進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第170話 オペレーション・プランタジネット その1

第170話 オペレーション・プランタジネット その1

 

テスラ研での短い休息と万全とは言えないが補給を済ませたハガネ、シロガネ、クロガネ、ヒリュウ改の連邦――いや、地球においての最大戦力である4隻の戦艦はラングレー基地へとその進路を進める。

 

「このままの進路で行けば恐らくですがどこかで待ち伏せを喰らいますね」

 

『ああ、私でもそうする。問題は……どこで待ち伏せされるかだ』

 

インスペクターと百鬼帝国もハガネ達が最大の敵と認識しているのは間違いない。だからこそテスラ研への進路を塞ぐように無人機と百鬼獣を展開して来たと思われる。正直ダメージは深刻であり、プランタジネットの成功率は現段階で想定を遥かに下回っている。

 

『ワシならばマンハッタン隕石孔で部隊を展開する。あちらの戦力はAMが主体だ、その上百鬼獣もいる。それに対してこちらの戦力は万全とは言い難い状況だ』

 

ゲシュペンスト・リバイブは武蔵の救出から受けたダメージが大きく、テスラ研で予備パーツは受け取ったがそれを組み込み、調整する事を考えれば会敵予測ポイントまで……もっと言えばラングレー基地に辿り着くまでに間に合うかも怪しい。

 

フライトユニットとゲシュペンスト・MK-Ⅲは予備機があるが、百鬼獣相手では力不足であり、運用するにも不安が残る。

 

百鬼獣相手でも戦える火力のある機体と言えばアルトアイゼン・ギーガ、グルンガスト、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMタイラント、ネオゲッターロボと言った機体もあるが陸上用の機体であり水中では十分な戦闘力は発揮出来ない。ゲッターD2、轟破・鉄甲鬼、ダイゼンガー、アウセンザイターは飛行が可能で火力もあるが、連戦が予想される以上初っ端から切れる手札ではない。

 

「ビアン博士、ゲッター炉心の調子はどうなんですか?」

 

『レフィーナ中佐。期待に応えられず申し訳ないが、五分五分と言った所だろうね。宇宙ならもう少し回復するかもしれないが……全力戦闘を想定するのならばラングレーまで温存するべきだ』

 

地球でのゲッター線の密度の低さ……ゲッターD2はメタルビースト・SRXとの戦いで枯渇したゲッター線が十分に回復していないし、ダイゼンガーとアウセンザイターは炉心の休眠期間が長すぎて出力が不安定だ。轟破・鉄甲鬼は炉心こそ安定しているがテスラ研でのダメージが余りにも大きいので少しでも修理に専念したいと言うコウキの意向で出撃見送りだ。

 

「一番の問題は時間ですね」

 

「いっそのこと作戦開始時間に遅れるというのはどうですかな?」

 

オペレーション・プランタジネット自体が罠である可能性が高いのだから、いっその事遅れて向かうのはどうですか? と言うショーンの提案にビアンが待ったを掛けた。

 

『それは出来れば避けて欲しい。今連絡が入った、これを見てくれ』

 

各戦艦のブリッジに映し出されたのはラングレー基地の戦力の展開図だ。詳細まで詳しく記されており、その図を見ればビアンが待ったを掛けた理由も自ずと判ってくる。

 

『スパイを送り込んでいたのですね。ビアン博士』

 

『その通りだ。テツヤ大尉、私の部下で最も信用出来る者達をノイエDCへと送り込んでいた。鬼が実権を取るまでは仔細な情報を手にする事が出来ていたんだ』

 

『確かサマ基地の大佐もそうだったな』

 

サマ基地での指揮を取り、部下を最後まで逃がすことを優先したルーデンだが、共行王の襲撃の際に重傷を負い、ダイテツ達に少しの百鬼帝国の情報とビアンの部下という事を伝えた後に意識を失い、メディカルルームでの治療が功を奏し生きてはいるが今だ意識不明の重態だ。しかしルーデンが医療兵に託した情報は決して無駄にならず、鬼への脅威、そしてその性質を知る為に見事役立ってくれた。

 

「まさか今ラングレー基地に向かっているノイエDCの兵士は」

 

『皆私と志を共にした地球を守るために命を掛けて百鬼帝国に潜り込んでくれた勇士だ。彼らを見捨てるような真似はしたくないのだよ、レフィーナ中佐』

 

