイ大佐が宇宙で戦ったと言っておりました。俺と共に教導隊のメンバー候補として名が挙がっていたと聞き及んでおりますが……何者なのです?」

 

カーウァイからある程度話は聞いていたゼンガーだが、リシュウの言葉に何か裏を感じゼンガーがそう問いかける。

 

「お主の前にワシが面倒を見ておった弟子じゃ。テスラ研にいた事もあってな、その時にワシが剣の手ほどきをした。メキメキと腕を上げたが、あやつは剣に呑まれた」

 

剣に呑まれた――刀を振るうものが最も避けなければならないこと……物を切ると言う欲求に抗えなかったのだとリシュウは悲しそうに告げる。

 

「カーウァイ大佐はあやつの危険性を見抜き、お主を教導隊へ迎える事を決めた。その日の夜、あやつはシシオウブレードと共に逐電しおった。剣は無闇に抜くものではないと言うワシのあり方を罵倒してな」

 

自分達の兄弟子に当たる人物がそのような非道、そして外道を行なっていたと知りゼンガーは言葉を失った。

 

「……奴は傭兵となって戦場を渡り歩き、己の飢えを癒すためだけに人を斬っておる……その上神出鬼没で、全く尻尾を見せぬ。だが間違いなくあやつはおぬし達の前に現れるじゃろう……」

 

「……リシュウ先生に代わり、俺があやつを斬ります」

 

「その気持ちはありがたいが、奴はワシが止める。それは一時とは言え、師であったワシの責務じゃ。奴は剛剣にして凶剣の使い手。もし、戦場で会った時は……気をつけよ」

 

ムラタを止めるのは至難の技とし、気をつけよとリシュウはゼンガーへ忠告する。

 

「それほどまでの男と言うのですか」

 

「うむ。事剣に関しては天才的だった。正直に言えば、剣の才能だけで言えばお主やブリットを遥かに上回る」

 

自分達よりも才能に溢れた男だったと言って黙り込んだリシュウにゼンガーはそれ以上何も言えず、無言でリシュウと共に龍虎王の調査が行なわれている格納庫へ足を踏み入れた。

 

「「リシュウ先生ッ!」」

 

格納庫が開く音がし、振り返ったブリットとクスハがリシュウの名を満面の笑みを浮かべて呼んだ。

 

「おお……ブリット、クスハ。 心配をかけてすまなかったの」

 

「いえ、先生達がご無事で何よりです」

 

インスペクター、バイオロイド、そして鬼を相手に無事でいてくれて良かったと笑うクスハにリシュウも笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、トウゴウ家の男は代々しぶといのが売りでのう。それより、 あれがLTR機構から連絡があった 超機人・龍虎王か?」

 

リシュウが顔を上げると龍虎王が首を傾けてリシュウにその視線を向ける。

 

「龍虎王がリシュウ先生を……」

 

「先生を見てる……リシュウ先生……オーダーの事と関係があるんですか?」

 

バロンから告げられた話ではトウゴウ家――即ちリシュウもバラル、そして超機人と浅からぬ因縁がある。その事を尋ねようとしたクスハだったが、リシュウの目を見て何も言えなくなってしまった。懐かしさとそしてほんの少し寂しさを宿した瞳でリシュウと龍虎王は互いを見つめる。

 

(トウゴウ家の言い伝えが正しければ、あれにはワシの先祖が……)

 

バラルを巡る戦いの中でリシュウの先祖たるトウゴウの男が念動力を持たぬのに、龍虎王へ乗り戦ったと言う事はリシュウも知っていた。

 

(……龍虎王、そして虎龍王。ブリットやクスハを頼むぞ。そして、我が先祖よ……超機人に乗り、戦いし者達よ……ワシの弟子達を……この世界を守ってやってくれ……)

 

リシュウの心の言葉に龍虎王はその瞳を強く輝かせる事で安心しろとリシュウへと告げるのだった……。

 

 

第169話 策謀へ続く

 

 




次回はシナリオデモの残りと百鬼、インスペクターの悪巧みを書いて行こうと思います。ちょっと予定と変わりましたが、思ったより長くなってしまったのでお許しください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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