ラングレー基地奪還作戦に参加しているノイエDCの兵士の多くがビアンの仲間となればショーンの作戦開始時間に遅れるという策は使えない……だが名案を思いつくまでインスペクターも百鬼帝国も待つ訳が無く、敵機を補足した事を知らせる緊急警報がブリッジに響き渡るのだった……。

 

 

 

 

漸く修理と改修が終わった愛機であるシルベルヴィントのコックピットに座るアギーハは居心地悪そうにその顔を歪めていた。

 

「ダーリン、なんか落ち着かないよ」

 

『……』

 

「ダーリンもかい? ウェンドロ様の命令って言ってもやっぱりあたいはシルベルヴィントにゲッター合金を使うのは嫌だったよ」

 

グレイターキン、ガルガウに続きゲッター合金で強化されたシルベルヴィントは両腕の高周波ブレードが中心で分割しエネルギー刃やビームを放つ機能が追加され、機動力の為に犠牲になった装甲も軽量で柔軟性の高いゲッター合金で強化された……それなのにアギーハにはこの改良されたシルベルヴィントがどうしても気に入らなかったのだ。

 

「それに鬼と一緒だろ? あいつら本当に信用できるのかい?」

 

『……』

 

「不安だよ。ダーリン……ゲッター線には関わっちゃいけないんだよ……」

 

アギーハにはシカログが言葉を発さなくても何を言っているのか分かる、大丈夫だというシカログの言葉でもアギーハの中の不安が消えることはない。

 

『……大丈夫だ。お前は俺が守る』

 

とても低いシカログの声がシルベルヴィントのコックピットに響いた。アギーハが1番安心するのは自分の声しかないと判断したからだ。

 

「……うん、ダーリン。ちゃんと守ってね」

 

『……ああ。約束だ』

 

インスペクターであるアギーハとシカログは地球人からすれば侵略者だが、それでも心も感情もある。ヴィガジのように妄信的にウェンドロに従う事も、メキボスのようにいざとなればウェンドロを止めると言う覚悟も無い……ゲッターロボに対する恐怖の伝承が色濃く残されている星の住人であるアギーハとシカログにとっては、ゲッター線に関わる事は禁忌に等しかった。査察官としての責務を果たすという責任感とゲッター線に対する恐怖心……どちらが上かと言えば言うまでも無くゲッター線、強いてはゲッターロボに対する恐怖心が上回っていたからこそ、普段の女傑ではなくシカログにしか見せない弱い女の面が出てしまっていたアギーハだったが、ハガネ達が空域に向かって来ていると言う報告を聞いて意識を切り替える。

 

『……』

 

「大丈夫だよ、深追いはしないよ。ダーリンも気をつけてね」

 

廃墟の中に身を潜めるドルーキンを見送り、目を閉じて深く呼吸をしたアギーハがその目を開くと、燃えるような闘志の光が宿っていた。……ゲッターへの恐怖はある、それでも査察官としての責務を果すという強烈な責任感が今のアギーハを支えていた。

 

「また会ったね。マサキ・アンドー」

 

『てめえ、アギーハッ! お前までいやがったのかッ!』

 

「まぁねえ。やられっぱなしじゃ格好がつかないからね。それに、鬼とやりあって随分消耗してるんだろ? ならあたい達にとっちゃ好都合さね」

 

ざっと見て、ゲッターロボが出撃していないのを確認したアギーハは瞬く間にいつもの調子を取り戻し、挑発を入り混ぜた言葉を投げかけながらも、既にその頭の中では撤退の算段を始めていた。

 

(消耗した状態でゲッターロボと戦うなんて、死にに行くようなものだよ……いないなら好都合、鬼に全部押し付けておさらばだね)

 

消耗しても、してなかろうともゲッターロボと戦うなんて冗談じゃないと考えているアギーハは、適当な所で百鬼獣に全てを押し付けて撤退出来るように転移システムの設定を行なう。

 

『消耗させてから叩こうなんて、随分とずっこい真似するじゃないか。正々堂々真っ向から戦うって考えはないのかい?』

 

『でもさ、消耗させてから叩こうとして返り討ちにあうって良くあるぜ?』

 

『そうそう、後は手加減して誘い込んで、罠に嵌めて勝利を確信して負けるとかね』

 

次々に聞こえて来る声に、アギーハは思わず声を上げて笑った。挑発してるわけではなく、図星だったからだ。

 

「本当そうだよね、あたいだってそう思ってるよ。でもさ、こっちも仕事でね。本当はゲッターロボがいる星なんて来たくなかったんだよ、あたいはさ」

 

アギーハからのまさかの言葉にハガネのクルー達に困惑が広がるが、それすらもアギーハの作戦の1つだった。

 

(地球人って言うのは情に厚いらしいからね、まぁ駄目元で同情でも買っておくかね)

 

逃げ帰った所で査察官の地位は剥奪されるが死ぬよりかはマシだ。そもそもゲッター線がある星に来たくなかったと言うのはアギーハの偽らざる本音でもあった。

 

「あたい達の星じゃね、ゲッター線は宇宙を滅ぼす光とか、救世の光とか色々言われてるんだよ、まぁ本当に色々あるんだけど下手に関わるもんじゃないってのは共通してるさ。枢密院もこの星系を隔離しようとか同盟を結ぼうとか、植民地化するとかまぁこっちもドタバタしてるのさ」

 

真実と嘘を織り交ぜたアギーハの言葉に困惑と疑惑が広がる。その気配を感じ取り、アギーハはやっぱり地球人が情に厚いって言うのは本当なんだねぇとほくそ笑んだ。

 

「まぁあたいも宮仕えだからね、上の連中にゃ逆らえないのさ。だけども自分の意志で戦ってないとは言わないけどね。少なくともあたいは百鬼帝国やヴィガジみたいに地球人は害悪だ、殺せなんて考えちゃいないのさ。だからまぁ、ちょっと手加減してくれたりしたら嬉しいかな♪」

 

これで十分に楔は打ち込んだろとほくそ笑んだアギーハだったが、ヴァルシオーネのリューネから投げかけられた言葉に一気に頭に血が上った。

 

『ぶりっ子してるんじゃないよ! おばさんッ!!』

 

「お、お、おばさんだってッ!? あたいはまだ20代よッ!!」

 

『あっそ。 じゃ、四捨五入したら?』

 

続いたリューネの言葉にアギーハは言葉に詰まった。四捨五入したら自分の年齢はおばさんと言われてもしょうがない年齢だったからだ。

 

「う……うるさいねっ! お前はどうなんだいッ!?」

 

『殆どウチの皆は四捨五入しても20だよ。お・ば・さ・ん♪』

 

リューネの煽りの言葉に煽り耐性は高いが、年齢という女にとって触れてはいけない部分を触れられたアギーハは完全に怒り狂っていた。

 

『ん~ウチの部隊の皆は大体そうかもしれないけど……ねぇ?』

 

『あ……ああ、そうだな』

 

『そ、そうね……』

 

余りにもデリケートな部分の話であり、20歳を越えているエクセレンやカチーナ、ラーダはなんとも言えない反応をする。だがリューネも考えなしで挑発したわけではない、ちゃんと考えた上での挑発だった。冷静さを保てればリューネの挑発に気付く事も出来たが今のアギーハにはその挑発に気付くだけの冷静さがなかった。

 

『とりあえず、 若さじゃあたし達の方が完全に勝ってるね』

 

アギーハに挑発しつつ振り返ったヴァルシオーネがウィンクをハガネとヒリュウ改に向けてから、シルベルヴィント改に向けて手を叩き、挑発し、シルベルヴィント改から背を向けて飛翔する。

 

『鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪』

 

「ま、待ちなッ! こ、この小娘がぁッ!!!」

 

完全に冷静さを失ったアギーハは背を向けて逃げていくヴァルシオーネを追ってシルベルヴィント改を上昇させてしまうのだった……

 

 

 

 

街の地下で潜んでいるドルーキンのコックピットでシカログは頭を抱えていた。アギーハの悪い癖が出てしまったと……どんな女性であれ、結婚適齢期を迎えていたりすれば焦りはするし、特に年齢に関してはデリケートな部分で容易に触れてはいけない部分という事はシカログも知っているが、そこはやはり男。加齢による肌の曲がり角の焦りという物はどうしても理解出来ない部分になる。

 

(……作戦変更指令……)

 

メキボスから送られて来た作戦内容変更の指示の電文を見て、シカログはシルベルヴィント改へいつもの癖で電文による通信を送る。シカログが無口なのは地球とは異なるが宗教の一種であり、既に廃れた宗教の風習ではあるがシカログはそれを頑なに守っているのだ。

 

『おばさん、おばさんっ! ほら、アイビスも言ってやれば良いよ』

 

『え、あ……うん。おばさん』

 

『しっかりやっていれば良いんだ。おばさん』

 

『誰がおばさんかあッ!!!』

 

おばさんを連呼されて完全に頭に血が上り、ヴァルシオーネ、アステリオン、ベルガリオンを追い回しているが、冷静さを欠いているシルベルヴィント改を駆るアギーハにいつもの精彩は感じられず、電文による通信を諦め通常通信を試みる。

 

「……アギーハ」

 

『誰が、誰がおばさん……ッ! あたいはまだ若いんだよッ!!』

 

「……アギーハ」

 

『そりゃちょっと化粧の乗りが悪いなとか思い始めたし、ちょっと白髪も生えてきたけど……まだ若い』

 

「アギーハ」

 

『え? あ、ダーリン……ごめん、どうかした?』

 

三度目の声掛けでやっと返事を返したアギーハにシカログは頭を振る。

 

「……バイオロイドに防御命令を出せ、その後撤退する」

 

『良いのかい?』

 

「メキボスからの指示だ。俺とお前はネビーイームに戻る。インベーダーと謎の生物の襲撃を受けているらしい。ラングレーはメキボスが防衛する」

 

どの道、シルベルヴィント改とドルーキン改の熟練訓練を終えていない今、まともな戦闘が出来ないのはヴァルシオーネ達を追い切れていないので明らかだ。

 

「……」

 

『分かったよ。ダーリン、帰ろう。でも只じゃ帰らないんだろ?』

 

冷静さを取り戻したアギーハは言葉が無くともシカログの意を汲み取り、ヴァルシオーネ達を追い回すのを止めシルベルヴィント改を反転させる。

 

『悪いけど遊びはここまでだよッ! 行くよッ!! ボルテックブラスターッ!!!』

 

シルベルヴィント改の周りに発生したエネルギーの渦に背部から射出されたゲッター合金製の槍が撃ち込まれ射出された槍がまるで太陽のように光り輝いた。

 

『散れッ!! 一箇所に固まるなッ!!!』

 

ゲッター合金製の槍が空中で無数に枝分かれし、まるで流星群のように降り注いだ。狙いは甘いが、ゲッター合金の固さに加えて速度、エネルギーで爆発的に破壊力を高めたボルテックブラスターは狙いをつける必要など無く着弾と共に周囲に凄まじいエネルギーの奔流を撒き散らし、命中しなくとも甚大な被害を周囲に齎す。

 

「ッ!!!!!」

 

そしてボルテックブラスターの余波でレーダー等が死んでいる隙をシカログは見逃さず、ハガネ達が自分の頭上を通過する寸前に大地を砕いて姿を現し、両手に持ったハンマーを頭上で振り回す。巨大な質量と膨大な運動エネルギーを伴ったその一撃はE-フィールドを貫き、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、クロガネの船体に一撃ずつ命中する。

 

『よっし、あたいらはこれでおしまいだよ。それじゃあねえ~♪ それと、あたいをおばさんっていった奴ら絶対殺すから。ま! ラングレーで死ぬかもしれないから、その時はまぁ許してやるよ!』

 

撃墜には至っていないが敵機に十分なダメージを与え、戦艦にも打撃を与えた。後は無人機と百鬼獣との戦いで更に消耗する事になる……そうすれば百鬼帝国に十分に顔は立つだろうと、この場に残れば全てを撃墜する事も十分に可能だったが、ネビーイームがインベーダーに襲撃を受けているとなればこれ以上この場に留まる事は出来ず、捨て台詞にも似た言葉を残して転移したアギーハとシカログ。

 

『くっ! 姿勢を立てなおせッ!』

 

『高度、速度共に低下ですッ!』

 

ハンマーの被害が大きかったのは船底の下部に直撃を受けたハガネとシロガネの2隻で、高度と速度が大幅に低下する。

 

『牽引用のワイヤーを射出してください! 本艦でハガネを牽引します!』

 

『ならシロガネはクロガネが牽引する! 状況が変わった、温存などしていられん! 出撃だッ!』

 

速度が落ち、自力での航行が難しくなったハガネとシロガネをヒリュウ改とクロガネが牽引するが、無人機の群れと百鬼獣は今だ健在、その上ボルテックブラスターで大破には至っていないが大きなダメージを受けているPT隊では百鬼獣と無人機の群れを相手にするのは不可能だと温存する予定だった武蔵達にビアンが出撃要請を出す。

 

『いくぜええッ!! チェンジッ! ドラゴンッ!!!』

 

『ダイゼンガー……推して参るッ!!!』

 

『行くぞッ! トロンベよッ! 今が風になる時ッ!!!』

 

ゲッターD2、ダイゼンガー、アウセンザイターの出撃によって戦況はダイテツ達に有利に傾いたが、ラングレーを前にして大きく消耗する事へとなるのだった……そしてそれはネビーイームに帰還したアギーハとシカログも同じで、2人の目の前に広がったのは無人機に組み付きメタルビーストへと変化させるインベーダーの群れ、群れ、群れ、数えるのも馬鹿らしくなるほどのインベーダーの群れだった。

 

『……これなら向こうの方が楽だったね』

 

「……」

 

ゾヴォークでも危険視されているインベーダーの群れとゲッターロボが出現するかもしれない地球の戦場――どっちが楽だったかとぼやきながらアギーハとシカログはインベーダーとの戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

 

陸皇鬼の一室で文による連絡を受けたユウキは弾かれたように部屋を飛び出し、通路にいた虎王鬼と鉢合わせた。

 

「あら? そんなに急いでどこに行くのかしら?」

 

「カーラと打ち合わせに」

 

「ふーん……打ち合わせねぇ」

 

虎王鬼の探るような視線にユウキは背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。思わず身体が強張ると虎王鬼はそんなユウキを見て笑い、その顔をユウキの顔へと寄せる。そして世間話のようにユウキが隠してきた事実を告げた。

 

「別にとって食うつもりはないわよ? ビアンの間者さん」

 

「ッ!?」

 

耳元で告げられた言葉にユウキが思わず後ずさり、腰に手を回そうとする。倒せないにしろ、手傷を負わせてカーラを連れて逃げようとしたユウキだったが、龍王鬼の言葉と共に背後から伸びた腕に止められる。

 

「おいおい、こんな所で武器を出すんじゃねえよ。ユウキ」

 

「り、龍王鬼さん」

 

「おう、俺様だぜ」

 

掴まれた腕は少しでも龍王鬼が力を込めれば容易に砕け散るだろう、それを悟ったユウキはここまでかと覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

「そんなに絶望しなくてもいいのにねぇ?」

 

「おうよ、俺達は別にお前を責めるつもりはねえぞ? 今まで良く俺様達の為に働いてくれた、ご苦労さん」

 

腕を放され、頭を軽く叩くように撫でられ、ユウキの顔に困惑の色が浮かぶと、龍王鬼はその丸太のような腕をユウキの首へと回す。

 

(上手く逃げ切ったらよ、ハガネに逃げ込むんだろ? そしたらよ、こいつをあー、アド? に渡してくれや)

 

龍王鬼がユウキに渡したのは紅い1枚の札。そしてアラドを助けてやれという言葉にユウキは困惑を隠せなかった。自分をスパイだと知った上で何故殺しもしないのか、そして見逃そうとするのか……ユウキには龍王鬼の行動全てが理解出来なかった。

 

(虎がよ、ゼオラを正気に戻すのに色々と考えて作った奴だ。死んだらおしまいだが、生きてたら切り札になるだろうよ)

 

そう告げた龍王鬼。その気になればユウキの首をねじ切る事も可能なその腕は、身構えているユウキを馬鹿にするようにユウキの首を離れ、龍王鬼は背伸びをするような素振りでユウキから背を向ける。

 

「……何故ですか」

 

「何故? さあねえ? 俺様は鬼だが心まで鬼になったつもりはねえんでね。やっぱりよ、姉弟……いや家族は一緒にいるもんだろ? それとお前は良く働いてくれたからよ、ここじゃあ殺さねえ。それだけだ」

 

「そういうこと。あと、ちゃんとカーラにも声を掛けて、お仲間さんにも連絡くらいしておきなさいよ? 今度の戦いは半端じゃないからね。逃げ切れるかどうかは知らないけど」

 

自分をスパイと知りつつ、それを見逃した龍王鬼と虎王鬼の2人……確かに2人は鬼であったが、間違いなく誰よりも人の心を持っていた。ユウキは龍王鬼達の後ろ姿に小さく頭を下げるとカーラを、そして自分と同じ様にノイエDCにもぐりこんでいたビアン派の軍人の元へと走り出すのだった……

 

 

 

第171話 オペレーション・プランタジネット その2へ続く

 

 




今回の話は短いので次の話とセットで2話連続更新とさせていただきます。特定のエリアに辿り着くだけの話は本当に書く内容が無くて困ります。ただいきなりラングレーって言うのもあれなので短いですが、この話を執筆させていただきました。ではこの後続けてプランタジネットその2もお楽しみください。


PS

DDで

ダブルオーSSRを無事入手。刹那は全然育ててませんでしたが、今後間違いなく強化されるので獲得しておきました。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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